まず結論から
- 吃音の治療は、年齢で裏づけの強さがはっきり違います。6歳から12歳については、どの治療法にも確かな裏づけがまだありません。研究をまとめて評価した2021年の報告も、学齢の子どもと思春期を対象にした質の高い研究は存在しない、と書いています。
- 思春期以降になると、話し方そのものを組み立て直していく訓練には、効果の大きい良好な裏づけがあります。ただし大人の吃音を消し去る方法は現在のところ無く、訓練の技法はどれも埋め合わせなので、効果を保つには使い続けることが前提になります。
- だから中学生の「治し方」は、話し方の練習だけでは半分です。周りの人の接し方や場面のほうを変えることは「環境調整」と呼ばれ、言語訓練・カウンセリング・心理療法/行動療法と並ぶ治療の中心の1つとされています。
- 困りやすい場面は分かっています。中高生では部活動と入学面接が名指しで挙げられており、学童期以降の場面としては日直の号令・音読・発表なども具体的に列挙されています。場面が分かっているなら、先に手を打てます。
- 高校入試の面接では、事前に吃音があることを伝えておくと、過重な負担にならない範囲で、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕といった配慮を受けられます。2024年からは私立の学校にもその提供が義務づけられました。
ただし、ここに挙げたどれも「これをやれば治る」という話ではありません。6歳から12歳と思春期以降とで、裏づけの評価ははっきり分かれています。中学生はそのちょうど境目にいて、単一の答えが最も出しにくい年代です。この記事は、答えが出ていないなかで今日から取れる手を並べたものだと読んでください。
「治し方」を探しているあなたへ——いま分かっていること
最初に、いちばん言いにくいところから書きます。「治す方法」を探して手を伸ばした先に、裏づけの無いものが並んでいることがあります。それは今に始まったことではなく、何十年も前から同じでした。
高校入試の面接を控えた中学3年生に宛てて手紙を書いた経験者の一人(NPO法人全国言友会連絡協議会「小中高校生の吃音のつどい」)
どもりを治したいという気持ちが有るのは分かります。私にも当然ありました。
薬を飲むように治ればなんと楽な事でしょう。もう今はかなり廃れてきましたが、民間の怪しい矯正所で発声練習に励んでどもりを治そう、治そうとするのは止めた方が良いです。古今東西、数え切れないくらいの人が、空しい努力を繰り返して来ました。
この手紙は、面接試験をうまくパスできるか悩んでいた中学3年生のために、4人の経験者がアドバイスとして書いたものの1通です。書き手は公立高校と私立高校を併願した自分の中学3年生の記憶から書き起こし、筆記試験の準備に力を注ぐようすすめたあと、終盤にこの一節を置いています。そして「ではどうすればいいのか?」と自分で問い、答えとして挙げたのは、話す場から逃げないようにしてほしい、ということでした。研究の側も、この年代について同じ向きの、しかしもっと素っ気ない答えを出しています。
出典: 吃音問題と入学試験の面接(小中高校生の吃音のつどい)(台帳: V0073)
ドイツの診療ガイドラインは、年齢層ごとに治療の裏づけを評価しています。就学前の子どもについては、なめらかに話せたときに親が決まったほめ方をし、どもったときには時おり穏やかに直す方法にいちばん良い裏づけがあり、周囲の話し方のほうを合わせる間接的な方法にも強い裏づけがあるとされます。ところが6歳から12歳については、どの治療法にも確かな裏づけが無いと、はっきり書かれています。9つのデータベースと3つの臨床試験登録を検索して2歳から18歳の研究を集めた2021年の報告でも、学齢の子どもと思春期を対象にした質の高い裏づけは存在しない、と結論されています。
思春期・成人になると評価が変わります。柔らかくゆっくり声を出すなど、話し方の組み立て自体を新しく学び直していく訓練には、効果の大きい良好な裏づけがあるとされ、専門家のあいだではこれは「流暢性形成法」と呼ばれます。一方、どもることを無理に止めるのではなく、力を抜いて楽に・軽く吃れるようにしていく訓練もあります。これは「吃音緩和法」と呼ばれ、同じガイドラインでは中くらいの効果で、裏づけは弱いと評価されています。子どもと大人の行動療法を横断的に整理した総説でも、いちばん確かな裏づけがあるのは子どもの発話に対して親が決まった返し方をする方法(応答随伴療法)と、大人への話し方の組み立て直しの2つだとされています。
