吃音の二次障害とは|成人の4割に社交不安、サインと相談先

吃音の二次障害とは|成人の4割に社交不安、サインと相談先
目次

「吃音そのものより、そのあとに続く生きづらさのほうがつらい」——教室でからかわれた記憶、人前を避けるようになった自分、うまく話せない自分を責める気持ち。吃音について調べていて「二次障害」ということばにたどり着いた方は、こうした心当たりがあるかもしれません。

この記事は、結論を先に置いたうえで、5人の当事者が書き残した言葉と、それに対して研究や国内の総説が何を言えているのかを、一つずつ並べていきます。気づき方と相談先まで、出典つきで整理します。むずかしい用語は、そのつどかみくだいて説明します。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室、必要に応じて精神科・心療内科にご相談ください。

まず結論から

  • 吃音の二次障害とは、話し方そのもの(音を繰り返す・引き伸ばす・つまって出てこない)ではなく、周囲の反応と、本人自身の受けとめから二次的に生じてくる困りごとを指します。吃音の問題の大きさは、主にこの「困ること」の側で決まると整理されています。
  • 学齢期には約半数がいじめやからかいを経験するとされ、吃音児の過半数が笑われたりからかわれたりしていて、それによって自尊感情——自分を大切に思える気持ち——の低下や不登校などの二次障害が生じやすくなるとされています。
  • 吃音のある成人200名と、年齢と男女比をそろえた200名を比べた研究では、人前で否定的に評価されることへの強い恐怖を特徴とする社交不安障害にあたる人の割合が、調べた時点で少なくとも40%と報告されています。
  • 学級での立ち位置は、吃音が重いか軽いかでは決まっていないと述べられています。いじめられている子に挙げられた子にも、仲間から拒否された子にも、話しにくさが重い子と軽い子の両方が含まれていました。
  • 青年期・成人では、話し方の訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心理面の評価と対応も必要になるとされています。言語訓練だけでは長期的な有効率が低く、心理面・社会面の支えも要るという指摘もあります。

ただし、吃音があれば必ず二次障害が起きるわけではありません。出方も程度も人によって大きく違い、ここに挙げた割合は「あなたやお子さんがそうなる確率」ではありません。当てはまらない人も、当てはまっても軽く済む人もいます。なお、学級での立ち位置の話は、吃音のある子16人を対象にした2002年の研究にもとづくものです。

「どもること」と「困ること」は、分けて数える

二次障害という言葉は、聞き慣れないわりに、当事者の実感にはよく合います。話し方そのものより、そのあとに起きることのほうが重い——そう書いている人が、少なくありません。

当事者本人(筆名 砂張 五・難発が主/個人ブログ note)

当事者としての主観ではあるが、吃音による苦悩の本質は、症状としての「発話が完遂されない不便さ」ではなく、生活上での他人からの視線、嘲笑、コミュニケーション不全、定型行動の未完遂などによる、社会的なフラストレーションのほうにあると思う。

この一文の前に、本人はひとつの場面を置いています。幼い頃、膝をすりむいて保健室に行き、先生に「何して怪我したの?」と聞かれた。言葉が出ずにいたところへ、食い気味の叱責が返ってきた——そういう出来事が、日常の中で数えきれないほど繰り返される、と本人は書きます。本人が苦しいと書いているのは、言葉が出なかったこと自体ではなく、そのあとに起きたことの側です。この「困ること」の側こそが、吃音の問題の大きさを左右する部分だと整理されています。

出典: 吃音の苦しみを壊した話(note)(台帳: V0066)

吃音ポータルサイトは、吃音を「(1)ことばがどもって(2)困ること」と2つに分けて整理し、問題の大きさは主に(2)で決まると述べています。(1)にあたるのが、次の3つの状態です。かっこの中は、一般に使われている呼び名です。

  • 音を繰り返す。例「ぼ、ぼ、ぼく」連発/れんぱつ)
  • 音を引き伸ばす。例「ぼーーーく」伸発/しんぱつ)
  • 言葉がつまって出てこない。例「・・・ぼく」難発/なんぱつ)

(2)の「困ること」として挙げられているのは、恥ずかしい思いをする、言いたいことが言えずにいらいらする、周囲からのからかいや特別視、緊張したり不安になったりする、話すことを避けてしまう、就職や結婚の問題、落ち込んだり自信がなくなったりする——といった状態です。これがそのまま、二次障害と呼ばれているものの中身にあたります。

