まず結論から
- 国際吃音啓発の日は10月22日です。1995年に設立された国際吃音連盟(ISA)が制定し、日本を含む世界各地で吃音啓発の取り組みが行われている、と日本吃音・流暢性障害学会の解説は書いています。
- 日本の当事者団体は、定例会や全国大会のほか、SNSや動画配信サイトでの情報発信を盛んに行っています。当事者が接客する一日限定のカフェの公式ページには、2022年10月22日に札幌で開いた回と、同じ日に全国紙の一面に載ったことが記されています。
- 自分から「吃音がある」と相手に伝えること(自己開示)は、数で測った研究18件のうち15件で、相手の受け止めに好意的に働いていました。ただし日本の当事者180人の調査では、伝える度合いは米国の調査より低いと報告されています。
- 啓発と自助は同じではありません。自助団体の活動の中心は「吃音があるのは自分だけではない」と知り、体験を分かち合うことだと学会は説明しています。当事者のコミュニティに関わっている成人は英語圏の推定で1%前後で、実際はそれより低いとされています。
ただし、この記事が参照した資料の中に、啓発の日の制定年・由来・シンボル・期間についての記述はなく、学会の解説の一節が言えることのすべてです。また、講演やカフェの日程・会場は年ごとに変わるため本文には書かず、探し方だけを書きます。出かける前には、各団体の告知でご確認ください。
「国際吃音啓発の日」とは——資料が言えること、言えないこと
日本吃音・流暢性障害学会の解説は、吃音の自助団体を紹介する節の終わりで、世界的な動きに触れています。1995年に国際吃音連盟(International Stuttering Association: ISA)が設立され、この連盟が国際吃音啓発の日(10月22日)を制定するなど、日本を含む世界各地で吃音啓発のための取り組みを展開している、という記述です。この記事が参照した資料の中で、啓発の日そのものについて書かれているのは、この一節だけです。制定された年や経緯、シンボル、啓発の期間といった事柄は、手元の資料には書かれていません。ほかの場所で見かける説明と照らし合わせるときは、その点を踏まえてください。
海外の当事者団体が、この日に何をしているかの例は一つあります。英国の当事者団体 STAMMA は、自らのサイトで、2021年の国際吃音啓発の日のキャンペーンとして、なめらかに出ない話し方も多様性の一部だという意味の「No Diversity Without Disfluency」を掲げ、メディアで吃音がもっと表現されることを求めた、と記しています。同じ団体は、2020年にはウィキペディア上の吃音についての言葉遣いを変えるキャンペーンも行っています。「この日に社会へ向けて発信する」というのが、啓発の日の使われ方の一つです。
では日本では、10月22日に何があるのでしょうか。学会の解説によれば、日本にはさまざまな吃音の自助団体があり、1965年に発足した言友会は日本で最も歴史が古く、定例会や全国大会を開催しています。若者を対象とした団体や女性の集いを開く団体もあり、X(旧Twitter)・Instagram・Facebook などの SNS や YouTube などの動画配信サイトを使った情報発信が盛んに行われています。吃音のある若者が接客に挑戦する「注文に時間がかかるカフェ」の公式ページには、これまでの開催一覧が地域ごとに並んでおり、その中に2022年10月22日の札幌市(北海道大学)の回と、2023年10月21日・22日のつくば市(日本吃音・流暢性障害学会)の回が載っています。同じページのメディア掲載の欄には、2022年10月22日に朝日新聞の一面トップ、北海道新聞、北海道テレビで取り上げられたことが記されています。10月22日という日付に、当事者の場と報道が重なった記録です。報道の側の動きは 吃音のニュースをまとめた記事 で扱います。
ここで一つ、注意があります。こうした催しの日程と会場は、毎年変わります。この記事に載せた日付は、公式ページに「載っている」という事実であって、今年の予定ではありません。今年の10月に何があるかを知りたいときは、日付を探すのではなく、告知の出る場所を押さえてください。カフェの予約制の回は開催の約2週間前あたりに公式サイトとXで案内されると公式ページに書かれており、当事者団体の定例会や催しは各団体の SNS や公式サイトで告知されています。東京で毎月開かれている場の例は 吃音カフェ東京の記事 に、団体の探し方の全体像は 吃音の相談先の記事 にまとめています。