そのうえで、同じ総説はこう書き添えています。現在のところ大人の吃音を消し去る方法は無く、だから訓練の技法はどれも本質的に埋め合わせである、と。埋め合わせの技法は、その性質上、改善を保つためには使い続けなければならない、とも述べられています。さらに、純粋に話し方だけを組み立て直す訓練の多くは、吃音にまつわる否定的な気持ちや不安のほうには手を届かせないこと、診察室では大きく減らせても日常の場面で常に保つのはとても難しいこと、そして吃音は戻りやすいことも指摘されています。「治し方」という言葉が指す範囲は、思っているより狭いのです。
音読と発表——毎日くり返し来る関門
研究の話をいったん置いて、実際の中学生活の話をします。中学生にとって吃音がいちばん重くのしかかるのは、たいてい練習の時間ではなく、授業のなかの数分間です。
中学生時代を振り返る当事者(「派遣 優@吃音」名義。自助団体メディアへの寄稿)
ある授業中に先生が、今日は10月15日か、じゃあ出席番号15番の人ここを読んで、と言ったのです。
15は私の出席番号でした。
吃りながらもなんとか読み終えましたが、皆から笑われました。
日付と出席番号が一致する。それだけのことで、この人は授業のなかで名指しされました。やがて学校を休む日が増え、欠席はとうとう2週間に届きます。学校から自宅へ連絡が入って母親が付き添って登校するようになり、その恥ずかしさと母親への申し訳なさから、それ以降は休まなくなったと本人は書いています。そして今、こう振り返っています。あの日に先生が「じゃあここは全員で読もう」と言ってくれていたら、と。この「読み方の形を変える」という発想は、思いつきではありません。なめらかに話せる状態を引き出す方法として、研究プロジェクトの解説にも載っています。
出典: 音読中に吃音を笑われて学校を休んだ中学生時代(HAPPY FOX)(台帳: V0045)
公的資料は、この場面をかなり具体的に名指ししています。学童期以降に困りやすい場面として、日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式などが挙げられており、学校では毎年クラス替えがあるため、真似・笑い・質問を受けるリスクが毎年やってくると書かれています。中高生に絞ると、部活動と入学面接が発話に困難を感じやすい場面として挙げられます。困る場面が事前に分かっているというのは、先に相談しておけるということでもあります。
放っておいた場合に何が起きるかも、この解説は書いています。学童期は吃音のある子の過半数が笑われたりからかわれたりしており、それによって自尊感情の低下や不登校といった二次的な問題が生じやすくなる。だから本人の意向を聴き取りながら、クラスや学校のほうの環境を整えるのだ、と。皆で声をそろえて読む斉読や、リズムに合わせた朗読は、なめらかに話せる状態を引き出しやすいことが知られており、これを使って発話に自信を持たせる訓練がよく行われます。冒頭の「全員で読もう」は、まさにこの形です。
教室での立ち位置を、子ども同士の指名で測った研究もあります。イングランドの16の学校の16クラスから、8歳3か月から14歳9か月の児童・生徒403人(平均11歳9か月)が参加し、各クラスに吃音のある子が1人ずついました。結果は、吃音のある子は同級生に比べて「嫌い」と指名されることが多く、「人気がある」に分類されることが少なく、「いじめられている」に挙げられることが多い、というものでした。この3つは、偶然では説明しにくいはっきりした差(統計でいう有意差)でした。「リーダー」に挙げられにくいことと、「助けを求めている」に挙げられやすいことも同じ向きでしたが、そこまではっきりした差ではありませんでした。研究者たちは、通常学級への統合の方針やいじめ対策が進んだにもかかわらず、吃音のある子の教室での位置づけはほとんど変わっていないように見える、と結論しています。つらいのは気の持ちようではありません。測ると出てくる差です。
自分から伝える、という手
「治す」以外に、中学生が自分の判断で取れる手はほとんど無いように見えます。でも、ひとつだけあります。自分から「吃音がある」と言ってしまう、という手です。勇気の話に聞こえますが、これは研究されている技術でもあります。
当事者本人(和智南生さん・東京都。中学1年生のときの場面。NHK厚生文化事業団の体験作文コンクール入選作)
「今 みたいに、少しでも 緊張 すると 声が 出る までに 時間が かかります。言葉が 出るまで 待っていて くれると 嬉しいです」
言い切ると心に決めていたから、最後まで言い切ることができた。その後に起こる出来事を私は想像もしていなかった。
