吃音とは?まず定義と3つの症状から
吃音(きつおん、どもること)とは、話し言葉がなめらかに出てこない「発話障害」のひとつです。言いたいことははっきりしているのに、その入り口の音がスムーズに出てこない状態で、吃音に特徴的な中核症状は次の3つです。
- 連発(れんぱつ):音を繰り返す。例「か、か、からす」
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「かーーらす」
- 難発(なんぱつ):ことばがなかなか出ず、間があいてしまう(ブロック)。例「・・・・からす」
このほか、声を出そうとして顔や体に力が入る「随伴症状(ずいはんしょうじょう)」がみられることもあります。また、歌うときや声を合わせるときは一時的になめらかになる人が多く、調子の良い時期・出やすい時期が数週間〜数か月単位で入れ替わる「波」があるのも特徴です。この「波」があるために、治療の効果は短期間では判断しにくい、という点は先に知っておくと役立ちます。
子どもの発症はめずらしいことではありません。吃音は2〜4歳をピークにほとんどが幼児期に始まり、幼児期の発症率は約8〜11%と報告されています。就学前の子どものおよそ5%を超えるとする海外の総説もあります。一方、学童期以降〜成人で吃音が続く人(有症率)は0.8%ほどで、1%より少ないとされています。世界的にも、大人になっても続くのは約1%です。
吃音の種類と原因 — 「治療で消す」前に知っておきたいこと
吃音は大きく2種類に分けられ、その9割以上は幼児期に自然に始まる発達性吃音(小児期発症流暢症)です。残りは、脳腫瘍・脳外傷・脳卒中など脳の損傷で起こる「神経原性吃音」や、成人後に心理的な原因で生じる「心因性」などの獲得性吃音です。種類によって適した対応が変わるため、まず「どちらか」を専門家に見立ててもらうことが出発点になります。
発達性吃音の原因は一つに特定されていません。ただし2000年ごろ以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究から、環境よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かっています。遺伝の関与の大きさを示す推定値(遺伝率)は70%から80%超と報告されています。吃音は、発話・言語・情動をつかさどる神経ネットワークが急速に発達する時期に生じる神経発達的な現象で、その経過は言語的・情動的な要因によって強く左右される、と整理されています。
ここで押さえたいのは、原因が「親の育て方」や「気の持ちよう」ではない、という点です。かつて語られた「親の接し方が原因」という説は、その後の研究で否定されています。だからこそ治療は、原因(=本人や家庭)を責めて取り除くものではなく、話しやすさや付き合い方を支える営みだと考えると、選択肢を落ち着いて比べられます。
「吃音は治療で治るのか」への誠実な答え
いちばん知りたいのはここでしょう。結論から言うと、「必ず治る」とも「絶対に治らない」とも言えません——年齢と経過によって見通しが大きく変わるからです。
まず幼児期に始まった吃音の多くは、特別な治療をしなくても自然におさまっていきます。ある研究(Yairiら 2005)では、吃音が始まってから2年後までに31%、3年後までに63%、4年後までに74%が自然に治ったと報告されています。ただし発症から4年以上たつ、または8歳を過ぎると、自然に治る確率は下がっていきます。そして大人になっても続く人が約1%残ります。
大切なのは、成人の治療のゴールが「中核症状をゼロにすること」だけではない、という視点です。最新の総説では、年長の子どもや大人の治療の優先目標を、連発・伸発・難発といった中核症状を減らすことに置くのか、それとも目に見える吃音の有無にかかわらず「効果的にコミュニケーションできること」を重視するのか、という点が専門家の間で大きな論点になっていると報告されています。つまり「症状を完全に消す」ことだけが治療の成功ではない、という考え方が共有されつつあります。この前提を持っておくと、次に挙げる治療法の「効果」も冷静に読み解けます。
治療法を年齢別に整理 — 効果の根拠の強さで比べる
吃音の治療(言語療法)は、年齢によって「効果の根拠がどれくらい確かか」が大きく異なります。ここは多くの記事があいまいにしがちな部分なので、エビデンスにもとづいて整理します。
- 幼児期(就学前):親が家庭で子どもの発話にフィードバックを返すリッカムプログラム(Lidcombe)が、効果の根拠が最もよく確立されています(効果量 Cohen's d = 0.72〜1.00)。周囲の環境を整える間接的なアプローチ(間接法)にも強い根拠があります。
- 6〜12歳:この年代については、どの治療法についても確かな効果の根拠はまだ得られていません。だからといって「何もしない」という意味ではなく、専門家と相談しながら状態に合わせて進める段階です。
- 思春期以降・成人:発話の仕方を組み立て直す発話再構成法(流暢性形成法など)に、高い効果量の良い根拠があります(Cohen's d = 0.75〜1.63)。吃音そのものへの向き合い方を変える吃音緩和法(吃音修正法)は中程度の効果量の弱い根拠(Cohen's d = 0.56〜0.65)、両者を組み合わせる方法も弱い根拠にとどまります。
実際の指導では、周囲のコミュニケーション環境を整える「環境調整」、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法などを、年齢や状態に合わせて組み合わせます。「効果量(Cohen's d)」は効果の大きさを表す指標で、数字が大きいほど効果がはっきりしている、という目安として読んでください。
効果の根拠が弱い・確認されていない方法
