まず結論から
- 言葉に詰まったり言い直したりすること(専門的には「非流暢」と呼ばれます)は、日常会話では珍しいことではなく、100語あたり2〜26回という幅で報告されています。
- 研究で使われている言い淀みの種類は、繰り返し・引き伸ばし・言い直し・間(ま)・フィラー・言いかけてやめる・話し方以外の動きという7つのまとまりに整理されています。「えー」「あの」といったフィラーは、そのうちの1つです。
- 言語聴覚の分野では、誰にでも出る言い淀み(つなぎ言葉や句の言い直し)と、吃音らしい詰まり(音の繰り返し・引き伸ばし・ブロック)を分けて見るのが基本です。フィラーが多いことは、後者ではありません。
- 日本語は、ふつうに話すときでもつなぎ言葉を他の言語より多く使うため、海外で作られた判定の基準をそのまま当てはめると、実態より多く「早口言語症」と判定されてしまうことが指摘されています。
- 吃音のある人が、詰まりを避けるために自分からフィラーを入れることがあります。つまり「えー」の多さは、吃音が無い証拠にも、ある証拠にもなりません。
ただし、これは「聞けば区別できる」という意味ではありません。話し方の印象だけで見分けるやり方は専門家の間でも一致しにくいことが報告されており、だからこそ判断は言語聴覚士に委ねるのが安全です。この記事は、他人の話し方に診断名を当てるためのものではありません。
「えー」が多いのは、吃音の症状なのか
まず押さえておきたいのは、吃音のある人にとって「えー」は、出てしまうものではなく使うものであることがある、という点です。ある研究者は、自分で編み出した工夫としてそれを語っています。
当事者の声(情報学研究者・「見た目にはほとんど分からない隠れ吃音」と紹介されている/WIRED.jp の対談記事。聞き手も吃音当事者)
あとは、フィラーですかね。「えー」とか「あー」みたいな音をときおり入れることによって、自分のペースを回復したりとか、目前まで迫って来た「ブロック」を少し押しもどして時間かせぎする感じですね。最初の出だしがどもるときは、「えー」と入れることで滑りだしをよくする。
三つの言語を使って育った研究者が、聞き手(この対談の聞き手自身も吃音当事者です)に向かって、自分の回避のしかたを一つずつ挙げていく場面です。言語を切り替える、フィラーで時間を稼ぐ、詰まりそうな予感がしたら一拍おいて息を吸う——どれも訓練で教わったものではなく、本人が見つけた手だてとして語られています。ここで「えー」は、詰まりの症状ではなく、詰まりを迂回するための道具として使われています。研究の側から見ても、フィラーは吃音に固有のものではありません。
出典: 「隠れ吃音」と付き合って生きていくということ──ドミニク・チェン+伊藤亜紗(WIRED.jp)(台帳: V0187)
言い淀みを扱う研究は、言語聴覚の分野だけでなく、言語学や、音声を自動で認識する工学の分野にも広がっています。2000年から2023年までの69本を集めたレビューは、そこで使われている言い淀みの種類を7つのまとまり——繰り返し・引き伸ばし・言い直し・間・フィラー・言いかけてやめる・話し方以外の動き——に整理しました。
このレビューによれば、フィラーは呼び名こそ分野ごとに違う(間投詞、埋められた間、談話標識など)ものの、定義はおおむね一致しています。意味を運ばないが、話の組み立てを支える働きをする語や音——「えー」「あー」「あの」「なんか」といったもののことです。そして同じレビューは、言い淀み自体が日常会話でごくふつうに起きることであり、コミュニケーションを妨げたり、認知や言語の障害を示したりするものではないと述べています。
では、何が「吃音らしい詰まり」とされているのか
区別の線はどこに引かれているのでしょうか。当事者が自分の工夫を書いた記録には、その線の両側が同時に出てきます。
当事者の声(難発が主のタイプ・名義 nagy/個人ブログ note)
文頭に「はい」「えっと」「あの」といった言葉を添えることで、最初の一言を出そうという工夫もしていた。経験がある方ならお分かりいただけると思いますが、言いたい言葉を事前に変換してから話すというのはとてもストレスなんです。
「あ」行がいちばん言えず、次いで「か」行「た」行が言いにくかったという書き手が、職場での名乗りや電話応対を切り抜けてきたやり方を並べた一節です。「お電話ありがとうございます」の前に「はい」を置いて、その勢いで「お」につなげる——聞いている側には、丁寧な受け答えの口ぐせにしか聞こえません。本人はその先も書いています。頭の中で似た言葉に変換できても、実際には難発が出て一言目が言えないことがあった、と。外から聞こえるつなぎ言葉と、内側で起きている詰まりは、別の層にあるのです。この層の違いが、そのまま分類の線になっています。
