小学生の吃音への対応|急に強まる理由・「治す」より今できること

目次

「小学校に入ってから、吃音が急に強くなった気がする」「幼稚園のころは繰り返すだけだったのに、いまは言葉が出るまで固まってしまう」「小学生のうちなら、まだ治せるのではないか」——どこから手をつければいいのか分からないまま、夜になって調べ始める保護者は少なくありません。

この記事は、結論を先に置いたうえで、同じ時期を通った保護者と当事者4人の言葉と、それに研究や公的資料が何を答えているのかを並べていきます。拠り所にするのは、国立障害者リハビリテーションセンターが運営に関わる発達障害ナビポータル、日本吃音・流暢性障害学会の解説、幼児吃音臨床ガイドライン2021、そしてユニバーシティ・カレッジ・ロンドンが通常学級で行った同級生への聞き取り調査です。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる様子があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 小学校に入ってから「急に強くなった」と感じるとき、新しく始まったとは限りません。あるレビューは、就学前は音や音節の繰り返しが中心だったものが、9歳から12歳ごろにかけて、より強い詰まりや引き伸ばしのほうへ移り、大人になっても続いている人の話し方に近づいていくと整理しています。
  • 6歳から12歳の子どもについては、どの治療にも確かな根拠がないと診療ガイドラインが明記しています。
  • 日本のガイドラインも、幼児期は治療の有効率が比較的高い一方、学齢期になると有効性が低くなりがちだとしたうえで、解決しない場合は学校生活の支援へ円滑につなぐのがよいとしています。
  • だから学齢期の「対応」の中心は、話し方を直すことではなく、教室で起きていることを早く見つけて手当てすることに移ります。学齢期に約半数がいじめやからかいを経験するとされ、対策が重要だと総説は述べています。
  • 本人に吃音の話をしてよいのか迷う必要はありません。「吃音に気がつかせない方がよい」という昔の考え方は、いまは否定されています。

ただし、「確かな根拠のある治療がない」は「何をしても無駄」という意味ではありません。根拠が調べ尽くされていないというだけで、支援そのものが否定されたわけではなく、相談先も配慮の仕組みも実際にあります。

小学校に入ってから「急に強くなった」と感じるとき

保護者が最初に口にする言葉の一つが「急に」です。幼児のころは気にならなかった、あるいは繰り返すだけだったのに、小学校の途中から様子が変わった——そう感じたとき、多くの家庭で「何がきっかけだったのか」を探す時間が始まります。

けれど、その「急に」の中身は一つではありません。まずは、実際にその時期を通った家庭の記録を見てみます。

吃音のある娘をもつ父の声(大阪府在住・高校教員/自助団体の会報への寄稿)

幼い頃に言葉の繰り返しや引き延ばしが見られたが、それを吃音とは理解せず、「思いが溢れて、言葉が追いつかないのだ。何と可愛い子なんだろう」と、その話し方を愛でていた私が、娘の話し方を「吃音」と気がついたのは、彼女が小学5年の秋の頃。

「言葉が詰まって、音読が出来ない」と毎晩のように、涙を流し訴えてきた時だ。

幼い日の繰り返しや引き延ばしは、この父親にとって「思いが溢れて、言葉が追いつかない」話し方でした。それが「吃音」という名前と結びついたのは、娘が小学5年の秋、音読ができないと毎晩訴えてきたときです。この家庭で何かが新しく始まったわけではありません。前からあったものが、毎日やってくる音読という場面にぶつかり、そこで初めて名前を必要としただけでした。同じずれは、学齢期の吃音を追いかけた研究の側にも現れます。

出典: 私はこう生きる―吃音と発達障害、私の考え 2(日本吃音臨床研究会「スタタリング・ナウ」2016.4.20 NO.260)(台帳: V0490)

吃音には、大きく3つの出方があります。音を繰り返す連発(「ぼぼぼぼくは」)、音を引き伸ばす伸発(「ぼーーーくは」)、そして最初の言葉がなかなか出ない難発(「……ぼくは」)です。学齢期に「強くなった」と感じられる変化の多くは、この出方が移ることで起きます。2026年のレビューは、就学前は軽い繰り返しとして現れていたものが、9歳から12歳ごろにかけて、より強い詰まりや引き伸ばしのほうへ移り、大人になっても続いている人の話し方に近づいていくと整理しています。同じレビューは、どもりやすい言葉も、幼いころの「て・に・を・は」のような文法を担う語から、年齢が上がるにつれて名詞や動詞といった意味を担う語のほうへ移っていく、という知見も紹介しています。