「10月22日は国際吃音啓発の日です」——当事者が自分の言葉で書いた日
啓発の日にまず起きるのは、講演や催しより手前のこと——当事者が、自分の言葉で吃音を説明することです。その前日に公開された、大学生の手記があります。
当事者の大学生の声(筆名うめちゃん/九州大学の学生と放送局が運営する学生メディア「medien-lien」の note・2023年10月21日公開)
突然ですが、皆さんは「吃音(きつおん)」という障害を知っていますか? 身近に吃音症の人がいるから知ってるよ!という人もいるかもしれません。しかし、そんな人でも「吃音症の人が見ている世界」を想像するのは難しいと思います。
10月22日は「国際吃音啓発の日」です。吃音症を知っている人も、知らない人も、この記事を読んで、吃音について一緒に考えてみませんか。
この記事では、当事者である私が、私なりの言葉で吃音症を紹介したいと思います。ぜひ、最後までお読みください。
公開されたのは啓発の日の前日、10月21日の夜です。手記はこのあと、小学3年生のときにクラスメイトに話し方を真似され、担任の先生がその子に謝るよう注意していた光景で吃音を自覚したこと、小学6年生で市の弁論大会の学校代表に選ばれ、「吃音」をテーマに発表したことへと進みます。人前で「私は吃音です!」と発表したその経験を、本人は「発信する武器になると気づいた」と振り返り、だからこそ今もこうして自分の吃音を記事にしている、と書き添えています。自己紹介では必ず「吃音という、言葉がスラスラ出にくい障害があります」と先に伝えるようにしていること、それでも就職活動の面接には不安があることまで、手記は隠さずに書いています。このように自分から「吃音がある」と相手に伝えることを、研究では自己開示と呼びます。
出典: 吃音症の大学生が、吃音への思いや不安を思いのまま語ってみた(medien-lien・note)(台帳: V0008)
自己開示が相手の受け止めをどう変えるかは、30年分の研究を条件を決めて集め、まとめて評価したレビューがあります。数で測った研究18件のうち15件(約83%)で、自己開示は全体として好意的に働いていました。伝え方を比べた研究では、13件中12件(約92%)で、謝るような言い方や伝えない場合より、謝らない言い方のほうが好意的に受け止められていました。著者らは、謝らない形で自分から伝えることが、「どもる人はこうだ」という決めつけを向けられるかもしれないという負担(ステレオタイプ脅威)をやわらげる、と結論づけています。手記の自己紹介の言い方「吃音という、言葉がスラスラ出にくい障害があります」には、謝る言葉が入っていません。
ただし同じレビューは、伝える場面・年齢・吃音の頻度や重さ・相手が吃音のある人と面識があるかどうかによる違いは、調べた研究がまだ少ないと書いています。啓発の日に自分の言葉で書くことは、この大学生にとっては小学6年生から続く「武器」でしたが、誰にとってもそうだと研究が言えているわけではありません。面接の場面での伝え方は 面接でのカミングアウトの記事 に、自己紹介の場面は 自己紹介の記事 にまとめています。
10月の講演で、当事者が聞き手に頼んだこと
啓発の日の前後には、各地で講演や展示が開かれます。2025年10月17日、琉球大学で、当事者と新聞記者が吃音をテーマに語り合う講演会が開かれました。
啓発活動に取り組む当事者・國場真理子さん(48歳)の講演を伝える新聞記事の地の文(沖縄タイムス+プラス・2025年10月18日。記事は有料で、参照できたのは冒頭まで)
吃音のある人が安心できる環境づくりについて「ゆったり構えて聞いてもらいたい。話し方ではなく、話す内容に耳を傾けてくれるとうれしい」と呼びかけた。(社会部・當銘悠)
國場さんは5歳から吃音が始まった。講演会で取り上げた体験の一つが小学3年の新学期の出来事。好きなアニメのタイトルと一緒に自己紹介する際につっかえてしまい、口に出したのは好きではないアニメだった。
5歳で始まった吃音。小学3年の新学期、好きなアニメの題名と一緒に自己紹介をする場面で言葉がつっかえ、口から出たのは好きではないアニメの題名だった——講演で本人が取り上げた体験の一つです。記事の見出しには、講演のほかに「10月22日に那覇市で啓発展示」とも掲げられており、10月22日を挟んで講演と展示が続く形で組まれていたことが読み取れます。この人が聞き手に頼んだのは、特別な技術ではありません。ゆったり構えて聞くこと、話し方ではなく話す内容に耳を傾けること。伝える側ではなく、聞く側の姿勢です。日本の当事者が実際にどのくらい自分から吃音のことを伝えているかについては、日本で行われた調査があります。
