まず結論から
- 年長組(5歳児クラス)は、日本の「幼児吃音臨床ガイドライン」が積極的な介入(月2回以上の指導)の開始を推奨する学年です。年少組までは経過観察的な支援を基本とし、年中組では開始を検討し、年長組では開始を推奨する、と学年で段階が分かれています。
- 理由は両側にあります。あまりに早く始めると自然に治ったであろう多くの子に不要な介入をすることになり、遅すぎると効果的な指導を受けられないまま就学を迎える子が多く出る、とガイドラインは書いています。日本耳鼻咽喉科学会の会報に載った総説も、就学1年前ごろになっても改善の傾向がない場合に言語治療を開始する、としています。
- 自然に治る割合は、年齢ではなく吃音が始まってからの年数で見ます。ガイドラインが引く追跡研究では、始まってから2年後までに31%、3年後までに63%、4年後までに74%が治り、経過が長くなるにつれて治癒の確率は減少するとされています。国内の大規模な調査では、5歳ごろまでの治癒率は75%程度でした。
- 年長は、本人が自分の話し方に気づき、周りの子が指摘を始めていることのある時期です。吃音のある子は就学前の段階から話すことへの気持ちが否定的になりやすく、その差は年齢とともに広がる、と18件の研究をまとめた分析が報告しています。
- 就学前の1年には制度の入口が並びます。ガイドラインは、一部の自治体で行われている5歳児健診を就学前からの介入が重要な子を見つけるのに有効な仕組みだとし、就学前相談を受けている地域があること、小学校の「ことばの教室」がどこにあるかは地元の小学校か教育委員会に問い合わせるとよいことを挙げています。
ただし、続きやすさに関わる要因は挙げられているものの、それぞれがどの程度の予測力を持つかは明らかになっていない、とガイドライン自身が書いています。ここに並ぶ数字はどれも集団の割合で、目の前のお子さんが「治る」「続く」を言い当てるものではありません。この記事が勧めるのは、就学までに「治す」ことではなく、就学までに相談先と学校に「つながっておく」ことです。
年長になって、「言いにくい言葉」を本人が分かるようになった
年長の変化は、話し方より先に、本人の側に出ることがあります。2歳半で気づき、3歳半から言語訓練に通ってきた息子の記録を、年長の節から読みます。
息子(2歳半で気づき、3歳半から言語訓練。記録は小学1年生まで)の母の声(個人ブログ)
いままで本人は吃音のことは気にせず楽しく過ごしていましたが、この時期になると言いづらい言葉はこれ、というのが本人もわかるようになってきていました。せっかちな性格もあり、話したい!話したい!という気持ちがあるけど知っている言葉も足りない、前のめりに力が入っちゃう!というのが重なり、吃音の症状が出ることが増えてきました。
この母親は、息子が2歳半のころ「まま、あ・あ・あ・あのね!」と話すことが増えたのに気づいて、すぐに市の子育て相談に電話をかけています。耳鼻咽喉科では「様子見でもいい」と言われ、いったん様子を見て、3歳半で言語訓練に通い始めました。訓練の先生からもらった「吃音とは」という用紙は、保育園の担任に渡し、困っていたら教えてほしいと頼んだ、とも書かれています。そこまで整えたうえでの年長です。それまで気にせず過ごしていた本人が、言いづらい言葉を自分で分かるようになり、話したい気持ちが前のめりになって力が入る。同じ記事には、卒園までは波はあっても園の先生に恵まれ、友達とのトラブルもなく楽しそうに過ごせた、とも書かれています。本人が自分の話し方に気づき始める時期について、学会の解説は4歳ごろ(早い子は2、3歳でも)を挙げています。
出典: 吃音症(どもり症)の我が子との関わり方~現在の様子(うさ子の記録)(台帳: V0284)
日本吃音・流暢性障害学会の解説は、おおむね4歳ごろになると周りの子どもも違いを不思議に思う時期に入り、「○○ちゃんはなんで、『あああ』ってなるの?」といった指摘が始まることがある、と書いています。そうした指摘をきっかけに、話すときに力が入って声が出しにくくなったり、体を動かしながら話そうとしたりする子も出てくる、とも書かれています。この体の動きは「随伴症状」と呼ばれます。そして学齢になるころには、調子の波はあっても、幼児期のように吃音がまったく出ない時期を経験することは少なくなる、というのが同じ解説の見通しです。
気づきは、話すことへの気持ちにも表れます。吃音のある子どもとない子どもの「話すことへの気持ち(コミュニケーション態度)」を比べた研究を18件集めてまとめた分析は、吃音のある子は就学前の段階から話すことへの気持ちがより否定的で、その差は年齢が上がるほど大きくなり、性別の影響は見られなかった、と報告しています。原典は、否定的な気持ちは吃音の結果でありうる、とも述べています。
