吃音の動画|見て一人じゃないと知る・撮って相談に使う・見分け方

吃音の動画|見て一人じゃないと知る・撮って相談に使う・見分け方
目次

吃音(きつおん)の動画を見に行く理由は、人によって違います。自分と同じ話し方をしている人が画面の中で話しているのを、一度見てみたかった。子どもの話し方が気になって、どんな症状なのかを目で確かめたかった。あるいは、子どもの様子を撮っておいたほうがいいのか、自分の吃音を動画で人に見せてよいのか、と迷っている。どれも、文字の説明だけでは足りないところから始まっています。

この記事は、動画そのものの代わりにはなりません。代わりに、吃音の動画を「見た」人と「撮った」人の言葉を5つ並べ、それぞれに、YouTube と Instagram の吃音の動画を言語聴覚士(ことばの専門職)が評価した研究、日本吃音・流暢性障害学会の解説、ドイツの17の学会が作った診療ガイドライン、テキサス大学オースティン校の研究者らによる自己開示(自分から「吃音がある」と相手に伝えること)の系統的レビュー(条件を決めて研究を集め、まとめて評価した報告)を出典つきで添えます。どの動画を見ればよいかの判断の手がかりと、撮った動画を相談に使う考え方までを扱います。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 吃音のある大人は、ほかの当事者とつながり、経験を交わし、情報を得るためにSNSをよく使う、と2025年の研究は前置きしています。YouTube と Instagram の吃音の動画を言語聴覚士が評価したところ、言語聴覚士が作った動画のほうが、吃音のある人や専門外の作り手による動画より、信頼性と質の評点が高いという結果でした。
  • 一方で、吃音のある人が作った動画のほうが、言語聴覚士や他の医療専門職の動画より、好意的なコメントを多く集めていました。「見て支えになる」と「情報として確か」は、別の物差しです。
  • 子どもの吃音は、相談の場では思ったほど症状が出ないことが多く、そこで「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と言われることは養育者にとってプラスに働くことが少ない、と国の発達障害情報ポータルの解説は述べています。ドイツの診療ガイドラインは、客観的な評価のために、300音節以上の連続した発話サンプルを複数、音声または映像で記録するとしています。
  • 自分から吃音があると相手に伝えること(研究の言葉では自己開示)は、量的研究18件のうち15件で全体として好意的な影響が示されました。研究が定義する自己開示は「自分から」伝えることで、動画で見せるかどうかを決めるのも本人です。
  • 動画の中で流暢に見えることは、吃音が無いことの証拠にはなりません。流暢さを高める技法を使っているとき、聞き手には流暢に聞こえても、本人はより大きな努力を払っている場合があるとされています。

ただし、動画の研究が調べた範囲は YouTube と Instagram の2つで、評点を付けたのは言語聴覚士であって、視聴者がどう受け取ったかを測ったものではありません。またこの記事は、特定の動画や発信者を評価するものではなく、見るとき・撮るときの判断の手がかりを出典つきで並べるものです。

同じ話し方の人が話している動画を、家族にも見てほしい

吃音の動画をいちばん熱心に作っているのは、しばしば当事者自身です。ある当事者が、吃音のある友人にインタビューした動画を公開し、その中身を章ごとにブログへ書き起こしています。当事者だけでなく、その家族にも見てほしい——ブログはそう始まります。

当事者本人の声(プログラマー。吃音のある友人へのインタビュー動画を公開し、内容を章立てで紹介した個人ブログ note。二重引用符で囲まれた部分は、動画の中で友人が語った言葉)

”私が辛かったのは、障害そのものではなく、それを誰にも相談することも頼ることもできなかったこと”

現在と過去の自分を振り返って、

”誰にも言えず、自分の殻に閉じこもり、社会に目を向けることも、そこで起こっている様々な問題について考えることもありませんでした”

当時の浦川さんのように一人で悩みを抱えている吃音当事者は、多くいるだろう。

”学校や社会が開かれた場であれば、いろんな人がいるということ、自分一人ではないということ知ることができる

互いを認め、助け合うことができる

そんな学校や社会を作るためにどうすれば良いのか、それをこれからしっかりと考えていきたいと思います”

