まず結論から
- 「小児吃音外来」は、子どもの吃音を診るために病院が置いている専門外来の名前です。たとえば国立障害者リハビリテーションセンター病院では、言語聴覚士が参加する専門外来の一つとして小児吃音外来を置き、小児のことばの障害は耳鼻咽喉科を受診したうえで医師に相談する入口になっています。同じ病院の成人向けの外来は18歳以上が対象で、高校生は小児吃音外来で対応すると案内されています。
- 吃音が出はじめて間もない幼児の保護者が最初に受診するのは、耳鼻咽喉科・小児科が多いとされています。日本の「幼児吃音臨床ガイドライン」は、そこでの初期対応(問診票と診察)と、言語聴覚士へ紹介する分かれ目——吃音が出てから1年以上たっている、あるいは4歳を超えている——を示しています。
- 初診で見るのは話し方だけではありません。同じガイドラインは、保護者からの情報収集・本人との面談・検査・観察によって、ことばの力、社会的な面、気質や情緒の面まで多面的に評価するとしています。吃音の評価について専門家の合意で作られた指針も、評価の中核となる領域を6つ挙げています。
- 「様子を見ましょう」は放置ではありません。ガイドラインは経過観察の中身を、資料を渡して知識と関わり方を伝えること・家庭で日々の症状を記録してもらうこと・定期的な面談で記録をもとに変化を評価することと定め、1年の中で悪化があれば言語聴覚士につなぐとしています。
- 幼児の吃音を診られる専門家は足りていません。ガイドラインは、専門家のいる機関では初診まで数か月の待機になることが多いと書き、国の機関の特集は「医療崩壊状態と言ってもいいくらい」と表現しています。
ただし、ここに書ける外来の手続き——どの科を通るか、本人が予約できるか、対象年齢——は、案内を公開している一つの病院の、取得した時点の記載です。施設ごとに入口の型は違い、この記事は特定の施設を勧めるものでもありません。お子さんが今すぐ受診すべきかどうかの判断は、この記事ではなく、かかりつけ医や言語聴覚士に直接たずねてください。
「小児吃音外来」は、どの科の中にあるのか
「小児吃音外来」は、病院の診療科の名前ではなく、その病院が特定の症状のために置いている「専門外来」の名前です。だから、公式サイトの診療科の一覧に同じ名前が並んでいるとは限りません。どの科を通って、誰に会う外来なのかを、案内を公開している例で確かめておきます。
国立障害者リハビリテーションセンター病院の言語聴覚療法のページは、まず各診療科を受診し、医師から言語聴覚療法の指示が出た人に対して、個別または集団で言語聴覚療法を行うと説明しています。そのうえで入口を分け、成人のことばの障害と食べることの障害は各診療科を受診のうえ医師に相談、きこえの障害と小児のことばの障害は耳鼻咽喉科を受診のうえ医師に相談、と書いています。同じページには、言語聴覚士が参加する専門外来として、小児難聴外来・言語発達・構音障害外来・小児吃音外来・成人吃音相談外来の4つが並んでいます。つまりこの病院の場合、小児吃音外来は「耳鼻咽喉科を通って、言語聴覚士が参加する外来」として組まれている、ということです。
年齢の切れ目も案内に書かれています。同じ病院の成人吃音相談外来は18歳以上の人を対象とし、ただし高校生は「小児吃音外来」で対応すると明記しています。成人向けの初診日には問診票の記入・診察・吃音の検査を行い、後日その結果を見ながら言語訓練の方針を立てる、とも書かれています。「小児」と付いていても、幼児だけの外来ではなく、高校生までの窓口として置かれている例がある、ということです。
ここで大事なのは、入口の型は施設ごとに違うことです。上の例は「診療科を受診して医師の指示を得る」型ですが、同じ病院の成人向け外来は本人が予約センターで予約を取る型ですし、大学病院には医療機関からの紹介と予約が要る型もあります。紹介状から初診までの順路は九州大学の吃音外来の記事に、「そもそも何科なのか」という一般論は「吃音は何科・どの病院?」に書きました。この記事は、外来という場所に着いてから何が起きるかのほうを扱います。