年齢の切れ目を、もう少し細かく見た研究もあります。3歳から5歳の子どもに、話すことについて自分で「はい・いいえ」で答えてもらう質問紙を使った研究では、3歳0か月〜4歳6か月の群(85人)と4歳7か月〜5歳11か月の群(29人)に分けて比べたところ、吃音のない子は年上の群で点が下がった(話すことの心配が薄れた)のに対し、吃音のある子では年齢による低下が見られませんでした。原典は、幼い子は話しことばがまだ発達の途中なので話すこと全般に心配を持ちやすく、吃音のない子ではそれが年齢とともに解消していくのではないか、と解釈しています。ただし年上の群の人数が少ないため慎重に読む必要があり、のちに自然に治る子と続く子で違いが出るかは調べられていない、とも断っています。年長は、「話すのは難しい」という気持ちが、周りの子では薄れ、吃音のある子では残りやすい時期だということです。だからこそ、本人が気づいて口にしたときの受け止め方が要ります。吃音ポータルサイトは、子どもが自分の吃音に気づいて悩みを打ち明けてきたときは吃音のことをタブーにせずに話し合うことが大切だとし、「吃音の話し方」は「くせ」のようなもので、悪いことやいけないことではないと伝えることを勧めています。学会の解説も、昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流だったが、今はそのような考え方は否定されている、とはっきり書いています。本人が「しゃべりにくい」と言い出したときの受け止め方は「子どもの吃音への対応」に、園の先生との共有は「保育園・幼稚園での吃音の対応」に書きます。
発表会の帰り道、「なんで○○だけ」と言った
年長の行事は、本人の気づきをいちばん強い形で引き出します。2歳から吃音があり、年少のときの市の発達相談では「様子見でOK」と言われていた次男が、年長の生活発表会で「キジ」役に立候補した記録です。
年長の次男(2歳から吃音)の母の声(3兄弟の母/個人ブログ・note)
そんな、親からみたら感動の発表会
お迎えに行って、次男に「よかったね」と言ったら、次男は言いました。
「全然、上手くできなかった…」
涙目
「上手くしゃべれなかった、どうしてしゃべれないの?なんで○○だけこんな変なしゃべり方になっちゃうの??」 それを聞いて、胸がギュッとつかまれたような、 なんとも言えない悲しい気持ちになりました。
この幼稚園では毎年12月に劇の発表があり、年長はセリフも見せ場も多い。母親は前もって園の先生と相談し、本人にどの役がやりたいか聞く、言いづらそうなら2人か3人で一緒にセリフを言う、得意なことを見せる場面を作る、他の子にからかわないように伝える、という関わりを先生から示されていました。本番、最初のひと言「鬼」の「お」が出ず、連発と引き伸ばしが出た。それでも得意の側転はどよめきが起きるほど決まり、母親は舞台の上の息子を心の中で大絶賛していた——その帰り道の言葉が、上の引用です。母親はこの言葉を受けて、もう一度言語聴覚士に相談しようと決め、まず本人に「言葉の先生のところに行く?」と聞いています。「うん」とうなずいた次男は「話し方なおるの??」と聞き返し、母親は「治る」とは言えなかったけれど、少しでも楽に声を出す方法や付き合い方のヒントになればと、幼稚園のうちに10回ある「ことばの教室」に通うことを決めました。年長で相談し直すという順序は、ガイドラインが学年で示している目安とちょうど重なります。
出典: 吃音年長次男「ことばの教室」に通うことになったきっかけ(note・もも)(台帳: V0009)
「幼児吃音臨床ガイドライン」は、積極的な介入——月2回以上の指導のことです——を始めるタイミングを園の学年で区切っています。3歳児クラス(年少組)までは経過観察的な支援を基本とし、4歳児クラス(年中組)では開始を検討し、5歳児クラス(年長組)では開始を推奨する。そのうえで、症状の重さや改善の傾向、続きやすさに関わる要因、保護者の状況、専門機関の受け入れ状況によっては、開始を前倒しすることも先延ばしすることもありうる、と書いています。学年は生まれ月で決まるので、いま5歳でも年中組にいるお子さんはいます。年齢ではなく、いまのクラスで見てください。年中組の位置づけは「4歳の吃音、受診はいつ?」に書きました。
