まず結論から
- 吃音には調子の「波」があります。学会の解説は、調子が良い状態あるいは悪い状態が数週間〜数か月にわたって続く人も多く、この症状の変動を(調子の)「波」と呼ぶと説明しています。慶應義塾大学病院の解説も、症状が出やすい時期と出づらい時期があること(波現象)を、中核症状の特徴のひとつとして挙げています。
- 4月に増えたからといって、「悪化」と呼ばなくてかまいません。九州大学病院の医師は保護者に対して、「吃音が悪化する」「吃音がひどくなる」ではなく「吃音が増える」という中立的な言葉のほうが良いと伝えています。
- 学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受けるリスクがそのたびに生まれます。担任の先生・養育者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになるとされています。4月は、その一巡目にあたります。
- 面談の場で症状が出ないのは、よくあることです。その流暢に話す様子を見て「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と言われても、それは養育者にとってプラスに働くことは少ないと指摘されています。
- 教室のなかでの立ち位置は、吃音が重いか軽いかでは決まっていません。英国の小中学生を対象にした調査は、行動の枠や学級での立場の割り振りが吃音の重症度によらないことを報告しています。
ただし、この「波」がなぜ起きるのかは、まだ解明が進んでいません。だからこの記事も、4月の増え方から先の見通しを言い当てることはできません。できるのは、言葉の使い方を整えること、確かめる相手と項目を決めておくこと、そして例年と違うと感じたときに相談へ向かう判断材料を持っておくこと——この3つまでです。
4月に増えるのは、たいていの場合「波」の一部
新学期に増えたとき、多くの家庭がまず「何がいけなかったのか」を探し始めます。ところが、吃音を長く記録してきた保護者の手記を読むと、増える時期にはいくつかの決まったパターンがあることが書かれています。2歳5か月で始まった娘さんの吃音を3年間観察し続けた母親は、その「悪くなるタイミング」を2つに整理していました。
保護者の声(2歳5か月で吃音が始まった娘の母。娘は記事執筆時点で年長/個人ブログ note)
悪化するタイミングのパターンとして感じたのは下記でした。
・風邪を引いたタイミングで悪化し、しばらく長引く
・進級などのストレスがかかるタイミングで悪化する
風邪に関しては喘息も持っているので、風邪をひくたびに
「喘息が悪化しないかな」
「せっかく落ち着いた吃音また出ちゃうかな」と
毎回心がざわざわしていました。
風邪に関しても保育園に通っていると不可抗力なところはありますし、進級など明らかにストレスがかかる時期に関しても、できることは家を安心できる環境にするということぐらいなので、とてももどかしかったです。
3年分を見渡したうえでの整理です。この母親は同じ記事のなかで、症状が良くなったり悪くなったりの波はあったものの、始まった最初の1〜2週間ごろほど症状がひどく出ることはその後二度と無かったと書き、その経過を、縄を上下に大きく揺らしたときにできる模様——大きな上下がありながら、俯瞰すると少しずつ収まっていく形——にたとえています。進級は、その大きな上下が来るタイミングとして名指しされた2つのうちの1つでした。もどかしさの中身もはっきり書かれています。風邪も進級も、親が止められるものではない。できることは家を安心できる場所にしておくことくらいだ、と。この「波」という見方は、専門機関の解説でも同じ言葉で説明されています。
出典: 娘の吃音、はじまりとおわり(note)(台帳: V0079)
日本吃音・流暢性障害学会の解説は、吃音の特徴として、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりすることを挙げています。たとえば歌を歌うとき、2人で声を合わせるとき、独り言を言うときなどは、一時的ですが流暢になる人が多いとされています。そのうえで、調子が良い状態あるいは悪い状態が数週間〜数か月にわたって続く人も多く、このような症状の変動を(調子の)「波」と呼ぶ、と書かれています。
