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吃音の出にくい音|特定の音で詰まる仕組みと当事者の声・場面で変わる理由

吃音の出にくい音|特定の音で詰まる仕組みと当事者の声・場面で変わる理由
目次

「か行だけどうしても出てこない」「自分の名前が言えなくて、自己紹介がこわい」——吃音のある人にとって、"出にくい音"があるのは、とても身近な悩みですよね。

この記事では、吃音でいう「出にくい音」の正体が多くの場合「難発(ブロック)」であること、当事者がどんな音・言葉を苦手と語るか、なぜ特定の音だけ出にくく感じるのか(研究では「音そのもの」で決まるとは言い切れないこと)、そして言い換え・回避との付き合い方や相談先までを、研究論文と学会資料の出典つきで整理します。

ソンタクマン
ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室にご相談ください。

吃音の「出にくい音」とは?その正体は難発(ブロック)

吃音(きつおん、どもること)は、話し言葉がなめらかに出ない発話障害です。その中核となる症状は、次の3つに分けられます。

「音が出にくい」「最初の一音がつまって出てこない」という感覚に、いちばん近いのがこの難発です。連発や伸発が「出た音の形が乱れる」症状だとすれば、難発は「出だしの音そのものが出てこない」症状で、これが「出にくい音」という悩みの中心になります。

発症してすぐの幼児期は連発(繰り返し)が多いのですが、思春期以降になると、連発や伸発よりも難発が中心になっていく傾向があります。難発が頻繁に出ると発話が困難になり、コミュニケーションに支障を感じやすくなります。「大人になってから、特定の音が前より出しにくくなった」と感じる背景には、こうした症状の移り変わりがあることがあります。

どの音・どの言葉が出にくい?当事者がよく挙げるもの

「どの音が出にくいか」は、実は一人ひとりでかなり違います。それでも当事者の体験談では、か行・た行・ぱ行のような破裂音や、あ行のように勢いよく声を出す音を「苦手」と語ることがあります。さらに、言い換えのきかない言葉——自分の名前や固有名詞、「もしもし」「ありがとう」「お会計」といった決まった挨拶・定型句——が出にくい、という声もよく聞かれます。

ここで大切なのは、これらは当事者の実感であって、「この音だから必ず吃る」という決まりではないという点です。学会資料も、吃音のある人が「言いやすい言葉を最初に言う」「ことばを言い換える」といった工夫をすることを紹介しており、どの言葉を苦手と感じるかは人によって、また場面によって変わります。

当事者本人の声(吃音歴25年ほど・主に難発/個人ブログ note)

言いやすいかどうかを基準に物事を決めるのは吃音者あるあるだと思います

この方は、日常のさまざまな場面で「言いやすい言葉」を選んで話していると語ります。学会資料も、言いやすい言葉を先に言う・言い換えるといった工夫は吃音のある人によく見られると説明しており、この体験は「どの音を出すか」を自分で調整している一例だと読めます。

出典: 出にくい音と言い換えの工夫について(note・わをん)(台帳: V0031)

なぜ特定の音だけ出にくいの?「音そのもの」では決まらない

「この音が言いにくい」という実感は、確かにあります。ところが研究の世界では、「特定の音や語だから吃る」とは、意外なほど単純には言い切れないことが分かってきています。

吃音のある幼児を対象に、どの語で繰り返しが起きるかを「語の音韻的な複雑さ」の面から調べた研究では、語の音韻的な複雑さは、就学前の子どもの吃音発話に明確な影響を与えていませんでした。また、大人の吃音で「どの語で非流暢が起きやすいか」を分析した研究では、長く信じられてきた「語頭(語の位置)」による影響ははっきりとは見られず、ある語で吃音が起きる確率は、言語的な要因よりも発話の運動に関わる要因に強く影響されていた、と報告されています。

つまり「難しい音の並びだから吃る」という説明だけでは足りない、ということです。では何が「出にくさ」を左右するのでしょうか。学会資料が挙げるのは、話し始める前の不安や恐怖(予期不安)です。発話場面での失敗体験が重なると、話し始める前から不安を感じ、次第に会話や社交を避けるようになる、と説明されています。過去に「この音でつまった」という記憶が、次に同じ音を前にしたときの身がまえにつながる——「出にくい音」の多くは、音そのものの性質というより、こうした予期と場面のなかで形づくられていくものだと考えると、理解しやすくなります。

場面によって「出やすさ」は変わる — 電話・発表・自己紹介

同じ音でも、出やすい場面と出にくい場面があります。これも「出にくい音」を理解するうえで大切な特徴です。学会資料は、歌を歌うときや2人で声を合わせるとき、独り言を言うときなどには、一時的に流暢になる人が多いと説明しています。もし「音そのもの」だけで決まるなら、歌でも同じ音でつまるはずですが、実際にはそうならないのです。

逆に出にくくなりやすいのは、緊張や不安の強い場面です。中高生の部活動や入学面接、大学生のゼミの発表や就職活動、社会人の職場の電話応対などが、発話に困難を感じやすい場面として挙げられています。電話の第一声や、自己紹介での自分の名前など、「言い換えがきかず・失敗できない」と感じる瞬間ほど、出にくさが強まりやすいと言えます。

出にくい音への対処 — 言い換え・回避との付き合い方

出にくい音があるとき、多くの人が自然に身につけるのが「言い換え」や「回避」です。学会資料も、どもらないための工夫として、ことばを言い換える、言いやすい言葉を最初に言う、といった方法があると紹介しています。

