吃音の「二次障害」とは?話し方そのものとは分けて考える
吃音の二次障害とは、話し方そのもの(言葉が繰り返される・つまるといった症状)ではなく、その症状をきっかけに、周囲の反応や本人の受けとめから二次的に生じてくる心理社会的な問題を指します。吃音ポータルサイトは、吃音を「(1)ことばがどもって(2)困ること」と整理し、問題の大きさは主に「(2)困ること」で決まると述べています。この「困ること」の部分が、二次障害にあたります。
まず土台となる、吃音そのものの症状(中核症状)は次の3つです。いずれか1つ以上がみられます。
- 連発(れんぱつ):音を繰り返す。例「ぼ、ぼ、ぼく」
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「ぼーーーく」
- 難発(なんぱつ):言葉がつまって出てこない。例「・・・ぼく」
二次障害を考えるうえで大切なのは、この中核症状(話し方)と、そこから生じる「困りごと」は別のものだ、という区別です。話し方がそれほど目立たなくても、本人がとても気にして困っていれば問題は大きくなり、逆に症状があっても本人が困っていなければ問題は大きくならない、と整理されています。
二次障害にはどんなものがある?回避・自尊感情の低下・不登校・うつ・就労の困難
二次障害として現れやすいものは、吃音ポータルサイトが「困ること」として挙げる次のような状態と重なります。
- 恥ずかしい思いをする/緊張したり、不安になったりする
- 言いたいことが言えずにいらいらする/落ち込んだり、自信がなくなったりする
- 話すことを避けてしまう(発表・音読・電話・自己紹介などの回避)
- 就職や結婚など、進路や人生の選択にも影響する
こうした困りごとは思春期以降に表面化しやすく、学齢期には不登校、成人期にはうつや就労の困難として現れることがあります。ただし出方や程度には個人差が大きく、吃音があれば必ず二次障害が起きるわけではありません。
当事者本人(名義 ゆーた・幼少期から吃音/個人ブログ note)
言いたいのに言えないのは非常に辛いです。
頭では言葉が浮かんでいるのに声にならない、というもどかしさを率直に語った一節です。この「本人の内面のつらさ」こそが、吃音の問題の大きさを左右する部分(本人の反応)だと整理されています。言語症状そのものよりも、この受けとめの重さが二次障害につながっていきます。
出典: 頭では浮かぶのに声が出ない――吃音のもどかしさと半生(note)(台帳: V0033)
大人に多い二次障害「社交不安障害」— 成人の少なくとも4割
成人の吃音でとくに注目されている二次障害が、社交不安障害です。これは、人前で恥をかくこと・当惑すること・否定的に評価されることへの強い恐怖を特徴とする、慢性の不安障害です。近年の研究では、吃音のある成人に社交不安障害が高い割合でみられることが報告されています。
吃音のある成人200名と、年齢や性比の近い非吃音の対照200名を比べた研究では、社交不安障害の時点有病率が吃音のある成人で少なくとも40%にのぼり、全般型のリスクも高いと示されました。注意したいのは、「社交不安は吃音があるのだから当然の結果」と片づけてしまう従来の診断の考え方が、かえって臨床的な混乱を招きうると指摘されている点です。社交不安そのものへの支援が必要な場合がある、という視点が大切です。
二次障害の引き金 — からかい・笑われ体験と「ゆっくり話せばいい」
吃音そのもの(話し方=言語症状)と、二次障害を分けて考えるうえで役立つのが、ウェンデル・ジョンソンの「立方体モデル」です。このモデルでは、吃音の問題の大きさは、①言語症状(X軸)だけでなく、②それに対する周囲の反応(Y軸)、③XやYに対する本人自身の反応(Z軸)の3つの掛け合わせで表されます。二次障害は、主にこのYとZ——周囲の反応と本人の受けとめ——から育っていきます。
とくに、からかわれた・笑われた・特別視されたといった周囲の反応(Y軸)は、二次障害の引き金になりやすいものです。また、緊張や不安は吃音と関わりますが、感情は素因のある子どもで症状の「出方」に関わる要因として研究されているのであって、吃音の「原因」でも、「ゆっくり話せば消える」ものでもありません。よかれと思っての助言が、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。
