吃音のバイト選び|職種より先に見る点・応募の電話・5人の記録

目次

「アルバイトを始めたいけれど、応募の電話で第一声が出なかったらどうしよう」「接客は無理だから、なるべく話さなくていい仕事を選んだほうがいいのだろうか」——初めてのアルバイトを前に、働く内容よりも先に「言えるかどうか」を考えてしまう。吃音があると、求人を眺めている段階からその心配が始まりますよね。

この記事では、職種の名前だけでは決まらないこと、面接より前にある応募の電話、伝えるかどうかの判断材料、そして働き始めてから頼めることを、5人の当事者の記録と一緒に並べていきます。根拠には、アイオワ大学とパデュー大学の研究者による就労の調査、筑波大学などのグループによる日本の当事者調査、日本吃音・流暢性障害学会の解説、厚生労働省がまとめた支援の一覧を使いました。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。また、働き方や制度の扱いについて個別の法的助言を行うものでもありません。気になる症状があるときは言語聴覚士やことばの教室に、働くうえでの困りごとはハローワークなどの窓口にご相談ください。

まず結論から

  • 話すことの少ない仕事をあえて選ぶ人がいる一方で、雇う側が採用や昇進の場面で就ける仕事を狭めているという証拠もある、と整理されています。
  • 模擬面接を使った実験では、伝えなかったときは吃音のある候補者のほうが低く評価され、先に伝えたときは吃音のない候補者との評価の差が見られませんでした。
  • ただし日本の当事者は、米国の同じ尺度を使った調査より吃音を打ち明ける度合いが低かったと報告されています。
  • 電話が難しい場合に電話の少ない業務へ回してもらうことは、職場に求められる配慮の例として挙げられています。上司や同僚に相談することで職場の配置や電話業務で配慮を得られることがある、ともされています。
  • 働くことの相談先としては、ハローワークに置かれた専門の担当者や地域の支援機関が公的に用意されています。

ただし、これは「この職種なら大丈夫」という一覧が作れるという意味ではありません。ここで紹介できるのは、個々の当事者が実際にやってみた記録と、就労全体を調べた研究であって、アルバイトの職種ごとに向き不向きを検証したデータは手元にありません。

「何の仕事か」より、そこで何を言うことになるか

求人票に並ぶのは「ホール」「キッチン」「品出し」といった職種の名前です。吃音があると、まずこの名前を見て、話す量が少なそうなほうを選ぼうとします。ところが、その名前は入口の呼び名であって、実際に何を言うことになるかは、入ってから決まることがあります。

ある当事者は、家の近くに新しくできる焼き肉店の求人に、キッチン希望で応募しました。面接は無事に終わり、初出勤の日、キッチンの人たちについていったところで「君、ホールだから、こっちね」と言われます。

吃音歴30年の当事者(大学時代の焼き肉店でのアルバイトを振り返る手記・個人ブログ note)

一気に地獄へ突き落されたような感覚です。しかし、そこで「いや、僕はキッチン希望で応募したはずです。キッチンで働かせてください」とは言えず、落ち込みながらもホールの仕事を覚えることに専念したのです。

しかし、ホールの仕事は「話す」が大前提。案の定ロープレ中に吃りの連続。。。周りからどう見えていたか、どう思われていたかは分かりませんが、「絶対、僕のことをバカにしている。笑っている」と心の中で思ってました。

配置が変わったのは、初出勤の日の朝でした。本人は希望と違うと言い出せないまま、開店までの数日をホールの練習に充てています。「失礼します」も「本日はご来店ありがとうございます」も、まともに言えないまま迎えた開店当日、最初に接客したのは一人で来店した女性客でした。決まり文句は出ませんでした。本人はその場で上司に打ち明けますが、「言葉が上手く言えない病気なんです」と伝えても通じず、結局「脳に障害がある」という事実と違う説明をしてしまったと、あとから書き残しています。職種を選ぶ話と、任される役割が動く話は別だということが、この記録には最初から最後まで出てきます。就労を調べた研究も、職業の違いを本人の選択だけでは説明していません。

出典: 吃音のせいで失敗したこと アルバイト編(note)(台帳: V0036)