もう一つ、前提として知っておきたいことがあります。幼児の吃音の相談が寄せられる先は、保健センター、幼稚園・保育園・認定こども園、小児科、耳鼻咽喉科、ことばの教室など多岐にわたりますが、そのほとんどには言語聴覚士がいない、と国立障害者リハビリテーションセンターの特集は書いています。言語聴覚士は、聞こえ・ことば・飲み込みの障害を検査や訓練で支援する国家資格の専門職で、日本の「幼児吃音臨床ガイドライン」も、症状の評価と治療を担当するのは言語聴覚士だと位置づけています。「小児吃音外来」を探す人が本当に探しているのは、この専門職に会える場所です。ただし言語聴覚士の全員が吃音を扱うわけではないので、探し方は「吃音と言語聴覚士」を参照してください。
かかりつけの小児科で「小学校まで様子を見ましょう」と言われた
子どもの話し方が気になったとき、多くの保護者が最初に相談するのは、いつも行っているかかりつけ医です。ところが、そこで返ってくる答えは、専門外来の答えと同じとは限りません。
吃音のある幼稚園児の息子の母(記事内では「Aさん」。長野県の市から札幌市へ転居/北海道吃音・失語症ネットワーク公式noteのインタビュー。聞き手は同団体の代表)
それで、息子が「吃音かも」ってなったときに、そのことを幼稚園の先生に伝えたら、そのS Tの先生に繋いでもらうことができたんです。
一応、かかりつけの小児科の先生にも息子の吃音について相談したんですが、「吃音に触れちゃいけない。小学校に上がるまで様子を見ましょう。」と言われたんですよね・・・。でも、そのS Tの先生は、「それはいけない。そうじゃないんだ。」ということをおっしゃっていたので、そのSTの先生にお世話になることにしました。
この母親が住んでいた長野県の幼稚園では、ある言語聴覚士(ST)が自分で作った吃音のプリントを、自ら園に足を運んで毎年配っていました。母親はそのプリントで「もし子どもに吃音があったら、すぐに相談しよう」と覚えていたので、息子の話し方が気になったとき、園の先生に伝えてその言語聴覚士につながることができました。同じ時期にかかりつけの小児科にも相談しましたが、返ってきたのは「吃音に触れてはいけない、小学校に上がるまで様子を見ましょう」でした。言語聴覚士はそれを否定し、母親は言語聴覚士のほうを選んでいます。その後、札幌に転居してから小児精神科に電話をかけたときには、予約待ちが多くてすぐには受診できないことと、何度も通院する必要があることを告げられた、とも語っています。同じ子どもについて、窓口ごとに違う答えが返ってくる——この食い違いをなくすために作られたのが、日本の「幼児吃音臨床ガイドライン」です。
出典: 「全てが曖昧で、情報に振り回されて大変でした。」吃音がある幼稚園児のお母様にインタビューしました。(北海道吃音・失語症ネットワーク)(台帳: V0075)
幼児吃音臨床ガイドラインは、読み手として、幼児の吃音に接する機会がある医師——主に小児科医と耳鼻咽喉科医、児童精神科医——と、症状の評価と治療を担当する言語聴覚士、保健センターなどで吃音の相談を受ける保健師を想定しています。ふだん吃音を多く見ているわけではない臨床家でも、標準的な手順にしたがって対応できるようにすることが、このガイドラインの大きな目標の一つだと書かれています。つまり、かかりつけの小児科こそが、このガイドラインが最初に届けたかった相手です。
そこで示されている「病院・クリニックに吃音を主訴とする幼児が来たときの対応」は、次のような手順です。吃音が出はじめて間もない幼児の保護者は、耳鼻咽喉科・小児科を受診することが多い。問診票を使って吃音についての情報と、運動・知的・社会性といった全般的な発達、ことばの発達を確認し、診察で発声・発語の器官に問題がないか、別の問題が一緒にあるかを調べる。そのうえで、明らかに吃音と診断でき、吃音が出てから1年以上たっている、あるいは4歳を超えている場合は、言語聴覚士などへ紹介して詳しい評価や助言・指導を依頼する。吃音はあるが軽度のままで、かつ出てから1年以内・4歳未満の場合は、家庭でできる対応のリーフレットを渡して助言し、数か月ごとにフォローする。経過観察で改善がみられなければ言語聴覚士などを紹介し、初診の時点で保護者の不安が強い・別の問題が一緒にあるなどの場合は早めの紹介を考える。
