吃音の人は頭が良い?|俗説4つを検証・右脳左脳と前頭葉

目次

「吃音のある人は頭がいいらしい」「頭の回転が速すぎて口が追いつかないんだよ」——そう言われてほっとしたことがある人も、逆に「どもるから頭が悪いと思われているのでは」と怖くなったことがある人もいると思います。わが子の話し方を心配して、脳に何かあるのだろうかと調べている保護者の方もいるかもしれません。

この記事は、よく言われる4つの言い方——「頭の回転が速いから」「頭が良い」「頭が悪い」「右脳型だから」——を一つずつ取り上げて、研究が何を言えていて何を言えていないのかを並べます。拠り所にしたのは、日本吃音・流暢性障害学会の解説、米国 NIDCD(国立聴覚・伝達障害研究所)のワークショップをまとめた総説、ミシガン大学の研究者らによる脳の論文、そして発達障害教育推進センターの資料です。あわせて、同じ問いを自分の言葉で書いた当事者4人の記録を先に置きます。知能の数値そのものは別記事に譲り、ここでは脳の左右差と前頭葉の話に重心を置きます。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 「頭が良いから吃る」「頭が悪いから吃る」のどちらも、参照した研究には出てきません。吃音のある大人とない大人を比べた研究39件をまとめた2026年の総括は、こうした数値は集団の傾向であって、吃音のあるすべての人に当てはめる処方箋のように読んではならない、と自ら明記しています。
  • 「頭の回転が速すぎて口が追いつかない」も、研究の説明ではありません。同じ総括が測っているのは「速さ」ではなく、聞いたことを頭の中に短いあいだ置いておく力(作動記憶)で、吃音のある大人は集団としてわずかに低い側でした。しかもその差は、ばらつきひとつ分の中に収まる程度です。
  • 「右脳型だから」ではありません。脳の領域どうしをつなぐ配線(白質)の強さと吃音の重さの関係は、左半球ではすべて「弱いほど重い」、右半球ではすべて「強いほど重い」という逆向きでした。左側の発話のネットワークが働きにくいぶん右側に頼らざるをえない、という解釈が示されています。
  • 前頭葉は確かに名前が挙がりますが、「そこが壊れている」という話ではありません。画像で一人の脳を見ても明らかな異常は見つからず、大勢を比べる統計でしか微細な差は見えない、と総説は前置きしています。
  • そもそも「◯◯だから吃る」という一つの理由では説明がつきません。就学前の子どもの会話を解析した研究では、音や言語や語彙の要因を全部合わせても、どもりが起きるかどうかのばらつきのうち説明できたのは2割から3割にとどまりました。

ただし、これは「頭が良いと言われて嬉しかった経験を否定する」という意味ではありません。研究が言えるのは大勢を平均した傾向までで、目の前の一人が賢いかどうかを、この記事のどの数字も判定できません。また、脳の説明の多くは観察された所見をつなごうとする仮説の段階で、原典が「示唆する」「かもしれない」と書いているところは、そのまま推量の形で書きました。

「頭の回転が速すぎて口が追いつかない」——言い換えを重ねてきた人の話

この言い方がこれだけ広まったのは、当事者自身の実感に近いからです。言いたいことは頭の中にある。それなのに、声だけが遅れる。では、その「頭の中にある」というのは、実際にはどういう状態なのでしょうか。接客のアルバイトを経験した当事者が、その中身を具体的に書き残しています。

行政書士の男性(個人ブログ・筆名「しんま」。高校生のころから、同じ音を繰り返す連発と、言葉が出なくなる難発があると書いている)

また、これは吃音症あるあるだと思いますが、特定の言葉が非常に発音しづらく、そのため別の言葉に言い換えるみたいなこともよくしていました。

例えばバイトで接客をしていた時、「少々右側にずれてお待ちください」が言えなくて、「少々」の部分を省き、「右側」を「横」に言い換えて、「横にずれてお待ちください」と言ってました。

我ながら涙ぐましい努力。

成人してからも吃音が治ることはなく、飲み会で自分が話すターンがやってきたときに、話す内容、話す構成、オチなどは全て頭の中で出来上がっているのに、吃音が邪魔して全然プラン通りに話せず、結果スベるという惨劇を何度も繰り返しました。

