吃音とレジ|いらっしゃいませが言えない理由・4人の工夫・相談先

目次

「いらっしゃいませ」の最初の「い」が出ない。「ありがとうございました」の「あ」で止まる。「袋はご入用ですか」が言えなくて、身ぶりで済ませてしまう——レジは、言う言葉が決まっていて、相手が目の前で待っていて、しかも一日に何十回も繰り返される場所です。ほかの場面ならできる言い換えが、ここだけは使えない。逆に、客としてレジに並んで注文するときに息を詰めている人もいます。

この記事は、その「レジという場面」だけを追います。実際にスーパーのレジに4年立った人、定型文が言えずにレジから外れた人、「レジをやってみないか」と誘われて断った人、そして客として注文する側の4人の記録を並べ、そこに、話す場面によって症状の出方が変わることを扱った研究、日本吃音・流暢性障害学会の解説、厚生労働省の就労支援の案内、テキサス大学オースティン校のチームが行った「先に伝える」ことの実験を、出典つきで重ねます。仕事そのものの選び方は吃音と仕事の記事に、面接で伝えるかどうかは面接のカミングアウトの記事に譲ります。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断、および個別の法的助言に代わるものではありません。職場での調整の運用は職場や年次によって変わります。実際の手続きは、職場の相談窓口やハローワークなどでご確認ください。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 症状の出方が場面によって変わることは、吃音の特徴として整理されています。研究のレビューは、ばらつきを場面によるもの(環境や社会的な文脈の要求の違い)・課題によるもの・時間によるものの三つに分け、吃音は話す文脈・ことばの複雑さ・そのときの気持ちの状態と結びついて大きく揺れると述べています。レジで出やすいのは、場面の条件がそうさせている面があります。
  • 吃音の評価に使われる道具には、電話・自己紹介・飲食店での注文といった話す場面ごとに、感情の反応・発話の乱れ・回避・態度を尋ねるチェックリストがあります。注文やレジの場面は、もともと数えられている場面です。
  • 言い換えでしのげていることは、楽になったことと同じではありません。重症度の検査について、原典自身が外から観察できるどもりは測れても、避ける・別の言葉に置き換える・隠すといった外から見えない側面は捉えられないと断っています。学会の解説も、言い換えで目立たなくなる一方、吃音が出ないかを日々警戒することになるとしています。
  • 職場に頼める調整の例は、具体的に書かれています。電話が難しい場合に他の人に取ってもらう人員配置、口頭での報告をメールに変えること——これらが調整の中身にあたるとされています。
  • 先に「自分には吃音がある」と伝えた話し手は、伝えなかった話し手より友好的・外向的・自信があると受け取られやすかった、という実験結果があります。

ただし、これは「伝えれば解決する」とも「レジは続けるべきだ」とも「接客はやめたほうがいい」とも読めません。先に伝えることの実験は模擬の就職面接という場面で行われたもので、原典自身が、すべての状況やすべての人に有益とは限らないと書いています。ここで並べられるのは、4人に実際に起きたことと、研究が場面についてどこまで言えているか、そして頼める調整がどこにあるか、までです。

レジの決まり文句は、言い換えがきかない

吃音のある人の多くが日常でやっているのが、言いにくい言葉を別の言葉に置き換えることです。「ありがとう」が出なければ「すみません」にする、固有名詞を避けて言い回しを変える。ところがレジには、置き換えられない一言があります。「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」です。

当事者本人の声(アラサー女性・大学2年で吃音と自覚。スーパーのレジで4年働いた/個人ブログ note、名義「マカロニ」)

言いづらい言葉が大体把握できてきたので、言い換えをして凌いでいました。でも、言い換えができない状況は不甲斐なさと悔しさでいっぱいになりました。

アルバイト先はスーパーのレジです。

「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」が言えません。致命的です。

中学・高校と症状は変わらず、言いにくい言葉の顔ぶれが自分で分かってきた——そこまでは、言い換えという道具でしのげていた人です。その道具が使えない場所として名指しされているのがレジでした。この方はそのあと、足でリズムをとりながら頭の「い」と「あ」を言うと言いやすいことを見つけ、頭の文字を発音しない挨拶になってもお客は気にしないと気づき、4年間働いたと書いています。「お箸はご入用ですか?」の「お」が言いづらいので「割り箸はご入用ですか?」に替えた、という具体例も残っています。研究の側から見ると、場面ごとに出方が変わること自体は、吃音の性質として整理されているものです。

