母音(あ行)で詰まる吃音|日本語の研究7本・工夫の限界・相談先

母音(あ行)で詰まる吃音|日本語の研究7本・工夫の限界・相談先
目次

「ありがとうございました」の「あ」。「いらっしゃいませ」の「い」。「お電話ありがとうございます」の「お」。——ほかの言葉なら言えるのに、母音(あ行)で始まる、この決まりきったひと言だけが外に出ていかない。しかも出ていかないのは、たいてい毎日くり返す言葉のほうです。

この記事は、結論を先に置いてから、母音の言いにくさを語った5人の言葉と、それに対して日本語を話す人を調べた日本語の研究が何を言えているのかを、一つずつ並べていきます。先に言っておくと、その答えは一本にまとまっていません。「子音と母音で差は無かった」という報告と「母音で始まる語のほうが高い傾向だった」という報告の両方があります。割れ方をそのまま置いたうえで、研究がくり返し測っている別のものさし——語の長さや、語の初めの音の組み立て——を紹介します。専門用語はそのつどかみくだいて説明します。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 日本語を話す子どもを調べた研究では、語の初めが子音か母音かの違いは、どもりの起こりやすさに有意な影響を与えていません。
  • いっぽうで、母音で始まる語のほうが生起率の高い傾向だったと報告する研究もあり、日本語での結論は割れています。
  • 成人を対象にした研究では、子音で始まる語で詰まりやすいまとまりと、母音で始まる語で詰まりやすいまとまりの2つの型に分かれたと報告されています。
  • 研究がくり返し有意な効果を見つけているのは音の種類ではなく、語の長さ・語の初めの音の組み立て・発話の中のどこにあるかという、語のほうの条件です。
  • どの音が難しいかは人によって大きく違い、総説は「すべての人にとって特に難しい音」は無いとしたうえで、いちばんよい確かめ方は本人に尋ねることだとしています。

ただし、ここに並べた研究はいずれも参加者が10〜30人ほどで、年齢も課題(自由な会話・絵の説明・音読)も違います。「母音だから出にくい」が確かめられたという意味でも、逆に「あなたの実感は気のせいだ」という意味でもありません。

「母音の『あ』だけが言えない」のは、自分だけなのか

この言葉で検索して最初に知りたいのは、たいてい「これは自分だけなのか」です。同じ問いを、受診も診断もしないまま5年間ひとりで練習を続けてきた人が、自分のブログに書き残しています。

言葉が出ないのに受診しておらず、吃音かどうか分からないまま5年間ひとりで練習を続けている人の声(note の連番ブログ)

ちなみに「ありがとうございマス」にしても状況は同じです。

あ、でも家族とか仲良しの人に「ありがとう」って言う場合なら普通に言えます。相手によるんでしょうか?

他人に対して「ございます」をつけなきゃいけないシーンでは言えなくなります。でも「おめでとうございます」とかは他人にも言えます。

母音の「あ」だけが言えないんでしょうか?

この書き手は、通勤電車を降りるたびに車掌を見つけて「ありがとうございました」と言う自主練を5年続けている、と記しています。それでも「今言おう」と思ったタイミングでは出てこない。ただ、同じ「あ」でも家族に言う「ありがとう」なら出ますし、「おめでとうございます」なら他人にも言えるとも書いています。本人が並べているのは音の名前ではなく、その言葉を言う相手や場面のほうの違いです。医療機関にはかかっていないと自分で断ったうえで、答えの出ないまま「これ、何なんでしょうか?」と書いています。この問いに、日本語を話す子どもの会話を分析した研究が正面から答えています。

出典: #26 「ありがとうございました」の「あ」が出てこない(note・u1の考察ラボ)(台帳: V0257)

吃音のある学齢期の子ども20名(6歳9ヵ月〜12歳1ヵ月)と筆者との自由な会話を録画して分析した研究では、語の初めが子音か母音かの違いは、吃音の生起に有意な影響を与えませんでした就学前の子ども10名(平均5歳9ヵ月)が保護者と20分ほど自由に話した場面を分析した別の研究でも、語の初めが子音か母音かで、吃音らしい詰まりの出方に差は見られていません。

