まず結論から
- 学校で困る場面は、かなり具体的に挙げられています。日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式などです。「配慮」を場面の名前まで下ろすと、頼みごとにできます。
- 吃音は発話場面でしか症状が出ないため、悩みが過小評価されやすいとされています。相談を受けた人がつい「気にならないですね」と言ってしまうことも指摘されています。
- 学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受けるリスクがそのたびに生まれます。担任・保護者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」とオープンに聞くことが、早期発見と予防につながるとされています。
- 学会が相談先として名前を挙げているのは、小児を扱う言語聴覚士とことばの教室の教員です。通い方には幅があり、通常の授業を抜けて通う形のほか、放課後に別の学校へ通った家庭の記録もあります。
- 2024年に改正障害者差別解消法が施行され、国公立だけでなく私立の学校も合理的配慮の提供が義務化されました。高校入試や大学入試の面接でも、事前に伝えることで配慮を受けられるとされています。
ただし、何が助けになるかは一人ひとり違います。免除してもらうことが本人の望みとは限らず、「待ってほしい」「一緒に読んでほしい」というほうが合う場合もあります。配慮は双方の建設的な対話の上に組み立てるものとされており、本人に確かめずに大人だけで決めないことが出発点になります。
困る場面は、決まっている
まず、学校生活のどこで詰まるのか。当事者が挙げているものは、公的資料が挙げているものとほとんど重なります。
難発性の吃音がある当事者(学生時代に不登校を経験し、現在は看護師。個人サイトでの発信)
音読や発表、自己紹介や卒業式などスピーチ、点呼で「はい」と言えるか・・など吃音者にとって学校生活は試練の連続です。
子どもにとっては毎日行く学校がすべてのような世界。
親が先生に吃音があるから配慮してほしいことを伝えたり、調整してくれることで子どもは安心します。学校で「 どもっても良いんだ」と思える環境になるだけで、精神的にも少し楽になります。
並んでいるのは、行事のような大きな場面だけではありません。点呼で「はい」と言えるか——毎日必ず来る、数秒の場面です。同じ記事の前半では、音読や発表になると何度も難発してしまい、ふつうの人の倍は時間がかかる状態だったこと、授業や同じグループの人に迷惑がかかるのではないかと常に怯えて授業に集中できなかったことが書かれています。困りごとは「読めなかった」ことではなく、そのあいだずっと続く緊張のほうにある、という書き方です。学校での困り感は、こうした場面まで具体的に聞かないと表に出てこないとされています。
出典: 【吃音体験談】音読が嫌で学校に行きたくない時は無理をしないで(misa さんの個人サイト)(台帳: V0034)
支援者向けの公的な解説は、この点をはっきり書いています。吃音のある子どもは発話場面でしか症状が出ないため、悩みが過小評価されることが多い。他の子どもから話し方を真似されたり、笑われたり、「なんでそんな話し方なの?」と質問されることが多い。そして、日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式などの特定の場面で困ることがあるため、より具体的に質問することが困り感の早期発見につながる、としています。
相談を受けた側が気をつけたいことも書かれています。実際にその子と話しても、思ったほど吃音の症状が出ないことが多い。その流暢に話す様子を見て、つい「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と言ってしまうことは、養育者にとってプラスに働くことは少ない、とされています。歌うときや2人で同じ言葉を言うときのように外的なタイミングがある場合には吃音が消えるためで、気をつけて話すときほど出にくい、という性質があるからです。
通級(ことばの教室)に通うということ
学校で使える仕組みとして名前が挙がるのが、通級指導教室——いわゆる「ことばの教室」です。ただ、通い方は一つではありません。担任からの提案をきっかけに通い始めた家庭の記録があります。
2歳半で吃音が始まった息子をもつ母の手記(自助団体の会報に掲載・親の会全国大会での発表を再掲)
小学校に通うようになり、担任の先生から「2学期からことばの教室に通いませんか?」と言われて初めて、ことの重大さに気づきました。通常の授業を抜け、一人だけ別室で通級指導を受けることには、親の私に抵抗がありましたので、Aには相談しないで、隣のB小学校の通級指導教室に授業後通うことにしました。毎週水曜日、5時間目が終わるとAを迎えに行き、B小学校へ移動して6時間目の授業を親子いっしょに受ける生活が始まりました。
