まず結論から
- 園の先生の基本は「待つ」です。話し終わるまで待ち、「ゆっくり」「落ち着いて」と言わず、言い直させない。家庭向けの公的資料が挙げる接し方と同じで、ガイドラインは、吃音の症状を叱る指導に「行わないよう勧められる」という最も低い等級を付けています。
- 周りの子の「なんで『あああ』ってなるの?」は、おおむね4歳ごろから始まるとされています。学会は、園などの集団の場で、吃音は病気ではないこと・緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものではないこと・わざとではないことの3点を伝え、理解と啓発の機会を設けてもらうよう働きかけることを勧めています。
- 「吃音に気がつかせない方がよい」という昔の対応は、今は否定されています。気づかないふりをしていると、子どもは「吃音はタブーだ」と感じ取って相談できなくなる、とガイドラインは書いています。話し方を指摘しないことと、本人が言ってきたときに話題にできることは、両立します。
- 園は「様子を見ましょう」で終わる場所ではありません。ガイドラインは、保育所・幼稚園・認定こども園を、吃音のある子の発見と基本的な対応を分担する連携先の一つに数え、4歳から就学前は、園を訪ねる支援の仕組みで気づいた問題を巡回相談員につなげられるとしています。
- 育て方や園での関わりが原因で吃音が生じることはありません。発症の原因として最大のものは遺伝要因で、7割程度とされています。
ただし、ここに挙げた対応は「こうすれば吃音が減る」という手順ではありません。ガイドラインは、周りの環境を整える方法について、吃音の改善に効果があるというエビデンスは弱いが、うまく実行できれば親子ともに心理的ストレスの軽減が期待される、と評価しています。どの子が自然に治るかを確実に判定する方法はないので、気になる状態が続くときは園の中で抱え込まず、言語聴覚士につながる窓口に相談してください。
園の先生が最初に押さえておきたいこと
吃音は、2〜4歳をピークにほとんどが幼児期に発症します。日本の5つの県(福岡・石川・茨城・神奈川・徳島)の3歳児健診などで行われた追跡調査では、3歳の時点で吃音のある子は4〜5%程度、3歳までに一度でも吃音が出た子は8〜9%、5歳ごろまでに治った割合は75%程度と報告されています。園に吃音のある子がいることは、めずらしいことではありません。
見通しについては、大半(7〜8割)は吃音が出はじめてから3〜4年までに自然に治ると考えられる一方で、人口比で1%前後の子どもは学齢期あるいはそれ以降まで吃音が続く、とガイドラインは書いています。そして、どの子どもが将来治るのかを確実に判定する方法はないので、吃音のある子どもにはすべて何らかの対応(経過観察のみを含む)をする必要がある、としています。年齢ごとの相談の目安は3歳・4歳の記事にまとめてあります。
原因については、園の先生が保護者に何かを言う前に知っておきたいことがあります。ガイドラインは、発症の原因として最大のものは遺伝要因で7割程度を占め、より直接的には脳の中で発話に関わる領域どうしのつながりが不良になっていることだとし、保護者が子どもの発話を気にする・注意するといった行為や、育て方が悪いせいで吃音が生じるという説は否定されている、と明記しています。吃音ポータルサイトも、保護者の接し方のまずさが原因で吃音が生じるわけでは決してない、と言い切っています。
症状の見え方も押さえておきます。主な症状は、言葉を繰り返す連発「ぼぼぼぼくは・・・」、引き伸ばす伸発「ぼーーーーくは」、言葉がなかなか出ない難発「・・・・ぼくは」の3つです。声を出そうとして顔をしかめたり、手足を振り下ろしたり、目を固くつぶったりする動きは「随伴症状」と呼ばれ、幼児期はさまざまな随伴症状が起きるので家族が驚くことが多い、と学会の解説は書いています。調子のよい時期とそうでない時期が数週間から数か月続くことも多く、この変動は「波」と呼ばれます。先週は出なかったから治った、今週は多いから悪くなった、と一週間で判断しないことが、園でも家庭でも最初の約束事になります。
「なんで『あああ』ってなるの?」——お友達の指摘が始まるとき
園の先生がいちばん困るのは、本人の話し方そのものより、周りの子どもの反応かもしれません。悪気のない質問、真似、笑い。放っておくと、本人が特定の言葉を口にしなくなることがあります。園ぐるみで動いた記録があります。