ただし、逆向きの報告もあります。韓国語を母語とする吃音のある子ども15名と、日本語を母語とする吃音のある子ども20名に、続き絵と1枚の絵を見せて話してもらった研究では、どちらの言語でも母音で始まる語のほうで吃音の生起率が高い傾向があったと報告されています。原典は「傾向があった」と書いており、統計的な差が確かめられたとは述べていません。同じ研究は、この結果が英語で得られてきたものと異なる点にも触れ、吃音は音節の組み立てなど、その言語ならではの特徴と結びついて生じている可能性があると考察しています。

つまり「母音だから出にくい」とも「母音は関係ない」とも、いまの日本語のデータからは言い切れません。参加者はそれぞれ20名・10名・35名と少なく、年齢も課題(自由な会話か、絵を見て話す課題か)も違います。なお、あ行の言葉が日常のどこに立っているか(あいさつ・返事・敬語・自分の名前)という角度からは、あ行が出にくい吃音の記事で英語圏の研究をもとに整理しました。この記事は、そこで空いたままだった「日本語話者を調べた日本語のデータ」のほうを埋めます。

語の初めが子音か母音かを測った日本語話者の研究4本と、それぞれが報告した結論の一覧。金・伊藤2004は、韓国語児15名と日本語児20名を対象に、6コマの連続絵と1枚の情景画で発話を集め、母音が高い傾向。髙橋2021は、学齢期(6歳9ヵ月〜12歳1ヵ月)の吃音児20名と筆者との自由会話で、有意差なし。飯村ら2023は、就学前(平均5歳9ヵ月)の吃音児10名の保護者との自由会話 約20分で、有意差なし。Kusaka・梶村2025は、成人15名が意味を持たない語190個を音読して4段階で自己評価したもので、子音で始まる語で詰まりやすいまとまりと母音で始まる語で詰まりやすいまとまりの2つの型に分かれた。人数・年齢・課題は原典に書かれているもので、年齢の範囲を書いていない研究がある
図1: 語の初めが子音か母音かを測った日本語話者の研究4本と、報告された結論。出典: 金・伊藤(2004)音声言語医学 45(2). / 髙橋(2021)音声言語医学 62(3). / Kusaka & Kajimura (2025) J Fluency Disord. / Iimura ら (2023) Clin Linguist Phon.

会話は普通にできるのに、決まり文句の第一声だけ出ない

母音で困っている人が名指しするのは、たいてい「あ行」という音の名前ではなく、特定の言葉です。そしてそれは、言い換えのきかない決まり文句であることが多い。

職場に同僚と部下がいる勤め人の声(note・「J」名義。受診歴はあるが、診断名が下りたとは書かれていない)

僕は電話が苦手。といっても別に会話するのが苦手というわけではない。むしろ得意だら、

電話中の声のトーンは明るいし、言葉遣いも中々丁寧だと思う。

問題は電話に出る前の第一声だ。「お電話ありがとうございます」これが言えない。

この書き手は、電話に出たあとの受け答えのほうはむしろ得意だと書いています。詰まるのは受話器を取った直後のひと言だけ。職場ではそれが知られていて、目の前の電話が鳴ると遠くにいる同僚が走ってきて先に取るのだといいます。自分でも手を考え、電話に出る前に「お」の口の形を作っておく方法を試したものの、うまくいかなかったとも記しています。会話そのものではなく、決まった一語だけが出てこない——研究の側でも、音の種類ではなく語のほうの条件が測られています。

出典: 電話に出れない僕(note・J)(台帳: V0238)

「毎日言う言葉だから詰まるのでは」という見立ては、研究の側でも検討されています。先ほどの学齢期の子ども20名を分析した研究は、「い」「お」「あ」といった一部の母音が、ほかの子音よりも語頭モーラ頻度——モーラとは日本語の音を数えるときの一拍のことで、「が・っ・こ・う」なら4拍。その一拍が語の初めに現れる頻度のこと——が高く、吃音の生起数も多かったと報告しています。原典はここから、一部の母音で吃音が生じやすいと感じられるのは語頭モーラ頻度の高さが関与すると推測された、と結んでいます。