同じサイトは、吃音の問題の大きさを立方体の体積にたとえたモデルも紹介しています。3つの辺は、①話し方そのもの(言語症状)②それに対する周囲の反応 ③その両方に対する本人自身の反応で、問題の大きさはこの3つの掛け合わせになる、という見方です。二次障害は、主に②と③から育っていきます。

吃音の問題の大きさを立方体の体積にたとえた、ウェンデル・ジョンソンの立方体モデルの図。3つの辺は、話し方そのもの(言語症状)、それに対する周囲の反応、その両方に対する本人自身の反応で、問題の大きさは3つの掛け合わせになる。言語症状がそれほど大きくなくても、周囲の反応や本人の反応が大きければ問題は大きくなる。辺に目盛りはなく、大きい・小さいの例示
図1: 吃音の問題の大きさは、3つの掛け合わせで決まると整理されている(ウェンデル・ジョンソンの立方体モデルとして紹介されているもの)。出典: 吃音ポータルサイト「吃音ってどんなもの?」

国内の解説も、同じ筋道を書いています。吃音児の過半数が笑われたりからかわれたりしており、これによって自尊感情——自分を大切に思える気持ち——の低下や不登校などの二次障害が生じやすくなる、というものです。

はじまりは、教室だった

では、二次障害はどこから始まるのでしょうか。多くの手記が、同じ場所を指します。学校の教室、それも順番に読んでいく音読の時間です。

当事者本人(名義 Yuu・小学生のときに吃音が出はじめ、大人になった今も吃音がある/当事者団体が運営するメディアへの本人寄稿)

「きききつねは」と連発したのを覚えています。言葉に詰まった初めての経験でした。自分での、言いづらさを体感してなんで言いづらいんだろうと不思議に思いました。その時は詰まらず読みたい、なぜ詰まるんだろうという感情や疑問よりも先に恥ずかしい感情が溢れました。

小学3年生の3学期から4年生の1学期のあいだに、言葉が詰まることに初めて気づいた、と本人は書いています。当時は「吃音」という言葉も知らなかった。国語の時間、『ごんぎつね』をクラスの端から順に読んでいく——そう先生に言われて、素直に読めばいいと思った。そこで起きたことの受けとめが、上の一節です。注目したいのは順番で、疑問より先に来ているのが「恥ずかしい」という感情だという点です。なおこの人自身は、心配とは裏腹に友達がそれまでと変わらず接してくれ、からかわれることもなかったとも書いています。つまりここで動いているのは、周囲のからかいではなく、本人の中に生まれた恥ずかしさのほうです。この本人の反応こそ、立方体モデルの3辺のうち、問題の大きさを大きくする側にあたります。

出典: 小学生の時に吃音があることに気がついた(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0209)

学齢期に何が起きやすいかは、国内の総説がはっきり書いています。学齢期に約半数がいじめやからかいを経験するので対策が重要であり、診断書などで対応する、というものです。別の解説も、吃音児の過半数が笑われたりからかわれたりしていると述べています。数字の出し方は資料によって違いますが、「珍しいことではない」という点では一致しています。

教室での立ち位置を、子どもたち自身の目で測った研究もあります。イギリスの通常学級で、吃音のある子ども16人と、そのクラスメイトを含む合計403人に一人ずつ面接し、好きな子・嫌いな子や、「いじめられている子」「リーダー」といった説明に当てはまる子を挙げてもらったものです。

イギリスの通常学級で、子どもたち自身に挙げてもらった指名の割合を、吃音のある子16人と吃音のない同級生387人で比べた横棒グラフ。いじめられている子は吃音のある子37.5%に対し吃音のない子10.6%、助けを求める子は25%に対し13.8%、リーダーは6.25%に対し12.9%。行動についての8つの指名のうち、統計的にはっきり差がついたのは、いじめられている子への指名だけ
図2: 子どもたち自身の指名で見た、教室での立ち位置。吃音のある子は16人と少数である点に注意。値は論文本文(Discussion)の記載によります。出典: Davis, Howell & Cooke (2002) J Child Psychol Psychiatry.

