まず結論から
- 「寝不足になると吃音が増える」と直接確かめた研究は、この記事が使える資料の中にはありません。睡眠と吃音を結びつけて数えた研究はありますが、それは「一緒に見つかりやすいか」を数えたもので、原因を確かめたものではありません。
- ただし、吃音の出方が日や時期によって変わること自体は、専門の学会も大学病院も正面から説明しています。調子の良い状態や悪い状態が数週間から数か月続く人も多く、この変動は「波」と呼ばれています。症状が出やすい時期と出づらい時期があることは、吃音の中核となる症状の特徴の一つとして挙げられています。
- その波がなぜ起きるのかは、解明がほとんど進んでいない部分だと、吃音のある医師自身が書いています。
- 一方で、睡眠の問題が吃音のある人に一緒に見つかりやすいことは、実際に数えられています。米国の医療センターの診療記録から確認された発達性吃音1,143人のうち、併存を数える分析に使われた572人では、睡眠の障害の記録が対照群より多く現れました。
- ただしこれは「寝不足が吃音の原因」という意味ではありません。この研究は、自分たちのデータから因果を仮定することはできないと明記しています。
ただし、ここに挙げたのは集団を平均した傾向と、限られた材料から言えることだけです。今日のあなたやお子さんの出方が寝不足のせいかどうかを、この記事が決めることはできません。生活の立て直しを自分や家族の責任にせず、気になるときは言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に一度相談してください。
「寝不足の日は、どもりが出る気がする」
まず、体調と吃音の関係を本人の言葉で語った記録から始めます。研究の言葉より先に、実際にどう感じられているのかを置きます。
当事者本人の声(情報学研究者のドミニク・チェンさん。見た目にはほとんど分からない「隠れ吃音」タイプとして紹介されたインタビュー/WIRED.jp・聞き手も吃音当事者)
退屈しているときっていうのはあまりどもらないんですかね(笑)。酔っ払っているときは時々、連発が出ますね。あとはその日のコンディション、睡眠不足は吃音が出る気がします。走った後などは、体の緊張が適度にとけるからどもらないような気がしますね。
どんなときに出るのかを、この人は一つずつ挙げていきます。退屈しているとき、酔っているとき、走った後。そこに並ぶ形で「その日のコンディション、睡眠不足」が出てきます。言い方に注目すると、どれも「気がします」で止められています。同じインタビューの少し前で、この人は、緊張していなくてもどもることがあり、自分でも法則性がよく分からないと話しています。長く付き合ってきた本人にとっても、出方は読み切れない。その読み切れなさは、実は研究の側の記述とも一致しています。
出典: 「隠れ吃音」と付き合って生きていくということ──ドミニク・チェン+伊藤亜紗(WIRED.jp)(台帳: V0187)
吃音の脳科学をまとめた2024年のレビュー(研究を集めて整理した論文)は、吃音の仕組みを突き止めにくい理由の一つとして、症状が途切れたり出たりすることを挙げています。同じ一人の中でも、症状の重さは日・週・月の単位で変わる、という書き方です。そして、外から見える・聞こえる症状の重さは、その人の性格、社会的な場面、何を伝えようとしているか、そのときの感情の状態によって変わる、とも述べています。
日本吃音・流暢性障害学会の解説も、同じ現象を保護者や当事者向けの言葉で説明しています。状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりすること、歌うときや二人で声を合わせるとき、独り言のときは一時的に流暢になる人が多いこと。そして調子が良い状態、あるいは悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多く、この変動を(調子の)「波」と呼ぶことです。慶應義塾大学病院の解説でも、症状が出やすい時期と出づらい時期がある「波現象」が、苦手な音が決まっていることや、一度言えるとその後は言いやすくなることと並ぶ、中核症状の特徴として挙げられています。
つまり「日によって違う」のは、気のせいでも、頑張りが足りないからでもありません。ただし、ここまでの資料はどれも、その変わり方の中身として睡眠を名指ししてはいません。
疲れている朝は、声そのものが出にくい
「寝不足だとどもる」と言うとき、人によって指しているものが違います。言葉が詰まる回数のことを言っている人もいれば、もっと手前の、声の出しやすさのことを言っている人もいます。16年間、毎朝の朝礼当番を務めた人が、その違いを細かく書き残しています。
当事者本人の声(徳田和史さん・大阪スタタリングプロジェクト。当事者の集まりでの発表記録/日本吃音臨床研究会の会報の再録。編集部が文章に整えた記録です)
それと、あと良かったことは、自分の声にこれだけこだわり続けることができたことです。声というものはいつも同じような声を出しているのかなと思ったけれど、毎日車の中で発声、トレーニングしていると、その日の温度とか湿度とかあるいはからだの調子とか、そういうのによってからだの響きというのが多少違うんです。特に私の場合は、睡眠不足の場合は、胸が上がってきて、呼吸が乱れて声が非常に出にくいし、調子のいいときは、声帯の振動とからだとの共鳴でいい響きが出るんです。