慶應義塾大学病院が公開している解説も、繰り返し(連発)・引き伸ばし(伸発)・ブロック(難発)という中核症状に共通する特徴として、4つを並べています。特定の単語や音、行をより苦手とすること(一貫性)、症状が出やすい時期と出づらい時期があること(波現象)、どもった単語を一度言えてしまうとその後は言いやすくなること(適応効果)、話すときに首や手足が動いてしまうこと(随伴症状)です。「出やすい時期と出づらい時期がある」ことは、症状そのものの性質として書かれているということです。
だから、4月に増えたことを「去年からやってきたことが間違っていた証拠」として読む必要はありません。数週間から数か月の単位で調子が変わることは、この障害の説明のなかにあらかじめ書き込まれています。
担任も友達も変わった、その次の週に
増える時期のなかでも、進級の直後は輪郭がはっきりしています。冬のあいだはまったく出ていなかったのに、4月に入って数日で戻ってきた——そういう記録は、幼稚園の年中組に上がった4歳の子の家庭にもあります。
保護者の声(3姉妹の母。三女が4歳で年中組に進級/個人ブログ・アメブロ)
吃音が良くなってきた三女でしたが、最近また吃音が出てきました。年中さんになり担任の先生もお友達も変わったからかもしれません。
この母親は続けて、ここ数日は特に吃音が出ていて、自分の名前も最初の1文字目を何度も繰り返すので、話を聞くのにも時間がかかると書いています。その前の時期についても記録があります。12月半ばから3月ごろまでは吃音がまったく出なくなり、治ったのかなと思っていた。そのうえで、こう波があると療育に通うかどうかの判断が難しい、とも書き残しています。増えたあとにしたことも具体的です。幼稚園の連絡帳に吃音のことを書き、友達にからかわれたりしないような配慮と、先生に話すときも言葉が詰まるので温かく見守ってほしい旨を伝えて提出した。姉2人が話に割り込んでしまうという家のなかの事情まで含めて、4月の数日のあいだに起きたことが一続きで記されています。担任もクラスメイトも入れ替わるという環境の変化は、学校でも園でも、毎年同じ時期にやってきます。
出典: 三女★吃音症(アメブロ「3姉妹のママライフ〜あせらずゆっくりと〜」)(台帳: V0183)
発達障害ナビポータルの解説は、小学校以降の支援を「毎年のリスクマネジメントの積み重ね」という見出しで説明しています。吃音のある子どもは発話場面でしか症状が出ないため、悩みが過小評価されることが多い。他の子どもから話し方を真似されたり、笑われたり、「なんでそんな話し方なの?」と質問されることが多い。そして、学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受けるリスクがあるため、早期発見とその対応法をオープンに話すことが予防につながる、としています。この枠組みそのものについては吃音のリスクマネジメントの記事で詳しく扱っています。
ここで、家のなかで使う言葉を一つ変えておくことを勧めている資料があります。九州大学病院の医師が保護者向けに書いた連載の第2回で、まず言葉遣いを変えることが大事だといつも伝えている、として、「吃音が悪化する」「吃音がひどくなる」という言葉ではなく、「吃音が増える」という中立的な言葉が良いと述べています。同じ箇所で、「吃音が改善する」ではなく「吃音が減った」という言い方を自分は使うようにしている、とも書かれています。理由も書かれています。表面上の吃音の状態に保護者の心理が左右されるのではなく、話すという行為の内面にある「話したい気持ち」を育てることを重要視すると良い、というのがこの提案の趣旨です。
先ほどの母親が書いた「吃音が酷くて」という言葉は、4月に増えたときの実感としてごく自然なものです。それでも、家の外で——連絡帳や面談で——使う言葉を「増えています」に置き換えておくと、伝えたい事実(回数が増え、話し終わるまで時間がかかる)はそのまま残り、良し悪しの判定だけが落ちます。同じ連載は、調子の良い日と悪い日がある波について、いまだに自分でもいつ調子が良くなるのか悪くなるのか分からない、と書き手自身の40年を引き合いに出して説明しています。
4月の面談で、担任に何を伝えるか
4月には、新しい担任と話す機会が短期間のうちに用意されます。家庭訪問、個人面談、保護者会。ここで何を伝えておくかは、その年の1年を左右します。小学校入学のタイミングで担任と連携をとった家庭の記録を見てみます。
