大人の吃音症とは?セルフチェックの前に知っておくこと
吃音(きつおん、どもり)とは、話しことばを発するときに、最初の音や途中の音がつまったり、同じ音を何度も繰り返したり、音を引き伸ばしたりして、なめらかに話せない状態を指します(S0017)。言いたいことははっきりしているのに、その入り口の音がスムーズに出てこない、というのが特徴です(S0017)。
大人の吃音がやっかいなのは、必ずしも派手な繰り返しとして表に出るとはかぎらない点です。話すことに緊張や否定的な感情がともないやすく、周囲にどう思われるかが気になって吃音を隠そうとしたり、言いにくい語や場面(電話など)を避けたりすることがあります(S0024)。そのため、まわりからは「話し方に困っているように見えない」こともあります。
また、いつも同じように出るわけではありません。吃音は日によって変わり、楽に話せるときもあれば出やすいときもあり、緊張や興奮があると出やすくなる、という「波」があります(S0024)。この見えにくさと波があるからこそ、思い込みで判断せず、いくつかの角度から点検してみることが役立ちます。
もう一つ、大人のセルフチェックで大切な視点があります。吃音の問題は「ことばがどもること」と「そのことで困ること」の2つからなり、問題の大きさは主に後者の「困ること」で決まる、という考え方です(S0017)。つまり、話し方が目立たなくても困りが大きい人もいれば、その逆もある——だからチェックでは、話し方だけでなく「困りの度合い」も一緒にみていきます。
まず基本の3タイプ — 連発・伸発・難発
吃音に特徴的な話し方は、次の3つのうちどれか1つ以上がみられることです(S0017)。自分の話し方を思い浮かべながら読んでみてください。
- 連発(れんぱつ):音を繰り返す。例「ぼ、ぼ、ぼく」(S0017)
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「ぼーーーく」(S0017)
- 難発(なんぱつ):音がつまって出てこず、間があいてしまう(ブロック)。例「…ぼく」(S0017)
吃音のある人は、こうした「音や音節の繰り返し」「引き伸ばし」「つまり(ブロック)」が、ほかの人よりも多く、種類も違う形でみられます(S0024)。誰にでもある言いよどみとの違いは後で「ただの言いよどみとの違い」の章で整理します。
大人の吃音は「回避」と「困り」で表に出る
大人のチェックで見落とされがちなのが、話し方そのもの以外のサインです。吃音には、次のような二次的な行動や心の反応がともなうことがあります。
- 随伴(ずいはん)運動:話すときに、うなずき・まばたき・体の力みなど、ことば以外の動きが出ることがあります(S0024)。
- 言い換え・語の回避:言いにくい語を避けて、別の言い方に変えたり、違う言葉を選んだりすることがあります(S0024)。
- 場面の回避:話すこと自体を避けたり、電話などの特定の場面を避けたりすることがあります(S0024)。
さらに、話しやすさは状況に左右されます。焦り・興奮・緊張といった気持ちや、電話・人が多い場所などの場面、話をせかす・言葉を先取りするといった周囲のふるまいがあると、吃音が出やすくなることが知られています(S0024)。
そして「困ること」の中身も人によってさまざまです。恥ずかしい思いをする、言いたいことが言えずいらいらする、周囲からのからかいや特別視、緊張や不安、話すことを避ける、就職や結婚の場面での悩み、落ち込みや自信のなさ——こうした困りが吃音問題の大きさを左右します(S0017)。次のチェックでは、これらの二次症状・困りもあわせて点検します。
大人の吃音症セルフチェックリスト(10問)
以下の10問に、思い当たるものがいくつあるかを数えてみてください。1〜3は話し方そのもの、4〜10は二次症状や困りに関する項目です。これは診断ではなく、専門家に相談すべきかを見きわめるための目安です。各項目の根拠は、ここまで/このあとの章で示している出典に対応しています。
- 語の出だしで、同じ音を何度も繰り返してしまうことがある(連発。例「か、か、体温計」)(S0017, S0024)
- 語頭の音を長く引き伸ばしてしまうことがある(伸発。例「かーーらだ」)(S0017, S0024)
- 言おうとしても最初の音がつまり、しばらく声が出ないことがある(難発・ブロック。例「…からだ」)(S0017, S0024)
