大人の吃音が治ったきっかけ|当事者の体験談・自然軽減と改善の違い

大人の吃音が治ったきっかけ|当事者の体験談・自然軽減と改善の違い
目次

「大人になってからでも、吃音(きつおん、どもり)は治るの?」「楽になった人は、何がきっかけだったんだろう」——検索してたどり着く体験談には、たしかに「治った」「軽くなった」と書いてあります。けれど、その人の何が減って、何が残ったのかまで書いてある記事は、なかなか見つかりませんよね。

この記事は、そこを開くために書きました。大人になってから変化を経験した当事者5人の記録を、「何が減ったか」「取り組みは何をもたらしたか」「変化のあと、何が残り、いつ戻るのか」という順に読んでいきます。あわせて、大人の吃音への取り組みで期待できることと期待できないこと、調子の「波」の扱い方、相談先までを、研究と学会資料の出典つきで整理します。専門用語はそのつどかみくだいて説明します。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 大人の「治った」は、どもり自体が減った意味と、どもりは残っても困らなくなった意味に分かれます吃音の問題は「ことばがどもって」「困ること」の2つで成り立ち、問題の大きさは主に後者で決まる、という整理があります。まず、その人の「治った」がどちらの話かを見分けてください。
  • 大人の吃音への取り組みは、吃音のコントロール・話しやすさ・生活の質の改善には役立つとされます。一方で完全に治ることはまれから不可能で、話しやすい時期のあとに戻ることはよくあるとも明記されています。
  • いま成人向けにある技法は、どれも「補う」性質のものです。成人の吃音を治す方法は現時点で無く、良くなった状態を保つには技法を使い続ける必要があると書かれています。
  • 調子には「波」があります。良い状態、あるいは悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多いとされ、進学や就職で生活環境が変わるなかで悪くなる場合もあります。
  • 治療を希望する場合の選択肢としてまず挙がるのは、話すことや聞くことの困りごとを専門に扱う国家資格の専門職——言語聴覚士(ST)による発話訓練ですそれだけで変わらないときや不安が強いときは、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。

ただし、ここに並べたのは集団を見た研究や学会の整理であって、あなた一人のこの先を決めるものではありません。この記事で読む5人の記録も、それぞれ「一人分」です。同じ順路をたどれば同じ結果になる、とは読まないでください。

「治った」と言うとき、実際には何が減っているのか

体験談を読むと、「軽くなった」「ほとんど気にならなくなった」という言葉によく出会います。けれど、その一言の中身を項目に分けて書いている人は多くありません。まずは、自分の状態を欄ごとに点検して書き残した人の記録から読みます。

当事者本人の声(40歳・男性・社内研修講師/個人ブログ「どもれども どもれども」)

約32年間の吃音人生の中で、かなり軽く感じるようになっています。

言葉の言い換えもほとんどなく、少し吃りながら言いにくい言葉も物理的な負担(息苦しいなど)なく話せている気がします。

タ行やナ行など苦手な言葉の種類は特に変わってないですね。

「言いたいけど言えない」ということはほとんど無くなっています。

40歳になった年に、症状・精神面・仕事面・生活面という欄を立てて自分を棚卸しした回の、症状の欄にあたる部分です。減ったものとして挙げられているのは、言葉の言い換えと「言いたいけど言えない」状態。変わらなかったものとして、そのすぐ横に苦手な音の種類が並べてあります。同じ記事の精神面の欄には、吃音であることに引け目を感じることはほぼ無くなった一方、会議や大勢が参加する場では吃ることが頭をよぎって発言を控えることが5回に1回ほどある、とも書かれています。減った欄と、減っていない欄が、同じページに並んでいるわけです。「治った」の一語では、この差が見えなくなります。

出典: 40歳になった私の吃音ライフ(どもれども どもれども)(台帳: V0064)

吃音ポータルサイトは、吃音の問題を (1)ことばがどもること(2)困ること の2つに分けて整理しています。(1)は音を繰り返す・伸ばす・つまって出てこないといった話し方のことで、(2)は恥ずかしい思いをする、言いたいことを言えずいらだつ、からかわれたり特別視されたりする、緊張や不安を感じる、話す場面を避ける、就職や結婚での問題、落ち込みや自信の低下——といった状態を指します。そして同サイトはさらに、吃音の問題の大きさは主に(2)によって決まるという見方を示しています。(1)が多くても(2)が無ければ問題は大きくならず、(1)が少なくても(2)が大きければ問題は大きい、という考え方です。