なぜ年長で「推奨」に変わるのか。ガイドラインは理由を両側から書いています。幼児期の吃音は自然に改善することが少なくないため、あまりに早く積極的な介入を始めると、自然に改善したであろう多くの子に不要な介入をすることになりかねない。その一方で開始が遅すぎると、効果的な指導を適時に受けることができず、十分な改善を得られないまま就学を迎える子が多く出てしまう。序文では、幼児期は治療の有効率が比較的高く、今世紀に入って有効率7割の治療方法が複数確立された一方、学齢期になると治療の有効性が低くなりがちで、学習や学校生活の困難も生じやすくなる、と述べ、できれば就学前までに吃音が治癒するか軽くなることを目指した対応ができ、解決しない場合は円滑に学校生活の支援と連携できるようになることがよい、としています。日本耳鼻咽喉科学会の会報の総説も、幼児期は楽に話せる環境を整えながら経過を追い、発話に苦しそうな努力や悪化の傾向があるか、就学1年前ごろになっても改善の傾向がない場合に言語治療を開始する、と同じ線を引いています。
「推奨」は「必ず始めなさい」という命令ではなく、前倒しも先延ばしもありうると添えられた、学年ごとの目安です。何を始めるのか——保護者が家庭で毎日行う方法や、周りの関わりを整える方法——は「小児の吃音治療」に、外来で「様子を見ましょう」と言われたあとに何が始まるのかは「小児吃音外来とは」に譲ります。この記事で押さえたいのは、年長は「待つ」側から「始める」側へ、目安が切り替わる学年だという一点です。
年長まで続いたとき、見通しはどう変わるのか
年長まで続いた子の保護者が抱くのは、「もう自然には治らないのではないか」という問いです。4歳で始まった息子について、年長で一つの見立てをし、就学前相談で一つの選択をした母親の記録から見ます。
4歳で吃音が始まった息子(記事時点で小学2年生)の母の声(自助団体のメディアへの寄稿)
息子の吃音は良くなったり悪くなったりで、酷い時は強いブロックが出ます。良い時も「1日吃音がない」という日はありません。年長になるころには「息子は吃音と一生付き合うことになるだろう」と思うようになりました。
そのため、就学前相談を受けることに。息子はASDもあるので、情緒通級も対象です。
しかし、集団生活に困り感がなく、吃音への支援の重要性を強く感じていた私は、言語通級を強く希望しました。
引用にある「ブロック」は、ことばが出ずに詰まる型の吃音(難発)のことです。この息子は発語が遅く、自治体の発達相談から療育センター(発達に支援の要る子どもを指導・支援する施設)につながっていて、4歳で自閉スペクトラム症(ASD)の診断もついていたため、ことばの専門職である言語聴覚士にはスムーズにつながった、と母親は書いています。最初は助詞の連発程度だった吃音が強いブロックに変わり、連発は気にしなかった本人も「言葉が出ない…」と悲しそうに訴えるようになった。よい時でも吃音のない日はない——その観察の先に、年長での「一生付き合う」という見立てと、就学前相談での選択があります。「通級」は、在籍する学級とは別に決まった時間だけ通って指導を受ける仕組みで、情緒面の支援を行う教室と、ことばの支援を行う教室(ことばの教室)があります。母親は、集団生活には困り感がないことを理由にことばのほうを強く希望し、希望が通って入学から通っている、と続けています。「一生付き合う」という保護者の見立てを、研究はどう扱うのでしょうか。
出典: 【子育て我が家流】吃音の子供が話し好きに!理解ある環境の大切さ(HAPPY FOX・日本吃音協会)(台帳: V0122)
まず、割合の側から。「幼児吃音臨床ガイドライン」は、幼児期の発症率はおよそ8%、自然治癒率は70〜80%と考えられている、としたうえで、同じ子どもたちを追いかけた研究の値を並べています。始まってから2年後までの治癒率を85%と報告するものと、2年後までを31%、3年後までを63%、4年後までを74%と報告するものがあり、始まってからの経過が長くなるにつれて、治癒の確率は減少する。一方で、始まってから1年後までの治癒率は6.3〜9.0%という低い値も報告されています。日本吃音・流暢性障害学会の解説も同じ研究の値を引いたうえで、始まってから4年以上たつと(あるいは8歳以上になると)自然治癒の確率は減少する、と書いています。国内の値もあります。ガイドラインを作った研究班が福岡・石川・茨城・神奈川・徳島の3歳児健診などで始めた大規模な調査では、3歳時点で吃音のある子は4〜5%程度、3歳までに始まった子は8〜9%、5歳ごろまでの治癒率は75%程度で、近年オーストラリアから報告された値と近かった、と述べられています。国の発達障害情報のポータルサイトは同じことを男女別に示し、吃音を発症後、男児では3年で6割、女児では3年で8割が自然回復する、としています。
