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発達性吃音の原因|遺伝・脳・環境の多因子と親のせいではない理由

発達性吃音の原因|遺伝・脳・環境の多因子と親のせいではない理由
目次

「発達性吃音」ということばを診断や検索で目にして、「うちの子は、自分は、どうして吃音になったんだろう」「何がいけなかったんだろう」——原因が気になり、そして少し自分を責めそうになっていませんか。

この記事では、発達性吃音の「原因」を、遺伝・脳の働き・環境が動的にからみ合う多因子(たいんし)の視点から整理します。双子研究や遺伝子研究の中身、原因のはっきりしている獲得性吃音との違い、そして「親の育て方は原因ではない」と言える理由までを、研究と公的資料の出典つきで、専門用語はそのつどかみくだいて説明します。

ソンタクマン
ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室にご相談ください。

発達性吃音とは?「原因のはっきりしない」吃音という意味

発達性吃音とは、幼児期(およそ2〜5歳)に、脳の損傷などはっきりした原因が見あたらないまま自然に始まる吃音のことです。医学ではこのような「見た目にはっきりした原因がないもの」を特発性(idiopathic)と呼びます。音を繰り返す・引き伸ばす・ことばが出ずに間があいてしまう——いわゆる「どもる」話し方の障害で、幼児・児童期に出はじめるこの発達性吃音が、吃音のほとんどを占めます。

「発達性」という呼び名は、心やからだ、ことばが急速に育っていく時期に現れることを指しています。つまり名前そのものが、「育ちの途中で起きる現象」であり、「誰かが何か悪いことをしたから起きた」ものではない、という原因像をすでに含んでいます。

当事者の母の声(仮名・専業主婦/たまひよ 家族体験記・言語聴覚士監修)

2017年4月20日、2才8カ月の時のことでした。

発症の日付まで覚えている、という保護者は少なくありません。発達性吃音は2〜5歳ごろに現れることがほとんどで、ある日を境に、それまでスラスラ話していた子の最初の音が繰り返され始めることも珍しくありません。この体験は、発達性吃音が「育ちの途中の時期」に現れるという特徴と重なります。

出典: 「どうして僕はうまくしゃべれないの?」ある日突然、3才の息子に吃音の症状が…(たまひよ)(台帳: V0006)

「発達性」と「獲得性」では原因がまるで違う

原因を考えるうえで、まず押さえておきたいのが「発達性」と「獲得性」の区別です。この2つは、原因の性質が正反対だからです。

だから発達性吃音の「原因」を探すときに、獲得性のように「これが引き金だった」という単独の犯人を見つけようとすると、かえって事実から遠ざかります。発達性吃音の原因は、次章で見るように「一つ」ではないからです。

発達性吃音の原因は「一つ」ではない — 多因子動的経路という考え方

発達性吃音の詳しい原因は、まだ完全には解明されていません。ただし「まったく分からない」という話ではなく、運動・言語・情動という複数の要因が、複雑に・非線形に影響し合って発達するという理解のもとで研究が進んでいます。この考え方を「多因子動的経路(たいんし・どうてき・けいろ)理論」と呼びます。

この理論では、吃音を、発話・言語・情動を司る脳のネットワークが急速に発達している時期に生じる神経発達的な現象としてとらえます。吃音は最終的には発話の感覚運動処理の乱れを反映しますが、その生涯にわたる経過は、言語的・情動的な要因によって強く左右される、と整理されます。とくに就学前の時期は、多くの神経系がめまぐるしく変化しており、それらの相互作用が、吃音が続くか回復するかを大きく決めると考えられています。

遺伝についても事情は同じで、単純な一遺伝子で決まるのではなく、複数の要因がからむ「多因子モデル」が最も可能性が高いとされています。原因は一枚の写真ではなく、時間とともに変化する道すじだ、とイメージすると理解しやすいかもしれません。次章から、この重なりの中身を「遺伝・脳・環境」の順に見ていきます。

遺伝と体質 — 双子研究が示していること

まず、生まれ持った体質・遺伝の関与です。吃音は家族内に複数の当事者がみられることがあり、これは遺伝的な要素があることを示唆します。それをより具体的に示すのが、双子(双生児)を対象にした研究です。

遺伝子をほぼ共有する一卵性の双生児では、両方に吃音が出る「一致率」が約70%、遺伝子の重なりが半分の二卵性ではおよそ30%、同性のきょうだいでは18%と報告されています。遺伝的な近さが大きいほど一致しやすい——これは体質・遺伝の関与を示す代表的なデータです。近年は原因に関わる遺伝子の探索も進み、これまでに同定された遺伝子はいずれも、細胞の内側で物質を運ぶ仕組み(細胞内輸送)の不具合を指すことが報告されています。