米国の大規模な追跡調査を使って吃音と就労の関係を調べた研究は、この点を両側から書いています。吃音のある人の一部が、話すことの少ない仕事や社会的な地位の低い仕事をあえて探すという証拠がある一方で、雇う側が採用や昇進の判断を通じて就ける仕事を狭めている(=役割を限定してしまう)という証拠もある、というのがその整理です。つまり「話さない仕事に就いている人が多い」という観察は、本人が選んだ結果とも、選ばせてもらえなかった結果とも読めるということです。

同じ研究は、この結果を因果として読まないよう明記しています。観察されていない要因の影響はあらゆる相関研究につきまとう脅威であり、学校や職業の違い、親の状況などを差し引いたうえでも、吃音と働き方の結果を原因と結果の関係として解釈する前には慎重であるべきだ、というのが著者自身の但し書きです。

面接の前に、応募の電話がある

アルバイト探しで最初に不安になるのは面接だ、と思われがちです。けれど募集の多くは、まず電話をかけるところから始まります。数十秒のやりとりで、名乗って、用件を言って、日程を決める。言いにくい言葉を言い換える余裕がいちばん少ない場面です。ある当事者は、高校時代のアルバイト探しを振り返る手記を「まず、応募の電話。」という一行から書き始めています。

26歳・エンジニアの当事者が、高校時代のアルバイト探しを振り返る手記(個人ブログ note)

第一声がどうしても出ない。

電話をかけて、「もしもし」と言おうとするのに、声が詰まる。

沈黙が続いて、相手から「もしもーし?」と聞こえてくる。

それでも声が出せずにいると、「冷やかしですかー!」

本人が書いているのは、高校生になって「やっとアルバイトができる年齢になった」と思った直後のことです。電話の段階で10件以上落ち、それでも面接まで行けたところではさらに10件が不採用になりました。唯一採用されたのは飲食店の厨房で、「接客はしなくていい」と言われてやっと安心できたと書いています。ところが忙しくなると「ちょっと表出て!」と呼ばれ、接客をして、最終的にクビになった。厨房を選んだことと、表に出されたことは、この人の中では一続きの出来事として並んでいます。電話も接客も、避けたつもりの場面が後から戻ってくる形で書かれています。

出典: 吃音が理由で、アルバイトに20件落ちた話(note)(台帳: V0001)

電話は、応募のときだけの関門ではありません。働き始めたあとの電話について、吃音の研究プロジェクトが公開しているQ&Aは、電話が難しい場合に他の人に電話をとってもらう人員配置の変更や、口頭での報告・連絡・相談をメールに切り替えてもらうことを、職場に求められる配慮の具体例として挙げています。日本吃音・流暢性障害学会の解説も、社会人の場合は上司や同僚に吃音について相談することで、職場の配置や電話業務などで配慮を得られることがある、と書いています。

言い換えると、電話が苦手であること自体は、伝えれば動かせる余地のある条件として扱われています。ただし、それは職場に入ったあとの話です。応募の電話そのものをどう乗り切るかについて、ここで根拠として示せる資料は手元にありません。

辞めることを、繰り返してしまう

もう一つ、記録によく出てくるのが「続かない」という形です。採用されて働き始めても、うまくいかない日が重なって辞め、また別の店を探す。高校生のうちは、この繰り返しが短い期間に何度も起きることがあります。

吃音歴35年の当事者が、高校時代のアルバイトを振り返る体験談(NPO法人日本吃音協会)

吃音も幼少期より悪化していて、自分の名字すらまともに言えたことがなかった。それでも負けたくないと思いスーパーのレジ打ちやコンビニなどの接客業のアルバイトした。

しかし、吃音が原因でクレームになり、その度に自信を失い辞めてしまった。そして聞き取ろうとしないお客様が悪いと、お客様のせいにして逃げていた。

高校生活3年間で、5回はアルバイト先を変えていたと思う。

選んでいたのは、避けるべき職種としてよく名前の挙がるスーパーのレジとコンビニでした。本人はそれを「負けたくないと思い」と書いています。辞めた理由として書かれているのは、話し方そのものではなく、クレームのあとに自信を失ったことのほうです。この人はその後、専門学校を出て働き始めてからも、嫌なことがあるとすぐ辞めて転職を繰り返したと振り返っています。吃音を伝えないまま入社していたため、話し方をめぐって上司から怒鳴られることもあったと書いています。場面を避けることと、役割が続かなくなることのつながりは、研究の側でも論じられています。

