バイデンの吃音は治ったのか|本人の言葉・症状の波・公表の研究

目次

ニュースや記事でアメリカの大統領に吃音(きつおん)があったと知って、「本当なのだろうか」「もう治ったのだろうか」と気になった——そうやってこのページにたどり着いた方が多いと思います。同時に、自分や家族に吃音があって、「あそこまで人前で話せる人がいるのなら」と思った方もいるかもしれません。

この記事は、本人が公の場で語った記録に残っている範囲だけを確かめ、そこから先は研究の言葉に渡します。日本吃音・流暢性障害学会の解説で症状と経過を、米国吃音財団と英国の吃音支援団体STAMMAが公開する当事者の一覧で「名前が並ぶページ」の読み方を、テキサス大学オースティン校のグループがまとめた自己開示(自分から「吃音がある」と伝えること)の系統的レビューで、公表が周囲の見方をどう動かすのかを、それぞれ出典つきで整理します。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • バイデン氏が吃音のことを公にしていること自体は、英国の吃音支援団体STAMMAが公開する当事者の一覧に、本人の言葉つきで載っています。
  • 吃音は珍しいものではなく、人口のおよそ1%にみられ、社会的な階層による偏りもないとされています。
  • 思春期以降は、ことばを出せずに間があく症状が中心になり、言いにくい単語を言い換えて目立たなくする工夫も進みます。人前で流暢に話せている時間があることと、吃音が無くなったことは、同じではありません
  • 自分から「吃音があります」と伝えることの効果は研究されていて、30年ぶんの文献を集めたレビューでは、18件の研究のうち15件(83.3%)で全体として好意的な影響が報告されています。
  • 模擬の就職面接では、伝えなかったときだけ吃音のある候補者が低く評価され、冒頭でひと言伝えたときは吃音のない候補者との評価に差がありませんでした。

ただし、この記事で確かめられるのは、本人が公の場で語ったと記録に残っている範囲と、集団を対象にした研究が示す傾向までです。特定の一人の診断名・症状の程度・いまの状態を、記事の側から判定することはできませんし、研究の平均が、あなたやあなたの家族にそのまま当てはまるわけでもありません。

本人が語っているのは、どこまでか

人物の名前をきっかけに吃音を調べ始めたとき、最初に押さえておきたいのは「どこまでが本人の言葉で、どこからが周りの推測か」という線引きです。伝記や人物記事は、本人が語っていないことまで滑らかにつないでしまうことがあります。ここでは、本人の発言として鍵括弧付きで記録されているものだけを見ます。

ジョー・バイデン氏(第46代アメリカ大統領。CNNの取材への発言。ジャーナリスト横田増生氏の著書からの抜粋記事に引用されたもの)

バイデンはCNNの取材にこう答えている。

「学生になってどもりながら、どうやって女の子をダンスに誘うことができるんだい。周りには、バカにするヤツらがたくさんいるというのに。そうやって、私は闘うことを学んだ」

この抜粋記事が書いているのは、子ども時代に本人を苦しめたのが吃音だったこと、そしてそれが「吃音は頭の働きが劣ることの表れだ」と受け取られていた時代の話だ、ということです。からかう教師がいると母親が学校に乗り込み、「息子をバカにすると許さない」と抗議した、という場面も残っています。本人の言葉として引かれているのは、そのなかで学生生活をどう過ごしたか、という一節だけです。吃音そのものの成り立ちについては、本人の回想ではなく研究の側に聞くことになります。

出典: 潜入ジャーナリストが追った、バイデン大統領の「つらすぎる過去」とは(ダイヤモンド・オンライン)(台帳: V0532)

まず、吃音は珍しい状態ではありません。総説は、人口のおよそ1%が吃音のある状態にあり、米国でおよそ300万人、世界でおよそ5500万人と見積もられること、社会的な階層による偏りは無いことを述べています。同時に、多くの場合コミュニケーションが大きく損なわれ、社会経済的な影響が深刻になるとも書かれています。「ありふれているが、当人の生活には重い」——この両方が同時に成り立つのが、吃音という状態です。