吃音のある小1の息子の母の声(個人ブログ。息子が保育園にいたころを振り返った記事)
その時に保育園の園長先生をはじめ、担任の先生、他クラスの先生方にも協力いただいて、挨拶やお返事、感謝の言葉をしっかり伝えられるようになったし、お友だちや保護者の皆様からも理解をしていただいて、笑顔で卒園することができた。
テレビで吃音を笑いに変える企画が放送された翌週に、この母親はブログを書いています。吃音のある小1の息子は画面を見て「あ、この人吃音だ。」と言い、母親自身は洗い物をしていて中身は見ていません。それでも、吃音の子どもをもつ親の身としては面白くもなんともない、と続けたあとで、息子の保育園時代が語られます。からかわれ、笑われ、一時期、出しづらい言葉を口にしなくなった。それは「おはよう」「ありがとう」「いただきます」——あ行で始まる、人としての基本の言葉でした。引用はその直後です。園長先生、担任、他のクラスの先生。園の側が一人の担任ではなく園ぐるみで動き、お友だちや保護者にも理解を広げていったことが、この短い記録に残っています。周りの子の指摘がいつごろ始まるのかは、学会の解説に時期が書かれています。
出典: 水曜日のダウンタウン(なっちゃんの育児日記トキドキKPとの日常)(台帳: V0192)
日本吃音・流暢性障害学会は、4歳(早い子は2、3歳でも)になると本人が「言いにくい」「他の子の話し方と違う」と気づき始め、周りの子どもも違いを不思議に思う時期になって、おおむね4歳くらいになると「○○ちゃんはなんで、『あああ』ってなるの?」というような指摘が始まることがある、と書いています。こうした指摘をきっかけに、発話に力が入って声が出しにくくなったり、体を動かして話そうとしたりする子も出てきます。年少から年中は、ちょうどこの時期にあたります。
園がすることも、同じ解説に書かれています。きょうだいや親戚はもちろん、所属している集団の場で、吃音は病気ではないこと、緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものではないこと、本人がわざとやっているわけではないことを伝え、クラス内や学童保育、習い事などで理解と啓発の機会を設けてもらえるよう働きかける。指摘やからかいが減ることで、本人は安心して吃音を出しながら話し続けてよいのだと実感できる、という説明です。リーフレットなどを用いることも有効だとされています。ガイドラインも、保育所・幼稚園・認定こども園の保育関係者に、吃音に関する正しい知識と初期の適切な対応についての理解を促す必要があるとして、そのためのリーフレット等を作成したと述べています。上の母親の園で起きたことは、この「集団の場への働きかけ」を園の内側から行った形です。
本人にどう聞くかも書かれています。発達障害ナビポータルは、小学校以降の支援として、担任の先生・養育者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになる、としています。学校向けに書かれたものですが、園でも同じ聞き方ができます。ガイドラインは、低年齢では吃音に気づいていても否定的に受け止めていないことが多いとされてきたが、園や家庭など周りの人の吃音に対する反応によって、吃音への感情や態度が変わり、心理的な進展を起こす可能性はある、と述べています。周りの反応は、先生が整えられる数少ない要因です。
英国の小中学生を対象にした研究は、学校ぐるみのいじめ対策で学校のいじめは全体として減っていると考えられる一方、吃音のある子が学校で抱える特有の問題が十分に認識されている証拠は乏しいと述べ、子どもはいじめが起きても大人を巻き込みたがらないことが多いため、子ども同士で支え合う仕組みが助けになりうる、と結んでいます。小中学生の研究なので園にそのまま当てはめることはできませんが、「先生には言わない」ことがある、という前提だけは園でも同じです。
朝の会の名前呼びと、発表会のセリフ
園で吃音が目立つ場面は、だいたい決まっています。朝の会の返事、日直の挨拶、発表会のセリフ。家では言えるのに、その場になると出ない。年長の2月、生活発表会の劇の日を、母親が記録しています。
年長の息子の母の声(個人ブログ。名義「しまうま」。年長2月の生活発表会の日の記録)
そしていざ、セリフ!!
