二歳児の吃音、まず落ち着いて知ってほしいこと
吃音(きつおん、どもり)は、話し言葉がなめらかに出てこない状態のことです。多くの場合、2歳前後のことばが急に増える時期に気づかれます。吃音は、発話・言語・情動をつかさどる脳のネットワークが急速に発達している時期に生じることが知られており、二歳児に現れること自体は、めずらしいことではありません。
そして大切なのは見通しです。吃音の問題は、多くの場合、時間とともに徐々に軽くなっていきます。とくに幼児期に始まった吃音は、少なくとも半数の子が、特別な指導や支援をしなくても小学校に入学するころまでに気にならなくなる(自然治癒)と報告されています。ですから、いま繰り返しが出ているからといって、この先ずっと続くと決まったわけではありません。
もう一つ、はじめに知っておいてほしいことがあります。保護者の育て方やしつけは、吃音の原因ではありません。吃音の原因はまだ完全には解明されていませんが、子どもが生まれ持った素因的な要因と、環境の要因がある条件で組み合わさったときに生じると考えられています。「自分の関わり方が悪かったのかも」と自分を責める必要はありません。
当事者の母の声(2児の母/個人ブログ note)
あ、これはわざとじゃないんだ
2歳台で語頭を繰り返す話し方に気づいた母親が、最初は「わざと」「クセ」だと思って注意してしまったものの、子どもの様子を見てそうではないと気づいた瞬間の言葉です。吃音はふざけや悪いクセではなく、ことばに関わる神経の仕組みが育つ途上で生じる現象で、育て方が原因でもありません。まず「わざとではない」と受け止めることが出発点になります。
出典: 息子と吃音(note・ななみ)(台帳: V0005)
2歳に見られる吃音の話し方 — 連発・伸発・難発
二歳児の吃音は、次のような話し方であらわれます。呼び方をあわせて知っておくと、相談のときに状態を伝えやすくなります。
- 連発(れんぱつ):最初の音を繰り返す。例「ぼ、ぼ、ぼく」。2歳ごろにまず気づかれやすいタイプです。
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「ぼーーーく」。
- 難発(なんぱつ):ことばが詰まって最初の音がなかなか出ない(ブロック)。例「……ぼく」。声が出ずに間があいたり、力が入ったりします。
はじめは軽い繰り返し(連発)で、進むと伸発や難発があらわれることがあります。また、調子のよい時期と出やすい時期を行き来する「波」があるのも特徴で、良くなったり戻ったりを繰り返すことがあります。
当事者の母の声(30代・専業主婦/個人ブログ)
呼吸すらできない無音のどもり
息子が2歳半で連発から始まり、やがて息も詰まるような難発に進んだ経過を記録した母親の言葉です。このように詰まりの頻度や重さが増して定着してくると、経過を見るうえで一つの目安になります。実際、就学前の子どもを追った研究でも、ふだんの話の中で吃音のような詰まり・繰り返しの頻度が高いことが、吃音が続きやすいことと関連すると報告されています。
出典: 幼児の吃音と回復の記録(個人ブログ・まとり)(台帳: V0014)
なぜ2歳ごろに始まるの? ことばが伸びる時期との重なり
「どうしてこの時期に?」という疑問には、2歳前後が、からだ・認知・ことば・情動が一気に育つ時期だという背景があります。吃音の発達を説明する「多因子動的経路(たいんし・どうてき・けいろ)理論」では、運動・言語・情動という複数の要因が複雑に影響し合いながら吃音が生じる、と整理されています。就学前は多くの神経の仕組みが急速に変化している時期で、その相互作用が、吃音がその後続くか・回復するかを左右する大きな要素になると考えられています。
つまり、原因は一つではありません。子どもが生まれ持った素因的な要因と、環境の要因が、ある条件で組み合わさって生じると考えられており、「これさえなければ」という単一の犯人は見つかりません。加えて、発達に関わる特性は、子どもの状態が発達や環境によって変わっていくものだと専門機関も説明しています。2歳という時期は、まさにその変化のただ中にあります。
「様子を見ていい?」— 見通しと、動くタイミングの目安
二歳児の吃音でいちばん知りたいのは、「このまま様子を見ていいのか、それとも相談すべきか」でしょう。結論から言うと、多くは自然に軽くなっていく一方で、続きやすさに関わるサインもわかってきています。両方をふまえて考えるのがおすすめです。
就学前の子ども(研究では3〜5歳)を長期に追った研究では、次の特徴が、吃音が続きやすいこと(持続)と関連すると報告されています。
- 吃音の家族歴がある(血縁者に吃音のある人がいる)
- ことばの音をつくる力(構音・音韻)の検査で成績が低い
- ふだんの話の中で、吃音のような詰まり・繰り返しの頻度が高い
- 聞いた音をそのまま繰り返す課題(非語反復)の正確さが低い
これらは単独で決まるものではなく、重なるほど「続きやすさ」の予測が当たりやすくなると報告されています。ただし、この研究の対象は3〜5歳で、2歳ではまだ検査が難しく経過も読みにくい点には注意が必要です。あくまで「気にかけておく目安」として使い、あてはまるものが多い・詰まり(難発)が定着してきた・本人が話しづらさを気にし始めた、といったときは、様子見だけにせず早めに相談するのが安心です。
当事者の母の声(仮名/たまひよ 家族体験記・言語聴覚士監修)
どうして僕はみんなみたいにしゃべれないの? どうして詰まっちゃうの?