出典: 感謝を伝えるはずが、謝罪に変わる。吃音と「言い換え」の矛盾した苦しさ(note)(台帳: V0147)
吃音の発達を扱った総説は、観察できる症状を吃音様非流暢性(吃音らしい詰まり)として、それ以外の言い淀みと区別することが有用だとしています。吃音様非流暢性に含まれるのは、音節や音の繰り返し、リズムの崩れた発声(ブロックや引き伸ばし)、そして語の途中で途切れること。一方、「えーと」「あー」のような挿入や、句の言い直しは、区別される側=その他の言い淀みに入ります。
専門家向けの公開資料も同じ線を引いています。誰にでも起きる言い淀みの例として挙げられているのは、「I um need to go home.」のような音や語の挿入、「Cookies cookies and milk.」のような語まるごとの繰り返し、句の繰り返し、言い直し、言いかけてやめること。吃音らしく見えるものの例は、「I w-w-want a drink」のような音や音節の繰り返し、1音節の語の繰り返し、「ssssssmoke」のような音の引き伸ばし、そして語を出す前に止まってしまうブロックです。
つまり、同じ「繰り返し」でも、語をまるごと繰り返すのか、語の一部や音を繰り返すのかで置かれる側が変わります。保護者が子どもの吃音の始まりに気づくきっかけとして最も多く挙げられるのも、音節や1音節の語の繰り返しだと整理されています。
話し方の印象では、そもそも分からない
もう一つ、区別を難しくしていることがあります。吃音のある人の多くは、詰まらずに済む言葉を選んで話しているため、聞いている側に何も起きていないように見えるのです。
当事者の声(美学の研究者・大学准教授/Yahoo!ニュース特集のインタビュー)
自分の中に“編集者”がいる感覚です。「Aというワードを使いたいけど、Aだと吃音が出て言えないから、同じような意味のBというワードを使いましょう」と。いつからか覚えていないくらい前から“言い換え”はあって、今はもう無意識でやっています。
物心ついたころから吃音と向き合ってきたという研究者が、今はあまり吃音が現れないと語ったあとに続けた言葉です。治ったのではなく、詰まりそうな単語を同じ意味の別の単語に置き換えている——その作業を、自分の中にいる「編集者」という言い方で説明しています。いつから始めたか覚えていないほど前からで、今は意識すらしていない。聞き手の耳には、言い換えたあとの言葉しか届きません。公開資料も、吃音のある人が周囲の受け止め方を気にして吃音を隠そうとすることや、詰まりやすい語や場面を避けることがあると述べています。
出典: 吃音を抱えてどう生きるか――「コミュ力」が強調される社会で(Yahoo!ニュース特集)(台帳: V0531)
同じ公開資料は、吃音の現れ方が日によって変わることも挙げています。楽に話せる日もあれば、詰まる日もある。焦りや緊張、人混みや電話といった場面が、詰まりを増やす方向に働くこともあります。ある日ある場面で聞いた話し方は、その人の話し方の全体ではありません。
研究の側でも、話す場面によって言い淀みの出方が変わることは前提になっています。言い淀みの生じやすさは話し手の特徴と課題の重さの両方に左右され、筋道の込み入った話を組み立て直すような、頭を多く使う課題ほど言い淀みが増えると整理されています。
気づかれないことと、困っていないことは違う
言い換えがうまくいけば、周りは気づきません。ただ、それは本人が楽になったという意味ではありませんでした。
当事者の声(高校の理科教員・教員歴15年以上/個人ブログ note の連載)
苦手な言葉の「言い換え」を多用していたため、友人同士の会話でもほとんど吃音に気づかれることは無くなりました。それでも、自分の名前などの固有名詞は言い換えがきかないので、かなり不安に感じていました。
保育園の誕生会で「はい」が出ずにピアノの下に隠れ、小学校の代表者会議では意見を求められて言葉が出なかった——そんな場面を積み重ねてきた書き手が、中学時代を振り返った一節です。日常会話は言い換えでしのげるようになった一方、自分の名前だけはどうにもならない。その不安は、のちにピアノの発表会の司会で演奏者の名前が出てこないという形で現実になります。気づかれなくなったことと、困りごとが減ったことは、別の話でした。公開資料も、詰まりを避けるために語や場面を避けること自体が、吃音の現れ方の一部として挙げられています。
