まず結論から
- 生活を止めるのは、多くの場合「どもること」そのものではありません。予期不安(この言葉は出そうにないと予感すること)→ 言い換え → 回避行動という順に広がっていき、人前や電話といった場面を避けるようになる、という進み方が説明されています。
- そこまで進むと、社交不安障害をともなっていると判断される場合があります。病院に来る成人の吃音のうち半分程度が社交不安障害をともなっているとするデータもあるとされています。
- 吃音の問題の大きさは「どもること」より「困ること」のほうで決まる、という考え方があります。困ることの中には、話すことを避けてしまう・就職の問題・自信がなくなることが並んでいます。
- 支援としては、安心して話せる環境をつくることに加えて、社交不安障害をともなう成人には認知行動療法といった心理療法を応用した支援がよいと考えられています。
- 働き方のほうを変える道もあります。雇用主は吃音のある人から求められれば配慮をする義務があり、面接時間を長くする・電話業務を免除するといった例が挙げられています。手帳の対象になる場合もあります。
ただし、ここに書けるのは道筋と選択肢までです。同じ経過をたどる人ばかりではありませんし、選択肢のどれが合うかは状況によって変わります。いま気持ちの落ち込みが続いていたり、生活が立ち行かないと感じている場合は、この記事を読むより先に医療機関や公的な相談窓口に連絡することをおすすめします。
電話に出られない、が仕事を止める
働けなくなるまでの道筋は、多くの場合、一つの大きな出来事ではなく、小さな場面の積み重ねとして起きています。派遣登録の行き違いからコールセンターで働くことになった当事者の記録です。
就職してから吃音に悩むようになった当事者(自助団体メディアに寄せられた体験談)
最初は電話に出ることはなかったのですが、いざ電話に出ることになると、やはり言葉が出てきませんでした。
「焦らないで、ゆっくり」と言われましたが、言葉が出てこないのです。
それからは、精神的にどんどん追い込まれてしまい、仕事ができなくなりました。
そして、人と話すことが怖くなりました。
別の職場で働きだしても話すことができず、スムーズに話せないために笑われて、また話せなくなるという負のループに陥りました。
そうしていくうちに、職場では孤立しました。
順番に注目したいところです。まず電話で言葉が出ない。次に「人と話すことが怖くなりました」。そして職場を変えても同じことが起きて、笑われ、また話せなくなる。最後に孤立が来ます。書き手はこの連なりを「負のループ」と呼んでいます。同じ記事によれば、このあとメンタルクリニックを受診して仕事を辞め、いまは友人の仕事を手伝っていると書かれています。ここで起きているのは、話せなさが場面を狭め、狭まった場面がさらに話せなさを強めるという循環です。医療機関の解説も、この広がり方を段階として説明しています。
出典: 仕事で吃音に悩んでいた私の再出発。吃音があっても笑えるように強くなろう。(HAPPY FOX・日本吃音協会)(台帳: V0121)
大学病院の解説は、思春期以降にともなってくる変化を「吃音の進展」と呼び、3つを順に挙げています。予期不安——「この言葉は吃音が出そうだな」と予感できるようになること。言い換え——予期不安が出た言葉をとっさに別の言葉に置き換えること。たとえば「くるま」と言おうとして出そうにないと感じたら「じどうしゃ」と言い換える。そして回避行動——吃音が出やすい場面に不安を感じ、人前や電話など話す場面そのものを避けてしまうこと。こうした症状が強くなってくると、社交不安障害をともなっていると判断される場合があり、病院に来る成人の吃音の半分程度がそうだとするデータもあるとされています。
成人の社交不安については、200人の吃音のある成人と、年齢・性別の構成をそろえた200人の対照群を比べた調査もあります。この調査では、吃音のある人のほうが不安の水準が高く、社交不安障害のリスクも高いという結果で、社交不安障害を持つ人の割合は少なくとも40%と報告されています。二次障害そのものについては 吃音の二次障害を扱った記事 にまとめています。
こもった状態から、外に出るきっかけ
会話を最低限に絞る生活が何年も続いたあと、そこから動いた人の記録もあります。自助団体のページに寄せられた40代の男性の手記です。
40代男性(吃音の自助団体・言友会の地域の会が公開している体験談ページ)
言友会を知ったのは、約10年前のことです。
初めて北九州言友会の例会に参加して、 同じように吃音で悩む人が多くいることを 知るとともに、何年も前からの友人のように 暖かく私を受け入れてくれた 先輩会員のやさしさに触れて、 ようやく自分の居場所を見つけた思いがしました。