フリーズ
なぜなんだ…
あれだけ家でスラスラと他の子のセリフまで完コピしていたのに
そこで先生が助け舟。
舞台の袖でピアノを弾いていた先生がずっとささやき女将してくれてて
先生、ほんとうにありがとうございます
先生がささやいた通りに復唱する息子。
なんとか劇は進んで、息子の出番終わり…。
年が明けて劇の練習が始まると、息子は役に自分から立候補し、「もうセリフバッチリ」と言い、他の子のセリフまで全部覚えて家ではすらすら言えていました。両親は安心していた、と書かれています。当日、劇の中盤で登場した息子の顔がこわばり、いざセリフの番でフリーズ。舞台袖でピアノを弾いていた先生がセリフをささやき続け、息子はそのとおりに復唱して出番を終えます。母親は「本人はショックだったよな」と思いながら合流しますが、返ってきたのは「ちょっと間違えちゃったテヘペロ」。いちばん辛いのは息子だけれど自分も辛かった、ママ友の慰めがかえって辛かった、と続きます。同じ記事の前半には、幼稚園の日直で朝の会の挨拶に詰まっても、クラスの子たちが「がんばれーだいじょうぶー!」と声援を送り、からかう子は誰一人いなかったと園の先生から聞いた話も書かれています。舞台袖の先生の助け舟は、その場の判断でした。では、園として前もって何を用意できるのか——役の決め方については、次の節で、吃音の当事者でもある言語聴覚士が保育士向けに語っています。そして、一人でセリフを言う場面とみんなで声を合わせる場面とで出方が違うことには、理由があります。
出典: 親愛なる我が息子について④(アメーバブログ・しまうま)(台帳: V0055)
発達障害ナビポータルは、伴奏に合わせて歌ったり、2人で同じ言葉を言ったりする(外的なタイミングがある)場合には吃音が消失して流暢に話せるため、吃音は発話のタイミング障害と言われている、と説明しています。学会の解説も、歌を歌うときや2人で声を合わせるとき、独り言を言うときなど、一時的に流暢になる人が多いとしています。裏返せば、一人でセリフを言う、名前を呼ばれて一人で返事をする、という場面は、吃音がいちばん出やすい形です。家で言えていたセリフが本番で出ないのは、練習不足でも本人の気の持ちようでもありません。
困りやすい場面は、資料に名前で挙げられています。発達障害ナビポータルは学校について、日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式などの特定の場面で困ることがあるため、より具体的に質問することが困り感の早期発見につながる、としています。園に置き換えれば、朝の会の返事、日直の挨拶、発表会やお遊戯会のセリフ、卒園式の言葉です。「園はどう?」と漠然と聞くより、この単位で本人と保護者に聞くほうが、困りごとが早く見つかります。
出なかった場面をどう扱うかも、資料の側に手がかりがあります。学会の解説は、吃音を恥ずかしいと思って、なんとか吃音を出さないようにと力を入れてもがくと吃音は悪化するので、この悪化を防ぐことが大切だと書き、『どもってもよいから、たくさんおしゃべりしてね』というメッセージを伝えるよう勧めています。ガイドラインも、周りの人の反応によって吃音への感情や態度が変わりうると述べています。上の劇で、先生が舞台袖からささやいたこと、クラスの子が声援を送ったこと、そして母親が「がんばったね」と迎えたことは、いずれも「出なかった」を失敗として固定しない対応でした。
「ゆっくり話そうね」「もう一回言ってごらん」——先生の一言はどう届くか
保育者がよかれと思ってかける言葉があります。「ゆっくり」「落ち着いて」「もう一回」。それがどう届くのかを、吃音の当事者でもある言語聴覚士が、保育士向けのメディアで答えています。
吃音の当事者で言語聴覚士の声(保育士向けメディア「ほいくらし」の取材記事。聞き手の「吃音を持つ子どもと接するとき、保育士はどのようなことを心がけたらよいですか?」という質問への答え)
吃音を持つ子どもと接するときは、まずその子が話し終わるまで待ってあげてください。
「どうしたの?」といった問いかけや、「ゆっくり話そうね」「落ち着いて」といったアドバイスは、吃音を持つ子にはプレッシャーになってしまうので逆効果です。注意したり、言い直しをさせたりするのもやめましょう。「話したい」「伝えたい」という意欲をなくしてしまう恐れがあるからです。
では、どうすればよいか。「うんうん」とうなずきながら、その子の「話し方」ではなく、「話している内容」に耳を傾けてあげてください。そうすると、吃音を持つ子は「ちゃんと聞いてくれてる」と感じて、安心して話せるようになります。