昨年12月に吃音当事者の友達にインタビューした動画を公開した、当事者やそのご家族にぜひ見てほしい——ブログはそう書き出し、動画の章ごとに「1:25」「6:58」のような再生位置を添えて中身を紹介していきます。引いたのは、動画の中の友人(23歳)が、通信制高校の生活体験発表会で吃音のことを話した場面を紹介したくだりです。音読や発表のたびにからかわれて学校に行けなくなった時期があったこと、通信制高校で「一人じゃない」という安心感が生まれたことが、その前に語られています。ブログの末尾には、動画に映った本人からのコメントも載っていて、動画で話し忘れたことを自分の言葉で書き足しています。吃音のある大人がほかの当事者とつながるためにSNSの動画へ向かうことは、研究の前提としても書かれています。

出典: 吃音で困ったことは音読です。引きこもりがちだった彼女が笑顔を取り戻すまで(note)(台帳: V0394)

2025年に出た研究は、吃音のある大人がほかの当事者とつながり、個人の経験を交わし、情報を得るためにSNSをよく使う、という前置きから始まっています。そして、吃音のある人が作った動画は、言語聴覚士や他の医療専門職が作った動画より、好意的なコメントを多く受け取っていた、と報告しています。見た人が何かを書き込みたくなる動画が、当事者の側から出ているということです。

なぜ「同じ話し方の人の動画」が要るのかは、当事者の経験を扱った総説が別の角度から説明しています。社会はしばしば吃音のある人を否定的に描き、吃音を異常なものとする見方を強めてしまう、と総説は述べています。そうした社会の評価を受け取ることが、「流暢であるべき」という期待に自分は応えられていないという受け止め——研究の言葉では自己スティグマ(偏見を自分自身に向けてしまうこと)——につながりうる、とも整理されています。当事者が当事者を撮った動画は、そうした描かれ方とは別の場所から出てくる映像です。知られていないことで当事者に何が起きるかは、吃音の認知度の記事で扱っています。

健診で相談したことを、動画にして投稿した父

子どもの吃音の動画を探す保護者は、二つの理由を抱えています。一つは、自分の子の話し方が吃音なのかを目で確かめたいこと。もう一つは、子どもの様子を撮っておいたほうがいいのか分からないこと。息子の吃音に2歳半で気づいた父親が、その両方をやっています。

吃音のある息子(5歳)を育てる父親の声(43歳・シングルファザー。YouTube で子育てを発信/ベネッセ「たまひよ」の育児インタビュー・全2回の後編。聞き手は編集部)

3歳児健診で相談したことを動画にして投稿してみたら、コメントで「私も吃音症です」「子どもが同じ症状です」「こんなふうに話すといいですよ」とたくさんアドバイスをいただきました。とても参考になりました。

――その後の様子はどうでしたか?

二か月のパパ しばらく様子を見ていましたが、症状が続いていたので年中になる少し前に児童精神科を受診することにしました。問い合わせてから2週間後に予約ができ、意外とスムーズだったと思います。

2歳半ごろから、緊張したり興奮したりするとどもる。ことばの最初の音で詰まる様子を、父親はまず YouTube やネットで調べ、音を繰り返す「連発」や引き伸ばす「伸発」にあたるらしいと受け止めています。次にやったのが、3歳児健診で相談したことを動画にして投稿することでした。返ってきたのは、同じ吃音のある人や、同じ症状の子をもつ親からのコメントです。その後も様子を見て、症状が続いたので年中になる前に児童精神科を受診し、生い立ちや家庭環境を聞かれ、カードを使った課題のあとで「様子を見ましょう」と言われています。5歳を過ぎた今もどもる日はあり、入学前にもう一度相談するつもりだと語っています。相談の場で子どもの吃音がどう見えるかについては、支援者向けの解説がはっきり書いています。

出典: シングルで育てる息子。2歳半ごろからどもるようになり、吃音が出るように。心配で調べまくった・・・【YouTuber・二か月のパパ】(たまひよ)(台帳: V0049)