出典: 私が吃音だと気付いた時の話。(note・マカロニ)(台帳: V0198)

研究をまとめて見渡したレビューは、症状のばらつきを三つに分けています。場面によるもの——環境や社会的な文脈の要求の違いで出方が変わること。課題によるもの——していることの性質の違いで変わること。時間によるもの——瞬間ごと・日ごと・もっと長い期間で揺れること。そのうえで吃音については、話す文脈・ことばの複雑さ・そのときの気持ちの状態といった要因と結びついて大きく揺れると述べています。レジの一言は、この三つのうち少なくとも二つ(場面と課題)が同時に効く場所です。決まった言い回ししか使えないので、逃げ道の数が一つ減ります。

症状のばらつきを、場面によるもの・課題によるもの・時間によるものの三つに分けて示した概念図。場面によるものは、環境や社会的な文脈の要求の違いに結びついた症状の出方の変化。課題によるものは、していること(活動)の性質の違いに結びついた症状の出方の変化。時間によるものは、瞬間ごと・日ごと、あるいはもっと長い期間にわたる揺れ。あわせて、吃音は話す文脈・ことばの複雑さ・そのときの気持ちの状態という要因と結びついて大きく揺れると述べられていることを示している
図1: 場面・課題・時間——ばらつきは三つに分けて整理されている。出典: Jokar et al. (2026) J Speech Lang Hear Res.

日本吃音・流暢性障害学会の解説も、思春期以降は最初の音が出しにくくなる症状(難発)が中心になり、その状態で困難を感じやすい場面として、中高生の部活動や入学面接、大学生のゼミの発表や就職活動、社会人の職場の電話応対を挙げています。挙がっているのはいずれも、言うことがあらかじめ決まっている場面です。どの音が出にくいかという話そのものは出にくい音の記事にまとめています。

一言が言えないだけで、レジから外れることがある

言い換えが使えないとき、次に起きるのは配置の変更です。本人が辞めるわけでも、注意されるわけでもなく、割り振られる仕事が静かに変わっていく。

当事者本人の声(大学4年・福井春香さん。3歳ごろから吃音、難発。NHK厚生文化事業団「第60回NHK障害福祉賞」ハートネット賞受賞作)

高校三年生のとき、私は初めてアルバイトを経験しました。

レジ業務を希望し、スーパーで働き始めましたが、言わなければいけない定型文の一つがどうしても言えず、次第にレジを外されるようになりました。気づけば品出し担当ばかりで、周りの人がレジと品出しの両方を割り振られている中で、私は品出ししか割り振られないことに恥ずかしさと悔しさを感じたことは、今でも忘れることができません。

いま思うと、「この言葉が出にくいので、別の言い方でもいいですか」と誰かに伝える勇気があれば、レジを続けられたのかもしれません。

しかし、当時は言い出す勇気がなく、ただ言われた通りにすることしかできませんでした。

初めてのアルバイトで、自分から希望したのがレジでした。外された理由として本人が挙げているのは、能力でも態度でもなく、定型文の一つです。同じ作品でこの方は、言いにくい言葉を別の表現に置き換えたり、詰まりそうな言葉の前で一拍おいたりと、日々頭をフル回転させていること、そしてその「隠す」生き方が時に自分を苦しめたと書いています。振り返りの一文が「別の言い方でもいいですか」と頼むことに向いているのは、当時その一言が言えなかったからです。頼める調整の中身が具体例で示されていることは、資料の側にも書かれています。

出典: 伝えられなかった言葉と、伝わった想い(第60回NHK障害福祉賞ハートネット賞受賞作・NHK厚生文化事業団)(台帳: V0155)

ここで押さえておきたいのは、「言い換えでしのげている人」と「困っていない人」は違うということです。吃音のある大人を調べた研究は、使った重症度の検査について、外から観察できるどもりを測る道具としては信頼できるものの、避ける・別の言葉に置き換える・隠すといった、外からは見えない側面は捉えられないと自ら断っています。そして、隠す形の吃音が中心の人については、結果を読むときにこの限界を考える必要があるとしています。学会の解説も、言いにくい単語を言い換えると吃音は目立たなくなるが、実際は吃音が出ないかを日々警戒しながら生活することになり、ストレスや悩みを抱え込みやすくなると書いています。