2歳8か月で発症した子が、年長のころにこう泣いて訴えたことが、母親が専門家に相談する転機になったといいます。本人が話しづらさを気にし始めたり苦しさを口にしたりするのは、専門家に相談してよいサインの一つです。ことばの教室や言語聴覚士の指導・支援を受けることで、日常生活で大きな支障なく過ごせるようになっていくことが知られています。
出典: 「どうして僕はうまくしゃべれないの?」ある日突然、3才の息子に吃音の症状が…(たまひよ)(台帳: V0006)
どこに相談する? 受診科と相談先
「相談したほうがいいかも」と思ったとき、二歳児の吃音はどこに行けばよいのでしょうか。窓口はいくつかあり、どこから始めても構いません。
- 言語聴覚士(ST)のいる医療機関:ことばの専門職です。吃音の状態を評価し、家庭での関わりや支援について相談できます。小児科や耳鼻咽喉科などを通じて紹介されることもあります。
- ことばの教室・言語通級:就学後は、ことばの教室や言語聴覚士による指導・支援を受けられます。就学前でも、地域によって相談を受け付けています。
- かかりつけの小児科:まず身近な医師に相談し、必要に応じて専門機関を紹介してもらう入口として使えます。
- 自治体の窓口:保健センターの乳幼児健診、子育て・発達相談、特別支援教育センターなど。2歳の時点で気軽に相談できる公的な入口です。
「まだ2歳だから早すぎる」と遠慮する必要はありません。早めに相談しておくと、様子を見る場合でも「どんなときに動けばよいか」の見立てが得られ、安心して過ごしやすくなります。
家庭でのかかわり方 — 「直そう」より「話しやすく」
吃音は、発話に関わる神経の仕組みに根ざした現象で、その経過は情動的な要因にも強く条件づけられると考えられています。だからこそ家庭では、話し方を「直す」ことより、子どもが安心して話せる場をつくることが大切にされています。一般に、次のような接し方がすすめられます。
- ことばを先回りしたり言い直させたりしない。最後までゆっくり聞く。
- 「ゆっくり話して」「落ち着いて」と話し方を注意しない。
- 詰まっても、話した中身に反応する(何を言えたかを受け止める)。
- 親自身があせらない。不安な表情をそのまま子どもに伝えない。
これらは、育て方が吃音の「原因」だからではありません。育て方は原因ではないと明言されています。そうではなく、話しやすい環境は子ども自身の負担を軽くするうえで意味がある、という考え方です。実際に、指摘をやめて見守る接し方に切り替えた保護者の体験は少なくありません(台帳: V0005・V0014)。ただし、これらの接し方は「必ず良くなる方法」ではなく、効果には個人差があります。心配なときは、家庭での工夫と並行して専門家に相談してください。
気をつけたい通俗説 — 「褒めれば治る」「好奇心で良くなる」は本当?
