2歳の吃音の原因は「一つ」ではない — 体質×発達×環境
まず結論から言うと、発達性吃音(幼児期に自然に始まる吃音)の詳しい原因は、まだ完全には解明されていません。ただ「よく分からない」という話ではありません。子ども自身が持って生まれた素因(体質)と、まわりの環境が、ある条件で組み合わさったときに生じると考えられています。
さらに研究では、運動・言語・情動に関わる複数の要因が、それらを司る神経のネットワークが急速に発達している時期に、動的に影響し合って吃音に至る、という「多因子動的経路(たいんし・どうてき・けいろ)理論」が提唱されています。ポイントは、これらの要因が単独ではなく重なり合って働くという点です。だからこそ「あれさえなければ」という単一の原因を探しても、答えは見つかりません。
要因のなかでも比重が大きいとされるのが体質(遺伝的な基盤)です。双子を対象にした研究では、遺伝子をほぼ共有する一卵性の双生児で両方に吃音が出る割合は約70%、遺伝子の重なりが半分の二卵性ではおよそ30%、同性のきょうだいでは18%と報告されており、遺伝的な近さが大きいほど一致しやすい=遺伝的な基盤があることが示されています。ただし遺伝だけで決まるわけではなく、環境の要因も加わってはじめて発症する「多因子」のモデルが最も有力とされています。
なぜ2歳ごろに始まるのか
発達性吃音は思春期より前、たいてい2〜5歳のあいだに始まります。2歳前後は、ことば・からだ・こころが一気に伸びる時期です。多因子動的経路理論では、発話・言語・情動を司る神経系が急速に変化していく就学前の時期に吃音が生じ、その後に続くか回復するかも、この時期のシステム同士の相互作用が大きく左右するとされています。
言いかえると、2歳で吃音が出るのは、ことばが伸びていくスピードに、なめらかに話す仕組みがまだ追いつく途中の時期に重なって起こる現象だとイメージすると理解しやすいかもしれません。「発達が遅れているから」ではなく、むしろ発達の勢いのなかで起こりうる、というのが大切な視点です。
「私の育て方のせい?」への答え
この記事でいちばん伝えたいのはここです。育て方・しつけ・愛情不足は、2歳の吃音の原因ではありません。これは思いやりのある建前ではなく、原因研究にもとづく結論です。吃音の専門ポータルサイトも、保護者に向けて「保護者の方の育て方のまずさが、お子様の吃音の問題の原因ではありません」と明確に述べています。
研究の歴史をたどっても、性格の傾向や親子のかかわり方を調べて、吃音と一貫して結びつく心理的なパターンは見つかっていません。また「親のふつうの叱り方や反応が吃音を学習させる」とする説もかつてありましたが、この考え方は吃音の中核となる症状を説明できませんでした。自分を責める時間より、子どもが話しやすい環境に目を向けるほうが、ずっと建設的です。
「ある日、急にどもり始めた」— 始まり方と親の気づき
2歳の吃音は、それまでスラスラ話していた子が、ある日を境にことばの最初の音を繰り返し始めた、と気づかれることが少なくありません。幼稚園や保育園の入園など、生活が変わる時期と重なって目立つこともあります。
当事者の親の声(母親・仮名/たまひよ 体験記・言語聴覚士監修)
2017年4月20日、2才8カ月の時のことでした。
発症の日付までよく覚えている、という保護者は少なくありません。この体験記では、幼稚園の慣らし保育に通い始めた時期に、ことばの1音目を繰り返す話し方が現れたと語られています。発達性吃音が始まるのはたいてい2〜5歳。始まった時期や、そのときの生活の変化をメモしておくと、あとで専門家に相談するときに役立ちます。
出典: 「どうして僕はうまくしゃべれないの?」ある日突然、3才の息子に吃音の症状が…(たまひよ)(台帳: V0006)
2歳の吃音でみられる話し方 — 連発・伸発・難発
吃音に特徴的な話し方は、音や音節の「繰り返し」と「引き伸ばし」、そして声が出ずに間があく状態です。2歳では、まず軽い繰り返し(連発)から気づかれることが多く、ことばの最初(語頭)に出やすいのも特徴です。