出典: 「ゆったり構えて聞いてほしい」 吃音の当事者、聞き手の理解が安心感に 記者と琉球大学で講演、啓発へ経験を共有(沖縄タイムス+プラス)(台帳: V0420)
筑波大学の研究者らは、日本の吃音のある成人を自助グループや研究者の伝手を通じて募り、オンラインで調査しました。信頼できない回答と重複を除いた180人の分析では、自分から伝える度合いは、同じ尺度を使った米国の調査より低いという結果でした。伝える度合いが高いことと結びついていたのは、男性であること、自助グループの経験があること、自分の吃音を受け入れている度合いが高いこと、そして吃音への偏見を自分自身に向けてしまう度合い(自己スティグマ)が低いことでした。著者らは、日本の当事者が伝えにくい傾向には社会文化的な違いが表れているのかもしれない、と述べています。
これは一時点で測った調査で、どちらが原因でどちらが結果かを示すものではありません。それでも、伝える側の度合いがもともと低い社会で、当事者が講演で頼んでいるのが「聞く側の姿勢」であることは、筋が通っています。伝えるかどうかを本人の努力に返すのではなく、伝えなくても安心して話せる場をつくる——講演で語られた「ゆったり構えて聞く」は、そのいちばん手前の形です。学校や職場での配慮の仕組みは 合理的配慮の記事 にまとめています。
「大々的に開かれたら世間にバレてしまう」——啓発が怖い当事者もいる
啓発は、当事者みんなが望んでいるものとは限りません。吃音を隠して生きてきた人にとって、吃音が大きく取り上げられることは、脅威にもなります。吃音のある若者が接客に挑戦する一日限定のカフェを始めた人が、始めた頃に受けた批判を語っています。
「注文に時間がかかるカフェ」発起人で吃音当事者の奥村安莉沙さんの声(CHANTO WEB のインタビュー・2024年6月。聞き手はライター)
「今まで自分たちは吃音を隠して生きてきたのに、大々的に吃音者のカフェを開かれたら世間にバレてしまう」といった声です。その気持ちもわかるのでつらかったですが…そういったメッセージはだんだん減っていって、今はもう来なくなくなりました。多分心配していた方というのは、吃音者の批判をされることを恐れていたんだと思います。たとえば注文に時間がかかるカフェの動画が上がったときに、コメント欄に昔の私が言われたような「気持ち悪い」といった心ない言葉が並んで、それを目にするのを怖がるなど。
でも、実際に動画が上がったときのコメントは、好意的で温かい言葉ばかりでした。「頑張ってください」「応援しています」という優しいコメントが多くて、それを目にした方たちは「自分が想像しているより、吃音をオープンにしても受け入れてもらえるのかも」と感じてもらえたんだと思います。
会社員だった2021年、以前住んでいた都内のシェアハウスのキッチンを借り、SNSで募った学生3人と始めたカフェは、2回目の様子がテレビで全国放送されたあと、地方からの依頼が届くようになり、取材の時点で24都道府県・50か所近くで開かれていました。その広がりの裏で届いていたのが、同じ当事者からの「世間にバレてしまう」という声です。本人は「その気持ちもわかる」と言い、恐れていたのは動画のコメント欄に自分が昔言われたような言葉が並ぶことだったのだろう、と推し量っています。実際に並んだのは好意的な言葉だった、と続きます。公式ページは、このカフェを吃音のある人同士の交流というより一般のカフェだと位置づけ、依頼を受けて開くため常設店は無いと書いています。
出典: 吃音で諦めた夢を「注文に時間がかかるカフェ」批判乗り越え3年で全国約50か所で開催「私みたいに悔しい思いをしないで」(CHANTO WEB)(台帳: V0249)
公式ページは、このカフェを「不思議に聞こえるかもしれませんが、このカフェでは、たまに時間が止まります」という言葉で紹介し、言葉が出にくい吃音があること、それでもみんな接客業の夢を持っていることを説明しています。10月22日にこのカフェが開かれた記録は、先に見たとおり公式ページの一覧にあり、同じ日に全国紙の一面で取り上げられたことも記されています。「隠して生きてきた」人の恐れが向けられていたのは、まさにこの「大々的に」の部分でした。
