まず結論から
- 吃音に特徴的な話し方は、音を繰り返す・引き伸ばす・出だしでつまる、の3つの形です。
- 苦手な音や言葉が人によってだいたい決まっていること、出やすい時期と出にくい時期があること、一度言えた語はその後言いやすくなることは、吃音の症状の性質として整理されています。
- 誰かと一緒に読む・歌う・ひとりごとを言う、といった条件ではどもりにくいことも、同じ解説に挙げられています。「歌ならどもらない」は気のせいではありません。
- 逆に、いらだち・興奮・緊張・急かされている感じ、休日や祝日・人の多い場所・電話といった場面は、症状が増える要因になりうるとされています。
- どの人にも一様に効く治療法はないとされています。周囲の接し方を変える・言語訓練・カウンセリング・心理療法などを、その人に合わせて(しばしば組み合わせて)選ぶのが基本です。
ただし、ここに並べたのは大勢を見たときの傾向です。どの音が苦手か、どの場面で出るかは一人ひとり違います。言葉が出ない瞬間にどんな感覚があるかは外からは見えず、その中身も人によって大きく違うと指摘されています。
吃音の話し方には、3つの形がある
吃音(きつおん、どもり)のある人は、ほかの人よりも多く、また違った種類の「なめらかでない部分」がある話し方になります。言葉の一部を繰り返したり、音を長く引き伸ばしたり、言葉の出だしや途中でつまってしまったりします。日本の大学病院の解説では、この3つが中核症状として次のように示されています。
- 繰り返し(連発):「お、お、お、お母さん」のように、音や音節を繰り返す
- 引き伸ばし(伸発):「ぼーーくの鉛筆」のように、音を長く引き伸ばす
- ブロック・阻止(難発):「、、、、、とけい」のように、言葉の出だしでつまって間があく
このほか、言葉を出そうとして首を動かす・まばたきをするといった動きがみられることがあります。話すときに首や手足が動いてしまうことは「随伴症状」と呼ばれます。また、言いにくい言葉を避けたり、別の言葉に言い換えたりすることもあります。
大切なのは、外から見えるこの3つだけが吃音ではない、という点です。吃音の瞬間には、言葉が出ない感覚や、うまくコントロールできない感覚、身体の力み、そして「また出ないかもしれない」という予感や回避といった、外からは見えにくい体験がともないます。その中身は人によって大きく違うと論じられています。ここから先は、その見えにくい側に、当事者の言葉で入っていきます。
どの言葉で出やすいかは、人によってだいたい決まっている
「吃音症 話し方」で調べる人がまず知りたいのは、どんなときに言葉が出なくなるのか、という点でしょう。当事者が自分で書き残した記録を読むと、出にくさはその日の調子だけで決まっているわけではない、ということが見えてきます。
当事者本人の声(吃音歴25年ほど・主に難発/個人ブログ note)
"ありがとう"、"お会計"、"カフェ"、"タクシー"、"テレビ"、"トイレ"など挙げ出したらキリがないです。サイズとかのS/M/Lとかも全部言えないです。ショートって言って誤魔化すこともあります。"お会計"は"精算"とかで言い換えられます。個人的には"ありがとう"を言えないのが結構嫌です。
この書き手は、自分にとって言いにくい音を「行」の単位で並べた表をつくり、あ行・か行・た行を最も苦しい組に置いています。そこに挙がるのは、"ありがとう"、"お会計"、"カフェ"——どれも一日に何度も出てくる言葉です。飲み物のサイズを「ショート」と言い換える、"お会計"を"精算"に置き換える。言いやすい言葉に取り替えながら会話を進める工夫が、日常の細部に敷きつめられています。言いにくい言葉をとっさに別の言葉に言い換えることは「言い換え」、話す場面そのものを避けることは「回避行動」と呼ばれ、思春期以降に加わってくる変化として整理されています。
出典: 【吃音】言いにくい行Tier表(note・わをん)(台帳: V0031)
苦手な音や言葉がだいたい決まっているという性質は、「一貫性」という名前で吃音の中核症状の特徴に数えられています。同じ並びに、いったんどもった単語でも一度言えてしまえばその後は言いやすくなるという「適応効果」、症状が出やすい時期と出にくい時期があるという「波現象」も挙げられています。