ただし、同じ著者が加わった別の研究が、この説明に待ったをかけています。日本語を話す5〜10歳の吃音のある子ども30名の発話を分析した研究では、モーラ頻度には吃音らしい詰まりへの有意な効果が見られませんでした代わりに有意な効果が観察されたのは、文の長さ、文節(「わたしは」「学校へ」のように文を区切った一まとまり)の長さ、音節の重さ(「か」のように短いか、「かん」「かー」のように長いか)、そして二拍のつながりが日本語でどれくらいよく現れるか(バイモーラ頻度)のほうでした。

小学生17名(6〜11歳)の自由な会話を分析した研究も、同じ方向を向いています。文節の初めの音の組み立て、二拍のつながりの現れやすさ、文節の長さが、吃音の生起を予測する要因として有意でした。発話の中のどの位置にあるかも、吃音の生起に有意な影響を与えていました。この研究は、小学生の吃音は自由な会話であっても、文レベルの要因より語レベルの要因の影響を受けやすいと考察しています。

就学前の子どもを調べた研究も、吃音らしい詰まりが語の途中より語の初めに多く、短い語より長い語に多く出たと報告しています。音の名前ではなく、語の長さと組み立てのほうが測られている——これが、いまの日本語のデータでくり返し有意な効果の報告されている側です。

日本語を話す吃音のある子どもの発話を分析した研究が測った要因の一覧。有意な効果が観察されたのは、文の長さ(小学生17名の自由会話と5〜10歳30名の発話)、文節の長さ(同じ研究)、二拍のつながりの現れやすさ=バイモーラ頻度(同じ研究)、文節の初めの音の組み立て=音節構造(小学生17名の自由会話)、発話の中のどこにあるか(小学生17名の自由会話)、音節の重さ(5〜10歳30名の発話)。有意な効果が観察されなかったのは、語の初めが子音か母音か(学齢期20名の自由会話と就学前10名の自由会話)、モーラ頻度(5〜10歳30名の発話)、統語的複雑さ(小学生17名の自由会話)、音節の重さ(就学前10名の自由会話)。測った要因は研究ごとに違い、ここに無い要因は効果が無かったのではなく測られていないという意味。小学生17名の研究では、オッズ比を比べると文の長さの影響が有意な要因の中でいちばん小さかった
図2: 日本語の研究が測った要因と、有意な効果が観察されたかどうか。出典: 髙橋(2020)コミュニケーション障害学 37(3). / Takahashi, Iimura & Ishida (2024) J Commun Disord. / 髙橋(2021)音声言語医学 62(3). / Iimura ら (2023) Clin Linguist Phon.

苦手な「行」は人によって違うし、日によっても変わる

「母音が出にくい」という言い方は、よく見ると「私は母音が出にくい」という個人の話です。会社の朝礼を16年間担当した当事者の記録が、その具体を残しています。

会社の朝礼担当を16年務めた当事者の記録(大阪スタタリングプロジェクト・徳田和史さん。自助団体の会報に載ったもので、編集部が原稿にしたため発話そのままではありません)

朝礼というのは大体最初は定例文句から始まるんです。「○月○日○曜日、今日は○○課からの連絡です」日にち、これだけはもうごまかすわけにはいかないし、言い換えするわけにもいきません。最後は「以上です。今日も元気にがんばりましょう」とタイミングを見計らってバッと言って終わりになるわけです。私はア行、力行が苦手なもので、以上ですの「い」や5月15日火曜日なんてことになると、大変です。

この人は人事異動で朝礼を担当する部署に移り、数年後に朝礼担当を任されたと記録されています。以来16年、出張と休暇の日をのぞいて毎日、日付から始まる定例文句を読み上げた。日付だけは言い換えができません。記録には、睡眠不足の朝や風邪の朝では声の出方が違うこと、車での通勤中に「喉開けて、母音の流れを感じつつ、ソフトにめりはり、一音一拍」という自作のスローガンを唱えてから本番に臨んでいたことも残っています。苦手な行は人によって違い、同じ人でも日によって変わる——研究の側にも、この個人差を正面から扱ったものがあります。