国が提供する発達障害情報のポータルサイトに載っている支援者向けの解説(執筆は九州大学病院の医師)は、最初の節を「症状の過小評価の危険性」と題しています。養育者は、音を繰り返す連発・引き伸ばす伸発・ことばがなかなか出ない難発の症状から吃音を強く疑って相談に行くことが多いのに、実際にその子と話しても思ったほど症状が出ないことが多い。その流暢に話す様子に、相談を受けた人がつい「気にならないですね」「軽い吃音ですね」と言葉をかけることは、養育者にとってプラスに働くことが少ない、と解説は書いています。子どもが気をつけて話すときには吃音があまり出ず、家庭で自分の話したいことが思い浮かんだまま話すときには吃音が表に出ている、と想像することが大切だ、とも述べています。

評価する側の手順も、このずれを前提にしています。ドイツの17の学会が作った吃音の診療ガイドラインは、客観的な評価のために、300音節(音のまとまりの単位)以上の連続した発話サンプルを複数、音声または映像で記録し、どもった音節の割合や、いちばん長いどもりの持続時間、体の動きを伴う症状で分析して重さを分類するとしています。同じガイドラインは、ドイツの3歳・4歳・5歳の定期健診に「子どもはどもりますか」という保護者への質問が組み込まれていることも紹介しています。

ここから言えるのは、次のところまでです。相談の場では出ないことがあり、評価の側は複数の発話の記録を求めている。だとすれば、家庭で気になったときに撮っておいた短い動画は、相談のときに「家ではこうです」を見せる材料になりえます。ただし、手元の資料には「録画を持参しなさい」と書いた原典はありません。これは解説とガイドラインの記載から導いた提案であって、決まった手順ではありません。撮るときは、子どもに「うまく話して」と求めず、いつもどおりの場面をそのまま残すほうが、上の「家庭では出ている」という前提に合います。3歳前後の様子見の判断そのものは、3歳の吃音の記事で扱っています。

キャンプの劇のビデオを、教室でみんなに見せた小3

撮った動画を「見せる」ことを、子どもが自分で決めた記録があります。日本吃音臨床研究会の吃音親子サマーキャンプで、小学3・4年生のどもる子ども7人が1時間話し合った記録が、編集なしで公開されています。そのなかで、3年生の男の子が、自分からこう切り出しました。

吃音のある小学3年生の男の子(D君)の声(日本吃音臨床研究会・2003年吃音親子サマーキャンプの学年別の話し合いの記録。子どもはページ上の記号で、進行役の大人の発言を含む)

D :俺がどもり始めた子と一緒に遊んでたら、友だち4人くらいて来て、なんでお前ら二人だけ、どもってるんやって言われたんや。それがめっちゃむかついてな、キャンプでお母さんに撮ってもらった劇のビデオを、勝手に学校に持っていった。で、先生に一回見せて、教室でみんなに見せてもらってん。

伊藤 :ええ、ちょっと分からんかったけど、キャンプで劇をしてるけど、自分のうつってるビデオか。お母さんがビデオ撮ってくれてたんか。それを学校に持っていったんか?

D :うん。

「なんでお前ら二人だけ、どもってるんや」。他にもいると言っても信じてもらえなかったから、と本人はあとで理由を話しています。持っていったのは、キャンプで母親に撮ってもらった、自分が劇に出ているビデオ。先生に一度見せてから、教室でみんなに見せてもらった。何のためかと聞かれて、この子は「みんなにいっぱいどもる人がいるというのを知ってもらうため」と答えています。その後、先生が、この子をいじめていた5人ほどに感想を聞き、返ってきたのは「もうこれからいじめません」だった、と記録は続きます。テープはばれないように持って帰ったので、母親はまだ知らない、というところまで含めて、本人の言葉で残っています。周りの子に吃音を知ってもらう働きかけは、学会の解説でも保護者に勧められていることです。

出典: 吃音親子サマーキャンプの子どもたち(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」)(台帳: V0196)

日本吃音・流暢性障害学会の解説は、子どもの吃音への対応として、きょうだいや親戚はもちろん、所属している集団の場で、吃音は病気ではないこと、緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものではないこと、本人がわざとやっているわけではないことを伝え、クラス内や学童保育内、習い事などで、吃音の理解と啓発の機会を設けてもらえるように働きかけましょう、と書いています。吃音の指摘やからかいを減らすことによって、本人が安心して吃音を出しながら話し続けてよいのだと実感できる、とも述べ、リーフレットなどを用いることも有効だとしています。この子が教室でやったのは、リーフレットの代わりにビデオを使った、学会の言う「啓発の機会」そのものでした。