では、どんな語がつまりやすいのでしょうか。成人を対象に、実際につまった語と流暢に言えた語を、語頭の音・品詞・語の長さ・文のどこにあるか、という4つの観点から突き合わせた研究があります。子どものころから続いている吃音(発達性吃音)のある成人35人では、つまった語のほうがこれらの性質を合わせた重みが大きく、個々の性質でも強く当てはまっていました。ただし「文のどこにある語か」という性質だけは、つまった語で強く当てはまるという結果になりませんでした。この研究は、語ごとのつまりやすさは言葉の側の性質よりも、発話の運動の側の性質に強く左右されていた、と結論しています。
つまり、苦手な音があるのは気のせいでも思い込みでもありません。ただし、吃音の体験のしかたには大きな個人差があり、一人ひとりの体験と対処のしかたを踏まえないと支援は的外れになりやすい、とも論じられています。他人がつくった一覧を、そのまま自分に当てはめることはできません。
「歌ならどもらない」は気のせいではない
話すとどもるのに、歌うとどもらない。この落差は、当事者の語りにも公的な解説にも繰り返し出てきます。そして、この落差こそが「話し方」を考えるうえでいちばん役に立つ手がかりになります。
当事者本人の声(22歳・ラッパー。言語聴覚士を目指して専門学校に在学/企業が運営するインタビューメディア)
当時、世の中的にもサイファーがすごく流行っていて、僕もカラオケとかで歌うことは以前から好きだったので、ラップ好きな友だちとスマホで流したビートに合わせてラップをしてみたんです。そしたら、ラップだとどもらずに言葉を紡げることに気づきました。話すことができなくても、ラップでなら日常会話ができる。そう気づいてからはラップが挨拶がわりみたいな、友だちと会ったら、会話をする間もなくすぐビートを流してラップをするという日々が始まりました。
中学に上がってから自覚し、高校一年のときに症状が重くなって、友だちとの会話が成立しない日もあった——そう振り返るこの書き手が、友だちと遊びで始めたのが「サイファー」でした。公園や広場などで複数人が輪になり、即興でラップをすることです。話すときには出てこない言葉が、ビートの上では続いた。その気づきから、ラップが友だちとの挨拶がわりになっていきます。歌やリズムに乗せると言葉が出やすくなるというこの現象は、本人の実感にとどまりません。歌ではどもりにくいこと、リズムに合わせた朗読は流暢さを引き出しやすいことが、それぞれ公的な解説に書かれています。
出典: ラップがあったから僕は「本音」を叫べた。吃音症のラッパー・達磨の人生を変えた「歌のチカラ」(第一興商「Singing 歌いながらいこう」)(台帳: V0134)
誰かと一緒に読む「斉読」、歌、ひとりごとではどもりにくい——これは吃音の特徴として挙げられているものです。学童期の訓練でも、斉読やリズムに合わせた朗読は流暢さを引き出しやすいため、発話に自信を持たせる練習としてよく行われるとされています。
なぜ条件が変わると出方が変わるのでしょうか。手がかりのひとつが、自分の声の聞こえ方です。吃音のある9人に文章を音読してもらい、聞こえ方を4通り(そのまま/雑音でかき消す/わずかに遅らせる/高さを変える)、話す速さを2通り(普通/速い)に組み合わせて比べた研究があります。わずかに遅らせた条件と高さを変えた条件では、普通の速さでも速い速さでも、つまる回数が統計的に意味のある差で減りました。この研究は、聞こえ方を変えて流暢さが上がるとき、話す速さを落とすことは必須ではないと述べています。
ゆっくり話すこと自体にも、説明の候補があります。発話をつくり出す脳のはたらきをコンピュータ上に再現したモデルを使った研究では、動きの速さを半分にすると自分の声と目標とのずれが小さくなり、その結果として音や音節の繰り返しが減ることが再現されました。ただしこれはモデルの上での再現であって、人で確かめた結果ではありません。
ここで注意したいのは、これらが「治す方法」ではないという点です。歌ってみる、誰かと一緒に読む、機器で聞こえ方を変える——どれもその条件のあいだ、言葉が出やすくなるという話です。実際、声を遅らせて返す機器(DAF)について公的な解説は、装着しているあいだだけ効果があるとされること、症状が重い場合の選択肢のひとつであること、そして効くのは半数程度であることを明記しています。ただし同じ解説は、数か月以上使うことで吃音の頻度も下がるという研究がある、とも書き添えています。
同じ人でも、場面によって出方が変わる
「家では普通に話せるのに、電話だと出ない」。この落差も、当事者が繰り返し語ることです。話し方が変わったわけではなく、場面が変わっただけなのに、出方が変わります。
当事者本人の声(フリーアナウンサー・小倉智昭さん/ラジオ番組の書き起こし。聞き手は番組のパーソナリティ)
小倉:そうです。吃音“だった”ではなく、今でも吃音なんですよ。
植竹:えっ!?