ここで大事なのは、年長の子はこの数字を「年齢」ではなく「始まってから何年か」で読むことです。2歳で始まって年長のいまなら経過は3〜4年、4歳で始まったなら1〜2年。同じ年長でも、立っている位置が違います。そして4〜5歳では、続いてきた期間そのものが目安になりにくいという指摘もあります。3〜5歳の吃音のある子ども52人を回復か持続かが分かるまで追いかけた研究は、背景の説明で、多くの場合は始まってから15か月のうちに解消するため、それを過ぎても続いている子は回復の見込みが下がるとしつつ、自分たちの先行研究では4歳・5歳の47人で回復率が約62%と低めに出たこと、その子どもたちはすでに平均21か月ほど続いていて早くに解消した子を含んでいなかったこと、そして4〜5歳では吃音の期間は他の年齢ほど有用な指標にならないかもしれない、と述べています。
次に、見立ての側から。上の母親の「一生付き合う」は、本人の日々を最もよく見ている人の判断です。ただ研究の側は、続きやすさの手がかりを「確率」として扱うよう強く求めています。同じ研究は考察で、手がかりが与えるのは持続と回復の見込みであって、その子の吃音が実際に続くか消えるかを確定させる指標ではない、と保護者に強調することが決定的に大切だとし、リスクが高い子が回復することも、低い子が持続することもあると書いています。待つと決めた場合は、保護者と言語聴覚士が注意深く見守り続け、定期的に相談し、話し方に変化があれば連絡すること、そしてリスクの高低にかかわらず、本人や保護者が不安や否定的な気持ちを口にしているなら、介入の利益がある、とも述べています。原典は、参加した子どもが52人と多くないこと、推論は3〜5歳の範囲に限るべきで他の年齢に広げるのは賢明でないことを、自ら制限として挙げています。
ガイドライン自身の書き方は、もっと控えめです。発症や治癒に関連する要因として、家族歴、性別、吃音の症状、ことばの音の発達、言語の発達、他の障害の併存、気質と社会的・情緒的な安定が報告されているが、要因どうしの関連や、それぞれがどの程度の予測力を持つかは明らかになっていない。解説では、絶対的な頻度の低さよりも、始まってからの1年間に頻度が下がるという変化のほうが治癒の重要な手がかりであり、始まってから1年たったあとの重さは持続のリスクになる、と書かれています。国のポータルサイトが、相談の場で「将来なおりますか」と聞かれても「男児で家族歴がある場合はなおりづらい」としか答えられない状況だと率直に書き、「この吃音とうまく付き合っていく方法を一緒に考えていきましょう」と伝える方針を示しているのは、この不確かさの裏返しです。
就学前の健診で名前がつき、「ことばの教室」に通い始めた
年長の子には、健診と相談の機会が重なって並びます。保育園で指摘を受けたことはあっても、本人も母親もあまり気にしていなかった次男の記録です。
次男(保育園のころから吃音があり、記録は小学3年生まで)の母の声(保育士・男児3人の母/個人ブログ・note)
小学校に上がる前の就学前検診で、吃音の疑いがあるとの報告を受け、町の「ことばの教室」に通うことになりました。月に1~2回の通級です。
この教室は「吃音」を対象にしたもので、驚いたのはここが「治す場所ではない」ということです。
保育園の先生から指摘を受けたことはあったが、自然に治ることもあると聞いていたし、園では特に変わらない日々だったので、本人も母親もあまり気にしていなかった——そう書かれたあとに、この健診が来ます。通い始めた教室で大切にされていたのは「吃音を知ること」「吃音を知ってもらうこと」で、友達に指摘されたときの対策や、学校での発表、日直当番のときにどうするかといった具体的な相談ができ、先生と一緒に解決策を考えたり練習したりする場だった、と母親は書いています。ここで吃音は「治すもの」ではなく「知って支えるもの」だと学んだ、それは自分の視点も変えた出会いだった、と続きます。小学2年で「話し方を真似されたよ」「ぼくが話さなければいいんだよ」と次男が言った日、3年生で学校が開いた吃音を知るための授業と子どもたちのアンケートまで、記録はつながっていきます。健診が入口になったこの経路は、ガイドラインが期待をかけている仕組みと重なります。
出典: 次男の吃音と向き合う日々(note・ななママ)(台帳: V0291)