この人の職場では、朝礼で毎日決まった言い回しを言わなければなりませんでした。通勤の車の中で毎朝発声の練習を続け、そのうちに気づいたのが、日によって体の響き方が違うということです。温度、湿度、体の調子。そして睡眠不足の日は、胸が上がってきて、呼吸が乱れる。同じ発表の中で、この人は、朝目が覚めた時点で「言いにくい日だなあ」と思いながら憂鬱な朝を迎えていたこと、何年続けても、話す前から「また詰まるかもしれない」と身構える気持ちはとれなかったことも語っています。日ごとの違いは、本人にとっては予測ではなく、起きてから分かるものでした。この「いつ良くなるか分からない」という感覚は、専門家の側も同じ言葉で書いています。
出典: 第14回吃音ショートコース〜発表の広場〜(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0167)
保護者からの質問に医師が答える連載の中で、九州大学病院の耳鼻咽喉科の医師は、吃音を科学的に見ることで多くのことが分かってきた一方、解明がほとんど進んでいない部分があると述べ、それが吃音の波だと答えています。とても吃音が多くなる日もあれば、もう治ったのではないかと錯覚するほど調子が良い日もある。そして自身も吃音のある当事者として、40年ほど吃音とともに暮らしていても、いつ調子が良くなるのか悪くなるのか、自分でも分からないと書いています。
「寝不足だから」という説明は、この空白を埋めてくれるので魅力的です。けれども、埋まっていない場所に一つの理由を置くと、置いた理由に責任がついてきます。次の節から、子どもの記録に移ります。
子どもの吃音は「体調や疲れでかなり変わる」
「子供 吃音 睡眠」と調べる保護者が見ているのは、たいてい目の前の一日です。園や学校から帰ってきた夕方、眠る前、疲れがたまった週末。家庭での観察を、10歳の長男について書いている母親がいます。
保護者(母)の記録(長男は10歳。同じ音を繰り返す連発があり、療育センターの相談から言語聴覚士につながった/個人ブログ・アメーバブログ)
吃音者は100人に1人の割合でいるそうです。
連発性吃音で喋り始めに同じ言葉を何度も言ってしまいます。「お、お、おかあさん」の様に。症状の出方としては軽いと思いますが体調や疲れ、ストレスでかなり変わります。
「お、お、おかあさん」という言い方まで書き取ったうえで、この母親は出方の程度を「軽いと思います」と見積もり、そのすぐ後ろに「体調や疲れ、ストレスでかなり変わります」と続けています。幼稚園の年少・年中のころはそれほど目立たなかったこと、周りが成長してこのままでよいのか分からなくなり、療育センターに相談して言語聴覚士につないでもらったことも、同じ記事に書かれています。ここで語られているのは「原因」ではなく、日々の観察です。子どものどもりが、その場・そのときの状態で動くことは、実験の中でも記録されています。
出典: 吃音(うちの子は宇宙と交信中・アメーバブログ)(台帳: V0168)
就学前の子どもを対象にした研究が、その場の状態と吃音の量の関係を実際に測っています。子どもに絵本の絵をもとに物語を話してもらい、その前に隣の部屋から聞こえる大人の会話を聞かせる、という実験です。結果として、どもる子では、話している最中に否定的な気持ちを多く出しているほど、どもりが多くなっていました。さらに、いちばん最初に聞いた会話が楽しい調子や怒った調子だった場合、どもる子はそのあとの三つの物語すべてでどもりが多くなっていました。最初に受けた気持ちの動きが、あとまで尾を引いたということです。
ただし、著者たち自身がすぐに但し書きを置いています。その否定的な気持ちは、どもったことの結果として生じたものかもしれない、というものです。そのうえで、同じ研究は別の結果も示しています。否定的な気持ちが強い場面でも、目をそらすなどして自分の気持ちを立て直す行動を多く見せていた子では、どもりは少なかった。「気持ちが動かないようにする」ことではなく、「動いたあとに戻れること」のほうが、どもりの少なさと結びついていたという結果です。
この実験が扱ったのは感情であって、睡眠ではありません。それでも、「その日・その場の状態で出方が変わる」という保護者の観察が、実験の中でも見えていることは確かです。
眠りの問題と吃音が、同じ時期にまとめて出ることがある
保護者からよく出るのは、「どもりだけではなかった」という話です。夜に泣いて起きる、寝つけない、髪が抜ける——別々のはずのものが、同じ時期に重なる。次の記録は、同じ悩みに答える形で、自分の家庭の経過を書いたものです。
保護者(母)の記録(長男が2歳半のときに次男が生まれた家庭の経過を、同じ悩みの相談への回答として寄せたもの/NPO法人ハートフルコミュニケーション「子育てIdea Box」)
そして夜驚症もおこすようになり、夜になると何かに取り憑かれたように泣きじゃくります。汗で濡れた髪を拭いた時に小さな円形脱毛を見つけた時は、本当に可哀想で私も泣きながら長男を抱きしめたことを、今でもはっきり覚えています。