そして、この手順には注意書きが付いています。短時間の診療の場面では吃音の症状が出ないことが多いが、保護者は心配して来院しているのだから、安易に「吃音なし」「心配なし」と決めつけないでほしい、というものです。上の母親が小児科で言われた「吃音に触れてはいけない」という助言についても、日本吃音・流暢性障害学会の解説は、昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流だったが、今はそのような考え方は否定されている、とはっきり書いています。「小学校まで様子を見ましょう」という言葉だけを受け取って帰ることになったら、その様子見が、ガイドラインの言う「数か月ごとのフォロー」を含んでいるのかどうかを、その場で聞いてみてください。
初診の日、診察室で子どもは何をされるのか
「行ってみないと分からない」がいちばん怖い、という保護者は多いはずです。初診の日に何を聞かれ、子どもは何をするのか。児童精神科(子どもの心と発達を診る診療科)を受診した父親が、その日のことを順に語っています。
当事者の父(YouTube名義「二か月のパパ」・43歳・シングルファザー。息子は5歳/たまひよの育児インタビュー)
しばらく様子を見ていましたが、症状が続いていたので年中になる少し前に児童精神科を受診することにしました。問い合わせてから2週間後に予約ができ、意外とスムーズだったと思います。診察室では、これまでの生い立ちや家庭環境について話しました。体質的要因が強い可能性があるために聞かれることだそうです。
かるたのようなカードを使って「これは何してる?」と医師が質問して、息子が答えるというテストのようなものをしていました。その結果、発達的要因が強く、症状もそこまで重くないから様子を見ましょう、もっとひどくなるようなら来てください、とのこと。さらに、周囲の人が気をつけることも教えてもらいました。
息子が2歳半ごろにどもるようになり、3歳児健診で相談して、しばらく様子を見た父親です。年中になる少し前に児童精神科を予約し、2週間で受診できています。診察室で聞かれたのは、これまでの生い立ちと家庭環境。子どもがしたのは、かるたのようなカードを見て医師の質問に答える課題でした。持ち帰ったのは「様子を見ましょう、ひどくなるようなら来てください」という判断と、周囲が気をつけること——子どもの話をゆっくり聞く、「ゆっくり話して」と注意したり言い直させたりしない、話すことが楽しいと思えるように聞く——の3つです。5歳を過ぎた今はだいぶスムーズになったが吃音が出る日もあり、入学前にもう一度相談するつもりだ、と続けています。ここで行われた「聞き取り+子どもとの課題+様子見の判断+接し方の助言」という組み立ては、ガイドラインが評価の中身として定めているものと重なります。
出典: シングルで育てる息子。2歳半ごろからどもるようになり、吃音が出るように。心配で調べまくった・・・【YouTuber・二か月のパパ】(たまひよ)(台帳: V0049)
幼児吃音臨床ガイドラインは、幼児期の吃音の評価について、発話の症状だけでなく、ことばの力、社会的な面、気質や情緒の面など多面的・包括的に評価する必要があるとし、臨床家が行う評価は、保護者からの情報収集と、本人との面談、検査、観察によるものだとしています。この時期に別の問題が一緒にある兆候を見逃さないように調査票に項目を加え、ことばの検査や全般的な発達の検査は目的に応じて適切なものを選ぶ、とも書かれています。上の父親が生い立ちや家庭環境を聞かれ、子どもがカードの課題をしたのは、この「情報収集」と「面談・検査・観察」にあたります。
何を見るのかをもう少し細かく言うと、吃音の評価について専門家の合意から共通の領域を抽出した国際的な指針は、包括的な評価に含めるべき中核の領域として6つを挙げています。吃音に関する背景の情報、ことば・言語・気質の発達(特に幼い子どもで)、発話の流暢さと吃音の出方、吃音に対する本人の反応、周囲の人の反応、吃音が生活に及ぼしている支障、です。話し方は6つのうちの1つで、残りは「本人と周りに何が起きているか」を見るための項目です。ドイツの診療ガイドラインは、客観的な評価のために、つながった発話を少なくとも300音節ぶん、複数の場面で録音または録画して分析するとしています。検査で何を数え、何が分からないのかは「吃音検査法とは?」にまとめました。