「幼児吃音臨床ガイドライン」は、健診で吃音を見つけられるかという問いに、時期ごとに答えています。3歳〜3歳半の健診では保護者が吃音の不安を訴えることがあるが、この時期は始まってから半年〜1年程度の変動の大きい時期にあたることが多いため、保健・医療関係者から「様子を見ましょう」と言われることが多い。4歳から就学前は、園を巡回する相談員に相談でき、就学前に介入が必要な子を見つけて専門機関につなぐ大切な時期である。そして5歳児健診は、吃音に限らず就学前からの介入が重要な子どもたちを見つけ出すのに有効な仕組みで、いくつかの自治体で実施されており、今後の拡大が期待される。3歳の健診で「様子見」と言われたまま来た子にとって、年長の健診や相談は、もう一度名前がつく機会になります。
入口はほかにもあります。ガイドラインは相談先として、幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の小児リハビリテーションセンター、大学の教育学部に付属する発達やことばの相談室を挙げ、地域の児童発達支援センターには言語聴覚士がいる場合が多く相談窓口になっている、としています。就学後は小学校の通級指導教室である「ことばの教室」などが指導にあたるが、就学前相談を受けている地域もある。小学校の特別支援教育コーディネーター(校内で支援の連携を担当する先生)が就学前でも連携を担っていることがあり、公立学校のことばの教室がどの小学校にあるか、幼児の相談に対応しているかは、地元の小学校か各地域の教育委員会に問い合わせるとよい、と書かれています。上の母親がたどった「健診で名前がつく→町のことばの教室に月1〜2回」という経路は、この設計の中にあります。
「治す場所ではない」という驚きにも、対応する記述があります。ガイドラインは、積極的な介入を始めるまでの期間にすることを、保護者が過度に心配しないよう資料を提供しながら適切な知識と家庭・集団での望ましい関わり方を伝え、定期的な面談で経過を見る、家庭で日々の症状を記録してもらい面談ではその記録をもとに変化を評価する、1年たつ中で悪化があれば言語聴覚士につなぐ、と定めています。相談に対応する機関の多くは治療には対応できないことも多い、という注意も添えられています。「知って支える」教室と、治療を担う外来は、役割の違う場所として並んでいるということです。病院の外来とことばの教室の違いは「小児吃音外来とは」に書きました。なお吃音ポータルサイトは、幼児期の吃音のある子の少なくとも半数は特別な指導や支援がなくても小学校に入学するぐらいまでに吃音の問題が見られなくなるとしたうえで、小学校に入って吃音が続く子でも、ことばの教室や言語聴覚士の適切な指導・支援を受けることで、多くの場合、日常生活で大きな支障なく過ごせるようになる、と述べています。
年長の12月、「引き継ぎ会」と聞いて急に入学が不安になった
就学が近づくと、園から小学校へ何がどう伝わるのかが気になり始めます。年長12月の個人懇談で引き継ぎの話を聞いた母親の連載から読みます。
年長の息子(記事時点で小学3年生)の母の声(関西在住・2児の母/個人ブログの連載第4回)
その懇談はもう年長の12月。
小学校入学も事も考えなければなりませんでした。
幼稚園の先生と小学校の先生で引き継ぎ会みたいなものがあるとのことで、その件について先生にお伝えしておいてくださるとのこと。
ただ急に小学校入学が不安に…
この記事は連載の第4回で、前の回から続く個人懇談の場面から始まります。この12月の懇談で母親が聞いたのは、幼稚園の先生と小学校の先生の引き継ぎ会があり、息子のことも伝えておいてもらえる、ということでした。それで安心するはずが、入学が急に現実になって不安がやってくる。同じ懇談で先生から聞いたもう一つの話が、その不安を少し軽くしています。息子が日直で朝の会の挨拶をするとき、言葉に詰まったり言い間違えたりしても、クラスの子たちが「がんばれー、だいじょうぶー!」と声援を送り、からかう子は一人もいなかった、というものでした。年が明けて2月の生活発表会では、家では他の子のセリフまで覚えていた息子が本番でフリーズし、舞台袖でピアノを弾いていた先生のささやきを復唱して劇を終えています。帰ってきた息子は「ちょっと間違えちゃった」というくらいの調子だったけれど、母親のほうが辛く、ママ友の慰めの言葉がかえって辛かった、とも書かれています。園から学校への引き継ぎを、公的な資料は、毎年繰り返す備えの最初の一回として位置づけています。
出典: 親愛なる我が息子について④卒園までの吃音(アメブロ・しまうま)(台帳: V0055)