小倉:今でも激昂したり突然振られて答えたりするときはそうなる。電話も吃音が出そうになるから嫌いです。それと、女房と気を許して話すとき、マネージャーと何も考えないで話すとき、録音されたらヤバいですよ。この人はプロなのに「なんでこんなに」ってぐらいに。
話すことを職業にしてきたアナウンサーが、番組のパーソナリティに問われて答えている場面です。マイクの前で言葉がなめらかに出るのはお金がもらえるからだ、と笑って続けます。同じ人の同じ口から、仕事の場面では流れるように言葉が出て、電話や不意に話を振られた場面では出なくなる。しかも、気を許した相手と話すときにも出る、と語られています。出方が一人の中でもこれほど揺れること自体は、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりする、という吃音の特徴として学会の解説にも挙げられています。
出典: 小倉智昭 吃音に苦しんだ幼少期…それでも「アナウンサー」を志した理由とは?(TOKYO FM+/AuDee)(台帳: V0126)
どんな気持ち・どんな場面・周囲のどんな反応が症状を増やす要因になりうるかは、専門機関の解説が具体的に並べています。気持ちでは、いらだち、興奮、緊張、急かされている感じ。場面では、休日や祝日、人の多い場所、電話。周囲の行動では、からかう、待ちきれない様子を見せる、話し方に注意を向けさせる、言葉を先回りして言ってしまう。名前を言う・電話をかける・飲食店で注文するといった場面が不安になりやすいことも、あわせて挙げられています。
なぜ場面でこれほど変わるのか。近年の理論のひとつは、話すという行為を「ほとんど自動で出る処理」と「意識して組み立てる処理」の釣り合いで説明しようとしています。どちらかに大きく寄っている発話——ひとりごとや思わず出る声、あるいは訓練で新しく身につけた話し方——では、頭の中のせめぎ合いが小さく、流暢さが生まれやすい。逆に、よく慣れているのに責任が重い発話、たとえば求められて自分の名前を言う場面では、自動と意識の両方を同時に使うことになり、つまりが最も出やすいと説明されています。これは新しい実験の結果ではなく、これまでの説明と近年の実験結果を統合しようとした理論の提案です。
この見方が実際の役に立つのは、「自分はどの場面で出るのか」を、話し方の問題ではなく条件の問題として書き出せるところです。苦手な場面への対処は、言語聴覚士による支援でも扱われる対象になっています。
周りの話し方 —「ゆっくり話して」が届きにくい理由
「吃音症 話し方」で調べる人の中には、当事者本人だけでなく、家族・保育者・同僚も含まれます。そしてこの場面で、よかれと思ってかけた言葉が逆に働くことがあります。
言語聴覚士で、自身も吃音のある人の声(子どもの言葉の相談室を運営/保育者向けメディアの取材記事)
「どうしたの?」といった問いかけや、「ゆっくり話そうね」「落ち着いて」といったアドバイスは、吃音を持つ子にはプレッシャーになってしまうので逆効果です。注意したり、言い直しをさせたりするのもやめましょう。「話したい」「伝えたい」という意欲をなくしてしまう恐れがあるからです。
では、どうすればよいか。「うんうん」とうなずきながら、その子の「話し方」ではなく、「話している内容」に耳を傾けてあげてください。そうすると、吃音を持つ子は「ちゃんと聞いてくれてる」と感じて、安心して話せるようになります。
この人は、自分自身も小さい頃から吃音があり、あいさつがうまくできず、音読も人前での発表も苦手で、学校生活は困ることばかりだったと振り返ります。友だちに笑われたりまねされたりするのがいちばん嫌だった、とも語られています。その人が、保育の現場に向けて最初に挙げるのが「まず話し終わるまで待つ」でした。助言よりも先に、待つこと。そして「話し方」ではなく「話している内容」のほうを聞くこと。この向きは、専門機関の解説が支援の中心として挙げているもの——どう話すかではなく、何を言ったかに耳を傾ける——と同じです。
出典: 「聞こう、待とう、私たちが変わろう」が基本。当事者でもある言語聴覚士が教える、吃音を持つ子どもとの向き合い方(マイナビ保育士「ほいくらし」)(台帳: V0120)