答えているのは、神奈川県川崎市でことばの相談室を開く言語聴覚士の岩田よしきさんで、自身も吃音の当事者です。同じ記事では、大学生になるまで自分が吃音だとは知らなかったこと、学校で音読や人前の発表に困り、友だちに笑われたり真似されたりしたこと、理解のない先生に怒られたこともあったことが語られています。保育士への助言は、引用のあとも続きます。話すスピードを少し落とすこと。話の途中で別の子のけんかの仲裁に行かなければならないときは、「話の途中でごめんね。先生はちょっと向こうに行かなきゃいけないから、続きはあとで聞かせてね」と伝えること。お遊戯会でセリフのある役を任せてよいかという問いには、いちばん大切なのは本人の意思で、大人が勝手に「難しいだろう」「失敗したらかわいそうだ」と考えて役を与えないのは望ましくない、本人がやりたいなら任せ、自信がなさそうなら話しやすい方法を一緒に考える——何人かで同時にセリフを言う役や、歌の役を提案するのも一つの方法だ、と答えています。前の節の劇で園が前もって用意できたのは、この部分です。まねやからかいをする子については、悪気なくやっている子がほとんどなので、吃音という障害があること、わざとではないことを伝えたうえで「まねしたり、からかったりしないでね」「○○ちゃんの話し方のくせだから、お話をちゃんと聞こうね」と説明する、悪気があってする子には真剣に注意する、とも述べています。ここに並ぶ助言は、家庭向けの公的資料が挙げるものと、ほとんど同じです。
出典: 吃音の当事者でもある言語聴覚士・岩田よしきさんへの取材記事(ほいくらし・マイナビ保育士)(台帳: V0120)
吃音ポータルサイトが家庭向けに挙げる接し方は、園でもそのまま使えます。大人の側が「ゆっくり」「ゆったり」した話し方をし、子どもの話す速さと同じか少しゆっくりめで話す。相づちやうなづきをしながら、できるだけ最後まで聞く。手が離せないときは「あとで、お話を聞くから待っててね」と言って、あとで必ず聞く時間を設ける。そして、子どもに対して「ゆっくり」「落ち着いて」などの声かけは極力控える。大人が自分の話し方を落とすことと、子どもに「ゆっくり」と言うことは、向きが逆です。家庭での声かけの全体は子どもの吃音への対応の記事にまとめています。
なぜ言い直させないのか。ガイドラインは、吃音の症状を叱ったり、吃音が育て方のせいだとする指導に、「行わないよう勧められる」という等級(推奨グレードD)を付けています。理由は学習の仕組みから説明されています。ほめられたり叱られたりすると、その直前の行動が増えたり減ったりするが、それは直前の行動に対して無差別に起きるので、吃った直後に叱ると、吃ることだけを減らす効果は期待できず、発話自体が減る、というものです。「話したい」という意欲を失うおそれがある、という岩田さんの言い方と同じ向きです。
ただし、待つことを「治す手順」と考えないでください。ガイドラインは、吃音の持続や進展に作用していると考えられる周りの環境の要因を、子どもの流暢さを促す方向に整えることを「環境調整法」と呼び、この方法について、吃音の改善に効果があるというエビデンスは弱いが、適切な情報提供も含めてうまく実行できれば親子ともに心理的ストレスの軽減が期待される、と評価しています(ガイドラインが勧める強さの等級は推奨グレードC1)。「大人がゆっくり話す」という助言そのものについては、専門誌で議論が続いています。吃音のある子とない子の親子の話す速さと、返答までの間を測った研究は、返答までの間にはグループ間の差を検出せず、話す速さはむしろ、のちに吃音が治った子とその母親のほうが他の群より速かったと報告し、この結果は間接的な方法が効かないという結論を支持するものではなく、効くという結論を支持しないだけだと自ら断ったうえで、専門家の指導のもとでの保護者の関与は多くの小児の障害で決定的に重要だと述べています。親の話す速さと会話の交代を調整する治療の提案への反論は、規模も期間も大きい研究が、話す速さや会話の交代と吃音からの回復のあいだに関係が無いことを示していること、その治療が、吃音からの回復を決めるのは親の役割だという考えを強調し続けており、その考えは根拠が不十分で害をもたらしうることを挙げています。園の先生が待つのは、吃音を減らすためではなく、「話したい」を守るためです。
先生が先に気づいたとき、保護者に何と言うか
園の先生のほうが先に気づくことは、めずらしくありません。では、保護者にどう切り出すか。切り出し方と、そのときに添えた見立てが、保護者に何を残すのかを、言われた側が書いています。
年少の息子の母の声(個人ブログ。幼稚園の担任から尋ねられた日の記録)
「お子さんがちょっと、『どもり』みたいなのがあるようなんですけど、お母さんはどのようにお考えですか?」
ど…どもり、ですか…。