自分から「吃音がある」と相手に伝えること(自己開示)については、30年分の研究を条件を決めて集めた系統的レビューがあります。条件を満たした量的研究18件のうち、全体として好意的な影響が示されたのは15件でした。ただし、このレビューが定義しているのは、吃音のある人が自分に吃音があることを自分から相手に伝えることです。ビデオを持っていくと決めたのは、この子自身でした。誰が見せるかを決めるのが本人であることと、見せたあとに何が起きるかは、別々に考える必要があります。数字を図にしたものは吃音の有名人の記事に置いてあります。

大人になってから、吃音のある日常を動画で見せることを選ぶ人もいます。英国の吃音支援団体は、芸術・SNS・社会運動を通じて世間の見方を変えつつある人たちの一覧を公開しており、その中に「SNSインフルエンサー」という区分を設けて、吃音のある日常を発信している人たちを紹介しています。ただし、これは団体がまとめた一覧であって、発信することが誰にとってもよい選択だと示した研究ではありません。有名人の公表をどう受け止めるかは吃音の有名人で、SNSでの発信は別の記事で扱います。

90秒の動画のために1時間——見られる側の負担

動画には、見る側と撮る側のほかに、「撮られて評価される側」があります。就職活動の動画選考は、その最たるものです。幼少期から吃音のある大学生が、就活を終えたあとに書き残しています。

当事者本人の声(26卒・都内の文系男子大学生。連発・伸発・難発のいずれもあると本人が記載/個人ブログ note の就活体験記)

一番きつかったのは動画面接です。

用意したセリフを時間内に喋りきらないといけない。

撮り直しが何度もできる形式でも、なかなかうまくしゃべる事が出来ずに、諦めそうになりながら動画を撮り続けました。

90秒の動画のために1時間近く使ったこともあります。

それでも、動画の中の私は不自然なところで息継ぎをしたり顔が引きつっていたりして、自分が人事だったら弾くだろうな、と自嘲気味になります。

実際、動画選考はほぼ全敗でした。

対面の面接では、面接官が続きを促したり補ったりしてくれた、「スラスラ喋れることがコミュニケーション能力じゃないよ」という言葉に救われた、と同じ体験記は書いています。動画だけが違いました。撮り直しができる形式なのに、時間内に言い切れない。90秒のために1時間近くかけて、出来上がった動画の自分は、不自然な息継ぎと引きつった顔をしている。相手のいない画面に向かって、自分で自分を「弾くだろうな」と評価してしまう——見られる側の負担は、見る人が現れる前から始まっています。動画の中で「うまく話せている」ように見えるかどうかが、その人の吃音をどこまで表しているのかは、研究の側が問い直してきたことです。

出典: 【就活体験記】吃音と就活。(note)(台帳: V0077)

当事者の経験を扱った総説は、流暢さを高める技法を使っているとき、聞き手には流暢に聞こえても、本人はより大きな努力を払っている場合があると論じ、そうして得られた流暢さは吃音のない人の自然な流暢さとは別物で、「見せかけの流暢さ」と呼ばれてきたことを紹介しています。外から分かる乱れが無いまま、話しているときにコントロールを失う感覚を抱いている「隠れた吃音」もあるとされます。だから、観察できるどもりの有無だけを物差しにすると、その人の吃音を表面だけで捉えることになる、というのが総説の主張です。動画の90秒に映っているのは、この人が払った1時間の側ではありません。

動画で「先に伝える」ことを調べた実験もあります。参加者は、応募者に吃音がある模擬面接の動画と、吃音がない動画の2本を見て、それぞれの応募者を評価しました。半数の参加者が見た動画では、吃音のある応募者が面接の冒頭で吃音があることを伝えています。結果は、吃音があると伝えた場合、吃音のある応募者は吃音のない応募者と同じくらい肯定的に評価された、というものでした。論文は、面接のように評価される場面を控えた人に専門家がどんな助言をできるかに関わる結果だと述べています。ただしこれは用意された動画を見た人の評価であり、実際の選考をそのまま再現したものではありません。面接で伝えるかどうかの判断そのものは、吃音と面接の記事で扱っています。

