まず結論から
- 吃音(きつおん)は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害です。特徴的なのは、音を繰り返す連発、音を引き伸ばす伸発、ことばを出せずに間があいてしまう難発(ブロック)の3つで、このうち1つ以上が見られることをいいます。
- その9割以上は、幼児期に始まる発達性吃音です。発症は2〜4歳をピークとして、ほとんどが幼児期に起こります。
- 幼児期に吃音が出る子は約8〜11%と報告されている一方で、大人だけを見た有病率は0.6〜0.7%と推定されています。この差は、多くの人が途中で回復することを示しています。
- 続いた場合、困りごとは「うまく言えない」ことにとどまりません。話す前の不安、会話や社交を避けること、言い換えて吃音を隠すことへと広がっていきます。
- 相談先は決まっています。子どもなら小児を扱う言語聴覚士とことばの教室、大人なら言語聴覚士による発話訓練や、吃音の自助団体が挙げられています。
ただし、ここに並ぶ割合はいずれも集団全体を見たときの数字で、目の前の一人がこれからどうなるかを言い当てるものではありません。回復する人もいれば、青年・成人期まで続く人もいます。またこの記事は原因そのものを詳しくは扱いません。原因については 吃音の原因をまとめた記事 をご覧ください。
ある日、ことばが出なくなる
吃音を調べ始める人の多くは、目の前で起きていることに名前が付いていない状態から出発します。それは本人であっても、家族であっても変わりません。
大学2年生の息子に吃音がある母の手記(吃音の自助団体サイトの特集「親の体験・親の気持ち」)
小学校1年生の7月、あと2~3日で夏休みになるというある日、「…」口を開くのに声が出ないのです。その頃の私には吃音の知識はなく、ただただ驚き、担任の先生に連絡をしました。学校でも同じ症状が出ていました。疲れかな?と思い、夏休みの間に治るのではと思っていましたが、どんどんひどくなり、2学期が始まるときには名前も言えない、ブロックの状態でした。
夏休みまであと数日という日に、口を開いても声が出なくなった——手記はそこから始まります。母親自身が「その頃の私には吃音の知識はなく」と書いているとおり、起きていることに名前が付いたのは後のことでした。担任に連絡をし、疲れのせいかと考え、夏休みのあいだに治るのではないかと待つ。そのあいだに症状は重くなり、2学期には自分の名前も言えなくなっていた、と時系列が記されています。この「ことばを出せずに間があいてしまう」状態には難発(ブロック)という名前が付いていて、吃音の中核症状の一つとして数えられています。
出典: 《特集:親の体験・親の気持ち》レジリエンスを育てる(吃音と上手につきあうための吃音相談室)(台帳: V0048)
吃音の9割以上は、幼児期に始まる発達性吃音です。近年の調査では、幼児期の発症率は約8〜11%程度、日本の研究では3歳までの発症率が8.9%と報告されています。もっとも、この手記のように小学校に入ってから目立ち始めることもあり、公的機関の解説も「小学校以降に発症することもあります」と添えています。
本人にも、なぜそうなるのか分からない
吃音は「話し方の癖」や「緊張しているだけ」と受け取られやすいものです。ただ、当の本人にとっても、自分の口で何が起きているのかは長いあいだ分からないままであることがあります。
小学校低学年で気づいた成人当事者の寄稿(吃音の自助団体メディアの体験談)
言葉がおかしいと思い始めたのは、小学校低学年の頃でした。
皆と同じように話したくても、最初の言葉が伸びてしまったり、同じ言葉を何度も繰り返したりしていました。
しかし、なぜそうなるのか原因が分かりませんでした。
子供ながらに自分で治そうともしましたが、当時は身体のどこが原因で吃音が出ているのか分からなかったため、治るはずがありませんでした。
最初の言葉が伸びる、同じ言葉を何度も繰り返す——本人が挙げているのは、あとから名前を知ることになる症状そのものです。しかし小学校低学年の時点では、それが何と呼ばれるものなのかも、どこで起きているのかも分からない。「子供ながらに自分で治そうともしました」という一文は、名前も仕組みも分からないまま、子どもが一人で対処しようとしていた時間があったことを示しています。名前は付いています。公的機関の解説も学会の解説も、特徴的な症状として同じ3つを挙げています。
出典: 自殺も考えた吃音当事者の私。吃音外来で前向きになれたワケ(HAPPY FOX・日本吃音協会)(台帳: V0047)
吃音は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害と定義されており、次の3つのどれか1つ以上が見られることを吃音と呼びます。
- 連発(音のくりかえし)— 例:「か、か、からす」
- 伸発(引き伸ばし)— 例:「かーーらす」
- 難発・ブロック(ことばを出せずに間があいてしまう)— 例:「・・・・からす」
この3つに加えて、なんとか声を出そうとして顔面や身体に力を入れ、手足を振り下ろす・飛び跳ねる・目を固くつぶるといった、話すこととは関係のない身体の動きが出ることがあります。これは二次的な症状で、随伴症状(随伴運動)と呼ばれています。また、歌を歌うときや2人で声を合わせるとき、独り言を言うときには一時的に流暢になる人が多く、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月にわたって続くことも多いため、こうした変動を「波」と呼びます。「昨日は言えたのに今日は言えない」は、この波で説明がつくことがあります。