そういえば以前から、良いことを考えついた時とか、言いたいことがあるときに、文頭がどもる感じはあったんですが、子どもだからこんなもんだろうと思って特に気にしてなかったです。
ところが、幼稚園の先生にその一言を言われた途端、すごくすごく子どものどもりが気になり始めました。
言われた当日、家に帰って寝るまでの間にも、喋る言葉すべて!?と思うくらい文頭がどもっています。
4歳になったばかりの年少の息子について、事件は担任の一言から始まった、と母親は書いています。それまで「子どもだからこんなもんだろう」と気に留めていなかった文頭の繰り返しが、言われたその日から一つ残らず耳につくようになりました。担任は「みんなの前に出て話すときに緊張やストレスから、どもりが起きる」と考えているようだった、と母親は受け止めています。けれど母親は、家でリラックスしているときにも、すごく言いたいことがあるときにもどもるのを知っていて、それはちょっと違うのではないかと思いました。「どもり=緊張しているとなるもの」という先入観があるからそう見えるのか、と。本棚から言語治療士が書いた育児書を出して読み直し、そこにあった「子供に自分の話し方を意識させない」「周りの大人は繰り返しに気づいていないかのように普通に受け答えする」という助言を胸に数週間を過ごします。記事の終わりには、ピークから1か月ほどでどもりがほとんど無くなったこと、後日の追記として小学生になっても吃音の様子は無いことが書かれています。この記録が園の側に教えるのは二つです。切り出しの一言は保護者の見え方を一変させること。そして「緊張やストレスから」という見立ては、家での観察と食い違いうること。原因についての誤解は、公的資料が名指しで整理しています。
出典: 3歳〜4歳 子供のひどいどもり(吃音)は治るのか?対応は?(うちの子、天才かもしれん。)(台帳: V0059)
保護者に伝える最初の一言に「原因」を混ぜないこと。この記録から言えるのは、まずそれです。吃音ポータルサイトは、保護者の接し方のまずさが原因で吃音が生じるわけでは決してない、と明言しています。学会の解説は、最も問題のある間違った原因論として、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説や、親が吃音だと思って対応することが原因だとする「吃音診断起因説」を挙げ、そのために母親が周囲の人から非難されたという体験談を聞く、と書いています。「緊張やストレス」についても、学会は集団の場で「緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものではない」と伝えるよう勧めています。発達障害ナビポータルは、双子研究では吃音の原因の約8割はその子の生まれ持った体質であることが示されており、相談に来る養育者の味方となる必要がある、祖父母から母親の育児態度が責められていることもあるため祖父母も交えた情報共有が必要だ、と支援者に求めています。ガイドラインの序文は、育て方が悪いから発症するという説は否定されているのに、この知見は浸透しておらず、育て方が悪かったからかもしれないという罪悪感をいだく母親がいまだ多い、と現状を書いています。園の先生の一言は、その罪悪感を増やす側にも、減らす側にも立ちます。
もう一つ、上の母親が読んだ育児書の「意識させない」という助言について。家庭で読まれる本には今もこの型の助言が並びますが、学会の解説は、昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流だったが、今はそのような考え方は否定されている、と明記しています。ガイドラインも、「小児の吃音は親が気づかないふりをする方が良い」という考えが日本に持ち込まれて今なお信じている人がいるとしたうえで、子どもは幼少でも吃音に気づいていることが多く、親が気づかないふりをしていると子どもが「吃音はタブーだ」と感じ取り、吃音について親に相談できなくなって心理的に孤立する、本人が話したい場合は話題をそらしたりことさら問題視したりせずに気軽に話せる環境を作ることが重要だ、と述べています。二つの助言は矛盾しているように見えますが、分けて読めば両立します。先生の側から話し方を指摘したり、注意したり、言い直させたりはしない。本人が「言いにくい」と言ってきたときは、はぐらかさない。学会は、本人が「どうして、ぼくは『あああ』ってなるの?」と訴えたら吃音の話をするチャンスで、気持ちに寄り添い、話してくれたことが嬉しいと伝えるよう勧めています。吃音ポータルサイトは、「吃音の話し方」は「くせ」のようなもので悪いことやいけないことではないと伝える準備を勧めています。園の先生が本人に返す言葉も、同じでかまいません。