保護者の声(元保育士の母。長男は2歳ごろに吃音が始まり、記事執筆時点で8歳/個人ブログ「KABろぐ」)
小学校に入ると、環境が大きく変わります。
新しい友達、先生、集団生活。
その影響を心配し、学校の個人面談では担任の先生に詳しく話して連携を取るようにしました。
特に、発表や音読など、
「人前で話す場面」が増えることがありましたが、担任の先生は吃音は出ていないとのこと。
言葉もいろいろな言い回しが出来るようになったので、頭をフル回転してとても上手く話せるように神経を使っているんだろうなと思いました。
小学校から帰ってくると爆睡することも良くあったので周りのお子さんより疲れはあるのかなと。
保育士として10年以上働いてきた母親の記録です。注目したいのは、担任からの「吃音は出ていない」という報告を、そこで止めなかったところです。言い回しを増やせるようになった時期と重なっていること、帰宅後に爆睡する日が多かったこと——この2つを並べて、学校では相当な神経を使っているのだろうと読み取っています。同じ記事によれば、1年生のあいだは吃音のことで特に困ることはなかった、と書かれています。それでも心配は尽きなかった、とも。教室で症状が出ないことと、教室で消耗していないことは、別の話として置かれています。相談の場で症状が出にくいことは、公的な解説でもはっきり指摘されています。
出典: 【体験談】2歳から始まった吃音…8歳の今どうなった?親の本音と経過(KABろぐ)(台帳: V0063)
発達障害ナビポータルの解説は、こう書いています。実際にそのお子さんと話しても、思ったほど吃音の症状が出ないことが多い。その流暢に話す様子に、相談を受けた人がつい「気にならないですね」「軽い吃音ですね」という言葉をかけることは、養育者にとってプラスに働くことは少ない。理由も説明されています。伴奏に合わせて歌ったり、2人で同じ言葉を言ったりする(外的なタイミングがある)場合に吃音は消失して流暢に話せるため、吃音は発話のタイミング障害と言われている。つまり、気を付けて話すときには吃音があまり出ない、という性質があるのです。4月の面談で「大丈夫そうですね」と言われたときに、それを「軽い」の証拠として受け取らなくてよいのは、このためです。
では何を伝えるか。同じ解説は、困りやすい場面を名指しで挙げています。日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式などの特定の場面で困ることがあるため、より具体的に質問することが困り感の早期発見につながる、というものです。4月の面談は、この一覧をそのまま持っていける場です。年度のはじめに「この1年、うちの子はこの場面で時間がかかるかもしれません」と場面の名前で伝えておくと、担任の側も何をすればよいかを考えられます。場面ごとに何を頼めるかは学校の配慮の記事に、日直の号令だけを取り出した話は日直の記事にまとめてあります。春の自己紹介そのものについては自己紹介の記事を、就学前の引き継ぎについては年長の記事をご覧ください。
本人に確かめる項目も決まっています。担任の先生・養育者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになるとされています。「学校どう?」という広い聞き方では出てこないことが、この3つの質問では出てくる、ということです。
「今年は引かない」と感じたとき
毎年4月に増えて、夏ごろには落ち着く。そのパターンを何年か見てきた家庭ほど、例年と違う年には敏感になります。ことばの教室に通い始めた6歳の長男について、母親がその違和感を書き留めています。
保護者の声(長男6歳の母。共働きで、長男は3歳から市の発達相談に通ってきた/個人ブログ・アメブロ)
毎年、新学期前後に出てきた吃音は8月頃には一旦落ち着くんです。
それが、今年はイマイチ引かない…。
「毎年、新学期前後に出てきた」という書き出しに、この家庭が何年分の4月を見てきたかが表れています。同じ記事によれば、ことばの教室は順番待ちの状態で、夏休みのあいだに担当の先生のところへ通ううちに空きが出て、夏休み明けから正式に通所することになりそうだ、という段階でした。そして母親は、「引かない」ことだけを見ているのではありません。考えながら話すと言葉が出ず「あのねー、あのねー、」を数回繰り返してやっと言えること、家族以外の人に挨拶するときは言葉が詰まり、自分で小さな声で「せーの」と言ってから言えていること——本人が見つけた対処法のほうも、同じ段落に並べて書かれています。そのうえで、自分で対処法も身につけつつあるので、ことばの教室は相談しながら通うか辞めるか考えようと思う、と結んでいます。例年と違うという観察と、本人ができるようになったことの観察が、同時に進んでいるのです。「なおるのか」は養育者の最大の関心事だとされています。