結果は、「いじめられている子」に挙げられた割合が吃音のある子で37.5%、吃音のない同級生で10.6%。「リーダー」に挙げられた割合は6.25%と12.9%でした。ただし、行動についての8つの指名の中で統計的にはっきり差がついたのは、いじめられている子への指名だけです。一方、好きな子・嫌いな子の指名から割り出した学級での立ち位置そのものを見ると、仲間から拒否された側に入った割合は吃音のある子で43.75%、吃音のない同級生で18.86%、人気がある側に入った割合は6.25%と25.84%で、こちらはどちらも統計的にはっきりした差がついています。研究チームは、通常学級への受け入れが広がり、いじめ防止の取り組みが多くの学校に入ったにもかかわらず、吃音のある子の学級での立場にはほとんど変化が見られないようだと結んでいます。

この研究は2002年のもので、吃音のある子は16人と少数です。ここから「うちの子もこうなる」とは読めません。教室で何が起きうるかを、子どもたち自身の目で確かめた一例として読んでください。

積み重なると、「人と話すこと」全体の不安になる

二次障害の厄介さは、特定の場面から始まったはずのものが、だんだん場面を選ばなくなっていくところにあります。

当事者本人(名義 nagy・難発性吃音/個人ブログ note)

コンビニでも、あるいはホームセンターでも、日常のあちこちに「怖い」が積み重なっていった。それがいつしか、人と話すこと全体への恐怖になっていた。同じような経験、ありますか?

大学生になってからのこと、と本人は書きます。声を出そうとして、体を前後に揺らし、前に倒れるタイミングで発声する。右手を小さく振り下ろす。そうやって言葉を押し出していた場面として挙げられているのが、コンビニでの注文、上司への報告、プレゼンです。手記は最後を、読者への問いかけで閉じています。この「場面から全体へ」という広がり方は、研究が社交不安障害という枠組みで扱ってきたものと重なります

出典: 吃音と随伴運動——人と話すのがこわくなるまで(note)(台帳: V0210)

社交不安障害とは、人前で恥をかくこと・当惑すること・否定的に評価されることへの強い恐怖を特徴とする、慢性の不安障害のことです。近年の研究では、吃音のある成人に社交不安障害が高い割合でみられることが報告されています。

その割合を測ったのが、吃音のある成人200名と、年齢と男女比の近い吃音のない成人200名を比べた研究です。うち各群から無作為に選ばれた50名には、診断のための決まった手順の面接も行われました。結果、吃音のある成人ではふだんから不安を感じやすい傾向と、人と接する場面での不安のどちらも高く、調べた時点で社交不安障害にあたる人の割合は少なくとも40%、しかも場面を限らない全般型のリスクが高いと示されています。

吃音のある成人200名と、年齢と男女比の近い吃音のない成人200名を比べた研究の結果を示す図。吃音のある成人では調べた時点で社交不安障害にあたる人の割合が少なくとも40%。対照群より社交不安障害のリスクが高く、場面を限らない全般型のリスクも高かったと報告されているが、対照群のほうの割合は数値として示されていないため、図には吃音のある成人の値だけを載せている
図3: 吃音のある成人のうち、調べた時点で社交不安障害にあたる人の割合。対照群の割合は原典に数値として示されていないため、並べていません。出典: Blumgart, Tran & Craig (2010) Depression and anxiety.

この研究がもうひとつ強く言っているのが、診断のときの落とし穴です。当時の診断の手引きは、吃音のある人の社交不安の症状を「吃音があるのだから当然の結果」と見なす方向に働き、そのために社交不安障害として分類しにくくなっていました。研究チームは、この扱いが専門家の側の混乱を招き、メンタルヘルスの面で悪い結果につながりうると結論づけています。「話し方のせいだから仕方ない」で終わらせず、不安そのものへの支援を考える視点が要る、ということです。

同じ「周囲の反応」が、逆にも働く

二次障害の多くが周囲の反応から育つのなら、その反応は逆向きにも効くはずです。実際、そういう記録もあります。

当事者本人(名義 arisa・2歳のころに吃音が出た当事者。高校時代に部活の部長/当事者団体が運営するメディアへの本人寄稿)

すると、部員たちの緊張が一瞬ほぐれて、一斉に笑い出しました。「部長のそういうところ好きです。」お腹を抱えて笑いながら、そう言ってくれる後輩もいました。それからというもの、新入部員が入れば「この部活の号令は、いつもこんな感じだから」と説明する者さえ出ました。