国の発達障害情報のポータルサイトは、小学校以降の支援を「毎年のリスクマネジメントの積み重ね」と呼んでいます。吃音のある子どもは発話の場面でしか症状が出ないため悩みが過小評価されやすく、他の子から話し方を真似されたり、笑われたり、「なんでそんな話し方なの?」と質問されることが多い。学校では毎年クラス替えがあり、そのたびに真似・笑い・質問を受けるリスクが生まれるため、早期発見とその対応法をオープンに話すことが予防につながる、とされています。困りやすい場面としては、日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式が挙げられていて、担任・保護者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになる、と書かれています。上の母親が年長で見た「日直の朝の会の挨拶」は、この一覧の最初の項目そのものです。
園と学校のあいだをつなぐ役目は、ガイドラインが体制として書いています。幼児の吃音の治療に対応できる機関が中心になって、保健センター、保育所・幼稚園・認定こども園、地域の耳鼻咽喉科・小児科、小学校のことばの教室・養護教諭・特別支援教育コーディネーター・教育委員会、自治体の子育て支援や母子保健の窓口などと連携し、吃音の知識を広めながら発見と基本的な対応を分担する。序文でも、就学前までに解決しない場合は円滑に学校生活の支援と連携できるようになることがよい、と述べられています。研究プロジェクトの解説は、園の段階でできることとして、笑ったり真似したりする子がいる場合は保育園・幼稚園の先生にも協力を求め、「わざとそうしているのではない」と説明してもらうことを挙げています。引き継ぎは園の先生どうしの会だけに任せず、保護者からも小学校へ伝える形をとると確実です。誰に・いつ・何を書いて渡すかは「吃音親子カフェのリーフレット」に、入学後の担任への頼み方と通級の使い方は「吃音と学校の配慮」にまとめました。
就学までの1年で、何をいつするか
上の5つの記録に出てきた出来事を、資料の記載と合わせて、年長の1年の順に並べます。学年の呼び方は園によって違い、地域によって制度の有無や時期も違うので、あくまで並び順の目安です。
- 年長になったら(春)——相談先とつながっているかを確かめる。まだなら、幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の小児リハビリテーションセンター、児童発達支援センター、保健センターが入口になる。積極的な介入(月2回以上の指導)の開始を推奨する学年なので、専門機関の受け入れ状況も含めて、始めるかどうかを相談する。
- 年長のあいだ(通年)——まだ始めていない場合の経過観察は、資料をもとに知識と関わり方を教わり、家庭で日々の症状を記録し、定期的な面談でその記録をもとに変化を見る、という中身を持つ。研究プロジェクトの解説は、周りの人の接し方のほうを変えること(環境調整)——周りの人がゆったりと楽に話し、どもるかどうかではなく内容を聞くように努める——を先に置き、悪化が見られる、始まってから1年半〜2年以上たつ、就学1年前までに治らない、といった場合を訓練へ切り替える目安に挙げている。
- 5歳児健診(実施している自治体)——就学前からの介入が重要な子を見つけ出すのに有効な仕組みとされ、拡大が期待されている。園への巡回相談も、就学前に介入が必要な子を専門機関につなぐ機会になる。
- 就学1年前ごろ——改善の傾向がない場合に言語治療を開始する目安の時期。ガイドラインは、経過観察の最初の説明のときに、就学の1年〜1年半前まで改善傾向が見られない場合は直接的な治療を行う可能性があることを伝えておく、としている。
- 秋〜冬:就学前相談・就学時の健診——就学前相談を受けている地域があり、小学校の特別支援教育コーディネーターが就学前でも連携を担っていることがある。ことばの教室がどの小学校にあるか、幼児の相談に対応しているかは、地元の小学校か教育委員会に問い合わせる。上の記録では、就学前の健診が「名前がつく」入口になった家庭と、就学前相談で通級の種類を選んだ家庭があった。
- 入学前(冬〜春)——園から小学校への引き継ぎに加えて、保護者からも担任へ伝える。小学校のことばの教室・養護教諭・特別支援教育コーディネーター・教育委員会は、ガイドラインが連携先として名前を挙げている窓口である。
- 入学後(毎年)——クラス替えのたびに真似・笑い・質問のリスクが生まれるので、場面を挙げて本人に聞き、担任に伝え直す。通級(ことばの教室)の申し込みは学校と教育委員会が入口になる。
