吃音と発達障害の関係|併存率・支援法・手帳を3点で整理

吃音と発達障害の関係|併存率・支援法・手帳を3点で整理
目次

「吃音って、発達障害なの?」——検索してみると、「含まれる」と書く記事と「別物」と書く記事が並んでいて、どちらを信じればいいのか分からなくなりますよね。併存率の数字も、記事によって「1〜2割」だったり「約6割」だったりします。

この記事は、まず結論を置いてから、制度の入り口に立った5人の言葉と、研究や公的資料が何を言えているのかを並べていきます。分類を支援の入り口として使った人だけでなく、分類そのものに違和感を持つ人、手帳の対象ではないと言われた人の言葉も載せました。食い違って見える数字は、「誰を対象に、何を数えたか」とセットで図にしています。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。手帳や制度の適用は個別の判断になります。気になる症状があるときは、話すこと・聞くことの専門職である言語聴覚士や、ことばの教室、お住まいの自治体の窓口にご相談ください。

まず結論から

  • 子どものころに始まる発達性吃音は、日本の制度上は発達障害者支援法の対象に含まれます。そのため精神障害者保健福祉手帳が交付の対象になります。
  • 医学の側も同じ向きです。日本の法律でいう「発達障害」とほぼ同じものを、医学の診断分類では「神経発達症」と呼びます。その分類に沿った研究で、吃音はことばのやりとりに関する区分(コミュニケーション症)の一つとして扱われています。
  • ただし「発達障害に含まれる」ことは「吃音=自閉スペクトラム症や注意欠如多動症」という意味ではありません神経発達症には自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠如多動症(ADHD)・知的障害・学習障害などが含まれ、吃音はその中の別の区分にあたります。そのうえで互いに併存することがあります。
  • 併存率が、記事でよく見かける「1〜2割」と、研究が報告する「約6割」で食い違うのは、何を併存として数えたかの違いです。約6割の研究は、体の慢性疾患まで含めて数えています。
  • 手帳の申請は「すべきもの」ではありません。診断書だけでは解決しない困りごとがあり、手帳があれば役に立ちそうだというときに、本人が自分の判断で申請すればよいと案内されています。

ただし、手帳が交付されるかどうかは個別の判断です。意見書には、吃音のせいでできなくなっていることがあり、そこで周囲の手を借りる必要がある、と書ける材料がいります。逆に、筆談などで代わりをきかせることも、誰かに助けてもらうこともなく、自分の話し方のままで暮らしも仕事も回せている場合は交付の対象から外れる、という運用も解説されています。この記事の内容は制度の一般的な説明であって、個々の申請の可否を判定できるものではありません。

分類は、支援の入り口になることがある

「発達障害に含まれるかどうか」は、言葉の定義の話にとどまりません。子どもの場合、その分類は小学校に上がるときの支援の選び方に、そのままつながってきます。

当事者の子の母(4歳で吃音が始まり、同じ4歳で自閉スペクトラム症の診断もついた息子。自助団体のメディアに寄せた体験談)

そのため、就学前相談を受けることに。息子はASDもあるので、情緒通級も対象です。

しかし、集団生活に困り感がなく、吃音への支援の重要性を強く感じていた私は、言語通級を強く希望しました。幸い希望が通り、小学校入学から言語通級に通っています。

同じ記事の前半には、そこまでの経路も書かれています。息子はもともと発語が遅く、自治体の発達相談を受けていた流れで療育センターを利用しており、同じ4歳で自閉スペクトラム症の診断もついていたため、言語聴覚士にスムーズにつなげることができた——そう母親は記しています。年長になるころには「息子は吃音と一生付き合うことになるだろう」と思うようになった、とも書いています。分類がついたことが、支援の窓口を開けた一方で、選んだのは対人面ではなく、ことばのほうの支援でした。この「同じグループの中の、別の区分」という感覚は、このあと見る分類の整理とも重なります。

出典: 【子育て我が家流】吃音の子供が話し好きに!理解ある環境の大切さ(日本吃音協会 HAPPY FOX)(台帳: V0122)