次男が早産で、生まれてからひと月ほど入院したこと、冷凍した母乳を毎日病院へ運んだこと、退院してからも外出に制限があったこと。そのあいだ長男はわがままを言わずに我慢していた、と母親は書いています。半年ほどして長男に吃音が出始め、病院にも相談に行った。そこへ夜驚症——夜中に強く泣いて目覚める状態です——が重なり、髪を拭いたときに円形脱毛が見つかりました。夫と話し合い、朝の散歩や公園遊びを日課にし、絵本の読み聞かせの途中で下の子が泣いてもやめない、というように関わり方を変えていった経緯も書かれています。長男は25歳になり、当時の記憶はまったくないそうです。眠りの問題と吃音が同じ時期に見つかること自体は、大規模な診療記録の調査でも数えられています。
出典: 弟ができた兄に吃音と円形脱毛症が(子育てIdea Box・NPO法人ハートフルコミュニケーション)(台帳: V0035)
ここで一つ、先に置いておきたいことがあります。日本吃音・流暢性障害学会は、最も問題のある間違った原因論として、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説や、親が吃音だと思って対応することが原因だとする説を名指しで挙げ、そのために母親が周囲から非難されたという体験談を聞く、と書いています。そのうえで、2000年ごろ以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究によって、環境的な要因よりも生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かった、としています。同じ時期に重なって見えたからといって、家庭の出来事が吃音を起こしたことにはなりません。
では、睡眠と吃音が一緒に見つかるという話は、どこまで確かめられているのでしょうか。次の節で、その一本の研究を開きます。
「一緒に見つかる」と「原因である」は違う
睡眠と吃音を結びつけて数えた研究として、この記事が使えるのは一本です。米国の医療センターの診療記録(電子カルテ)から吃音のある人を探し出し、その人たちに一緒に記録されていた病名を洗い出した研究です。
手順はこうです。280万人分の記録を機械で絞り込み、最後は人の目で確認して、発達性吃音と判断できる1,143人を特定しました。そのうえで、年齢や性別などをそろえた対照群(比べるために選ばれた、吃音のない人たちのグループ)と比べて、どの病名の記録が多く現れるかを調べています。
多く現れたものの中に、発達の遅れ、ことばの障害、難聴、アレルギー関連の記録と並んで、睡眠の障害がありました。数でいうと、確認された1,143人のうち併存の分析に使われた572人で、睡眠の障害の記録があったのは47人です。対照群から同じ人数を1万回選び直したとき、この記録がついていた人数は多くても42人でしたから、吃音のある側のほうがはっきり多い、という結果になります。
ここで、二つの読み違いを避けておきます。
一つめ。この研究は、そこから原因を言うことはできないと自分で書いています。この種の網羅的な検定は仮説を生み出すためのもので、データから因果を仮定することはできない、というのが原典の言葉です。そのうえで、関連が観察される理由として五つを挙げています——①その状態が吃音のリスクを直接または間接に上げている、②逆に吃音のほうがその状態に影響している、③見かけだけの関連である、④共通の原因がある、⑤吃音と関連する別の要因との相関から生じた見せかけである。「寝不足だから吃音が増える」は、このうちの①にあたる一つの可能性にすぎません。
二つめ。この研究が数えたのは「睡眠の障害という記録がついていたかどうか」であって、「昨日よく眠れたか」ではありません。同じ研究では、睡眠時無呼吸(眠っている間に呼吸が止まる状態)の記録は、多く現れたとは言えない側に分類されています。睡眠時無呼吸の記録があったのは38人、そのうち閉塞性のものは28人で、どちらも統計の基準には届きませんでした。睡眠時無呼吸症候群と吃音の関係が気になる方もいると思いますが、それに正面から答えられる研究は、この記事の材料の中にはありません。
統計で「届かなかった」ものの読み方についても、この研究は丁寧です。不安と注意欠如・多動症(ADHD)は、吃音に一緒に現れやすいという証拠がすでにある二つですが、この研究では厳しい補正のあとで基準に届きませんでした。それについて著者たちは、陽性の所見が無いことは陰性の所見ではなく、判定できないという所見だと明記しています。診療記録という材料の性質上、記録に残りにくいものは見つけにくい、という理由です。「関係がないと分かった」ではなく、「この方法では言えない」。睡眠についても、同じ慎重さで読むのが正確です。
なお同じ論文は、子ども時代の睡眠不足が、ことばと話す運動を身につけるのに必要な記憶の定着を妨げるのではないか、という仮説を紹介しています。これは別の研究者が提案した考えを引用した部分で、この研究が確かめたものではありません。
「悪化した」ではなく「増えた」——言い方と、相談先