日本の学会の解説も、幼児期は繰り返しの症状が多く、比較的早い時期に引き伸ばしや難発へ変わっていく子どももいるとしたうえで、学齢になるころには、幼児期のように吃音がまったく出ない時期を経験することは少なくなると書いています。総説も、8歳ごろ以降は自然に治まることが少なくなる一方、ひとり言ではほとんどどもらなくなり、場面によって出方が大きく変わるようになると述べています。つまり「強くなった」と見えている変化の一部は、症状そのものが増えたのではなく、出方と場面が変わったことだといえます。8歳という区切りについては8歳の吃音|自然回復の目安・学校でできる3つの配慮・相談先で詳しく扱っています。

もう一つ、正直に伝えておきたいことがあります。同じレビューは、9歳から12歳という年代そのものが研究から抜け落ちていると指摘しています。多くの研究は6歳や8歳までしか追いかけないため、それより遅い発症が取りこぼされ、この時期は現在の研究でほとんど調べられていない、というのです。この年齢で「急に出た」と感じた保護者が、調べても納得のいく答えに行き当たらないのは、記事の書き方だけの問題ではありません。なお、思春期に入ってからの変化については中学生の吃音が急に出た3つの背景|発症か悪化かの見分け・受診の目安にまとめています。

「小学生のうちに治す方法」を探してしまう

変化に気づいた次に始まるのが、方法探しです。訓練、トレーニング、治療——言葉は違っても、探しているのは同じもので、「いまのうちなら間に合うのではないか」という気持ちがそこにあります。

その気持ちは、学校の先生にも共有されます。そして教室では、いちばん短く手渡せる助言が使われます。

吃音のある当事者の声(現在は高校教員・教員歴15年以上/個人ブログ note に書いた小学校時代の回想)

小学校に上がり、ますます吃音を意識するようになりました。吃音者あるあるですが、僕も国語の音読が何より辛かったです。教室でみんなの前で立たされて、担任の先生から「落ち着いてゆっくり」とか「深呼吸して」とかアドバイスされましたが、やはりそれでも言葉が出ないので恥ずかしい気持ちだけが残ったように思います。一方で、音楽の時間に歌を歌うことは好きでした。これも吃音者あるあるですが、吃音があっても歌は歌える人が多いです。歌っているときは、自分の思い通りに自由に言葉を操っている感覚があって、とても幸せな時間でした。

いま高校で教える立場にいるこの人が、小学生だった自分を振り返って書き残しているのは、助言が届かなかった場面と、歌なら言葉が自由になった時間の対比です。担任の言葉は、その場でいちばん短く手渡せる善意でした。それでも言葉は出ず、残ったのは恥ずかしさだけだった、と本人は書いています。一方で、伴奏に合わせて歌うときには言葉を操れた。この落差は、公的な解説資料が吃音を説明するときに使っている枠組みと、ぴたりと重なります。

出典: 吃音のある高校教諭の手記(note)(台帳: V0142)

伴奏に合わせて歌ったり、二人で同じ言葉を声に出したりするとき——つまり外側にタイミングがあるとき——吃音は消えて流暢に話せることから、吃音は発話のタイミングの障害だと言われています。気をつけて話そうとするときには吃音があまり出ず、家庭などで思い浮かんだままに話すときに出やすい、とも説明されています。「落ち着いて」「深呼吸して」が届かないのは、本人の努力が足りないからではなく、そこで求められているものがずれているからだといえます。

では、学齢期に効くと確かめられた方法はあるのでしょうか。ここは、はっきりしています。専門家が集まって作られた診療ガイドラインは、就学前の子どもには効果の根拠がある方法を挙げたうえで、6歳から12歳の子どもについては、どの治療にも確かな根拠がないと書いています。

2021年に出た、条件を決めて研究を集め、まとめて評価したレビューも、同じ場所を指しています。このレビューは、就学前の子ども向けのある方法を最高の等級と評価した一方で、年長の学齢期の子どもと思春期の当事者を対象にした、くじ引きで振り分けて比べる形の試験(無作為化比較試験)は1件も見つからず、この年齢層の根拠の水準は「乏しい」と評価しています。研究の分布を地図にした図でも、学齢期と思春期の有効性を示す研究の少なさが浮かび上がった、と述べています。