出典: 吃音せんせいVol.1:自己紹介(note)(台帳: V0142)
だからこそ、言語聴覚士が確かめるのは詰まりの回数だけではありません。公開資料によれば、検査では言い淀みの種類(誰にでも起きるものか、吃音らしいものか)、吃音らしい詰まりの数、詰まったときに本人がどう反応するか、話す速さを本人がどう直そうとしているかが確認されます。困りごとの大きさは、外から数えた回数には表れないからです。
早口とのちがい — クラタリング(早口言語症)という別のもの
「つなぎ言葉が多い」「話が速い」という印象から連想されるものには、吃音のほかにもう一つ、クラタリング(早口言語症)と呼ばれる状態があります。速く不規則な話し方を特徴とする、吃音とは別の状態です。公開資料は、その現れ方として、速い話し方、「uh」「um」のような吃音らしくない言い淀みが多いこと、思いがけないところで間があくこと、語の中の音を極端に強く言うことを挙げています。
ここで日本語に固有の問題が出てきます。クラタリングの判定には、誰にでも起きる言い淀みが、吃音らしい詰まりの何倍あるかという比率が使われてきました。ところが日本語は、ふつうに話すときでもつなぎ言葉を他の言語より多く使うため、この比率が実際より高く出てしまいます。海外で作られた基準をそのまま当てはめると、多くの人が過剰にクラタリングと判定されてしまうことが指摘されてきました。
この問題に、日本語を話す人で正面から取り組んだ研究があります。慶應義塾大学病院を話しにくさを主訴として受診した32人を対象に、吃音検査法の録音から二つの数値を計算したものです。一つは上に挙げた言い淀みの比率、もう一つは詰まりや間を除いた部分の話す速さ(1秒あたりのモーラ数)です。
結果はこうでした。32人のうち12人(38%)がクラタリング、20人が吃音と診断されました。自由に話す課題では、話す速さの中央値はクラタリングの群が8.7、吃音の群が7.0で、統計的にはっきり差がありました。音読の課題では、どちらの数値にも差は出ませんでした。著者らは、クラタリングの症状の土台には言葉を組み立てる段階の問題があると考えられるため、組み立てを必要としない音読では差が出にくいのだと説明しています。
そして、自由に話す課題の比率が1.2を超え、かつ話す速さが7.5を超えることを暫定の基準にすると、専門家の診断を正解としたときの感度が0.92、特異度が0.95になったと報告されています。ただし著者ら自身が、この基準にはまだ限界があると明記しています。比較したのは吃音のある人との間であって、詰まりのない話し手との比較ではないこと、日本語で流暢に話す人の話す速さのデータがそもそも無いこと、したがって今回の値は予備的なものだということです。
読者にとって大事なのは、この基準の数字そのものではありません。専門家でも、録音を取って数えないと分けられないという事実のほうです。同じ研究は、話し方の印象による判定は専門家どうしでも一致しにくいと述べています。
気になったら、どこに相談するか
自分の話し方が気になって、この記事にたどり着いた方もいると思います。相談先として名前が挙がるのは言語聴覚士で、子どもの場合は学校や地域のことばの教室も窓口になります。公開資料は、子どもについて次のようなときに言語聴覚士への相談を考えるよう挙げています。
- 吃音が6〜12か月以上続いている
- 始まったのが3歳半より後である
- 詰まる頻度が増えてきた
- 話すときに体に力が入る、もがくような様子がある
- 話すことを避ける、話すのが大変すぎると言う
これは子どもについての目安です。大人の場合も、話しにくさで日常や仕事に支障が出ているなら、続いた期間にかかわらず相談して構いません。
支援の中身は、学校・職場・さまざまな場面でより楽に話せるようにすることに置かれ、名乗ること、電話をかけること、飲食店で注文することといった、不安の強い場面への対応も含まれます。
そして、周りの人ができる最も大きなことは、どう話しているかではなく、何を話しているかに耳を傾けることだとされています。言葉を先回りして言ってしまう、急かすような表情を見せる、話し方に注意を向けさせる——こうした周囲の行動は、詰まりを増やす方向に働くものとして挙げられています。
つなぎ言葉から吃音を考えるときの3つの落とし穴
落とし穴1 − 動画や配信の話し方を見て、その人の状態を決めてしまう