初診の日に一つ、起きやすいことがあります。発達障害ナビポータルの解説は、保護者が症状を強く疑って相談に行っても、実際にその子と話すと思ったほど症状が出ないことが多いとし、その流暢な様子に相談を受けた側が「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と声をかけることは、養育者にとってプラスに働くことが少ないと書いています。ガイドラインが「短時間の診療場面では症状を示さないことが多い」と念を押しているのも同じ理由です。家で出ているときの短い動画や、いつ・どんな場面で出るかのメモを持っていけば、診察室で出なかった日の材料になります。持ち物の考え方は「吃音の相談先」に書きました。
「様子を見ましょう」と言われたあと、外来では何が始まるのか
初診で「様子を見ましょう」と言われると、何もしてもらえなかったように感じるかもしれません。けれど専門の窓口の「様子見」には中身があり、そこから通い始める子もいます。4歳半から外来に通った子の母親が、その中身を書き残しています。
当事者の子の母(名義「いちひろママ」・2兄弟の母。長男は記事時点で6歳/個人ブログ note)
他にも色々やりましたが、覚えているものを書きました。
訓練中はずっと、言葉をゆっくり言うことで、詰まらずに言う成功体験を増やそうという感じでした。
先生も優しくて、本人は月に1、2回楽しく療育に通えたと思います。
長男が4歳のころ、吃音が出るのは興奮しているとき、急いでいるとき、おままごとで説明しているとき、物の名前が出てこないとき。喋りづらいときがあるか本人に聞くと「ない」と答え、気にしていない様子でした。母親はまず療育センター(発達に支援の要る子どもを指導・支援する施設)に相談に行き、そこで受けた説明——原因の多くは子どもがもともと持っている体質に関係するとされ、育て方が原因ではないこと、多くの子は成長とともによくなること、話し方のアドバイスはしないこと——を項目ごとに書き留めています。そして4歳半から吃音の外来療育に通えることになり、鏡を見ながらの口の体操、先生が言った文や数字の復唱、サイコロを3つ振って文をつくる、しりとり、日記をゆっくり読む、といった課題を月に1、2回。引用はその一覧の末尾です。5歳から6歳にかけては、うまく話せる時期もあったが全く出ないときはなく、最初のことばが出ない難発(ことばが出ずに間があく型の吃音)も出始めた、と続きます。「まず様子を見て、決まった間隔で通いながら判断する」というこの順序は、ガイドラインが幼児期の進め方として定めているものです。
出典: 【吃音】4歳から6歳の様子と言語療育(note)(台帳: V0184)
幼児吃音臨床ガイドラインは、月2回以上の指導を「積極的な介入」と呼び、それを始めるタイミングを園の学年で区切っています。3歳児クラス(年少組)までは経過観察的な支援を基本とし、4歳児クラス(年中組)では開始を検討し、5歳児クラス(年長組)では開始を推奨する。そのうえで、症状の重さや改善の傾向、保護者の状況、専門機関の受け入れ状況によっては前倒しも先延ばしもありうる、とも書いています。理由は両側にあります。あまりに早く始めると、自然に治ったであろう多くの子に不要な介入をすることになりかねず、遅すぎると、効果的な指導を受けられないまま就学を迎える子が多く出てしまう。学年ごとの目安の読み方は「3歳の吃音はいつまで様子見?」に詳しく書きました。
では、積極的な介入を始めるまでの「様子見」の期間に、外来は何をするのか。ガイドラインの答えは具体的です。保護者が過度に心配しないように資料を提供しながら、吃音の知識と家庭・集団での望ましい関わり方を伝え、定期的な面談で経過を見る。経過観察中は家庭で日々の吃音の症状を記録してもらい、面談ではその記録をもとに症状の変化を評価する。1年たつ中で悪化が認められる場合は、言語聴覚士につなぐ。上の母親が療育センターで受けた説明と、家で書き留めた「出るとき・出ないとき」の記録は、この設計とそのまま重なります。ガイドラインは、経過観察の中でこの時期の症状の変化を捉えることが重要だとも述べています。