同じページにはもうひとつ、アメリカの研究者ウェンデル・ジョンソンが試みた、吃音の問題を立方体の体積で表す考え方も紹介されています。3つの辺は、X軸が吃音の言語症状、Y軸がそれに対する周囲の反応、Z軸がXやYに対する本人の反応です。大人の「治ったきっかけ」を読むときは、その人はどの辺が小さくなったと書いているのかを先に見ると、話が正確に入ってきます。

「治った」の中身を2列に分けた図。左は「(1)ことばがどもる」=音を繰り返す・伸ばす・つまって出てこない。右は「(2)困ること」=恥ずかしい思いをする、言いたいことが言えずいらいらする、周囲からのからかいや特別視、緊張・不安、話すことを避ける、就職や結婚の問題、落ち込み・自信の低下。下段に「吃音の問題の大きさは、主に(2)の状態によって決まる」と、(1)が多くても(2)が無ければ問題は大きくならず、(1)があまり見られなくても(2)が大きければ問題は大きいという説明
図1: 「治った」には、(1)が減った意味と(2)が減った意味の2通りがある。出典: 吃音ポータルサイト「吃音ってどんなもの?」

「治すための取り組み」を転機に挙げる人は、何が変わったと書いているか

「治ったきっかけ」として、訓練や教室、専門機関での取り組みが挙がることはよくあります。ここで大事なのは、その人が本文で「何が変わった」と書いているかを最後まで読むことです。取り組みの名前と、変わった中身が、一致しないことがあるからです。

当事者本人の語り(伊藤伸二/日本吃音臨床研究会会長・自助団体サイトの本人名義の自伝。1960年代に民間の吃音矯正所へ入寮した当時のくだり)

そのときどもりまくっていた僕は、どもり慣れてきたのだろう。これまで話すことから逃げていたために「どもれない体」になっていたのが、30日間の寮生活の中で「どもれる体」になっていた。当然のことながら、僕自身の吃音は治らなかったが、治すための「ゆっくり」話す訓練をしていた人たち、吃音矯正所に来ていた300人のうち誰ひとり治らなかった。

「どもりは必ず治る」と宣伝していた民間の学院に、大学1年で30日間入寮したときの記録です。日課は、午前が呼吸・発声の練習、午後は街頭で100人以上に声をかける訓練と、公園の銅像前や電車での演説の練習、夜は輪になって遅くまで話し込むことだったと書かれています。院長に教わった極端にゆっくり話す方法については、喫茶店で試して笑われ、「どもらないが、僕のことばじゃない」と受け止めたとあります。転機として挙げられているのは治癒ではなく、話す場から逃げなくなったこと。なお、これは1960年代の一つの民間施設についての一人の記録であって、現在の言語聴覚療法の評価ではありません。いまの研究が成人の取り組みをどう整理しているかは、次のとおりです。

出典: 吃音を生き抜く伊藤伸二の人生(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0124)

成人向けの取り組みは、大きく2つの方向に分けて整理されています。ひとつは話し方そのものを組み立て直していく方向で、新しい話し方を教わり、音を引き伸ばしてゆっくり話すことを軸に、力を入れすぎない発音や、声の出し始めをなめらかにする練習を積みます。もうひとつは吃音との付き合い方に取り組む方向で、わざとどもってみるなどして吃音に慣れ、どもるときの体の力みを減らしていきます。こちらの目標は、吃音を受け入れられるようになること、吃音への恐れや不安を減らすこと、そして力まずにどもれるようになることだと説明されています。

裏づけがはっきりしているのは前者です。話し方を組み立て直していく訓練で吃音の回数が減ることは、幅広い研究で報告されています。ただし同じレビューは、そのすぐあとに条件をつけています。診察室では回数が大きく減ることがあっても、日常の話す場面でずっとコントロールを保つのは非常に難しく、吃音は戻りやすい——だから、どもったときの対処のしかたを併せて身につけておくのが賢明だ、と。近年は、この2つを組み合わせた包括的な取り組みが行われるようになっています。

そして、いちばん押さえておきたい一文があります。成人の吃音を治す方法は現時点で無く、だからすべての技法は「補う」性質のものだ——補う技法の性質上、良くなった状態を保つには使い続ける必要がある、と書かれています。薬や機器といった、行動に働きかけるのではない方法についても、長期的な改善をもたらすと証明されたものはないとされています。