波の理由が分からない以上、保護者にできることは限られている——そう思えるかもしれません。けれども、専門家が具体的に勧めていることがあります。言葉づかいを変えることです。
先ほどの連載で、九州大学病院の医師は、また悪化したらどうしようと心配する母親に対して、まず言葉遣いを変えることが大事だといつも伝えている、と答えています。「吃音が悪化する」「吃音がひどくなる」ではなく、「吃音が増える」という中立的な言葉がよい。同じように「吃音が改善する」ではなく「吃音が減った」と言うようにしている、と書いています。そして、表面上の吃音の状態に保護者の心理が左右されるのではなく、話すという行為の内側にある「話したい気持ち」を育てることを重視するとよい、と続けています。
「悪化」という言葉には、悪くした誰かがいるという含みがついてきます。増えた・減ったなら、ただの出来事です。寝かせられなかった夜を思い出して自分を責めてしまう人ほど、この言い換えは効きます。
保護者の関わり方について、日本吃音・流暢性障害学会は、心配そうな表情をせずに、子どもが楽しくおしゃべりを続けられるように話の内容に耳を傾けてほしい、と書いています。そして、昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流だったが、今はその考え方は否定されているとも明記し、親子で吃音について話ができる関係づくりを勧めています。慶應義塾大学病院の解説も、確実な治療法はまだないとしたうえで、どの年齢にも共通して言えることは、吃音が生じたとしても安心して話せる環境を作ることだとしています。
相談先としては、言語聴覚士——ことばや聞こえに困りごとのある方への指導や支援を行う国家資格の専門職です——が挙げられています。養成課程の中に吃音が含まれ、吃音のある方の指導・支援の中核を担う存在として役割が期待されています。ただし業務が多岐にわたるため、必ずしもすべての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではありません。多くは病院のリハビリテーション科や耳鼻咽喉科などに勤めているので、希望する場合はあらかじめ病院などに直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県の言語聴覚士会に尋ねるようすすめられています。学齢期のお子さんの場合は、学校のことばの教室が窓口になります。大人の当事者どうしが集まるセルフヘルプグループ(自助グループ)についても、専門的な指導が受けられる場ではないと断ったうえで、同じ問題を持つ仲間と出会えること自体に、そこでしか得られないものがあると書かれています。
次のようなときは、生活習慣の見直しだけで抱え込まず、相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。
- どもりの増減が気になって、毎日の眠りや過ごし方を採点するようになってきた
- 本人が話す場面を避け始めている、または話すこと自体を嫌がるようになった
- 夜に眠れない状態が続いていて、日中の様子にも影響が出ている
この3つは相談を考えるきっかけとして一般的に挙げられるもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。眠りそのものの相談先は吃音の相談先とは限らないので、睡眠が続けて乱れているときは小児科や内科など、体の側の相談先も考えてください。
「寝不足のせい」で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「よく寝れば治る」と読み替える
睡眠の障害が一緒に見つかりやすいという結果は、睡眠を整えれば吃音が減るという意味ではありません。原典自身が、データから因果は仮定できないとしたうえで、関連が生じうる五つの道筋を並べています。しかも吃音そのものについて、確実な治療法はまだないと大学病院の解説は書いています。睡眠を整えることは体にとって大切ですが、それを吃音の治療として期待すると、うまくいかなかったときに「足りなかった」という結論だけが残ります。
落とし穴2 − 「寝かせなかった自分のせいだ」と決める
親の接し方や愛情不足を原因とする説は、学会が最も問題のある間違った原因論として名指しで否定しています。生活習慣もこの延長線上に置かれやすいところです。そもそも波は、いつ良くなり、いつ悪くなるのかが本人にも分からないものだと、当事者でもある医師が書いています。原因を自分の中に探し始めると、探すこと自体が止まらなくなります。子どもの吃音に向き合う親の気持ちについては、子どもの吃音にイライラする親へのほうでも扱っています。
落とし穴3 − 一日の出方で、良くなった・悪くなったを判断する
調子の良い状態や悪い状態が数週間から数か月続く人も多いとされています。一日単位で見ていると、波の中の位置が見えないまま、その日の出来事に理由を求めることになります。出やすかった場面、寝た時間、疲れ具合を、評価ではなく記録として書き留めておくと、相談のときに渡せる材料になります。「悪化した」ではなく「増えた」と書いておくのが、あとで読み返すときにも効きます。
よくある質問
寝不足だと吃音はひどくなりますか?