レジの前で、客に少し横へ動いてもらいたい。言うべき一文はもう決まっている。決まっているのに、その一文のうち「少々」を落とし、「右側」を「横」に差し替えて、ようやく口から出す——書かれているのは、頭の中で高速に何かが回っている場面ではなく、出口でつかえた言葉を、その場で別の言葉に置き換えている場面です。飲み会の話も同じで、内容も構成もオチも組み上がっているのに、それをそのまま出せないと書かれています。「頭の回転」という言葉が指しているのは、多くの場合この「組み上がっているのに出せない」という感覚です。では、その「頭の中」を研究はどこまで測っているのでしょうか。

出典: 頭の回転が早過ぎて口が追いつきません・・・【吃音症は天才の代償】(要件を言おうか)(台帳: V0370)

まず押さえておきたいのは、「思考の速さ」を測った研究が、この総括の中に見当たらないことです。測られているのは、やることを決めて、余計なものを抑えて、注意を切り替えるといった一連の働き(実行機能)で、なかでも研究の本数が多いのが、聞いたことを頭の中に短いあいだ置いておく力(作動記憶)です。

結果は、一言でまとめられるものではありませんでした。作動記憶では、吃音のある大人のほうが集団として低く、なかでもいちばんはっきり差が出たのは、意味を持たない音の並びを聞いてそのまま言い返す課題でした。一方、気を散らすものを無視したり動きを止めたりする力(抑制)では、二つの群に意味のある差は見られませんでした。つまり「頭の働きが全体に弱い」でも「全体に強い」でもなく、一部の場面にだけ差が出る、というのが実際のところです。

吃音のある大人とない大人を比べた研究をまとめた総括が、課題ごとに報告した差の大きさ(標準化した差・0が差なし・マイナスは吃音のある側が低い)。作動記憶では、意味を持たない音の並びの復唱が−0.57(95%信頼区間 −0.85〜−0.30・14件・吃音あり225人/なし288人)、数字を聞いた順に言う復唱が−0.23(−0.42〜−0.04・17件・308人/371人)、数字を逆から言う復唱が−0.38(−0.64〜−0.12・10件・162人/161人)、計算をしながら覚える課題が−0.37(−0.69〜−0.06・3件・77人/80人)。抑制では、気を散らすものを無視する課題が0.19(−0.12〜0.49・4件・59人/59人)、合図で動きを止める課題が−0.25(−0.52〜0.02・8件・204人/188人)。0をまたがなかったのは作動記憶の4つで、抑制の2つはまたいでいる。課題をまとめた値は作動記憶ぜんたいが−0.41、抑制ぜんたいが−0.10
図1: 課題によって、差の向きも大きさも違う。出典: Ofoe et al. (2026) J Speech Lang Hear Res.(結果節の各メタ分析)

差の大きさについても、原典はていねいに釘を刺しています。二つの群の差はばらつきひとつ分の中に収まっており、平均としては医学的な問題と呼べる差ではなく相対的な差にすぎない、と書かれています。標準化された検査の得点を見直した部分では、典型的な範囲に収まっていた人の割合は、吃音のある50人のうち70%、ない55人のうち71%で、ほとんど同じでした。

意味を持たない音の並びの復唱の標準化検査で、一人ひとりの得点が報告されていた4件分について、得点が一般の平均から±2SD以内に収まっていた人の割合。吃音のある大人50人では70%が収まり、30%がその外。吃音のない大人55人では71%が収まり、29%がその外
図2: 検査の得点が「一般の範囲」に収まっていた割合は、二つの群でほとんど同じだった。出典: Ofoe et al. (2026) J Speech Lang Hear Res.(考察。ただし範囲の外に出た人の内訳は二つの群で異なると原典は述べている)

では、その小さな差はどこで出るのか。原典の解釈は、長く覚えてきた語彙の知識を借りられない場面ほど差が表に出やすい、というものです。壊れた仕組みというより、求められる量が増えたときに崩れやすい仕組みかもしれない、という言い方をしています。上の語り手が「言えない言葉をその場で別の言葉に差し替える」と書いていたことと、向きとしては重なります。ただし原典自身が、この総括に入った研究の半数以下しかことばの力を測っておらず、ことばを使わない知能検査を行っていたのは39件のうち6件だけだったと、限界の欄に書いています。知能を測った研究の中身については、別記事「吃音と知能に関係はある?」で詳しく扱っています。