制度と医学の両方から、位置づけを確認しておきます。日本の法律で「発達障害」は、発達障害者支援法により「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。並んでいる名前に「吃音」はありませんが、子どものころに始まる吃音(発達性吃音)はこの法律の対象に位置づけられていて、これを根拠に精神障害者保健福祉手帳が交付の対象になります。

吃音が制度上と医学上のどこに位置づけられるかを2つの枠で示した図。制度上の発達障害者支援法では、法律の定義に自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、これに類する脳機能の障害が並んでいる。「吃音」の語は条文に並んでいないが、小児期からの吃音(発達性吃音)はこの法律の対象に位置づけられている。医学上の神経発達症群には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、知的障害、学習障害、発達性協調運動症、チック症ほかが含まれ、吃音はこの中の「コミュニケーション症」という別の区分に属する。「発達障害に含まれる」は「吃音=ASD や ADHD」という意味ではなく、別の区分であり、そのうえで互いに併存することがある
図1: 吃音は「発達障害」のどこに入るか。出典: 日本小児神経学会「Q94:神経発達症にはどのような疾患が含まれますか?」 / 発達性吃音の研究プロジェクト Q&A / Francés et al. (2023) Front Psychiatry.

医学の側の呼び方も見ておきます。日本小児神経学会は、法律上の「発達障害」を、アメリカ精神医学会の診断分類(DSM-5)でいう「神経発達症」とほぼ同じものとして解説しています。そこに含まれるのは、自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠如多動症(ADHD)・知的障害・学習障害のほか、体の動かし方がぎこちない発達性協調運動症やチック症などです。この分類の中で、吃音は ASD や ADHD とは別の、ことばのやりとりに関する区分に属します。その診断分類の最新版(DSM-5-TR)に沿って、地域の6歳児から偏りなく選んだ289人を調べたヨーロッパの研究では、ことばの育ちの遅れ(言語症)・音の出し方のつまずき(語音症)と並ぶ、ことばのやりとりに関する区分(コミュニケーション症)の一つとして吃音が扱われています。アメリカの全国調査でも、吃音は ADHD・ASD・学習障害などと並ぶ発達障害の一つとして数えられています。

「発達障害に含まれる」がピンとこない、という声もある

制度上の位置づけは、当事者に一様に歓迎されているわけではありません。分類そのものへの違和感を、当事者の言葉で読んでおきます。

当事者本人(34歳・会社員/自助団体がまとめた投稿集。吃音を発達障害に分類することへの否定的な立場から編まれた9名の投稿のうち1本)

言語障害というのはなんとなくわかる。しかし発達障害に含まれるというのはピンとこない。

同じ投稿の冒頭には、吃音が外から見てもわかる障害ならどれだけ楽に生きられるだろう、と中学生の頃によく考えていた、という一節が置かれています。外から見てわかる障害だったら、という願いと、分類されることへの抵抗が、同じ人の中に並んでいる文章です。なお、この投稿集は分類や手帳に否定的な立場を示す目的で編まれたもので、9名の意見は同じ方向を向いています。当事者全体の受け止めを代表する調査ではありません。分類が何を意味しているのかは、次の段落で確認します。

出典: 私はこう生きる―吃音と発達障害、私の考え(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0166)

「発達障害に含まれる」が意味しているのは、あくまで同じ大きなグループに入る、ということです。そのグループの中で吃音は、ASD や ADHD とは別の区分として扱われています。手帳の名前のほうでは、逆にひとくくりになります。うつ病のような精神疾患を理由とする場合も、自閉症や吃音のような発達障害を理由とする場合も、受け取る手帳の名前はどちらも精神障害者保健福祉手帳だからです。ただし、根拠になる法律は別で、担当する医師の専門も違うのが普通だと解説されています。名前が同じでも中身は分かれている、ということです。

そして、別の区分であることには実害の側面もあります。ある状態の影に別の状態が隠れてしまうことは diagnostic overshadowing(診断の上書き・見落とし)と呼ばれます。専門機関の解説は、ASD が併存している場合について、本人の側はセルフモニタリングの弱さやこだわりといった特性から困難の原因を吃音に焦点化しやすく、周囲も、質問と返答がずれる・表情が硬い・視線が合わないといった様子まで吃音で説明してしまうため、吃音はこれを起こしやすい診断だと述べています。