高校時代、この人が最も苦労していたのが部活の号令でした。部活の終わりに部員全員が集合し、部長だけが最初に一人で「部員一同、礼!ありがとうございました。」と言うルール。母音で始まる言葉がとくに出にくい本人にとって、言い換えのきかない決まり文句です。号令をかけると全員が一斉にお辞儀をし、次の言葉が出てくるまで数秒の間があく——それが毎回の光景になっていました。ある日、その沈黙がいつもより長く続きます。お辞儀をしたまま顔だけをこちらに向けて様子をうかがう部員たちがあまりに可笑しくて、本人のほうが先に噴き出してしまった——その直後が、上の場面です。周囲の対応のほうを変えて話しやすい場をつくることは、支援の中心のひとつに数えられています。

出典: ブロックが酷い吃音があっても、私が部長を務められたわけ。(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0148)

周囲の対応を変えて、その人が話しやすい場をつくること——これは環境調整と呼ばれ、治療の中心のひとつに挙げられています。学齢期以降であれば、家庭・学校・会社で、話しにくい場面についての理解と寛容を求め、吃音があっても社会に参加でき、力を発揮できるようにすることが目的だと説明されています。幼児期については、周りの人がゆったりと楽に話すこと、どもるかどうかではなく話の内容を聞くようにすること、笑ったり真似をしたりする子がいる場合は園の先生にも協力を求め、「わざとそうしているのではない」と説明してもらうことが挙げられています。

逆に、周囲が持ちやすい思い込みのほうも確かめておきます。先ほどのイギリスの研究では、内気・自己主張が強い・協力的・場を乱す・いじめる、といった行動の指名について、吃音のある子とない子で統計的な差は出ていません。教室で目立たなくふるまう子がいたとしても、それは「吃音のある子は内気だ」という性格の話ではない、ということです。

二次障害は、薄まることがある

ここまでを読むと、二次障害は積み上がる一方のように見えるかもしれません。ただ、そうではない記録もあります。

当事者本人(40代・男性/自助団体・広島言友会の体験談欄)

それまで吃音を隠し、治さないと何もできないと、劣等感にさいなまれていた私ですが、言友会の活動を続ける中で、吃音に負けないで前向きに生きる多くの人を知って、何でも吃音のせいにしていた自分の過ちに気づいたのです。

この手記は、どもって話すときに何よりこたえたのは周りの人の反応だった、という一文から始まります。冷ややかな目で見る人、見てはならないものを見たかのように目をそらす人、友達と目配せして冷笑する人。子どものころは、しゃべり方を真似してはやしたてられたり、笑われたりもした。親は吃音ではなく、どもると情けないような目で見たり、怒ったりした、とも書かれています。それから長い時間が経った約10年前、この人は初めて北九州言友会の例会に出ます。その日に続けて書かれているのが、上の一節です。立方体モデルでいえば、ここで動いているのは3つ目の辺——本人自身の反応の側です。

出典: 体験談 3.40代男性(広島言友会)(台帳: V0195)

専門的な支援の側も、話し方の訓練だけを見てはいません。青年期・成人では、話し方の訓練を組み合わせても、それだけで改善する例は少なく、過半数では社交不安障害などの心理面の評価と対応も必要になるとされています。国内の総説も、言語訓練は単独では長期的な有効率が低く、心理面・社会面のサポートも必要だと述べています。

上の手記にも、話し方そのものが変わったとは書かれていません。動いたのは、吃音をどう受けとめるかの側です。話し方が変わらなくても二次障害の側が軽くなった、という記録がここにあります。

見えにくいのはなぜか — 気づくための観点

二次障害は、話し方よりも見えにくいものです。理由のひとつは、本人が隠すからです。学齢期の後半以降には、吃音を隠そうとして多彩な、しばしば適切とはいえない対処のしかたを身につけていき、思春期以降は社交不安障害やうつなどの精神科的な問題も併発しやすくなる、と整理されています。

もうひとつの理由は、出方が場面によって大きく変わることです。8歳ごろ以降は自然に治ることが少なくなる一方、独り言ではほとんどどもらなくなり、どんな場面かによって出方が決まる度合いが強くなります。家では気にならないのに学校では出る、といった食い違いは、ここから生まれます。

年齢に沿って二次障害の現れ方を並べた時間軸の図。大きさや多さは比べていない。幼児期は周囲の対応を変える環境調整が中心。8歳ごろ以降の学齢期は約半数がいじめやからかいを経験し、自尊感情の低下や不登校が生じやすく、独り言ではほとんどどもらなくなって場面による差が大きくなる。学齢期の後半以降は吃音を隠すための対処のしかたを身につけていく。思春期以降は社交不安障害やうつなどを併発しやすい
図4: 年齢に沿った二次障害の現れ方。出典: 森浩一 (2020) 日本耳鼻咽喉科学会会報 123(9)/発達性吃音の研究プロジェクト「治療の解説」