書かれているのは、話し方が変わった話ではありません。同じように吃音で悩む人が多くいると知ったこと、そして受け入れられたこと。この2つが「居場所」という言葉に結びついています。同じ手記の後半では、それまで吃音を隠し、治さないと何もできないと劣等感にさいなまれていたこと、活動を続ける中で何でも吃音のせいにしていた自分の過ちに気づいたことが書かれています。吃音の問題の大きさを、症状の量ではなく困りごとの側で捉える見方は、公的なポータルサイトの解説にも出てきます。
出典: 3.40代男性(広島言友会「体験談」)(台帳: V0202)
吃音ポータルサイトの解説は、吃音の問題を「(1)ことばがどもって(2)困ること」の2つに分けて考える見方を示しています。そして、問題の大きさは主に(2)のほうで決まる、としています。つまり、たくさんどもっていても困っていなければ問題は大きくならず、あまりどもっていなくても吃音のことをとても気にして困っていれば問題は大きい、という捉え方です。「困ること」として挙げられているのは、恥ずかしい思いをする、言いたいことが言えずにいらいらする、周囲からのからかいや特別視、緊張したり不安になったりする、話すことを避けてしまう、就職や結婚の問題、落ち込んだり自信がなくなったりする、といったものです。ここに並ぶのは、まさに生活を止めていく側の項目です。
働き方のほうを変える、という道
選択肢は、話し方を変えることだけではありません。働く枠組みのほうを変えた人の記録があります。
30代半ばの男性(吃音を隠したまま転職を重ねた経緯を書いた個人ブログ・note)
私は、今までずっとこの吃音症、吃りから目を背けてづけて20年以上経過していましたが病院に行きましたが吃音症以外にも発達障害がわかり、障害者手帳の申請をすることになったのです。その時はなんか気持ちが少し軽くなった気がしました。
受診にたどり着くまでに20年以上かかった、と書かれています。そして受診の結果、吃音以外に発達障害も分かり、障害者手帳の申請をすることになった。「気持ちが少し軽くなった気がしました」というのは、症状が軽くなったという話ではありません。同じ記事には、原因が分かっただけで対処の方法があったわけではない、とはっきり書き添えられています。書き手はそのうえで、一般枠は厳しいというのが正直な感想であり、配慮してもらえる環境のほうが働きやすいと思った、と結んでいます。制度としては、雇用の場面で配慮を求める根拠が用意されています。
出典: 吃音症を隠し続け16社転職した(note)(台帳: V0027)
国内の研究プロジェクトの解説は、制度の側をこう整理しています。障害者差別解消法等により、雇用主は吃音のある人から求められれば合理的配慮をする義務があり、その例として面接時間を長くする、電話業務を免除することが挙げられています。ただし、そのためには吃音の診断書が必要とされることが多い、とも書かれています。また、訓練によっても家族以外とは音声で意思を伝えられないほど重い場合は身体障害者手帳の対象になり、発達性吃音は発達障害者支援法によって、また合併する精神疾患によって精神障害者保健福祉手帳が交付できる可能性があり、福祉的就労も選択肢になるとされています。
いま動けないときに、どこへ
支援の考え方も整理されています。大学病院の解説は、吃音の治療は年齢に応じてさまざまで確実な治療法はまだないとしたうえで、どの年齢にも共通して言えることは吃音が生じたとしても安心して話せる環境を作ることだと述べています。そして、社交不安障害をともなうような成人の吃音では、安心して話せる環境を作るとともに、認知行動療法といった心理療法を応用した支援がよいと考えられている、としています。認知行動療法とは、出来事の受け取り方や行動のしかたを一緒に見直していく心理療法のことです。
ここまでに出てきた選択肢は、大きく3つの方向に分かれます。1つめは医療の相談です。安心して話せる環境づくりと、社交不安をともなう場合の心理療法を応用した支援が挙げられています。2つめは、同じ状態の人に会うことです。自助団体の例会に参加して居場所を見つけたという手記が、この記事にも出てきました。3つめは、働き方の枠組みを変えることです。配慮を求める根拠と、手帳・福祉的就労という選択肢が制度として用意されています。
順番に決まりはありません。ただ、どれも「自分から連絡する」ところから始まるという共通点があります。話すことが怖い状態でそれをするのは簡単ではないので、まずはメールや書面で問い合わせられる窓口から当たる、という始め方も現実的です。配慮を求める場面では診断書が必要とされることが多いとされているので、受診はその意味でも早いほうが選択肢を広げます。