重症度の検査(SSI-4-TR)が測れるものと測れないものを左右に並べた図。測れるのは、外から観察できるどもりの行動で、標準化された信頼できる測り方として位置づけられるもの。測れないのは、避ける・別の言葉に置き換える・隠すといった、外からは見えない側面。あわせて、原典の注記として、隠れた形の吃音が中心の人については結果を読むときにこの限界を考える必要があること、学会の解説として、言い換えると吃音は目立たなくなるが出ないかを日々警戒しながら生活することになることを示している
図2: 検査が測れるのは、外に出るどもりまで。出典: Mutlu & Cemali (2025) BMC Psychol./日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」

では、何を頼めるのか。国内の研究プロジェクトの解説は、困りごとが減るように進め方や環境を調整してもらうこと(合理的配慮)の中身を具体例で説明しています。吃音で電話が困難な場合は、他の人に電話を取ってもらう必要があり、人員配置についての配慮が必要になる。上司に口頭で話すのが難しい場合は、業務手順を変更してメールで報告・連絡・相談することを了承してもらえるなら、配慮されたことになる。ただし「合理的」とは雇用主に過大な負担を生じさせない範囲でという意味で、業種や会社によって範囲が狭いことがあるとされています。挨拶そのものが仕事の中身になっている職場では、範囲の線引きも変わります。制度の全体は合理的配慮の記事に、書いて伝える手段は筆談の記事にまとめています。

レジに立つ前に、断ってしまうこともある

外される前に、自分で降りることもあります。しかもそれは、うまくいっていない時ではなく、認められた時に起きることがあります。

当事者本人の声(専門学校生。チェーンカフェで食器洗浄のアルバイト。店長から誘われたレジを断った/個人ブログ note、名義「shima」)

先ほど述べたような軽い接客はできたのにね。私の中で、それとこれとは全くレベルの違う話だったのだ。

流暢に話せる自信がなかった。こわかった、お客様に白い目で見られるんじゃないかって。周りの優秀なみんなの足を引っ張りたくなかったし、なによりこれ以上気を遣わせたくなかった。

この方は、フロアで食器を預かる、簡単なコーヒーを提供するといった接客はこなしていて、お客と話すときはいつもドキドキしたけれど意外と楽しかった、と書いています。仕事に慣れたころ、店長に呼び出されて「レジをやってみないか」と言われた。認めてもらえたようで嬉しかった。それでも断った——同じ接客でも、自分の中では「全くレベルの違う話」だったからです。本人はそのあと、本当はやってみたかった、夢にまでみた仕事だったのに勇気が出せない自分が悔しかった、と続けています。この「やれる場面とやれない場面のあいだに線が引かれる」という動き方は、研究の側でも回避として名前がついています。

出典: 吃音があったってカフェ店員やりたいし、やっていい(note・shima)(台帳: V0153)

研究のレビューは、症状が読めない形で揺れることの帰結を四つ挙げています。話す前の不安(予期不安)を高めること、自分にはできるという感覚を削ること、人と関わる場を狭めること、避けることを増やすことそしてこれらはいずれも、大人と子どもの生活の質を下げうるとしています。うまくいく日とうまくいかない日が予測できないほど、「引き受けたあとで失敗したら」という側に判断が寄ります。レジを断るという選択は、その筋の上にあります。

同じレビューは、訓練の側がこのばらつきにどう向き合ってきたかも書いています。一つは、だんだん難しい場面へ体系的に慣らしていくやり方——安全な場での音読から始めて、初対面の相手との自由な会話まで進めていくもの。もう一つは、訓練で得たものを日常へ持ち出す練習で、職場・集まり・学校といった実際の場で使ってみることが含まれます。こうした組み立ては、話す場が動くものだと認めたうえで作られていて、どもりを減らすことだけでなく、しなやかさを育てることを狙っているとされています。「いきなりレジに立てるか」ではなく「どこから慣らすか」という問いの立て方が、訓練の側にはあるということです。

客として、レジで注文する側にも起きている

レジをめぐる困りごとは、カウンターの内側だけの話ではありません。並んで待っている数十秒のあいだに、頭の中で注文の言い方を何度も組み替えている人がいます。

当事者本人の声(難発の当事者・名義 nagy。話す前に体を前後に揺らして発声していた経験を書いた回/個人ブログ note)