当事者本人(名義 misa・難発性吃音/個人ブログ)
返ってくるのは「ゆっくり話せば大丈夫だよ」だけ。
「本読みができない」「声が出ない」と親に訴えても、返ってくるのはこの一言だけだった、という当事者の手記です。緊張と吃音の関係は単純ではなく、「ゆっくり話す」ことで解決する種類の問題ではないと研究からもうかがえます。善意の言葉であっても、本人には「分かってもらえない」という孤立感(周囲の反応=Y軸)として残り、二次障害を大きくしうる点と重なります。
出典: 音読が苦痛で不登校、学生時代のストレスからうつへ(個人ブログ)(台帳: V0034)
二次障害に気づくには — 自分・子どものサインを見る観点
二次障害は「話し方」よりも見えにくく、本人も周囲も気づきにくいのが難しいところです。診断ではなく、あくまで気づきの目安として、吃音ポータルサイトの「困ること」を手がかりに、次のような観点で振り返ってみてください。
- 発表・音読・電話・自己紹介など、特定の場面を避けるようになっていないか
- 言いたい言葉を、言いやすい言葉に置き換えていないか(言い換え・回避)
- 「どうせ自分は」と落ち込んだり、自信をなくしたりしていないか
- 強い不安・眠れなさ・気分の落ち込み・学校や仕事に行きづらさが続いていないか
これらは吃音のある人に必ず起きるものではなく、当てはまっても「二次障害だ」と即断できるものでもありません。ただ、こうしたサインが続くときは、話し方だけでなく気持ちの面もあわせて相談する目安になります。気づきの手がかりとして、日々の様子や気分の波を記録しておくと、あとで相談するときに役立ちます。
周囲がやりがちなNG対応と、二次障害を大きくしない関わり
二次障害の多くが「周囲の反応(Y軸)」から育つ以上、家族や周囲の関わり方は大切です。ただし「こうすれば必ず防げる」という魔法の対応があるわけではありません。周囲の反応が本人の困りごとを左右することをふまえると、次のような点が目安になります。
控えたい関わり
- 「落ち着いて」「ゆっくり」「深呼吸して」と、話し方を急がせる・矯正しようとする
- 言い直させる、先回りして代わりに言ってしまう
- 笑う・真似る・「変な話し方」と指摘する
心がけたい関わり
- 話し方ではなく、話の中身に耳を傾け、最後まで待つ
- 本人が話しやすいペース・場面を尊重する
- 困りごとを一人で抱えさせず、必要なときは一緒に相談先を探す
大切なのは、話し方を「直す」ことに周囲が力を注ぐより、本人が安心して話せる関係をつくることです。それが、二次障害を大きくしにくい土台になります。
二次障害が気になるときの相談先 — 何科?ことばの教室・言語聴覚士・精神科
吃音そのもの(話し方)や環境調整の相談は、言語聴覚士のいる医療機関や、地域の「ことばの教室」が中心になります。一方、気分の落ち込み・強い不安・眠れない・学校や仕事に行けないなど、二次障害が前面に出ているときは、精神科や心療内科もあわせて検討します。吃音のある人の社交不安などに対しては、言語聴覚士と心理職が連携した包括的な評価・支援(認知行動療法を含む)が必要とされています。
同じ立場の人とつながる自助グループや当事者会も、孤立感をやわらげる選択肢になります。どこに相談すればよいか迷うときは、まずかかりつけ医や地域の相談窓口に、いまいちばん困っていること(話し方か、気持ちか、生活か)を伝えるところから始めると整理しやすくなります。
当事者本人(36歳・元システムエンジニア→特例子会社の事務職/個人ブログ note)
障害者雇用などの配慮してもらえる環境の方が働きやすいと思いました
採用面接で「喋れるかどうか」で評価され、転職を重ねた末に精神科を受診し、吃音に加えて発達障害が分かったという当事者の所感です。吃音のある成人では社交不安が高い割合でみられ、人と話す場面を避けたくなることが就労の壁になりやすい現実と重なります。配慮のある環境が働きやすかったという実感は、言語・心理の専門職が連携して生活の質を支えていく必要があるという指摘とも響き合います。