国立障害者リハビリテーションセンターの成人吃音外来の調査では、初診患者195人のうち52.3%(102人)に精神疾患の併存があり、最も多い診断は ASD で26.4%(52人)でした。注目したいのはその内訳です。ASD が併存していた52人のうち、それまでに ASD と診断されていた人はわずか2人でした大人になってから、吃音の相談をきっかけに初めて併存が評価される例が少なくないことを示すデータです。併存に気づく意味は「レッテルを増やす」ことではなく、生きづらさの要因が吃音だけでないと分かれば、それに合った対応を選べるようになる、という点にあります。

手帳は、申請すれば取れるとは限らない

制度上の位置づけがあるということは、手帳という選択肢があるということです。ただし「対象に含まれる」ことと「交付される」ことは、同じではありません。

保護者(父。本人も吃音当事者/個人ブログ。高校生の長女の初診に同席。結果は妻から伝え聞いたもので、かぎ括弧の中は医師の言葉として書き留められている)

「結論から言うと手帳対象ではない」が、「将来困って取得したい時にはまた受診してください。3級ならもしかすると」との事。全て口頭だったようですが「発達障害ではない」と。

この父親は長女の初診に同席しています。率直に尋ねたのは精神障害者保健福祉手帳が取得できないか、社交不安障害ではないか、という2点でした。2回目からは数時間の検査があり、その結果は初診と同じ月のうちに伝えられました。受診の予約から初診までも半年待ちでした。記事はこのあと、ホッとしたような、残念なような、と続き、少なくとも進学と受験に関しては手帳のサポート無しで頑張らないといけない、と書かれています。この家族は申請そのものには進んでいません。申請の前段で、医師が「対象ではない」と判断した例です。医師は口頭で「発達障害ではない」とも述べたと書かれており、制度の側の位置づけ(発達性吃音は発達障害者支援法の対象)と、目の前の医師の判断が食い違うことがある、ということでもあります。実際、交付の要件は限定的に運用されています。

出典: 吃音持ちの長女が「(現状だと)精神障害者保健福祉手帳無理」と病院から言われた話(吃音〈どもり〉ネタを貼ってくブログ)(台帳: V0101)

申請の流れと条件を整理しておきます。吃音を理由に申請できる手帳は2種類あり、身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳です。このうち身体障害者手帳のほうは、話しことばの症状がよほど重く、治療しても良くなる見込みがないと判断されたときに限って交付されます。もともと脳卒中のあとの失語症を主な想定として作られた仕組みなので、吃音でここに当てはまる人はごく少数だと説明されています。一方、子どものころに始まった吃音なら診断名は発達性吃音となり、発達障害者支援法を根拠に精神障害者保健福祉手帳が交付の対象になります。

吃音で精神障害者保健福祉手帳を申請する流れと制約を示した図。1、医療機関にかかる。発達性吃音の診断は通常は耳鼻咽喉科で、言語聴覚士がいて吃音の検査をしている病院が必要なことも。2、医師に意見書を書いてもらう。吃音検査の結果と、吃音のためにできないことがあって他人の助けが必要であることを説明する。3、市区町村の福祉課の窓口へ申請する。自治体によって指定の書式があるので窓口で確認する。時間の制約として、初診日から半年以上経たないと意見書は書いてもらえず、有効期限は2年。交付されない場合として、代替手段や他人の助けなしに生活も仕事も対応できている場合は対象にならない。申請は「すべきもの」ではなく、診断書だけでは問題が解消できず手帳が役立つと思われる場合に本人の考えで
図2: 精神障害者保健福祉手帳について、申請の流れと時間や条件の制約。出典: 発達性吃音の研究プロジェクト「Q&A(障害者手帳・発達障害者支援法)」

