「無声型」とは?吃音の難発(ブロック)を指す呼び名
「無声型」は、吃音の中核症状のひとつ難発(なんぱつ、ブロック)——ことばを出せずに間があいてしまうタイプ——を指した呼び名です。声(音)がなかなか出てこない、いわば“無声”の状態が中心になることから、無声型・無音型と表現されることがあります。
吃音(きつおん、どもり)とは、話し言葉がなめらかに出ない発話障害です。その中でも無声型(難発)は、最初の音が喉や口で止まってしまい、声として出てこない状態を指します。実際に、自分の吃音を「連声型・無声型」と説明する当事者もいます。
連発・伸発・無声型(難発)— 吃音の中核3タイプ
無声型を正しく理解するには、吃音の中核症状である3つのタイプの中での位置づけを押さえるのが近道です。吃音に特徴的な話し方には、次の3つがあります。
- 連発(れんぱつ):音を繰り返す。例「か、か、からす」
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「かーーらす」
- 難発(なんぱつ=無声型・ブロック):ことばを出せず間があいてしまう。例「・・・・からす」
連発・伸発が「音が出たうえで乱れる」のに対し、無声型(難発)はそもそも音が出てこない点が大きな違いです。この“声が出ない”という性質が「無声型」と呼ばれるゆえんであり、後で述べるように「周囲に気づかれにくい」という無声型特有の悩みにもつながります。
無声型(難発)の特徴 — 声が出ない・随伴運動・症状の波
無声型(難発)には、いくつかの特徴的なあらわれ方があります。
ひとつは随伴症状(随伴運動)です。なんとか声を出そうとして、顔面や身体に力を入れ、手足を振り下ろす・飛び跳ねる・前屈する・息を荒げる・顔をしかめる・目を固くつぶるといった、不必要な身体の動きをともなうことがあります。無声型では「声を押し出そう」とする場面で、こうした随伴運動が出やすくなります。
もうひとつは症状の波です。吃音は状況によって出やすかったり出にくかったりし、歌を歌うときや、2人で声を合わせるとき、独り言のときには一時的に流暢になる人が多いことが知られています。調子の良い時期・悪い時期が数週間〜数ヶ月続くこともあり、これを「波」と呼びます。「昨日は言えたのに今日は詰まる」というのは、無声型でもめずらしくありません。
なぜ無声型は周囲に気づかれにくいのか
連発や伸発は「音が出て乱れる」ため、聞いている人にも吃音だと分かりやすいタイプです。一方、無声型(難発)は音そのものが出ないため、外からは「言葉に詰まっている」「黙って考えている」ようにしか見えにくいという特徴があります。本人は懸命に声を出そうとしているのに、周囲には沈黙や“間”に見えてしまうのです。
さらに、無声型のある人は、どもらないための工夫として、言いにくい単語を言いやすい言葉に置き換える「言い換え」や、話すこと自体を避ける工夫をすることがあります。こうした工夫によって吃音は見かけ上は目立たなくなりますが、実際には吃音が出ないかを日々警戒しながら生活しているため、ストレスや悩みを抱え込みやすくなります。「困っていなさそうに見える」ことが、かえって理解を得にくくする——これが無声型の見えにくさです。
本人の体感 —「声を出したいのに出ない」
無声型(難発)の“詰まる瞬間”は、外からは分かりにくいぶん、当事者のことばから知るのがいちばんです。
当事者本人の声(舞台役者・財前優一/個人ブログ note・連声型と無声型の吃音)
なんで自分だけ声を出したい時に出ないんだ
無声型(難発)は、声を出そうとしても最初の音が出せずに詰まってしまう状態で、この「声を出したい時に出ない」という感覚は、その中核をよく表しています。思春期以降になると、吃音の症状は連発や伸発よりも、この難発(最初の音が出しにくくなる症状)が中心になることが知られています。
出典: 吃音症でも舞台役者になれるのか(note・財前優一)(台帳: V0037)