動画が終わると、教材の値段が出てきた

「吃音の改善法」を扱う動画は数多くあります。動画そのものを一つひとつ評価することはこの記事にはできませんが、動画の「先」に何があったかを書き残した人がいます。当事者のコミュニティで告知されたオフ会に、初めて参加した日のことです。

当事者本人の声(社会人男性・二児の父。個人ブログ note の連載「僕の吃音歴」)

しばらくすると、主催者がノートパソコンを持ち出してきて、皆で動画を視聴する時間になりました。主催者は、掲示板で告知を出していた若い男の人でした。動画の内容は覚えていませんが、吃音の改善法の紹介みたいな内容でした。動画が進むにつれ、参加者の間で妙な空気が流れていきました……。

動画が終わると、「吃音の改善についてもっと知りたい人は連絡をください」というようなことを言われ、教材の金額を提示されました。

すでに言友会(吃音の自助団体)に通っていて、いろんな吃音の人と会ってみたいと思って出かけたオフ会でした。公民館の一室に7、8人。お菓子を食べながらのフリートークのあとに、ノートパソコンで動画を見る時間が来ます。内容は覚えていないが、改善法の紹介のような動画。見ているうちに参加者の間に妙な空気が流れ、終わると教材の値段が提示された。帰り道に「あれってそういうことですよね」と他の参加者と話したことだけは、はっきり覚えていると本人は書いています。この人はその後、自分でオフ会を開き、のちに自助グループを主催するようになります。動画の作り手によって情報の確からしさが違うことは、研究が数字で示しています。

出典: 僕の吃音歴(吃音に関わる活動編③ 初めてのオフ会主催)(note)(台帳: V0243)

2025年の研究は、YouTube では吃音に関わる言葉の上位3ページ分の動画を、Instagram ではハッシュタグごとに反応の大きい上位100本を集め、言語聴覚士が、消費者向けの健康情報の質を測る既存の物差しで信頼性・質・わかりやすさ・実行しやすさを評点しました。結果は、言語聴覚士が作った動画のほうが、吃音のある人や専門外の作り手による動画より信頼性と質が高く、YouTube では他の医療専門職が作った動画と比べても、質・信頼性・わかりやすさで上回っていました。その一方で、好意的なコメントを多く集めていたのは吃音のある人が作った動画のほうでした。コメントの多さは、支えになっている証拠ではあっても、情報が確かである証拠ではありません。研究者の結論は、吃音のある大人は自分が見る動画の内容と出所を注意深く考えるべきだ、そして言語聴覚士は質の高い内容をSNSで発信するよう促されるべきだ、というものです。

「ガイドラインと矛盾しないか」も、見分ける手がかりになります。ドイツの診療ガイドラインは、年齢層ごとに治療の根拠の強さを分けて整理しています。就学前の子どもでは、親と協力して行うリッカム・プログラムに最もよい根拠があり、周囲の環境を整える間接的な方法にも強い根拠がある。6〜12歳では、どの治療にも確かな根拠がない。思春期以降と大人では、話し方を組み立て直す方法によい根拠がある——という整理です。つまり、年齢を問わず「これで治る」と一つの方法を勧める動画は、ガイドラインの整理とは形が合いません。個々の動画や発信者の良し悪しをこの記事は判定しませんが、誰が作ったか・年齢層を分けているか・動画の先に値段が待っていないかの3つは、見る側が自分で確かめられます。

動画を見たあと・撮ったあと、どこに相談するか

動画で吃音を知ったところで止まらず、相談先までつなげておきます。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、子どもの吃音について、楽に話しやすくなるために周囲のコミュニケーション環境を整える方法や、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法など、年齢や状態に合わせた指導を行うとしたうえで、小児を扱う言語聴覚士や、ことばの教室の教員に相談しましょうと書いています。国の発達障害情報ポータルの解説も、相談に来た養育者の味方となる必要があるとし、「この吃音とうまく付き合っていく方法を一緒に考えていきましょう」と方針を伝える、と支援者に向けて書いています。