この恐れの構造を、研究の側は個人が自分から伝える場面について、「どもる人はこうだ」という決めつけを向けられるかもしれないという負担(ステレオタイプ脅威)という言葉で説明し、謝らない形で自分から伝えることがそれをやわらげるとしています。ただし、自分から伝えるかどうかは、いつ・誰に・どう伝えるかを含めて本人が場面ごとに決めることです。批判の声を送った人たちが間違っていた、という話ではありません。カフェに客として行くときの過ごし方と東京での開き方は 吃音カフェ東京の記事 に、吃音が知られていないことで起きる困りごとは 吃音の認知度の記事 にまとめています。
啓発の日は、誰のためのものか——自助と啓発は似て非なるもの
啓発活動が盛んになるほど、見えにくくなる人がいます。当事者の自助団体である言友会に参加して2年に満たない当事者が、2026年6月に書いた文章があります。
当事者の声(神戸言友会に所属し、参加2年未満と自ら書く当事者/note の寄稿・2026年6月)
一方で、自助だけを求めている人はあまり目立ちません。
同じ吃音の人と会いたい。
安心して話したい。
少しだけ自分のことを整理したい。
何かを変える前に、まず自分の生活を何とかしたい。
そういう人は、組織を動かしたいわけではありません。
役職に就きたいわけでもありません。
発信したいわけでもありません。
そして、その人たちは会が合わなくなったとき、会議で反対するよりも静かに来なくなることが多いように思います。
ここに、自助グループが持つ構造的な難しさがあります。
啓発をしたい人の声は組織に残りやすい。
自助だけを求める人の声は離脱によって消えやすい。
書き手は、自分も講演会を企画し SNS でも発信する側であり、啓発活動そのものには賛成だと最初に断っています。特に子どもや保護者、教育現場への啓発には大きな意味があると。そのうえで、自助は当事者が安心して集まり、困りごとを話し、孤立を減らすための内向きの活動、啓発は社会に向けて発信し環境や制度を変えていく外向きの活動だと分け、自助グループではこの二つが混ざりやすいと書きます。参加者数やフォロワー数のように成果が数字になる啓発の側に組織の感覚が寄っていき、ただ来て、話して、聞いて、帰る人の場所を狭くしていないか——それを「ときどき立ち止まって確認する必要がある」と結んでいます。学会の解説も、自助団体の活動の中心を啓発ではなく、体験の分かち合いに置いています。
出典: 自助グループが啓発に向かうとき、静かに離れていく人たちのこと(note)(台帳: V0536)
日本吃音・流暢性障害学会の解説によれば、自助団体は団体ごとに目的や規模が違うものの、吃音のある当事者が「吃音があるのは自分だけではない」ということを認識し、共通の体験を語り合い、苦悩を分かち合い、互いに援助し合うことが、おおむね活動の中心です。啓発の日に外へ向けて発信することは、その解説では自助団体の「中心」ではなく、国際吃音連盟が展開する取り組みとして、節の終わりに置かれています。
そして、啓発の日に集まる人よりも、集まらない人のほうがはるかに多いことも、数字の側から言えます。英語圏のオンラインの支援グループ、英国の全国団体、英国の地域グループの原データから、吃音のある成人のうち当事者のコミュニティに関わっている割合を推定した研究では、国際的な集まりで0.99%、全国団体で0.63%、地域のグループで1.01%でした。同じ論文は、脱落や重複の数え上げのため、実際の関与はこれより低かったはずだとも述べています。日本の数字ではありませんが、桁の感覚はつかめます。集まりに来ない人、来なくなった人が「いなくなった人」に見えるのは、組織の側から見たときだけです。
一方で、自助グループに行った経験と結びついている数字もあります。日本の当事者180人の調査では、自助グループの経験があることが、自分から吃音のことを伝える度合いの高さと関連していました。ただしこれも一時点の調査で、会に行ったから伝えられるようになった、とは読めません。自助グループに行くと何をするのか、何が得られて何が得られないのかは、吃音の相談先の記事 と 吃音カフェ東京の記事 に整理しています。
10月に行かなくても届くもの、そして相談先
遠方に住んでいる、当日は行けない、そもそも人の集まる場が苦しい——そういう人に、啓発の日は何を残すのでしょうか。手元の資料で言えるのは、読み物と発信です。