また、どの音や言葉で詰まりやすいかは人によって異なり、詰まりやすさには言語的な要因(どんな音・語か、文中のどの位置か)も関わることが指摘されています。「特定の行や言葉だけ苦手」という体感には、こうした背景があります。
連発から無声型(難発)へ — 進展段階での位置づけ
無声型(難発)は、吃音の「進展(しんてん)」——症状が変化・悪化していく流れ——の中で理解すると位置づけが見えてきます。
発吃(吃音が始まること)してすぐの幼児期は、「か、か、からす」のような連発(繰り返し)の症状が多いことが知られています。中には最初から伸発や難発で始まる子もいます。その後、吃音を否定的にとらえるようになったり、うまく話せない経験が重なったりすると、難発が強くなったり、言い換えの工夫をしたりするなど、吃音が進展していく場合があります。そして思春期以降は、連発・伸発よりも難発が中心になっていきます。
つまり無声型(難発)は、子どもより成人や、症状が進展した例に多くみられるタイプといえます。ただしこれは「必ず悪化する」という意味ではなく、周囲の受け入れが良好で、吃音があっても伸び伸びと生活できている子どももおり、個人差が大きいことも同時に押さえておきたい点です。
なぜ起こる?原因は「体質」で、育て方や性格ではない
無声型かどうかにかかわらず、発達性吃音(幼児期に自然に始まる吃音で、吃音の9割以上を占めます)の原因は、生まれ持った体質的な要因が多くを占めると考えられています。2000年ごろ以降の双子研究・脳研究・遺伝子研究によって、環境的要因よりも体質的な要因が大きいことが分かってきました。遺伝のしやすさ(遺伝率)は、70%から80%以上と見積もられています。
また、発達性吃音は脳の構造や機能の変化と関連づけられており、「気の持ちよう」や「性格」の問題ではないことが、臨床ガイドラインでも整理されています。
逆に、親の接し方(愛情不足)やしつけ、本人の性格が原因だとする考え方は、誤りとして否定されています。無声型で「声が出せない」ようすを見ると、周囲は「緊張しているだけ」「わざと」と誤解しがちですが、本人がわざとやっているわけでも、緊張やストレスや家庭環境のみから生じるものでもありません。
無声型(難発)とのつき合い方・対処
無声型そのものを一瞬で消す“特効薬”はありませんが、対処の考え方は整理されています。
まず、多くの当事者が使うのが、詰まりやすいことばを言いやすいことばに置き換える「言い換え」です。
当事者本人の声(吃音歴25年・主に難発/個人ブログ note)
マックで頼むときはマックフライポテトと言うようにしています
「ポテト」が言いにくいときに正式名称に置き換える、といった工夫は、詰まりやすい音や語を避ける「言い換え」の一例です。どの音や語で詰まりやすいかには言語的な要因も関わることが指摘されています。ただし言い換えで見かけ上は目立たなくなっても、つねに言葉を警戒する負担が残り、進展につながることもあるため、抱え込まずに専門家と対処を整理するのが安心です。
出典: 言いにくい行のはなし(note・吃音当事者)(台帳: V0031)
専門的な対処としては、言語聴覚士(ST)による発話訓練という選択肢があります。青年・成人に対しては、話し方を組み立て直す「発話再構成(fluency shaping など)」の方法に、一定のエビデンスがあることが臨床ガイドラインで示されています。一方で、薬物療法や、リズムに乗せて話す方法、呼吸のコントロールだけを主な治療とすることは、エビデンス上は支持されていません。発話訓練だけでは不安が強い場合は、カウンセリングや心理療法、吃音の自助団体への参加が役立つこともあります。
受診科・相談先 — 言語聴覚士・ことばの教室
無声型(難発)で困っているとき、まずどこに相談すればよいのかを整理します。
- 言語聴覚士(ST)のいる医療機関:発話や吃音の評価・訓練を担う専門職です。小児を扱う言語聴覚士に相談しましょう。耳鼻咽喉科やリハビリテーション科に在籍していることがあります。