「いったん吃って頭が真っ白になったら」——どもった瞬間に起きていること

「頭が真っ白になる」は、知能の高い低いとはまったく別の話です。就職面接を前に、少しでも楽に話せる方法はないかと言語聴覚士のもとを訪れた大学3年生が、教わった練習法をこう評しています。

近畿大学医学部附属病院の言語聴覚士による臨床の記録(自助団体・日本吃音臨床研究会のサイトに掲載。「彼」は、言葉が出なくなる難発が目立つ21歳・理科系大学3年のA君)

軟起声発声は「あいうえお」の母音発声をする際に、まず軽く息を吐きながら徐々に喉を閉めていき、緩やかに発声を始めるというテクニックです。無理な発声で喉を痛めた音声障害の患者さんによく行う訓練なのですが、ア行音で強くブロックが出る吃音の方に何度か試したことがあります。彼は数回練習した後、「普通の精神状態でちゃんと準備ができれば使えそうだけれど、いったん吃って頭が真っ白になったら役に立たないでしょうね」と冷静に受け止めていたようです。

この青年は、話すことが仕事の中心にならない職種を選ぼうと考え、自分で会社説明会に足を運んでいました。担当した言語聴覚士が提案したのは、息を軽く吐きながらゆるやかに声を出し始める練習です。数回試したあと本人が返したのが、引用した一言でした。落ち着いていて準備ができていれば使える。けれど、いったん詰まって頭が真っ白になったあとでは役に立たない——練習が効く場面と効かない場面を、本人が自分で線引きしています。その「頭が真っ白」を、研究はどう説明しようとしているのでしょうか。

出典: 言語聴覚士の実践(吃音と上手につきあうための吃音相談室・日本吃音臨床研究会)(台帳: V0114)

2022年に出た理論の論文は、言葉が出なくなる瞬間を「凍りつき(フリーズ)」として説明しようとしています。脅かされる場面で動物が固まるのと同じ種類の防御反応が、話し始める瞬間に運動の系で一時的に起きているのではないか、という枠組みです。この論文は新しく実験データを取ったものではなく、既存の知見を束ねて仮説を立てたものだと、著者自身が冒頭で断っています。

この枠組みが説明しようとしているのは、当事者がよく口にする「自分の意思ではない」という感覚です。吃音のない人も言いよどみますが、それは話を組み立て直すために自分から作っているもので、主体的な言いよどみです。それに対して吃音特有の詰まりは反応的で、しかも「どもりたくない」と最も強く思っているときにこそ起きる、と書かれています。同じ論文は、この「固まる」感覚は吃音に付随する二次的なくせではなく、吃音そのものの本質的な一部だとしています。

頭が真っ白になるのが、発話が始まる前から用意されているという指摘もあります。米国 NIDCD のワークショップをまとめた総説によれば、学齢期以上のほとんどすべての当事者が、このまま話せばどもると事前に感じ取る「予期」を持ち、それに反応して、言いよどんで時間を稼いだり、別の語に言い換えたり、ときにはどもると分かっているから話さないことを選んだりして、話す計画そのものを変えています。見えている詰まりは、その裏で動いている工夫の一部でしかない、ということです。だからこそ、外から見た症状の重さと本人の負担は一致しません。生活の満足度を調べた研究は、不安の強さが本人の感じている影響とだけ関係し、どもった音節の割合のような外から測る重症度とは関係しなかった先行研究を挙げ、重症度は心理的・社会的な負担をそのまま予測するわけではないとしています。

「これは吃音なのか、自分の弱さなのか」——本人が自分で確かめに行く

診断を受ける前の人にとって、いちばん重い問いは「頭が良いか悪いか」ではありません。「自分の心が弱いからこうなっているのではないか」です。話すと詰まる理由を自分なりに調べた人が、その迷いをそのまま書いています。

人前でうまく話せない理由を自分で調べている人(note・筆名「青リンゴ」。記事の中に吃音の診断を受けたという記載はなく、本人も推測だと断っている)

しかし、うまく返答が出来ずに吃ってしまうのは、本当は吃音ではなく、自分の意思の弱さが原因ではないかと疑ってしまう。それには自分なりに正当な理由がある。それは、話す瞬間に頭の中で「本当にこんな答え方、伝え方でいいのだろうか」「誤解されないか」と自然とストップが掛かってしまうのだ。