全国言友会連絡協議会は、当事者の体験談集を発行しています。同会の案内によれば、2007年以来18年ぶりに完成した体験談集で、さまざまな年代や立場の吃音のある人の体験に触れることができ、体験についての認知・行動・感情が丁寧に書かれているため、吃音のある人のリアルな声を聞くことができる、とされています。同会はこれを、時間と空間を超えた「わかちあい」と呼び、「啓発」のための有用なツールとしての役割も果たす、と説明しています。あわせて、ことばの教室など学校の先生や言語聴覚士など支援者を主な対象とした指導教材と、吃音についての啓発資料も制作していると案内しています。家庭向けの「吃音リーフレット(幼児編)」、学校の先生に向けた「学童編」「中高生編」、「就職を目指す吃音のある人のためのサポートブック」「企業向け吃音リーフレット」などは、同会のページから PDF を無料でダウンロードできると案内されています(業務などで配布する場合は事前に相談してほしい、との注記つきです)。10月に会場へ行けなくても、当事者の声と配れる資料は、紙や PDF の形で届きます。
発信の側では、学会の解説が、当事者団体による SNS や動画配信サイトでの情報発信が盛んに行われていると書いているとおりです。この記事で引いた4人のうち3人は、note や新聞という、家にいても読める場所に言葉を残していました。
そして、啓発の日をきっかけに、話しにくさそのものについて相談したくなったときの相談先は決まっています。学会の解説は、子どもについては小児を扱う言語聴覚士(ことばとコミュニケーションの専門職)や、ことばの教室の教員に相談するよう案内し、本人が治療を希望する場合には言語聴覚士による発話訓練という選択肢があるとしています。次のようなときは、啓発の日を待たずに相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。
- 子どもの吃音が就学が近づいても続いていて、園や学校での様子が気になる
- 話しにくさのために、学校や職場で必要な連絡や発表ができなくなってきた
- 話す場面を避けることが増えて、生活の範囲が狭くなってきた
この3つは、相談を考えるきっかけとして一般的に挙げられるもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。どこに何を相談できるかは 吃音の相談先の記事 に、受診の目安は 吃音症チェックの記事 にまとめています。
「啓発の日」をめぐる3つの落とし穴
落とし穴1 − 記念日の「事実」を、確かめないまま書き写す
この記事が参照した資料の中で、啓発の日について書かれているのは、国際吃音連盟が制定した10月22日である、という学会の解説の一節だけです。制定年や経緯、シンボルのような事柄は、手元の資料では確かめられませんでした。学校の配布物や職場の掲示に書くときは、出どころを一つ確かめてからにしてください。同じことは日程にも言えます。公式ページに載っている過去の開催日は今年の予定ではなく、予約制の回の案内は開催の約2週間前あたりに出ると公式ページ自身が書いています。
落とし穴2 − 啓発の日だから、みんな声を上げるべきだと考える
自分から伝えることには、好意的に働いたという研究が多くあります。ただし場面や年齢による違いは調べた研究が少なく、日本の当事者は伝える度合いがもともと低い傾向にあります。カフェを始めた人のもとには「世間にバレてしまう」という同じ当事者からの声が届いていました。伝えるかどうか、いつ・誰に・どう伝えるかは本人が場面ごとに決めることで、「啓発の日なのに黙っている」という話にはなりません。有名人の公表をどう受け止めるかについても、吃音の有名人の記事 で同じことを書いています。
落とし穴3 − 集まりに来ない人を「消極的」と見る
当事者のコミュニティに関わっている成人は1%前後と推定され、実際はそれより低いとされています。学会の解説も、自助団体に参加して他の吃音のある人と出会うことが心理的な変化のきっかけに「なることもある」という書き方で、「なる」とは書いていません。来ない人、来なくなった人のほうが多数で、それは自助として自然なことだと、参加2年未満の当事者は書いていました。啓発する側に立つ人ほど、この差を意識して見る必要があります。
啓発の日をきっかけに自分の話しにくさを見つめ直したいなら、まずは、どんな場面で出やすいか、そのとき周りがどう応じたかを書き留めておくところから小さく始めてください。相談できる状況になったら、言語聴覚士やことばの教室に持っていくのが確実です。
よくある質問
国際吃音啓発の日はいつですか? 誰が決めたのですか?