提案は担任から来ています。そして母親が引っかかったのは、通級そのものではなく、通常の授業を抜けて一人だけ別室へ行くという形のほうでした。選んだのは、放課後に隣の小学校へ親子で通うという別の形です。毎週水曜、5時間目のあとに迎えに行き、移動して6時間目を一緒に受ける。この生活は1年生の2学期から4年生の2学期まで続いた、と書かれています。通級の時間には、その1週間で心に残ったことを先生に話し、先生が書き取ったものを本人がもう一度読む、ということを毎回続けたとあります。通う形には幅があり、家庭の事情や本人の受け止めに合わせて選ぶ余地があることが分かります。
出典: 息子Aの吃音を受け入れて(吃音と上手につきあうための吃音相談室)(台帳: V0050)
同じ手記には、学校との関わり方についてもう一つの実践が書かれています。各学年の始めに、担任の先生とクラスの保護者に息子がどもることを話していた、というものです。これは、公的資料が「毎年のリスクマネジメントの積み重ね」と呼んでいる考え方とちょうど重なります。学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受けるリスクがそのたびに生まれるため、早期発見とその対応法をオープンに話すことが予防につながる、というのが資料の説明です。配慮は一度お願いして終わりではなく、学年ごとに更新されるものだ、と考えておくほうが実態に近くなります。
本人が伝えたとき、教室で何が起きたか
大人が学校に伝えるのとは別に、本人が自分から伝えるという道もあります。中学1年の自己紹介で声が出なかった生徒が、その場で続けて何を言ったかという記録です。
3歳で吃音が始まった女性(21歳時点の手記。NHK障害福祉賞の佳作作品として全文が公開されている)
私の声をかき消すように、授業の終わりのチャイムが鳴った。今でも忘れることの出来ない、チャイムの後の静寂。自分の声がいつもより出ない不安。クラスの男の子の笑う声が混じる。その後、静寂が戻り、目から大粒の涙がこぼれた。
「わち……みなみ…です」
この言葉を言うのに何分かかったのだろう。その後も少しずつ話を始めた。言わなければならないことが言い終わった後、私はこう切り出した。
「今 みたいに、少しでも 緊張 すると 声が 出る までに 時間が かかります。言葉が 出るまで 待っていて くれると 嬉しいです」
自己紹介の途中でチャイムが鳴り、笑い声が混じり、涙がこぼれた——ここまでが場面です。書き手はそのあとを続けています。言うべきことを言い終えたあとに、自分から「待っていてくれると嬉しいです」と伝えた。手記によれば、そのあと笑った男の子たちが「さっきは知らなかったから笑ってしまってごめん」と謝りに来た、と書かれています。伝えたのは症状の説明ではなく、してほしいことのほうでした。学校で求める配慮は、この粒度まで下ろすと相手が動けるようになります。自分から吃音を伝えることの効果は、研究でも調べられてきました。
出典: 第56回NHK障害福祉賞佳作作品「これが私の人生と言える様に 〜吃音と過ごした21年〜」(NHK厚生文化事業団)(台帳: V0112)
自分から吃音を伝えること(自己開示)については、18件の量的研究をまとめたシステマティックレビューがあります。全体として好意的な影響が示されたのが18件中15件(83.3%)で、伝え方を比べた研究では、謝るような言い方をしない伝え方のほうが好意的に受け取られたものが13件中12件でした。ただしこれらの研究の多くは、用意された動画を見た人の評価という形で測られたもので、教室でそのまま同じことが起きるとまでは言えません。
日本の成人を対象にした調査もあります。自助グループなどを通じて集めた180人の回答を分析したもので、自分から吃音を伝える度合いは、米国の調査の回答者より低いという結果でした。そして、自助グループに参加した経験があること、自分を受け入れられていること、自分を恥ずかしいと感じる度合いが低いことが、より高い開示の度合いと関連していました。これは大人を対象にした調査なので、子どもにそのまま当てはめることはできません。ただ、「伝えられるかどうか」は本人の性格ではなく、経験や周囲との関係の積み重ねと結びついている、という方向は示しています。
学校に配慮を求める根拠と、クラスへの伝え方
配慮を求める根拠は制度として整っています。2024年に改正障害者差別解消法が施行され、国公立の学校だけでなく私立の学校も合理的配慮の提供が義務化されました。高校入試や大学入試での面接試験でも、事前に吃音があることを伝えておくと、「過重な負担」となる範囲を除いて、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕の確保といった配慮を受けることができるとされています。入学後の修学上の困難についても、双方の建設的な対話の上に配慮が受けられるようになった、と説明されています。
クラスの子どもたちへの伝え方については、学齢期の子どもを対象にした研究があります。からかいやいじめを受けている子への支援として、どう返すかを一緒に考える練習と、クラスに向けて吃音について説明する時間をつくること——この2つを組み合わせた取り組みを、9歳の男の子の事例で報告したものです。その結果、本人がからかいに建設的に対応できるようになり、クラスの子どもたちからの否定的な発言はクラスでの説明のあとに減った、と報告されています。ただしこれは1人の事例報告であり、どの学校でも同じ結果になると読める規模の研究ではありません。