二歳児の吃音について調べると、「たくさん褒めれば良くなる」「好奇心を一緒に楽しめば治る」といった、特定の関わりだけで良くなると読める説明を見かけることがあります。気持ちが軽くなる言い方ですが、原因の理解とは分けて考える必要があります。
吃音は、運動・言語・情動という複数の要因が複雑に影響し合って生じるもので、原因は素因と環境の組み合わせと考えられています。そのため、たった一つの関わりだけで確実に良くなる、と科学的に言い切れる段階にはありません。どんな要因が回復を促しやすいかは、いまも研究で特定を進めている途中です。
褒めることや一緒に楽しむこと自体は、子どもが安心して話せる環境づくりとして意味があります。ただ、それを「治す方法」として過度に期待したり、うまくいかないときに自分を責めたりしないことが大切です。確かなのは、育て方が原因ではないということ、そして迷ったら専門家に相談できるということです。
吃音と発達障害・ほかの発達の関係
「吃音は発達障害なの?」と気になる方もいるでしょう。吃音は、発話・言語・情動をつかさどる神経ネットワークが急速に育つ時期に生じる、神経発達の現象として位置づけられています。日本の制度でいう発達障害(神経発達症)は、自閉スペクトラム症やADHD、学習障害などを含み、これらは互いの境界がはっきり分かれるものではなく、併存することも少なくありません。
さらに専門機関は、こうした発達に関わる特性について、子どもの状態は発達や環境によって変わっていくもので、「子どもは変化していく」という見方が必要だと説明しています。2歳という時期は、まさにその変化の途上です。ことばの遅れやほかの気になる様子が重なっている場合は、吃音だけを切り離さず、専門機関でまとめて相談すると整理しやすくなります。
二歳児の吃音でやりがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「犯人」を一つに決めようとする
「保育園に入れたせい」「あのとき叱ったせい」と単一の原因を探すほど、事実から離れていきます。原因は素因と環境が組み合わさって生じるもので、単独の犯人はいません。とりわけ、育て方は原因ではありません。
落とし穴2 − 「わざと」「クセ」だと思って指摘し続ける
詰まりや繰り返しはわざとではなく、悪いクセでもありません。言い直させたり注意したりを続けるより、話しやすい場をつくるほうが、子どもの負担を軽くするうえで理にかなっています。
落とし穴3 − 様子見だけで、経過を記録しない
吃音には良い時期と出やすい時期の波があるため、受診のときに「どのくらいの期間、どんなふうに出ているか」を思い出して正確に伝えるのは、意外と難しいものです。ある母親は、子どもの吃音の状態を毎日段階をつけて記録しながら専門家に相談していました(台帳: V0006)。日々の様子を短くでも残しておくと、波のある経過を専門家に伝えやすくなります。手書きのメモでも、発話を記録して続けやすくするアプリでも構いません。記録はあくまで経過の把握と相談を助けるもので、それ自体が治療ではありませんが、様子見の期間を「ただ待つ」時間にしないための、小さな一歩になります。
よくある質問
二歳児の吃音は、放っておいても自然に治りますか?
幼児期に始まった吃音の多くは、時間とともに徐々に軽くなっていくとされ、少なくとも半数の子は特別な指導や支援がなくても小学校入学ごろまでに気にならなくなると報告されています。ただし全員が自然に回復するわけではなく、家族歴があるなど続きやすさに関わるサインが重なる場合もあります。「必ず治る」とも「治らない」とも言い切れないため、気になるときは相談するのが安心です。
2歳で吃音に気づいたら、すぐ受診したほうがいいですか?
急いで受診しなければならないわけではありませんが、早めに相談しておくと、様子を見る場合でも動くべきタイミングの見立てが得られます。とくに、詰まり(難発)が定着してきた、家族歴がある、本人が話しづらさを気にし始めた、といったときは、言語聴覚士のいる医療機関や自治体の窓口に相談することがすすめられます。
吃音は親の育て方やしつけのせいですか?
いいえ。保護者の育て方やしつけが吃音の原因ではないことは、公的な資料でも明確に述べられています。原因は子どもが生まれ持った素因的な要因と環境の要因が組み合わさって生じると考えられており、自分を責める必要はありません。
「たくさん褒めれば治る」と聞きましたが本当ですか?
褒めることは子どもが安心して話せる環境づくりとして意味がありますが、特定の関わりだけで確実に良くなると科学的に言い切れる段階にはありません。吃音は複数の要因が影響し合って生じ、どんな要因が回復を促しやすいかはまだ研究で特定を進めている途中です。「治す方法」として過度に期待しないほうがよいでしょう。
どこに相談すればいいですか?
言語聴覚士(ST)のいる医療機関、ことばの教室、かかりつけの小児科、保健センターや自治体の発達・子育て相談などが窓口になります。就学後はことばの教室や言語聴覚士の指導・支援を受けられます。2歳の時点でも「早すぎる」ということはないので、迷ったら身近な窓口から相談してみてください。
まとめ
- 二歳児の吃音は、ことばが急に育つ時期に生じることが多く、その多くは徐々に軽くなり、半数は就学ごろまでに気にならなくなると報告されています。
- 一方で、家族歴・構音の弱さ・詰まりの頻度の高さ・非語反復の弱さなどが重なると、続きやすさが高まるとされます。あてはまりが多い・難発が定着・本人が気にし始めたら、早めの相談を。
- 相談先は言語聴覚士のいる医療機関・ことばの教室・小児科・自治体の窓口。2歳でも早すぎることはありません。
- 家庭では「直す」より「話しやすく」。ただし育て方は原因ではなく、「褒めれば治る」と単一の方法に過度な期待はしないのが安全です。
- 波のある経過は記録しておくと相談で役立ちます。記録は治療ではありませんが、様子見を「ただ待つ」時間にしないための一歩になります。
