まず結論から
- 言語聴覚士は、聞こえの障害・ことばの障害・飲み込みの障害を扱う国家資格の専門職です。吃音も、その「ことばの障害」に含まれています。
- ただし、全員が吃音を扱えるわけではありません。公的なポータルサイトが「言語聴覚士の取り扱う業務は多岐にわたるため、必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではありません」と明記しています。
- だから探すときは、病院に直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県の言語聴覚士会に尋ねるようすすめられています。
- 専門職自身を調べた研究もあります。13件の研究をまとめたシステマティックレビューでは、自分の力量をどう感じているかは評価より治療のほうが低く、吃音のある人によく会う人・吃音の研修を続けている人ほど高いという傾向でした。
- してもらえることは、まわりの環境を整えること・話し方の練習・気持ちの面の相談が中心です。どの人にも一様に効く方法はなく、その人に合わせて組み合わせるとされています。
ただし、これは「良い言語聴覚士と悪い言語聴覚士がいる」という話ではありません。扱う範囲がもともと広い資格で、吃音はその一部だというだけのことです。また、待機期間があること、担当者との相性が合わないことも実際に起きています。合わなかったときに支援そのものを諦めなくてよい、というところまでを含めて知っておくのが役に立ちます。
たどり着くまでが、遠い
「相談先は言語聴覚士です」と書かれていても、通える範囲にいなければ相談はできません。大人の当事者が、初めて専門職に相談できた日のことをこう書いています。
吃音のある成人当事者(ハンドルネームで発信している個人ブログ・note)
だが30代前半の時に自分の通える範囲の病院に吃音外来が開設する!
という奇跡は起こった!
開設!?!?!?!?
吃音で医療(専門家)にかかれる!?!?!?!?
それから人生で初めて「言語聴覚士」という専門職に吃音のことを相談した
相談することができた。相談できる相手がいることが嬉しかった
「奇跡」という言葉が使われているのは、本人が幸運だったからではありません。同じ記事の後半で、書き手はその受け止め自体に引っかかりを覚えたと書いています。辞書で「ありがたい」を引くと「そうあることがむずかしい」「めったにあることじゃない」とある——そこから、専門家に相談できることが「めったにない」状態のほうがおかしいのではないか、と問い直していきます。そして自分は30年以上医療にかかれなかった、吃音で医療にかかることはハードルが高いと実感した、と結んでいます。この「たどり着けなさ」には、資格の作りに理由の一端があります。
出典: 吃音外来を「ありがたい」と思った違和感の正体(note)(台帳: V0170)
吃音の相談や支援について、公的なポータルサイトはこう書いています。言語聴覚士の養成課程には吃音が含まれており、吃音がある人の指導・支援の中核を担う存在としてその役割が期待されている。ただし、言語聴覚士の取り扱う業務は多岐にわたるため、必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではない。近年、吃音の指導・支援に意欲的に取り組む言語聴覚士が増えてきつつあるとも書かれていますが、現時点では「言語聴覚士がいる=吃音を扱っている」ではない、というのが公式の説明です。
どうやって探すか — 検索語と、待機期間
では実際にどう探すのか。子どもの吃音と場面緘黙のために通い先を探した保護者が、その手順を具体的に書き残しています。
年中〜年長の娘に吃音と場面緘黙がある母(個人ブログ・note の連載3回目)
「子ども 吃音」や「子ども 言語療法」というキーワードに「〇〇市、〇〇県」というワードをつけて検索をかけると、いくつか候補が出てきます。その中から比較的通いやすそうな場所で、評判も良い病院に連絡をしてみました。最初に連絡をした病院は大人気で、なんと「 1年半待ち 」でした。
検索語に自治体名を足す、というのが最初の手がかりです。そのうえで書かれているのは、見つけたあとに待つ時間のほうでした。1年半待ちと言われて落胆したところ、その病院から空きのある他院を紹介してもらい、次に電話したところは3か月待ち。約1か月後に「1枠空きました」と連絡が来て通い始めた、という経過が続きます。同じ記事には、通い始めたあとに担当者との相性で悩み、夫にも同席してもらったうえで通うのをやめた経緯も書かれています。専門職に会えたことと、その支援が合うかどうかは、別々の問題として起きています。公的な資料も、指導・支援法には人ごとに合う・合わないという面があると認めています。
出典: 娘と吃音の話③〜ことばの教室〜(病院内)(note)(台帳: V0106)
問い合わせ先ははっきりしています。言語聴覚士の指導・支援を希望する場合は、あらかじめ病院等に直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会、各都道府県の言語聴覚士会に尋ねてほしい、と案内されています。勤務先としては、病院のリハビリテーション科や耳鼻咽喉科などのリハビリテーションスタッフとして勤務している場合が多いとされています。
なぜ「全員が扱えるわけではない」のかは、この職業の担当範囲を並べてみると分かります。職能団体の説明によれば、言語聴覚障害には大きく、聞こえの障害、言語機能の障害(ことばが年齢相応に育たない言語発達障害、ことばが出てこない・意味がわからない失語症など)、話しことばの障害(声のかすれなどの声の障害、発音の障害)があり、さらに食べたり飲み込んだりすることの障害も対象になります。吃音は、このうち話しことばの障害に含まれる一つです。対象は小児から高齢者までにわたります。
言語聴覚士の中にも、吃音のある人がいる
探すときに知っておくとよいことがもう一つあります。この職業に就いている人の中に、吃音のある人がいるということです。
吃音のある女性(転職を経て言語聴覚士の国家試験に合格。個人ブログ・note の回想)
やりたいことは何なのだろう?吃音のある私にいったい何の仕事ができるというのだろう?