ただし、同じ言語聴覚士は、大人の側が自分の話すスピードを少し落とすことは勧めています。早口で話しかけられたり矢継ぎ早に質問されたりすれば子どもは焦ってしまうので、会話のペースをゆっくりにするほうが話しやすくなる、という理由です。子どもに「ゆっくり話そうね」と言うことと、大人が自分の話す速さを落とすことは、別の助言なのです。
では、後者——周りの大人が自分の話す速さを落とすという助言のほうには、どれくらいの裏づけがあるのでしょうか。吃音のある子の親には、ゆっくり話す・返事までの間をとる・話をさえぎらない、といった助言がよく行われます。この点を、助言を受ける前の録音までさかのぼって調べた研究があります。親の話す速さと、返事までにかかる間は、群のあいだで意味のある差がありませんでした。そして、それらと子どもの流暢さとの関係も検出されませんでした。
ただし、この研究は自分でこう断っています——これは過去の記録をさかのぼって見た観察研究であり、解釈には注意が必要である。結論も「この助言が間違っている」ではなく、「今回の結果は、この助言を支持する根拠を増やすものではない」という言い方です。研究チームは、助言を受けたあとの記録も解析中だと書いています。
注意の向け方については、もう一つ方向のはっきりした整理があります。早口で話す「クラタリング(早口言語症)」では、「ゆっくり話そう」「落ち着いて話そう」と症状に注意を向けることで一時的に改善することがあるのに対し、吃音では一般的に逆のことが多いと説明されています。その仕組みとしては、どもる不安があると話すという行為そのものが意識的になり、自動的に行うことが難しくなって、かえってなめらかに出なくなる——そしてさらに意識的になる、という悪循環が挙げられています。
幼児期については、意識して自分の発話を直すことがまだ難しいため、まず周囲の対応のほうを変えます。周りの人の接し方や場面のほうを整えることは「環境調整」と呼ばれます。具体的には、周囲の人がゆったりと楽に話し、どもるかどうかではなく内容を聞くように努めること、笑ったりまねをする子がいる場合は園の先生にも協力を求め、「わざとそうしているのではない」と説明してもらうことが挙げられています。
大人が使える手立て — 伝えておく・配慮を求める・練習する
大人になってからの「話し方」の工夫は、発話そのものを変える方向だけではありません。先に伝えておくという方向にも、研究の裏づけがあります。
就職面接の場面を撮った動画を使った実験があります。観察者338人が、6本の動画——男女2人の話し手 × 面接の冒頭で「吃音があります」と事実として伝える・謝るように伝える・何も伝えない、の3通り——のうち1本にランダムに割り当てられ、見た直後に話し手の印象を評価しました。その結果、事実として伝えた条件は、何も伝えない条件より意味のある差で良い評価になりました。一方で、謝るように伝えた条件は、多くの項目で何も伝えない条件と差が出ませんでした。
この研究は同時に、伝えることがすべての場面・すべての人に良いとは限らないこと、伝えるかどうかの判断もその後の反応も人によって変わりうることを、自ら限界として書いています。使うかどうかは、あくまで本人が決めることです。
日本の公的な解説でも、本人が周囲に自分がどもることを伝えて協力を求めることは、周囲の対応を変える手立てのひとつに位置づけられています。あえて自分からどもってみせる「随意吃(わざと吃る)」でどもることを周囲に知らせると、心理的な負担が減って楽にやりとりできるようになる、とも説明されています。
制度の面では、障害者差別解消法などにより、雇用主は吃音のある人から求められれば合理的配慮をする義務があります。面接時間を長くする、電話業務を免除する、といった内容です。ただし、そのためには吃音の診断書が必要とされることが多いとされています。学会の解説も、発表や電話応対の免除、試験などでの面接時間の延長といった配慮を求められること、その際に医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出が求められる場合があることを挙げています。
発話そのものの練習については、次のように整理されています。日本の公的な解説では、柔らかくゆっくり言葉を出していく練習は「流暢性形成法」と呼ばれ、学童期の高学年以降で使えることがあるとされています。また、流暢に話すことだけを目標にせず、力まずに楽に・軽くどもることを目指す「吃音緩和法」という考え方もあります。青年期・成人ではこの2つを組み合わせて使うことが多いものの、それだけで改善する例は少なく、半数を超える人では心理面の評価と対応も必要になるとされています。