出典: 吃音のせいにしていた自分を変えてくれたお客様の一言(NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0151)

吃音のある成人の日常を調べた研究は、会話がうまくいかないことを恐れて社会の場面や仕事の場面を避けやすく、その避け方が日々の役割を続けにくくする、という説明をしています。同じ研究は、周囲の否定的な見方を本人が自分のものとして取り込んでしまう状態(研究では「内面化されたスティグマ」と呼ばれます)についても触れ、それが職場では、話す役割やまとめ役を避ける、会議で発言したがらない、低く評価されるのが怖くて昇進を断る、といった形で現れうると述べています。周囲に吃音の知識がないこと、話しやすい環境への配慮がないことが、この思い込みをさらに強めうる、ともしています。

「続かなかったのは自分の根性が足りないからだ」と結論づける前に、避けることと続かないことが結びつきやすい仕組みがある、と知っておくだけでも、次の一歩の置き方は変わります。

面接で伝えて、働き始めた人

もう一つの分かれ道が、面接で吃音のことを伝えるかどうかです。伝えれば落とされるのではないか、と考えて黙る人は少なくありません。先に伝えたうえで働き始めた記録を、一つ見てみます。

専門学校生のときにチェーンのカフェで働いた当事者(個人ブログ note)

面接では、自分のことや気持ちを素直にすべて話した。自分には吃音という症状があること、人前で話すのは自信がないこと、本当はレジやバリスタに憧れがあること。

それを承知の上で、店長さんは快く私を迎え入れてくれた。ありがたいですよねほんと。

仕事は食器洗浄と謳っているも、軽食の店内調理の仕事も兼ねていてとても楽しかった。

選んだのは食器洗浄の募集でした。カフェで働きたい気持ちはありつつ、人前に出ることは少なそうだという理由で目に留めた求人です。この人が面接で伝えたのは症状の説明だけではなく、「本当はレジやバリスタに憧れがある」という希望のほうまで含んでいました。さらに「吃音のことは他の従業員にも話してほしい」とも頼んでおり、働き始めてから仕事仲間が理解してくれていたことを心強かったと書いています。一方でこの人は同じ記事の中で、打ち明けることが自分を苦しめるなら無理に伝えなくてもいいとも書いていて、伝える/伝えないを一律の正解にはしていません。伝え方の効果は、面接の場面を作って比べた実験でも調べられています。

出典: 吃音があったってカフェ店員やりたいし、やっていい(note)(台帳: V0153)

面接の動画を使った実験があります。吃音のある候補者とない候補者、そして冒頭でひと言伝えた場合と伝えなかった場合を組み合わせて、見た人に「採用したいか」「良い印象を持ったか」を尋ねたものです。結果は、吃音の有無と伝えたかどうかのあいだに意味のある組み合わせの効果が出ました。伝えなかったときは吃音のある候補者のほうが低く評価されましたが、先に伝えたときは、吃音のある候補者とない候補者の評価に差が見られませんでした。

なぜ効くのかは、まだ直接調べた研究がほとんどありません。著者らが挙げているのは二つの見立てで、一つは、自分の障害や制約を率直に認める人はよく適応していると見られやすいという研究、もう一つは、相手が「何を言えばいいのか分からない」と考え込む状態から解放される(=場をほぐす)のではないか、という考え方です。なお、この実験の参加者は大学生で、吃音は演じられたものだという限界が原典に明記されています。面接での伝え方をもう少し詳しく知りたい場合は、吃音面接のカミングアウトで扱っています。

伝えていなかったことを、あとから責められることもある

片側だけを見せるのは公平ではありません。伝えなかったことを理由に立場が悪くなった記録も、同じように残っています。

複数の職場を経験した当事者(ホームセンターの販売の仕事を振り返る手記・個人ブログ note)

また他社ですが、ホームセンターの販売業に採用されて、レジで吃ってしまったら、店長に呼ばれて

「何で面談のときに吃りだって言わなかったの?