店員さんの前までずんずん進み、その勢いで

「ホットコーヒーください」

と言ってみる。

言えるときもあるけど、難発で

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「ホ、ホットコーヒーください」

となるときが多かった。

場面はコンビニです。「よし、あれを買おう」と意気込んでから、勢いをつけて進むこと自体が、この方にとっては声を出すための助走でした。同じ記事には、そのあとに続く部分——うまく言えなかったときに恥ずかしいので、極力相手の顔を見ないようにしていたこと、店員からは「なんかずんずん進んできていきなりぼそぼそ言う人だな」と思われていただろうかという想像——も書かれています。注文という場面が、吃音の評価に使われるチェックリストに最初から入っていることは、偶然ではありません。

出典: 吃音と随伴運動——人と話すのがこわくなるまで(note・nagy)(台帳: V0210)

吃音の分野には、場面をまたぐばらつきを捉えようとする道具がすでにあります。生活の場面ごとに吃音の影響を尋ねる質問紙のほか、電話で話す・自己紹介をする・飲食店で注文するといった話す場面ごとに、感情の反応・発話の乱れ・回避・態度を測るチェックリストが挙げられています。多数の話す場面での自信を調べる尺度もあります。注文の場面で固まることは、支援の側からすれば数えられている困りごとの一つです。

吃音の評価に使われる3つの道具が、それぞれどんな話す場面を数えているかを並べた図。生活場面ごとの質問紙は、職場・家庭・社交の場面での吃音の影響を尋ねる。話す場面のチェックリストは、電話で話す/自己紹介をする/飲食店で注文する などの場面ごとに、感情の反応・発話の乱れ・回避・態度を測る。話す場面での自信の尺度は、50場面の話す課題・場面での自信を調べる
図3: 注文の場面は、評価の道具にもともと数えられている。出典: Jokar et al. (2026) J Speech Lang Hear Res.

受け取る側については、当事者の活動が言葉にしています。吃音のある若者が接客に挑戦する「注文に時間がかかるカフェ」の案内は、「私たちは言葉が出にくい吃音があります。言葉はスラスラでないけれど、みんな接客業の夢を持っています」と書いています。周囲への頼みごとも同じページに四つ並んでいて、最初の二つが遮ったり、憶測して代わりに言ったりせずに言い終わるまで待つこと、そして緊張してどもっているわけではないので「リラックスして」「ゆっくり話せばいいよ」とアドバイスしないことです。このカフェは吃音の有無を問わず誰でも利用できる一般のカフェで、接客をしたい若者や企業からの依頼で開くため、決まった地域での定期開催や常設店はないとされています。

先に伝えると、相手の受け取り方は変わるのか

「この言葉が出にくいので、別の言い方でもいいですか」——先ほどの受賞作にあった一文は、自分から吃音があると伝えること(自己開示)でもあります。これについては、実験の結果が出ています。

テキサス大学オースティン校のチームが行った実験では、観察者に、吃音のある話し手が先に吃音のことを伝えた動画と、伝えなかった動画を見せて印象を尋ねました。話し手と観察者の性別の影響を差し引いたうえで、先に伝えた話し手のほうが、友好的・外向的・自信があると選ばれやすいという結果でした。原典は、自己開示は吃音のある人が聞き手の受け取り方に良い影響を与えるために使える方法として有効だと示唆された、と結んでいます。

伝え方の違いを比べた研究もあります。こちらは、模擬の就職面接の冒頭で話し手が伝えるという設定で行われました。原典は、この設定を選んだ理由として、話し手が音読をしていた過去の研究より実際の場面に近く、臨床で会う多くの大人にとって直接の意味があるからだと書いています。つまり、この結果はレジの場面で試したものではありません。原典自身も結論で、自己開示はすべての状況やすべての人に有益とは限らず、使うかどうかの判断も、その結果として起きること(自分の内側の反応も、相手からの反応も)も人によって変わりうると断っています。

ですから、ここから言えるのは「伝えれば大丈夫」ではなく、「伝えることは、相手の受け取り方を悪くする方向には働きにくい、という実験結果がある」というところまでです。面接という場面で伝えるかどうかの判断材料は面接のカミングアウトの記事に、辞めるかどうかの迷いについては辞める・こもるの記事にまとめています。