研究の側からの整理もあります。子どもと大人の治療をまとめた総説(研究をとりまとめた論文)は、大人については、話し方のしくみそのものに焦点をあてる練習にいちばん確かな研究の裏づけがあるとまとめています。一方で、どもり方とのつき合い方を整えていく手立ては広く使われているものの、研究の裏づけはそこまで強くなく、考え方や受け止め方のほうにはたらきかける心理療法(認知行動療法)や、易しい場面から順に慣らしていく手法など、別の分野の知見から推し量られている面がある、とも書いています。
どこに相談する? 言語聴覚士・ことばの教室・受診の目安
話し言葉の専門家は言語聴覚士(ST)です。学会の解説は、楽に話しやすくなるように周囲のコミュニケーションの環境を整える方法や、直接発話にはたらきかける方法、吃音のことを理解する方法などを、年齢や状態に合わせて行うとしたうえで、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談しましょうと案内しています。
子どもについては、次のようなときに言語聴覚士への相談が目安とされています。
- 吃音が6〜12か月以上続いている
- 3歳半を過ぎてから吃音が始まった
- 吃音の頻度が増えてきた
- 話すときに力んだり、苦しそうにしている
- 話すことを避ける、話すのがつらいと言う
大人の場合は、本人が治療を希望するなら言語聴覚士による発話訓練という選択肢があります。発話訓練だけで症状が改善しない場合や、吃音に対する不安が強い場合は、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。職場では、吃音について上司や同僚に相談することで、配置や電話業務などで配慮を得られることがあります。学生であれば、発表での配慮を求めたり、就職活動の負担が大きいときに学生相談室でカウンセラーに相談したりすることも挙げられています。
言語聴覚士による支援では、学校・職場・さまざまな社会的な場面で、より楽に自由に話せるようにすることが目標に置かれ、不安になりやすい場面——名前を言う、電話で話す、飲食店で注文するといった場面——への対処もいっしょに扱われます。同じ立場の人と話せる自助グループも支えのひとつになります。吃音の自助団体に参加してほかの吃音のある人と出会うことが、心理的な変化のきっかけになることもあると学会の解説も述べています。
話し方をめぐって陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 一度うまく言えた「言い方」を、万能だと思ってしまう
ある日うまくいった言い方が、次の日には効かない。これは工夫が間違っていたからとは限りません。吃音には、症状が出やすい時期と出にくい時期がある「波現象」や、いったんどもった単語も一度言えてしまえばその後は言いやすくなる「適応効果」があるとされています。1回の成功や失敗で工夫の良し悪しを決めないほうが、結果的に長く続きます。
落とし穴2 − 「一度もどもらないこと」を目標にしてしまう
流暢さだけをゴールに置くと、話すという行為そのものへの注目が強まり、かえって苦しくなることがあります。認知行動療法を用いた治療では、どもるかどうかにこだわらず「楽なコミュニケーション」を目標にします。そうしたほうが話す行為そのものから注意が外れるので、かえって症状も改善しやすい、と説明されています。目標は「一度もどもらないこと」ではなく「楽に伝わること」に置き直すほうが現実的です。
落とし穴3 − 自己流だけで抱え込み、相談のときに説明できない
吃音には日や時期による波があるため、相談に行った日にたまたま症状が軽い、ということが起こります。いつ・どんな場面で出やすかったかを言葉で伝えられるかどうかが、相談の質を左右します。
まずは日々の発話の様子を記録することから小さく始めるのが現実的です。記録はあくまで経過を把握し、専門家への相談や継続を支えるための手立てで、それ自体が治療の代わりになるものではありません。学会の解説も、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員への相談を勧めています。
よくある質問
吃音症の人はどんな話し方をするのですか?