「さっきは知らなかったから笑ってしまってごめん」
と、笑った男の子達が謝りに来てくれたのだ。知らないことで起こってしまった「笑い」。しかし、自分で伝え「知って」もらうことで、理解が深まると、中学1年生の私は達成感に満ち溢れていた。
これは中学1年生の自己紹介の場面です。「……名前は…」と言ったあと、そこから先が出ず、教室に響いたのは同じ一文字の繰り返しだけでした。授業終わりのチャイムが声をかき消し、そのあとの静寂を今でも忘れられないと本人は書いています。そこにクラスの男の子の笑う声が混じったことも、書き残しています。それでも言うべきことを言い終えたあとに、この一言を足しました。3歳で始まった吃音を小学2年生で自覚し、小学6年生で、ふだんの学級に在籍したまま別の教室で個別の指導を受ける仕組み(通級指導教室)につながるまで、なるべく目立たないように、話さないように過ごしてきた人が、教室の全員に向けて自分から言った言葉が、これでした。この伝え方には、研究で分かっている型があります。
出典: 「これが私の人生と言える様に 〜吃音と過ごした21年〜」(第56回NHK障害福祉賞 佳作)(台帳: V0112)
自分から「吃音がある」と相手に伝えること(自己開示)については、30年ぶんの研究を条件を決めて集め、まとめて評価した報告があります。2023年10月までに発表された量的研究18件が対象で、そのうち15件(83.3%)で、伝えることは全体として好意的な影響を持っていました。さらに、伝え方を条件として比べた研究では、13件中12件(92.3%)で、謝る形の開示や開示しない場合よりも、謝らない形の開示のほうが好意的に受け止められていました。報告は、否定的な思い込みを向けられるかもしれないという負担をやわらげるために、謝らない形での自己開示を支持する、と結論しています。なお、この報告は、年齢による違いは研究のあいだでほとんど検討されていない、と書いています。中学生を対象にした結果ではありません。
この人が教室で言ったのは、緊張すると声が出るまでに時間がかかること、待っていてくれると嬉しいこと、その2つだけでした。まさに謝らない形です。「すみません、うまく話せなくて」ではなく、事実と、してほしいことだけを言っている。伝えるかどうかを決めるのは本人ですが、伝えると決めたときの言い方には、こういう違いがあります。
ただし、日本ではハードルが高いことも数字に出ています。日本の吃音のある成人180人を対象にした調査では、自己開示の度合いは米国の調査の集団より低く、これは社会文化的な違いを反映しているのかもしれない、とされています。同じ調査では、自分で男性と答えていること、自助グループの経験があること、自己受容が高いこと、自分自身に向ける否定的な思い込みが低いことの4つが、より高い自己開示と結びついていました。ただしこの調査の参加者は自助グループなどを通じて集められているので、日本の吃音のある成人全体を代表しているわけではありません。言い出しにくいのは、あなたが弱いからではないということです。
制度の側も、伝えることを前提に組まれています。青年期・成人の環境調整とは、本人が周囲に自分が吃ることを開示して協力を求めることになる、と研究プロジェクトの解説は書いています。学会の資料も、本人が望む場合には、学校に対して発表や音読といった苦手な場面への配慮や支援を求め、安心して学校生活を送れるように環境を整えることが大切だとしています。
高校入試の面接——中学生にだけある締め切り
中学生が「治し方」を探すとき、その裏にはたいてい日付があります。高校入試です。大人の吃音の記事がいくら「長く付き合う」と書いても、来年の2月には面接がある。ここだけは、悠長な話をしても仕方がありません。
当事者本人(arisa さん・2歳で発症。中学3年生のときの推薦面接の日。自助団体メディアへの寄稿)
中学3年生のある日、私は各停電車に揺られて母の隣で涙を流していました。
今日は、志望高校の推薦面接の日。
なぜ泣いていたかというと、面接で自分の名前すら吃ってしまい、面接に大失敗したからでした。
その日の朝、志望校の校門で3年間お世話になった塾の先生が手作りの可愛いお守りを手渡してくれましたが、そのお守りも私の涙で文字が滲んでしまっていました。
