まず結論から
- 吃音は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害と定義され、国際疾病分類(ICD-10・WHO)にもとづいて、流暢性を乱す話し方として位置づけられています。
- 中核症状は連発・伸発・難発(ブロック)の3つで、このうち1つ以上が見られることをいいます。ここまでは多くの資料が一致しています。
- 定義に含まれるのは症状の形だけではありません。一貫性(特定の音や行が苦手)、波現象(出やすい時期と出づらい時期がある)、適応効果(一度言えるとその後は言いやすい)、随伴症状(話すときに首や手足が動く)という性質も挙げられています。
- 分類は2つ。低年齢から始まる発達性吃音と、それ以外の獲得性吃音で、9割以上は発達性です。獲得性はさらに、脳の病気の後遺症として生じる神経原性と、心的ストレスによる心因性に分かれます。
- よく似た別のものにクラタリング(早口言語症)があります。吃音だと思って受診する人の何割かはクラタリングだと言われています。
ただし、これらの名前は状態を整理するための区切りであって、一人の話し方がどれか一つの箱にきれいに入るとは限りません。吃音とクラタリングが重なる場合もありますし、症状の出方は同じ人の中でも時期によって動きます。名前が付くことで見通しは立てやすくなりますが、名前が困りごとの大きさを決めるわけではありません。
「落ち着いて」「ゆっくり話して」では解けない
定義を当事者の言葉で聞くと、資料の箇条書きよりも輪郭がはっきりします。吃音を説明する文章を、本人がこう書き起こしています。
物心ついた頃から吃音のある男性(NHK障害福祉賞の最優秀作品として全文が公開されている手記)
吃音とは、昔は「どもり」と呼ばれていた、スムーズに話せない障害で、「たたたまご」のように言葉が連続して出てしまったり、「たーまご」と伸びてしまったり、「……たまご」と、そもそも声が出て来ない症状(ブロック)が代表的です。これは、わざとやっているわけではありませんし、緊張や早口とも直接は関係がありません。こういうふうに説明しないと分かってもらえませんし、説明しても、「落ち着いて」、「ゆっくり話して」と言われることが少なくありません。そういう問題じゃありません。落ち着いていても、ゆっくり話しても、吃(ども)る時は吃るんです。
「たまご」という一語で3つの症状を並べたあと、書き手は続けて2つの否定を置いています。わざとではないこと、そして緊張や早口とも直接は関係がないこと。そのうえで、説明しても「落ち着いて」「ゆっくり話して」と返ってくる、と書きます。この一文が示しているのは、吃音の定義が「話し方の乱れ」だけでは足りないということです。話す速さや落ち着きを調整すれば解ける問題なら、そう返す人が正しいことになる。けれども実際には、落ち着いていても、ゆっくり話しても出るときは出る。公的な資料が3つの症状を並べているのは、この「本人がコントロールできない出方」を指し示すためです。
出典: 第52回NHK障害福祉賞 最優秀作品「ことばを取り戻す」(NHK厚生文化事業団)(台帳: V0113)
資料の側の定義を並べておきます。吃音は話し言葉が滑らかに出ない発話障害のひとつで、なめらかに出ない話し方(非流暢といいます)のうち吃音に特徴的なのは、次の3つのどれか1つ以上が見られることだとされています。音のくりかえし(連発。例「か、か、からす」)、引き伸ばし(伸発。例「かーーらす」)、ことばを出せずに間があいてしまう難発・ブロック(例「・・・・からす」)。こうした、発話の流暢性(滑らかさ・リズミカルな流れ)を乱す話し方を吃音と定義している、という書き方です。
大学病院の解説は、この3つに加えて、中核症状がもつ性質を4つ挙げています。一貫性——特定の単語、音、行(カ行、タ行など)をより苦手とすること。波現象——症状が出やすい時期と、出づらい時期があること。適応効果——どもった単語を一度言えてしまうと、その後は言いやすくなること。随伴症状——話すときに、首や手足が動いてしまうこと。このほか、斉読(だれかと一緒に読む)、歌、ひとりごとではどもりにくいという特徴も挙げられています。「落ち着けば直る」という理解が合わないのは、この一覧を見れば分かります。並んでいるのは、意志の強さではなく条件のほうです。
最初の音が出ない、という状態
3つのうち、外からいちばん分かりにくいのが難発(ブロック)です。声が出ていないので、言いよどんでいるようにも、黙っているようにも見えます。5歳のときの場面を書き残した記録があります。
幼いときから吃音のある女性(吃音のある人の就労支援に携わる立場から、Webメディアに寄せた手記)
保育園に通っていたとき、蝶が苦手だったので、蝶がいるから教室に入れないことを先生に伝えに行ったのに「蝶々の“ちょ”」が全く出てこなくてなかなか伝えられなかったことが、印象に残っています。
このとき、初めて“声が出ない”ことへの違和感を持ちました。そして先生が心配そうに見つめる表情に、「私はおかしいのかな?」と恥ずかしさにもかられました。
