まず結論から
- 就活は面接だけではありません。エントリーシート、動画選考、グループディスカッション、インターンの自己紹介と、話す場面の形が段階ごとに変わります。当事者の記録では、いちばんきつかったのは動画選考だったと書かれています。
- エントリーシートでは、吃音そのものをアピールするのではなく、強みの背景として言及するという書き分けを勧める当事者の記録があります。
- 職場の配慮を求めるつもりがあるなら、伝えることが起点になります。条文も、募集・採用にあたっては障害者からの申出により必要な措置を講じる、と定めています。
- 模擬面接の実験では、冒頭で吃音があることを伝えた応募者は、吃音のない応募者と同じくらい肯定的に評価されました。18件の研究をまとめたレビューでも、自己開示は全体として好意的な影響が報告されています。
- 枠の選択もあります。手帳が無くても一般就労している人は多いとされ、吃音があると一律に手帳を申請する必要はないと資料は述べています。
ただし、研究が測ったのは用意された動画を見た人の評価であって、実際の採用選考をそのまま再現したものではありません。伝えたことで不採用が続いたという当事者の記録も現実にあります。この記事は「こうすれば通る」という手順書ではなく、選択肢と、その選択肢を選んだ人がどう書いているかの一覧です。迷ったら、大学のキャリアセンターや、吃音のある人の就労支援を行っている団体に相談してください。
面接だけが就活ではない
「吃音 就活」で最初に思い浮かぶのは面接ですが、実際にいちばん苦しかった場面として別のものを挙げる記録があります。就活を一通り終えた大学生の体験記です。
26卒の文系男子大学生(幼少期から吃音があり、就活が一段落した時期に書かれた体験記・note)
一番きつかったのは動画面接です。
用意したセリフを時間内に喋りきらないといけない。
撮り直しが何度もできる形式でも、なかなかうまくしゃべる事が出来ずに、諦めそうになりながら動画を撮り続けました。
90秒の動画のために1時間近く使ったこともあります。
それでも、動画の中の私は不自然なところで息継ぎをしたり顔が引きつっていたりして、自分が人事だったら弾くだろうな、と自嘲気味になります。
実際、動画選考はほぼ全敗でした。
撮り直しができる形式のほうがきつかった、というのがこの記録の芯です。何度でもやり直せるということは、うまくいくまで終われないということでもあります。90秒の動画に1時間近く。同じ体験記には、グループディスカッションでは注目が集まる発表役を避け、ファシリテーターやタイムキーパー、書記といった役割に自分から回っていたことも書かれています。自己PRやガクチカは原稿ではなくキーワードで覚えてその場で組み立て、詰まりそうな単語はあらかじめ用意しない——そうした工夫も並んでいます。就活の設計とは、こういう場面ごとの手当てのことです。
出典: 【就活体験記】吃音と就活。(note)(台帳: V0077)
段階ごとに、求められる話し方が違います。面接は相手がいて、詰まったときに待ってもらう余地があります。動画選考には相手がいないぶん、時間の制約だけが残ります。グループディスカッションは、会話の流れを切って発言を差し込む必要があるため、詰まることそのものより「割り込むタイミング」が壁になります。この違いを先に知っておくと、どこに時間をかけるかを配分できます。
そして、段階のどこであっても配慮を求めること自体は制度上想定されています。厚生労働省の説明によれば、事業主は募集・採用にあたり障害者からの申出により障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならないとされています(障害者雇用促進法第36条の2〜36条の4)。動画選考のような形式についても、何にどう困るのかを具体的に伝えられれば、相談の対象になり得ます。ただし、事業主に「過重な負担」を及ぼすこととなる場合はこの限りではない、という但し書きが付いています。
エントリーシートに、吃音をどう書くか
話す前に、書く場面があります。ここで多くの人が迷うのが、エントリーシートに吃音のことを書くかどうかです。一般枠で就活をして内定を得た学生が、その判断を書き残しています。
21卒の男子大学生(障がい者手帳を取らず一般枠で就活し、内定に至った経緯を書いた記録・note)
記憶が曖昧なのですが、僕はESに吃音がある旨をわざわざ書くことはしませんでした(だったと思います)。ただ、僕は小1から吃音に悩んでいたこともあって、吃音は僕の人格形成に大きく関わっていたので、必要に応じて言及することはしました。要因としての吃音ですね。その点をはき違えると、ただの自己満エピソードになるので気を付けたいところです。
書く/書かないの二択ではなく、何の要因として書くかで切り分けています。「わざわざ書く」ことはしなかった。けれども人格形成に関わっていたので、必要に応じて言及した。同じ記録では、この書き分けがさらに具体的に説明されています——自己PRで「吃音です!」とアピールするのは筋違いで、「強みは忍耐力です。これは幼い時からの吃音で〜」という形で書くのが望ましいのではないか、と。そして、あくまでも就活をしているのであって吃音を理解してもらう活動をしているわけではない、と自分に釘を刺しています。伝え方が結果を左右することは、研究の側でも報告されています。
