まず結論から
- 「お」だけが出てこない状態は、ことばが出せないまま間があいてしまう症状——「難発(ブロック)」と呼ばれるもの——に当たります。思春期以降は、この型が中心になるとされています。
- 苦手な単語や音がだいたい決まっていることは、吃音の性質の一つとして知られています。ただし、すべての人にとって難しい音というものは見つかっておらず、どの音が難しいかは一人ひとり大きく違います。
- 同じ「お」でも、日や場面によって出たり出なかったりします。歌うとき・2人で声を合わせるとき・独り言では、一時的に流暢になる人が多いとされます。
- 名前・社名・挨拶・号令など、言い換えのきかない言葉ほど困りやすい場面です。電話には電話リレーサービス、入試や面接には配慮を求める仕組みがあります。
ただし、どの音が出にくいか、どの場面で強く出るかは一人ひとり違い、ここに書いたことがそのまま当てはまるとは限りません。困りごとが続くときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。
「お」が出てこないとき、何が起きているのか
声そのものが出ないわけではない。言いたい言葉ははっきりしている。それなのに、最初の一音だけが外に出ていかない——この感覚は、経験のない人にはうまく伝わりません。まず、当事者自身の説明から見てみます。
大学4年生・福井春香さん(3歳の頃から吃音/NHK厚生文化事業団「第60回NHK障害福祉賞」受賞作)
私はその中でも、言葉が出にくく、言葉を発するまでに時間がかかってしまう「難発」という症状があります。想像しづらいと思いますが、言葉を出そうとするのに、言葉が喉で詰まってしまい、声として出てくれないような状態です。
また、吃音の症状には非常に大きな個人差があります。私の場合は、特に母音が出しにくく、また電話や人前での発表などで症状が強く出てしまいます。
高校三年生で初めて立ったスーパーのレジ。自分で希望して選んだ持ち場だったが、言わなければいけない定型文の一つがどうしても言えず、やがて割り振られるのは品出しばかりになった——本人が書き残しているのは、そういう順番の出来事です。電話では言葉が出ないまま沈黙が続き、相手に切られる。挨拶が声にならず、何度も注意される。就職活動では、初めての面接から七社連続で不合格が続いたといいます。ここで語られている「喉で詰まる」という感覚は、学会が吃音の中核症状の一つに挙げている、ことばが出ないまま間があいてしまう状態と重なります。
出典: 第60回NHK障害福祉賞ハートネット賞受賞作品「伝えられなかった言葉と、伝わった想い」(NHK厚生文化事業団)(台帳: V0155)
吃音(きつおん)は「どもること」とも呼ばれ、話し言葉がなめらかに出てこない発話障害です。学会は吃音に特徴的な中核症状として、音の繰り返し(連発。例「か、か、からす」)、引き伸ばし(伸発。例「かーーらす」)、ことばが出ないまま間があいてしまう難発(ブロック。例「・・・・からす」)の3つを挙げています。大学病院の解説では、連発の例として「お、お、お、お母さん」という「お」の並びがそのまま使われています。「お」が出てこないという状態は、この3つのうち難発に当たります。学会は、思春期以降になると、連発や伸発よりも難発が症状の中心になるとも述べています。
では、その数秒のあいだ体では何が起きているのか。近年の理論論文は、話し始めようとした瞬間に運動の仕組みが一時的に固まってしまう——危険を感じたときに体が固まるのと同じ種類の防御的な反応——という枠組みでこれを説明しています。ただし著者自身が、この説明の多くはまだ仮説の段階で、実証はこれからだと断っている点も添えておきます。
なぜ「お」なのか — 音そのものが決めているわけではない
「自分は『お』が苦手」という感覚は、多くの当事者が持っています。ではその「お」は、音として本質的に言いにくいのでしょうか。同じ一つの名前を、3つの言語で言い分けている人の話が、この問いのヒントになります。
情報学研究者・ドミニク・チェンさん(日本語・フランス語・英語を使う当事者/聞き手の伊藤亜紗さんも自身の吃音を語るインタビュー・WIRED.jp)
伊藤 いま、使う言語を変えるとどもりの状態は変わりますか。
チェン そうですね、ぼくは困ったことに自分の名前でどもるんですよ。日本語だと「ドミニク」でダ行の音は吃音が出やすいです。フランス語でも同様にどもりやすいです。ただ、英語だと、最初の[dα] のアクセントが強くなるので、この「ド」に勢いをつけて破裂させる感じにすると、どもらないです。だから英語だと自己紹介しやすいです。
生まれは日本、通ったのは東京のフランス人学校、十歳でパリへ移り、大学はロサンゼルス——チェンさんが日々使ってきた言語は、そのつど入れ替わってきました。同じ「ドミニク」という一つの名前が、日本語とフランス語では出にくく、英語では出る。本人はその差を、音そのものではなく、最初の音の勢いとイントネーションの違いとして説明しています。四月に着任したばかりの「早稲田大学」の「わせだ」が言いにくく、とりあえず「こんにちは」と言ってみる、という話も同じ流れで語られます。どの語で吃るかを何が決めているのかは、研究の側でもまだ一つに絞りきれていません。