この人は、文章を書くときには言葉がすぐ浮かび、話しているときも言いたいことはおおよそ頭に浮かぶ、と書いています。それでも、声にしようとすると途中で詰まる。バイト先でシフトを聞かれ、入るつもりだったのに言葉が途切れ、「ハッキリして」と返された場面も記されています。そこから本人は、自分の状態は吃音なのか、それともスポーツで急に思い通りに動けなくなる「イップス」に近いものなのかと考えを進め、最後に「以上のことは推測である」と自分で留保を置きました。この並べ方は、実は研究の側の議論とかなり近いところに来ています。

出典: [悩み]吃音症かイップスか、言葉に詰まる理由(note)(台帳: V0372)

先ほどの理論の論文は、吃音で起きるコントロールの喪失を、脳の奥にあって動きの選択とタイミングに関わる部分(大脳基底核)が関係する他の現象と並べています。パーキンソン病で歩行や発話が固まる現象、そして、プレッシャーのかかった場面で運動が意のままにならなくなる「あがり」や「イップス」です。イップスの代表的な説明は、自分の動きに注意を向けすぎる制御の処理が、自動的にできていた運動を壊してしまうというもので、吃音のある人が制御の処理に頼りすぎることと同じ構図になる、と書かれています。さらに同じ箇所は、イップスの主観的な体験が、どもっている瞬間の体験と驚くほど似ているという報告にも触れています。

ただし、ここから「だから意思の弱さだ」とは続きません。同じ論文が言っているのはむしろ逆で、詰まりは「どもりたくない」と強く思っているときにこそ起きる反応的なものであり、そこが意図的な言いよどみとの決定的な違いだとしています。加えて著者自身が、この理論は多くの点でまだ検証されていないと限界の欄に書いています。近づきたい気持ちと避けたい気持ちのぶつかり合いが吃音を起こすという考えは70年近く前からあるのに、その葛藤そのものはほとんど実証的に調べられていない、というのが著者の認めるところです。

制度の側の説明も、意思や性格の話を明確に退けています。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、最も問題のある間違った原因論として、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説や、親が吃音だと思って対応することが原因だとする説を名指しし、2000年ごろ以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究によって、環境よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かったと述べています。

「努力不足」——「頭が悪い」の側の決めつけが、実際に何を起こすか

「頭が良い」の裏返しとして、「頭が悪い」「準備が足りない」という見方があります。そして当事者に実際に届くのは、たいてい後者のほうです。100社以上の不採用通知を受け取った就活生が、いちばん辛かったことを書いています。

難発性吃音のある社会人1年目の男性(22卒・note。大学3年の5月から4年の8月末まで就職活動をしたと書いている)

1年半の就職活動を通して、最も辛かったのは「上手くいかないのは、努力不足が原因だと言われる事」でした。今、同じ悔しさを抱いている方は多いのではないでしょうか?就活生時代の私のルーティンは、「徹底的に企業分析をする事」・「面接前夜にカメラに向かって一人で笑顔を浮かべながら志望動機を話す事」でした。

この人は、志望先の採用ページ、社員のインタビュー記事、動画、先輩からの聞き取り、役員のSNSまで見たと書いています。面接の最後には必ず質問リストを出した、とも。それでも面接では、自己紹介すらできない日があり、順調に話せていたのに急に出る日もあった。「コントロールができない」という一文が、その状態を指しています。返ってきたのは、面接官からの「もっと準備をして面接に臨んでください」、友人からの「なんでそんなに努力しているのに内定が出ないんだろうねぇ」、父親からの「事前準備が足りてないから、落ちるんだ」でした。詰まった話し方が、そのまま「準備不足」という人物の評価に変換されている——この変換が起きること自体は、研究の側でも記述されています。

出典: 就活で100社以上落ちた「吃音」就活生の体験談(note)(台帳: V0039)

吃音のある大人の生活満足度を調べた研究は、背景の整理として、周囲は吃音のある人を、法律のような社会的地位の高い職業ほど能力が低いと見なしやすく、話す量の多い仕事には向かないと評価しやすいという先行研究を挙げています。同じ箇所は、こうした否定的な態度と職業上の思い込みが、就職の機会を減らし、任される役割を狭め、生活の満足度を下げる筋道を示しています。