出典: 夏休み中の言葉の相談(アメブロ「長野移住失敗後の育児日記」)(台帳: V0054)
では、「例年どおり」と「今年は違う」をどう扱えばよいのでしょうか。まず押さえておきたいのは、いまの医学がここについて言えることの範囲です。発達障害ナビポータルの解説は、「なおるのか?」が養育者の最大の関心事だと書いたうえで、吃音を発症後、男児では3年で6割、女児では3年で8割が自然回復する、と述べています。そして、相談時に「将来、吃音はなおりますか?」と尋ねられても、「男児で家族歴がある場合は、なおりづらい」としか返答できない状況だ、と率直に書いています。だからこそ、「この吃音とうまく付き合っていく方法を一緒に考えていきましょう」と伝える方針をとっている、という続き方です。
つまり、4月の増え方を見て今年の見通しを判定することは、専門家にもできません。見分けようとするべきなのは「治るか治らないか」ではなく、「相談に行く年かどうか」のほうです。例年なら夏に落ち着くのに今年は引かない、というこの母親の観察は、まさにその判断材料として使われています。実際この家庭では、ことばの教室に通い続けるか相談しながら決める、という次の一歩につながっていました。
相談に行く時期の目安も、学年で区切って示されているものがあります。発達障害ナビポータルが引いている幼児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)には、積極的な介入(月2回以上の指導)を行うタイミングについて、年少組までは経過観察的な支援を行うことを基本とし、年中組では積極的な介入の開始を検討し、年長組では積極的な介入の開始を推奨する、と書かれています。4月は学年が上がる月なので、この区切りをまたぐ家庭が毎年出てきます。進級そのものが、相談の時期を考え直す機会になるということです。
教室のなかで起きていることと、相談できる場所
新学期に親が本当に心配しているのは、症状の回数そのものよりも、新しいクラスで本人がどう扱われるかのほうではないでしょうか。ここについては、英国の通常学級に通う吃音のある小中学生と、その同級生全員を対象にした調査があります。クラスの子ども一人ひとりに、好きな子・嫌いな子を挙げてもらい、いくつかの行動に当てはまる子を挙げてもらう方法で、学級のなかでの立ち位置を測ったものです。
結果はこうです。「嫌い」と挙げられて拒否のグループに分類された子の割合は、吃音のある子で43.75%、吃音のない子で18.86%と、2倍以上の開きがありました。人気のグループに入ったのは吃音のある子で6.25%、吃音のない子で25.84%。平均的なグループに入る割合も、吃音のない子(26.87%)のほうが吃音のある子(6.25%)より4倍以上高いという結果でした。行動の指名では、いじめられている子(37.5%)と助けを求める子(25%)に挙げられた割合が、吃音のない子(それぞれ10.6%、13.18%)よりかなり高くなっています。研究者は、吃音のある子が同級生から社会的に否定的な面で見られ、クラスの人気者とは見なされにくい傾向がうかがえるとまとめています。
ただし、この調査でいちばん覚えておきたいのは別の1行です。行動の枠や学級での立場の割り振りは、吃音の重症度によらないと明記されている点です。いじめられている子として挙げられた中には、1分間に16語どもる重い子と、1分間に3語の軽い子の両方が含まれていました。拒否のグループでも同様で、1分間に14.5語の子と2.5語の子が並んでいます。「うちの子は軽いから大丈夫」も「重いから仕方ない」も、この結果からは言えません。4月に確かめるべきなのは症状の重さではなく、真似・笑い・質問が起きていないかのほうだ、という先ほどの3つの質問は、ここともつながります。
この調査は2002年に英国で行われたもので、参加した吃音のある子どもの人数は多くありません。原典自身も、人数の少なさと、学力をそろえた比較ができなかったことを限界として挙げています。日本の教室にそのまま当てはまる数字として読むものではありません。
