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吃音は母親から遺伝する?|父母どちらからかは未確定・自責の手放し方・今できること

吃音は母親から遺伝する?|父母どちらからかは未確定・自責の手放し方・今できること
目次

「吃音は母親から遺伝するの?」「もしかして、私の体質を子どもに受け継がせてしまったのでは……」——お子さんの吃音について調べるうちに、遺伝、とくに「母親としての自分」にたどり着いて、胸が苦しくなってしまう方は少なくありません。

この記事では、吃音に遺伝がどこまで関わるのかを家族研究・双子研究・遺伝子研究の到達点から整理し、「母方・父方どちらから遺伝しやすいのか」という数字をどう受け止めればよいか、そして「母親のせいではない」と言える理由までを、研究の出典つきで説明します。むずかしい言葉はそのつどかみくだきます。

ソンタクマン
ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室にご相談ください。

まず結論:吃音に遺伝は関わるが、「母親のせい」ではない

先に大事なところをお伝えします。吃音には遺伝的な要因が関わることが、長年の研究で繰り返し支持されてきました。一方で、研究の歴史は「親(とくに母親)の関わり方が原因」という心理社会的な説明から、遺伝子を調べる生物学的な研究へと移ってきました。つまり、「遺伝が関わること」と「母親の育て方のせいであること」は、まったく別の話です。この記事では、その2つを混同しないように分けて説明していきます。

また吃音(音の繰り返し・引き伸ばし・言葉が出ずに間があく話し方の障害)は、幼児・児童期に始まる発達性吃音がほとんどで、その大半は自然に軽くなったり消えたりすることも分かっています。「遺伝するかどうか」だけで先々が決まるわけではありません。

そもそも吃音は遺伝するの? — 家族研究と双子研究が示すこと

吃音の遺伝研究は、「血縁者に吃音のある人がどれくらいいるか」を数える家族研究から始まりました。これまでに、家族性の吃音(親やきょうだいなど血縁者に吃音のある人がいるケース)の存在を示すデータが、相当量蓄積されています。

さらに双子を対象にした研究では、遺伝子をより多く共有する双子ほど、両方に吃音が出やすいという「一致率」が確認されてきました。この一致率は、吃音に遺伝的な側面があるという見方を支持するのに十分な高さでした。

なお、本記事が根拠にした総説では、一致率の具体的な数字までは示されていません。ネット上で見かける「一卵性で◯%」といった数字は、出典となる研究や集団によって幅があります。数字そのものより、「双子研究の積み重ねが、吃音に遺伝が関わるという現在の理解の土台になっている」という事実のほうを押さえておくと安心です。

見つかっている遺伝子 — GNPTAB・GNPTG・NAGPA

近年は、吃音に関連する具体的な遺伝子の探索も進みました。最初に吃音と関連づけられた変異遺伝子は、GNPTAB・GNPTG・NAGPA という、細胞の中で物質を正しい場所へ運ぶ「リソソーム標的化」の仕組みに関わる遺伝子でした。研究者自身が「意外な発見だった」と述べている領域です。

専門的なので、ポイントを2つにしぼります。ひとつは、これまでに同定された遺伝子がいずれも、細胞内での物質の運搬(輸送)のつまずきを指している、ということ。もうひとつは、GNPTAB・GNPTG の変異は別の病気(ムコリピドーシス)の原因にもなりますが、吃音でみられるのは主にそれとは異なるタイプ(ミスセンス変異)で、同じ変異ではない、ということです。

大切な注意点として、こうした遺伝子の変異が見つかるのは吃音のある人の一部にとどまります。見つかった遺伝子だけで吃音のすべてを説明できるわけではなく、それがどのように発話の問題を生むのかも、まだ分かっていません。

母方・父方、どちらから遺伝しやすい? — 数字を鵜呑みにしない

「吃音 遺伝 母親」で調べると、「母親が吃音なら息子には◯%」といった具体的な数字を見かけることがあります。気になるところですが、ここは慎重に受け止める必要があります。

吃音の遺伝を長年レビューしてきた研究でも、どの遺伝様式で伝わるのか、染色体や遺伝子、そして性別(母方か父方か)がどう関わるのかについては、集団全体で当てはまる決定的な答えはまだ出ていない、と結論づけられています。