初めての職場を辞めた後も、やりたいことがわからずに転職を繰り返していた。障害者の作業所でスタッフとして働きながら、毎日のように本当にやりたい仕事は何かと考え続けていた。作業所で働いて3年目を終える頃、天命のように言語聴覚士の存在を思い出したのである。中学生の時に参加した吃音者の集まりに、重度の吃音がある言語聴覚士がいたのだった。私と同じ吃音で悩む人たちに寄り添いたい。専門学校を受験し、4年間働いた職場を退職。
思い出されているのは、中学生のときに参加した吃音者の集まりにいた一人の専門職です。重度の吃音がある言語聴覚士がいた、と書かれています。その記憶が、転職を繰り返していた時期に進路として戻ってきた。書き手はその後、養成校の2年間を経て国家試験に合格し、言語聴覚士として就職しています。専門職の側にも吃音のある人がいるということは、当事者にとっては選択肢の話でもあり、相談相手を探すときの手がかりでもあります。実際、専門職の力量に関する研究でも、吃音のある人と接した経験や親しさが、要因の一つとして挙げられています。
出典: 吃音と共に歩んだ私の道:言語聴覚士からものかきへの挑戦(note)(台帳: V0041)
言語聴覚士が吃音の支援についてどれくらい自信を持っているかを調べたシステマティックレビューがあります。8つのデータベースを検索し、条件を満たした13件の研究をまとめたものです。そこで見えたのは、自分の力量をどう感じているかは評価(見立て)よりも治療のほうが低いということ、そして吃音のある人に会う頻度が高い人、吃音についての継続的な専門教育を受けている人ほど、自分の力量を高く感じているということでした。ほかにも、治療を実施するうえで受けられる支援の程度、吃音についての知識、養成課程での吃音教育、言語聴覚士としての経験年数、吃音のある人との親しさ、それまでの治療結果、吃音をどれくらい複雑だと感じているかが、要因として挙げられています。
この結果は、探す側にとっては実用的です。「吃音を扱っていますか」だけでなく、「吃音のある方をよく担当されていますか」まで聞くことに意味がある、ということだからです。なお、このレビューが集めたデータは主に小児を担当する言語聴覚士に関するものだったと、原典自身が述べています。大人の吃音についても同じことが言えるかは、この研究からは分かりません。
言語聴覚士は、吃音に対して何をするのか
実際の支援の中身も見ておきます。国内の研究プロジェクトの解説によれば、治療の中心は、まわりの人の対応を変えて話しやすくすること(環境調整と呼ばれます)、話し方の練習(言語訓練)、気持ちの面の相談(カウンセリング)、そして考え方や行動に働きかける方法です。そしてどの人にも一様に有効な方法はないため、その人に応じて、しばしば組み合わせて選ぶことで、ある程度の有効率が得られることが多いとされています。
年代によって重心が変わります。幼児期は、意識して話し方を直すことがまだできないため、まず環境調整を行います。周囲の人がゆったりと楽に話し、どもるかどうかではなく内容を聞くように努める、笑ったり真似をする子がいる場合は保育園・幼稚園の先生にも協力を求め「わざとそうしているのではない」と説明してもらう、といったことです。学童期以降の環境調整は、家庭・学校・会社などで、話しにくい状況や場面についての理解と寛容を求め、吃音に関わらず社会参加ができ能力を発揮できるようにすることが目的だとされています。
話し方の練習については、国際的なレビューが整理しています。子どもに対しては、話せたときに周囲が反応を返していくやり方、大人に対しては、話し方そのものを組み立て直していくやり方に、いちばん確かな根拠があるとされています。一方で、子ども向けに周囲の求める水準を下げていく考え方や、大人向けに吃音とのつき合い方を扱う方法は広く使われているものの、根拠は理論に基づく部分が大きく、認知行動療法などの周辺領域の研究から推し量られている面があるとも書かれています。
相談先は言語聴覚士だけではありません。同じポータルサイトは、当事者どうしが集まって話し合うセルフヘルプ(自助)グループと、心理カウンセラーも挙げています。自助グループは学術的な知識や専門的な指導が受けられる場ではないけれども、同じ問題を持つ仲間と出会えるという、そこでしか得られないものがあると書かれています。
言語聴覚士を探すときの3つの落とし穴
落とし穴1 − 「言語聴覚士がいる=吃音を扱っている」と思い込む