大人の吃音への取り組みについて研究が言っていることを4段に並べた図。1段目=役立つ:吃音をコントロールすること、話しやすさを得ること、生活の質を高めることの助けになる。2段目=まれ〜不可能:完全に治ること。3段目=よくある:話しやすい時期のあとに戻ること。4段目=だから:技法はすべて補う性質のもので、良くなった状態を保つには使い続ける必要がある。4つの段は同じ大きさで並べてあり、頻度は文字で示すもので、段の長さや面積は頻度の大小を表さない
図2: 大人の取り組みで、期待できること・期待できないこと。出典: Neef & Chang (2024) PLOS Biology / Blomgren (2013) Psychol Res Behav Manag

環境が変わると、症状も動く — 良い方にも、悪い方にも

「きっかけ」として、転職・異動・独立といった環境の変化を挙げる人はたくさんいます。ただ、環境は良い方にだけ動くわけではありません。ここで、次に読む記録に出てくる言葉を先に説明しておきます。話し始める前から「また詰まるかもしれない」と先に不安になる状態は「予期不安」と呼ばれます。また、ことばが出せずに間があいてしまう症状は「難発」と呼ばれ、大人ではこの型が中心になるとされています。

当事者本人の声(社会人3年目の転職後に難発が戻ったと書く女性/個人ブログ note・筆名で発信)

もちろん、全部が改善されたわけではなく、今でも「あ、吃りそう」という予期不安は出てくるし、難発で言うことを諦めたり言い換えたりもします。

自分の体調や精神面が弱っていると、吃音であることが悲しくなります。

でも、以前と違うのは『ちゃんと吃音を感じて認める』が基本スタンスであること。

そして吃音が増えた時、『悪化した』ではなく『そういう時』だと冷静にとらえることができるようになりました。

小学校高学年に音を繰り返す症状が始まり、やがてことばが出ない型へ変わり、中学以降は意識は向くものの症状はおさまり、社会人2年目までは仕事に支障がなかった——そう自分の経過を箇条書きにしたうえで、3年目の転職後に難発が戻った、と書いている人の記録です。電話の出だしで社名も名前も名乗れない、沈黙で相手を待たせるのが怖い、覚えることが山ほどある時期なのに仕事にならない。そこから1年、吃音のカウンセリングに通ったと続きます。引用したのは、その1年を振り返った締めくくりの部分です。本人自身が「全部が改善されたわけではなく」と書いているので、この記録をカウンセリングの効果として読むことはできません。読み取れるのは、変化が「ゼロか百か」では起きていない、ということです。

出典: 【後天性吃音】吃音カウンセリングで考え方が変わった話(note)(台帳: V0218)

環境と症状が連動することは、学会の解説にも書かれています。思春期以降は、進学や就職で慣れ親しんだ人間関係から離れるなど生活環境が変化するなかで、吃音が悪くなる場合もあるとされています。また、話す場面での失敗体験が重なると、話し始める前から不安や恐怖を感じ、次第に会話や社交を避けるようになる、とも書かれています。逆に、言いにくい単語を言い換えるなどの工夫で吃音が目立たなくなることもありますが、この場合も吃音が出ないかを日々警戒しながら生活しているため、ストレスや悩みは抱え込みやすいと注意されています。

つまり、誰かの「良くなったきっかけ」を読むときは、その人の環境が同時に何から何へ移ったのかも一緒に読む必要があります。話す量が減る場所へ移った結果として楽になったのか、話す場面は変わらないまま受け止め方が変わったのか——同じ「治った」でも、あなたの状況に持ち帰れるかどうかが違ってきます。

楽になったあとも、戻る日はある

変化を書いた文章は、たいてい良くなったところで終わります。その先——楽になった状態が、その後どうなっているか——まで書き残している人は多くありません。

当事者本人の署名エッセイ(作家・重松清/出版社のウェブマガジン。吃音を追ったノンフィクションの書評で、〈 〉内は著者・近藤雄生の文からの引用)

