吃音症とチックは別のもの — まず定義から
結論から言うと、吃音症とチックは別の状態です。吃音(きつおん、どもり)は、話し言葉がなめらかに出てこない発話障害で、次の3つの中核症状のどれかがみられます。
- 連発(れんぱつ):音を繰り返す。例「か、か、からす」
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「かーーらす」
- 難発(なんぱつ):ことばが出せずに間があいてしまう(ブロック)。例「・・・・からす」
一方チックは、体の動きや発声が思わず出てしまうもので、話し言葉の流暢性(なめらかさ)そのものの問題である吃音とは、成り立ちの違う状態として扱われます。ただし両者はまったく無関係というわけではなく、どちらも子ども期に現れる神経発達の特性という共通点があります。ヨーロッパの一地域で6歳児を対象に行われた調査でも、吃音(小児期発症流暢症)とチック症(一過性・慢性・トゥレット症)は、いずれもDSM-5-TRという診断基準でいう「神経発達症群」の一部として数えられています。
つまり「吃音かチックか、どちらか一方に決めなければ」と焦る必要はありません。まずはそれぞれが何を指すのかを分けて理解し、そのうえで見分け方や併存の話に進むのが近道です。
吃音の「随伴運動」がチックと似て見える理由
「吃音のはずなのに、まばたきや顔の動きがある」と感じるとき、その多くに関わっているのが随伴運動(ずいはんうんどう)です。これは吃音の中核症状(連発・伸発・難発)とは別に現れる二次的な症状で、発話に際して、なんとか声を出そうと顔面や身体に力を入れ、不必要な身体運動を行うものを指します。
具体的には、手足を振り下ろす、飛び跳ねる、前かがみや後ろに反る、息を荒げる、顔をしかめる、目を固くつぶる——といった動きが挙げられます。とくに幼児期はさまざまな随伴症状が出るため、家族がびっくりすることも多いとされています。まばたきや顔をしかめる動きは見た目がチックに似るため、「これはチックでは?」と受け取られやすいのです。
大切なのは、随伴運動は「話そうとするとき」に、声を出そうと力むなかで起こるという点です。本人がわざとやっているのではなく、なめらかに話せない状態を何とかしようとして力が入ってしまう、という文脈で現れます。
家庭での見分けの手がかり — 随伴運動かチックか
随伴運動とチックは見た目が似ることがあるため、家庭で確実に見分けるのは簡単ではありません。それでも、次のような点を観察しておくと、相談のときに専門家へ伝えやすくなります。あくまで「手がかり」であって診断ではない、という前提で読んでください。
- その動きは、話そうとする場面に結びついて出ているか。吃音の随伴運動は、声を出そうと力むなかで起こります。話していないとき(黙って遊んでいるときなど)にも同じ動きが出るのか、それとも話す瞬間に集中して出るのかは、観察のポイントになります。
- 連発・伸発・難発といった話し方の乱れと一緒に出ているか。吃音の中核症状と同じ場面で動きが出るなら、随伴運動である可能性を考えやすくなります。
- 調子の「波」があるか。吃音は、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりし、数週間〜数ヶ月単位で調子の良い時期・悪い時期という波があるのが特徴です。
これらはいずれも吃音側の特徴から導いた観察ポイントです。見た目が似る以上、最終的な判断は自己流ではなく、後述する専門機関に委ねるのが安心です。まずは「いつ・どんな場面で・どんな動きや詰まりが出たか」を記録しておくと、区別の手がかりが集まります。
当事者の体験 — 吃音とチックが重なるとき
吃音とチックが同じ人に重なることは、実際に起こり得ます。障害・生きづらさをテーマにするWebメディア soar のインタビューには、吃音(連発タイプ)とともに、指を動かす・顔をしかめるといったチックが子どもの頃からストレスを感じたときにみられた、という当事者(会社員・自助グループ運営)の語りがあります。当事者がどんな場面で困りを感じてきたのか、二つの声を紹介します。