通い始めたあとの見きわめにも目安があります。介入を始めたら、開始後3か月を目安に、吃音の重さに改善の傾向があるかどうかで続けるかを判断する、とガイドラインは示しています。どのくらい通うのかについて、ガイドラインが紹介している海外の報告では、保護者が家庭で毎日行う方法(リッカム・プログラム)を受けた868人のうち、最初の段階を終えるまでの来院回数は半数が16回以下、9割が28回以下で、週1回なら約4か月と約7か月にあたり、その後の第2段階には通常1年かそれ以上かかるとされています。上の母親の「月に1、2回」は、この「積極的な介入」の頻度に近い通い方です。方法ごとの中身と家庭が毎日やることは「小児の吃音治療」に譲ります。
海外の指針も、順序は同じです。ドイツの診療ガイドラインは、3〜6歳の子どもは吃音が始まってから6〜12か月は経過観察し、その期間を過ぎても続くなら治療を始めるとしたうえで、持続の危険因子がいくつも重なる場合、症状に制御の喪失や努力の増大を伴う長いものが含まれる場合、症状が親や子にとって負担で回避行動を生んでいる場合には、直ちに始めるべきだとしています。同時に、就学前に治療を終えることを目指すが完全な回復は保証できない、とも明記しています。
病院の外来と「ことばの教室」は、何が違うのか
子どもの吃音の相談先には、病院の外来のほかに「ことばの教室」という名前が必ず出てきます。同じことをする場所なのか、どちらに行くべきなのか。病院に相談したことのある母親が、園から紹介されたことばの教室に足を運んで、その違いを書いています。
4歳の息子の母(名義 Muu・フルタイム勤務の会社員・シングルマザー/個人ブログ note)
実際に行ってみて驚いた。
病院のようなバタバタした空気感ではなく、そこにはとても穏やかな時間が流れていた。
先生の話し方も柔らかく、何より“子ども自身”をすごく丁寧に見てくれる。
息子の吃音は、かなり改善してきている実感があった時期でした。通っている子ども園から「もしまだ気になることがあれば」と市町村のことばの教室を紹介され、病院以外の場所の考え方や支援も知ってみたい、と行ってみたのがこの日です。印象に残ったのは、先生が言った「もし吃音を誰かに言われて嫌な気持ちになった時は、一緒に作戦会議をするんです」という言葉でした。治すだけでなく子どもの心を守る、という視点にこの母親は感動しています。結果として、この家では継続して通うことにはなりませんでした。それでも、吃音という不安に寄り添ってくれる場所がちゃんと存在すると知れたことが大きかった、実際に足を運んで空気を感じたうえで取捨選択できた、と書いています。病院の外来と、教育や福祉の側にある教室は、同じ子どもを違う入口から支える場所として、公的な案内でも並べて示されています。
出典: :子どもの“吃音”ことばの教室を体感して感じたこと🕊️(note)(台帳: V0080)
日本吃音・流暢性障害学会の解説は、専門家による助言・指導として、周囲のコミュニケーション環境を整える方法や、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法など年齢や状態に合わせた指導を挙げたうえで、相談先を「小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員」としています。医療の側の入口が言語聴覚士で、教育の側の入口がことばの教室の教員、という並びです。
ことばの教室にたどり着く経路は、病院とは別です。国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターは、通っている学校か地域の教育委員会に相談すれば、その地域の学校に設置されている「ことばの教室」などを紹介してもらえるとし、学校以外で吃音の相談を受け入れている専門機関については、各都道府県の言語聴覚士会や発達障害者支援センターに問い合わせるとよい、と案内しています。病院の外来は「診療科を受診して医師の指示を得る」型で入り、ことばの教室は「学校か教育委員会に相談する」型で入る——手続きの経路そのものが違います。