ただし注意したいのは、一卵性の双生児でも一致率は約70%にとどまるという点です。遺伝子がほぼ同じでも片方だけに出ることがあるということは、遺伝だけで100%決まるわけではない、という裏返しでもあります。実際、ある遺伝的な特徴が吃音を「起こす」のか、それとも「なりやすさ(リスク)」を高めるだけで、発症にはほかの環境的な要因も必要なのかは、まだはっきりしていません。だからこそ、次の脳の働きや環境の要因が重なって、はじめて発症に至ると考えられています。

脳の中で何が起きているのか

「体質」をもう少し具体的にのぞくと、話し言葉をつくり出す脳の働き方の違いが見えてきます。発話は、多くの脳の領域が高速で連携して初めてなめらかに成り立つ複雑な運動で、吃音ではこの連携のタイミングやまとまりに、わずかな違いがあることが指摘されています。

脳画像の研究では、いくつかのことが分かってきました。話し言葉のときに右脳が過剰に働くこと、ただしこれは問題の原因というより、うまくいかない部分を補おうとする「代償」的な働きの可能性があること。左脳の言語を組み立てる領域と、発話を実行する領域のあいだのタイミングにずれがあること。そして、脳の領域どうしをつなぐ神経線維(白質)のまとまりの低下が、なめらかな発話に必要な高速の感覚運動の統合を妨げている可能性があること。運動の調整に関わる「大脳基底核」を含むしくみとの関連も指摘されています。総じて、吃音は最終的には発話の感覚運動処理の乱れを反映する現象だと整理されています。

大切なのは、これらが「気の持ちよう」や「性格」の問題ではなく、話し言葉をつくる脳のしくみに根ざした現象だという点です。

当事者の母の声(30代・専業主婦/個人ブログ・当事者は2歳半で発症した息子)

呼吸すらできない無音のどもり

声が出そうで出ない、音のないまま間があいてしまう状態は、吃音の中核的な症状のひとつです。吃音は、音を繰り返したり引き伸ばしたりするだけでなく、こうした「音のない詰まり」も含む、不随意(自分の意思ではコントロールしにくい)な話し方の乱れとして定義されます。発話のタイミングをつくる脳の働きのわずかなずれが、こうした形で表れると考えられています。

出典: 幼児の吃音(どもり)と、その回復についての話(個人ブログ・まとり)(台帳: V0014)

「体質が主」でも環境は無関係ではない — 残りの部分の正しい読み方

ここが誤解されやすいところです。「原因の多くは体質・遺伝」と聞くと、「では環境は関係ないのか」あるいは逆に「やっぱり育て方が悪かったのか」と両極端に振れてしまいがちです。どちらも正確ではありません。

研究では、ある遺伝的な特徴が単独で吃音を起こすのか、それとも「なりやすさ」を高めるだけで発症には環境的な要因も必要なのかは、まだ結論が出ていません。つまり多因子モデルでは、生まれ持った素因の上に、言語や情動の発達など環境的な要因が重なって発症・進展すると考えます。実際、吃音の経過(続くか回復するか)は、言語的・情動的な要因によって強く条件づけられると報告されています。

ただし、ここでいう「環境」は、「親のしつけ」や「愛情の量」のことではありません性格特性や親子のやりとりを調べた研究では、吃音と一貫して結びつく心理的なパターンは見つかっていません。「親の反応で身についた行動だ」とする学習説も、吃音の中核症状を説明することはできませんでした。だからこそ、「本人が話しやすい状況を整える」という意味での環境の調整には意味がある一方で、それは「原因をつくった親を責める」こととは、まったく別のことなのです。

親の育て方は原因ではない

この記事でいちばん伝えたいのはここです。親の育て方・しつけ・愛情不足は、発達性吃音の原因ではありません。これは思いやりの建前ではなく、原因研究にもとづく結論です。

20世紀には、吃音は心の問題(心因性の障害)だと考えられ、精神分析的なアプローチが試みられた時期がありました。しかしその後、性格特性や親子の相互作用を調べても、吃音と一貫して結びつく心理的なパターンは検出されませんでした。「親の反応が吃音を学習させた」という説も、中核症状を説明できませんでした。現在では、障害そのものを起こす一次的な要因は中枢神経系(脳)の構造的・機能的な違いにあり、回避などの学習は二次的にそれを強めうる、と整理されています。原因の中心は、育て方ではなく脳の話し言葉のしくみにあるのです。

当事者の母の声(2児の母・田舎在住/個人ブログ note)

あ、これはわざとじゃないんだ

2歳3か月ごろ、語頭を繰り返す話し方が急に始まった息子に、最初は「変なクセがつくよ」と注意してしまった、という母親の気づきです。吃音は本人の意思ではコントロールしにくい不随意な現象で、「クセ」や「ふざけ」「甘え」ではありません。そして、育て方やしつけの問題でもないことは、これまでの原因研究がくり返し示しています。今も「自分のせいでは」と感じている保護者に向けた、事実にもとづくメッセージです。

出典: 息子と吃音(note・ななみ)(台帳: V0005)