伝えたいことははっきりしています。蝶がいるから教室に入れない。言うべき言葉も決まっていて、頭の中にあります。それでも「ちょ」が出ない。ここで起きているのは、言いたいことが浮かばないことでも、言うのをためらうことでもありません。同じ手記の別の箇所では、音読で当てられたときに読む場所が分からないのではなく、分かっているのに肝心な声が出てこない、とも書かれています。難発という言葉が指しているのは、この状態です。定義の側でも、ことばを出せずに間があいてしまう症状として、連発・伸発と並べて挙げられています。
出典: 吃音に悩みながらも自分らしくいられる仕事に就職。宮脇愛実さんが伝えたいこと(soar)(台帳: V0111)
症状の内訳は、年齢によっても変わります。発症から半年以内の幼児と、吃音のない対照児の発話を録音してなめらかに出なかった箇所を数えた研究では、吃音のある子で最も多かったのは語の一部の繰り返しで、次いで1音節の語の繰り返し、そして声の途切れ(ブロックや引き伸ばし)の順でした。吃音のある子は1回あたりの繰り返し回数が多いだけでなく、音響分析では繰り返しの間隔が短い、つまり速いという違いもありました。一方、句(ひとまとまりの言い回し)の繰り返しは、ふつうの言いよどみとして扱われるのが一般的だとされています。つまり「繰り返せば吃音」ではなく、何をどう繰り返すかで区別されています。そして思春期以降になると、症状は連発や伸発よりも難発が中心になっていくとされています。
条件が変われば、出方が変わる
定義の中で見落とされやすいのが、症状が条件に左右されるという点です。同じ人が、場面によってまったく違う出方をします。短期の職場体験に行った当事者の記録が、その条件をはっきり示しています。
幼少期から吃音のある当事者(旅先で短期のアルバイトができるサービスを使い、旅館で1泊2日働いた記録)
マニュアルの読み合わせをしたり、案内のやり方を練習したりするなかで、やっぱり 吃音は出ました 。
マニュアルが決まっているので、言いやすい言葉に置き換えることは難しく、そこが難点でした。指導していただいた方からは、「言葉が詰まるのはあまりよくない、お客様が違和感というかどうした?ってなってしまうので、そこを頑張ってほしい」とのコメントでした。
ここで書き手が挙げている条件は一つです。マニュアルが決まっているので、言いやすい言葉に置き換えられない。裏を返せば、置き換えられる場面では症状が表に出にくいということでもあります。同じ記事の別の箇所では、吃音は知らない状況、苦手な状況のときに起こりやすくなると本人が述べ、だから情報を集めて自分が動きやすい環境をつくることを意識している、と書いています。症状の量が同じでも、条件が違えば見え方が変わる。定義の側でも、特定の音や行を苦手とする一貫性と、出やすい時期・出づらい時期という波現象が、性質として挙げられています。
出典: 【職場体験】吃音者が旅館で働いて得たもの(HAPPY FOX・日本吃音協会)(台帳: V0118)
この「見え方が変わる」ことは、症状を隠す工夫によっても起こります。学会の解説は、どもらないための工夫として、ことばを言い換える、言いやすい言葉を最初に言うといった方法を挙げ、吃音があることを隠そうとして発話を避けるための工夫をすることもある、と書いています。この場合、吃音は目立たなくなる一方で、実際には吃音が出ないかを日々警戒しながら生活しているため、ストレスや悩みを抱え込みやすくなるとされています。定義を症状の量だけで考えると、この層がまるごと見えなくなります。
発達性と獲得性 — 2つの分類
吃音は、発症の背景によって2つに分類されます。低年齢から発症する発達性吃音(診断の場では小児期発症流暢症とも呼ばれます)と、それ以外の獲得性吃音です。吃音の9割以上は発達性吃音だとされています。
発達性吃音の特徴として挙げられているのは、幼児が2語文以上の複雑な発話を開始する時期に起きやすいこと、幼児期(2〜5歳)に発症する場合がほとんどであること(小学校以降に発症することもあります)、男女比は4対1くらいで男性に多いが幼児期は男女差があまりないこと、などです。
獲得性吃音は、さらに2つに分かれます。神経学的疾患や脳損傷などにより発症する獲得性神経原性吃音と、心的なストレスや外傷体験に続いて生じる獲得性心因性吃音です。どちらも発症時期は青年以降(10代後半から)とされています。症状は発達性吃音と基本的に同じですが、波現象が少ないなど少し特徴が異なる、とも説明されています。
よく似た別のもの — クラタリング(早口言語症)
吃音と症状が似ていて、特徴の異なる発話流暢性障害にクラタリング(早口言語症)があります。挙げられている特徴は、早口であること、単語の途中の音を省略してしまう「言葉の折り畳み」(例:「ホッチキス」を「ホキ」と発音する)、「えーと」などの挿入や言い直しが多いこと、そして文の中の語順や話す内容の順序があべこべで、まとまりがないように話してしまうことがあること、です。