出典: 「隠れ吃音」と付き合って生きていくということ──ドミニク・チェン+伊藤亜紗(WIRED.jp)(台帳: V0187)
特定の単語・音・行(カ行、タ行など)をより苦手とすること自体は、大学病院の解説が吃音の中核症状の性質の一つとして挙げているもので、「一貫性」と呼ばれます。つまり「自分は『お』が苦手だ」という実感は、気のせいではありません。問題は、そこから「『お』は誰にとっても言いにくい音だ」と言えるかどうかです。
どの語で吃りやすいかを扱った研究は古くからあり、これまでの研究をまとめた論文(総説)は、音・品詞・語の長さ・文中の位置といった要因を整理しています。そこで繰り返し指摘されてきたのは、どの音が難しいかは吃音のある大人ひとりひとりで大きく異なり、「すべての人にとって難しい音」というものは見つかっていない、ということです。総説は、個人差が大きいので、臨床では本人にどの音が言いにくいと感じるかを尋ねるのがよい、とも述べています。なお集団としてみると、子音で始まる語のほうが母音で始まる語より吃りやすいと報告されてきました。ただしこれは集団の傾向で、一人ひとりがその通りとは限りません。「あ行・お」のような母音で始まるから出にくい、という一般的な法則があるわけではありません。
近年のデータは、要因ごとに結果が分かれています。成人35人(大部分が英語を母語とする人たち)が英語の文章を音読したデータでは、どもった語は流暢に言えた語にくらべて語頭の音・語の長さ・品詞の点で偏りが見られた一方、古くからいわれてきた「文の出だし(節の最初の3語)でどもりやすい」という位置の偏りは見られませんでした。著者は、ある語で吃りが起きる確率は、言語的な要因よりも発話を運動としてつくり出す過程の要因に影響されていると解釈しています。さらに、就学前の子ども14人(平均3歳7か月)の親子会話を調べた研究では、次に来る語の音の複雑さは、その手前の語の繰り返しの起きやすさを予測する要因ではありませんでした。日本語の「あ行」「か行」といった仮名について調べた研究ではない点も、あわせて押さえておいてください。
同じ「お」でも、出る日と出ない日がある
「昨日は言えたのに今日は出てこない」。この落差は、本人にとっても説明がつきにくく、周りからは「気の持ちよう」と受け取られがちなところです。
当事者・Kayさん(千葉県出身・幼少期から吃音/NPO法人日本吃音協会のメディア「HAPPY FOX」への本人寄稿)
波を感じるようになった一番古い記憶は、中学生の時です。ひどい時の記憶は、数学の授業で、四則演算の順番を答える時のことです。「かっこ」という言葉が全く出てこなく、無力感を感じたのを強く覚えています。
一方で調子のいい時の記憶は、国語での音読の時のことです。「噛まずに音読できるまでエンドレスで段落読み」という、今振り返っても謎すぎる時間がありました。他の生徒でさえスラスラ読むのに苦戦していた中、一発でクリアして、周りに驚かれたことを覚えています。
同じ中学時代の、対になった二つの記憶です。数学の授業では「かっこ」の一語が出ず、国語の段落読みでは一度で通って周りに驚かれた。Kayさんは、症状の「波」を感じるようになった一番古い記憶として、この二つを並べて書いています。高校では友人から「女子と話すときはあんまり吃らないんだな」と茶化され、就職活動では面接官の人数や相手によって吃り具合が変わったとも書いています。学会の解説も、同じ人でも状況によって症状の出やすさが変わることを吃音の特徴として挙げています。
出典: 【体験談】なぜ、吃音の波があっていつ出てくるのか?(HAPPY FOX)(台帳: V0162)
歌を歌うとき、2人で声を合わせるとき、独り言を言うときなどは、一時的に流暢になる人が多いことが知られています。また、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月にわたって続くことがあり、こうした症状の上がり下がりが(調子の)「波」と呼ばれます。大学病院の解説は、この波に加えて、いったんどもった単語も一度言えてしまうとその後は言いやすくなる性質があることを挙げています。
なぜ場面でこれほど変わるのか。先ほどの理論論文は、話すという行為が、意識せずに進む自動的な処理と、意識して組み立てる処理の釣り合いの上に成り立っていると考えます。思わず出る声・独り言・決まりきったあいさつのようにほとんど自動で出る発話と、訓練で新しい話し方を試すときのように制御が強くかかる発話——そのどちらかに大きく振れると流暢になりやすい、という説明です。ですから「お」が出ない日があっても、それだけで「一生この音は言えない」と決まるわけではありません。
言い換えのきく言葉と、きかない言葉
苦手な音を避けるために、当事者は言葉を入れ替えます。ところが、入れ替えようのない言葉が生活の中には必ずあります。名前、社名、挨拶、そして号令です。