出典: 第14回吃音ショートコース〜発表の広場〜(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0167)

自分には吃音があると答えた成人15名が、意味を持たない語(非語)190個を音読し、そのつど自分のどもりの重さを4段階で評価した研究があります。語の初めに来る19種類の音への評価をまとめて分類したところ、子音で始まる語で詰まりやすいまとまりと、母音で始まる語で詰まりやすいまとまりの2つに分かれました。原典は、この2つの型に分けて考えることで、日本語での過去の食い違う知見をつじつまの合う形に整理できるかもしれないと述べています。ただし参加者は15名、課題は意味を持たない語の音読で、重さの判定は本人の自己評価です。

英語圏の総説も、似た整理をしています。この総説は、どの音が難しいかは吃音のある大人のあいだで大きく異なり、すべての人にとって特に難しいという音は無いとしたうえで、臨床家がこれを評価するいちばんよい方法は、どの音が難しいと感じるかを本人に尋ねることだと述べています。

出方が日によって変わることは、学会の公式解説も書いています。吃音には、調子の良い状態あるいは悪い状態が数週間から数ヶ月にわたって続くことがあり、こうした変動は「波」と呼ばれています。また、歌うとき、2人で声を合わせるとき、独り言のときには、一時的になめらかになる人が多いとされています。

「母音を意識する」という工夫は、何をしていることになるのか

この言葉で検索すると、母音を意識する・母音を伸ばすといった技法がいくつも並びます。まず、自分で工夫を組み立ててきた人の記録から入ります。

大学2年で吃音と自覚したアラサー女性の声(note・「マカロニ」名義)

アルバイト先はスーパーのレジです。

「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」が言えません。致命的です。

工夫に工夫を重ね、足でリズムをとりながら頭の「い」と「あ」を言うと言いやすいことを発見。また、多少「っしゃいませ〜」「…りがとうございました!」と頭の文字を発音していないラーメン屋さん的な挨拶(偏見が過ぎる)になってもお客様は全く気にしないことに気付くなど、コツを掴みながらなんとか4年間働きました。

この人は、いま振り返れば幼稚園のころから吃音があり、それが吃音という症状だとはっきり自覚したのは大学2年のときだった、と書いています。レジでは、足でリズムをとりながら頭の音を出す。それでも出ないときは頭の音を落として言う。どちらも自分で見つけた手で、それで4年間働いたと記しています。ほかにも「お箸はご入用ですか?」の「お」が言いづらいので「割り箸はご入用ですか?」に言い換えていた、とも書いています。こうした言い換えは、学会の公式解説も「どもらないための工夫」として挙げているものです。

出典: 私が吃音だと気付いた時の話。(note・マカロニ)(台帳: V0198)

「母音をつける」という工夫は、自助団体の記録にも残っています。日本吃音臨床研究会の会長講座の記録は、日本語は「ん」以外の子音すべてに母音がついている言語だとしたうえで、母音が出ていれば文脈の中で話は通じること、一音一音を同じ長さで言う「一音一拍」を心がけてほしいことを書いています。ただし同じ記録は、それを「どもらない工夫ではなくて、日本語をしゃべるという意味」だと自ら言い切っています。

効果についても、この記録ははっきり線を引いています。声色を変える、裏声を使うといった、注意をほかへ切り替える方法について、これまで吃音の治療として工夫されてきた方法は治療・改善の役には立たないが、どうしても言わなければならないときの「緊急避難の方法としては使える」と書いています。この記事は、母音を意識する工夫に効果があるかどうかを判断できる材料を持っていません。効果を確かめた研究として引けるものが、手元の資料に無いためです。

いっぽう、「同じ音で始まるのに言える言葉と言えない言葉がある」という実感のほうには、対応する報告があります。日本語では、語の初めの音節にある中心の母音から次の音へどう移るかが吃音の生起に影響すると提案されてきました。学齢期の吃音のある子ども14名に単純な語16個と複合語16個を音読してもらった研究では、その移りが音節(「かー」「かん」のようなひとかたまり)をまたぐ語のほうが、ひとかたまりの中で収まる語より、吃音の頻度が有意に高くなりました。これは単純な語でも複合語でも同じで、原典は、語をつなげてできているかどうかという要因は学齢期の吃音の生起に大きくは影響しないだろうと示唆しています。