周りの子どもへの働きかけについて、学会の解説は、吃音の指摘やからかいを減らすことによって、本人が安心して吃音を出しながら話し続けてよいのだと実感することができる、と述べています。リーフレットなどを用いることも有効だとされ、幼児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)と添付資料、全国言友会連絡協議会の吃音リーフレット、きつおん親子カフェの吃音啓発リーフレット、ふくしま吃音懇話会の吃音リーフレットが、公開されている例として挙げられています。4月に担任へ渡せる紙を用意しておきたい場合、この一覧が入口になります。
相談先も、学会の解説がはっきり書いています。楽に話しやすくなるために周囲のコミュニケーション環境を整える方法(環境調整)や、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法など、年齢や状態に合わせた指導が行われるとしたうえで、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談しましょう、と結んでいます。次のようなときは、様子を見るだけで抱え込まず、相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。
- 例年は夏ごろに落ち着いていたのに、今年は増えたままの状態が続いている
- 本人が「真似された」「笑われた」と口にした、あるいは登園・登校をしぶり始めた
- 話すときに体に力が入る、声が出ないまま間があく、といった様子が目立ってきた
この3つは相談を考えるきっかけとして本記事が挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。学年ごとの区切りとしては、年中組で積極的な介入の開始を検討、年長組で開始を推奨という記載があります。
新学期に陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 増えた理由を、4月の出来事の中から1つ特定しようとする
担任が合わないのか、席順なのか、あの子に何か言われたのか——原因を1つに絞り込もうとすると、家じゅうが取り調べのようになってしまいます。調子が良い状態・悪い状態が数週間〜数か月続くことは、吃音の症状の説明の中にあらかじめ書かれています。症状が出やすい時期と出づらい時期があること自体が、中核症状の特徴として挙げられているものです。そのうえ、波がなぜ起きるのかは今も解明が進んでいません。特定できないものを特定しようとするより、確かめる項目を決めて定期的に聞くほうが実りがあります。
落とし穴2 − 「悪化した」という言葉で、その年の全部を色づけしてしまう
言葉遣いを変えることが大事だ、というのが保護者向けの連載が最初に置いている助言です。「吃音が悪化する」「吃音がひどくなる」ではなく「吃音が増える」、「吃音が改善する」ではなく「吃音が減った」。表面上の状態に保護者の心理が左右されるのではなく、話すという行為の内面にある「話したい気持ち」を育てることを重視する、というのがこの提案の理由です。連絡帳や面談で使う言葉を先に決めておくと、増えた週にも記録が続きます。
落とし穴3 − 担任の「出ていませんよ」で、その年の確認を終わらせる
気を付けて話すときには吃音があまり出ないため、面談や授業中には症状が出ないことが多いとされています。そこで「気にならないですね」と言われても、それが養育者にとってプラスに働くことは少ないと明記されています。困りやすい場面は日直の号令・音読・発表・かけ算の九九・学習発表会・卒業式などと具体的に挙げられているので、場面の名前を出して聞き直すほうが確かです。教室での立ち位置が症状の重さで決まっていないことも、覚えておく価値があります。
まずは、どの場面でどのくらい時間がかかっているか、本人が何と言っているかを週に1度でも書き留めておくと、面談でそのまま渡せる材料になります。日々の様子を「見える化」する手段の一つとしてアプリを使う方法もあります(アプリは記録・継続の支援であり、治療をうたうものではありません)。ことばの教室や小児を扱う言語聴覚士に相談できる状況なら、そちらが確実です。
よくある質問
新学期になると吃音が増えるのは、よくあることですか?