- ことばの教室:小・中学校などに設置された通級指導の場で、担当の教員に相談できます。
受診・相談の目安としては、随伴運動(力み・身体の動き)が目立つ、話すことや特定の場面を避けるようになった、本人が「話しにくい」「どうして詰まるの」と気にしはじめた、といったサインがあるときです。吃音の治療は、開始が不必要に遅れてしまいがちであることも指摘されているため、迷ったら早めに専門家へつながるのが安心です。
なお、発達性吃音は発達障害者支援法の対象に含まれ、学校や職場では発表や電話応対の免除、面接時間の延長などの合理的配慮を求めることができます。「声が出せない」無声型は外から分かりにくいぶん、配慮を求める際に医師の診断書や言語聴覚士の報告書が役立つことがあります。
無声型で陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 −「緊張しているだけ」と片づける
無声型は音が出ないぶん「緊張して黙っている」ように見えますが、緊張やストレスだけから生じるものではなく、本人がわざとやっているわけでもありません。「気の持ちよう」ではなく、脳の話し言葉の仕組みに根ざした現象です。
落とし穴2 − 言い換え・回避だけで乗り切ろうとする
言い換えや回避は当座をしのげますが、つねに言葉を警戒する負担が残り、進展につながることもあります。ひとりで抱え込まず、専門家と対処を整理するのが近道です。
落とし穴3 −「様子見」で相談を先延ばしにする
吃音は治療開始が遅れがちであることが指摘されています。発症からしばらくは症状に波があるため、日々のようす(どんな場面で・どの音で詰まったか、随伴運動の有無)を記録しておくと、相談のときに役立ちます。
まずは日々の発話のようすを記録することから小さく始めるのが現実的です。言語聴覚士など専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。
よくある質問
吃音の「無声型」とは何ですか?
吃音の中核症状のひとつ「難発(ブロック)」——ことばを出せずに間があいてしまうタイプ——を指した呼び名です。声(音)が出てこない状態が中心になることから、無声型・無音型と呼ばれることがあります。
無声型(難発)と連発・伸発は何が違いますか?
連発は「か、か、からす」のように音を繰り返し、伸発は「かーーらす」のように音を引き伸ばします。これに対し無声型(難発)は「・・・・からす」のように最初の音そのものが出ず、間があいてしまう点が違いです。
無声型は大人に多いのですか?
発吃してすぐの幼児期は連発が多く、思春期以降になると連発・伸発よりも難発(無声型)が中心になっていくことが知られています。そのため成人や、症状が進展した例に比較的多くみられます。ただし個人差が大きく、必ず進展するわけではありません。
無声型の原因は緊張や性格ですか?
いいえ。発達性吃音の原因は生まれ持った体質的な要因が多くを占め、遺伝率は70〜80%以上と見積もられています。緊張やストレスのみ、性格、育て方が原因ではありません。
無声型はどこに相談すればよいですか?
言語聴覚士(ST)のいる医療機関や、学校などのことばの教室が相談先です。治療は開始が遅れがちとも指摘されているため、気になるときは早めに相談するのが安心です。
まとめ
- 「無声型」は、吃音の中核症状のひとつ難発(ブロック)=声が出せずに間があいてしまうタイプを指す呼び名。
- 連発・伸発が「音が出て乱れる」のに対し、無声型は「音そのものが出ない」ため、周囲に気づかれにくく、言い換え・回避で見えにくくなりやすい。
- 幼児期は連発が多く、思春期以降は難発(無声型)が中心に。原因は体質的な要因が大きく、遺伝率は70〜80%以上で、育て方や性格のせいではない。
- 対処は言い換えだけに頼らず、言語聴覚士やことばの教室へ。治療は開始が遅れがちなので、迷ったら早めの相談を。