日本語のガイドラインも、幼児期は治療の有効率が比較的高く、今世紀に入ってから有効率7割の治療方法が複数確立された一方、学齢期になると治療の有効性が低くなりがちで、吃音のために学習や学校生活の困難も生じやすくなると書いています。そのうえで、できれば就学前までに治癒ないし軽快することを目指し、解決しない場合は円滑に学校生活の支援と連携できるようになることがよい、としています。

これは「もう手遅れです」という話ではありません。同じレビューは、学齢期を通じて年齢が上がるにつれ、使われる方法の重心が吃音をなくすことから、吃音を最小にして付き合っていくことへ移っていくと述べています。日本の総説も、言語の訓練だけでは長期的な有効率が低く、心理面・社会面の支えも必要だとしています。「治す方法」を探す時間の一部を、いま教室で起きていることに振り向けるほうが、手当てできることは多い——学齢期の材料が指しているのは、そこです。

教室で真似され、泣いて帰ってきた日

では、教室では実際に何が起きているのでしょうか。家では出ないのに学校ではつらい、という話が学齢期に増えるのは、吃音が場面によって大きく変わるからです。

小学3年生の娘をもつ母親が、その学年に起きたことを書き残しています。

小学3年生の娘をもつ母の声(自助団体サイトへの寄稿)

そして迎えた三学期。娘の吃音を真似て笑う子が出てしまい、娘は教室で号泣した。とっさの先生の判断で、その時その場で、娘の吃音についてクラスのみんなに話をしてくれた。その夜、担任の先生から電話があり、泣きながら謝られた。

この学年、娘は担任の交代をはさんで、自己紹介が苦手になり、発表ができなくなり、本読みができなくなっていたと母親は書いています。家に帰っても「今日はどもりまくった」と泣き、泣きながら本読みの練習をする日が続いていました。真似が起きたのは、その三学期です。担任はその場でクラスに話をし、夜には母親へ電話をかけて謝りました。教室で何が起きるかは、担任がどう動くかと切り離せません。では、こうした出来事はまれな不運なのか。通常学級でクラス全員に聞き取りをした研究が、この問いを正面から測っています。

出典: どもりに向き合える自分になりたい―ゆうちゃん(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0423)

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは、吃音のある子ども16人と、その同級生を含む合計403人に、クラスの中で誰がどの役回りに当たるかを聞き取りました。結果、吃音のある子どもは、そうでない同級生に比べて「嫌い」と指名されることが有意に多く、人気があると分類されにくくなっていました。役割の指名では、いじめられている子に挙げられた割合が37.5%(吃音のない子は10.6%)、助けを求める子に挙げられた割合が25%(同13.18%)で、逆にリーダーに挙げられた割合は6.5%(同12.92%)でした。日本の総説も、学齢期に約半数がいじめやからかいを経験するため対策が重要だと述べています。

ただし、この研究は読み方の注意も一緒に書いています。統計的にはっきり差が出たのは、いじめられている子への指名だけでした。内気、自己主張が強い、協力的、場を乱す、いじめる——こうした行動の指名では、吃音のある子とない子でほとんど差がありませんでした。「吃音のある子はおとなしい」といった思い込みは、この研究自身の中から否定できます。

そしてもう一つ、保護者にとって重要な所見があります。行動の役回りやクラスでの立場は、吃音が重いか軽いかでは決まっていませんでしたいじめられている子に挙げられた中にも、拒否されるグループに入った子の中にも、話しにくさの重い子と軽い子の両方が含まれていたのです。「うちの子は軽いほうだから大丈夫」という見積もりは、この研究では支持されません。

学齢期の子どもへの支援として、いじめや周囲の否定的な反応に直面している場面で使える方法を示した論文もあります。そこでは、いじめへの受け答えを一緒に考える問題解決の活動や、教室で仲間に吃音を説明する取り組みが挙げられています。ただしこの報告は、方法の紹介と1例の経過報告であって、効果を比べた試験ではありません。

本人と、吃音の話をしていいのか

保護者がいちばん迷うのが、ここかもしれません。触れたら意識させてしまう、気にしていないなら黙っていたほうがいい——そう考えて、家では話題にしないという選択をする家庭は少なくありません。

小学3年生で自分の話し方を真似された当事者が、そのあと何をしたかを書いています。

当事者本人の声(大学生・学生メディアの note に筆名で寄せた手記)

時は流れて小学6年生の時、市内の小・中学生が自分の体験や意見を作文して発表する「弁論大会」の学校代表に選ばれました。いま振り返ると、当時から話すことに苦手意識を持っていたはずなのに代表を受け入れた当時の自分が信じられません。私は「吃音」をテーマに発表しました。人前で「私は吃音です!」と発表するのは、当時の自分にとって新鮮な体験でした。ここで「私は吃音症である」という意識を強く持つと同時に、吃音であることを自分で発信していいんだ!という、発信する武器になると気づきました。