撮った動画を相談に持っていくときは、二つだけ気をつけてください。一つは、家でのいつもどおりの場面を撮ること。相談の場では出にくく、家庭で思いついたまま話すときに出ている、という前提に合わせるためです。もう一つは、本人の了解です。研究が定義する自己開示は本人が自分から伝えることで、子どもであっても、撮られた動画を誰に見せるかは、本人と話してから決めるほうがよいと私は考えます。これは資料が定めた手順ではなく、上の記録で子ども自身がそうしていたことにもとづく考え方です。

次のようなときは、動画を見るだけにせず、相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。

  • 動画で見た症状と子どもの様子が似ていて、様子を見るべきか判断がつかない
  • 「改善法」の動画をいくつも見たが、何をすればよいか分からなくなっている
  • 動画選考や発表など、撮られて評価される場面を避けはじめている

この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。

吃音の動画をめぐる3つの落とし穴

落とし穴1 − 動画で流暢に話している人を見て「治ったのだ」と受け取る

流暢さを高める技法を使っているとき、聞き手には流暢に聞こえても本人はより大きな努力を払っている場合があり、外から分かる乱れが無いままコントロールを失う感覚を抱いていることもあると総説は論じています。動画に映るのは、撮り直しを重ねたあとの一本です。話す仕事をしている当事者が、マイクを離れると今もどもると語っている記録は、吃音の有名人吃音症の芸人の記事にあります。

落とし穴2 − 再生数やコメントの多さを、情報の確かさと取り違える

研究では、好意的なコメントを多く集めていたのは吃音のある人が作った動画で、信頼性と質の評点が高かったのは言語聴覚士が作った動画でした。二つは同じ向きを向いていません。支えになる動画と、情報として確かな動画は、別々に探すものだと考えたほうが実際に近いです。動画の先に教材の値段が待っていた記録が、この記事の中にあります。

落とし穴3 − 撮った動画を、本人に聞かずに人に見せる

研究が扱ってきた自己開示は、吃音のある人が自分から相手に伝えることです。教室でビデオを見せると決めた小学3年生は、自分で先生に頼み、自分で理由を持っていました。家族が撮った動画を相談に使うことと、本人の了解なく公開することは、同じ「見せる」でも別のことです。まずは、いつ・どんな場面で出やすいかを書き留めておくところから始めると、動画を撮るかどうかを考えるときにも、相談のときにも手がかりになります。相談できる場合は、言語聴覚士やことばの教室に相談するのが確実です。

よくある質問

吃音の動画は、どれを見ればいいですか?

YouTube と Instagram の吃音の動画を言語聴覚士が評価した研究では、言語聴覚士が作った動画のほうが、吃音のある人や専門外の作り手による動画より信頼性と質の評点が高いという結果でした。一方で、吃音のある人が作った動画のほうが好意的なコメントを多く集めていました。情報として確かめたいなら作り手を見る、同じ立場の人の話を聞きたいなら当事者の動画を見る、と目的で分けて考えるのが実際に近いと思います。研究者は、見る動画の内容と出所を注意深く考えるよう勧めています。

子どもの吃音を動画に撮っておくと、相談のときに役に立ちますか?

国の発達障害情報ポータルの解説は、相談の場では思ったほど症状が出ないことが多く、「気にならないですね」と言われることが養育者にとってプラスに働くことは少ないとしています。ドイツの診療ガイドラインは、客観的な評価のために300音節以上の連続した発話サンプルを複数、音声または映像で記録するとしています。「録画を持参しなさい」と書いた資料は手元にありませんが、家庭でのいつもどおりの場面を撮っておくことは、この二つの記載に沿った考え方です。

自分の吃音を動画で発信するのは、よくないことですか?

自分から吃音があると伝えること(自己開示)については、量的研究18件のうち15件で全体として好意的な影響が示され、謝るような言い方をしない伝え方のほうが好意的に受け取られていました。英国の吃音支援団体は、SNSで吃音のある日常を発信している人たちを、世間の見方を変えつつある人たちとして紹介しています。ただし研究が定義しているのは自分から伝えることで、発信するかどうか、どこまで見せるかは本人が決めることです。

動画選考で吃音が出てしまい、うまく撮れません。どうすればいいですか?