時間の面にも条件があります。まず精神障害者保健福祉手帳では、初診日から半年が過ぎるまで医師は意見書を書けず、その期間は治療で良くなるかどうかを見る時間にあてられます。手帳の有効期限は2年です。意見書には吃音検査の結果を添え、そのうえで吃音のせいでできないことがあり周囲の助けが要る、と説明する必要があるとされています。逆に、代わりの手段などで暮らしも仕事も回せている場合は交付の対象から外れる、という運用も解説されています。なお、話しことばの症状よりも吃音による心の負担のほうが重いときは、精神科にかかって精神科の病名で申請する道もあるとされています。

大切なのは、手帳の申請は「すべきもの」ではない、という点です。専門機関の解説も、診断書だけでは解決しない困りごとがあって手帳が役に立ちそうだというときに、本人の考えで申請すればよい、という書き方をしています。

取れた人には、どれくらいの時間がかかったのか

では、実際に交付まで進んだ人は、どんな道のりをたどったのでしょうか。日付まで書き残した記録があります。

当事者本人(77歳/自助団体・愛媛言友会のサイトに寄せた手記。同じページに3名の原稿が並ぶうちの1本)

診断書が書けるのは初診日から半年後で、2023年の4月21日からで2023年の4月26日に対面で診察を受けました。2023年の5月2日に新居浜市役所へ交付申請に行き、診断書3部提出しました。2023年の7月27日に障害者手帳3級を受領しました。

初診は前年の10月21日でした。半年待って診察を受け、市役所に申請し、手元に届いたのはそこから約3か月後。交付日から数えた有効期限は2年で、この人はその後、オンライン診療で更新の手続きを踏んでいます。同じ手記の後半には、取得後に変わったことも並びます——鉄道運賃の割引、県立美術館の入場が無料になったこと、国民健康保険の負担割合が2割から1割になったこと、年末調整の障害者の記入欄によって住民税が安くなったこと。制度の効き目は、就労だけでなく日々の支出にも及んでいます。ただし割引の中身は自治体や事業者ごとに違います。

出典: 吃音当事者からのメッセージ(愛媛言友会)(台帳: V0223)

制度の側の裏づけも確認しておきます。手帳を持っていると、障害者雇用促進法にもとづいて、障害のある人向けの採用の枠(障害者枠)で働く道が開き、雇う側には、その人の事情に合わせて働き方を調整する義務(合理的配慮)が生じるとされています。就職の選択肢という実利の面が広がるわけです。医療機関を受診して医師から意見書を書いてもらい、市区町村の福祉課などへ申請する、という手順そのものは共通ですが、書式を自治体ごとに指定していることがあるため、窓口で確認するのが確実です。

障害者雇用には、入ってからの話がある

手帳を取ると障害者枠が選べるようになる——ここで話が終わる記事は多いのですが、当事者の記録は、その先から始まることがあります。

当事者本人(33歳・男性/個人ブログ note。注意欠如多動症〔ADHD〕・うつ病・吃音があると自ら書いている)

七年間、障害者雇用で単純作業をしていた。33歳、男性。手取りは300万円にも満たなかった。これから相手を見つけるのにある程度の年収を得る必要があると感じると焦りを感じていた。

様々なハンディキャップを抱えた私が、長いこと障害者雇用で単純作業をする日々に危機感を覚え、新たな就職先として「タクシードライバー」の道を選んだ。

この人が次に選んだのは、障害者雇用ではない一般の雇用でした。理由として挙げているのは、お客様を乗せて送迎するという、やることが一つに決まっている仕事のほうが、いくつもの作業を同時並行で進める職種より自分に向いていると感じたこと。副業でやっていた配達の働き方が合っていたこと。記事の後半では、接客中や上司との会話で吃音が出ること、とくに「ありがとうございました」がうまく言えないことも書かれています。障害者雇用は、働き方の答えではなく選択肢の一つだった、という記録です。制度の側の説明も、手帳を持てば障害者枠で就職する道が開き、雇う側に配慮の義務が生じる、というところまでです。どの枠で働き続けるかは、その先の選択になります。

出典: ADHD×うつ病×吃音持ちの私がタクシードライバーになる。障害者雇用から一般雇用の世界へ(note)(台帳: V0104)

併存があるときに何が助けになるのかについて、専門機関の解説はこう書いています。併存に気づく意味は診断名を増やすことではなく、生きづらさの要因が吃音だけでなく併存の特性にもあると分かれば、それに合った対応を選べるようになることだ、と。子どものデータでも、併存のある吃音児は、先のことを考えて行動を組み立てたり気持ちをコントロールしたりする働き(実行機能と呼ばれます)の弱さが最も大きく、困りごとが重なりやすいことが示されています。

併存率のデータ — 「1〜2割」と「約6割」はなぜ違う?