- 話すときに、うなずき・まばたき・体の力みなど、ことば以外の動きを伴うことがある(S0024)
- 言いにくい語を避けて、別の言い方に言い換えることがある(S0024)
- 電話・朝礼・自己紹介・音読など、特定の場面を避けたり、強く緊張したりする(S0024)
- 焦り・緊張・興奮があると、より話しにくくなる(S0024)
- 日によって、また相手や場面によって、話しやすさに波がある(S0024)
- 話すことに、恥ずかしさ・不安・自信のなさを感じることがある(S0017, S0024)
- こうした話し方や困りごとが、一時的なものではなく続いている(S0024)
当てはまる数が多いほど、専門家に相談する目安になります。ただし数そのものよりも、1〜3の「話し方」だけでなく、4〜10の「回避・随伴・困り」にも当てはまる場合は、相談を考えてよいサインだと受け止めてください。なぜ数だけで判断しないほうがよいのかは、次の「チェックの結果をどう読むか」で説明します。
「ただの言いよどみ」との違い
チェックの精度を上げるために、吃音と、誰にでもある言いよどみ(正常範囲のつまり)の違いを押さえておきましょう。次のようなものは、多くの人に起こる言いよどみで、それ自体は吃音とはみなされません(S0024)。
- 「えー」「あの」などの挿入をはさむ(S0024)
- 単語や語句をまるごと繰り返す(例「クッキー、クッキーとミルク」)(S0024)
- 言いかけて言い直す(言い換え・修正)(S0024)
- 考えがまとまらず、途中で止まる(S0024)
いっぽう吃音では、音や音節そのものの繰り返し・引き伸ばし・ブロックが、頻度多く、種類も違う形でみられます(S0024)。とはいえ、この見分けは専門家でも簡単ではなく、話し方の種類やつまりの回数、本人がどう反応しているかなどを総合してみる必要があります(S0024)。だからこそ、セルフチェックはあくまで入り口であり、気になるときは専門家に確認するのが確実です。
チェックの結果をどう読むか — これは診断ではない
セルフチェックで当てはまる項目が多かったとしても、それは「吃音症だ」と決まったことにはなりません。逆に少なくても、困りが大きければ相談する価値はあります。判断のよりどころを2つ挙げます。
1つめ。専門家による評価は、話し方(流暢性と吃音行動)だけをみるのではありません。12人の専門家の合意では、包括的な評価に共通して含めるべき領域として、(1) 吃音に関する背景情報、(2) ことば・言語・気質の発達(とくに年少者)、(3) 流暢性と吃音行動、(4) 本人の吃音への反応、(5) 周囲の人の反応、(6) 吃音による生活への支障、という6つが示されています(P0012)。この枠組みは、幼児から大人まで年齢を通じて用いられる共通のものとされています(P0012)。セルフチェックの10問だけでは、この6領域の一部にしか触れられません。
2つめ。吃音の問題の大きさは、症状の数より「どれだけ困っているか」で決まる、という見方です(S0017)。話し方が多少目立っても困っていなければ問題は大きくならず、逆に話し方が目立たなくても、不安や回避で困っていれば問題は大きくなります(S0017)。ですから、点数の多い・少ないだけで一喜一憂せず、「自分が生活のどこで、どのくらい困っているか」を言葉にしてみることが、次の相談につながります。
何科へ?受診・相談先の目安
吃音を専門的にみるのは言語聴覚士(ST)です。話し方や困りごとが気になるときは、言語聴覚士のいる医療機関や、ことばの教室・相談機関に相談するのが基本です(S0024)。大人でも相談してかまいません。
相談を考える目安として、次のようなサインがあるときは、早めに専門家に相談することがすすめられます(S0024)。
- 話しにくさが一時的でなく、続いている(S0024)
- 話すときに力んだり、つまって苦しそうになったりする(S0024)
- 話すことを避ける、あるいは「話すのがつらい」と感じる(S0024)
受診のときは、いつから、どんな場面で困るか、そして話し方以外の困り(不安・回避・生活への支障)も含めて、あらかじめメモしておくと役立ちます。専門家はこうした背景情報や生活への支障までを含めて総合的に評価するため、整理して持っていくと相談がスムーズになります(P0012)。手元にチェックの結果があれば、それも持参するとよいでしょう。話すことへの不安や落ち込みが強いときは、その心の面も相談の対象になります(S0017)。