つまり、「母方から遺伝しやすい/父方から遺伝しやすい」を科学的に言い切れる段階ではありません。個々の記事にある数字は、特定の研究や集団から得られた一例であって、あなたの家庭にそのまま当てはまる「確率」ではないのです。数字だけが独り歩きしないよう、出典とその限界をセットで見ることをおすすめします。

「母親のせい」という誤解の歴史 — なぜ否定されてきたのか

かつては、吃音を親(とくに母親)の育て方や関わり方で説明しようとする、心理社会的な見方が中心の時代がありました。しかし吃音研究は、その心理社会的な説明から、家族研究・双子研究を経て、遺伝子を同定する生物学的な研究へと段階的に移ってきました。現在の研究は、吃音の原因を親のしつけや愛情ではなく、生まれ持った体質・遺伝的な要因や、発話をつくる仕組みに求めています。

それでも、多くのお母さんが「自分のせいかもしれない」と静かに自分を責めています。次の声は、下のお子さんが生まれたあとに、上のお子さんに吃音が出た、という母親の体験です。

当事者の母の声(きょうだいの誕生後に上の子に吃音/NPOの子育て相談コラムに寄せられた体験)

泣きながら長男を抱きしめたことを、今でもはっきり覚えています。

弟の誕生という家庭の変化のあとに上の子の吃音に気づき、自分を責めた——そんな母親の実感がにじみます。家庭の変化と吃音の始まりが時期的に重なることはありますが、研究が原因の中心に置いているのは体質・遺伝的な要因のほうです。だからこそ、この涙は「あなたのせいだ」という意味ではありません。

出典: 子育てIdea Box(NPO法人ハートフルコミュニケーション)(台帳: V0035)

自分(母親)が吃音。「遺伝させてしまった」と悩むとき

母親自身が吃音の当事者で、「子どもに遺伝させてしまったのでは」と悩むこともあります。まず、遺伝的な要因が関わるのは事実ですが、それは「あなたが悪いことをした」という意味ではありません。遺伝は、髪や目の色と同じように、誰のせいでもなく受け継がれる体質のひとつです。

しかも、「遺伝が関わること」と「必ず遺伝すること」は違います。家族性を示すデータは蓄積されている一方で、どう伝わるか(遺伝様式)は決定的には分かっておらず、見つかっている遺伝子も吃音のある人の一部に見られるにとどまります。ご自身に吃音があるからといって、お子さんの将来が決まるわけではありません。

むしろ、当事者である自分だからこそ、子どもの困りごとに早く気づける、という強みもあります。気になるときの相談先は後述します。

遺伝は「確率」であって「運命」ではない

ここまでを整理すると、吃音には遺伝的な要因が関わるものの、遺伝様式も性差も決定的には分かっておらず、見つかった遺伝子だけで全部を説明できるわけでもありません。だから「母方に吃音がいる=必ず遺伝する」とは言えません。

さらに、幼児期に始まった吃音の大半は、自然に軽くなったり消えたりすることも知られています。経過には良い時期と出やすい時期の「波」があり、一つの家庭の経験を、他の家庭にそのまま当てはめることはできません。

当事者の母の声(2歳半で発症した息子/個人ブログの育児記録)

呼吸すらできない無音のどもり

難発(言葉が出ずに間があくタイプ)が強く出た時期を、この母親はこう振り返っています。その後は波を繰り返しながら経過したといいます。強い症状の時期があっても経過はさまざまで、発達性吃音の多くが自然に軽快することとも重なります。ただし持続する人もいるため、経過は個人差が大きい、というのが実際のところです。

出典: 幼児の吃音と回復の話(個人ブログ)(台帳: V0014)

気になるときの相談先 — 何科?どこへ?

遺伝が気になったとき、いちばん大切なのは、確率を計算することよりも「今、目の前の子ども(または自分)にできること」に目を向けることです。心配なときは様子見だけにせず、専門家に相談すると安心です。相談先の主な入り口は次のとおりです。

話し方の詰まりが長く続いている、本人がつらそう・話すことを避ける、家族に吃音のある人がいる、といったときは、早めに相談するとよいでしょう。発達性吃音は自然に軽快することも多い一方で、青年・成人期まで持続する場合もあるため、迷ったら専門家に見てもらうのが確実です。

当事者の母の声(2歳8ヶ月で発症した次男/言語聴覚士監修の家族体験記)

どうして僕はみんなみたいにしゃべれないの? どうして詰まっちゃうの?