そうなのだ。そういうことがあるのだ、吃音には。僕も一番症状がひどかった十代後半の頃に比べると、五十代後半のいまはずいぶん楽に話せるようになった。しかし、近藤さんはこうも言う。〈もしかすると、何かをきっかけにすべてが元に戻ってしまう可能性もあるだろう〉。自分を引き合いに出しすぎて申し訳ないが、僕も体調の悪いときや、その場に嫌いな奴がいるところでは、ひどいことになってしまう。

吃音のある人たちを取材したノンフィクションの書評として、吃音当事者である作家が書いた文章です。取り上げた本の著者もかつて吃音に苦しみ、二十代の終わりに症状が軽くなった経過を本に書いている——その記述を受けて、自分の場合も十代後半に比べれば五十代後半のいまはずいぶん楽になった、と続けています。その同じ段落に続けて置かれているのが、体調と、その場にいる人によって、いまでもひどくなるという一文です。文章の後半では、本を読み進めるうちに過去の記憶がよみがえって何度も泣いた、とも書いています。楽になったことと、戻る日があることは、同じ人のなかで両立します。そしてこれは、この人だけの事情ではありません。

出典: 〈書評〉理解されない苦しさ、を理解するために。(新潮社「考える人」)(台帳: V0132)

成人期の吃音への取り組みが脳に何をもたらすかを検討した総説は、前提としてこう書いています。大人の吃音の治療は、吃音をコントロールすること、話しやすさを得ること、生活の質を高めることの助けになる。しかし完全に治ることはまれから不可能で、話しやすい時期のあとに戻ることはよくある——と。「よくある」と書かれているのですから、戻ってきたことは失敗の証拠ではありません。

日本の学会の解説も、吃音の特徴として状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりすることを挙げ、調子の良い状態あるいは悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多いと述べています。この変動が「波」と呼ばれているものです。数日の調子で自分の全体を判定してしまうと、この波の一区間を「治った」あるいは「元に戻った」と読み違えることになります。

調子の「波」を2本の帯で示した模式図。上の帯は「調子が良い状態」、下の帯は「調子が悪い(症状が出やすい)状態」で、どちらもひと続きで数週間から数か月にわたって続く人も多いと注記。2本の帯は同じ長さで描いてあり、帯の長さは期間の長短を表さない。実測データの折れ線ではなく期間の目安を示す模式図であること、どちらの状態がどの順で何回くるかは表していないことを図中に明記
図3: 調子には波があり、良い時期・出やすい時期がそれぞれ数週間〜数か月続く人も多い(模式図)。出典: 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」

「いつか治る」という期待が、重荷になることもある

ここまで読んで、「では自分は何を目指せばいいのか」と思われたかもしれません。その手前に、もうひとつ置いておきたい記録があります。「治る」という期待を長く掛けられ続けた側から書かれたものです。

当事者本人の声(24歳・女性・イラストレーター/DTPデザイナー・宗教専門紙が運営するウェブメディアのインタビュー)

「大人になっても、周囲にできるだけ吃音がばれないように生きてきました。周りからは『いつか治る』と言われ続けてきましたが、今でも完璧には治りません。今、小さいお子さんで吃音を持つ子がいたとしても、安易に治るという期待をかけないでほしい。たとえ治らなくても話を聞いてくれるんだ、と思えれば、安心して過ごせるのですから」

物心ついた頃から話そうとすると言葉にならず、学校では国語の音読の順番が回ってくるのが特に苦痛だったと語る人の記録です。吃音は成長とともになくなると聞いていたので、いつかは治ると信じていた。人前で話せば治るという話もあると知って、中学・高校では生徒会に立候補した。それでも治らないという現実を知った、と記事は続けます。卒業後に勤めた先では、職員が集まる朝礼で院長から話し方について言われ、就職後2か月で退職しています。その後は面接時に自分の症状を伝えて受け入れられた職場で、電話は別の社員が対応するなどの協力を得ながら働いている、とあります。引用したのは、その経過のあとに置かれた言葉です。ここで語られているのは「治らないから終わり」ではなく、期待の掛け方そのものへの注文でした。

出典: 吃音症でも好きな仕事に就く ゆゆぱんちさん(福祉仏教 for believe)(台帳: V0110)

学会の解説は、大人の選択肢のひとつとして自助団体を挙げています。吃音の自助団体に参加してほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもあると書かれています。日本でもっとも歴史が古いのは1965年に発足した言友会で、定例会や全国大会を開いています。近年は若者を対象とした団体や、女性の集いを開催する団体もあるとされます。