症状の側も整理しておきます。学会の解説は、吃音に特徴的な中核症状として、音の繰り返し(連発。「か、か、からす」)、引き伸ばし(伸発。「かーーらす」)、ことばを出せずに間があいてしまう症状(難発。「・・・・からす」)の3つを挙げています。さらに、なんとか声を出そうとして顔や体に力が入り、手足を振り下ろすといった必要のない動きが出てしまうことがある、とも書かれています。

「もう治ったの?」——本人が言っているのは「今でも時折」

この人物について最も多く投げかけられるのが、「治ったのか、治っていないのか」という問いです。その答えを、周りの観察や推測ではなく、本人の発言として記録されているものから確かめます。

ジョー・バイデン氏(2020年2月のCNN主催の対話集会での発言。2024年のCNNの記事が時期と場を明記して紹介したもの)

バイデン氏は吃音を公に認めており、このことは同氏に深い影響を及ぼしてきた。

バイデン氏は2020年2月に行われたCNN主催の対話集会で、「今でも時折、本当に疲れたとき」には吃音が出ると説明。「知能指数(IQ)には何の関係もない。その人の知性とは何の関係もない」などと述べていた。

「今でも時折」——これが、本人の言葉として残っている答えです。無くなったとも、完全に元どおりだとも語られていません。もう一つ、本人がわざわざ言い添えているのが「知能とは関係がない」という一文です。長く公の場に立ってきた人が、症状の説明と同じ重さでこの否定を置いている。そのこと自体が、吃音のある人がどんな目で見られてきたかを映しています。実際、話し方の詰まりが中高生以降どう変わっていくのかについては、学会の解説が経過を整理しています。

出典: バイデン氏、発話に苦慮する場面 米大統領選討論会(CNN.co.jp)(台帳: V0533)

学会の解説によれば、思春期以降になると、吃音の症状は音の繰り返しや引き伸ばしよりも、最初の音が出しにくくなる症状(難発)が中心になります。難発が頻繁に出ると発話が難しくなり、会話に支障が出ます。さらに、話す場面での失敗体験が重なると、話し始める前に不安や恐怖を感じ、次第に会話や社交を避けるようになる、とも書かれています。

ここが「治ったのか」を考えるときに、いちばん誤解されやすいところです。学会の解説は、吃音を巧みに隠そうとして言いにくい単語を言い換えるなどの工夫をすることがあり、この場合、吃音は目立たなくなるが、実際は吃音が出ないかを日々警戒しながら生活をしている、と明記しています。目立たない状態は、無い状態と同じではないということです。

加えて、調子には波があります。学会の解説は、調子が良い状態、あるいは悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多く、この変動を「波」と呼ぶ、としています。「今でも時折」という本人の言い方は、この波のある状態を指す表現としては、ごく自然なものです。

一度きりの場面で、先にひと言伝えると何が変わるのか

「公表する」と言われると大ごとに聞こえますが、日々の暮らしでそれが立ち上がるのは、たいてい一度きりの短い場面です。面接、初対面の挨拶、電話の第一声。そこで先にひと言伝えると何が起きるのかを、まず当事者の記録から見ます。

教員採用試験の2次面接を受けた当事者の手記(自助団体の公募作品。氏名の記載は無く、現在は小学校5年生の担任と本文に記されている)

自分の名前が言えない。第一音がどうしても出ない。手を振っても、体でリズムをつけても、息を深く吸っても、何をしても駄目だった。

「もう落ちた!!!」と心の中で叫んだ。そして、3人の面接官が不思議そうに私を見つめた。「名前が言えないなんて、面接官にどう思われているのだろう…」「早く名前を言わなければ…。でも、声が出ない。もう、この場から逃げ出したい!」焦り、悔しさ、恥ずかしさでいっぱいになり、額から汗が流れ出てきた。と同時に「家であれほど自己紹介や自己ピーアールの練習をして、今日の面接に臨んだ。筆記試験も出来たし、せっかく2次面接まで進めたのだから後悔はしたくない」と思った。