その思い込みがどこから来るのかについても、材料があります。米国の労働市場を調べた研究は、吃音をよく知らない人のうち半数近くが、吃音は心理的な原因によるものだと信じているという先行研究を紹介し、あわせて吃音のある人が知的でないという固定観念が広く見られることに触れています。つまり「頭が良い」説と「頭が悪い」説は、正反対の結論に見えて、どちらも話し方から中身を推し量るという同じ癖から出ています。

この見方には、測れる形の結果も伴います。同じ研究は、全国を代表する調査の対象者を成人期まで追いかけ、年齢や学歴などの条件をそろえたうえでも、吃音のある人の年収が男女とも有意に低かったと報告しています。差は男性で7,627ドル、女性で7,154ドルでした。別の方法で推定し直すと差はさらに大きくなり、男性で10,766ドル、女性で18,712ドルとなっています。ただし原典自身が、これは因果として読んではならず、吃音の判定が自己申告であることや対象の大半が軽度だったことを限界として挙げています。米国のデータであって、日本にそのまま当てはめられるものでもありません。

「右脳型だから吃る」のか——脳の左右差が本当に示していること

「吃音の人は右脳型」という言い方を目にすることがあります。ただ、右脳型・左脳型という人の分け方は、ここで参照した研究のどれにも出てきません。出てくるのは「左右差」で、しかも向きが逆です。

いちばん分かりやすいのは、脳の領域どうしをつなぐ配線(白質)を調べた研究です。配線は強いほど働きが良いのが普通なので、もしその配線の弱さが吃音を起こしているなら「弱いほど症状が重い」、もし弱った側を不完全に穴埋めしている配線なら「強いほど症状が重い」になるはず——そう予測を立てて確かめたところ、左半球の配線はすべて前者、右半球の配線はすべて後者でした。原典はここから、左半球の発話のネットワークが働きにくいために右半球の対応する領域に頼らざるをえず、使うほど右の配線が太くなっているのだろうと解釈しています。「右が優れているから吃る」ではなく、「左が使いにくいぶん右に頼っている」という向きです。

右側の活動についても同じ読み方が続いています。脳の回路をまとめた2014年の総説は、右の前頭葉の下のほうにある領域(右前頭弁蓋)が、読む課題でも意味を判断する課題でも、吃音のある人が対照群より一貫して活動が高くなる唯一の領域だと紹介しています。この領域は、ことばを組み立てる働きに関わる左側の領域(ブローカ野)の右側の相同部分にあたります。そして、その活動の高さが症状の重さと逆向きの関係を示すことから、もともとの不具合ではなく肩代わり(代償)としての働きだろう、と解釈されています。同じ総説は、流暢に話すことを促す治療のあとに活動の高まりが全体に減って左優位に寄る一方、完全には元どおりにならず、再発する人とそうでない人を見分けられるかはまだ分かっていない、とも書いています。

ここで大事なのは、大人と子どもで見えるものが違うことです。2024年の総説は、大人では右半球の前頭・頭頂の領域とその奥にある部分に、発話に関わる活動と結合の高まりが見られ、左半球の対応する領域を上回るため、肩代わりの仕組みではないかという議論が長く続いていると述べています。子どもに同じ右側への偏りが見られないことがその見方を支える一方、近年の研究は、肩代わりと吃音そのものの現れが混ざっている可能性も示している、とも書かれています。米国 NIDCD のワークショップをまとめた総説も、右側の活動の高まりは当初は肩代わりと解釈されたが、近年はこの領域が担う行動の制御や葛藤の解決といった働きの面からも議論されている、としています。

つまり、右側に何かが起きていること自体は繰り返し報告されていますが、それが原因なのか、長年どもってきた結果なのかは、まだ決着していません。話す瞬間に脳で何が起きていると考えられているかは、別記事「吃音のメカニズム」にまとめています。

「前頭葉に原因がある」のか——名前が挙がる理由と、そこで止まること

前頭葉という言葉も、吃音の説明でよく出てきます。名前が挙がること自体は間違いではありません。ただ、挙がり方が思われているのとは違います。

2024年の総説は、脳の所見を並べる前に、こう前置きしています——画像で個人の脳を見ても明らかな異常は見つからず、大勢を比べる統計でしか微細な差は見えない。そのうえで、子どもも大人も、発話の運動を計画し制御する前頭の領域、感覚と運動をまとめる頭頂・側頭の領域、動きの学習や開始とタイミングに関わる大脳基底核・視床・小脳、そして報酬と情動の調節に関わる領域に、定型とは異なる構造と働きのパターンを示す、と列挙しています。前頭葉は、この長いリストの一項目です。