当事者・arisaさん(2歳の頃に発症・高校で部活の部長/NPO法人日本吃音協会のメディア「HAPPY FOX」への本人寄稿)
高校生時代の私はブロック(難発)の吃音に悩まされていました。
日常の挨拶や日直の号令、マニュアル対応などは、言い換えが難しいため吃音が出やすくなります。
特に母音(あいうえお)で始まる言葉はブロックが出やすく、「おはよう」「ありがとう」などよく使う言葉で言いにくさを感じていました。
私が最も苦労していたのは、部活の号令です。
部の号令「部員一同、礼!ありがとうございました。」は、arisaさんにとって置き換えのきかない言葉でした。部長に就任するまでは周りの部員と声を揃えて言っていたので詰まらず、一人で言う立場になって初めて壁になったと本人は書いています。以後、お辞儀のあとに毎回数秒の間があく号令が続きました。学会の解説は、どもらないための工夫として「ことばを言い換える」「最初に言いやすい言葉を持ってくる」を挙げていますが、文言が決まっている号令や挨拶では、その手が使えません。なお、2人で声を合わせると流暢になりやすいことは、学会も吃音の特徴として述べています。「母音で始まる言葉が出にくい」という部分は arisaさん自身の実感で、総説は逆に、集団としてみると子音で始まる語のほうが吃りやすいと整理しています。ただしこれは集団の傾向で、一人ひとりがその通りとは限りません。
出典: ブロックが酷い吃音があっても、私が部長を務められたわけ。(HAPPY FOX)(台帳: V0148)
言い換えは、学会が「どもらないための工夫」として挙げているもので、勧める方法として示されているわけではありません。学会は同時に、言い換えによって吃音は目立たなくなるものの、実際にはいつ吃音が出るかを警戒しながら日々を過ごすことになり、ストレスや悩みを抱えこみやすくなる面も指摘しています。大学病院の解説は、思春期以降に起こる変化として、話す前から「この言葉は吃音が出そうだ」と身構える状態——予期不安と呼ばれます——から、とっさの言い換え、さらに人前や電話を避ける回避行動へ進む道筋を示しています。学会も、学齢期に吃音を否定的にとらえる認識が育つと、難発が強まったり、言葉を言い換える工夫が増えたりして、吃音が重くなっていく流れ(吃音の進展)につながる場合があると述べています。工夫でしのぐことと、隠し続けて警戒し続けることは、分けて考えるほうが安全です。
避けるか、言い切るか — 当事者が自分で引いている線
言い換えも回避も、生活を回すための現実的な手です。ただ、避け続けているうちに、選べたはずの選択肢が生活から静かに消えていくことがあります。
支援学校教諭・掛田力哉さん(執筆時36歳/日本吃音臨床研究会「第16回ことば文学賞」受賞作)
ある日私はふと思い立って、学食の列に並び、大声で注文してみようと考えた。思い切りどもるかも知れない。それでも構わない。私は顔見知りの学生たちの列に並び、前から食べてみたかった「牛トロ丼」を注文することにした。順番が来る。「ぎゅぎゅ…牛トロ丼下さい!」少しどもったが何とか注文できた。誰も私のことなど見ていない。なあんだ、こんなに簡単な事だったのか。私の昼飯の問題は、ようやく解決した。
大学時代、掛田さんは学食で注文ができず、昼は毎日寮へ帰っていました。その寮で留学生たちと知り合い、勧められるままに英語を学び、アメリカへの交換留学に出ます。留学の終わり頃には英語でもどもるようになっていた、と本人は書いています。つまりこれは、吃音が消えた話ではありません。掛田さんは後年、大阪吃音教室で教わった、ありのままの自分でいてよいという考え方の基本を、その頃から少しずつ分かり始めていたのかもしれない、とも振り返っています。帰国後の学食に並んだのは、それでも一度注文してみようと自分で決めた列でした。学会の解説は、自助団体に参加して同じように吃音のある人と出会う経験が、吃音を否定的に見る気持ちが弱まるきっかけになる場合があると述べています。
出典: 第16回ことば文学賞~昼飯の問題~(日本吃音臨床研究会「吃音相談室」)(台帳: V0158)
日本には、当事者が体験を語り合い、互いに援助し合う自助団体が各地にあります。「言友会」は1965年発足で、日本の自助団体のなかでは最も歴史が古い団体です。近年では、若者向けの団体や、女性の集いを開く団体も新しく生まれています。自分ひとりが吃音なのではないと気づけること。それがこうした場の中心にあるとされています。なお、いったんどもった単語も一度言えてしまうとその後は言いやすくなる、という性質が知られていますが、これは症状の説明であって、無理に言い切ることを勧めるものではありません。
「滑舌が悪い」「早口」との見分け
特定の音が言えないと聞くと、「滑舌の問題では」と受け取られがちです。いわゆる滑舌の悪さと呼ばれる発音の問題(構音障害)は、学会の解説では、吃音に比較的多く併存する状態の一つとして、学習障害・注意欠如多動症・自閉スペクトラム症などと並べて挙げられています。つまり別の状態として区別されており、同時に見られることもある、という位置づけです。