「ございます」が出ないだけで、人柄の評価に置き換わる

言えない言葉があるとき、こたえるのは言えないことだけではありません。言えなかったという事実が、その人の性格や態度への評価に置き換えられてしまうことがあります。

新卒の会社で電話番、ホームセンターの販売、パート勤務を経験した当事者の声(note・「K・A」名義)

また「ありがとうございます」が言えなくて途中の「ありがとう……」で固まってしまって「ございます」と言えないので、失礼な人だと思われたり、敬語を使えない常識のない人だと思われたりします。

この書き手は、電話で社名を名乗れずに固まり、相手から「電波の調子がおかしいのかな?」と切られたことが何度もあったと書いています。「ありがとう……」で止まったときは、むせたふりをしてやり過ごしていた。その咳を上司に指摘されて吃音を打ち明けると、今度は「心からありがとうと思っていないから言えないんだ」と言われたと記しています。別の職場では、年下の先輩に「ございます」が言えず、初日から怒らせてしまったとも書いています。出てこないひと言が、失礼・常識がない・生意気だという人物評価に置き換えられていく。この置き換わりが起きる背景を、総説が社会の側から整理しています。

出典: 【就職して吃音で困ったこと】(note・K・A)(台帳: V0200)

吃音のある人の体験を扱った総説は、社会がしばしば吃音のある人を否定的に描き、吃音を異常なものとする見方を強めていると整理しています。そのうえで、こうした社会からの判断を受ける経験が、自己スティグマ——なめらかに話すという社会の期待に届かないのは自分の側の落ち度なのだ、という感じ方——につながりうると述べています。

制度の側には、求めるための言葉が用意されています。学会の公式解説は、2016年に施行された障害者差別解消法により、学校や職場での吃音に対する差別的な言動および差別的な扱いは禁止されていると説明しています。また、発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長などの合理的配慮を求めることができるとしています。ただし、その際に医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合があるとも書かれています。

「出てこない」にも形がある — 連発・伸発・難発

学会の公式解説は、吃音に特徴的な中核症状として3つを挙げています。同じ音をくり返す連発(例:「か、か、からす」)、引き伸ばす伸発(例:「かーーらす」)、そしてことばを出せずに間があいてしまう難発(ブロック。例:「・・・・からす」)です。母音で困っている人が「言おうとした瞬間に何も出ない」と書くとき、その形にいちばん近いのは難発です。

思春期以降は、連発や伸発よりも難発が中心になるとされています。発話に困難を感じやすい場面としては、中高生の部活動や入学面接、大学生のゼミ発表や就職活動、社会人の職場の電話応対が挙げられています。この記事に出てきた「電話の第一声」「レジのあいさつ」「朝礼の定例文句」は、いずれもその並びの中にあります。

また、声を出そうとして顔や体に力が入り、必要のない体の動きが出ることもあります。これは随伴症状(随伴運動)と呼ばれています。

言い換えについても、同じ解説が両面を書いています。どもらないための工夫として、ことばを言い換える、言いやすい言葉を最初に言うといった手が挙げられています。いっぽうで、言い換えによって吃音が目立たなくなっても、実際には吃音が出ないかを日々警戒しながら生活することになるため、ストレスや悩みを抱え込みやすくなるとも書かれています。

相談できる先と、伝えるという選択肢

中高生以上の子どもと成人については、学会の公式解説が3つの選択肢を挙げています。本人が吃音の治療を希望する場合の、言語聴覚士による発話訓練。発話訓練だけでは症状が改善しない場合や、吃音への不安が強い場合の、カウンセリングや心理療法。そして、吃音の自助団体に参加して、ほかの吃音のある人と出会うことです。同じ解説は、自助団体で共通の体験を語り合うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもある、としています。