吃りだって知ってたら採用しなかったのに……忙しいのに。もう社会保険の手続きしちゃったよ。で、どうする?」

と言外に辞めてほしいと言われました。

採用されたあと、レジでどもったところを見られてからの出来事です。この人は同じ手記の中で、別の職場で「ありがとうございます」の途中で固まり「ございます」が出ないために、失礼な人だ、敬語を使えない常識のない人だと受け取られたことも書いています。年下の先輩に「タメ口を使わないで」と言われ、初日から関係がこじれたとも記録しています。言葉が途中で止まるという出来事が、その人の態度や常識の評価に置き換えられてしまう——伝えるかどうかの判断は、この置き換えが起きる場所で下すことになります。職業上の見られ方については、研究の側でも扱われています。

出典: 【就職して吃音で困ったこと】(note)(台帳: V0200)

さきほどの実験では、伝え方の効果とは別に、吃音のある候補者は全体として低く評価されたという結果も出ています。つまり、伝えれば不利が消えるという話ではなく、伝えないままだとその不利がそのまま残りやすい、という読み方になります。

制度の側にも、伝えても動かないことがある理由が書かれています。働くうえでの配慮を求める根拠には障害者差別解消法がありますが、吃音の研究プロジェクトのQ&Aは、診断書があっても配慮してもらえない場合があるとしたうえで、その理由として、この法律では私企業について配慮が法的な義務にはなっていないことを挙げています。障害者手帳があれば私企業でも義務になるものの、それは別の法律によるもので、一般の採用枠ではなく福祉的な就労の枠での対応になる場合がある、とも書かれています。この記述は2020年1月時点のものとして公開されており、その後の制度の変更をこの記事では確認していません。制度の現状は公的機関の情報でご確認ください。

日本の当事者を対象にした調査では、吃音を打ち明ける度合いが、同じ尺度を使った米国の調査より低かったと報告されています。同じ調査では、自助グループに参加した経験があること、自分を受け入れられていること、自分に向ける否定的な見方が少ないことが、より高い開示の度合いと結びついていました。伝えるかどうかは、性格の強さの問題として一人で背負うものではなく、周りとの関係の中で動く、ということでもあります。

「話さない仕事」を選び続けると、何が起きるのか

ここまでの記録は、いずれも「話す場面のある仕事」で起きたことでした。では、話す場面をできるだけ避ける方向で選び続けたらどうなるのか。アルバイトの範囲を調べたデータは手元にありませんが、大人になってからの働き方を調べた研究には、参考になる結果があります。

米国の全国的な追跡調査を使った研究では、人口の特徴や併存する状態を差し引いたうえでも、吃音のある人の年収が男女とも低いという差が残りました。加えて、吃音のある男性は労働力に参加している割合が8.1%低く(=働いているか、失業中でも仕事を探している状態にある人の割合が低い)、吃音のある女性は不完全就業(自分の学歴に見合わない仕事に就いている状態)である割合が23.2%高いという結果が出ています。

この数字は米国のデータで、日本のアルバイトにそのまま当てはめられるものではありません。研究者自身も、これらの結果から吃音と働き方の関係を原因と結果として読むことには慎重であるべきだと明記しています。それでも、「話さない側に寄せていく」という選び方が、選択肢そのものを細くしていく方向とも重なりうることは、頭の隅に置いておく価値があります。吃音のある成人を対象にした別の研究も、場面を避けることが日々の役割の続けにくさにつながるという説明をしています。

職種の一覧そのものをどう読むかについては、吃音症の仕事で詳しく扱っています。レジの決まり文句のように言い換えがきかない場面については吃音とレジ、就職したあとの営業の仕事については吃音と営業、辞めさせられる不安については吃音と仕事のクビを用意しています。

アルバイトでも頼めることと、相談できる場所

アルバイトやパートという働き方について、配慮をどこまで求められるかを雇用形態別に整理した資料は、この記事の材料の中にはありません。ここでは、働く場面一般について公的・専門的な資料が書いていることを、そのまま紹介します。