年長のころ、本人がこう泣いて訴えたことが、母親が一人で抱え込むのをやめて言語聴覚士に相談する転機になった、という体験です。相談先を探すのに「遅すぎる」ということはありません。本人の「困った」に気づいたときが、専門家につながるきっかけになります。

出典: ある日突然、息子に吃音の症状が…(たまひよ)(台帳: V0006)

遺伝を調べるときに陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − ネットの「遺伝率◯%」を運命だと思い込む

数字は特定の研究・集団の一例で、母方・父方どちらから遺伝しやすいかも決定的には分かっていません。確率を運命と読みかえないことが大切です。

落とし穴2 − 母親(自分)を責めてしまう

研究は原因を親の育て方ではなく、体質・遺伝的な要因や発話の仕組みに求めています。自分を責める時間より、子どもが話しやすい環境づくりにエネルギーを向けるほうが建設的です。

落とし穴3 − 一人で抱え込み、記録も残さない

発症からしばらくは、症状の出やすい時期と落ち着く時期の波がみられることがあります。日々の様子を記録しておくと、相談のときに経過を正確に伝えられます。ネットの断片情報だけで判断せず、専門機関にあたるのが近道です。

まずは日々の話し方の様子を記録することから小さく始めるのも一つの方法です。記録は診断や治療に代わるものではありませんが、波のある経過を「見える化」して、専門家に相談するときの手がかりにできます。言語聴覚士など専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

吃音は母親から遺伝しますか?

吃音に遺伝的な要因が関わることは研究で支持されていますが、母方・父方のどちらから遺伝しやすいか(性差)については、集団全体で当てはまる決定的な答えはまだ出ていません。関連する遺伝子も同定されつつありますが、見つかるのは一部の人で、それだけで吃音のすべてを説明できるわけではありません。

母親の私のせいで吃音になったのでしょうか?

そう考える必要はない、という根拠があります。吃音研究は、親(とくに母親)の関わりを原因とする心理社会的な説明から、遺伝子を調べる生物学的な研究へと移ってきました。現在の研究は原因を体質・遺伝的な要因や発話の仕組みに求めており、育て方を主な原因とは見ていません。

母方に吃音の人がいると、必ず子どもに遺伝しますか?

必ずとは言えません。家族性の吃音を示すデータは蓄積されていますが、どのように伝わるか(遺伝様式)は決定的には分かっていません。また、幼児期に始まった吃音の大半は自然に軽快することも知られています。

遺伝子検査で、吃音になるかどうか分かりますか?

現時点では、検査で発症を予測できる段階ではありません。同定されている遺伝子(GNPTAB・GNPTG・NAGPA など)が見つかるのは吃音のある人の一部にとどまり、それがどのように発話の問題を生むのかも、まだ分かっていないためです。

吃音は自然に治りますか? 様子見していいですか?

幼児・児童期に始まる発達性吃音の大半は、自然に軽くなったり消えたりすることが知られています。一方で、青年・成人期まで続く人もいます。詰まりが長く続く・本人がつらそうなときは、様子見だけにせず、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に相談すると安心です。

まとめ

参考文献

  1. Frigerio-Domingues & Drayna (2017) Genetic contributions to stuttering: the current evidence. Mol Genet Genomic Med.
  2. Kraft & Yairi (2012) Genetic bases of stuttering: the state of the art, 2011. Folia Phoniatrica et Logopaedica.
  3. Kang & Drayna (2012) A role for inherited metabolic deficits in persistent developmental stuttering. Molecular Genetics and Metabolism.
  4. 発達障害教育推進センター「吃音[症]」

当事者の声の出典: V0006(たまひよ・母親)/ V0014(個人ブログ・母親)/ V0035(子育てIdea Box/NPO法人ハートフルコミュニケーション・母親)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-07-22 公開

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