この一覧に「就学までに治す」という項目はありません。ガイドラインの序文が目指すと書いているのは「就学前までに吃音が治癒ないし軽快すること」であり、解決しない場合の連携までを一つの流れとして書いています。国立障害者リハビリテーションセンターの特集も、待っているあいだの過ごし方として楽しくおしゃべりできる環境を整えることを挙げ、それは治癒しない結果になっても役に立つ、と書き添えています。国のポータルサイトが示す方針も「うまく付き合っていく方法を一緒に考える」です。年長の1年は、治すための締め切りではなく、つながる相手を増やすための1年として使うのが、資料の書き方に沿った使い方です。
どこに相談する?受診科・相談先
「幼児吃音臨床ガイドライン」が挙げる相談先は、幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の小児リハビリテーションセンター、大学の教育学部に付属する発達やことばの相談室、そして言語聴覚士がいる場合の多い地域の児童発達支援センターです。保健センターでも相談に対応しているところがあり、地域の言語聴覚士の相談窓口を把握している場合もある、とも書かれています。就学後は小学校の通級指導教室「ことばの教室」などが指導にあたり、就学前相談を受けている地域もあります。
ただし、相談に対応する機関の多くは治療には対応できないことも多い、という注意がついています。ガイドラインは、専門家が足りない現状を前提に、吃音の治療に対応できる機関が中心となり、保健センター・園・地域の耳鼻咽喉科や小児科・小学校のことばの教室などと連携して、発見と基本的な対応を分担し、改善が十分でない子の治療は中心となる機関が担う体制を示しています。そして、吃音の持続が心配な子とその親に対しては、「様子を見ましょう」というだけでなく、積極的な助言指導を受けられる専門機関につなげることが大切だ、と書いています。国立障害者リハビリテーションセンターの特集も、医療専門職などによる経過観察を推奨し、軽い場合はできるだけ吃音の専門家でない担当者が経過を見る分担を挙げています。
年長で「様子を見ましょう」とだけ言われて帰ることになったら、その様子見が定期的な面談と記録を含んでいるのか、就学までに専門機関につながる道があるのかを、その場で聞いてみてください。相談先の全体像と持ち物は「吃音の相談先」に、外来の入口と初診の中身は「小児吃音外来とは」に書きました。
年長の吃音で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「年長だから、入学までに治す」を目標にしてしまう
ガイドラインが目指すと書いているのは「就学前までに治癒ないし軽快すること」で、解決しない場合に学校生活の支援と連携することまでが一続きの設計です。国のポータルサイトが相談の場で伝えている方針は「うまく付き合っていく方法を一緒に考える」です。治すことを締め切りにすると、締め切りに間に合わなかったときに、本人と保護者の側が「失敗」を背負うことになります。目標は、入学までに相談先と学校につながっておくこと、に置き換えてください。
落とし穴2 − 「様子見」を「何もしない」にしてしまう
ガイドラインの経過観察には、資料の提供・家庭での日々の記録・定期的な面談・1年の中で悪化があれば言語聴覚士につなぐ、という中身があります。同時にガイドラインは、「様子を見ましょう」というだけでなく専門機関につなげることが大切だ、と念を押しています。年長の「様子見」は、就学までの残り時間が決まっている様子見です。次の面談がいつか、家で何を記録するかが決まっていなければ、それは放置に近いものです。
落とし穴3 − 引き継ぎを園と学校の先生どうしに任せてしまう
学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受けるリスクがそのたびに生まれます。園から小学校への引き継ぎは、その最初の一回にすぎません。ガイドラインが連携先に挙げている小学校のことばの教室・養護教諭・特別支援教育コーディネーター・教育委員会は、保護者からも直接たどれる窓口です。園の先生が伝えてくれる内容に加えて、本人が困りやすい場面と、してほしいことを、保護者の言葉で担任に渡しておくと、入学後の面談がそこから始められます。
どの道を選ぶにしても、土台になるのは日々の記録です。経過観察では家庭での記録をもとに症状の変化を評価する、とガイドラインは定めています。どんな場面で出やすいか、どのくらい続いているか、本人が何と言ったかを書き留めておくことから小さく始め、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
年長まで吃音が続いています。もう自然には治りませんか?