吃音の研究プロジェクトのQ&Aは、働くうえでの配慮の例として、電話が難しい場合に他の人に電話をとってもらう人員配置の変更、口頭での報告・連絡・相談をメールに切り替えてもらうことを挙げています。ここでいう「合理的」とは、雇う側に大きすぎる負担を生じさせない範囲で、という意味だと説明されています。同じ資料は、業種や会社によってその範囲が狭いことがあるとして、車掌になってアナウンスだけ免除してほしいという要望は、代わりの人をもう一人乗せる必要が出るため大きすぎる負担にあたる、という例を挙げています。配慮を受けるには、吃音があることを伝えたうえで、どんな配慮を希望するのかを具体的に示して相談する必要がある、ともしています。

日本吃音・流暢性障害学会の解説は、社会人の場合、就労の環境はさまざまだとしたうえで、吃音について上司や同僚に相談することによって職場の配置や電話業務などで配慮を得られることがある、としています。学生については、発表などで配慮を求めたり、負担が大きいときに学生相談室のカウンセラーに相談したりすることが有効だろう、とも書かれています。

公的な窓口も用意されています。厚生労働省がまとめた就労支援の一覧には、ハローワークに配置された「精神・発達障害者雇用サポーター」が、障害の特性を踏まえた就職支援や、職場に定着するための支援を行うことが書かれています。同じ一覧には、地域障害者職業センターやジョブコーチによる支援など、段階ごとの入口が並んでいます。

話し方そのものについての相談先は、また別にあります。日本吃音・流暢性障害学会は、年齢や状態に合わせた指導を行う相手として、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員を挙げています。本人が希望する場合には言語聴覚士による発話訓練を受けるという選択肢があり、不安が強い場合にはカウンセリングや心理療法が役立つこともある、また自助団体に参加して他の吃音のある人と出会うことが気持ちの変化のきっかけになることもある、と書かれています。次のようなときは、一人で抱え込まずに相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。

  • 応募や面接の段階で行き詰まり、何度も見送られている
  • 働き始めたあと、特定の場面(電話・決まった挨拶・報告)だけが続けられない
  • 話しにくさのせいで、やってみたい仕事を最初から外すようになっている

アルバイト探しで陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「話さない職種」を選べば解決すると考える

職種の名前は入口の呼び名で、そこで何を言うことになるかは入ってから決まることがあります。キッチン希望で採用されて初日にホールへ回された記録も、厨房で「接客はしなくていい」と言われたのに忙しくなると表へ呼ばれた記録も、この記事の中にあります。就労を調べた研究も、話すことの少ない仕事に就いている状態を、本人の選択の結果とも、雇う側に狭められた結果とも読めると整理しています。選ぶときには、職種の名前ではなく「どの場面で、どんな決まり文句を言うことになるか」を面接で確かめるほうが確実です。

落とし穴2 − 伝えるかどうかを、一度きりの賭けだと考える

面接で先に伝えた条件では評価の差が見られなくなったという実験の結果がある一方で、伝えていなかったことを採用後に責められた記録もあります。どちらか一方だけを根拠に「必ず伝えるべき」「絶対に黙るべき」と決める必要はありません。伝える相手は面接官だけでなく、店長、一緒に働く人、と段階があります。カフェで働いた人は、面接で伝えたうえで「他の従業員にも話してほしい」という頼み方をしていました。日本の当事者を対象にした調査でも、自助グループの経験や自己受容の高さが、より高い開示の度合いと結びついていました。

落とし穴3 − 続かなかったことを、努力不足だと結論づける

辞めることが重なると、原因を自分の根性に求めてしまいがちです。ただ、場面を避けることが日々の役割を続けにくくする、という筋道は研究でも説明されています。周囲に吃音の知識がないことや、話しやすい環境への配慮がないことが、その思い込みを強めうるとも書かれています。何が起きた日に辞めたくなったのかを記録しておくと、次に職場を選ぶときや、相談するときの材料になります。

まずは、どの場面で言葉が出にくかったのかを書き留めておくところから小さく始め、相談できる窓口があるならそちらが確実です。

よくある質問

吃音があってもアルバイトはできますか?