どこに相談できるか — 職場・ハローワーク・言語聴覚士

レジの一言で困っているとき、相談できる先は三方向あります。

  • 職場(上司・店長):国内の研究プロジェクトの解説は、就職してからも職場の上司に事情を話すだけで適切に配慮される場合も多いようだ、と書いています。一方で、「合理的」とされる客観的な基準はなく、現実には会社や上司の裁量の幅がかなり大きいとも書かれています。
  • ハローワーク:厚生労働省の案内によれば、ハローワークには「精神・発達障害者雇用サポーター」が配置され、障害特性を踏まえた専門的な就職支援や職場定着支援が行われています。事業主に対する相談援助も行われているとされています。学生向けには「障害学生等雇用サポーター」が配置され、就職準備段階から職場定着までの支援が行われています。
  • 言語聴覚士・ことばの教室:話し方そのものの相談はこちらが窓口になります。なお、職場や学校で調整を求める際には、医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合があるとされています。

頼むときに困るのは、「何を」の部分です。研究のレビューは、ばらつきを体系的に捉える道具がまだ無いなかで臨床家にできることとして、家庭・学校・職場・人づきあいの場での違いを記録すること、本人に筋道を立てた自己報告や記録を書いてもらうことを挙げています。同じレビューは、標準的な重症度の検査が課題や場面をまたいでサンプルを採るよう勧めてはいるものの、得られた点数は合算されてしまい、場面ごとの違いが覆い隠されうるとも述べています。「全体としてどのくらい重いか」ではなく「どの場面のどの一言で、どのくらい止まるか」を持っていくほうが、話が通りやすいということです。

記録の中身としては、詰まった一言(「いらっしゃいませ」なのか「ありがとうございました」なのか)、混み具合、時間帯、代わりに使えた言い方、といった粒度で十分です。これは診断や治療に代わるものではなく、相談のときに渡せる材料を用意しておくための工夫です。

レジの場面で陥りやすい3つの落とし穴

落とし穴1 − 「言い換えでしのげている=軽い」と受け取る

言い換えは、その場を通すための工夫です。ただし重症度の検査は、外から観察できるどもりは測れても、避ける・置き換える・隠すといった外からは見えない側面までは捉えられないと、原典自身が断っています。学会の解説も、言い換えると吃音は目立たなくなる一方、吃音が出ないかを日々警戒しながら生活することになり、ストレスを抱え込みやすくなるとしています。うまく隠せていることと、楽に働けていることは同じではありません。自分についても、一緒に働く人についても、ここは取り違えやすいところです。

落とし穴2 − 「レジができない」を「接客に向いていない」まで広げる

レジで詰まるのは、決まった一言しか使えず、相手が目の前で待ち、同じ言葉を何十回も繰り返す——という場面の条件が重なっているからでもあります。研究のレビューは、ばらつきを場面・課題・時間に分けて整理しており、訓練の側も、だんだん難しい場面へ慣らしていく組み立てを持っています。この記事に出てきた4人も、レジ以外の接客はできていた人、4年続けた人、客としてだけ困っていた人と、線の引かれ方がそれぞれ違いました。職種そのものの選び方は吃音と仕事の記事で扱っています。

落とし穴3 − 頼める調整があることを知らないまま、一人で辞める

電話を他の人に取ってもらう人員配置や、口頭での報告をメールに変えることは、調整の中身として具体的に挙げられているものです。ハローワークには、障害特性を踏まえた就職支援や職場定着支援を行うサポーターが配置されています。もちろん「合理的」の範囲は雇用主に過大な負担を生じさせない範囲とされ、会社や上司の裁量の幅も大きいのが現実です。それでも、頼まずに降りるのと、頼んで断られるのとでは、次に残るものが違います。

まずは、どの一言で・どのくらい止まったかを日々書き留めておくと、上司にも相談先にもそのまま渡せます。言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

「いらっしゃいませ」が言えません。レジのアルバイトは諦めたほうがいいですか?

諦めるべきだと言える根拠は手元にありません。スーパーのレジで、頭の音の出し方を工夫し、言いにくい語を含む言い方を作り替えて4年働いた当事者の記録があります(V0198)。一方で、定型文の一つが言えずにレジから外れた記録もあります(V0155)。判断の前に確かめておけるのは、その職場で言い方を変えてよいか、担当を替えられるか、といった条件のほうです。頼める調整の例は資料にも具体的に挙げられています。

言い換えでごまかしているようで、後ろめたくなります。

言い換えは、多くの当事者が使っている工夫です。学会の解説は、言いにくい単語を言い換えると吃音は目立たなくなる一方、吃音が出ないかを日々警戒しながら生活することになり、ストレスや悩みを抱え込みやすくなると説明しています。研究の側も、重症度の検査では避ける・置き換える・隠すといった側面は捉えられないと断っています。後ろめたさよりも、その工夫にどれだけ気力を使っているかのほうを、相談のときに伝える材料にしてください。

店長やアルバイト先に、吃音があると伝えたほうがいいですか?