セルフチェックで陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − ネットのチェックだけで白黒つけてしまう
「当てはまったから吃音だ」「当てはまらないから違う」と決めつけるのは早計です。吃音と言いよどみの見分けは専門家でも簡単ではなく、種類や回数、本人の反応を総合してみる必要があります(S0024)。セルフチェックは相談のきっかけであって、診断ではありません。
落とし穴2 − 「症状が軽い(目立たない)から大丈夫」と切り捨てる
話し方が目立たなくても、言い換えや場面回避で日々こっそり困っている人はいます。吃音の問題の大きさは、症状の目立ちやすさより「どれだけ困っているか」で決まるとされます(S0017)。困りがあるなら、軽く見えても相談してよいのです。
落とし穴3 − 一度きりの印象だけで判断する
吃音は日や場面によって波があり、緊張や焦りで出やすくなります(S0024)。調子の良い日にチェックすれば軽く、悪い日なら重く感じられます。だからこそ、一度の印象より、日々の話しやすさや困った場面を少しずつ記録しておくほうが、実態に近づきます。
まずは毎日の発話や、詰まった場面・波を記録して「見える化」することから小さく始めるのが現実的です。記録はあくまで経過を把握し、相談時に共有するための支援であって、診断や治療に代わるものではありません。言語聴覚士など専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
大人の吃音症は自分でチェックできますか?
セルフチェックは「専門家に相談すべきかどうか」の目安にはなりますが、診断ではありません。吃音と言いよどみの見分けは専門家でも簡単ではなく(S0024)、確定的な評価は、話し方だけでなく背景情報や生活への支障まで含めた複数の領域を総合してみる必要があるとされています(P0012)。
吃音症と、ふつうの言いよどみはどう違いますか?
「えー」「あの」や、単語・語句をまるごと繰り返すといった言いよどみは、多くの人に起こるもので、それ自体は吃音とはみなされません(S0024)。吃音では、音や音節そのものの繰り返し・引き伸ばし・ブロックが、頻度多く種類も違う形でみられます(S0024)。気になるときは専門家に相談するのが安心です。
チェックで当てはまる項目が多いと、吃音症でしょうか?
当てはまる項目が多いほど相談の目安にはなりますが、それだけで吃音症と決まるわけではありません(S0024)。吃音の問題の大きさは、症状の数よりも「どれだけ困っているか」で考えるとよいとされます(S0017)。数に一喜一憂せず、困りの度合いを言葉にしてみてください。
何科・どこに相談すればいいですか?
吃音を専門にみるのは言語聴覚士(ST)です(S0024)。言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室に、チェックの結果や、いつからか・困る場面のメモを持って相談すると整理しやすくなります(P0012)。大人でも相談してかまいません。
症状が軽くても相談していいですか?
はい。話し方が目立たなくても、話すことへの不安や回避で困っている場合はあり、問題の大きさは困りの程度で決まるとされます(S0017)。話しにくさが続く、力む、話すのを避けるといったサインがあるときは、早めの相談がすすめられます(S0024)。
まとめ
- 吃音は、音がつまる・繰り返す・引き伸ばすことでなめらかに話せない状態で、連発・伸発・難発の3タイプがある(S0017)。
- 大人の吃音は、言い換え・場面回避・随伴運動など「見えにくい二次症状」や困りとして表に出やすく、波もある(S0024)。
- セルフチェックは診断ではなく相談の目安。専門家の評価は話し方に加え、背景情報や生活への支障まで6領域を総合してみる(P0012)。
- 問題の大きさは症状の数より「どれだけ困っているか」で決まる。困りがあるなら、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室へ(S0017, S0024)。