続いた場合、困るのは「話すこと」だけではない
大人になっても吃音が続いた場合、困りごとは会話の最中だけに現れるわけではありません。話す場面の手前で、行き先や過ごし方の決定にまで及ぶことがあります。
小学生の頃から吃音のある絵本作家の女性について、インタビュー記事が書いている箇所(夫妻へのインタビュー)
今でもお店のカウンターで注文をすることに緊張するため、行ったことがないお店に1人で行けない。
メニューを見て食べたいものに指を差すことも考えたが、相手に自分が話せないことを理解してもらうまでの数秒間を「怖い」と感じてしまうという。子どもの頃から自分の思いが伝わらず、周りにどう思われるかを常に気にしていた。
行ったことのない店に一人では入れない——記事が書きとめているのは、話す場面そのものではなく、その手前で起きている選択です。メニューを指させば注文はできる。それでも、自分が話せないことを相手に理解してもらうまでの数秒間を「怖い」と感じる、と記されています。困りごとが「うまく言えなかった」で終わらず、どこへ行くか・一人で行けるかという日常の判断にまで届いていることが分かります。学会の解説も、発話場面での失敗体験が重なると、話し始める前に不安や恐怖を感じ、次第に会話や社交を避けるようになると説明しています。
出典: 妻の吃音体験を絵本に きだに・わたなべ夫妻(福祉仏教 for believe・文化時報)(台帳: V0044)
思春期以降になると、症状は連発や伸発よりも難発が中心になるとされています。困難を感じやすい場面として挙げられているのは、中高生では部活動や入学面接、大学生ではゼミの発表や就職活動、社会人では職場の電話応対などです。また、言いにくい単語を言い換えるなどして吃音を巧みに隠そうとすることもあります。この場合、吃音は目立たなくなる一方で、実際には吃音が出ないかを日々警戒しながら生活しているため、ストレスや悩みを抱え込みやすくなると説明されています。人前で強い不安を感じる状態を社交不安症といいますが、その合併率は学齢期の時点から吃音のない人より高く、自助団体に参加していたり治療を求めたりする吃音のある成人では、約20%から半数近くに合併が報告されています。
どのくらいの人にあって、どれくらい続くのか
吃音の「割合」は、子どもを見たときと大人を見たときで大きく違います。学会の解説では、近年の幼児期の調査から発症率は約8〜11%程度、日本の研究では3歳までの発症率が8.9%と報告されている一方、学童期以降から成人までの時点有症率(ある時点で吃音のある人の割合)は1%より少ない0.8%が妥当だとされています。大人だけを対象にしたシステマティックレビューも、質の基準を満たした3つのデータから、成人の有病率は0.6〜0.7%のあいだだと結論づけています。
子どもで1割近く、大人で1%未満。この差は、多くの人が途中で回復することを示しています。就学前に追跡を始めた研究について、21世紀の疫学レビューは自然回復率を68%から96%という幅で報告しています。国立障害者リハビリテーションセンター研究所の解説では、発達性吃音の7〜8割くらいが自然に治るとされ、残りの2〜3割は徐々に症状が固定化して、楽に話せる時期が減ってくると説明されています。
回復は、時間の経過とともに起きます。学会の解説は、吃音が始まって2年後までだと31%、3年後までだと63%、4年後までだと74%が自然に治ると紹介しています。そして、発症から4年以上たつと(あるいは8歳以上になると)自然に治る確率は減少するとしています。ただしこの数字は、同学会が Yairi らの2005年の研究を紹介しているもので、学会自身が測った値ではありません。
そして、ここまでの数字はすべて集団全体の割合です。目の前の一人がどうなるかを言い当てるものではありません。発達障害教育推進センターの解説も、大半は自然に症状が消失したり軽くなったりする一方で、青年・成人期まで持続する人もいると書いています。
どこへ相談すればいいのか
子どもの場合、学会の解説が相談先として名前を挙げているのは、小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員です。年齢や状態に合わせて、まわりの話しやすさを整える方法(環境調整と呼ばれます)、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法などの指導が行われるとされています。
家庭でできることとして学会が挙げているのは、心配そうな表情をせずに、話の内容に耳を傾けて聞くこと。そして、親子で吃音について話ができる関係をつくることです。かつて主流だった「吃音に気がつかせない方がよい」という考え方は、今は否定されていると明記されています。
中高生以上・大人の場合は、本人が治療を希望するときに、言語聴覚士による発話訓練という選択肢があります。発話訓練だけで症状が改善しない場合や、吃音に対する不安が強い場合には、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるとされています。また、吃音の自助団体に参加してほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもあると説明されています。自助団体としては、1965年に発足した言友会が日本で最も歴史が古く、近年では若者を対象とした団体や、女性の集いを開催する団体も設立されていると紹介されています。