診断ではなく、あくまで気づきの目安として、吃音ポータルサイトが挙げる「困ること」を手がかりに振り返ってみてください。

  • 発表・音読・電話・自己紹介など、特定の場面を避けるようになっていないか
  • 言いたい言葉を、言いやすい言葉に置き換えることが増えていないか
  • 「どうせ自分は」と落ち込んだり、自信をなくしたりしていないか
  • 強い不安・眠れなさ・気分の落ち込み・学校や仕事に行きづらさが続いていないか

これらは吃音のある人に必ず起きるものではなく、当てはまっても「二次障害だ」と決められるものでもありません。ただ、こうしたサインが続くときは、話し方だけでなく気持ちの面もあわせて相談する目安になります。日々の様子や気分の波を書き留めておくと、変化に気づきやすく、相談のときにも伝えやすくなります。

二次障害が気になるときの相談先 — 何科?

話し方そのものや、周囲の対応を変える相談は、言語聴覚士のいる医療機関や、地域の「ことばの教室」が中心になります。治療の中心に挙げられているのは、周囲の対応を変えること、ことばの訓練、カウンセリング、心理療法・行動療法で、どの人にも一様に効く方法は無いため、その人に応じて組み合わせて選ぶとされています。

一方、気分の落ち込み・強い不安・眠れない・学校や仕事に行けないなど、二次障害が前面に出ているときは、精神科や心療内科もあわせて検討します。吃音そのものに有効性が確立された薬はなく、吃音を対象として保険が使える薬もありませんが、吃音が原因となって起きた二次的なうつや社交不安障害には、薬による治療が行われることもあるとされています。

不安への心理的な支援については、資料のあいだで書き方に差があります。国内の解説は、社交不安障害には考え方や行動のくせに働きかける心理療法(認知行動療法)が効くとしています。一方、海外の総説は、吃音のある人の社交不安障害に対するこの治療の効果は、さらに研究で確かめる必要がある段階だと述べています。同じ総説は、言語聴覚士と心理職が協力して評価と支援を組み立てる必要があるとも述べています。

学校や職場での配慮を求めることもできます。障害者差別解消法などにより、雇用主は吃音のある人から求められれば合理的な配慮——たとえば面接時間を長くする、電話業務を免除するといった調整——をする義務があり、そのためには吃音の診断書が必要とされることが多いとされています。学齢期でも、診断書などで対応することが挙げられています。発達性吃音であれば発達障害者支援法にもとづき、精神障害者保健福祉手帳を取得できる可能性があります。

同じ立場の人が集まる当事者会・自助グループも、孤立感をやわらげる選択肢のひとつです。どこに相談すればよいか迷うときは、まずかかりつけ医や地域の相談窓口に、いまいちばん困っていること(話し方か、気持ちか、生活か)を伝えるところから始めると整理しやすくなります。

二次障害をめぐって陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 二次障害を本人の「性格・弱さ」のせいにする

回避や落ち込みは、性格や気の持ちようの問題ではありません。教室での行動を子どもたち自身に挙げてもらった研究でも、内気・自己主張が強い・協力的・場を乱すといった行動に、吃音のある子とない子で統計的な差は出ていません。そもそも吃音そのものについても、育て方が原因だとする考え方は否定されています。

落とし穴2 − 「話し方さえ直れば全部解決する」と考える

話し方と二次障害は、別々に動きます。学級での立ち位置は吃音の重さでは決まっていないと述べられており、いじめられている子に挙げられた中にも、話しにくさが重い子と軽い子の両方がいました。青年期・成人でも、話し方の訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心理面の評価と対応が必要になるとされています。

落とし穴3 − 気づかないまま相談が遅れる

二次障害は、本人が隠すぶん外から見えにくくなります。日々の様子・話しにくかった場面・気分の波を書き留めておくと、変化に早く気づけ、相談のときにも伝えやすくなります。

まずは記録を小さく続けることから始めるのが現実的です。発話や気分の記録を「見える化」できるアプリ(toVoice)はその手助けになりますが、記録と経過の把握を支えるものであって、治療を行うものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室、必要に応じて精神科・心療内科への相談が確実です。

よくある質問

吃音の二次障害とは何ですか?