もう一つ紛らわしいのが、早口になり、単語の途中の音が抜け(例:「ホッチキス」を「ホキ」と発音する)、話の順序が乱れる「クラタリング(早口言語症)」です。この状態は本人の自覚が乏しいことが多く、吃音だと思って受診する人の何割かはクラタリングだといわれています。見分けの手がかりの一つは注意の向け方で、「ゆっくり話そう」と症状に注意を向けると一時的に改善するのがクラタリング、吃音では一般に逆のことが多いとされています。
ここで注意したいのは、相談の場でこそ症状が出にくいことです。専門家の解説は、吃音のある子が相談の場では流暢に話せてしまい、「気にならない」と軽く見積もられる危険を指摘しています。同じ解説は、伴奏に合わせて歌ったり、2人で同じ言葉を言ったりする——外からタイミングが与えられる——場合に吃音が消えることから、吃音は発話のタイミングの障害といわれる、とも説明しています。自分の「お」が出ないのが、なめらかさの問題なのか発音の問題なのか、その両方なのかは見分けが難しいことがあるため、最終的な判断は言語聴覚士など専門家に委ねるのが安心です。
電話・面接・仕事 — 相談先と、使える公的な仕組み
「お」が出てこない状態が続いて気になるとき、また生活のしづらさがあるときの相談先は、吃音を専門的にみる言語聴覚士です。子どもの場合は、学校や地域のことばの教室の教員や、小児を扱う言語聴覚士に相談するとよいとされています。大人の場合、本人が治療を希望すれば、発話訓練を言語聴覚士から受けるという選択肢が示されています。訓練だけでは症状が改善しないときや、吃音への不安が強いときには、心理療法やカウンセリングが役に立つこともあるとされています。
困りやすい場面はあらかじめ分かっています。学会は、話しづらさを感じやすい場面として、中高生なら部活動や入学の面接、大学生ならゼミ発表や就職活動、社会人なら職場の電話応対を挙げています。だからこそ、一人でしのぐ前に使える仕組みを知っておく価値があります。
子どものころから始まる吃音(発達性吃音)は、発達障害者支援法(2005年施行)の対象に含まれます。そのうえで、吃音によってどんな困難があるかを説明した医師の診断書か意見書があれば精神障害者保健福祉手帳の交付を受けられます。重い吃音があり、音声言語だけでは家族以外の人と意思を伝えることが難しいと認定された場合は、身体障害者手帳の4級が交付されます。また、障害者差別解消法(2016年施行)によって、学校や職場で吃音を理由とする差別的な言動や扱いは禁止されています。発表や電話応対を免除してもらう、試験などで面接の時間を延ばしてもらうといった配慮——合理的配慮と呼ばれます——を求めることができます。ただし、そのときには医師の診断書、あるいは言語聴覚士の報告書を出すよう求められることがあります。
電話については、2021年から総務省が主体となって公共インフラの一つとなった「電話リレーサービス」を吃音のある人も使うことができ、困り感の軽減につながっていると報告されています。入試の面接でも、2024年に施行された改正障害者差別解消法によって私立の学校にも配慮の提供が義務化されており、事前に吃音があることを伝えておくと、「過重な負担」となる範囲を除いて、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕の確保といった配慮を受けられるとされています。就職面接では、手帳の取得によって障害者枠という選択肢も増えています。
「特定の音が言えない」で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「努力不足」「性格」のせいだと思い込む
「気合いが足りないから言えない」と自分を責める必要はありません。2000年頃以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究によって、環境の影響よりも、生まれつきの体質にかかわる要因が吃音の原因の大部分を占めると分かってきました。意志の弱さや性格の問題ではありません。
落とし穴2 − 避ける・隠すことだけに頼り続ける
言い換えや回避は日常の助けになりますが、いつ吃音が出るかを警戒し続けること自体が、ストレスや悩みにつながる面があります。相談窓口や制度という別の手が使えないかも、あわせて考えてみてください。
落とし穴3 − 一人で抱え込み、自己流だけで判断する
子どもの相談場面では、実際に話してみると思ったほど症状が出ず、「気にならないですね」と軽く見積もられやすいことが指摘されています。だからこそ、どんな音・どんな場面で出やすいか、調子の波はどうかを事前に記録しておくと、状況を伝えやすくなります。日々の発話の調子や、出やすい場面・出にくい場面を書き留めて「見える化」しておく手段の一つとして、アプリを使う方法もあります(アプリはあくまで記録・継続の支援であり、治療をうたうものではありません)。まずは小さく記録から始め、相談できる場合は言語聴覚士やことばの教室が最初の入口になります。
よくある質問
「お」が言えないのは吃音ですか?