出典: 吃音症の僕の就活体験記(note)(台帳: V0105)
自己開示の効果を調べたシステマティックレビューは、伝え方によって受け取られ方が違うことを示しています。2023年10月までに発表された18件の量的研究のうち、全体として好意的な影響が示されたのは15件(83.3%)でした。そして伝え方を比べた研究に限ると、謝るような言い方をしない伝え方のほうが、謝るような言い方や、まったく伝えない場合よりも好意的に受け取られており、これは13件中12件(92.3%)にのぼります。「すみません、吃音があってうまく話せないのですが」ではなく、事実として述べる形のほうだ、ということです。
冒頭で伝えると決めた理由
面接そのものについては、冒頭で伝えることを続けた人の記録があります。理系の大学生で、卒業後はコンサルティングファームに入る予定だと書いている人です。
理系の大学生(就活で毎回冒頭に吃音を伝えることを選んだ経緯を書いた記録・note)
面接中に吃ったらどうしよう…そう悩んでいる人は少なくないのではないでしょうか。面接冒頭から吃音持ちであることを伝えることができればこの不安は和らぐと思います。少なくとも僕はそうでした。
ここ最近吃音症の認知も広がってきたように感じます。
ここで挙げられている理由は、相手の評価を上げるためではありません。自分の不安を下げるためです。「面接中に吃ったらどうしよう」という状態のまま面接を受け続けることのコストのほうを、この人は問題にしています。同じ記録によれば、就活生だった時期には、少なく見積もっても半数以上の面接官が吃音を知っていて、「詰まっても気にしないでくださいね」「一度深呼吸してもらっても大丈夫ですよ」と声をかけられたと書かれています。数年前に長期インターンの面接で尋ねたときは知らない人のほうが多かった、とも書き添えられています。
出典: 面接で吃音はカミングアウトすべきなのか...!?(note)(台帳: V0002)
研究の側にも、面接の場面を直接扱ったものがあります。参加者が、吃音のある応募者とない応募者の模擬面接の動画を2本見て、それぞれを評価するという実験です。参加者の半数が見た動画では、吃音のある応募者が面接の冒頭でそのことを伝えていました。結果は、伝えた場合、吃音のある応募者は吃音のない応募者と同じくらい肯定的に評価されたというものでした。伝えなかった場合には差が出ています。この論文は、面接のように評価される場面を控えた人に対して専門家がどんな助言をできるかに関わる結果だと述べています。
ただし、これは動画を用いた実験です。実際の採用選考は、評価だけでなく業務の割り振りや人手の事情もふくむ判断で、そのまま同じとは言えません。伝えたことで不採用が続いたという当事者の記録も存在します。研究の結果は「伝えると不利になる」という不安を支持していない、というところまでが確かなことです。
一般枠か、障害者雇用か
就活の設計には、どの枠で受けるかという選択も含まれます。この点について、国内の研究プロジェクトのQ&Aが整理しています。
まず前提として、手帳が無くても一般就労している人は多いとされています。吃音があると一律に手帳の申請をする必要があるということはない、と明記されています。就職してからも、職場の上司に事情を話すだけで適切に配慮される場合も多いようだ、とも書かれています。
手帳を取った場合に変わるのは、義務の強さです。障害者手帳があれば、私企業であっても合理的配慮が雇用者の義務になる。ただしこれは障害者雇用促進法によるもので、一般就労ではなく福祉就労の枠での対応になる場合があり、会社によっては給料や昇進で一般就労とは差がつくこともある、と率直に書かれています。ここは判断が分かれるところです。
この資料は2020年1月時点の記述で、当時は障害者差別解消法における私企業の合理的配慮が努力義務だったことを前提に書かれています。その後2024年に改正障害者差別解消法が施行されており、現在の位置づけは窓口で確認してください。なお雇用の分野については、障害者雇用促進法が別に定めています。
雇用の分野の条文はこうなっています。事業主は、募集・採用にあたり障害者からの申出により障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならず、就業後も、均等待遇の確保や能力発揮の支障となっている事情を改善するための必要な措置を講じなければならない(障害者雇用促進法第36条の2〜36条の4)。ただし、事業主に「過重な負担」を及ぼすこととなる場合はこの限りではない、という但し書きが付いています。あわせて、募集・採用において障害者でない者と均等な機会を与えなければならず、待遇について障害者であることを理由に不当な差別的取扱いをしてはならないとも定められています(同法第34〜35条)。