- 連発:音を繰り返す。例「ぼ、ぼ、ぼくは」
- 伸発:音を引き伸ばす。例「ぼーーーくは」
- 難発(ブロック):ことばがなかなか出ず、声が止まって間があく
当事者の親の声(母親/個人ブログ note・継続発信)
ママママママ、ママ、おおおおおお、お茶、ちょうだい
2歳3か月ごろ、保育園入園から約1か月後に語頭を繰り返す話し方が始まった、という母親の手記です。最初は「クセがつくよ」とふざけていると思って注意してしまったが、子の様子を見てわざとではないと気づいた、と振り返ります。この繰り返し(連発)は吃音の中核となる症状で、本人が意図してやっているのではなく、意識してすぐに止められるものでもありません。だから「わざと」でも「悪いクセ」でもない、という理解が出発点になります。
出典: 息子と吃音(note・ななみ)(台帳: V0005)
2歳の吃音、いつまで様子を見る? — 経過の見通しと相談の分かれ道
まず安心材料から。幼児期に始まった吃音の多くは、自然におさまっていくことが知られています。回復率は最大で8割ほどとされ、吃音ポータルサイトも、幼児期に吃音のある子の少なくとも半数は、特別な指導や支援をしなくても小学校に入学するころまでに気にならなくなる(自然治癒)としています。症状は良い時期と出やすい時期を行き来する「波」があり、一時おさまってぶり返すこともあります。
当事者の親の声(30代・母親/個人ブログ)
呼吸すらできない無音のどもり
2歳半で音を繰り返す連発が始まり、一時はことばが出ない難発(ブロック)まで強まったという母親の記録です。強い時期と落ち着く時期の波を経て、4歳前には通常の話し方に戻ったと振り返っています。あくまで一つの家庭の経過で、効果を一般化できるものではありませんが、症状が強く出る時期があっても回復に向かう子が多いことと矛盾しない経過です。
出典: 幼児の吃音と、回復までの話(個人ブログ・まとり)(台帳: V0014)
では「いつまで様子を見るか」。回復する子が多い一方で、どの子が回復するかを正確に予測するよい方法は、まだありません。ですから「何日・何か月様子を見れば安全」と日数で機械的に決めることはできません。かわりに、次のようなサインを目安に、様子見だけにするか相談するかを考えるのが現実的です。
- 家族に吃音の人がいる(家族歴)。就学前(3〜5歳)の子を対象にした研究で、家族歴は吃音が続きやすさと関連していました。
- 半年以上続く、だんだん強くなる。同じ研究では、自発的な会話での吃音の多さ、構音・音韻(発音)の弱さ、耳で聞いた無意味な語をまねる課題の成績の低さも、持続と関連していました。
- 男の子。回復は女の子のほうが多く、大人での男女比は男性3〜4人に対して女性1人ほどになります。
- 本人が話すのを避ける・つらそう・体に力が入る。
早めに相談する意味もあります。早い段階での保護者へのガイドや支援は、大人まで吃音が続くのを防ぐのに役立つ可能性が指摘されています。ただし、回復が自然なものか早期の言語指導によるものかは、まだはっきり区別できていません。つまり「相談=すぐ治療」ではなく、見立てを受けて安心するためにも、心配なら早めに相談するのがよい、ということです。
どこに相談する? — 受診科・相談先
2歳で相談する場合、入り口になるのは次のような窓口です。
- 市区町村の乳幼児健診・保健センターの相談窓口
- 地域の「ことばの教室」
- 言語聴覚士(ST)のいる医療機関(小児科・リハビリテーション科など)
吃音ポータルサイトは、就学後も吃音が続く子でも、ことばの教室や言語聴覚士の適切な指導・支援を受けることで、身体の緊張を伴う重い吃音があまり見られなくなったり、緊張をうまくコントロールしながら話す方法を身につけたりして、日常生活で大きな支障なく過ごせるようになることが多い、としています。相談のときは、いつ始まったか・どんな時に強いか・家族歴・これまでの経過を伝えられると、見立てがスムーズです。