この人が志望したのは、自宅から片道1時間半の高校でした。理由は、オープンキャンパスで校長が「わが校では一切のいじめを容認しません」と言い切ったこと。音読や自己紹介で吃音が出ると「早くしろ」と野次を浴び、丸めたプリントを投げられた経験があったからです。専願の推薦だったので、落ちれば行く高校が無い。その面接で名前が出なかった。数日後の合格発表は、合格でした。帰りの電車で母が言った「合格はほとんど中学の内申で決まるから」は本当だった、と本人は書いています。そして入学後も、吃音の症状は年齢が上がるにつれて悪化する一方だったが理解ある環境で過ごせた、とも書いています。環境が変わっても症状は消えない。それでも生活は変わる——という記録です。制度の側は、この面接についてはっきり定めています。
出典: 面接で名前を言えず涙…そんな私が志望校に合格できたわけ(HAPPY FOX)(台帳: V0123)
2024年に改正障害者差別解消法が施行され、国公立の学校だけでなく私立の学校にも配慮の提供が義務づけられました。そのため高校入試や大学入試の面接試験では、事前に吃音があることを伝えておくことで、過重な負担となる範囲を除き、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕の確保といった配慮を受けられます。入学後の学習上の困りごとについても、学校と本人の建設的な対話のうえで配慮が受けられるようになっています。学会の資料も、試験等での面接時間の延長や、発表・電話応対の免除といった配慮を求めることができるとしています。ただし、その際に医師の診断書や、言語聴覚士(話す・聞く・食べることを専門にする国家資格の職種)の報告書の提出を求められる場合がある、とも書かれています。
つまり、面接の準備は「吃らないように練習する」だけではありません。いつまでに誰へ、何を出して申し出るのか、という段取りの部分が半分を占めます。診断書や報告書の提出を求められる場合がある以上、願書を出すころに思い立って揃うものではありません。この段取りだけは、早いほうが選べる手が多く残ります。
誰に相談するか——「病院に行きたい」が言えないとき
相談先の話をします。ただ、その前に置いておきたい記録があります。中学生にとっていちばん高い壁は、相談先までの距離ではなく、家の中の一言だったりします。
菊池良和さん(吃音のある医師・耳鼻咽喉科。本人名義の note。中学1年生のときの回想。この記事が引く公的ポータルの解説と、学会資料の基礎知識の節を書いている方でもあります)
「病院に行けば、なんとかなるのではないか」と思いました。でも、自分が「病院に行きたい」と言うと、親に「なんで?」と質問するときに、自分の悩みを打ち明けられるほどのオープンな親子関係ではありませんでした。
この人は3歳前後で吃音が始まり、小学2年生のときに両親に連れられて音読の練習会へ半年ほど通ったものの、自分が行かないと言ったせいか、それ以降は吃音のことを両親と話すことはなかったと書いています。中学に入って環境が変わり、内面に目が向く年齢になって、吃音のことが頭から離れなくなった。しかし当時は「吃音」という名前すら知らず、「どもり」としか理解していませんでした。そこから出てきたのが、この一言です。のちに本人は「自分が病院の先生になれば」と考えて医学部へ進み、現在は医師になっています。治療の開始が遅れがちなこと自体は、診療ガイドラインも指摘しています。
出典: 自己紹介2(吃音がある中学生が、医師を目指した理由)(台帳: V0128)
ドイツの診療ガイドラインは、結論のところで、ドイツでは裏づけの不十分な治療が行われがちであり、治療の開始が必要以上に遅れることが多いと述べています。学会の資料も、中高生は吃音の悩みを一人で抱え込み、打ち明けられないことが少なくない、と書いています。つまり「言い出せない」のは珍しいことではなく、支援する側にとっては織り込み済みの前提です。
相談先はこうなっています。本人が吃音の治療を希望する場合、言語聴覚士による発話訓練を受けるという選択肢があります。発話訓練だけで症状が改善しない場合や、吃音に対する不安が強い場合は、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。同じ資料は、幼児期・学齢期の節で、専門家による助言・指導の相談先として、小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員を挙げています。もうひとつ、吃音の自助団体に参加してほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもある、と書かれています。この記事の最初に引いた手紙も、そうした団体が中学3年生のために集めたものでした。