10月22日です。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、1995年に設立された国際吃音連盟(ISA)がこの日を制定し、日本を含む世界各地で吃音啓発の取り組みを展開している、と書いています。制定された年や経緯、シンボルについては、この記事が参照した資料の中に記述がありません。
日本では、10月22日に何が行われていますか?
当事者団体は定例会や全国大会のほか、SNS や動画配信サイトで情報発信を行っています。当事者が接客する一日限定のカフェの公式ページには、2022年10月22日の札幌市の回や、2023年10月21日・22日のつくば市の回が載っており、2022年10月22日には全国紙の一面で取り上げられたと記されています。当事者が講演や展示を行っている地域もあります。ただし日程と会場は年ごとに変わるので、今年の予定は各団体の公式サイトや SNS の告知で確認してください。
啓発の日をきっかけに、自分の吃音のことを周りに伝えたほうがいいですか?
30年分の研究を集めたレビューでは、数で測った研究18件のうち15件で、自分から伝えることは相手の受け止めに好意的に働き、謝らない言い方のほうが好意的に受け止められていました。ただし場面や年齢による違いはまだ研究が少ないとされています。日本の当事者180人の調査では伝える度合いは米国より低く、自助グループの経験や自分の吃音を受け入れている度合いと関連していました。伝えるかどうかは本人が場面ごとに決めることで、決まった正解はありません。
自助グループに行ったことがありません。行かないといけませんか?
いいえ。当事者のコミュニティに関わっている成人は英語圏の推定で1%前後、実際はそれより低いとされ、行っていない人のほうがはるかに多数です。学会の解説も、自助団体に参加して他の吃音のある人と出会うことが心理的な変化のきっかけに「なることもある」という書き方にとどめています。行くかどうかは本人が決めることです。
遠くて会場に行けません。何か手に入るものはありますか?
全国言友会連絡協議会は、さまざまな年代や立場の吃音のある人の体験を収めた体験談集を発行しており、「啓発」のための有用なツールとしての役割も果たすと案内しています。支援者向けの指導教材や啓発資料も制作しています。当事者団体の SNS や動画配信サイトでの発信も盛んです。
まとめ
- 国際吃音啓発の日は10月22日。1995年設立の国際吃音連盟が制定し、日本を含む世界各地で啓発の取り組みが行われている。制定年・由来・シンボルは、参照した資料の中には無い。
- 日本では、当事者が自分の言葉で吃音を説明する発信、当事者の講演や展示、当事者が接客する一日限定のカフェが10月前後に行われてきた。カフェの公式ページには2022年10月22日の札幌の回と、同じ日の全国紙一面の掲載が記されている。日程・会場は毎年変わるので、告知の出る場所を押さえる。
- 自分から伝えること(自己開示)は、数で測った研究18件中15件で好意的に働き、謝らない言い方のほうが受け止めがよかった。日本の当事者180人の調査では伝える度合いは米国より低く、自助グループの経験や自己受容と関連していた。
- 啓発は当事者みんなが望むものではない。カフェを始めた人には「世間にバレてしまう」という同じ当事者からの声が届いていた。伝えるかどうかは本人が場面ごとに決める。
- 啓発と自助は似て非なるもの。自助団体の活動の中心は「自分だけではない」と知り分かち合うことであり、当事者コミュニティに関わる成人は1%前後・実際はより低い。来ない人のほうが多数で、それは失敗ではない。
- 10月に行けなくても、当事者の体験談集や啓発資料、団体の SNS 発信は届く。話しにくさそのものは、言語聴覚士やことばの教室に相談する。