話し方そのもの(音を繰り返す・引き伸ばす・つまって出てこないといった症状)ではなく、その症状をきっかけに、周囲の反応や本人の受けとめから二次的に生じる困りごとを指します。恥ずかしさ・不安・回避・自信の低下などがあたり、吃音の問題の大きさは主にこの「困ること」で決まると整理されています。

大人の吃音では二次障害は多いですか?

大人でとくに知られているのが社交不安障害です。人前で否定的に評価されることへの強い恐怖を特徴とし、吃音のある成人に高い割合でみられると報告されています。吃音のある成人200名と対照200名を比べた研究では、調べた時点で社交不安障害にあたる人の割合が少なくとも40%とされました。ただし個人差が大きく、全員に起こるわけではありません。

二次障害が気になるときは何科に相談すればよいですか?

話し方や周囲の対応の調整は、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室が中心です。気分の落ち込みや強い不安が前面のときは、精神科や心療内科もあわせて検討します。社交不安などには言語聴覚士と心理職が協力した支援が必要とされています。迷うときは、いま一番困っていることを相談窓口に伝えるところから始めると整理しやすくなります。

「ゆっくり話して」と声をかけるのはよくないのでしょうか?

一概に悪いとは言えませんが、勧められているのは別の方向です。とくに幼児期については、周囲の人がゆったりと楽に話し、どもるかどうかではなく話の内容を聞くようにすることが挙げられています。吃音の問題の大きさは、話し方だけでなく周囲の反応にも左右されると整理されており、話し方を急がせるより、話の中身に耳を傾けるほうが負担を大きくしにくいと考えられます。

二次障害は防いだり軽くしたりできますか?

「必ず防げる」と言い切れるものではありません。ただ、吃音の問題の大きさは、話し方だけでなく周囲の反応や本人の受けとめにも左右されると整理されています。周囲の対応を変えて話しやすい場をつくることは支援の中心のひとつに挙げられており、心理面の評価と対応が必要になる人も多いとされています。気になるときは早めに相談してください。

まとめ

  • 吃音の二次障害とは、話し方そのものではなく、周囲の反応と本人の受けとめから二次的に生じる困りごと。話すことを避ける・就職や結婚の問題、自尊感情の低下・不登校、うつ・社交不安障害などがそれにあたる。
  • 学齢期には約半数がいじめやからかいを経験するとされ、過半数が笑われたりからかわれたりして、自尊感情の低下や不登校につながりやすいとされる。
  • 大人ではとくに社交不安障害が多く、吃音のある成人の少なくとも4割にみられると報告されている。人前で否定的に評価されることへの強い恐怖を特徴とする不安障害である。
  • 学級での立ち位置は吃音の重さでは決まっていないと述べられており、内気などの行動の指名にも吃音のある子とない子で統計的な差は出ていない(吃音のある子16人の研究)。「話し方が軽いから大丈夫」とは言えない。
  • 話し方は言語聴覚士やことばの教室、気持ちの面は精神科・心療内科へ。青年期・成人では過半数で心理面の対応も必要とされ、言語訓練だけでは長期的な有効率が低いとされる。記録をつけておくと相談に役立つ。

参考文献

  1. 吃音ポータルサイト「吃音ってどんなもの?」
  2. 発達性吃音の研究プロジェクト「治療の解説」
  3. 森浩一 (2020) 吃音 (どもり) の評価と対応. 日本耳鼻咽喉科学会会報 123(9).
  4. Iverach & Rapee (2014) Social anxiety disorder and stuttering: current status and future directions. Journal of fluency disorders.
  5. Blumgart, Tran & Craig (2010) Social anxiety disorder in adults who stutter. Depression and anxiety.
  6. Davis, Howell & Cooke (2002) Sociodynamic relationships between children who stutter and their non-stuttering classmates. J Child Psychol Psychiatry.

当事者の声の出典: V0066(note・砂張 五さん)/ V0209(HAPPY FOX・Yuu さん)/ V0210(note・nagy さん)/ V0148(HAPPY FOX・arisa さん)/ V0195(広島言友会の体験談・40代男性)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-07-22 公開/2026-08-27 骨格v2へ全面リライト(声の入れ替え・出典の追加と訂正・専門語の平易化・図スロットの設置)