どちらかが上、という関係ではありません。幼児吃音臨床ガイドラインが「戦略的」と名乗るのは、吃音の専門家が少ない現状で、できるだけ多くの子が相談・治療の機会を得られるように、役割を分担する設計だからです。自然に治る力を生かすために直接的な治療に入る時機を妥当な範囲で遅らせること、吃音の治療に慣れていない施設でも重さのおおまかな見分けと軽い子の数か月ごとの経過観察ができるように情報を提供して治療機関との連携を進めること、重い子にも対応できる施設とそうでない施設で分担する体制をつくること、が優先順位として挙げられています。国の機関の特集も、一般の相談・診療機関が吃音の詳しい説明と、できれば経過観察も担当し、必要を見きわめて治療施設に紹介する連携が必要だと述べています。園から紹介された教室で経過を見てもらい、必要になったら外来へ——上の母親がたどった順路は、この分担の中にあります。5つの入口の全体像は「吃音の相談先」にまとめています。
小学校に上がったら——通級の申し込みは学校と教育委員会
就学前の外来やことばの教室は、幼稚園・保育園を出るところで一区切りになることがあります。小学校に上がったあとの「ことばの教室」は、在籍する学級とは別に、決まった時間だけ通って指導を受ける「通級」という仕組みで、申し込みの経路も変わります。保護者どうしの集まりで、その手順を話した記録があります。
保護者の発言(社会福祉法人各務原市社会福祉事業団が開いた「吃音のつどい」座談会の記録。15家族が参加し、氏名は非公開)
入学の時に、市内の通級(通級指導教室)や支援学級の一覧表がもらえた。利用希望は市の教育委員会に相談し面談がありその後通知が来て開始した。自分の学校に通級がない場合は、親が地区の学校に送迎が必要。週1回教科の1時間分。その時間は欠席扱いにはならない。自分の学校内に通級があると親の送迎は不要。利用に際しては子どもの気持ちを聞いてみること。クラスで緊張状態が続いているようなら、息抜き的に利用する方法もあるし、途中でやめてまた再開することもできる。
岐阜県各務原市の社会福祉事業団が3年ぶりに対面で開いた座談会の記録で、「通級はどうやったら通えるの?通った方がいいの?」という問いへの、ある保護者の答えです。入学時に一覧表をもらう、教育委員会に相談する、面談を受ける、通知が来て始まる。週1回、教科1時間ぶんで、その時間は欠席扱いにならない。自分の学校に無ければ親が送迎する。続けて別の保護者が、クラスでは発言が少ないが通級だと家と同じくらいリラックスして先生と話せるので通っている、子どもというより親が先生と話すことで安心している面が大きい、と語っています。医師の診察も検査も出てこない、教育の側の手続きです。国の公的機関の案内も、ことばの教室への入口を学校と教育委員会に置いています。
出典: 第8回「吃音のつどい」を開催しました!(社会福祉法人各務原市社会福祉事業団)(台帳: V0083)
就学は、幼児期の吃音の見きわめにとっても節目です。日本耳鼻咽喉科学会の会報に載った総説は、吃音が出はじめてから2〜3年程度までの経過で7割以上が自然に治るため、幼児期には楽に話せる環境を整えながら経過を追い、発話に苦悶や努力・悪化の傾向があるか、就学1年前ごろになっても改善の傾向がない場合に言語治療を開始する、としています。ドイツの診療ガイドラインも、子どもでは就学前に治療を終えることを目指す、と書いています。幼児吃音臨床ガイドラインは、健診について、3〜3歳半の健診では吃音が出てから半年〜1年程度の変動の大きい時期にあたることが多いため「様子を見ましょう」と言われることが多いと述べ、一部の自治体で行われている5歳児健診を、就学前からの介入が重要な子を見つけ出すのに有効な仕組みだとして、今後の広がりに期待しています。
小学校に上がったあとも、病院の外来が閉じるわけではありません。国立障害者リハビリテーションセンター病院の案内では、高校生までが小児吃音外来の対象です。中学校にも「ことばの教室」は少しずつ設置されてきている、と公的機関は書いています。就学後は、学校の通級と病院の外来という2つの経路が並ぶことになります。どちらを使うか、両方を使うかは、その地域に何があるか、そして上の記録にあるように「子どもの気持ちを聞いてみること」で決まっていきます。
予約はどのくらい待つのか、そして相談を考える目安