幼児や学齢の子どもについては、小児を扱う言語聴覚士か、ことばの教室の教員に相談するよう書かれています。

職場や学校に伝えるかどうかは本人が決めることですが、社会人の場合、吃音について上司や同僚に相談することで、職場の配置や電話業務などで配慮を得られることがあるとされています。中高生や大学生についても、苦手な場面への配慮を学校に求めること、就職活動の負担が多いときに学生相談室で相談することが挙げられています。

学会の公式解説が挙げている相談先の流れ図。1 年齢で相談先が分かれる(幼児と学齢期の子どもは、小児を扱う言語聴覚士か、ことばの教室の教員に相談する)。中高生以上の子どもと成人は、2 言語聴覚士による発話訓練(本人が吃音の治療を希望する場合の選択肢として挙げられている)。発話訓練だけで症状が改善しないときは、3 カウンセリングや心理療法(吃音に対する不安が強い場合にも、役立つことがあると書かれている)。治療とは別に、4 吃音の自助団体に参加する(ほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るきっかけになることもある)。学校・職場には、5 合理的配慮を求める(2016年施行の障害者差別解消法。発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長など。医師の診断書などを求められる場合がある)
図3: 学会の公式解説が挙げている相談先と、学校・職場への働きかけ。出典: 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」.

次のようなときは、一人で抱えずに相談を考えてみてください。

  • 言えない言葉があることで、電話や接客など特定の場面を避けるようになっている
  • 言い換えや言い回しの工夫に、日々かなりの注意を割いている
  • 声が出ないことを人柄の問題として指摘され、つらさが続いている

この3つは、相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。当てはまらなくても相談して構いません。

「母音だから」で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「母音は出にくい」を、確かめられた事実として受け取る

日本語話者を調べた研究は、子音と母音の違いに有意な影響を見なかったものと、母音で始まる語のほうが高い傾向だったとするものに割れています。どちらか一方を「研究で確かめられた」として持ち出すことはできません。参加者は10名から35名と少なく、年齢も課題も違います。

落とし穴2 − 「気のせい」だと片づけて、自分の実感のほうを捨てる

逆向きの読み違いもあります。有意な差が出なかったという報告は、「差が無いことが確かめられた」という意味ではありません。成人を対象にした研究は、母音で始まる語で詰まりやすいまとまりが実際にあったと報告しています。そして総説は、どの音が難しいかは人によって大きく異なるとしたうえで、いちばんよい確かめ方は本人に尋ねることだとしています。あなたの実感は、研究がまだ答え切れていない側にあります。

落とし穴3 − 音の練習だけを、一人で積み上げる

「毎日練習すればいつか言える」と考えて、年単位の自主練を一人で続ける形はよく起こります。ただし、いま研究がくり返し有意な効果を見つけているのは、音そのものではなく語の長さや組み立て、発話の中の位置のほうです。自助団体の記録も、母音をつける・一音一拍という工夫を「どもらない工夫ではなくて、日本語をしゃべるという意味」と位置づけ、注意を切り替える方法は緊急避難として使えるものだと書いています。

まずは、どの場面でどの言葉が出なかったかを書き留めておくところから始められます。同じ言葉でも出る日と出ない日があること自体が手がかりになりますし、相談するときにも、その記録がそのまま材料になります。相談先については、前の節に挙げた選択肢を参考にしてください。

よくある質問

あ行(母音)は、本当にほかの音より出にくいのですか?

日本語を話す人を調べた研究の結論は割れています。学齢期の子ども20名の自由な会話では、語の初めが子音か母音かの違いは吃音の生起に有意な影響を与えませんでした。就学前の子ども10名でも、語の初めの子音・母音で差は見られていません。いっぽう、韓国語と日本語の吃音のある子どもを比べた研究では、どちらも母音で始まる語のほうで生起率が高い傾向が報告されています。

なぜ、決まり文句や長い言葉ほど詰まるのですか?

音の種類より、語のほうの条件が測られています。小学生17名の自由な会話では、文節の初めの音の組み立て、二拍のつながりの現れやすさ、文節の長さ、そして発話の中の位置が有意でした。5〜10歳の子ども30名の分析でも、文の長さ・文節の長さ・音節の重さ・二拍のつながりの現れやすさに有意な効果が見られています。音読の課題では、語の初めの音から次の音への移りがひとかたまりをまたぐ語で、吃音が有意に多くなりました。

母音が出ないのは、滑舌が悪いのとは違うのですか?