前頭葉の名前が挙がるもう一つの経路は、実行機能です。全米の調査データを使った研究は、やることを決めて、余計なものを抑えて、注意を切り替える働きが、前頭葉の前のほう(前頭前野)と大脳基底核を中心とする広い回路に支えられていること、そしてこの同じ領域が吃音でも定型と異なると報告されていることを並べています。さらに同じ箇所は、吃音の発症がおおむね3歳前後という実行機能の急成長の時期に重なるため、その発達を遅らせたり頭打ちにしたりするかもしれない、と論じています。米国 NIDCD の総説も、実行機能と注意が主に前頭前野に支えられ、就学前の時期に急速に発達すること、そしてそれがほとんどの子で吃音が始まる時期と重なることを指摘したうえで、吃音のある子とない子の差についての報告は研究間で一致していないと明記しています。

ここから先が、この記事でいちばん伝えたいところです。「◯◯だから吃る」という一つの理由は、研究の側から見ても立っていません。就学前の子どもと親の会話を書き起こして解析した研究は、「次に言う言葉が発音しにくいからどもる」という説を直接確かめ、次の語の音の難しさは、音の繰り返しにも語まるごとの繰り返しにも効かなかったと報告しています。効いたのは文の長さだけで、その子自身の平均より文が長くなるほど、文の最初の語が繰り返しになりやすくなりました。そして原典は、音や言語や語彙の要因を全部合わせても、どもりが起きるかどうかのばらつきのうち説明できたのは2割から3割にとどまったと、正直に書いています。

就学前の吃音のある子ども14人の親子の会話に、音・語彙・文法などの要因を入れた4つのモデルを当てて、どもりが起きるかどうかのばらつきのうち説明できた割合。音や音節の繰り返しを次の語の値で見たモデルが28.3%、同じく手前の語との差で見たモデルが27.8%、語まるごとの繰り返しを手前の語との差で見たモデルが21.1%、同じく次の語の値で見たモデルが20.9%。4つとも2割から3割の範囲で、残りはモデルに入れていない要因による
図3: 音や語彙の要因を全部入れても、説明できたのは2〜3割。「次の語の値」と「手前との差」は、次に来る語の複雑さをそのまま使ったモデルと、手前の語との差として使ったモデル。出典: Coalson & Byrd (2016) J Fluency Disord.

「吃音のある子は言語の発達や気質が違う」という話も、確かめ方によっては出てきません。280万人分の電子カルテをふるいにかけた研究は、そうした違いを示す研究が数多くあるにもかかわらず、カルテからは言語の発達・気質・情動に関わる項目が有意に多くならなかったと報告し、平均としては差があっても医学的な診断の水準には届かないか、吃音と同じように記録に残りにくいのだろう、と考察しています。平均として測れる差と、一人ひとりに見える違いは、別のものだということです。

脳の側でも、一点に絞る試みはうまくいっていません。報告される異常の場所が研究ごとにばらばらであること自体が、吃音が特定の領域や経路の障害ではなく系全体の問題であることを示している、と大脳基底核を軸にした論文は述べています。米国 NIDCD の総説も、吃音は脳の一か所に閉じた状態ではなく、発話に関わる複数のネットワークにまたがる多面的な神経の状態だと書いています。

どこに相談できる?——受診科と相談先の目安

「頭のせいだろうか」と一人で考え続けるより、話せる相手を持つほうが早いことがあります。相談先は年齢によって変わります。

  • 子どもの場合は、小児を扱う言語聴覚士(ST)か、ことばの教室の教員へ。学会の解説は、楽に話しやすくなるように周囲の環境を整える方法、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法など、年齢や状態に合わせた指導があるとして、この2つを相談先に挙げています。
  • 中高生・大学生は、学校への配慮の相談と、学生相談室。本人が望む場合には、発表や音読といった苦手な場面への配慮や支援を学校に求めることが大切だとされています。大学生では、就職活動の負担が大きいときに学生相談室のカウンセラーに相談することが有効とされています。
  • 社会人は、上司や同僚への相談。吃音について相談することで、職場の配置や電話業務などで配慮を得られることがあるとされています。
  • 本人が治療を希望する場合は、言語聴覚士による発話訓練という選択肢があります。発話訓練だけで症状が改善しない場合や、吃音に対する不安が強い場合は、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。
  • 同じ経験のある人に会いたいときは、自助団体。1965年に発足した「言友会」が国内で最も歴史が古く、近年は若者を対象とした団体や、女性の集いを開催する団体もあります。ほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもあるとされています。