原因がわかっても「治る/治らない」は別の話

「原因は体質・遺伝」と知ると、次に「では、もう治せないのか」という不安がわいてきます。ここは分けて考える必要があります。原因が生まれ持った要素にあることと、その先どうなるかは、別の問題だからです。

発達性吃音は、その多くが自然におさまっていくことが知られています。発症の割合(発症率)はおよそ5%、回復率は最大で約80%にのぼり、その結果、大人になっても続く人は人口のおよそ1%とされています。公的な資料でも、発達性吃音の大半は自然に症状が消えたり軽くなったりする一方、青年・成人期まで続く人もいるとされています。回復は女の子に多く、そのため男女比は成長とともに変化し、成人ではおよそ3〜4対1で男性が多くなります。

一方で注意したいのは、どの子が回復するかを前もって正確に見分ける方法は、まだないという点です。持続するか回復するかは、発達期の多くの神経系の相互作用によって左右されると考えられています。だから「原因が遺伝だから治らない」でも「自然に治るはずだから放っておいてよい」でもなく、経過を見守りながら、心配なときは専門家に相談する——という姿勢が現実的です。

どこに相談すればいい?受診の目安と相談先

発達性吃音の多くは自然に落ち着いていきますが、どの子が回復するかを前もって正確に見分ける方法はまだありません。だからこそ「様子を見るだけ」で一人で抱え込まず、気になるときは早めに専門家につながっておくと安心です。

相談を考えたい目安としては、症状が長く続いている/本人が話しにくさを気にしている/話すことや特定のことばを避けはじめた、といったサインがあります。ことばの育ちには個人差が大きく、判断に迷うことも多いので、迷ったら一度みてもらうのが確実です。相談のときは、いつ・どんな場面で・どんな話し方が出たかの記録があると、経過が伝わりやすくなります。

原因さがしで陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「犯人」を一つに決めようとする

「保育園のせい」「あのとき叱ったせい」と単一の原因を探すほど、事実から遠ざかります。発達性吃音の原因は複数の要因の重なりで、単独犯はいません。

落とし穴2 − 親(自分)を責めてしまう

育て方やしつけは原因ではないと、研究で示されています。自分を責める時間より、子どもが話しやすい環境をつくることにエネルギーを向けるほうが建設的です。

落とし穴3 − 情報を一人で抱え込み、様子だけ見てしまう

ネットの断片情報だけで判断せず、公的機関の資料や専門家にあたるのが近道です。発症からしばらくは経過に波があるため、日々の様子を記録しておくと、相談のときに役立ちます。まずは記録から小さく始め、言語聴覚士など専門機関に相談できる場合はそちらが確実です。発話を毎日記録して経過を「見える化」する道具として、アプリ「toVoice」のような記録・継続の支援ツールを使う方法もあります(治療をうたうものではありません)。

よくある質問

発達性吃音の原因は何ですか?

一つの原因は特定されていません。生まれ持った体質・遺伝的な素因を中心に、脳の発達や言語・情動の要因、環境的な要因が動的に影響し合って発症すると考えられています。双子を対象にした研究では、一卵性の双生児で両方に吃音が出る割合が高く、体質・遺伝の関与が示されています。

発達性吃音は遺伝しますか?

遺伝的な要因が関わるとされ、一卵性の双生児では一致率が約70%と報告されています。原因に関わる遺伝子の探索も進んでいます。ただし遺伝子だけで決まるわけではなく、一卵性でも一致率は100%ではないため、複数の要因が重なって発症すると考えられています。

親の育て方やしつけが原因ですか?

いいえ。性格特性や親子のやりとりを調べた研究でも、吃音と一貫して結びつく心理的なパターンは見つかっておらず、養育者が原因だとする説は支持されていません。原因の中心は育て方ではなく、話し言葉に関わる脳のしくみにあると整理されています。

発達性吃音と獲得性吃音は何が違いますか?

発達性吃音は、幼児期にはっきりした原因がないまま自然に始まるタイプで、吃音のほとんどを占めます。一方の獲得性(後天性)吃音は、脳卒中や頭部外傷など特定できる脳の損傷のあとに生じる比較的まれなタイプで、原因の性質が異なります。

原因がわかれば治せますか?

原因が体質・遺伝的な要素にあっても、発達性吃音の多くは自然に回復するとされています。ただし、どの子が回復するかを前もって正確に予測する方法はまだなく、大人になっても続く場合もあります。気になるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に相談するのが近道です。

まとめ

参考文献

  1. Smith & Weber (2017) How Stuttering Develops: The Multifactorial Dynamic Pathways Theory. JSLHR.
  2. Büchel & Sommer (2004) What Causes Stuttering? PLoS Biology.
  3. Frigerio-Domingues & Drayna (2017) Genetic contributions to stuttering: the current evidence. Mol Genet Genomic Med.
  4. 発達障害教育推進センター「吃音[症]」

当事者の声の出典: V0005(note・ななみ)/ V0006(たまひよ・佐野和子)/ V0014(個人ブログ・まとり)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-07-22 公開

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