治療の全体像も押さえておきます。治療の中心は、環境調整・言語訓練・カウンセリング・心理療法/行動療法の4つです。どの人にも一様に有効な方法は無いため、その人に応じて(しばしば組み合わせて)選ぶことで、ある程度の有効率が得られることが多い、とされています。だから「自分に何が合うか」は、一人では決められません。気になった時点で、様子を見るだけにせず相談したほうが、選べる手が多く残ります。
薬・機器・そのほかの方法は、いまどう評価されているか
「治し方」で検索すると、訓練以外の方法もたくさん出てきます。それぞれがどう評価されているかを、まとめて置いておきます。
薬:吃音に有効性が確立された薬はありません。3分の1ほどの症例で有効だったという報告はあるものの、吃音を対象として保険が使える薬は無いのが現状です。診療ガイドラインも、薬を単独または主な治療とすることは裏づけが支持していないと評価しています。ただし、吃音が原因となって起きた二次的な抑うつや、人前で話す場面に強い不安を感じる状態(社交不安障害)に対しては、薬による治療が行われることがあります。薬の位置づけは「吃音そのものを消す」ではなく「重なった別の困りごとを支える」ほうにあります。
呼吸法・リズムに合わせて話す方法:これらを単独または主な治療とすることについては、有効性を裏づけるものが無いと評価されています。催眠と、内容のはっきりしない吃音療法については、単独か主かという限定なしに、有効性を裏づけるものが無いと評価されています。行うべきでないという意味ではなく、そう判断できるだけの根拠が今のところ集まっていない、ということです。「これだけで治る」とうたっているものを見かけたら、この評価を思い出してください。
遅れて自分の声が聞こえる機器:症状が重い場合には、遅れて自分の声が返ってくる装置を授業中に使うことも選択肢になります。装着している間だけ効果があるとされていますが、数か月以上使うと吃音の頻度も下がるという研究がある一方で、青年期・成人では有効なのは半数程度とも書かれています。
心理面へのアプローチ:吃るかどうかの不安が強いと発話が意識的になり、それがかえってなめらかさを崩し、さらに意識的になる、という悪循環が起こることが知られています。考え方と行動の両方に働きかける心理療法(認知行動療法)では、話す行為に注目することがなめらかに出ない主な原因だと理解したうえで、吃るかどうかにこだわらず「楽なコミュニケーション」を目標に置きます。そのほうが話す行為そのものから注意が外れるので、かえって発話の症状も改善しやすいと説明されています。青年期・成人では、過半数で社交不安障害など心理面の評価と対応も必要になるとされ、その場合はこの認知行動療法が奏功するとされています。
中学生の「治し方」でつまずきやすい3つの落とし穴
落とし穴1 − ゴールを「ゼロにする」だけに置く
6歳から12歳についてはどの治療法にも確かな裏づけが無く、大人についても吃音を消し去る方法は無い以上、訓練の技法は本質的に埋め合わせだとされています。それでも「ゼロにする」だけを目標にすると、うまくいかない日がすべて失敗になります。専門家の側も、吃るかどうかにこだわらず「楽なコミュニケーション」を目標にするほうが、かえって発話の症状も改善しやすいと説明しています。
落とし穴2 − 裏づけの弱い方法に、急いで飛びつく
呼吸法だけ、リズムに合わせて話す方法だけ、薬だけを治療にすることは、有効性が支持されていません。催眠と、内容のはっきりしない吃音療法については、単独か主かという限定なしに支持されていません。この記事の最初に引いた手紙が、治そうとする努力について書いていたのも、ここに重なります。どの人にも一様に有効な方法は無い以上、裏づけのある方法を専門家と一緒に選ぶほうが、結局は近道です。
落とし穴3 − 相談を先延ばしにして、一人で抱える
ドイツの診療ガイドラインは治療の開始が必要以上に遅れがちだと指摘しており、中高生が悩みを一人で抱え込んで打ち明けられないことは珍しくありません。入試の面接で配慮を求めるには診断書や報告書を求められる場合があるので、思い立ってすぐには間に合いません。まずはどんな場面で出やすいか、調子の波はどうかを書きとめておくと、相談のときに話が早くなります。困りやすい場面は資料に列挙されているので、それを手がかりに自分の場面を書き出すだけでも足ります。
記録は、スマホのメモでも、記録用のアプリでも構いません。話しやすかった場面・出にくかった場面を書きとめる小さな習慣から始められます。記録はあくまで経過を見えやすくする支えであって、治療そのものではありません。専門機関に相談できるなら、そちらが確実です。
よくある質問
中学生の吃音は治りますか?