専門の外来は、申し込んでからすぐに会えるとは限りません。幼児吃音臨床ガイドラインは、吃音の専門家がいる機関には症状の軽重にかかわらず多くの子が来るため、初診までに数か月の待機になってしまうことが多く、治療を急ぐ必要がある子に選択的に対応することがなかなかできない、と現状を書いています。国立障害者リハビリテーションセンターの特集は、吃音になる幼児の10分の1だけが医療機関を受診するとしても全員を診られるだけの専門家はおらず、幼児の吃音についてはすでに医療崩壊状態と言ってもいいくらいだ、と表現しています。同じ病院の成人向け外来も、受診希望の方が多く予約が取りにくくなっていると案内しています。上の父親のように2週間で受診できた例もあれば、半年待ちの例もあり、待たされる理由は受け皿の側にあります。待つあいだの過ごし方と実例は「吃音の相談先」と九州大学の吃音外来の記事にあります。
だからこそガイドラインは、専門でない施設が「様子見」を担うことを前提にしたうえで、その様子見が放置にならないように中身を定めています。吃音を専門としていない施設での経過観察はしばしば放置も同然となる場合があり、その間に保護者の不安が解消されず、重症化したり、治療を受けないまま就学したりする可能性も無視できない、とガイドライン自身が書いているからです。待っている期間に家庭で症状の記録をつけておくことは、その待ち時間を面談の材料に変える方法でもあります。
次のようなときは、学年にかかわらず、様子を見るだけで抱え込まず相談を考えてみてください。診療ガイドラインや学会誌が、待たずに治療を検討する条件として挙げているものです。
- ことばを出すときに苦しそうな努力や力みが目立ち、症状が悪化する傾向がある
- 症状が本人や家族にとって負担になっていて、話す場面を避けるようになっている
- 家族に吃音のある人がいるなど、続きやすさの手がかりがいくつも重なっている
- 就学の1年ほど前になっても、改善の傾向が見えない
この4つは、原典が「治療を直ちに始める」「言語治療を開始する」条件として挙げているものを、相談を考えるきっかけとして並べ直したものです。当てはまらなくても相談して構いませんし、当てはまるかどうかの判断は、かかりつけ医や言語聴覚士に直接たずねてください。
小児吃音外来をめぐって陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「様子を見ましょう」を「何もしなくていい」と受け取る
ガイドラインの「経過観察」には、資料の提供・家庭での日々の記録・定期的な面談・1年の中で悪化があれば言語聴覚士につなぐ、という中身があります。一方で、専門でない施設の経過観察は放置も同然になる場合があると、同じガイドラインが認めています。「様子を見ましょう」と言われたら、次はいつ来ればいいか、家で何を記録すればいいかを、その場で聞いて帰ってください。答えが無ければ、その様子見は放置に近いものです。
落とし穴2 − 診察室で出なかったから「軽い」と思ってしまう
短時間の診療場面では症状が出ないことが多い、とガイドラインは臨床家に念を押しています。相談の場で流暢に話す子に「気にならないですね」と声をかけることは養育者にとってプラスに働くことが少ない、と公的サイトも書いています。出なかった日の結果を、自分でも「軽い」の証拠にしないでください。家で出ているときの記録と短い動画を持って、もう一度相談する材料にしてください。
落とし穴3 − 一つの病院の手続きを、すべての外来に当てはめる
この記事で引いた「耳鼻咽喉科を受診して医師に相談する」入口も、「高校生までが小児側」という年齢の切れ目も、案内を公開している一つの病院の、取得した時点の記載です。同じ病院の中でも、成人向けの外来は本人が予約センターで予約を取る型です。行きたい施設のページを開き、対象年齢と予約の入口を確かめ、必要なら電話で聞く——遠回りに見えて、これがいちばん早い道です。
どの入口から入るにしても、土台になるのは日々の記録です。経過観察では家庭での記録をもとに症状の変化を評価するとガイドラインは定めています。まずは、どんな場面で出やすいか・どのくらい続いているかを書き留めておくことから小さく始め、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
小児吃音外来は何科にありますか?