電話が苦手な人向けの仕組みも整っています。2021年から総務省が主体となって公共インフラの一つになった「電話リレーサービス」を吃音のある人も使うことができ、困り感の軽減につながっているとされています。中学・高校で電話連絡が必要になる場面では、選択肢の一つになります。
学校に配慮を頼むときの3つの落とし穴
落とし穴1 − 「配慮してください」だけで伝える
困る場面は、日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式というところまで具体的に挙げられています。場面の名前まで下ろすと、先生の側も何をすればよいかが分かります。本人がしてほしいことも「待ってほしい」「一緒に読んでほしい」のように具体的な形をとります。
落とし穴2 − 面談で症状が出なかったので「軽い」と受け取る
吃音は、歌うときや2人で同じ言葉を言うときのように外的なタイミングがあると消え、気をつけて話すときほど出にくいとされています。だから面談の場では出ないことが多い。そこで「気にならないですね」と言われることは、養育者にとってプラスに働くことは少ないと明記されています。教室での様子は、場面を挙げて聞かないと見えません。
落とし穴3 − 一度お願いしたら、あとは大丈夫だと考える
学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受けるリスクはそのたびに新しく生まれます。だから資料はこれを「毎年のリスクマネジメントの積み重ね」と呼んでいます。各学年の始めに担任とクラスの保護者へ伝えることを続けた家庭の記録もあります。年度替わりを予定に入れておくほうが、あとが楽になります。
まずは、どの場面でどのくらい困っているかを本人と一緒に書き留めておくと、担任との面談でそのまま使えます。相談先としては、通級指導教室(ことばの教室)や、小児を扱う言語聴覚士があります。
よくある質問
学校にはどんな配慮をお願いできますか?
困りやすい場面として挙げられているのは、日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式などです。入試の面接では、事前に伝えることで、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕の確保といった配慮を受けられるとされています。在学中の困難についても、双方の建設的な対話の上に配慮を求められます。何が助けになるかは人によって違うので、本人に確かめてから頼むのが出発点です。
私立の学校でも配慮してもらえますか?
2024年に改正障害者差別解消法が施行され、国公立の学校だけでなく私立の学校も合理的配慮の提供が義務化されました。ただし「過重な負担」となる範囲は除かれるとされています。
通級(ことばの教室)は、授業を抜けて通うのですか?
通常の授業を抜けて別室で受ける形が一般的ですが、それだけではありません。通常の授業を抜けることに抵抗があったため、放課後に隣の小学校の通級指導教室へ親子で通うことにした、という家庭の記録もあります。運用には幅があるので、担任や教育委員会に確認する価値があります。
面談では吃音が出ませんでした。心配しなくていいのでしょうか?
面談の場で出ないことはよくあるとされています。歌うときや2人で同じ言葉を言うときのように外的なタイミングがある場合には吃音が消え、気をつけて話すときほど出にくいためです。そのため、流暢に話す様子を見て「気にならないですね」と言うことは、養育者にとってプラスに働くことは少ないと指摘されています。
クラスの子たちに吃音のことを伝えたほうがいいですか?
9歳の男の子の事例報告では、からかいへの返し方を一緒に考える練習と、クラスに向けて吃音を説明する時間を組み合わせた結果、クラスの子どもたちからの否定的な発言が説明のあとに減ったと報告されています。ただしこれは1人の事例であり、どの教室でも同じ結果になると読める規模ではありません。伝えるかどうかは本人の意向を確かめてから決めることになります。
まとめ
- 学校で困る場面は具体的に挙げられている。日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式。「配慮」を場面の名前まで下ろすと頼みごとになる。
- 発話場面でしか症状が出ないため悩みは過小評価されやすく、面談では出ないことも多い。そこで「気にならないですね」と言うことは養育者にプラスに働きにくい。
- 通級(ことばの教室)の通い方には幅がある。通常の授業を抜ける形のほか、放課後に別の小学校へ親子で通った記録もある。
- クラス替えのたびにリスクは新しくなる。「毎年のリスクマネジメントの積み重ね」として、学年ごとに伝え直す。
- 2024年施行の改正障害者差別解消法で、私立の学校も合理的配慮の提供が義務化された。入試の面接でも事前に伝えることで配慮を受けられる。