別のこととして扱われています。英語圏の総説は、吃音のある子どもに発音や音の並べ方の遅れが併存することは多いものの、なめらかさの崩れと、誤って発音される目標音との間に関連は概して示されてこなかったと整理しています。音を「作れない」のか「出てこない」のかの切り分けは、カ行が言えないのは吃音か発音の問題かの記事で詳しく扱っています。

母音を意識して言う練習をすれば、言えるようになりますか?

効果を確かめた研究として引けるものは、手元にありません。自助団体の講座の記録は、一音一拍で母音をつけることを「どもらない工夫ではなくて、日本語をしゃべるという意味」と位置づけています。また、注意をほかへ切り替える方法については、治療・改善の役には立たないが、どうしても言わなければならないときの「緊急避難の方法としては使える」と書いています。

職場で「言えない言葉がある」と伝えて、配慮を求められますか?

学会の公式解説は、2016年に施行された障害者差別解消法により、学校や職場での吃音に対する差別的言動および差別的扱いは禁止されていると説明しています。また、発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長などの合理的配慮を求めることができるとしています。ただし、医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合があります。

まとめ

  • 日本語を話す子どもを調べた研究では、語の初めが子音か母音かの違いは吃音の生起に有意な影響を与えていない。いっぽうで母音始まりのほうが高い傾向だったという報告もあり、結論は割れている。
  • 成人を対象にした研究では、子音で詰まりやすい型と母音で詰まりやすい型の2つに分かれた。「母音が出にくい人がいる」と「母音だから出にくい」は別の話。
  • くり返し有意な効果が報告されているのは、語の長さ・語の初めの音の組み立て・二拍のつながりの現れやすさ・発話の中の位置という、語のほうの条件。
  • 「母音をつける」「一音一拍」という工夫は自助団体の記録にあるが、原典自身が「どもらない工夫ではなくて、日本語をしゃべるという意味」と位置づけ、注意を切り替える方法は緊急避難だと書いている。
  • 言えないひと言が人柄の評価に置き換わることがある。学校や職場での差別的な扱いは禁止されており、発表や電話応対の免除などの合理的配慮を求めることができる。相談先は言語聴覚士・ことばの教室・自助団体。

参考文献

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  2. 金東順・伊藤友彦(2004)「韓国語と日本語の吃音の比較―子音と母音を中心に―」音声言語医学 45(2): 125-130.
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  4. 日本吃音臨床研究会「どもって声が出ないときの対処法 2」(伊藤伸二 会長講座。大阪吃音教室 2009年11月6日の記録・会報『スタタリング・ナウ』2009.12.22 No.184 より)
  5. Matsumoto, S. (2025) Difficulty in Segmental Transition of the First Syllables Among Japanese Children Who Stutter: Focus on Compound Word Production. Journal of Special Education Research 13(2): 119-127.
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  8. Takahashi, Iimura & Ishida (2024) Linguistic factors associated with stuttering-like disfluencies in Japanese preschool and school-aged children who stutter. Journal of Communication Disorders.
  9. Iimura, Takahashi, Fukazawa et al. (2023) Effect of linguistic factors on the occurrence of stuttering-like disfluency among Japanese-speaking preschool children who stutter. Clinical Linguistics & Phonetics.
  10. Brundage & Ratner (2022) Linguistic aspects of stuttering: research updates on the language-fluency interface. Topics in Language Disorders.
  11. Tichenor et al. (2022) Understanding the Speaker's Experience of Stuttering Can Improve Stuttering Therapy. Topics in Language Disorders.

当事者の声の出典: V0257(note・u1の考察ラボ。受診も診断も受けていない書き手の記録です)/V0238(note・J)/V0167(日本吃音臨床研究会「第14回吃音ショートコース〜発表の広場〜」。会報『スタタリング・ナウ』2008.12.23 No.172 再録で、編集部が原稿にしたものです)/V0198(note・マカロニ)/V0200(note・K・A)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-08-30 公開

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