区別が難しい理由も書かれています。クラタリングに特徴的な症状には、本人の自覚が少ないことが多いのです。そのため自分の症状を「吃音だ」と勘違いすることがあり、実際、吃音だと思って受診する人の何割かはクラタリングだと言われています。
見分けの手がかりになる違いも一つ挙げられています。クラタリングは「ゆっくり話そう」「落ち着いて話そう」と症状に注意を向けることで、一時的に改善することがある。吃音では一般的に逆のことが多い、とされています。この記事の最初に引いた当事者の文章が「落ち着いていても、ゆっくり話しても、吃る時は吃るんです」と書いていたことと、ちょうど対になっています。
定義を読むときの3つの落とし穴
落とし穴1 − 症状の量だけで「軽い・重い」を判断する
言い換えや回避によって、吃音は目立たなくなることがあります。その場合でも、吃音が出ないかを日々警戒しながら生活しているため、ストレスや悩みを抱え込みやすくなるとされています。出ている量と困っている大きさは、別々に動きます。定義の一覧を、重症度の物差しとして使わないことです。
落とし穴2 − 「繰り返し」があれば吃音だと考える
誰にでも言いよどみはあります。発症直後の幼児を調べた研究では、吃音のある子で多かったのは語の一部の繰り返しと1音節の語の繰り返しで、繰り返しの回数が多く、間隔が短い(速い)という違いもありました。一方、句の繰り返しはふつうの言いよどみとして扱われるのが一般的だとされています。何をどう繰り返すかで区別されています。
落とし穴3 − 名前が一つに決まると思い込む
吃音とクラタリングは症状が似ており、吃音だと思って受診する人の何割かはクラタリングだとされています。またクラタリングは本人の自覚が少ないことが多いとも書かれています。獲得性吃音のように、発症時期から分類されるものもあります。自分で名前を確定させるより、記録を持って専門職に相談するほうが早く進みます。
どこへ相談すればよいか、どんな支援があるかは 吃音とは何かをまとめた記事 に整理しています。原因については 吃音の原因をまとめた記事 をご覧ください。
よくある質問
吃音の定義を、ひとことで言うと何ですか?
話し言葉が滑らかに出ない発話障害のひとつで、音のくりかえし(連発)、引き伸ばし(伸発)、ことばを出せずに間があいてしまう難発(ブロック)のうち、1つ以上が見られる状態を指します。この「発話の流暢性を乱す話し方」を吃音と定義しており、国際疾病分類(ICD-10・WHO)にもとづくとされています。
「吃音症」と「吃音」は違うものですか?
指しているものは同じです。診断の場では、低年齢から発症するものを発達性吃音、あるいは小児期発症流暢症と呼びます。「どもり」は昔からの呼び方で、当事者自身も自分の説明の中でその語に触れることがあります。医療機関の解説では、吃音とクラタリングをまとめて発話流暢性障害と呼んでいます。
大人になってから始まったものも吃音ですか?
獲得性吃音という分類があります。神経学的疾患や脳損傷などによる獲得性神経原性吃音と、心的なストレスや外傷体験に続いて生じる獲得性心因性吃音に分かれ、どちらも発症時期は青年以降(10代後半から)とされています。症状は発達性吃音と基本的に同じですが、波現象が少ないなど特徴が少し異なるとされています。吃音全体の9割以上は発達性です。
日によって症状が違うのですが、これも吃音ですか?
出方が変わることは、吃音の性質として挙げられています。症状が出やすい時期と出づらい時期がある「波現象」、特定の単語・音・行をより苦手とする「一貫性」、一度言えるとその後は言いやすくなる「適応効果」です。また、斉読(だれかと一緒に読む)、歌、ひとりごとではどもりにくいという特徴もあります。
クラタリングとの違いは何ですか?
クラタリング(早口言語症)は、早口、単語の途中の音を省略する「言葉の折り畳み」(「ホッチキス」を「ホキ」など)、「えーと」の挿入や言い直しが多いこと、語順や話す順序がまとまりにくいことが特徴です。本人の自覚が少ないことが多く、吃音だと思って受診する人の何割かはクラタリングだと言われています。「ゆっくり話そう」と注意を向けると一時的に改善することがある点も、吃音とは逆だとされています。
まとめ
- 吃音は話し言葉が滑らかに出ない発話障害で、連発・伸発・難発(ブロック)のうち1つ以上が見られることをいう。国際疾病分類にもとづく定義とされている。
- 定義には症状の性質も含まれる。一貫性・波現象・適応効果・随伴症状、そして斉読や歌ではどもりにくいこと。「落ち着けば直る」という理解が合わないのはこのため。
- 分類は発達性と獲得性。9割以上は発達性で、獲得性は神経原性と心因性に分かれ、どちらも発症は青年以降。
- 「繰り返し」があれば吃音というわけではない。発症直後の幼児では語の一部の繰り返しが最も多く、回数が多く間隔が短い。句の繰り返しはふつうの言いよどみとして扱われる。
- よく似た別のものにクラタリングがある。本人の自覚が少ないことが多く、吃音だと思って受診する人の何割かはクラタリングだとされる。