音や音節を繰り返す「連発」、音を引き伸ばす「伸発」、言葉の出だしでつまる「難発」の3つが、吃音に特徴的な話し方として挙げられています。言いにくい言葉を避けたり別の言葉に言い換えたりすることもあり、日によって、また緊張や興奮によって出やすさが変わる波もあります。
歌ならどもらないのはなぜですか?
誰かと一緒に読む「斉読」、歌、ひとりごとではどもりにくいことが、吃音の特徴として挙げられています。斉読やリズムに合わせた朗読は流暢さを引き出しやすいため、訓練にも使われるとされています。理由については、自分の声の聞こえ方や話す速さが関わるという説明が研究で検討されていますが、まだ仮説の段階のものも含まれます。
周りは「ゆっくり話して」と声をかけたほうがよいのですか?
専門機関の解説では、話し方に注意を向けさせる・急かす・言葉を先回りして言ってしまう、といった反応はかえって吃音を増やす要因としてあげられています。親の話す速さや返事までの間と、子どもの流暢さとの関係は検出されなかったという研究もありますが、これは観察研究であり、助言が間違っていると示したものではありません。まずは「どう話すか」ではなく「何を言ったか」に耳を傾けるのが基本とされています。
電話や面接が苦手です。工夫はありますか?
電話や緊張する場面は出やすいことが知られています。就職面接では、冒頭で吃音があることを事実として伝えた条件が、何も伝えない条件より良い評価になったという実験があります。仕事では面接時間の延長や電話業務の免除といった合理的配慮を求めることもできますが、診断書が必要とされることが多いとされています。
楽に話すための練習にはどんなものがありますか?
柔らかくゆっくり言葉を出していく「流暢性形成法」、力まずに楽に・軽くどもることを目指す「吃音緩和法」などがあり、青年期・成人ではこの2つを組み合わせて使うことが多いとされています。大人については、話し方のしくみそのものに焦点をあてる練習にいちばん確かな研究の裏づけがあると総説がまとめています。ただし、どの人にも一様に効く方法はなく、専門家のもとで自分に合うものを選ぶのが基本です。
まとめ
- 吃音に特徴的な話し方は、繰り返す・引き伸ばす・出だしでつまる、の3つの形。あわせて、体の動きや言い換え・回避もみられる。
- 苦手な音がだいたい決まっていること、日や時期で変わること、一度言えた語は言いやすくなることは、症状の性質として整理されている。
- 誰かと一緒に読む・歌う・ひとりごとでは出にくい。聞こえ方を変えると、話す速さを落とさなくてもつまる回数が減ったという研究もある。
- 電話・不意に振られる場面・急かされる場面では出やすい。「話し方」ではなく「条件」の側から自分の傾向を書き出すほうが役に立つ。
- 周囲は「どう話すか」ではなく「何を言ったか」に耳を傾ける。伝えておく・配慮を求めるという手立てもある。
- 迷ったら、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室に相談を。日々の様子を記録しておくと相談に役立つ。