そして、勇気を出して、「私はどもります。だから名前が言えませんでした」と正直に笑顔で面接官に伝えた。すると、面接官の1人が「そうですか。では、どもってでも結構ですので、ゆっくりお話下さい」と笑顔でおっしゃった。

面接室で最初に求められたのは、名前と自己PRでした。その名前の第一音が出ない。手を振る、体でリズムをつける、息を深く吸う——手記に並ぶのは、どれも本人がその場でやってみた動作です。時間が止まったような数秒のあと、書き手が選んだのは、隠し通すことでも黙り続けることでもなく、「私はどもります」と事実を先に置くことでした。同じ順番——評価される場面の冒頭で、短く、謝らずに伝える——を作って比べた実験があります。

出典: 吃音と教員採用試験の面接(伊藤伸二の吃音(どもり)相談室)(台帳: V0206)

その実験では、2人の俳優がそれぞれ3通りの模擬面接を演じ、吃音なし/吃音があるが伝えない/吃音があって伝える、という3条件の動画が作られました。伝える条件では、面接の冒頭で謝らない言い方の短いひと言——「吃音があることをお伝えしておきます(Just to let you know I have a stutter)」——が入れられています。参加者はこの動画を見て、「採用の決定権があれば内定を出したいか」「面接でどのくらい良い印象を残したか」を7段階で答えました。測っているのは採用の実績ではなく、見た人の印象です。

結果は二段構えでした。全体としては、吃音のある候補者のほうが低く評価されました。ところが、伝えたかどうかを分けて見ると、伝えなかったときは吃音のある候補者が有意に低く評価された一方、伝えたときは吃音のある候補者とない候補者の評価に差がありませんでした論文は、伝えるタイミングの早さも効くとみており、あらかじめ偏りの可能性を知らされると、相手は目の前の振る舞いをどう受け取るかを自分で調整できるのではないか、と論じています。すでに受け取り終えたあとで偏りを補正しようとしても効きにくい、という一般的な知見とつながる話です。

ただし、この実験には論文自身が認めている限界があります。参加者は58人の大学生だけで、一般の人々を代表していないこと、面接を受ける役と年齢が近いために評価が甘くなった可能性があること、そして演じたのが実際には吃音のない俳優なので、本物の吃音とは微妙に違っていたかもしれないことです。「言えば必ず同じ結果になる」と読める設計ではありません。面接で言うか言わないかをもう少し細かく考えたい方は、吃音面接のカミングアウトの記事に、言わないことを選んだ人の記録も含めてまとめてあります。

一度言って終わりではなく、言い続けるということ

人前で話す立場にいる人にとって、伝えるのは一度きりではありません。年度が替わり、相手が替わるたびに、また最初から始まります。その繰り返しを日課にしている人の記録があります。

小学校教師のハルキさん(メディアの取材記事。前半は記者による紹介文、鍵括弧の中が本人の発言)

吃音症と付き合う上で、ハルキさんには意識していることがある。例えば、新しい職場になった時には最初の挨拶で症状を打ち明ける。全校児童には着任式の時に、保護者には学級通信などで伝えているそう。

「勇気のある行動と言われますが、個人的には自分を守るためであるので、あまりプレッシャーになりません。日常生活でも、吃音症であることを初めに伝えています。すると、互いに理解がある状況になるので、心が軽い。吃音症をもっと知ってもらうためにも、他人に伝えることは大切なことだと思っています」

着任式で全校児童に、学級通信で保護者に、新しい職場では最初の挨拶で。取材記事に並ぶのは、相手が入れ替わるたびに繰り返される、同じひと言の場面です。本人がそれを「勇気のある行動」ではなく「自分を守るため」と言い直しているところに、この習慣の性質が出ています。卒業式の呼名のために放課後の暗い体育館でひとり練習を重ねた日々も、同じ記事に語られています。伝えることの効果そのものは、30年ぶんの研究を集めて調べられています。