小学3年生のとき、この人はクラスメイトに話し方を真似され、担任がその相手に謝罪するよう注意していた、という景色を覚えています。前の節と同じ出来事です。違うのは、3年後に本人が自分から壇上に立ったことでした。市内の弁論大会の学校代表に選ばれ、選んだテーマが「吃音」だった。人前で名乗ることが、隠す対象を自分から出せるものに変えた、と本人は書いています。吃音を本人の前で話題にしてよいのかという迷いに、専門の学会はすでに答えを出しています。

出典: 吃音症の大学生の手記(学生メディア medien-lien の note)(台帳: V0008)

日本吃音・流暢性障害学会の解説は、昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流だったが、いまはそのような考え方は否定されていると明記しています。そのうえで、親子で吃音について話ができる関係づくりを心がけ、「どもってもよいから、たくさんおしゃべりしてね」というメッセージを伝えましょう、としています。同じ解説は、吃音を恥ずかしいと思って出さないように力を入れてもがくと吃音は悪化するため、その悪化を防ぐことが大切だとも書いています。

具体的に何を聞けばいいのかは、公的な資料が言葉ごと示してくれています。吃音のある子どもは話す場面でしか症状が出ないため悩みが過小評価されやすく、ほかの子から話し方を真似されたり、笑われたり、「なんでそんな話し方なの?」と質問されたりすることが多い——だから担任・保護者・支援者が本人に、「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになる、というものです。

そして、これは一度きりの作業ではありません。学校では毎年クラス替えがあり、真似・笑い・質問を受ける可能性があるため、早く見つけて対応することがそのまま予防になる、と同じ資料は述べています。進級のたびに吃音が揺れることについては、吃音は新学期に増える?|4月の波の見分け方と担任への伝え方も参考になります。

学校に何を頼むか——最初の一歩

学齢期の「対応」の多くは、家庭だけでは完結しません。ただし、いきなり体制づくりの話を持ち出す必要はなく、困る場面がかなり具体的に決まっていることを共有するところから始められます。

公的な資料は、困りやすい場面として日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式を挙げ、こうした場面を名指しで本人に質問することが、困り感を早く見つけることにつながるとしています。担任に伝えるときも、「吃音があります」だけで終わらせず、この6つのうちどれで困っているかまで具体化できると、話がかみ合いやすくなります。

場面ごとにどう頼むかは、この記事では入口だけにとどめます。配慮の求め方と通級(ことばの教室)の使い方は吃音と学校の配慮|困る場面・通級の使い方・毎年の申し送りに、号令という一場面に絞った具体例は吃音と日直の号令|言えない理由・免除以外の形・担任への頼み方にまとめています。担任の先生にそのまま渡せる説明は吃音のある子の担任の先生へ、通級の申し込みの流れは吃音と通級(ことばの教室)で扱います。

制度の側にも足場があります。総説は、就学・就労の支援として、医師の診断書によって障害者差別解消法にもとづく合理的配慮(=一人ひとりの困りごとに合わせて、学校や職場がやり方を調整すること)を求められる、と書いています。学会の解説も、発表や電話応対の免除、試験などでの面接時間の延長といった調整を求められるとしたうえで、その際に医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出を求められる場合がある、と補足しています。

どこに相談するか——受診科と相談先

相談先として学会が名前を挙げているのは、小児を扱う言語聴覚士ことばの教室の教員です。楽に話しやすくなるように周囲の環境を整える方法、発話に直接はたらきかける方法、吃音のことを理解する方法などを、年齢と状態に合わせて指導してもらえる、とされています。

吃音そのものの診断は、専門の検査で行われます。総説は、診断基準を「吃音検査で中核症状(繰り返し・引き伸ばし・詰まり)が100文節あたり合計3以上」と示したうえで、自分の名前だけどもる例もあるため頻度は絶対の基準ではない、と断っています。話すときの渋面や手足を動かすといった動きは吃音にかなり特徴的で、言語発達の遅れ、発音の障害、声の障害、チック、場面緘黙(かんもく)などとの区別が必要だとも書かれています。