当事者本人の声(吃音歴25年ほど・主に難発/個人ブログ note)

マックで頼むときはマックフライポテトと言うようにしています

「ポテト」が言いにくいため、正式名称で言い換えて注文している、という工夫です。学会資料が説明する「言いやすい言葉に言い換える」工夫の、具体的な一例と言えます。

出典: 出にくい音と言い換えの工夫について(note・わをん)(台帳: V0031)

言い換えや回避は、その場を乗り切る有効な工夫です。一方で、学会資料は注意点も挙げています。言い換えを続けると吃音は目立たなくなりますが、実際には「吃音が出ないか」を日々警戒しながら生活することになり、ストレスや悩みを抱え込みやすくなる、というのです。うまく隠せていても、内側の負担は減っていないことがある、ということです。

だからこそ、隠す・避けるだけでなく、専門家と一緒に「吃音とうまく付き合っていく」方法を考えることも選択肢になります。本人が希望する場合には、言語聴覚士による発話訓練という選択肢があり、青年・成人では、話し方を組み立て直す「発話再構成(フルエンシー・シェイピング)」などの方法に、効果量の大きい良いエビデンスがあると報告されています。ただし効果や合う方法には個人差があるため、次の「相談先」の章で見ていきます。

相談先・受診の目安 — 言語聴覚士・ことばの教室

「出にくい音」で困っているとき、どこに相談すればよいのでしょうか。

受診のタイミングに「早すぎる」はありません。むしろ、吃音は治療の開始が不必要に遅れてしまいがちだと指摘されており、気になったときに早めに相談しておくほうが安心です。本人が希望する場合には言語聴覚士による発話訓練を受ける選択肢があり、不安が強い場合にはカウンセリングや心理療法が役立つこともあります。また、ほかの当事者と出会える自助団体(言友会など)に参加することが、心理的な変化のきっかけになることもあります。

学校や職場では、発達性吃音が発達障害者支援法の対象に含まれることを背景に、発表や電話応対の免除、面接時間の延長といった合理的配慮を求めることもできます。「出にくい音」で失敗しやすい場面を、無理に一人で乗り切る必要はありません。

「出にくい音」で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 言い換え・回避だけに頼りすぎる

その場は乗り切れても、言い換えを続けると「吃音が出ないか」を常に警戒することになり、かえってストレスをためやすくなります。うまく隠せることと、楽に話せることは、必ずしも同じではありません。

落とし穴2 − 「この音は一生言えない」と決めつける

出やすさには調子の良い時期・悪い時期の「波」があり、場面によっても変わります。研究上も「その音だから吃る」と単純に決まるわけではありません。「一生この音はダメ」と固定的に考える必要はありません。

落とし穴3 − 一人で抱え込む

とくに中高生は、吃音の悩みを打ち明けられず一人で抱え込みがちです。専門機関や自助団体など、話せる相手を持つことが、状況を整理する第一歩になります。

相談の前段階として、「どの音・どの場面で出やすいか」「調子の波はどうか」を日々記録しておくと、自分の傾向が見えやすくなり、専門家に相談するときの材料にもなります。毎日の発話を手軽に記録し、経過を見返すことから小さく始めるのも一つの方法です(記録はあくまで気づきと継続のための支援で、治療に代わるものではありません)。

よくある質問

吃音で出にくい音には、どんな傾向がありますか?

当事者の体験談では、か行・た行・ぱ行のような破裂音や、自分の名前・固有名詞、「もしもし」などの定型句を苦手と語ることがあります。ただし研究では「その音だから吃る」と単純に決まるわけではなく、予期不安や場面の影響が大きいと考えられています。

なぜ場面によって出やすい音が変わるのですか?

歌を歌うときや独り言では一時的に流暢になる人が多く、逆に電話や発表など不安の強い場面では出にくくなりやすいとされています。話し始める前の不安(予期不安)が関わっていると考えられています。

言い換えや回避はしてもよいのでしょうか?

その場を乗り切る有効な工夫の一つです。一方で、続けると「吃音が出ないか」を警戒しながら生活することになり、ストレスを抱えやすい面もあるとされています。気になるときは、専門家に相談しながら付き合い方を考えるとよいでしょう。

大人になってから特定の音が出にくくなったのはなぜですか?

吃音の症状は、幼児期は連発(繰り返し)が多く、思春期以降は難発(最初の音が出しにくくなる症状)が中心になっていく傾向があります。「出にくい音」が増えたと感じる背景には、この移り変わりがあることがあります。

出にくい音は、相談で楽になりますか?どこに相談すればよいですか?

言語聴覚士による発話訓練などの選択肢があり、青年・成人では発話再構成法に効果量の大きい良いエビデンスがあると報告されています。効果には個人差がありますが、気になるときは言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に相談するのが近道です。

まとめ

参考文献

  1. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」
  2. Neumann et al. (2017) The Pathogenesis, Assessment and Treatment of Speech Fluency Disorders. Dtsch Arztebl Int.
  3. Max et al. (2019) Similar within-utterance loci of dysfluency in acquired neurogenic and persistent developmental stuttering. Brain and language.
  4. Coalson & Byrd (2016) Phonetic complexity of words immediately following utterance-initial productions in children who stutter. Journal of fluency disorders.

当事者の声の出典: V0031(note・わをん)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-07-22 公開

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