見通しについても、公的な資料の書き方はおおむね一致しています。発達障害教育推進センターの解説は、幼児・児童期に出始めるタイプ(発達性吃音)がほとんどで、大半は自然に症状が消えたり軽くなったりするが、青年・成人期まで続く人もいる、と書いています。また学会の解説は、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多く、この変動を「波」と呼ぶとしています。今日うまく話せなかったことが、そのまま数か月後の状態を表しているわけではありません。

ここに挙げたのは相談先の一般的な目安で、特定の資料が「受診の目安」として定めた基準ではありません。話しにくさで困っている、避けている場面が増えてきた、というときは、当てはまる条件を探さずに相談して構いません。

「頭」と吃音をめぐって陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「頭が良い」か「頭が悪い」かの二択で考える

どちらの説も、話し方から人の中身を推し量るという同じ癖の上に立っています。吃音をよく知らない人の半数近くが吃音を心理的な原因によるものだと信じており、知的でないという固定観念も広く見られる、と報告されています。そして実行機能をまとめた総括は、こうした数値は集団の傾向であって、吃音のあるすべての人に当てはめる処方箋のように読んではならないと自ら書いています。褒め言葉の形をしていても、決めつけであることは変わりません。

落とし穴2 − 脳の所見を「そこが壊れている」と読む/原因と結果を混ぜる

画像で一人の脳を見ても明らかな異常は見つからず、違いは大勢を比べて初めて見えます。しかも右側の活動の高まりは、原因ではなく肩代わりだろうと解釈されており、大人と子どもで見えるものが食い違うことも指摘されています。大人の集団で見つかった所見を、そのまま子どもの原因として読まないことが大切です。

落とし穴3 − 一つの理由を突き止めれば解決すると考える

音や言語や語彙の要因を全部合わせても、どもりのばらつきのうち説明できたのは2割から3割でした。原因の説明は、自己流の対策の根拠にするより、言語聴覚士やことばの教室に相談するときの共通の言葉として使うほうが現実的です。その際は、どんな場面で出やすかったか、どのくらい続いたかを短く書き留めておくと、経過を伝えやすくなります。日々の発話を記録して経過を見えるようにするアプリを入り口にする方法もあります(記録と継続の支援であり、治療をうたうものではありません)。

よくある質問

吃音の人は頭が良いというのは本当ですか?

そう示した研究は、参照した範囲にありません。吃音のある大人とない大人を比べた研究39件をまとめた総括は、結果は集団の傾向であって、吃音のあるすべての人に当てはめる処方箋のように読んではならないと明記しています。知能を測った研究の中身は、別記事「吃音と知能に関係はある?」で詳しく扱っています。

「頭の回転が速すぎて口が追いつかない」から吃るのですか?

研究の説明ではありません。測られているのは速さではなく、聞いたことを頭の中に短いあいだ置いておく力(作動記憶)などで、吃音のある大人は集団としてわずかに低い側でした。ただしその差はばらつきひとつ分の中に収まり、平均としては医学的な問題と呼べる差ではなく相対的な差だとされています。気を散らすものを無視する力では差は見られませんでした。

吃音は右脳と左脳のどちらに関係があるのですか?

「右脳型だから」という説明にはなっていません。配線の強さと症状の重さの関係は、左半球ではすべて「弱いほど重い」、右半球ではすべて「強いほど重い」という逆向きで、左側が働きにくいぶん右側に頼っているという解釈が示されています。右側の活動の高まりも、症状の重さと逆向きの関係から肩代わりだろうと解釈されています。

前頭葉に異常があるということですか?

そう言い切れる段階ではありません。画像で個人の脳を見ても明らかな異常は見つからず、大勢を比べる統計でしか微細な差は見えないと総説は前置きしています。前頭の領域は、大脳基底核・視床・小脳などとともに挙げられるリストの一つで、吃音は脳の一か所に閉じた状態ではなく複数のネットワークにまたがる状態だとされています。

どもった瞬間に頭が真っ白になるのはなぜですか?