吃音には調子の「波」があり、調子が良い状態あるいは悪い状態が数週間〜数か月にわたって続く人も多いとされています。症状が出やすい時期と出づらい時期があること(波現象)は、中核症状の特徴のひとつとして挙げられています。進級の時期に増えたという保護者の記録も複数あります。ただし、波がなぜ起きるのかは解明が進んでいないとされているので、「新学期だから必ず増える」と決まっているわけでもありません。
増えたとき、「悪化した」と言ってはいけないのですか?
禁じられているわけではありませんが、保護者向けの連載は、まず言葉遣いを変えることが大事だとして、「吃音が悪化する」「吃音がひどくなる」ではなく「吃音が増える」という中立的な言葉が良いと勧めています。「吃音が改善する」ではなく「吃音が減った」という言い方を使うようにしている、とも書かれています。表面上の状態に保護者の心理が左右されないようにするための提案です。
4月の面談で、担任の先生に何を伝えればよいですか?
困りやすい場面が具体的に挙げられています。日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式などで困ることがあるため、より具体的に質問することが困り感の早期発見につながるとされています。この一覧を手がかりに、場面の名前で伝えるのが実際的です。あわせて、本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになるとされています。
担任から「学校では吃音が出ていません」と言われました。安心してよいのでしょうか?
面談や学校の場面で症状が出ないことは、よくあるとされています。外的なタイミングがある場合に吃音は消失して流暢に話せるため、吃音は発話のタイミング障害と言われており、気を付けて話すときには吃音があまり出ないという性質があるからです。そのため、流暢に話す様子を見て「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と言うことは、養育者にとってプラスに働くことは少ないと指摘されています。場面の名前を挙げて聞き直すほうが確かです。
例年は夏に落ち着くのに、今年は引きません。相談したほうがよいですか?
「将来、吃音はなおりますか?」という問いに対しては、「男児で家族歴がある場合は、なおりづらい」としか返答できない状況だと率直に書かれています。つまり、4月の増え方から先の見通しを判定することはできません。一方、相談を始める時期については、幼児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)が、年少組までは経過観察的な支援を基本とし、年中組では積極的な介入の開始を検討、年長組では開始を推奨としています。相談先は、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員です。
まとめ
- 吃音には調子の「波」があり、良い状態・悪い状態が数週間〜数か月続く人も多い。出やすい時期と出づらい時期があること自体が中核症状の特徴として挙げられている。4月に増えたことは、何かを間違えた証拠ではない。
- 家の外で使う言葉は「悪化」より「増える」がよい、と保護者向けに勧められている。事実は残り、良し悪しの判定だけが落ちる。
- 学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受けるリスクがそのたびに生まれる。本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」と聞くことが、話をオープンにするきっかけになる。
- 面談で症状が出ないのは普通のこと。「気にならないですね」は養育者にとってプラスに働くことは少ない。困る場面は日直の号令・音読・発表・かけ算の九九・学習発表会・卒業式と具体的に挙がっているので、場面の名前で伝える。
- 教室での立ち位置は吃音の重症度によらない。「軽いから大丈夫」とも言えない。例年と違うと感じた年は、相談先(小児を扱う言語聴覚士・ことばの教室)に持っていく年として使う。