一つ知っておくとよいのは、相談の場では吃音が出にくいということです。公的な資料は、相談に来た子が目の前では流暢に話すため、相談を受けた側がつい「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と言ってしまいがちで、それが保護者にとってプラスに働くことは少ない、と注意しています。相談の日にたまたま出なかったからといって、困っていないことにはなりません。困っている場面を具体的にメモして持っていくと、伝わり方が変わります。

日本のガイドラインは、幼児期の吃音について書かれたものですが、学齢期になっても解決しない場合は学校生活の支援と円滑に連携できるようになることがよい、という方向を示しています。相談先を探す軸を「治す場所」から「学校生活を一緒に設計してくれる人」へ移すのが、この年齢では現実的です。

ここに挙げたのは一般的な相談先で、特定の資料が「学齢期の受診の目安」として定めたものではありません。迷ったときは、困っている場面を書き出したうえで、学校と医療の両方に相談してかまいません。

小学生の吃音への対応で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「治す方法」を探すうちに、今日の教室が置き去りになる

6歳から12歳の子どもについては、どの治療にも確かな根拠がないとガイドラインが明記しており、この年齢層を対象にした比較試験は1件も見つかっていません。日本のガイドラインも、学齢期は治療の有効性が低くなりがちだとしたうえで、学校生活の支援への連携を勧めています。方法を探す時間そのものは否定されませんが、その間も教室では毎日、音読と発表と号令が回ってきます学齢期は、支援の重心が「なくす」から「付き合う」へ移る時期でもあります。

落とし穴2 − 「うちの子は軽いほうだから大丈夫」と見積もる

通常学級での聞き取り調査は、クラスでの立場や役回りが吃音の重さでは決まっていなかったことを示しています。いじめられている子に挙げられた中にも、拒否されるグループの中にも、重い子と軽い子の両方がいました。しかも相談の場では吃音が出にくく、軽く見積もられやすいことが公的資料でも注意されています。症状の重さと、学校でのつらさは別の話だと考えておくほうが安全です。

落とし穴3 − 自分の話し方や育て方に原因を探す

「もっとゆっくり話しかけていれば」「返事を急かしたから」と、自分の側に原因を探してしまうことがあります。保護者によく伝えられてきた2つの助言——ゆっくり話すことと、答えるまでの間を長くとること——について、吃音が始まったころの親子の会話を実際に録音して調べた研究は、これらを支持する結果を得られませんでした同じ著者による別の論説も、規模の大きい長期の研究では、話す速さや会話の交代のしかたと吃音からの回復に関係が見られなかったとしたうえで、回復を決めるのは親だという考え方は根拠が不十分で、害をもたらしうると述べています。

「親の話し方を変えれば」という提案に、2026年の意見論文が挙げた4つの反論。1 示された助言は以前から行われてきたものと同じで、新しい方法ではない。2 根拠とされた限られた予備データは、同じ雑誌に同じ年に載った、より大規模で長期間の研究と矛盾する(その研究では、話す速さや会話の交代と吃音からの回復に関係は見られなかった)。3 速さや会話の交代を調整すると、親の話し方に他の望ましくない変化が伴うことがある。4 回復を決めるのは親だという考え方を強めるが、それは根拠が不十分で、害をもたらしうる。
図1: 「親の話し方を変えれば」という提案に、反論として挙げられた4点。出典: Bernstein Ratner (2026) Not So Simple, and Not So Fast. Am J Speech Lang Pathol.

ただし、ここは裏返してもいけません。原典は「間接的な治療の方針が効かないという結論ではなく、効くという結論を支持しないだけだ」と自ら明記しています。つまり「効かないと分かった」ではなく、「効くという裏づけがまだ得られていない」が正確な言い方です。いずれにしても、いま起きていることの原因を保護者の話し方に求める根拠はありません。保護者自身のいらだちについては子どもの吃音にイライラする親へ|原因ではない・叱ったあと・息のつき方で扱っています。

まずは、どの場面でどのくらい出ているかを書き留めておくことから小さく始められます。相談に行く日に吃音が出なくても、記録があれば伝えられます。言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

小学生になってから、急に吃音が出ることはありますか?

あります。ただし「急に強くなった」と感じられるもののうち、多くは出方の変化です。レビューは、就学前は音や音節の繰り返しが中心だったものが、9歳から12歳ごろにかけて、より強い詰まりや引き伸ばしのほうへ移っていくと整理しています。同じレビューは、この年代の発症そのものが研究から抜け落ちていて、ほとんど調べられていないとも指摘しています。

小学生のうちに治す方法はありますか?