この資格が扱うのは、聞こえ・ことば・飲み込みにまたがる広い範囲です。だからこそ公的な資料も、必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではないと明記し、あらかじめ問い合わせるようすすめています。病院に着いてから分かるより、電話で確かめるほうが早く済みます。
落とし穴2 − 一つ合わなかっただけで、支援そのものを諦める
指導・支援法には人ごとに合う・合わないという面がある、と資料自身が書いています。実際、待機を経て通い始めた先を、担当者との相性を理由にやめた保護者の記録もあります。合わなかったことは、支援を受けないほうがよいという意味ではありません。相談窓口は職能団体や都道府県の言語聴覚士会にもあります。
落とし穴3 − 「訓練を受ければ治る」と考える
解説は、どの人にも一様に有効な治療法はないと述べ、その人に応じて組み合わせることで「ある程度の有効率が得られることが多い」という書き方をしています。国際的なレビューも、方法によって根拠の強さがはっきり違うと整理しています。期待の置き所を、流暢さだけに寄せないほうが現実に近くなります。
まずは、どんな場面で出やすいか・どのくらい続いているかを書き留めておくと、初回の面談で経過を伝えやすくなります。そのうえで、通える範囲の医療機関か、日本言語聴覚士協会・都道府県の言語聴覚士会に問い合わせるのが確実です。
よくある質問
言語聴覚士はどんな仕事をする人ですか?
聞こえの障害、言語機能の障害(言語発達障害や失語症など)、話しことばの障害(声の障害・発音の障害)、そして食べたり飲み込んだりすることの障害を対象に、検査、訓練、指導・援助を行う国家資格の専門職です。吃音は、このうち話しことばの障害に含まれます。対象は小児から高齢者までにわたります。
言語聴覚士なら誰でも吃音を診てもらえますか?
そうとは限りません。公的なポータルサイトは、養成課程には吃音が含まれ中核的な役割が期待されているとしたうえで、業務が多岐にわたるため必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではないと明記しています。希望する場合は、病院等に直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県の言語聴覚士会に尋ねるようすすめられています。
どうやって探せばいいですか?
案内されている窓口は、病院等への直接の問い合わせ、日本言語聴覚士協会、各都道府県の言語聴覚士会です。勤務先としては、病院のリハビリテーション科や耳鼻咽喉科などが多いとされています。実際に探した保護者は、検索語に自治体名を足す方法と、最初の病院が1年半待ちで、そこから空きのある他院を紹介してもらった経過を書き残しています。
相談すると、何をしてもらえますか?
まわりの人の対応を変えて話しやすくすること、話し方の練習、気持ちの面の相談、考え方や行動に働きかける方法が中心とされています。幼児期はまず環境を整えることから始め、学童期以降は家庭・学校・職場に理解と寛容を求めることが目的になるとされています。どの人にも一様に有効な方法はなく、その人に応じて組み合わせるとされています。
担当の言語聴覚士と合わないと感じたら、どうすればいいですか?
指導・支援法には人ごとに合う・合わないという面があると、資料自身が述べています。実際に、待機を経て通い始めた先をやめて別の選択肢を探した保護者の記録もあります。相談窓口は個々の医療機関だけでなく、職能団体や都道府県の言語聴覚士会にもあります。
まとめ
- 言語聴覚士は聞こえ・ことば・飲み込みの障害を扱う国家資格で、吃音は「話しことばの障害」に含まれる。担当範囲がもともと広い。
- 公的な資料は「必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではありません」と明記し、事前の問い合わせをすすめている。
- 13件の研究のレビューでは、専門職自身が感じる力量は評価より治療で低く、吃音のある人によく会う人・研修を続けている人ほど高かった。ただし対象は主に小児担当だった。
- 支援の中身は、まわりの環境を整えること・話し方の練習・気持ちの面の相談が中心で、どの人にも一様に効く方法はない。根拠が最も確かなのは、子どもでは反応を返していくやり方、大人では話し方を組み立て直すやり方。
- 合う・合わないは実際に起きる。合わなかったときは、職能団体や都道府県の言語聴覚士会という窓口がある。