この記事で読んだ5人のうち、転機をはっきり書いていたのは3人でした。挙げられていたのは、話す場から逃げなくなったこと、受け止め方が変わったこと、症状を伝えたうえで配慮を得られる職場に移ったこと。残る2人は転機ではなく、若い頃に比べればいまのほうが楽だという経過を書いていました。ただ、5人の誰も「どもりが消えた」とは書いていません。「治す」ことだけを目標に置くと、こうした方向はそもそも選択肢に入りません。吃音の問題の大きさが主に「困ること」の側で決まるのだとすれば、困りを減らす道はひとつではない、ということになります。

「きっかけ」は狙って作れるのか — 自然な軽減と、取り組みによる変化を分ける

ここまでの5人はいずれも、大人になってからの変化を語っていました。では、ひとりでに軽くなる「自然な軽減」と、何かに取り組んだ結果としての変化は、どう切り分ければいいのでしょうか。

まず、ひとりでにどもらなくなる現象は、主に幼児期のできごととして研究されてきました。吃音のある人の割合は6歳未満でほかの年齢よりはるかに高く、この差は、多くの子どもがその年齢までに、自然にあるいは支援を受けてどもらなくなっていることを意味する、と疫学の総説は読み解いています。日本の学会の解説も、吃音は2〜4歳をピークとしてほとんどが幼児期に発症すると述べています。幼児期の回復について詳しくは、姉妹記事の吃音が治ったきっかけで扱っています。

大人の場合は事情が違います。この記事で読んだ5人のうち2人も、若い頃に比べればいまのほうが楽だと書いていました。ただ、そのあらわれ方は人によって違い、「歳を取れば必ず治る」とは言えません。研究の側の言い方はもっと端的で、完全に治ることはまれから不可能、そして話しやすい時期のあとに戻ることはよくある、です。ですから大人では、「治る/治らない」の二択ではなく、困りをどれだけ小さくできるかを目盛りにするほうが現実に合います。

では、狙って作れる部分はあるのか。ここについては、理論の側から一つの説明が提案されています。話し方のなめらかさそのものを目標に置く訓練は、意識的な制御を増やすことで短期的にはどもりの回数を減らせる。しかし実際の会話の場面は、自動的な処理と意識的な制御の釣り合いを要求するので、その技法は使いにくくなる。さらに、うまくやるために求められる過剰な制御が、かえって内側の葛藤を増やし、戻りと失敗感につながりうる——という筋道です。同じ説明では、伝える力そのものを高める方向吃音を受け入れる方向の取り組みのほうが、避けたい気持ちを減らし近づきたい気持ちを増やすことで、長期的には葛藤を減らしうるとされています。

これは理論的な説明であって、比べて確かめられた結論ではありません。「こちらをやれば治る」と読み替えないでください。

整理すると、学会の解説が大人の選択肢として挙げているのは、専門家に相談すること(言語聴覚士による発話訓練と、必要に応じてカウンセリングや心理療法)、上司や同僚に相談して職場の配置や電話業務などで配慮を得ること、そして同じ立場の人と出会う場を持つことです。一方で、どんな出来事が節目になるか、いつ変化があらわれるかは人によって大きく異なります。成人の吃音を治す方法は現時点で無いとされている以上「この方法をやれば必ず治る」という断定に出会ったら、そこは疑ってよい場所です

受診・相談先 — 大人はどこへ行けばいいか

大人が吃音を相談する窓口は、次のように整理されています。専門用語が出てくるので、順に説明しながら並べます。

  • 言語聴覚士(ST)による発話訓練——言語障害や聴覚障害のある人への指導や支援を行う国家資格の専門職です。養成課程には吃音も入っており、吃音のある人への指導・支援で中核を担う存在になることが期待されている、と説明されています。吃音の治療を希望する場合、この発話訓練を受けるという選択肢がある、とされています。
  • カウンセリングや心理療法——発話訓練だけで症状が改善しない場合や、吃音に対する不安が強い場合に役立つこともある、と書かれています。数は少ないものの、吃音のある人の心理療法を行う臨床心理士などもいるとされ、その多くは話し方そのものへ直接働きかけるというより、劣等感や不安といった吃音に伴う心理面の問題を軽くすることを目標にしているとされています。
  • 自助団体(セルフヘルプグループ)——ほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るなどの心理的な変化のきっかけになることもあるとされています。専門的な指導や支援を受けられる場ではありませんが、自分と同じ問題を抱える仲間に出会えること、当事者でなければ味わえない連帯感のなかで吃音の悩みを聞いてもらえること、同じ悩みを持つ人から具体的な助言をもらえること——そこでしか得られないものがあるとも書かれています。多くは月1回程度の例会を開いているとされます。
  • 職場への相談——上司や同僚に相談することで、職場の配置や電話業務などで配慮を得られることがある、とされています。