6歳から12歳の子どもについては、どの治療にも確かな根拠がないと診療ガイドラインが明記しています。条件を決めて研究を集めて評価したレビューも、この年齢層を対象に、くじ引きで振り分けて比べる形の試験(無作為化比較試験)は1件も無く、根拠の水準は「乏しい」と評価しています。日本のガイドラインも、学齢期は治療の有効性が低くなりがちだとしたうえで、学校生活の支援へ円滑につなぐことを勧めています。「何もできない」という意味ではなく、支援の重心が変わるということです。

学校の先生には、何をどう伝えればいいですか?

困る場面を名指しで伝えるのが近道です。公的資料は、日直の号令・音読・発表・かけ算の九九・学習発表会・卒業式といった場面で困ることがあるとして、具体的に質問することを勧めています。必要に応じて、医師の診断書や言語聴覚士の報告書をもとに、発表や電話応対の免除、試験での時間延長といった調整を求めることもできます。

本人に吃音の話をしてもいいのでしょうか。意識させてしまいませんか?

「吃音に気がつかせない方がよい」という昔の考え方は、いまは否定されています。学会は、親子で吃音について話ができる関係づくりを勧めています。公的資料も、「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことが、吃音の話をオープンにするきっかけになるとしています。

「ゆっくり話して」「落ち着いて」と声をかけるのは、やめたほうがいいですか?

保護者によく伝えられてきた「ゆっくり話す」「答えるまでの間をとる」という2つの助言は、親子の会話を録音して調べた研究では支持されませんでした。ただし原典は、間接的な方針が効かないという結論ではなく、効くという結論を支持しないだけだと明記しています。なお、吃音は外側にタイミングがあるときには消えて流暢に話せることが知られており、本人の努力だけで出方が決まるものではありません。

まとめ

  • 「小学校に入って急に強くなった」の多くは、出方の変化。就学前の繰り返し中心から、9〜12歳ごろに強い詰まりや引き伸ばしへ移っていくとレビューが整理している。この年代は研究自体が手薄でもある。
  • 6〜12歳では、どの治療にも確かな根拠がないと診療ガイドラインが明記し、この年齢層の比較試験は1件も見つかっていない。日本のガイドラインも学齢期は有効性が低くなりがちだとして、学校生活の支援への連携を勧めている。
  • だから対応の中心は教室に移る。学齢期に約半数がいじめやからかいを経験するとされ、通常学級の調査でも、吃音のある子はいじめられている子に挙げられる割合が37.5%(吃音のない子は10.6%)だった。
  • ただしクラスでの立場は吃音の重さでは決まっておらず、相談の場では吃音が出にくいため軽く見積もられやすい。「軽いから大丈夫」とは考えない。
  • 本人と吃音の話をしてよい。「気がつかせない方がよい」は否定されており、「真似されていない?」と毎年聞くことが早い手当てにつながる。相談先は小児を扱う言語聴覚士とことばの教室の教員。

参考文献

  1. 発達障害ナビポータル(厚生労働省 国立障害者リハビリテーションセンター/文部科学省 国立特別支援教育総合研究所)「吃音」
  2. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」
  3. 森浩一(国立障害者リハビリテーションセンター)(2020)「吃音(どもり)の評価と対応」日本耳鼻咽喉科学会会報 123巻9号
  4. 「発達性吃音の最新治療法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」研究班 (2021)『幼児吃音臨床ガイドライン』第1版
  5. Jalil et al. (2026) Unraveling the mystery of stuttering: clinical and physiological insights into its manifestation. Front Hum Neurosci.
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  7. Brignell, Krahe, Downes, Kefalianos, Reilly & Morgan (2021) Interventions for children and adolescents who stutter: A systematic review, meta-analysis, and evidence map. J Fluency Disord.
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  10. Godsey & Bernstein Ratner(メリーランド大学)(2025) It's About Time: Parent–Child Turn-Taking in Early Stuttering. Am J Speech Lang Pathol.
  11. Bernstein Ratner(メリーランド大学)(2026) Not So Simple, and Not So Fast: The Limits of Speech Rate and Turn-Taking Modifications for Treatment of Early Stuttering. Am J Speech Lang Pathol.

当事者・保護者の声の出典: V0490(日本吃音臨床研究会「スタタリング・ナウ」2016.4.20 NO.260・坂本英樹さんの寄稿)/ V0142(note・吃音のある高校教諭の手記)/ V0423(日本吃音臨床研究会・ゆうちゃんのお母さんの寄稿)/ V0008(学生メディア medien-lien の note・筆名うめちゃんさんの手記)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開