模擬面接の動画を使った実験では、面接の冒頭で吃音があることを伝えた場合、吃音のある応募者は吃音のない応募者と同じくらい肯定的に評価されました。ただし用意された動画を見た人の評価であり、実際の選考をそのまま再現したものではありません。動画の中で流暢に見えるかどうかは、その人の吃音を表面だけで捉えた物差しだと総説は論じています。学会の解説は、就職活動を発話に困難を感じやすい場面の一つに挙げたうえで、学校や職場では、発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長といった配慮を求めることができるとしています。

「吃音が治る」という動画を見ました。信じていいですか?

この記事は個々の動画を評価しませんが、判断の手がかりはあります。研究では動画の作り手によって信頼性と質の評点が違い、ドイツの診療ガイドラインは、就学前・6〜12歳・思春期以降で治療の根拠の強さを分けて整理しており、6〜12歳ではどの治療にも確かな根拠がないとしています。年齢を問わず一つの方法を勧める動画は、この整理と形が合いません。動画のあとに教材の値段が提示された当事者の記録も、この記事に載せています。

まとめ

  • 吃音のある大人はほかの当事者とつながるためにSNSの動画へ向かう。当事者が当事者を撮った動画を、家族にも見てほしいと書き残した人がいる。社会はしばしば吃音のある人を否定的に描くとされ、同じ話し方の人の動画はその外側にある。
  • 子どもの吃音は相談の場では出にくく、「気にならないですね」は養育者にプラスに働きにくい。評価の側は複数の発話の記録を求めている。家庭でのいつもどおりの場面を撮っておくことは、この二つに沿った提案(決まった手順ではない)。
  • 撮った動画を「見せる」と決めたのが子ども自身だった記録がある。学会は集団の場での理解と啓発の機会を勧め、研究が扱う自己開示は本人が自分から伝えること。誰が見せるかを決めるのは本人。
  • 動画に映る「流暢さ」は、本人が払った努力や隠れた吃音を映さない。動画選考で90秒に1時間かけた当事者がいる。冒頭で伝えた場合に同等の評価になった模擬面接の実験はあるが、動画を見た人の評価にとどまる。
  • 言語聴覚士が作った動画のほうが信頼性と質の評点は高く、好意的なコメントが多いのは当事者の動画。誰が作ったか・年齢層を分けているか・動画の先に値段が待っていないかを確かめる。ガイドラインは年齢層ごとに根拠の強さを分けている。相談先は小児を扱う言語聴覚士とことばの教室。

参考文献

  1. Çavdar, Dölek & Oğuz (2025) How reliable and useful are social media videos about stuttering? A comprehensive evaluation of content and credibility. J Fluency Disord.(ユスキュダル大学ほか・トルコ)
  2. 発達障害ナビポータル「小児期発症流暢症(吃音)」(国が提供する発達障害情報のポータルサイト・国立障害者リハビリテーションセンター系。執筆は九州大学病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科 助教・2025年2月20日)
  3. Neumann, Euler, Bosshardt, Cook, Sandrieser & Sommer (2017) The Pathogenesis, Assessment and Treatment of Speech Fluency Disorders. Dtsch Arztebl Int.(ドイツの17学会による診療ガイドラインの要約。ルール大学ボーフム・ゲッティンゲン大学ほか)
  4. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023年10月)
  5. Coalson, Rodriguez, Albaum, Allen & Byrd (2026) Self-disclosure of stuttering: A systematic review. J Fluency Disord.(テキサス大学オースティン校)
  6. STAMMA(英国の吃音支援団体)「Influential People who Stammer」
  7. Tichenor, Herring & Yaruss (2022) Understanding the Speaker's Experience of Stuttering Can Improve Stuttering Therapy. Topics in Language Disorders.(デュケイン大学・ミシガン州立大学)
  8. Perez, Newman & Walmer (2025) Acknowledging a Stutter Affects the Impression One Makes in a Job Interview. Int J Lang Commun Disord.(シラキュース大学)

当事者の声の出典: V0394(note・吃音のある友人へのインタビュー動画を紹介した当事者のブログ)/ V0049(ベネッセ「たまひよ」・シングルファザーの父への育児インタビュー後編)/ V0196(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」・2003年吃音親子サマーキャンプの学年別話し合いの記録)/ V0077(note・26卒の大学生の就活体験記)/ V0243(note・当事者の連載「僕の吃音歴」)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-05 公開