寝不足と吃音の出方を直接測って結びつけた研究は、この記事の材料の中にはありません。分かっているのは、吃音の出方が日や時期で変わること自体は「波」として説明されていること、そして症状の重さが日・週・月の単位で変わるとレビューが述べていることです。この記事で紹介した当事者の記録の中にも、その日の体調や睡眠不足で出方が変わる気がすると語る人がいます。ただし、そう感じることと、寝不足が原因であることは別です。
よく眠れば吃音は治りますか?
そう言える根拠はありません。睡眠の障害が吃音のある人に一緒に見つかりやすいという結果はありますが、その研究自身が、データから因果は仮定できないと明記しています。吃音そのものについても、確実な治療法はまだないとされています。睡眠を整えることは体のために大切ですが、吃音の治療として位置づけられているものではありません。
吃音と睡眠時無呼吸症候群は関係がありますか?
手元の材料では答えられません。診療記録を大規模に調べた研究では、睡眠の障害全体は吃音のある側に多く現れた一方、睡眠時無呼吸の記録は38人、そのうち閉塞性のものは28人で、どちらも統計の基準には届きませんでした。同じ研究は、基準に届かないことは「関係が無い」ではなく「判定できない」という意味だと注意しています。気になる症状があるときは、吃音とは別に、いびきや日中の眠気として医療機関に相談してください。
子どもが疲れている日にどもりが増えます。生活を見直したほうがいいですか?
生活を整えること自体は悪いことではありませんが、どもりを減らす手段としてではなく、体調の話として考えるほうが安全です。子どもの吃音が、その場の状態で動くことは実験でも記録されていますが、著者たち自身が、その状態はどもった結果かもしれないと但し書きを置いています。学会は、親の接し方を原因とする説を否定したうえで、心配そうな表情をせずに話の内容に耳を傾けることを勧めています。
調子の波は、どのくらいの長さで変わりますか?
調子が良い状態、あるいは悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多いとされています。一日の中でも、日をまたいでも変わるという記述もあります。なぜそうなるのかについては、解明がほとんど進んでいない部分だと、当事者でもある医師が書いています。短い期間の増減だけで判断せず、少し長い目で見るのが現実的です。
まとめ
- 「寝不足で吃音が増える」と直接確かめた研究は、この記事の材料の中には無い。書けるのは、出方が日や時期で変わること自体は「波」として説明されている、というところまで。
- その波がなぜ起きるのかは解明がほとんど進んでおらず、いつ良くなり悪くなるかは本人にも分からない、と当事者でもある医師が書いている。
- 睡眠の障害が一緒に見つかりやすいことは、診療記録の調査(確認された1,143人のうち572人を分析)で数えられている(睡眠の障害の記録は47人、対照群の再抽出では多くても42人)。ただし原典は、データから因果は仮定できないと明記し、五つの可能性を並べている。
- 睡眠時無呼吸については、同じ研究でも統計の基準に届いておらず、「関係が無い」ではなく「判定できない」と読むのが正確。
- 言い方を「悪化した」から「増えた」に変えること、話したい気持ちのほうを育てること、安心して話せる環境を作ることが勧められている。気になるときは言語聴覚士やことばの教室へ。