保護者の側から園に伝えるときの書き方——誰に、いつ、何を書いて渡すか——は、園や学校へ配慮を伝える記事にまとめました。園から保護者へ、保護者から園へ、向きは逆でも使う言葉は同じです。
「様子を見ながら対応します」の次——園から専門機関へ
保護者が最初に相談する相手が園の先生であることは、めずらしくありません。けれど園の先生は言語聴覚士ではない。何を返せばいいのか。ある担任の返事が、そのまま書き留められています。
小学生男子2人の母の声(個人ブログ note。息子の吃音に2歳6か月ごろ気づき、保育園の担任に相談した当時を振り返った記事)
その当時の担任の先生からは、
「吃音だと思います。まだ年齢も小さいですし、様子を見ながらこちらも対応していきますね。」
「もしお母さん自身に不安があるのであれば、医療機関も受診してみるのもどうですか?」
息子の話し方に違和感を持った母親は、まず通っていた保育園の先生に相談しました。「話すときに上を向いてから話すんです」「最初の言葉が出るまで時間がかかるんです」。どういう配慮をお願いすればいいのかも分からず、「先生方なら何か知っているはず」という気持ちだった、と書いています。担任の返事が引用の二文です。「様子を見る」という言葉には、苦しそうに話す息子をただ見守ることしかできないのか、という気持ちも残りました。それでも、医療機関を受診するという選択肢を教えてもらえたことが救いだった、と続きます。受診先は総合病院で、予約は半年先まで埋まっており、予約が取れたのは息子が3歳になってからでした。当時は自分の安心材料が欲しい気持ちのほうが強かった、本当は受診の目的を持ち、本人の気持ちを聞いておくことが大事だった、と母親は振り返っています。担任の返事は、園が担える範囲(様子を見ながら対応する)と、園の外にある窓口(医療機関)の両方を示していました。ガイドラインが園に求めている役割は、ちょうどこの形です。
出典: 【息子の吃音】医療機関の受診を決めた日(note)(台帳: V0254)
幼児吃音臨床ガイドラインは、吃音が幼児期に発見されて適切に対応されるために何が必要かという問いに、幼児の吃音の治療に対応できる機関が中心となって、保健センターや保育所・幼稚園・認定こども園、地域の耳鼻咽喉科・小児科、小学校のことばの教室や特別支援教育コーディネーター(学校の中で支援の連携を担当する先生)、自治体の福祉や子育て支援の窓口などと連携し、吃音に関する知識を普及させるとともに、吃音のある子の発見と基本的な対応を分担することを依頼し、改善が十分でない子の治療は連携の中心となる機関が担う、と答えています。そのうえで、「様子を見ましょう」というだけでなく、積極的な助言指導を受けられる専門機関につなげることが大切だとし、最初の相談の窓口となる健診の保健師、小児科や耳鼻咽喉科の医師、保育所・幼稚園・認定こども園の保育関係者、巡回相談員などに、正しい知識と初期の適切な対応についての理解を促す必要があると書いています。園は、この分担の中で「発見と基本的な対応」を受け持つ場所です。上の担任は、それを一人でやっていました。
園から先につなぐ道も、ガイドラインに書かれています。4歳から就学前の時期は、園を訪ねて助言する支援の仕組み(保育所等訪問支援)で気づいた問題を巡回相談員に相談でき、巡回相談員が子どもの様子を観察して専門的な助言指導を行う。この時期は就学前に介入が必要な子を発見して専門機関につなぐ大切な時期であり、巡回相談員が言語聴覚士とは限らないが正しい知識を身につけて対応してほしい、とあります。いくつかの自治体で行われている5歳児健診についても、就学前からの介入が重要な子を抽出するのに有効な仕組みで今後の拡大が期待される、としています。「吃音かな?」と思ったときの相談先としては、幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の(小児)リハビリテーションセンター、大学教育学部に付属する発達や言語の相談室、地域の児童発達支援センターが挙げられ、相談対応機関の多くは治療には対応できないことも多い、という注意が添えられています。
なぜ、園が「様子を見る」役を担わされているのか。専門家が足りないからです。国立障害者リハビリテーションセンターの特集は、吃音になる幼児の10分の1だけが医療機関を受診するとしても全員を診られるだけの専門家はおらず、幼児の吃音についてはすでに医療崩壊状態と言ってもいいくらいだ、と書いています。ガイドラインも、専門家のいる機関では初診までに数か月の待機になることが多いとし、同時に、吃音を専門としていない施設での経過観察はしばしば放置も同然となる場合があり、その間に保護者の不安が解消されず、重症化したり治療を受けないまま就学したりする可能性も無視できない、と認めています。上の母親の「半年待ち」は、この現実です。だからこそ園の「様子を見ます」は、園の中で閉じずに、いつ・どこへつなぐかとセットで言う必要があります。学年の目安としてガイドラインは、3歳児クラス(年少組)までは経過観察的な支援を基本とし、4歳児クラス(年中組)では月2回以上の積極的な介入の開始を検討し、5歳児クラス(年長組)では開始を推奨する、としています。外来で何が起きるかは小児吃音外来の記事に、年齢ごとの相談の目安は3歳の記事に書きました。