吃音について検索すると、「他の発達障害との併存は1〜2割」と書く記事をよく見かけます。一方で、アメリカの全国調査データを用いて吃音のある子ども2,258人を調べた研究では、約6割(60.32%)が吃音以外に少なくとも1つの併存する状態を持っていたと報告されています。どちらかが間違いというより、この差は主に「何を併存として数えるか」の違いから生まれています。

吃音の併存率の数字が調査によって食い違う理由を、対象と数えたものとセットで並べた図。1つ目は60.32%が1つ以上の併存あり。対象は米国の全国調査の吃音のある子ども2,258人で、数えたものはADHD・自閉症などの発達障害に加えて、ぜんそく・糖尿病・心臓の病気などの慢性疾患も含む。2つ目は52.3%に精神疾患の併存。対象は国内の成人吃音外来の初診患者195人で、数えたものは精神疾患のみ。最も多い診断はASDで26.4%(52人)、うちASDと診断済みだったのは2人。3つ目は40〜50%に、人と接する場面で強い不安が出る状態(社交不安障害)。対象は吃音のある人だが、これは出典が紹介する別の報告の値で人数の記載はなく、数えたものは社交不安障害という1つの診断に絞った値。3つは対象も数えたものも違うので、大小を比べる図ではない
図3: 併存の数字は「誰を対象に、何を数えたか」とセットで読む。出典: Choo et al. (2020) BMC Psychol.(1行目)/ 国立障害者リハビリテーションセンター 病院リハニュース No.370(2行目。3行目の40〜50%は同報告が紹介する別報告の値で、人数の記載なし)。

約6割と報告した研究の「併存する状態」には、ADHD や自閉症だけでなく、ぜんそく・糖尿病・心臓の病気などの慢性的な体の病気も含まれます。実際、この研究で吃音のある子どもに多かった併存は ADHD・ぜんそく・自閉症でした。つまり、発達障害同士の併存に絞るか、体の病気まで広く数えるかで、数字は大きく変わります。併存率を見るときは「その数字は何をカウントしたものか」をセットで確認するのが、いちばんの読み方のコツです。

同じ研究からは、吃音のある子ども全体の割合はおよそ1.9%で男女比は約2.5対1、併存のある子どもでは吃音の割合がより高く、男の子のほうが併存を持ちやすいことも報告されています。さらに近年は、電子カルテの大規模データから吃音1,143例を特定し、併存しやすい状態を洗い出した研究もあります。そこでは難聴・睡眠障害・アレルギー体質・神経学的な所見など、発達障害の枠を超えた幅広い関連が見つかっています。「吃音は単独で存在するとは限らない」——これが近年のデータが描く実像です。

ADHD だけを取り出して数えると — 診断されていない子のほうが多い

併存のなかでも、いちばん多く並べられるのが ADHD です。ここだけを取り出して、診断ではなく症状の水準まで測った調査があります。

5歳から18歳の吃音のある子ども204人(平均9.9歳)と保護者が参加し、保護者が不注意と多動・衝動性の症状を測る評価尺度に回答しました。結果、ADHD と診断されていたのは17.2%でした。ここまでは、よく見る数字と大きく変わりません。

驚くのは次です。ADHD の診断が無い子どものうち、「さらに評価すべき」基準を満たす得点だったのは、5〜10歳で40%超(107人中43人)、11〜18歳で19%(63人中12人)でした。年齢帯で開きがありますが、診断がついていた35人(17.2%)に対して、診断は無いのに得点が高かった子は43人と12人。ついていないが症状の水準が高い子のほうが多い、ということになります。