学校や職場に対しては、制度の裏づけもあります。発達性吃音は2005年に施行された発達障害者支援法の対象に含まれており、吃音による困難な状況を説明した医師の診断書または意見書によって、精神障害者保健福祉手帳が交付されます。また2016年に施行された障害者差別解消法により、学校や職場での吃音に対する差別的な言動や扱いは禁止されており、一人ひとりの困りごとに合わせて周りがやり方を変えること(合理的配慮といいます)を求めることができるとされています。発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長などが例として挙げられています。ただし、その際に医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合があります。
「吃音とは何か」を調べるときの3つの落とし穴
落とし穴1 − 「緊張しているだけ」「話し方の癖」と片づける
吃音は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害として定義されているものです。そして、歌うときや声を合わせるときには流暢になる人が多く、調子の良い時期と悪い時期の波もあります。この「出るときと出ないときがある」という性質があるために、気の持ちようの問題に見えてしまいます。けれども出方が場面で変わることは、吃音の特徴として資料に書かれていることそのものです。
落とし穴2 − 集団の割合を、目の前の一人に当てはめる
「7〜8割くらいが自然に治る」も「2年後までで31%、3年後までで63%」も、集団を数えた割合です。特定の子がどうなるかを示す数字ではありません。回復する人もいれば、青年・成人期まで続く人もいます。数字は見通しの幅を知るために使い、一人の将来を決める根拠にはしないことです。
落とし穴3 − 名前が分からないまま、一人で対処し続ける
この記事に登場した当事者も家族も、最初は起きていることの名前を知りませんでした。相談先ははっきりしていて、子どもなら小児を扱う言語聴覚士とことばの教室、大人なら言語聴覚士や自助団体が挙げられています。相談のときには、どんな場面で出やすいか・どのくらい続いているかを書き留めたものがあると、経過を伝えやすくなります。
まずは気づいたことを書き留めておくことから小さく始め、相談できる場合は言語聴覚士やことばの教室が確実です。
よくある質問
吃音とはどんな状態のことですか?
話し言葉が滑らかに出ない発話障害で、音を繰り返す連発、音を引き伸ばす伸発、ことばを出せずに間があいてしまう難発(ブロック)のうち、1つ以上が見られる状態を指します。声を出そうとして身体に力が入る随伴症状をともなうことや、場面や時期によって出方が変わる「波」があることも特徴とされています。
吃音はどのくらいの人にありますか?
幼児期の調査では、吃音が出る割合は約8〜11%程度と報告されています。一方で学童期以降から成人までの時点有症率は0.8%程度とされ、大人だけを対象にしたシステマティックレビューは0.6〜0.7%と推定しています。子どものときに多く、大人では1%未満というのが、資料に共通する姿です。
吃音は自然に治りますか?
多くの場合、回復します。就学前に追跡を始めた研究について、疫学レビューは自然回復率を68%から96%の幅で報告しています。学会の解説は、吃音が始まって2年後までで31%、3年後までで63%、4年後までで74%という値を紹介したうえで、4年以上たつと自然に治る確率は減少するとしています。ただし、青年・成人期まで続く人もいます。
大人になってから吃音が始まることはありますか?
あります。低年齢から発症する発達性吃音とは別に獲得性吃音という分類があり、神経学的疾患や脳損傷などによって起こる獲得性神経原性吃音と、心的なストレスや外傷体験に続いて生じる獲得性心因性吃音に分けられます。どちらも発症時期は青年以降(10代後半から)とされています。ただし吃音全体の9割以上は発達性吃音です。
どこに相談すればいいですか?
子どもの場合は、小児を扱う言語聴覚士か、ことばの教室の教員に相談することが挙げられています。中高生以上・大人の場合は、言語聴覚士による発話訓練のほか、不安が強いときのカウンセリングや心理療法、そして吃音の自助団体への参加が選択肢として示されています。学校や職場には、法律にもとづいて配慮を求めることもできるとされています。
まとめ
- 吃音は話し言葉が滑らかに出ない発話障害で、連発・伸発・難発(ブロック)の3つのうち1つ以上が見られることをいう。声を出そうとして身体に力が入る随伴症状や、出方が変わる「波」もある。
- 9割以上は幼児期に始まる発達性吃音で、発症は2〜4歳がピーク。幼児期の発症率は約8〜11%と報告されている。
- 大人の有病率は0.6〜0.7%と推定されており、子どもとの差は多くの人が回復することを示している。疫学レビューの自然回復率は68〜96%の幅。ただし続く人もいる。
- 続いた場合の困りごとは、話す前の不安、会話や社交の回避、言い換えによる隠しへと広がる。社交不安症の合併も報告されている。
- 相談先ははっきりしている。子どもは小児を扱う言語聴覚士とことばの教室、大人は言語聴覚士・自助団体。学校や職場には法律にもとづく配慮を求められる。