話し方の印象による判定は、専門家どうしでも一致しにくいことが報告されています。しかも吃音のある人の多くは詰まりそうな語を避けて話しており、詰まりは外から見えないことがあります。画面越しに聞いた数分の話し方は、その人の話し方の全体でも、診断の材料でもありません。本人が自分について語っていないことを、他人が推し量って当てはめる必要はありません。
落とし穴2 − 「えー」が多い=吃音、流暢に話せる=吃音ではない、と読む
フィラーは言い淀みの7つのまとまりのうちの1つで、日常会話にふつうに現れます。分類の上でも、つなぎ言葉の挿入は「吃音らしい詰まり」の側ではなく、区別される側に置かれます。逆に、吃音のある人が詰まりを避けるために自分からフィラーを入れることもあります。どちらの向きにも、つなぎ言葉の多さは手がかりになりません。
落とし穴3 − 言葉の食い違いを、自分の理解不足だと思ってしまう
調べていると、同じ現象に別の名前が付いていたり、同じ名前が別の現象を指していたりすることに気づくと思います。これは読む側の問題ではありません。69本の研究を集めたレビューは、言い淀みの種類として155の下位分類と368通りの定義が使われており、分野をまたぐと用語も定義も揃っていないことを、この分野の課題として挙げています。用語が揃っていないのは、読者ではなく研究の側の現在地です。
気になる話し方が自分自身のものなら、いつ・どんな場面で出やすいかを書き留めておくと、相談のときに役立ちます。まずは気づいたことを記録することから小さく始め、困りごとが続くようなら言語聴覚士やことばの教室に相談するのが確実です。
よくある質問
「えー」「あの」が多いのは吃音ですか?
それだけでは判断できません。「えー」「あの」のようなフィラーは、言い淀みを整理した7つのまとまりのうちの1つで、日常会話にふつうに現れるものとされています。吃音らしい詰まりとして区別されているのは、音や音節の繰り返し、音の引き伸ばし、語を出す前に止まってしまうブロックのほうです。
フィラーと吃音は、どう見分けるのですか?
専門家は、言い淀みの種類(誰にでも起きるものか、吃音らしいものか)、吃音らしい詰まりの数、詰まったときの本人の反応、話す速さを本人がどう直そうとしているか、を合わせて確認するとされています。逆に言えば、聞いた印象だけで分けるやり方は専門家どうしでも一致しにくいことが報告されています。
吃音のある人が、わざと「えー」を入れることはありますか?
あります。この記事で引いた当事者は、フィラーを入れて自分のペースを取り戻したり、詰まりそうな出だしの滑りをよくしたりしていると語っています。詰まりやすい語や場面を避ける、別の語に言い換えるといった工夫も、吃音のある人に見られるものとして公開資料に挙げられています。
話すのが速くてつなぎ言葉が多いのは、クラタリング(早口言語症)ですか?
クラタリングは速く不規則な話し方を特徴とする、吃音とは別の状態です。ただし日本語はふつうに話すときもつなぎ言葉が多いため、海外の基準をそのまま当てはめると過剰に判定されることが指摘されています。日本語話者を対象にした研究では、自由に話す課題での言い淀みの比率と話す速さを組み合わせた暫定の基準が示されていますが、著者ら自身が予備的な結果だと述べています。
資料によって言い淀みの呼び方が違うのはなぜですか?
言い淀みは言語聴覚だけでなく言語学や工学でも研究されており、分野ごとに関心が違うためです。69本を集めたレビューでは、155の下位分類と368通りの定義が使われており、用語と定義が分野をまたいで揃っていないことが課題として挙げられています。また既存の枠組みの多くは英語を前提に作られており、英語以外の言語に当てはめた研究は29%にとどまるとも報告されています。
まとめ
- 言い淀みは日常会話にふつうに起きるもので、100語あたり2〜26回という幅で報告されている。
- 研究で使われる言い淀みの種類は7つのまとまりに整理され、「えー」「あの」などのフィラーはそのうちの1つ。吃音らしい詰まりとして区別されるのは、音や音節の繰り返し・引き伸ばし・ブロックのほう。
- 吃音のある人が、詰まりを避けるために自分からフィラーを入れたり、言い換えたりすることがある。だから外から聞こえる話し方は、判断の材料にならない。
- 日本語はふつうに話すときもつなぎ言葉が多く、海外の基準をそのまま当てると早口言語症と過剰に判定される。日本語話者を対象にした暫定の基準が示されているが、著者ら自身が予備的な結果としている。
- 話しにくさで困っているなら、続いた期間にかかわらず言語聴覚士やことばの教室へ。周りの人ができる最も大きなことは、どう話すかではなく何を話すかに耳を傾けること。