今日からできる接し方
接し方には、科学的な土台があります。吃音の重さは、緊張や興奮などの状態によって変わることが分かっており、その後の経過も情動的な要因に強く条件づけられます。だから「子どもが安心して話せる環境をつくる」というのは、根拠のある方針です。
この考え方をふまえると、次のような接し方が勧められます。
- 言い直しをさせない・「ゆっくり言って」と急かさない
- 話を最後まで聞く。目を見て、うなずいて受けとめる
- 話し方そのものを指摘・注意しない(わざとではないため)
- 生活のリズムや、安心して過ごせる時間を大切にする
実際、先に紹介した体験談でも、指摘や言い直しをやめ、急かさずに接する関わりへ切り替えた家庭が語られています。関わり方に迷うときは、一人で抱えずに言語聴覚士など専門家に具体的なやり方を相談すると安心です。
原因さがしで陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「犯人」を一つに決めようとする
「保育園に入れたせい」「あのとき叱ったせい」と単一の原因を探すほど、事実から遠ざかります。原因は複数の要因の重なりで、単独犯はいません。
落とし穴2 − 親(自分)を責めてしまう
育て方は原因ではないと、公的資料も研究も否定しています。自分を責める時間を、子どもが話しやすい環境づくりに向けるほうが建設的です。
落とし穴3 − 断片情報を一人で抱え込む
ネット上には特殊な原因説も混じっています。標準的な見解(体質を中心とした多因子)を軸に、公的資料や専門家にあたるのが近道です。発症からしばらくは経過に波があるため、記録をつけておくと相談のときに役立ちます。
まずは日々の様子(いつ・どんな時に・どのくらい出るか)を記録することから小さく始めるのが現実的です。言語聴覚士など専門機関に相談できる場合は、そちらが確実です。アプリ「toVoice」は、こうした毎日の記録と経過の見える化・継続を支えるための道具で、治療をうたうものではありません。
よくある質問
2歳の吃音の原因は何ですか?
子どもが持って生まれた素因(体質)と、まわりの環境が組み合わさって生じると考えられ、たった一つの原因は特定されていません。運動・言語・情動に関わる複数の要因が、発達の時期に影響し合うとする多因子の考え方が提唱されています。
2歳で吃音になったのは、親の育て方のせいですか?
いいえ。育て方やしつけ、愛情不足が原因ではないことは、公的資料がはっきり述べています。親子のかかわりや性格と吃音を一貫して結びつけるパターンは、研究でも見つかっていません。
2歳の吃音は自然に治りますか?
幼児期に始まった吃音の多くは自然におさまり、回復率は最大で8割ほど、少なくとも半数は就学ごろまでに気にならなくなるとされています。ただし、どの子が回復するかを正確に予測する方法はまだなく、続く場合もあります。
いつ相談すればいいですか?
日数で機械的には決められません。家族に吃音の人がいる、半年以上続く・強くなる、本人がつらそう、といったサインがあれば、様子見だけにせず早めに相談するのがよいとされます。早い段階の相談や支援が、大人まで続くのを防ぐのに役立つ可能性も指摘されています。
吃音は遺伝しますか?
双子研究では一卵性の双生児で両方に吃音が出る割合が約70%と高く、遺伝的な基盤があると考えられています。ただし遺伝だけで決まるわけではなく、環境の要因も加わる多因子で発症するとされています。
まとめ
- 2歳の吃音の原因は「体質×発達×環境」の重なりで、単一の原因はありません。とくに体質(遺伝的な基盤)の比重が大きいとされます。
- だから親の育て方は原因ではありません。自分を責める必要はありません。
- 幼児期の吃音の多くは自然に回復します(最大で8割ほど・半数は就学ごろまでに)。ただし予測は難しく、経過には波があります。
- 様子見か相談かは「日数」でなく「サイン」で判断を。家族歴・長く続く・強くなる・本人がつらそう、なら早めに専門機関へ。