「小児吃音外来」は診療科の名前ではなく、病院が置いている専門外来の名前です。国立障害者リハビリテーションセンター病院の案内では、小児のことばの障害は耳鼻咽喉科を受診したうえで医師に相談する入口で、言語聴覚士が参加する専門外来として小児吃音外来が置かれています。幼児吃音臨床ガイドラインも、吃音が出はじめて間もない幼児の保護者は耳鼻咽喉科・小児科を受診することが多いとしています。ただし入口の型は施設ごとに違うので、行きたい施設の案内で確かめてください。
初診では何をしますか?
幼児吃音臨床ガイドラインは、保護者からの情報収集と、本人との面談、検査、観察によって、発話の症状だけでなく、ことばの力、社会的な面、気質や情緒の面まで多面的に評価するとしています。専門家の合意による国際的な指針も、背景の情報・発達・吃音の出方・本人の反応・周囲の反応・生活への支障の6つの領域を挙げています。短時間の診療場面では症状が出ないことが多いので、家での様子の記録や短い動画があると材料になります。
「様子を見ましょう」と言われました。いつまで様子を見るのですか?
幼児吃音臨床ガイドラインは、年少組までは経過観察的な支援を基本とし、年中組では月2回以上の積極的な介入の開始を検討し、年長組では開始を推奨する、としています。経過観察のあいだは、家庭で日々の症状を記録し、定期的な面談でその記録をもとに変化を評価し、1年の中で悪化が認められれば言語聴覚士につなぐとされています。就学の1年ほど前になっても改善の傾向がない場合は言語治療を開始する、という目安も学会誌に示されています。
病院の外来と、ことばの教室は、どちらに行けばいいですか?
どちらかが上という関係ではなく、入口の経路が違います。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、相談先として小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員を並べています。ことばの教室は、通っている学校か地域の教育委員会に相談すれば紹介してもらえ、学校以外の専門機関は各都道府県の言語聴覚士会や発達障害者支援センターに問い合わせるとよいとされています。幼児吃音臨床ガイドラインは、専門家が少ない現状を前提に、一般の施設が軽い子の経過観察を担い、重い子に対応できる施設と分担する設計を示しています。
予約はどのくらい待ちますか?
幼児吃音臨床ガイドラインは、専門家のいる機関では初診までに数か月の待機になることが多いと書いています。国立障害者リハビリテーションセンターの特集は、幼児の吃音についてはすでに医療崩壊状態と言ってもいいくらいだと表現し、一般の相談・診療機関が説明と経過観察を担って必要に応じて紹介する連携が必要だとしています。待つあいだは、家庭で症状の記録をつけておくと、面談の材料になります。
まとめ
- 「小児吃音外来」は診療科ではなく専門外来の名前。案内を公開している例では、小児のことばの障害は耳鼻咽喉科を受診して医師に相談する入口で、言語聴覚士が参加する外来として置かれ、高校生までが小児側の対象。入口の型は施設ごとに違う。
- 吃音が出はじめて間もない幼児の保護者は耳鼻咽喉科・小児科を受診することが多く、ガイドラインはそこでの初期対応と、言語聴覚士へ紹介する分かれ目(出てから1年以上/4歳超)を示している。「吃音に気がつかせない方がよい」という旧来の対応は否定されている。
- 初診で見るのは話し方だけではない。保護者からの情報収集・本人との面談・検査・観察で多面的に評価する。評価の中核となる領域は6つ。診察室で出なかった日を「軽い」の証拠にしない。
- 「様子見」には中身がある。資料の提供・家庭での日々の記録・定期的な面談・1年の中で悪化があれば言語聴覚士へ。積極的な介入は年少=経過観察、年中=検討、年長=推奨。始めたら3か月を目安に見きわめる。
- 病院の外来とことばの教室は、入口の経路が違う別の場所。ことばの教室は学校か教育委員会に相談すれば紹介される。相談先は小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員。就学後は学校の通級と病院の外来が並ぶ。
- 専門家は足りず、初診まで数か月の待機になることが多い。国の機関は「医療崩壊状態」とまで書く。待つあいだの記録が、面談の材料になる。