園の配慮を続けるために——記録・引き継ぎ・制度
一度決めた対応が続くためには、仕組みが要ります。ガイドラインは、積極的な介入を始めるまでの経過観察の中身として、保護者が過度に心配しないよう資料を提供しながら適切な吃音の知識と家庭・集団での望ましい関わり方を伝え、定期的な面談で経過を見ること、経過観察中は家庭での日々の吃音症状を記録してもらい、面談ではその記録をもとに症状の変化を評価すること、1年経過する中で悪化が認められる場合は言語聴覚士につなぐことを挙げています(ガイドラインが勧める強さの等級は推奨グレードB)。「家庭・集団での望ましい関わり方」の「集団」が、園です。園でも、いつ・どの場面で出やすいかを連絡帳や懇談で家庭と共有しておくと、相談先での面談の材料になります。
引き継ぎも仕組みの一つです。発達障害ナビポータルは、学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受けるリスクがあるため、早期発見とその対応法をオープンに話すことが予防につながるとし、これを「毎年のリスクマネジメントの積み重ね」と呼んでいます。園でも担任は替わりますし、卒園すれば小学校の担任に替わります。発表会の節に登場した年長の息子の母の記録には、年長の12月の懇談で、幼稚園の先生と小学校の先生の引き継ぎ会でこの件を伝えておく、と園から言われた場面がありました。小学校に入ってからの配慮の運用は学校の配慮の記事に、年長から就学までの準備は年長の記事にまとめています。
制度の側からの例も一つあります。日本小児耳鼻咽喉科学会の学会誌に載った症例報告は、通園先の幼稚園で吃音に対する理解が低く、母親が吃音は障害として軽視されているという印象を持っていた4歳の男の子について、母親が吃音を障害として公的に証明し周囲の理解を得るために精神障害者保健福祉手帳の申請を医師に希望して取得し、母親の話では取得後に園で手帳を開示することで一定の配慮を認めるようになった、と報告しています。申請には医師の診断書が必須です。一人の症例の報告であり、手帳を取ることを勧める話ではありません。ただ、園の理解が得られないときに、家庭が取りうる道の一つとして記録されています。
園の対応で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「ゆっくり言ってごらん」「もう一回」で直そうとする
子どもに向かって「ゆっくり」「落ち着いて」と声をかけることは、公的資料が極力控えるよう提案しているものです。ガイドラインは、吃音の症状を叱る指導を「行わないよう勧められる」とし、吃った直後に叱ると吃ることだけでなく発話自体が減る、と学習の仕組みから説明しています。直すのではなく、話し終わるまで待って、内容に返事をする。それが園でできる中心です。
落とし穴2 − 「緊張しているから」「おうちで何かあった?」と原因を口にする
保護者の接し方のまずさが原因で吃音が生じることは決してなく、親の接し方や愛情不足を原因とする説は学会が「最も問題のある間違った原因論」として名指ししています。育て方が悪かったのかもしれないという罪悪感をいだく母親はいまだ多い、とガイドラインは書いています。園の先生の一言は、その罪悪感を増やす側にも減らす側にも立ちます。切り出すときは「園でこういう場面があります」という観察だけを伝え、原因は言わないのが安全です。
落とし穴3 − 「様子を見ます」で園の中に閉じる
専門家のいない施設での経過観察は放置も同然になる場合がある、とガイドライン自身が認めています。専門家は足りず、初診まで数か月待つこともあります。「様子を見ます」と言うなら、いつまで見るのか、悪化したらどこへつなぐのか(巡回相談員・保健センター・言語聴覚士のいる機関)をセットで保護者に伝えてください。
園でも家庭でも、土台になるのは日々の記録です。経過観察では家庭での記録をもとに症状の変化を評価するとガイドラインは定めています。どの場面で出やすいか、どのくらい続いているかを園と家庭で書き留めて共有することから小さく始め、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
保育園で吃音のある子に、先生はどう接すればいいですか?