年齢によって裏づけの強さが違います。6歳から12歳についてはどの治療法にも確かな裏づけがまだなく、学齢の子どもと思春期を対象にした質の高い研究は存在しないとされています。思春期以降は、話し方そのものを組み立て直す訓練に効果の大きい良好な裏づけがあります。ただし大人の吃音を消し去る方法は現在のところ無く、訓練の技法はどれも埋め合わせで、効果を保つには使い続けることが前提とされています。
中学生にはどんな訓練がありますか?
柔らかくゆっくり話すなど話し方の組み立てを学び直す訓練(流暢性形成法)と、力を抜いて楽に・軽く吃れるようにしていく訓練(吃音緩和法)が代表的で、前者には良好な裏づけ、後者は弱めの裏づけと評価されています。皆で声をそろえて読む斉読やリズムに合わせた朗読も、なめらかに話せる状態を引き出して自信をつける訓練としてよく行われます。本人が希望する場合、言語聴覚士による発話訓練を受けるという選択肢があります。
学校の音読や発表が苦手です。どう伝えればいいですか?
本人が望む場合には、学校に対して発表や音読といった苦手な場面への配慮や支援を求めてよいとされています。日直の号令、音読、発表、学習発表会などは困りやすい場面として具体的に挙げられているので、その名前を使って伝えると話が早くなります。自分から吃音を伝えることについては、研究18件中15件で全体として好意的な影響があり、謝らない形の伝え方のほうが好意的に受け止められていました。ただしこの報告は、年齢による違いはほとんど検討されていないと書いており、中学生を対象にした結果ではありません。
高校入試の面接で、吃音の配慮は受けられますか?
2024年施行の改正障害者差別解消法により、国公立だけでなく私立の学校にも配慮の提供が義務づけられました。高校入試や大学入試の面接試験では、事前に吃音があることを伝えておくと、過重な負担となる範囲を除き、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕の確保といった配慮を受けられるとされています。試験での面接時間の延長を求めることもできますが、医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出を求められる場合があります。
誰に相談すればいいですか?
本人が治療を希望する場合、言語聴覚士による発話訓練を受けるという選択肢があり、不安が強い場合はカウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。同じ資料は幼児期・学齢期の相談先として、小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員を挙げています。吃音の自助団体に参加してほかの当事者と出会うことが、心理的な変化のきっかけになることもあります。治療の開始が必要以上に遅れがちだという指摘があるので、早めの相談が安心です。
まとめ
- 6歳から12歳についてはどの治療法にも確かな裏づけが無く、思春期以降は話し方の組み立て直しに良好な裏づけがある。中学生はその境目にいる。
- 大人の吃音を消し去る方法は現在のところ無く、訓練の技法はどれも埋め合わせで、効果を保つには使い続けることが前提。「治し方」が指す範囲は思っているより狭い。
- 困りやすい場面は分かっている——学童期以降は日直の号令・音読・発表・学習発表会、中高生では部活動と入学面接。分かっているなら先に手を打てる。
- 自分から伝えることには研究の裏づけがあり、謝らない形の伝え方のほうが好意的に受け止められていた。日本では言い出す度合いが低いことも数字に出ている。
- 高校入試の面接では、事前に伝えておくことで配慮を受けられる。私立の学校にも義務づけられた。ただし診断書や報告書を求められる場合があるので、段取りは早いほうがよい。
- 治療の開始が必要以上に遅れがちだという指摘がある。中高生が一人で抱え込むのは珍しくないので、言い出しにくさそのものを前提に、早めに相談先を持っておく。