音を出せないのではなく、最初の音がなかなか出ない・繰り返す・引き伸ばすといった、なめらかさのつまずきであれば、吃音の症状の可能性があります。ただし、発音そのものの問題やほかの状態のこともあるため、判断は言語聴覚士など専門家に相談するのが安心です。
どうして「お」だけ詰まりやすいのでしょうか?
特定の単語・音・行をより苦手とすること自体は、吃音の性質の一つとして挙げられています。ただし総説は、どの音が難しいかは吃音のある大人ひとりひとりで大きく異なり、すべての人にとって難しい音というものは見つかっていないと整理しています。英語の文章を音読した成人35人のデータでも、語頭の音・語の長さ・品詞では偏りが見られた一方、文の出だしという位置の偏りは見られず、吃りの起きやすさは言語的な要因よりも発話を運動としてつくり出す過程の要因に影響されていると解釈されています。就学前の子どもでは、次に来る語の音の複雑さがその手前の語の繰り返しを予測しなかったという報告もあり、「この音だから誰でも詰まる」と決まっているわけではありません。
苦手な音はずっと変わらないのですか?
同じとは限りません。吃音には調子の「波」があり、同じ音でも日や場面によって出たり出なかったりします。歌うときや、2人で声を合わせるとき、独り言のときには一時的に流暢になる人が多いことも知られています。調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月続くこともあります。
滑舌が悪いのと吃音は同じですか?
別の状態として区別されます。いわゆる滑舌の悪さと呼ばれる発音の問題(構音障害)は、吃音に併存しやすい状態の一つとして挙げられているもので、吃音そのものではありません。また、早口で単語の途中の音が抜けるクラタリング(早口言語症)と取り違えられることもあります。見分けが難しいときは専門家に相談してください。
電話や面接で言葉が出ないとき、使える仕組みはありますか?
あります。電話については、2021年から総務省が主体となり公共インフラの一つとなった「電話リレーサービス」を吃音のある人も使えるとされています。面接や試験では、事前に伝えておくことで時間的な余裕の確保などの配慮を求められ、2024年施行の改正障害者差別解消法により私立の学校にも配慮の提供が義務化されました。職場では、発表や電話応対を免除してもらうなどの配慮を求めることが認められています。
まとめ
- 「お」が出てこない状態は、ことばが出せないまま間があいてしまう難発(ブロック)に当たり、思春期以降はこの型が中心になるとされています。
- 苦手な単語や音がだいたい決まっていること自体は吃音の性質の一つですが、どの音が難しいかは一人ひとり大きく違い、すべての人にとって難しい音というものは見つかっていません。特定の音が誰にとっても苦手と決まっているわけではありません。なお成人の音読データでは、文の出だしでどもりやすいという位置の偏りは見られず、就学前の子どもでは、次に来る語の音の複雑さがその手前の語の繰り返しを予測しませんでした。
- 同じ「お」でも日や場面で出方が変わります。歌・声を合わせる・独り言では流暢になる人が多く、話し方の自動さと意識的な制御の釣り合いから場面差を説明する理論も出ています。
- 名前・挨拶・号令など言い換えのきかない言葉が残ります。電話リレーサービスや入試・職場での配慮という入口があり、まずは言語聴覚士やことばの教室に相談を。