話し終わるまで待ち、話し方ではなく内容に返事をすることが基本です。公的資料は、大人の側がゆっくり・ゆったり話すこと、相づちを打ちながら最後まで聞くこと、手が離せないときは「あとで聞くから待っててね」と伝えてあとで必ず聞くこと、子どもに「ゆっくり」「落ち着いて」と声をかけるのは極力控えることを挙げています。ガイドラインは、吃音の症状を叱る指導を「行わないよう勧められる」としています。
周りの子が真似したり「なんで?」と聞いたりします。どう説明すればいいですか?
おおむね4歳ごろから、周りの子どもが違いを不思議に思って「なんで『あああ』ってなるの?」と指摘し始めることがあるとされています。学会は、集団の場で、吃音は病気ではないこと、緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものではないこと、本人がわざとやっているわけではないことを伝え、理解と啓発の機会を設けることを勧めており、指摘やからかいが減ることで本人が安心して話し続けられるとしています。ガイドラインは、保育関係者向けにリーフレット等を作成したと述べています。
発表会やお遊戯会で、セリフのある役を任せてもいいですか?
一人でセリフを言う場面は吃音が出やすく、何人かで声を合わせる場面は出にくいとされています。伴奏に合わせて歌ったり2人で同じ言葉を言ったりする場合には吃音が消失する、と発達障害ナビポータルは説明し、学会の解説も、歌を歌うときや2人で声を合わせるときには一時的に流暢になる人が多いとしています。役を決めるときは本人の希望を確かめ、本人が望むなら一人のセリフも、迷っているなら声を合わせる役や歌の役も選択肢になります。周りの人の反応によって吃音への感情や態度が変わりうる、とガイドラインは述べています。
保護者に「吃音かもしれません」と、どう伝えればいいですか?
園で見た場面を具体的に伝え、原因は口にしないことが大切です。保護者の接し方のまずさが原因で吃音が生じることは決してなく、親の接し方を原因とする説は学会が「最も問題のある間違った原因論」として名指ししています。発達障害ナビポータルは、支援者は相談に来る養育者の味方となる必要があり、祖父母も交えた情報共有が必要だとしています。あわせて、園がどう対応するか、園の外にどんな相談先があるかを添えると、保護者は次の一歩を選べます。
園から専門機関へ、どうつなげばいいですか?
ガイドラインは、4歳から就学前は保育所等訪問支援で気づいた問題を巡回相談員に相談できるとし、相談先として幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体のリハビリテーションセンター、児童発達支援センターなどを挙げています。専門家のいる機関では初診まで数か月の待機になることが多いので、「様子を見ます」と言うときは、いつまで見るのか、悪化したらどこへつなぐのかをセットで伝えておくと、保護者が動けます。
まとめ
- 園の先生の基本は「待つ」。話し終わるまで待ち、「ゆっくり」「落ち着いて」と言わず、言い直させない。吃音の症状を叱る指導は、ガイドラインが「行わないよう勧められる」としている。
- 周りの子の「なんで?」はおおむね4歳ごろから始まる。集団の場で、病気ではない・緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものではない・わざとではないの3点を伝え、理解と啓発の機会をつくる。本人には「真似されていない?」とオープンに聞く。
- 一人でセリフを言う場面は出やすく、声を合わせる場面は出にくい。役は本人の意思を確かめて決め、出なかった場面を失敗として固定しない。
- 保護者に伝える最初の一言に原因を混ぜない。育て方が原因ではなく、「気がつかせない方がよい」という昔の対応も否定されている。指摘しないことと、本人が言ってきたときに話題にできることは両立する。
- 園は、発見と基本的な対応を分担する連携先の一つ。「様子を見ます」は園の中で閉じず、巡回相談員・保健センター・言語聴覚士のいる機関へ、いつ・どこへつなぐかとセットで言う。専門家は足りず、初診まで数か月待つこともある。