「治したい」と思うほど、いろいろな方法に手が伸びます。しかし、次のような方法を単独の・主たる治療とすることについては、効果を裏づける根拠が得られていないと報告されています。
- 薬物療法
- リズムに合わせて話す方法
- 呼吸の調整(呼吸法)
- 催眠療法や、寄せ集めの(内容が特定されない)吃音療法
実際、根拠が十分でない療法で治療されるケースが多く、しかも治療の開始が不必要に遅れがちだ、という問題も指摘されています。「効きそう」に見える方法ほど、まず年齢に合った根拠のある選択肢と比べる——この一手間が遠回りを防ぎます。
何科・どこに相談する?受診先の選び方
吃音の相談・治療の中心にいるのは言語聴覚士(ST)です。子どもの場合は、小児を扱う言語聴覚士や、学校の「ことばの教室」の教員に相談するのが基本の入り口になります。まずは言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室を探すとよいでしょう。
思春期以降・成人が治療を希望する場合は、言語聴覚士による発話訓練という選択肢があります。発話訓練だけで改善しにくいときや、話す前の不安が強いときには、カウンセリングや心理療法が役立つこともあります。同じ吃音のある人と出会える自助団体(セルフヘルプグループ)への参加が、吃音を否定的に捉えすぎないための心理的な変化のきっかけになることもあります。
制度面では、発達性吃音は発達障害者支援法の対象に含まれ、学校や職場で発表・電話応対の配慮などの合理的配慮を求められます。前の章でふれたとおり、治療開始が遅れがちなことは総説でも問題視されているので、心配なときは様子見だけにせず、早めに専門家へつながることが大切です。
「治す」だけでなく「付き合う・記録する」という向き合い方
治療の目標は、症状をゼロにすることだけではありません。学会の解説でも、吃音に気づかないふりをして本人を孤立させるのではなく、「吃音とうまく付き合っていく」方法を支援者と一緒に考えることが大切だとされています。前述のとおり、目に見える吃音の有無にかかわらず「効果的にコミュニケーションできること」を重視する考え方も、専門家の間で共有されつつあります。
この「付き合う」視点で役立つのが、日々の記録です。吃音には調子の良い時期・悪い時期の「波」があるため、どんな場面で出やすいか・どう変化しているかを書きとめておくと、専門家に相談するときの手がかりになります。効果を短期間の印象で決めつけず、経過を冷静に眺めるための材料にもなります。
治療をさがすときに陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 根拠の弱い「特効」に飛びつく
薬・呼吸法・催眠などを単独の治療とすることは、効果の根拠が支持されていません。まずは年齢に合った、根拠のある方法から検討するのが近道です。
落とし穴2 − 治療の開始を先延ばしにする
「そのうち治るかも」と待つうちに、治療開始が不必要に遅れてしまうことが問題視されています。とくに幼児期は自然回復も期待できる時期ですが、心配なら早めに言語聴覚士やことばの教室に相談しておくと安心です。
落とし穴3 − 「完全に消す」ことだけをゴールにする
症状には波があり、中核症状を減らすことに加えて「効果的に話せること」を重視する考え方もあります。ゴールを一つに固定しすぎないほうが、長い経過とつき合いやすくなります。
まずは日々の様子を記録することから小さく始めるのが現実的です。言語聴覚士など専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
吃音は治療で治りますか?
年齢と経過によります。幼児期に始まった吃音は自然に治ることも多く(発症から3年で約63%)、年齢に応じて効果の根拠がある治療法もあります。一方で大人になっても続く人が約1%おり、「必ず治る」とは言い切れません。成人では中核症状をゼロにすることより「効果的に話せること」を重視する考え方も共有されつつあります。
吃音にはどんな治療法がありますか?
年齢によって根拠の確かさが異なります。幼児期はリッカムプログラムや間接的なアプローチ、思春期以降・成人は発話再構成法(流暢性形成法など)に良い根拠が報告されています。あわせて周囲の環境を整える環境調整などを、状態に合わせて組み合わせます。
何科・どこに相談すればいいですか?
相談・治療の中心は言語聴覚士です。子どもは小児を扱う言語聴覚士やことばの教室、成人は言語聴覚士による発話訓練が入り口になります。不安が強い場合はカウンセリングや心理療法、自助団体が役立つこともあります。
大人になってからでも治療で改善しますか?
思春期以降・成人でも、発話再構成法には高い効果量の良い根拠が報告されています。効果には個人差があり、発話訓練に加えて心理的な支援や自助団体が助けになることもあります。
薬で治せますか?
現時点では、薬物療法を単独または主たる治療とすることの効果は、根拠によって支持されていません。まずは年齢に合った、根拠のある方法を専門家と相談するのがよいとされています。
まとめ
- 吃音とは話し言葉がなめらかに出ない発話障害で、症状は連発・伸発・難発の3つ。9割以上は幼児期に始まる発達性吃音です。
- 「治るか」は年齢しだい。幼児期は自然に治ることも多い(発症から3年で約63%)一方、大人になっても続くのは約1%。
- 治療は年齢で効果の根拠が違います。幼児期はリッカムプログラム・間接法、思春期以降は発話再構成法に良い根拠。薬・呼吸法などを主たる治療とする根拠は弱いとされています。
- 「治す」だけでなく、うまく付き合い・記録しながら効果的に話すことも大切な目標です。心配なときは、まず言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室へ。