自然に治る割合は年齢ではなく、吃音が始まってからの年数で見ます。ガイドラインが引く追跡研究では、始まってから2年後までに31%、3年後までに63%、4年後までに74%で、経過が長くなるにつれて治癒の確率は減少するとされています。国内の大規模な調査では5歳ごろまでの治癒率は75%程度でした。ただしこれらは集団の割合で、続きやすさに関わる要因がどの程度の予測力を持つかは明らかになっていない、とガイドライン自身が書いています。
年長では、いつ相談すればいいですか?
「幼児吃音臨床ガイドライン」は、年少組までは経過観察的な支援を基本とし、年中組では積極的な介入(月2回以上の指導)の開始を検討し、年長組では開始を推奨する、としています。日本耳鼻咽喉科学会の会報の総説も、発話に苦しそうな努力や悪化の傾向があるか、就学1年前ごろになっても改善の傾向がない場合に言語治療を開始する、としています。年長になった時点で、まだ相談先とつながっていなければ、早めに窓口を確かめてください。
就学前相談や就学時の健診で、吃音のことは伝えたほうがいいですか?
ガイドラインは、一部の自治体で行われている5歳児健診を、就学前からの介入が重要な子を見つけ出すのに有効な仕組みだとし、就学前相談を受けている地域があること、小学校の特別支援教育コーディネーターが就学前でも連携を担っていることがあることを挙げています。伝えておくことで、通級(ことばの教室)の場所や申し込みの手順を早く知ることができます。どの小学校にことばの教室があるか、幼児の相談に対応しているかは、地元の小学校か教育委員会に問い合わせるとよい、とされています。
ことばの教室(通級)は、入学前から申し込めますか?
ガイドラインは、就学後は小学校の通級指導教室である「ことばの教室」などが指導にあたるとしたうえで、就学前相談を受けている地域もある、と書いています。地域によって幼児の相談に対応しているかどうかが違うので、地元の小学校か各地域の教育委員会に問い合わせるのが確実です。上の記録では、就学前の健診をきっかけに町のことばの教室へ月1〜2回通い始めた家庭と、就学前相談で情緒の通級ではなくことばの通級を希望した家庭がありました。
小学校の担任には、いつ、何を伝えればいいですか?
国のポータルサイトは、学校では毎年クラス替えがあり真似・笑い・質問を受けるリスクがそのたびに生まれるため、早期発見と対応法をオープンに話すことが予防につながるとし、困りやすい場面として日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式を挙げています。園から小学校への引き継ぎに加えて、入学前か入学直後に、本人が困りやすい場面と、してほしいことを保護者の言葉で伝えておくと、担任が動きやすくなります。書いて渡す形は「吃音親子カフェのリーフレット」にまとめています。
まとめ
- 年長組(5歳児クラス)は、幼児吃音臨床ガイドラインが積極的な介入(月2回以上の指導)の開始を推奨する学年。年少=経過観察、年中=検討、年長=推奨。早すぎれば不要な介入、遅すぎれば改善を得られないまま就学、という両側の理由がある。就学1年前ごろに改善の傾向がなければ言語治療を開始する目安も示されている。
- 自然に治る割合は、年齢ではなく始まってからの年数で読む。2年で31%・3年で63%・4年で74%、経過が長くなるほど確率は下がる。国内の調査では5歳ごろまでに75%程度。ただし要因の予測力は明らかでなく、リスクが高い子が回復することも低い子が続くこともある。
- 年長は本人が自分の話し方に気づき、周りの子が指摘を始める時期。吃音のある子は就学前から話すことへの気持ちが否定的になりやすく、差は年齢とともに広がる。周りの子では薄れる心配が、吃音のある子では残りやすい。
- 就学前の1年には、5歳児健診・園への巡回相談・就学前相談・ことばの教室の問い合わせ(小学校か教育委員会)・特別支援教育コーディネーターという入口が並ぶ。経過観察は資料・記録・定期面談・悪化時の紹介という中身を持ち、「様子を見ましょう」だけで終わらせない。
- 園から小学校への引き継ぎは、毎年の備えの最初の一回。クラス替えのたびにリスクは新しくなるので、場面を挙げて本人に聞き、担任に伝え直す。
- 目標は「就学までに治す」ではなく、就学までに相談先と学校につながっておくこと。ガイドラインが目指すのは治癒または軽快と、解決しない場合の連携までを含む一続きの流れである。