吃音のある子ども204人(5〜18歳・平均9.9歳)について、ADHDの診断と症状の得点を分けて数えた図。ADHDと診断されていたのは17.2%で、204人中35人。これは保護者の報告による値。ADHDの診断が無い子のうち、保護者が回答した評価尺度の得点が「さらに評価が必要」の基準(80パーセンタイル以上)に達していたのは、5〜10歳で40.2%(107人中43人)、11〜18歳で19.0%(63人中12人)。年齢帯ごとに、その帯の人数を母数として数えた値で、17.2%とは母数が違う。この得点は診断ではなく「さらに詳しく調べたほうがよい」水準という意味
図4: 「診断17.2%」の外側にいる子ども。出典: Walsh, Tichenor & Gerwin (2025) J Speech Lang Hear Res.

もうひとつ、この記事の落とし穴に直結する結果があります。ADHD の症状の得点と吃音の重症度のあいだに、偶然では説明しにくいと言えるだけの関係(統計的に有意な関係)は見つかりませんでした一方で、子どもの年齢と不注意の得点は、吃音が生活に及ぼす悪影響をわずかながら有意に予測しました。つまり「吃音が重いから落ち着きがない」も「落ち着きがないから吃音が重い」も、この研究では見つからなかったということです。関係が無いことが確かめられた、という意味ではありません。なお、保護者がつけた重症度そのものは ADHD の診断がある子のほうが有意に高く(ただし差は小さいと報告されています)、年齢まで含めて調べ直すと、重症度を予測したのは年齢だけでした。

著者らは、診断が付いていない吃音のある子の多くにも症状が高く出ていることを研究者と臨床家は認識すべきで、これらの症状は研究の結果と吃音の支援の両方を複雑にしうる、と述べています。診断の有無で線を引かない、という読み方になります。

「実行機能が弱い」は、どこまで言えるのか

併存の話をしていると、必ず出てくるのが「吃音のある人は実行機能が弱いのではないか」という見方です。先ほど触れたとおり、先のことを考えて行動を組み立てたり気持ちをコントロールしたりする働きのことです。複数の研究の結果をまとめて調べる方法(メタ分析)で、2026年にこれを大人について検証した論文があります。

39本の研究を統合した結果は、領域によってはっきり分かれました

  • 聞いたことを一時的に覚えておいて使う力(作動記憶):吃音のある大人のほうが正確さが低く、この差は有意でした。なかでも、意味を持たない音の並びを聞いて言い返す課題(非語復唱)で差がいちばん大きくなっています。
  • 余計な反応を抑える力(抑制)有意な差は見られませんでした
  • やり方を切り替える力(認知の柔軟性)まとまった解析ができるだけの研究が出ていません差が無いことが確かめられたのではなく、確かめられていない、ということです。

そして著者らが強調しているのが、差の大きさです。差が出た作動記憶について、2つの群の差は集団内のばらつきの幅(標準偏差)ひとつ分の中に収まっており、平均としては、臨床的な差ではなく相対的な差だとしています。「実行機能に障害がある」という言い方は、この研究の結果からは出てきません。

この記事にとっていちばん重要なのは、著者ら自身が挙げた限界のほうです。39本のうち言語の力を測っていた研究は17本(半数未満)にとどまり、ADHD を見分ける手続きを踏んだ研究はさらに少ないと明記されています。吃音と ADHD が重なりうることが知られているにもかかわらず、です。

つまり、「吃音のある人は実行機能に差がある」とされてきた研究の多くは、その差が吃音由来なのか、併存する ADHD 由来なのかを切り分けていないということになります。ひとつ前の節で見たとおり、診断が付いていない子にも症状が高く出ていることを考えると、この切り分けの不在は小さくありません。

なお、このメタ分析は集団の傾向であって個人差を表すものではなく、吃音のあるすべての人に当てはめる処方箋のように読んではならない、と著者らが明記しています。

前提の整理と、どこに相談すればいいか

ここまで発達障害との関係に絞って書いてきたので、吃音そのものも短く整理しておきます。吃音の主な症状は、音を繰り返す連発(「ぼぼぼぼくは」)、引き伸ばす伸発(「ぼーーーーくは」)、言葉がなかなか出ない難発(「・・・・ぼくは」)の3つです。2歳から4歳の間に人口のおよそ8〜11%に発症し、発症後3年で男の子はおよそ6割、女の子はおよそ8割が自然に回復すると報告されています。吃音の定義や原因(体質・発達・環境の重なり)については、別記事「吃音とは?原因は親のせいではない」で扱っています。