どこに問い合わせればいいか迷うときの目安もあります。言語聴覚士は、病院ならリハビリテーション科、あるいは耳鼻咽喉科などで、リハビリ部門の職員として働いていることが多いようだ、とされています。ただし言語聴覚士が受け持つ業務は幅広く、すべての言語聴覚士が吃音を扱えるわけではありません——吃音の指導や支援まで担えるかどうかは人によって違う、と明記されています。そのため、指導や支援を受けたいときは、あらかじめ病院などに直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や、都道府県ごとの言語聴覚士会に尋ねるよう案内されています。心理療法を考えるときも、その人がどんな方法にもとづく心理療法をしているのかを、先に確かめておく必要がある、とされています。

職場や学校で配慮を求めることは、制度の裏づけもあります。2016年に施行された障害者差別解消法により、学校や職場での吃音に対する差別的な言動や扱いは禁止されており、発表や電話応対の免除、試験などでの面接時間の延長といった配慮——法律の用語では「合理的配慮」と呼ばれるものです——を求めることができるとされています。ただしその際、医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出が求められる場合があります。

もうひとつ、必ず押さえてほしいことがあります。大人になって初めて、急にどもり始めた場合です。吃音は低年齢から始まる発達性吃音と、それ以外の獲得性吃音に分けられ、9割以上は前者だとされます。後者の原因としては、脳腫瘍・脳の外傷・脳卒中など脳に損傷を受けて起きるものがあり、成人してからは心理的な原因で生じることもあります。薬剤の副作用で出ることもあるとされています。背景に体の病気がないかを確かめる意味でも、急に始まったときは様子見にせず、早めに医療機関に相談してください。

「治ったきっかけ」を探すときの3つの落とし穴

落とし穴1 − 中身を確かめずに、誰かの「治った」を自分に当てはめる

吃音の問題には「ことばがどもる」ことと、「困る」ことの2つの面があります。その人の「治った」が、どもり自体が減ったことなのか、どもりは残ったまま困らなくなったことなのかで、あなたが持ち帰れるものは変わります。まず、どちらの話かを確かめてから読んでください。

落とし穴2 − 良くなった話の「その後」を読まない

体験談は、たいてい良くなった時点で終わります。けれど研究の側は、話しやすい時期のあとに戻ることはよくあると書いています。良くなった話だけを集めると、戻ってきた自分を「失敗」と判定してしまいます。「その後」まで書いてある記録を探すほうが、結果として支えになります。

落とし穴3 − 数日の調子で、全体を判定する

調子には波があり、良い状態・悪い状態がそれぞれ数週間から数か月続く人も多いとされています。今週の出来だけを見て「治った」「元に戻った」と決めると、波の一区間を全体と取り違えます。日々の状態を記録して長い目盛りで眺めれば、数日ぶんではなく数週間・数か月ぶんの経過として見返すという使い方ができます。相談のときにも、その記録をそのまま持っていけます。

記録を始めるなら、話した場面と、そのときの状態を書き留めるだけで十分です。アプリはあくまで記録と継続をたすける道具で、治療の代わりになるものではありません。専門的な取り組みが必要なときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室にご相談ください。

よくある質問

大人になってからでも吃音は治りますか?

成人期の治療について、総説は「吃音をコントロールすること・話しやすさ・生活の質の改善には役立つが、完全に治ることはまれから不可能で、話しやすい時期のあとに戻ることはよくある」と述べています。一方で、吃音の問題の大きさは主に「困ること」の側で決まるという整理もあり、どもりが残っていても困りが小さくなる形の変化は起こりえます。

大人の「治ったきっかけ」に、共通するものはありますか?