先に伝えた話し手のほうが、友好的・外向的・自信があると受け取られやすかったという実験結果があります。ただしこれらの実験は模擬の就職面接などの設定で行われており、原典自身が、自己開示はすべての状況やすべての人に有益とは限らないと書いています。伝えるなら、「この言葉が出にくいので、別の言い方でもいいですか」のように、何が起きるかと代わりの手段まで添えると、相手が動きやすくなります。面接での判断材料は面接のカミングアウトの記事にまとめています。

レジを外されました。これは仕方のないことですか?

仕方がないかどうかを決められる資料は手元にありません。分かっているのは、職場での調整の例として、電話を他の人に取ってもらう人員配置や、口頭での報告をメールに変えることが挙げられていること、そして「合理的」とは雇用主に過大な負担を生じさせない範囲という意味で、業種や会社によって範囲が狭いことがあるということです。まず、どの一言が出にくいのかを具体的に伝え、代わりの言い方を提案してみるところからになります。制度の全体は合理的配慮の記事で扱っています。

客としてレジで注文するのがこわいときは、どうすればいいですか?

注文の場面は、吃音の評価に使われるチェックリストにもともと含まれている場面で、電話・自己紹介と並んで挙げられています。困りごととして数えられている、ということです。周囲に望むこととして当事者の活動が挙げているのは、遮ったり憶測して代わりに言ったりせずに言い終わるまで待つこと、「リラックスして」などとアドバイスしないことでした。書いて伝える手段については筆談の記事にまとめています。

まとめ

  • レジの「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」は、言い換えという多くの当事者が使う工夫が効かない一言。症状の出方が場面によって変わることは、場面・課題・時間という三つのばらつきとして整理されている。
  • 言い換えでしのげていることは、楽になったことと同じではない。重症度の検査は、避ける・置き換える・隠すといった外から見えない側面を捉えられないと原典自身が断っている。学会の解説も、目立たなくなる代わりに日々警戒することになると書いている。
  • 定型文の一つが言えずにレジから外れた記録、認められた場面で誘いを断った記録、4年続けた記録——同じ「レジ」でも線の引かれ方は人によって違う(V0155・V0153・V0198)。
  • 客として注文する側も同じ語圏にある。注文の場面は、話す場面ごとに感情・発話の乱れ・回避・態度を測るチェックリストに含まれている。当事者の活動は、周囲に「言い終わるまで待つ」「アドバイスしない」を求めている。
  • 相談先は、職場(上司・店長)、ハローワークのサポーター、そして話し方そのものについては言語聴覚士やことばの教室。持っていくのは全体の重さではなく、どの場面のどの一言で止まるかの記録がよい。

参考文献

  1. Jokar et al. (2026) How Variability Is Addressed in Interventions for Neurodiverse Conditions: Implications for Stuttering. J Speech Lang Hear Res.
  2. Mutlu & Cemali (2025) Assessment of occupational balance and life satisfaction in adults who stutter. BMC Psychol.
  3. Byrd, McGill, Gkalitsiou & Cappellini (2017) The effects of self-disclosure on male and female perceptions of individuals who stutter. Am J Speech Lang Pathol.(テキサス大学オースティン校)
  4. Byrd, Croft, Gkalitsiou & Hampton (2017) Clinical utility of self-disclosure for adults who stutter: Apologetic versus informative statements. J Fluency Disord.
  5. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023年)
  6. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「A04・A05-4 職場での合理的配慮について」(2020年)
  7. 厚生労働省「発達障害者の就労支援」
  8. 「注文に時間がかかるカフェ」公式ページ

当事者の声の出典: V0198(note・マカロニさんのブログ)/ V0155(NHK厚生文化事業団「第60回NHK障害福祉賞」ハートネット賞受賞作・福井春香さん)/ V0153(note・shimaさんのブログ)/ V0210(note・nagyさんのブログ)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-11 公開