相談先です。吃音そのものの評価や訓練は、話すこと・聞くことの専門職である言語聴覚士のいる医療機関や、ことばの教室が中心になります。発達性吃音の診断は通常なら耳鼻咽喉科が担当します。ただし、言語聴覚士がいて、吃音の検査を行っている病院でなければ診断まで進めないこともあり、リハビリテーション科などが対応する病院もあります。

手帳や制度の相談は、お住まいの市区町村の福祉課の窓口が入り口です。書式は自治体ごとに指定されていることがあるので、窓口で確認するのが確実です。また、困りごとが吃音だけでなく複数にまたがっていると感じるときは、専門機関でまとめて評価してもらう価値があります。診断の影に別の特性が隠れることがある以上、「話し方の問題」だけを持ち込まないほうが、結果的に近道になることがあります。

吃音と発達障害をめぐる3つの落とし穴

落とし穴1 − 「発達障害に含まれる」を「ASD や ADHD と同じ」と読む

神経発達症には ASD・ADHD・知的障害・学習障害などが含まれますが、吃音はその中の、ことばのやりとりに関する別の区分です。同じグループに入ることと、同じ状態であることは違います。そのうえで併存はあり得る、という順序で読むのが正確です。

落とし穴2 − 併存率の数字を、そのまま比べてしまう

記事でよく見かける「1〜2割」と、研究が報告する「約6割」は、そのまま大小を比べられる数字ではありません。約6割の研究は体の慢性疾患まで含めており、国内の成人外来の52.3%は精神疾患に絞った値です。対象も違えば数え方も違う数字を並べて大小を論じても、意味は出てきません。

落とし穴3 − 困りごとを全部「吃音のせい」にしてしまう

ASD が併存している場合、本人も周囲も、困難の原因を吃音に焦点化しやすいことが指摘されています。しかし成人吃音外来の調査では、ASD が併存していた52人のうち、それまでに診断されていたのは2人でした。困りごとが多面的なときほど、吃音単独と決めつけずに専門機関でまとめて評価してもらう価値があります。困っている場面を書き留めておくと、相談のときに伝えやすくなります。言語聴覚士や自治体の窓口に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

吃音は発達障害に含まれますか?

制度上も医学上も含まれます。子どものころに始まる吃音(発達性吃音)は発達障害者支援法の対象に位置づけられ、これを根拠に精神障害者保健福祉手帳が交付の対象になります。医学の診断分類でも、吃音は神経発達症のうち、ことばのやりとりに関する区分の一つとして扱われています。

「発達障害」と言われましたが、ASD や ADHD ということですか?

いいえ。吃音は ASD や ADHD とは別の区分です。日本小児神経学会も、神経発達症には ASD・ADHD・知的障害・学習障害などが含まれると解説しており、吃音はその中の、ことばのやりとりに関する区分にあたります。そのうえで、互いに併存することはあります。

吃音に他の障害が併存する割合はどのくらいですか?

数え方によって変わります。米国の全国調査データで吃音のある子ども2,258人を調べた研究では60.32%が1つ以上の併存を持っていましたが、これはぜんそくなど体の慢性疾患も含めた値です。国内の成人吃音外来の調査(初診195人)では、精神疾患の併存が52.3%で、最多の診断は ASD の26.4%でした。

吃音で障害者手帳は取れますか?

子どものころに始まった吃音であれば、発達障害者支援法を根拠に精神障害者保健福祉手帳が交付の対象になります。医療機関を受診して医師から意見書を書いてもらい、市区町村の福祉課などへ申請します。初診日から半年が過ぎるまで意見書は書いてもらえず、有効期限は2年です。ただし、代わりの手段や周囲の助けを借りずに暮らしも仕事も回せている場合は交付の対象にならないとされており、対象に含まれることと個々の申請が通ることは別です。

手帳を取ると、何ができるようになりますか?

