「吃音症の話し方」には2つの意味がある
吃音(きつおん、どもり)とは、話し言葉がなめらかに出てこない状態のことです。吃音のある人は、ほかの人よりも多く、また違った種類の「非流暢(なめらかでない部分)」がみられ、言葉の一部を繰り返したり、音を長く引き伸ばしたり、言葉の出だしや途中でつまってしまったりします。
そのため「吃音症 話し方」という言葉には、大きく2つの意味が含まれます。ひとつは「吃音だとどんな話し方になるのか」という症状の面、もうひとつは「どう話せば少しでも楽になるのか」という工夫の面です。この記事は、まず前者(特徴)を押さえたうえで、後者(工夫・場面別・周囲の接し方)にしっかり踏み込みます。
吃音症に特徴的な話し方 — 連発・伸発・難発
吃音に特徴的な話し方は、次の3つのどれか1つ以上がみられることです。
- 連発(れんぱつ):音や音節を繰り返す。例「ぼ、ぼ、ぼくは」「い、い、行きたい」
- 伸発(しんぱつ):音を長く引き伸ばす。例「ぼーーーくは」
- 難発(なんぱつ):言葉がなかなか出ず、出だしで間があいてつまる(ブロック)。例「……ぼくは」
このほか、言葉を出そうとして首を動かす・まばたきをするといった動きがみられたり、言いにくい言葉を避けたり、別の言葉に言い換えたりすることもあります。また、いつも同じように出るわけではなく、日によって変わり、緊張や興奮があると出やすくなる「波」があるのも特徴です。
大切なのは、外から見える非流暢だけが吃音ではない、という点です。吃音の瞬間には、言葉が出ない感覚や、うまくコントロールできない感覚、身体の力み、そして「また出ないかもしれない」という予期や回避といった、外からは見えにくい体験がともなっており、その中身は人によって大きく違うことが指摘されています。だから「吃音の話し方」も、一人ひとり違う、と考えるのが出発点になります。
「どんな話し方だと出やすい・出にくい」か — 当事者の実感
どの音・どの言葉で出やすいか、そしてそれをどうかわしているかは、当事者自身の実感がいちばん具体的です。吃音のある人は、言いにくい言葉を避けたり、同じ意味の別の言葉に言い換えたりしながら話していることが少なくありません。
当事者本人の声(吃音歴25年ほど・主に難発/個人ブログ note)
マックで頼むときはマックフライポテトと言うようにしています
「ポテト」が出にくいので、あえて正式名称で頼む——といった具体的な言い換えの工夫を、この書き手は数多く挙げています。特定の音や語で吃りやすいこと、そのため言いやすさを基準に言葉や行動を選ぶことは、吃音の「予期と回避」という体験や、その個人差、そして言葉を避けたり言い換えたりする行動とも重なります。工夫は本人にとって現実的な対処であり、「甘え」ではありません。
出典: 言いにくい音と、言い換え・回避の工夫(note・わをん)(台帳: V0031)
子ども(幼児期)の吃音の話し方と、家庭での見守り方
吃音の多くは2〜6歳ごろに始まります。子どもは、言葉をたくさん覚える時期に、6か月未満の一時的な非流暢を通ることも多く、そのまま気にならなくなっていくこともあります。
幼児は意識して自分の発話を直すことがまだ難しいため、話し方そのものを無理に直させるより、まず周囲の対応を整える「環境調整」が中心になります。具体的には、周囲がゆったりと楽に話し、吃るかどうかではなく「何を言ったか(内容)」に耳を傾けることがすすめられています。急かしたり、言い直させたりせず、話しやすい雰囲気をつくることが土台になります。子どもの話し方に波があるのも自然なことです。いつ専門家に相談するとよいかの目安は、後の「どこに相談する?」の章で整理します。
楽に話すための工夫 — 環境調整と言語訓練
「どう話せば楽になるか」に、たった一つの正解はありません。公的資料でも、吃音の治療の中心は環境調整・言語訓練・カウンセリング・心理療法や行動療法であり、どの人にも一様に有効な方法はないため、その人に合わせて(しばしば組み合わせて)選ぶとされています。ここでは、専門家のもとで用いられる代表的な考え方を紹介します。
ゆっくり・やわらかく話す(流暢性形成法)
柔らかくゆっくり言葉を出す練習は「流暢性形成法」と呼ばれ、学童期以降で用いられることがあります。成人を対象とした行動療法の総説でも、発話のしくみそのものに焦点をあてる「発話再構成(流暢性形成)」は、成人において最も根拠が確かなアプローチのひとつとされています。