出典: 吃音を隠して転職を重ねた末に障害者雇用へ(note)(台帳: V0027)
二次障害をめぐって陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 二次障害を本人の「性格・弱さ」のせいにする
回避や落ち込みは、本人の性格や気の持ちようの問題ではありません。周囲の反応や本人の自覚から二次的に生じる心理社会的な問題であり、問題の大きさは周囲の反応(Y軸)と本人の反応(Z軸)で左右されると整理されています。
落とし穴2 − 「話し方さえ直れば全部解決する」と考える
中核症状(話し方)と二次障害は別のものです。社交不安のように、話し方とは独立して支援が必要になる状態もあり、吃音のある成人では社交不安障害が少なくとも4割にみられると報告されています。話し方だけに焦点を当てると、気持ちの面の困りごとが見落とされがちです。
落とし穴3 − 気づかないまま相談が遅れる
二次障害は見えにくく、本人も周囲も気づかないうちに深まることがあります。日々の様子・話しづらい場面・気分の波を記録しておくと、変化に早く気づけ、相談のときにも伝えやすくなります。
まずは記録を小さく続けることから始めるのが現実的です。発話や気分の記録を「見える化」できるアプリ(toVoice)はその手助けになりますが、記録と経過の把握を支えるものであって、治療を行うものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室、必要に応じて精神科・心療内科への相談が確実です。
よくある質問
吃音の二次障害とは何ですか?
話し方そのもの(連発・伸発・難発などの症状)ではなく、その症状をきっかけに、周囲の反応や本人の受けとめから二次的に生じる心理社会的な問題を指します。恥ずかしさ・不安・回避・自信の低下などがあたり、吃音の問題の大きさは主にこの「困ること」で決まると整理されています。
大人の吃音では二次障害は多いですか?
大人でとくに知られているのが社交不安障害です。人前で否定的に評価されることへの強い恐怖を特徴とし、吃音のある成人に高い割合でみられると報告されています。ある研究では、社交不安障害の時点有病率が吃音のある成人で少なくとも40%とされました。ただし個人差が大きく、全員に起こるわけではありません。
二次障害が気になるときは何科に相談すればよいですか?
話し方や環境調整は言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室が中心です。気分の落ち込みや強い不安が前面のときは、精神科や心療内科もあわせて検討します。社交不安などには言語聴覚士と心理職が連携した支援が必要とされています。迷うときは、いま一番困っていることを相談窓口に伝えるところから始めると整理しやすくなります。
「ゆっくり話して」と声をかけるのはよくないのでしょうか?
一概に悪いとは言えませんが、本人が「分かってもらえない」と感じることがあります。緊張や感情は吃音の出方に関わる要因として研究されている一方で、吃音の原因ではなく、「ゆっくり話せば消える」ものでもないとされています。話し方を急がせるより、話の中身に耳を傾けるほうが負担を大きくしにくいと考えられます。
二次障害は防いだり軽くしたりできますか?
「必ず防げる」と言い切れるものではありません。ただ、話し方を無理に直そうとするより、周囲が安心して話せる関係をつくること、そして気になるときに早めに相談することが助けになると考えられます。社交不安などが強い場合は、専門職が連携した支援の対象になります。
まとめ
- 吃音の二次障害とは、話し方そのものではなく、周囲の反応や本人の自覚から二次的に生じる心理社会的な問題(回避・自尊感情の低下・不登校・うつ・社交不安・就労の困難など)。
- 大人ではとくに社交不安障害が多く、吃音のある成人の少なくとも4割にみられると報告されている。
- 緊張・感情は吃音の出方に関わる要因だが、原因ではなく「ゆっくり話せば消える」ものでもない。
- 気になるサインが続くときは、話し方は言語聴覚士やことばの教室、気持ちの面は精神科・心療内科へ。記録をつけておくと相談に役立つ。