障害者雇用促進法にもとづいて、障害のある人向けの採用の枠で就職する道が開き、雇う側には、その人の事情に合わせて働き方を調整する義務が生じるとされています。ただし申請は「すべきもの」ではなく、診断書だけでは解決しない困りごとがあって手帳が役に立ちそうだというときに、本人の考えで申請すればよいと案内されています。

まとめ

  • 発達性吃音は発達障害者支援法の対象で、その法律を根拠に精神障害者保健福祉手帳が交付の対象になります。医学の診断分類でも神経発達症の一員です。
  • ただし神経発達症の中では、ASD・ADHD とは別の、ことばのやりとりに関する区分です。同じグループに入ることと同じ状態であることは違います。
  • 併存率が食い違うのは数えたものが違うから。約6割の研究は体の慢性疾患まで含めています。国内の成人外来では精神疾患の併存が52.3%でした。
  • 吃音の影に別の特性が隠れることがあります。ASD が併存していた52人のうち、それまでに診断されていたのは2人でした。
  • 手帳は「すべきもの」ではなく、診断書だけでは問題が解消できないときに、本人の考えで申請するものとされています。対象に含まれることと、個々の申請が通ることは別です。

参考文献

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  2. 国立障害者リハビリテーションセンター 病院リハニュース No.370〔特集〕「吃音がある自閉スペクトラム症の人への対応」
  3. 日本小児神経学会「Q94:神経発達症にはどのような疾患が含まれますか?」
  4. 発達性吃音の研究プロジェクト「Q&A(障害者手帳・発達障害者支援法)」(kitsuon-kenkyu.umin.jp)
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  7. Francés et al. (2023) Prevalence, comorbidities, and profiles of neurodevelopmental disorders according to the DSM-5-TR in children aged 6 years old in a European region. Front Psychiatry.
  8. Pruett et al. (2021) Identifying developmental stuttering and associated comorbidities in electronic health records and creating a phenome risk classifier. J Fluency Disord.
  9. Walsh, Tichenor & Gerwin (2025) The Significance of a Higher Prevalence of ADHD and ADHD Symptoms in Children Who Stutter. J Speech Lang Hear Res.
  10. Ofoe, Ntourou, Clifton & Coalson (2026) A Meta-Analytical Review of Executive Function Skills in Adults Who Stutter. J Speech Lang Hear Res.

当事者の声の出典: V0122(NPO法人日本吃音協会 HAPPY FOX・母の手記)/ V0166(日本吃音臨床研究会「スタタリング・ナウ」の投稿集・当事者9名のうち1名)/ V0101(個人ブログ・保護者〔父〕)/ V0223(愛媛言友会「吃音当事者からのメッセージ」・3名のうち1名)/ V0104(note・当事者本人)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-07-21 公開/2026-08-23 骨格v2へ全面リライト(結論を結論ブロックの形に整理/網羅型H2×13を[小主題→声→データ]の反復4ブロック+データ節2つに再構成/当事者の声を3本から4本に増やし、いずれも逐語引用を長くとり直し/位置づけ・併存の数字・手帳申請の流れを出典連動の図3枚に/relatedInline のリンク名を現行タイトルに同期)/2026-08-23 検証を受けて出典の帰属を是正(小児神経学会の資料とヨーロッパの研究の担当を4箇所で書き分け/diagnostic overshadowing の機序を原典の射程に戻した/ヨーロッパの研究の対象を「6歳児全体」から「6歳児289人(代表標本)」に/図2枚の吊り出典を訂正/図3の3行目が紹介値であることを図・alt・図注に明示)/2026-08-24 カード目録から未使用の原典2件を採掘して追加(吃音のある子204人のADHD調査で診断17.2%・診断が無い子の40%超が要評価水準・症状と吃音の重症度は無関係であることをデータ節に/実行機能のメタ分析39本で作動記憶には差があり抑制には無いこと、39本中ADHDを見分けた研究がごく少数であることをデータ節に)/2026-08-27 骨格v2へ全面リライト(声の入れ替え・出典の追加と訂正・専門語の平易化・図スロットの設置)

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