「楽に・軽く吃る」という考え方(吃音緩和法)
流暢に話すことだけを目標にするのではなく、吃るときに力まず、楽に・軽く吃ることを目指す「吃音緩和法」という考え方もあります。あえて自分から吃ってみせる「随意吃(ずいいきつ)」で、吃ることを周囲に開示すると、心理的な負担が減って楽にコミュニケーションできるようになる、とも説明されています。
発話そのものへの注目を減らす
「うまく話さなきゃ」と発話行為そのものに注意が向くほど、かえって非流暢になりやすい悪循環が知られています。そこで認知行動療法などでは、吃るかどうかにこだわらず「楽なコミュニケーション」を目標にします。すると発話行為から注意が外れ、結果として症状も落ち着きやすいとされます。成人では、適切な速さでのスピーチ・シャドーイングを3か月程度続けると、つまり(ブロック)が解消する人もいると報告されています。
ただし、これらは言語聴覚士など専門家のもとで、一人ひとりに合わせて行うものです。効果には個人差があり、「これをやれば必ず流暢になる」という万能の方法ではありません。完璧な流暢さそのものより、楽に伝わることを目標にする視点が土台になります。
当事者本人の声(舞台役者・財前優一/個人ブログ note)
僕自身が吃音を抱えて舞台役者として舞台に上がっている
この書き手は、稽古の段階で自分が拒否反応を示すセリフ(母音で始まる言葉が苦手)に目星をつけ、動作を言葉に添える工夫で臨み、それでも難しいセリフは演出家に相談して同じ意味の別の言い方に変えてもらう、という実践を公開しています。あらかじめ「出にくい言葉」を把握しておくことは、吃音の予期や回避を一人ひとりの体験として捉える視点や、言い換え・環境調整・開示という工夫と重なります。
出典: 吃音症でも舞台役者になれるのか(note・財前優一)(台帳: V0037)
場面別の話し方の工夫 — 電話・注文・自己紹介・面接
吃音は場面によって出やすさが変わります。電話や人混み、そして焦りや緊張・興奮といった気持ちがあるときに出やすくなることが知られています。実際、自分の名前を言う・電話で話す・レストランで注文する、といった場面は、多くの当事者にとって不安になりやすい場面としてあげられています。
こうした場面では、次のような方向性が助けになります。
- 開示して協力を求める:吃ることを周囲に伝えておくと、心理的な負担が減り、楽にやりとりできるようになるとされます。
- 合理的配慮を活用する:仕事の場面では、面接時間を長くしてもらう、電話業務を免除してもらう、といった配慮を求めることができます。ただし、そのためには吃音の診断書が必要になることが多いとされています。
- 苦手な場面を専門家と練習する:言語聴覚士による支援では、名前を言う・電話をする・注文するといった、不安になりやすい場面への対処もいっしょに扱います。
当事者本人の声(名義 sadakiti/個人ブログ はてなブログ)
「まぁしょうがない」の境地に至ったのが22歳。
この書き手は、長いあいだ電話で社名(「株式会社」)が言えなかった時期があり、超スローに応答する工夫で対応してきたと振り返ります。特定の場面・特定の語で出やすいという体験は、電話などの状況で吃りが増えやすいことや、開示して周囲の協力を得るという方向性とも重なります。同時に、こうした受け止め方に至るまでの過程は人それぞれで、時間がかかることもある、というのも率直な実感として語られています。
出典: 吃音とともに歩んだ半生と「まぁしょうがない」(はてなブログ)(台帳: V0028)
どこに相談する? 言語聴覚士・ことばの教室・受診の目安
話し方の工夫を一人で抱え込まず、専門家に相談することが近道です。話し言葉の専門家は言語聴覚士(ST)です。子どもの場合は学校の「ことばの教室」や言語聴覚士のいる医療機関、大人の場合も言語聴覚士のいる医療機関が相談先になります。
子どもについては、次のようなときに言語聴覚士への相談が目安とされています。
- 吃音が6〜12か月以上続いている
- 3歳半を過ぎてから吃音が始まった
- 吃音の頻度が増えてきた
- 話すときに力んだり、苦しそうにしている