この記事で紹介した5人は、焼き肉店、飲食店の厨房、スーパーのレジ、コンビニ、カフェ、ホームセンターの販売で実際に働いています。一方で、職種ごとの向き不向きを検証したデータは手元にありません。就労を調べた研究は、吃音のある人が就いている職業の偏りを、本人の選択とも雇う側に狭められた結果とも読めると整理しています。

応募の電話が怖いです。どうすればいいですか?

応募の電話そのものの乗り切り方について、この記事で根拠として示せる資料はありません。ただし働き始めたあとの電話については、他の人に電話をとってもらう人員配置の変更や、口頭の報告をメールに切り替えてもらうことが、職場に求められる配慮の例として挙げられています。上司や同僚に相談することで職場の配置や電話業務で配慮を得られることがある、ともされています。

面接で吃音のことを伝えたほうがいいですか?

模擬面接を使った実験では、伝えなかったときは吃音のある候補者が低く評価され、冒頭で伝えたときは吃音のない候補者との差が見られませんでした。ただし参加者は大学生で、吃音は演じられたものだという限界が原典に書かれています。実際には、伝えていなかったことを採用後に責められた記録も、伝えたうえで迎え入れられた記録も残っています。どちらも起こりうる、というのがいまの材料から言えるところです。

アルバイトでも配慮をお願いできますか?

アルバイトやパートという働き方に限った法律の解釈を、この記事では扱えません。一般には、働くうえでの配慮を求める根拠として障害者差別解消法が挙げられますが、私企業については配慮が法的な義務にはなっていないため、診断書があっても配慮されない場合があると説明されています。まずは公的な窓口に確認するのが確実で、ハローワークには専門の担当者が置かれています。

高校生で初めてのバイトです。何から見ればいいですか?

職種の名前より、「その仕事のどの場面で、どんな決まり文句を言うことになるか」を面接で確かめておくと、入ってからのずれが減ります。この記事の記録でも、希望と違う配置になったり、忙しいときに呼ばれたりする形で場面が変わっていました。話しにくさそのものの相談先としては、言語聴覚士やことばの教室が挙げられています。

まとめ

  • 職種の名前は入口の呼び名で、何を言うことになるかは入ってから決まることがある。就労の研究も、職業の偏りを本人の選択とも、雇う側に狭められた結果とも読めると整理している。
  • 面接の前に応募の電話がある。電話については、他の人に代わってもらう人員配置の変更や報告手段の変更が、職場に求められる配慮の例として挙げられている。
  • 模擬面接の実験では、伝えないと評価に差が出て、先に伝えるとその差が見られなくなった。ただし吃音のある候補者は全体として低く評価されてもいる。
  • 日本の当事者は米国の調査より打ち明ける度合いが低く、自助グループの経験や自己受容の高さが高い開示と結びついていた。
  • 場面を避けることが日々の役割を続けにくくする筋道は研究でも説明されている。続かなかったことを努力不足に帰さず、相談できる窓口を使う。

参考文献

  1. Gerlach, Totty, Subramanian & Zebrowski (2018) Stuttering and Labor Market Outcomes in the United States. J Speech Lang Hear Res.(アイオワ大学・パデュー大学)
  2. Mutlu & Cemali (2025) Assessment of occupational balance and life satisfaction in adults who stutter. BMC Psychol.
  3. Perez, Newman & Walmer (2025) Acknowledging a Stutter Affects the Impression One Makes in a Job Interview. Int J Lang Commun Disord.(シラキュース大学)
  4. Iimura, Takahashi, Aoki, Yoshizawa, Yanai, Miyamoto & Boyle (2026) Relationships between psychosocial aspects of stuttering and self-disclosure of stuttering in a Japanese sample. J Fluency Disord.(筑波大学ほか)
  5. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」
  6. 厚生労働省「発達障害者の就労支援」
  7. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「A05-4 職場での合理的配慮について」(2020年1月時点の記載)

当事者の声の出典: V0036(note・吃音歴30年の当事者の手記)/ V0001(note・26歳エンジニアの当事者の手記)/ V0151(NPO法人日本吃音協会・当事者の体験談)/ V0153(note・専門学校生だった当事者の手記)/ V0200(note・複数の職場を経験した当事者の手記)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開