当事者の声(会社員・吃音当事者/連発タイプ・自助グループ運営/Webメディア soar のインタビュー)
「なんでそんな喋り方なの?」って聞かれたり
周囲から話し方を指摘されたりからかわれたりする経験は、吃音のある子がおよそ4歳ごろから直面しやすいもので、こうしたいやな経験の積み重ねが、社交不安症やうつなどの心理的な問題につながることがあると指摘されています。
出典: 吃音とともに生きる当事者へのインタビュー(soar)(台帳: V0032)
当事者の声(同・Webメディア soar のインタビュー)
日直の日は毎回ズル休みしてました
話す場面を避けるのは、吃音のある人が身につけやすい対処のひとつです。言い換えや場面回避を続けると吃音は一見目立たなくなりますが、実際には症状が出ないかを日々警戒しながら過ごすことになり、ストレスや悩みを抱え込みやすくなることが知られています。動きや話し方そのものより、こうした心理的な負担のほうが本人にとって大きいことも少なくありません。
出典: 吃音とともに生きる当事者へのインタビュー(soar)(台帳: V0032)
吃音とチックは併発するのか?併存の考え方
「吃音があると、チックも起こりやすいの?」という疑問は多いところです。まず押さえておきたいのは、吃音のある子どもは、吃音以外の状態を併せもつことが少なくないという点です。アメリカの大規模な集団調査では、吃音のある子どものおよそ6割(60.32%)が、吃音のほかに少なくとも1つの併存状態をもっていました。ちなみにこの調査での吃音のある子どもの割合は1.88%、男女比はおよそ2.5対1でした。
では、その「併存」の代表として何が挙げられるのでしょうか。吃音の学会資料では、比較的多い併存症として限局性学習症(LD)、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、知的発達症、てんかん、構音障害などが挙げられています。電子カルテを使った別の研究(吃音1,143例)でも、吃音と関連の強い状態として難聴・睡眠障害・アトピー・感染症・神経学的所見などが確認されており、吃音の併存の広がりが裏づけられています。
一方で、これらの資料が挙げる吃音の代表的な併存症・関連状態の中心は、LD・ADHD・ASDや難聴・睡眠障害などであり、チックが代表として前面に挙げられているわけではありません。とはいえ、吃音もチックもどちらも子ども期に現れる神経発達の特性で、同じ集団の中に一定の割合ずつ確認される状態です。だからこそ、同じ子どもに両方がみられること自体は十分にあり得ます。
正直に言えば、「吃音とチックがどのくらいの割合で併発するか」をはっきり示したデータは、この記事で用いた資料の中には見当たりません。したがって「必ず併発する」とも「まず併発しない」とも言い切れない、というのが誠実な答えです。両方が気になるときは、頻度の推測に振り回されず、次に述べる相談先で実際に確認するのが確実です。
吃音の見通し — 多くは自然に回復する
チックのことが心配なときほど、吃音そのものの見通しも気になるものです。幼児期に始まった吃音の多くは、自然におさまっていくことが知られています。ある研究の集計では、吃音が始まってから2年後までに約31%、3年後までに約63%、4年後までに約74%が自然に回復すると報告されています。ただし、発症から4年以上たつ(あるいは8歳以上になる)と、自然回復の確率は下がっていくとされています。
つまり、幼児期の吃音は「様子を見ているうちに落ち着く」ことが多い一方で、続く場合もあるということです。随伴運動やチックのように見える動きが重なって心配なときは、様子見だけにせず、専門機関に相談しておくと安心です。チックの見通しは状態によってさまざまなので、その点も含めて専門家に確認するのがよいでしょう。
受診科・相談先 — どこに相談すればいい?