この時期に陥りやすい3つの落とし穴
落とし穴1 − 「話せるようになってから動こう」と考える
解説は、吃音の治療は年齢に応じてさまざまで、確実な治療法はまだないとしています。だから「治ってから」を条件にすると、動き出す時期が来ません。共通して挙げられているのは、安心して話せる環境を作ることのほうです。順番を入れ替えて、環境や枠組みから動かすほうが現実的です。
落とし穴2 − 回避を「自分の弱さ」として数える
予期不安から言い換え、そして回避行動へという広がりは、吃音の進展として説明されている経過です。性格の問題として整理されているものではありません。しかも回避がうまくいっているあいだは外から見えないので、周囲にも自分にも「ただ消極的なだけ」に見えてしまいます。見えないものを本人の資質に読み替えないことです。
落とし穴3 − 働き方の枠組みを検討しないまま、一般枠だけで探し続ける
雇用主には、求められれば配慮をする義務があるとされています。面接時間を長くする、電話業務を免除するといった例が具体的に挙げられています。手帳や福祉的就労という選択肢もあります。どれを選ぶかは本人の判断ですが、選択肢があることを知らないまま同じ探し方を続けるのは、この帯でいちばん起きやすい消耗です。
まずは、どの場面でどう困っているかを書き留めておくと、受診や相談のときに経過を伝えやすくなります。診断書が必要になる場面もあるので、記録は無駄になりません。
よくある質問
吃音が原因で仕事を辞めることは、よくあることですか?
この記事で紹介した記録では、電話業務で言葉が出ないことから追い込まれ、職場を変えても同じことが起きて孤立し、受診を経て退職に至った経過が書かれています。解説の側でも、回避行動として人前や電話など話す場面を避けるようになることが吃音の進展として説明されており、困難を感じやすい場面として職場の電話応対が挙げられています。
吃音があると、社交不安障害になりやすいのですか?
病院に来る成人の吃音のうち半分程度が社交不安障害をともなっているとするデータがあるとされています。200人の吃音のある成人と200人の対照群を比べた調査でも、吃音のある人のほうが不安の水準が高く、社交不安障害を持つ人の割合は少なくとも40%と報告されています。ただし、全員がそうなるという意味ではありません。
外に出られない状態から、どうやって動けばいいですか?
資料から挙げられる方向は3つです。医療の相談(安心して話せる環境づくりと、社交不安をともなう場合の心理療法を応用した支援)、吃音の自助団体、そして働き方の枠組みを変えることです。どれも連絡から始まるので、電話が難しい場合はメールや書面で問い合わせられる窓口から当たる方法があります。
職場に配慮を求めることはできますか?
できます。障害者差別解消法等により、雇用主は吃音のある人から求められれば合理的配慮をする義務があるとされ、面接時間を長くする、電話業務を免除するといった例が挙げられています。ただし、そのためには吃音の診断書が必要とされることが多いとも書かれています。
吃音で障害者手帳は取れますか?
取れる場合があります。訓練によっても家族以外とは音声で意思を伝えられないほど重い場合は身体障害者手帳の対象になるとされ、発達性吃音は発達障害者支援法によって、また合併する精神疾患によって、精神障害者保健福祉手帳が交付できる可能性があるとされています。福祉的就労も選択肢になると書かれています。実際の判断は診察した医師と自治体の窓口によります。
まとめ
- 生活を止めるのは「どもること」そのものより、予期不安 → 言い換え → 回避行動という広がりのほう。これは吃音の進展として説明されている経過で、性格の問題ではない。
- 病院に来る成人の吃音の半分程度が社交不安障害をともなっているとするデータがある。200人ずつを比べた調査でも少なくとも40%と報告されている。
- 吃音の問題の大きさは「どもること」より「困ること」で決まるという見方がある。困ることの一覧には、話すことを避ける・就職の問題・自信がなくなることが並ぶ。
- 支援の柱は、安心して話せる環境をつくること。社交不安をともなう成人には、認知行動療法といった心理療法を応用した支援がよいと考えられている。
- 働き方の枠組みを変える道もある。配慮を求める根拠があり、面接時間の延長や電話業務の免除が例に挙がる。診断書が必要とされることが多く、手帳や福祉的就労も選択肢になる。