出典: 放課後にひとり涙した日も 吃音症と向き合い「教師」として続ける“努力”(ほ・とせなNEWS)(台帳: V0316)

自分から「吃音がある」と相手に伝えること(研究では自己開示と呼ばれます)については、2023年10月より前に公表された文献を系統的に集めたレビューがあります。組み入れられた量的研究は18件で、そのうち15件(83.3%)で、自己開示は全体として好意的な影響を持っていたと報告されています。

もう一つ、言い方についての結果があります。伝え方を条件として比べた研究では、謝る形の開示や、開示しない場合よりも、謝らない形の開示のほうが好意的に受け止められていました(13件中12件・92.3%)。レビューはこの結果から、謝らない形で伝えることが、否定的な思い込みを向けられるかもしれないという負担(研究では「ステレオタイプ脅威」と呼びます)をやわらげる、と結論づけています。

ただし、分かっていないことのほうがまだ多いのも確かです。同じレビューは、性別による効果は研究によってまちまちで、どんな場面で伝えるか・話し手や聞き手の年齢・吃音の頻度や重さ・相手が吃音のある人を知っているかどうかについては、そもそも調べた研究が少ないと述べています。「こう言えば必ずこうなる」という細かい処方箋は、今のところ出ていません。

名前が並ぶ一覧を、どう読めばいいか

「吃音のある有名人」を調べると、当事者の一覧を公開しているページに行き当たります。出しているのは主に支援団体です。米国吃音財団(Stuttering Foundation)は、俳優・歌手・エンターテイナー、スポーツ選手、記者・写真家といった分野ごとに、氏名と一行の経歴を並べた一覧を公開しています。同じ財団の一覧には、政府の指導者や公職者、経営者、古代の人物を扱う区分もあります。

英国の吃音支援団体STAMMAも、歌手・俳優・政治家・歴史上の人物・作家などの区分で一覧を出しており、多くの項目に本人が吃音について語った言葉が引用されているのが特徴です。バイデン氏の項目もこの政治家の区分にあり、アメリカの吃音支援団体の催しで本人が吃音のある人に向けて語った言葉——恥じることは何もなく、誇るべき理由がある、吃音は夢の実現を阻む障害にはならない——が引かれています。

そして、この種の一覧を読むときにいちばん役に立つのが、STAMMAが自分たちの一覧に付けている但し書きです。ネット上では吃音があるとされていても、裏づけとなる一次情報が見つからない人物には、名前の横に疑問符が付けられていますさらに、ある人物について「父親の扱いが原因で吃音になった」と伝記に書かれていることに触れたうえで、その記述の裏づけは見つからないとし、親が吃音の原因になることはないと明記して打ち消しています。有名人の吃音の話は伝聞で膨らみやすく、原因の俗説がくっつきやすい。一覧を作っている側自身が、そこに線を引いているということです。

個々の名前については、記録がどこまで残っているかが人によって大きく違うので、このサイトでは記事を分けています。一覧そのものの読み方と、「あの人も吃音」と知ることが当事者にとって励みにもしんどさにもなることは吃音の有名人で、映画で知られる英国王についてはジョージ6世の吃音は実話かで、歴史上の人物として名前が挙がりながら団体によって判断が割れている例はチャーチルは吃音だったのかで扱っています。日本の政治家では田中角栄の吃音、音楽ではエド・シーランの吃音、競技の場面については吃音のスポーツ選手、作品として描かれたものは吃音映画にまとめてあります。

相談できる場所と、使える仕組み

ここまで読んで、「自分(あるいは家族)のことを相談してみようか」と思われた方のために、相談先を整理しておきます。学会の解説は、楽に話しやすくなるために周囲のコミュニケーション環境を整える方法や、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法などを、年齢や状態に合わせて指導するとしたうえで、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談しましょうと書いています。次のようなときは、様子を見るだけにせず、相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。