実務的には、何を頼むかを具体的に用意しておくことが要になります。資料も、合理的配慮をしてもらうためには吃音であることを開示したうえで、どういう配慮を希望するのかを具体的に明示して相談・交渉する必要がある、と書いています。例として挙がっているのは、電話での会話が難しい場合に電話が少ない業務に回してもらうこと、上司に口頭で話すのが難しい場合に業務手順を変更してメールで報告・連絡・相談することを了承してもらうことなどです。
吃音のある就活で陥りやすい3つの落とし穴
落とし穴1 − 面接対策だけに時間を使う
当事者の体験記でいちばんきつかったと書かれているのは動画選考でした。グループディスカッションでは、詰まることより会話に割り込むタイミングのほうが壁になり、役割を選ぶという手がとられています。段階ごとに壁の形が違うので、面接以外の場面にも先に手を打つほうが効きます。
落とし穴2 − 伝えるかどうかを、一度で決めようとする
エントリーシートでは「わざわざ書かない、ただし強みの背景としては言及する」という書き分けをした人がいます。面接では「不安を下げるため」に冒頭で伝えた人がいます。場面ごとに目的が違えば、答えも違います。なお、伝え方によって受け取られ方が変わることは研究でも報告されており、謝るような言い方をしない形のほうが好意的に受け取られています。
落とし穴3 − 匿名の書き込みを、判断の材料にする
「詰む」といった言葉が並ぶ場所には、確かに同じ状況の人がいます。ただ、書いた人が本当に当事者なのか、いつの話なのか、どの業界のことなのかは確かめられません。この記事が使ったのは、本人が名前や属性を出して書いた記録と、査読を経た研究だけです。進路の判断には、たどれる情報を使ってください。
まずは、どの段階のどの場面で何に困るかを書き出しておくと、大学のキャリアセンターに相談するときにそのまま使えます。配慮を求める場面では吃音の診断書が必要とされることもあるので、受診しておくと選択肢が広がります。
よくある質問
吃音があると就活は不利になりますか?
模擬面接を使った実験では、面接の冒頭で吃音があることを伝えた場合、吃音のある応募者は吃音のない応募者と同じくらい肯定的に評価されました。伝えなかった場合には差が出ています。ただしこれは動画を用いた実験で、実際の採用選考をそのまま再現したものではありません。伝えたことで不採用が続いたという当事者の記録もあります。
エントリーシートに吃音のことを書くべきですか?
一般枠で就活した当事者の記録では、わざわざ書くことはせず、必要に応じて「強みの背景」として言及したと書かれています。自己PRで吃音そのものをアピールするのは筋違いで、「強みは忍耐力です。これは幼い時からの吃音で〜」という形が望ましいのではないか、という書き分けです。伝え方によって受け取られ方が変わることは、研究でも報告されています。
面接で吃音を伝えるタイミングはいつがいいですか?
冒頭で伝えることを選んだ当事者は、その理由を「面接中に吃ったらどうしよう」という不安を下げるためだと書いています。研究の側では、面接の冒頭で伝えた条件で、吃音のない応募者と同等の評価になったという実験結果があります。ただし何が合うかは人によるので、志望度の高くない選考で試してみるという段取りをとった当事者もいます。
障害者雇用の枠で受けたほうがいいですか?
一律に決まるものではありません。資料は、吃音があると一律に手帳の申請をする必要はなく、手帳が無くても一般就労している人は多いとしています。一方で、手帳があれば私企業であっても合理的配慮が雇用者の義務になるとも書かれています。ただしそれは障害者雇用促進法によるもので、福祉就労の枠での対応になる場合があり、会社によっては給料や昇進で差がつくこともあるとされています。
入社後に配慮を求めることはできますか?
できます。事業主は、就業後も均等待遇の確保や能力発揮の支障となっている事情を改善するための必要な措置を講じなければならないとされています(障害者雇用促進法第36条の2〜36条の4)。ただし「過重な負担」を及ぼす場合はこの限りではありません。求めるときは、どういう配慮を希望するのかを具体的に明示して相談・交渉する必要があるとされています。
まとめ
- 就活は面接だけではない。エントリーシート・動画選考・グループディスカッション・インターンで、壁の形が変わる。当事者が「いちばんきつかった」と書いたのは動画選考だった。
- エントリーシートは書く/書かないの二択ではなく、「何の要因として書くか」で切り分けた記録がある。
- 冒頭で伝えた理由は、評価を上げるためではなく自分の不安を下げるためだった。模擬面接の実験では、冒頭で伝えた応募者は吃音のない応募者と同等に評価された。
- 伝え方でも変わる。謝るような言い方をしない形のほうが好意的に受け取られた研究が13件中12件。
- 枠は一律に決まらない。手帳が無くても一般就労している人は多い。配慮を求めるときは、何をしてほしいかを具体的に出して相談・交渉する。