この記事で読んだ5人に、共通する一つの出来事はありませんでした。そもそも転機をはっきり書いていたのは3人で、挙げられていたのは、話す場から逃げなくなったこと、受け止め方が変わったこと、症状を伝えたうえで配慮を得られる職場に移ったことです。残る2人は、若い頃に比べればいまのほうが楽だという経過を書いていました。いずれも個人の経験です。ただ、5人の誰も「どもりが消えた」とは書いていませんでした。なお学会の解説は、自助団体でほかの当事者と出会うことが心理的な変化のきっかけになることもある、としています。

言語聴覚士の訓練を受ければ、大人でも治りますか?

話し方そのものを組み立て直していく訓練で吃音の回数が減ることは、幅広い研究で報告されています。ただし同じレビューは、診察室で回数が大きく減っても日常の場面でコントロールを保つのは非常に難しく、吃音は戻りやすいと書き添えています。成人の吃音を治す方法は現時点で無く、技法はすべて補う性質のもので、良くなった状態を保つには使い続ける必要があるとされています。

一度楽になったのに、また出てきました。戻ってしまったのでしょうか?

話しやすい時期のあとに戻ることは「よくある」と明記されています。また、調子の良い状態・悪い状態がそれぞれ数週間から数か月続く人も多いとされ、この変動は「波」と呼ばれています。進学や就職などで生活環境が変わるなかで悪くなる場合もあるとされているので、いま何が変わった時期なのかを一緒に見てみてください。

大人の吃音は、どこに相談すればいいですか?

治療を希望する場合は、話すことや聞くことの困りごとを専門に扱う言語聴覚士による発話訓練という選択肢があるとされています発話訓練だけで改善しない場合や不安が強い場合は、カウンセリングや心理療法が役立つこともあります。職場では、上司や同僚に相談することで配置や電話業務などの配慮を得られることがあるとされています。大人になって急にどもり始めた場合は、様子見にせず早めに医療機関へ相談してください。

まとめ

  • 大人の「治った」は、どもり自体が減った意味と、どもりは残っても困らなくなった意味に分かれる。吃音の問題の大きさは主に後者で決まるという整理がある。まず、どちらの話かを見分ける。
  • この記事で読んだ5人のうち、転機を書いていたのは3人で、挙げていたのは話す場から逃げなくなったこと・受け止め方の変化・症状を伝えて配慮を得られる場に移ったこと。残る2人は転機ではなく、若い頃に比べて楽になったという経過を書いていた。5人の誰も「どもりが消えた」とは書いていない(個人の経験であり一般化はできない)。
  • 大人の取り組みは、吃音のコントロール・話しやすさ・生活の質の改善には役立つが、完全に治ることはまれから不可能で、話しやすい時期のあとに戻ることはよくあるとされる。成人の吃音を治す方法は現時点で無く、技法は補う性質のもので使い続ける必要がある。
  • 調子には波があり、良い状態・悪い状態がそれぞれ数週間〜数か月続く人も多い。戻ってきたことは失敗の証拠ではない。
  • 治療を希望する場合の選択肢としてまず挙がるのは言語聴覚士による発話訓練不安が強いときはカウンセリングや心理療法、ほかの当事者と出会う場としては自助団体、職場では上司や同僚への相談という選択肢がある。急に始まった場合は早めに医療機関へ。

参考文献

  1. Neef & Chang (2024) Knowns and unknowns about the neurobiology of stuttering. PLOS Biology.
  2. Blomgren (2013) Behavioral treatments for children and adults who stutter: a review. Psychol Res Behav Manag.
  3. Usler (2022) Why Stuttering Occurs: The Role of Cognitive Conflict and Control. Topics in Language Disorders.
  4. Yairi & Ambrose (2013) Epidemiology of stuttering: 21st century advances. J Fluency Disord.
  5. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023年10月1日)
  6. 吃音ポータルサイト(金沢大学 小林宏明)「成人の方:吃音ってどんなもの?」
  7. 吃音ポータルサイト(金沢大学 小林宏明)「成人の方:相談や支援」

当事者の声の出典: V0064(個人ブログ)/ V0124(自助団体サイトの本人名義の自伝)/ V0218(note)/ V0132(出版社ウェブマガジンの署名エッセイ)/ V0110(ウェブメディアのインタビュー)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-07-22 公開/2026-08-26 改稿(詳細はこのファイル冒頭のコメントに)/2026-08-27 骨格v2へ全面リライト(声の入れ替え・出典の追加と訂正・専門語の平易化・図スロットの設置)