  • ことばが出ずに間があく状態が目立ち、話すこと自体を避け始めている
  • 学校や職場で、発表・音読・電話といった特定の場面が繰り返しつらくなっている
  • 話し方をからかわれた経験が重なって、気持ちの落ち込みが続いている

大人になってからの相談先としては、当事者どうしの集まりもあります。学会の解説は、日本にはさまざまな吃音の自助団体があり、「吃音があるのは自分だけではない」と認識し、共通の体験を語り合い、互いに援助し合うことが活動の中心だと説明しています。なかでも1965年に発足した「言友会」は日本で最も歴史が古く、定例会や全国大会を開いているほか、若者を対象とした団体や、女性の集いを開催する団体も設立されている、と紹介されています。

制度の側にも足場があります。2016年に施行された障害者差別解消法により、学校や職場での吃音に対する差別的な言動や扱いは禁止されています。また、発表や電話応対の免除、試験などでの面接時間の延長といった、その人に合わせた調整(合理的配慮)を求めることができます。ただしその際、医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合があります。

有名人の吃音の話を読むときの3つの落とし穴

落とし穴1 − 人前で話せている=もう無くなった、と読む

大勢の前で長く話す姿を見ると、「あの状態なら治ったのだろう」と受け取りたくなります。けれど本人が語っているのは「今でも時折」出るということでした。学会の解説も、言い換えなどの工夫で吃音は目立たなくなるが、実際は吃音が出ないかを日々警戒しながら生活している、と書いています。調子には数週間から数か月続く波もあります。見えている時間だけで、状態の全部を判定することはできません。

落とし穴2 − 一人の方法を、自分の答えとして持ち帰る

人物記事には、その人が自分で工夫したという方法がしばしば添えられます。ただ、それは一人の回想であって、効き目を確かめた結果ではありません。何がどのくらい効くのかは、年齢や状態ごとに別の物差しで調べられており、この記事で扱った自己開示の研究でも、どんな場面で・誰に・どの程度の吃音で効くのかは、まだ研究が少ないと明記されています。一人の物語を方法として受け取るより、専門家と一緒に自分の場面に合わせて考えるほうが近道です。

落とし穴3 − 「先に言えば必ずうまくいく」と思う

先に伝えることの効果は確かに報告されていますが、模擬面接の研究は、参加者が58人の大学生だけだったこと、演じたのが吃音のない俳優だったことを限界として自ら挙げています。レビューの側も、効果を左右しうる要因の多くは調べた研究が少ないとしています。伝えるかどうかは、相手・場面・その日の調子で変わってよい判断です。うまくいかなかった日があっても、それは伝え方が間違っていたという意味ではありません。

どの場面で詰まりやすいか、どんな日に調子の波が来るかは、あとから思い出そうとすると曖昧になります。気づいたことをその日のうちに書き留めておくと、相談のときに「いつ・どこで・どのくらい」を伝えやすくなります。まずは記録を残すことから小さく始め、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。

よくある質問

バイデン大統領は、自分に吃音があることを公にしているのですか?

はい。英国の吃音支援団体STAMMAが公開する当事者の一覧には政治家の区分があり、第46代アメリカ大統領として、吃音が自分の人生で果たしてきた役割についてオープンに語っていると紹介されています。同じ項目では、アメリカの吃音支援団体の催しで本人が吃音のある人に向けて「恥じることは何もなく、誇るべき理由がある」「吃音は夢の実現を阻む障害にはならない」と語ったことが引用されています。

吃音は治ったのですか?

この記事で確かめられるのは、本人が公の場で語ったと記録されている範囲までです。CNNが報じたところでは、本人は2020年2月のCNN主催の対話集会で、今でも時折、本当に疲れたときには吃音が出ると説明し、知能とは関係がないと述べています。一般論として学会の解説は、思春期以降はことばを出せずに間があく症状が中心になり、言い換えなどで目立たなくなっても、日々警戒しながら生活していることが多いとしています。調子には数週間から数か月続く波もあります。

吃音があると、人前で話す仕事には就けないのですか?