吃音の相談先としては、小児を扱う言語聴覚士(ST)や、ことばの教室の教員が挙げられます。楽に話しやすくなるように周囲のコミュニケーション環境を整える方法(環境調整)や、年齢・状態に合わせた指導を受けられます。
チックのことも気になる、あるいは吃音・随伴運動・チックのどれなのか迷う——という場合は、まずかかりつけの小児科に相談し、必要に応じて子どもの発達を診る専門機関(言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室など)を紹介してもらう、という流れが現実的です。「どちらを先に相談すべきか」で迷って動けなくなるより、まず身近な窓口に一度つなぐことを優先しましょう。
なお、発達性吃音は発達障害者支援法の対象に含まれており、支援や合理的配慮の枠組みのなかで扱われます。制度面の支援について知りたいときも、上記の専門機関に相談すると整理しやすくなります。
見分けようとするときに陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 見た目だけで「これはチック」「これは吃音」と決めつける
随伴運動とチックは見た目が似ることがあり、家庭で確実に区別するのは簡単ではありません。ネットの情報や見た目の印象だけで自己判断せず、話す場面との結びつきなど手がかりを記録して、専門家に確認するのが安全です。
落とし穴2 − 気になる動きや話し方を叱ってやめさせようとする
吃音は、本人がわざとやっているものではなく、緊張やストレスのみから生じるものでもありません。吃音を恥ずかしいと思って、出さないようにと力を入れてもがくと、かえって悪化することが指摘されています。動きや詰まりを注意して直させるより、安心して話し続けられる雰囲気をつくるほうが建設的です。
落とし穴3 − 一人で抱え込み、記録も相談もしないままにする
吃音は調子の波があり、いつ・どんな場面で症状や動きが出たかを記録しておくと、相談のときに状況を伝えやすくなります。まずは日々の様子を記録することから小さく始めるのが現実的です。発話の記録を続けたいときは、記録を助けるアプリを補助的に使う方法もあります(あくまで記録・継続の支援であって、治療の効果を示すものではありません)。専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
吃音の随伴運動とチックはどう見分けますか?
吃音では、声を出そうと力むなかで顔や体に力が入り、まばたきや顔をしかめるなどの動き(随伴運動)が出ることがあります。この動きが「話そうとする場面」に結びついて出るのかどうかは手がかりになりますが、見た目が似ることもあるため、最終的な判断は専門家に相談するのが安心です。
吃音とチックは併発しますか?
吃音のある子どもは、吃音以外の状態を併せもつことが少なくないと報告されています。ただし、学会資料などがよく挙げる吃音の併存症はLD・ADHD・ASDなどで、チックが代表として挙げられているわけではありません。同じ子どもに両方みられることはあり得ますが、併発の頻度がはっきり示されているわけではないため、気になる場合は専門機関で相談するのが確実です。
吃音症とチックは何科を受診すればいいですか?
吃音の相談先としては、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室が挙げられます。チックも気になる場合やどちらか迷う場合は、まずかかりつけの小児科に相談し、必要に応じて子どもの発達を診る専門機関を紹介してもらうとよいでしょう。
子どもの吃音は自然に治りますか?
幼児期に始まった吃音の多くは自然に回復するとされ、ある研究の集計では発症から3年で約63%、4年で約74%が回復すると報告されています。ただし続く場合もあり、発症から4年以上たつと自然回復の確率は下がるとされるため、気になるときは専門機関に相談するのが近道です。
吃音やチックのような動きは、親のしつけやストレスのせいですか?
吃音については、親の接し方や愛情不足を原因とする考えは、双子研究・脳研究・遺伝子研究の進展により否定されており、生まれ持った体質的な要因が大きいとされています。緊張やストレスのみで生じるものではなく、本人がわざとしているのでもありません。自分を責めるより、安心して話せる環境づくりに目を向けるほうが役立ちます。
まとめ
- 吃音症とチックは別の状態。吃音は連発・伸発・難発を中核症状とする発話の特性で、どちらも子ども期に現れる神経発達の特性という点は共通する。
- 吃音の「随伴運動」(まばたき・顔をしかめる等)はチックと似て見えるが、話そうと力むなかで起こるのが特徴。見た目が似るため判断は専門家へ。
- 吃音のある子は何らかの併存状態をもつことが多い(約6割)が、代表的な併存症の中心はLD・ADHD・ASDなどで、チックが前面に挙げられているわけではない。併発の頻度を示す明確なデータは手元にない。
- 相談先は、吃音なら言語聴覚士・ことばの教室。両方が気になるときは、まずかかりつけの小児科から専門機関へつなぐのが現実的。