理由はまだ確定していません。2022年の理論の論文は、話し始める瞬間に運動の系が一時的に凍りつく防御反応が起きているのではないかという枠組みを示し、この詰まりは「どもりたくない」と強く思っているときにこそ起きる反応的なものだとしています。ただしこれは既存の知見を束ねた仮説で、著者自身が検証はこれからだと書いています。

子どもの吃音は脳の異常ですか?相談したほうがいいですか?

一人の脳の画像から分かる異常ではありません。学会の解説は、親の接し方を原因とする説を間違った原因論として名指しし、体質的な要因が原因の多くを占めることが分かったとしています。幼児・児童期に始まるタイプがほとんどで大半は自然に軽くなるとされていますが、心配なときは小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談できます。

まとめ

  • 「頭が良いから吃る」「頭が悪いから吃る」を示した研究は、参照した範囲にない。実行機能をまとめた総括は、結果を一人ひとりに当てはめる処方箋のように読んではならないと自ら書いている。
  • 「頭の回転が速すぎて」も研究の説明ではない。測られたのは速さではなく作動記憶などで、差はばらつきひとつ分の中に収まる相対的なもの。気を散らすものを無視する力では差が見られなかった。
  • 「右脳型だから」ではない。配線の強さと重症度の関係は左右で逆向きで、左が働きにくいぶん右に頼っているという解釈が示されている。右側の活動の高まりも肩代わりと解釈されており、大人と子どもで見えるものが違う。
  • 前頭葉は名前が挙がるが、画像で一人の脳を見ても異常は分からない。吃音は脳の一か所に閉じた状態ではない。
  • 「◯◯だから吃る」という一つの理由では説明がつかない。音・言語・語彙の要因を全部足しても、説明できたのは2割から3割だった。カルテからは言語発達や気質の違いも見えなかった。
  • 実害が出ているのはむしろ「頭が悪い」の側。能力が低いと見なされやすいという報告があり、収入の差も推定されている。心配なときは言語聴覚士やことばの教室、学生相談室、自助団体へ。

参考文献

  1. Ofoe, Ntourou, Clifton & Coalson (2026) A Meta-Analytical Review of Executive Function Skills in Adults Who Stutter. J Speech Lang Hear Res.
  2. Usler (2022) Why Stuttering Occurs: The Role of Cognitive Conflict and Control. Topics in Language Disorders.(理論の提示であり、新しい実験データではない)
  3. Chang & Guenther (2020) Involvement of the Cortico-Basal Ganglia-Thalamocortical Loop in Developmental Stuttering. Front Psychol.(ミシガン大学・ボストン大学)
  4. Craig-McQuaide, Akram, Zrinzo & Tripoliti (2014) A review of brain circuitries involved in stuttering. Front Hum Neurosci.
  5. Neef & Chang (2024) Knowns and unknowns about the neurobiology of stuttering. PLOS Biology.(ゲッティンゲン大学医療センター・ミシガン大学)
  6. Chang et al. (2025) Stuttering: Our Current Knowledge, Research Opportunities, and Ways to Address Critical Gaps. Neurobiology of Language.(米国 NIDCD 主催ワークショップの総説)
  7. Choo, Smith & Li (2020) Associations between stuttering, comorbid conditions and executive function in children: a population-based study. BMC Psychol.
  8. Coalson & Byrd (2016) Phonetic complexity of words immediately following utterance-initial productions in children who stutter. J Fluency Disord.
  9. Pruett, Chen, Polikowsky, Jones et al. (2021) Identifying developmental stuttering and associated comorbidities in electronic health records and creating a phenome risk classifier. J Fluency Disord.
  10. Gerlach, Totty, Subramanian & Zebrowski (2018) Stuttering and Labor Market Outcomes in the United States. J Speech Lang Hear Res.
  11. Mutlu & Cemali (2025) Assessment of occupational balance and life satisfaction in adults who stutter. BMC Psychol.
  12. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023年10月)
  13. 発達障害教育推進センター「吃音[症]」

当事者の声の出典: V0370(個人ブログ「要件を言おうか」・筆名しんまさんの記事)/ V0114(日本吃音臨床研究会「吃音相談室」に掲載された、近畿大学医学部附属病院の言語聴覚士・久保田功さんによる臨床の記録)/ V0372(note・筆名青リンゴさんの記事)/ V0039(note・22卒の当事者本人の体験談)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開