そう決まっているわけではありません。英国の吃音支援団体の一覧には、俳優・コメディアン・司会者・テレビの出演者など、話すことが中心の分野で活動している人の区分があります。米国吃音財団の一覧にも、俳優・歌手・エンターテイナーや記者といった区分があります。一方で、場面によって話しにくさが強く出ることはあり、学校や職場では発表や電話応対の免除といった調整を求めることができます。

面接や初対面で、自分から「吃音があります」と伝えたほうがいいのでしょうか?

研究の傾向としては、伝えたほうが好意的に受け止められやすいと報告されています。18件の研究をまとめたレビューでは15件(83.3%)で全体として好意的な影響があり、謝る形よりも謝らない形の開示のほうが好まれていました。模擬面接の実験でも、冒頭でひと言伝えた場合には吃音のない候補者との評価に差がありませんでした。ただし参加者が大学生だけだったなどの限界があり、どんな場面で効くかは研究が少ないので、必ずそうするべきだという話ではありません。

吃音のことは、どこに相談すればいいですか?

学会の解説は、年齢や状態に合わせた指導を行うところとして、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談するよう勧めています。大人では、1965年発足の「言友会」をはじめとする自助団体が定例会や全国大会を開いており、若者向け・女性向けの団体もあると紹介されています。学校や職場での調整が必要なときは、障害者差別解消法にもとづいて配慮を求めることができます。

まとめ

  • バイデン氏が吃音を公にしていることは、英国の吃音支援団体STAMMAの一覧に本人の言葉つきで載っている。本人の発言として記録されているのは、学生時代の過ごし方と、「今でも時折、本当に疲れたとき」に出るという説明までで、それ以上の状態はこの記事では判定しない。
  • 吃音は人口のおよそ1%にみられ、社会的な階層による偏りは無い。中核症状は音の繰り返し(連発)・引き伸ばし(伸発)・ことばが出ずに間があく症状(難発)の3つ。
  • 思春期以降は難発が中心になり、言い換えなどで目立たなくなっても日々警戒しながら生活していることが多い。調子には数週間〜数か月の波がある。「話せている時間がある」ことと「無くなった」ことは別。
  • 自分から伝えることの効果は研究されており、18件中15件(83.3%)で好意的な影響、謝らない形の開示が13件中12件(92.3%)で好まれた。模擬面接では、伝えなかったときだけ評価が下がった。
  • ただし模擬面接の参加者は58人の大学生で演者も吃音のない俳優、レビューも場面・年齢・重さ・相手の経験については研究が少ないとしている。相談先は言語聴覚士・ことばの教室・自助団体で、学校や職場では配慮を求めることができる。

参考文献

  1. STAMMA(英国の吃音支援団体)「Influential People who Stammer」
  2. Stuttering Foundation(米国吃音財団)「Famous People Who Stutter」
  3. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023年10月1日)
  4. Büchel & Sommer (2004) What Causes Stuttering? PLoS Biology.
  5. Perez, Newman, Walmer et al. (2025) Acknowledging a Stutter Affects the Impression One Makes in a Job Interview. Int J Lang Commun Disord.
  6. Coalson, Rodriguez, Albaum, Allen & Byrd (2026) Self-disclosure of stuttering: A systematic review. J Fluency Disord.(テキサス大学オースティン校 The Arthur M. Blank Center for Stuttering Education and Research ほか)

当事者の声の出典: V0532(ダイヤモンド・オンライン/ジャーナリスト横田増生氏の著書『「トランプ信者」潜入一年』からの抜粋記事。CNN取材でのバイデン氏の発言を引用)/ V0533(CNN.co.jp。2020年2月のCNN主催の対話集会でのバイデン氏の発言を引用)/ V0206(日本吃音臨床研究会のブログに掲載された当事者の手記「どもってもいいよ」。初出はNPO法人大阪スタタリングプロジェクト「ことば文学賞」応募作)/ V0316(ほ・とせなNEWS・小学校教師ハルキさんへの取材記事)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開