- 話すことを避ける、話すのがつらいと言う
大人でも、話し方の悩みが仕事や生活に影響していると感じるなら、様子見だけにせず相談してよいテーマです。言語聴覚士による支援では、より楽に自由に話せるようにすることや、不安になりやすい場面への対処が扱われます。同じ立場の人と話せる自助グループも、支えのひとつになります。
話し方をめぐって陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 周囲の「ゆっくり」「落ち着いて」がかえって逆効果になりうる
よかれと思った声かけが、逆に働くことがあります。話し方そのものに注目させる・急かす・言葉を先取りして言ってしまう・からかう、といった周囲の反応は、かえって吃音が増える要因としてあげられています。発話行為そのものに注意が向くほど非流暢になりやすい悪循環も知られています。周囲にできるいちばんのことは、「どう話すか」ではなく「何を言ったか」に耳を傾けることです。
落とし穴2 − 「完璧に流暢に」を自分に課しすぎる
流暢さだけをゴールにすると、発話への注目が強まり、かえって苦しくなることがあります。専門家のあいだでも、吃るかどうかにこだわらず「楽なコミュニケーション」を目標にするほうが、結果的に症状も落ち着きやすいとされています。目標は「一度も吃らないこと」ではなく「楽に伝わること」に置き直すのが現実的です。
落とし穴3 − 情報や悩みを一人で抱え込む
ネットの断片情報だけで判断せず、公的機関の資料や専門家にあたるのが近道です。吃音は日によって波があるため、いつ・どんな場面で出やすかったかを記録しておくと、相談のときに状況を伝えやすくなります。
まずは日々の発話の様子を記録することから小さく始めるのが現実的です。記録はあくまで経過を把握し、専門家への相談や継続を支えるための手立てで、それ自体が治療の代わりになるものではありません。言語聴覚士など専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
吃音症の人はどんな話し方をするのですか?
音や音節を繰り返す「連発」、音を引き伸ばす「伸発」、言葉の出だしでつまる「難発」のいずれか1つ以上がみられます。言いにくい言葉を避けたり別の言葉に言い換えたりすることもあり、日によって、また緊張などによって出やすさが変わる波もあります。
吃音を楽にする話し方の工夫はありますか?
柔らかくゆっくり話す流暢性形成法や、力まず楽に吃る吃音緩和法、発話そのものへの注目を減らす考え方などがあり、成人では発話再構成(流暢性形成)の根拠が比較的しっかりしているとされています。ただし、どの人にも一様に効く方法はなく、専門家のもとで自分に合うものを選ぶのが基本です。
周りはどんな声かけをすればよいですか?
「どう話すか」ではなく「何を言ったか」に耳を傾けるのが基本です。急かす・言葉を先取りして言ってしまう・話し方に注目させる、といった対応はかえって吃音を増やす要因になりうるとされています。
電話や面接が苦手です。工夫はありますか?
電話や緊張する場面は出やすいことが知られており、吃ることを開示して協力を求める、仕事では面接時間の延長や電話業務の免除といった合理的配慮を求める(診断書が必要なことが多い)、といった方向性があります。苦手な場面への対処は、言語聴覚士といっしょに練習することもできます。
「ゆっくり話せば吃音は治る」というのは本当ですか?
ゆっくり柔らかく話す練習は楽に話す助けになりうるとされていますが、どの人にも一様に効く方法はなく、「ゆっくり話せば必ず治る」と単純にはいえません。専門家のもとで、自分に合う工夫を続けていくのが現実的です。
まとめ
- 「吃音症 話し方」には、症状としての話し方(連発・伸発・難発)と、楽に話すための工夫の2つの意味がある。
- 楽に話す工夫には、ゆっくり柔らかく話す・楽に軽く吃る・発話への注目を減らすなどがあるが、一様に効く方法はなく専門家と選ぶ。
- 電話・注文・面接など場面によって出やすさが変わる。開示・合理的配慮・専門家との練習が助けになる。
- 周囲は「どう話すか」ではなく「何を言ったか」に耳を傾ける。急かす・先取りは逆効果になりうる。
- 迷ったら言語聴覚士やことばの教室へ。日々の様子を記録しておくと相談に役立つ。
