まず結論から
- 吃音の「リハビリ」は、訓練だけを指す言葉ではありません。周りの人の接し方や場面のほうを変える取り組み(環境調整と呼ばれます)・言語訓練・カウンセリング・心理療法/行動療法の4つが中心で、どの人にも一様に効く万能の方法はないとされています。
- 大人の専門外来では、初診の日にやるのは問診票の記入と診察と吃音の検査までで、訓練の方針はその結果を見ながら後日立てていく、という進め方が案内されています。
- 通う回数の目安が数字で示されているのは、この記事で確認できた範囲では、就学前の子ども向けのプログラムに限られます。リッカムプログラム——言語聴覚士が親にやり方を教え、親が家庭で行う就学前向けのプログラムです——について、北米の診療記録を集めた調査では、次の段階に進むまでの通院回数は中央値11回でした。
- 就学前の子どもへの訓練には効果を支える研究がありますが、学齢児・思春期にはレベルの高い研究がありません。大人については、無作為に2群に分けて比べた試験(無作為化比較試験と呼ばれます)だけを集めて統合しても、話しやすさ・吃音の体験・生活の質のどれにも、はっきりした差は出ませんでした。
- 子ども・思春期については、通える範囲に専門家がいない場合でも、遠隔や集団の形で行う訓練は、個別の対面と同じくらい有効だったと報告されています。
ただし、これは「通っても無駄」という意味ではありません。大人の研究をまとめたレビュー自身が、集めた治療の種類も効果の測り方もばらばらだったと述べています。差が出なかったことは、効かないと確かめられたことと同じではありません——そろえて比べられるだけの研究がまだ足りない、というのがこの記事の読みです。逆に、子どもについて効果が報告されている側にも留保があります。そちらのレビューは、採用した研究はどれも結果が偏るおそれが中程度だったと評価しています。
最初の日に、いきなり訓練が始まるわけではない
「リハビリ」と聞くと、初日から発声の練習をさせられる場面を想像するかもしれません。実際に大人の専門外来を訪ねた人の記録を読むと、最初にあるのはまず「聞かれること」です。
吃音歴30数年・40代半ばで初めて吃音外来を受診した当事者(社会福祉士。note の受診体験記)
面談では、幼少期から現在までの経過を丁寧に聞き取っていく。
・吃音の自覚がいつ頃からあったか
・症状の変化
・親族に吃音の方はいるか
・日常生活や仕事への影響
・自分なりに調べてきたこと …など
言語聴覚士さんが持つA4用紙は、あっという間に文字で埋まっていった。
初診は耳鼻咽喉科の医師による問診で、声帯を調べる検査も受けたと本人は書いています。言語聴覚士との面談は2回目の受診でした。30数年ぶんの経過が、いつからか・どう変わってきたか・家族にいるか・仕事にどう響いているか、という順で一枚の紙に移されていく。この人は「こんなに丁寧に聞き取ってもらえるんだ」と内心驚いた、と書いています。専門機関が最初にするのは、訓練の押しつけではなく、その人の吃音がどういう形をしているかを確かめる作業です。
出典: 問診で気づいた『思考のクセ』。苦しみから抜け出すヒント|続・吃音外来体験記(note)(台帳: V0171)
これは特別に丁寧な例というわけではありません。成人の吃音を専門に扱う公的機関の外来案内も、初診日に行うのは問診票の記入・診察・吃音の検査の3つで、それらの結果を見ながら後日あらためて言語訓練の方針を立てていく、と明記しています。対象は18歳以上で、高校生は小児の吃音外来のほうで対応する、という線引きも示されています。完全予約制の初診専用外来で、希望者が多く予約が取りにくい状態だとも書かれています。
では、方針が決まったあとには何が行われるのでしょうか。この外来の案内はそこまでは書いていませんが、吃音の治療一般については、中心になるものが4つあると整理されています。周りの人の接し方や場面のほうを変える取り組み(環境調整)、言語訓練、カウンセリング、心理療法・行動療法——この4本柱を、その人に合わせてしばしば組み合わせて選ぶことで、ある程度の効果が得られることが多いとされています。逆にいえば、誰にでも一様に効く方法は存在しないという前提が、最初から置かれているということです。なお、吃音そのものに有効性が確立された薬はなく、吃音を対象として保険が使える薬もありません。
週に1回45分、そして家での15分
次に気になるのは頻度と期間でしょう。ここは、日本語で読める情報がいちばん薄いところです。参考になるのは、実際に通っている人が自分でつけている記録です。
オーストラリア在住の成人当事者(難発。治療の記録に絞った個人ブログ)
週1回45分の治療、自宅での練習15分、日々の困難レベルグラフ記録
自宅での練習:動画を真似する練習。
語学力の問題で言いやすい言葉への言い換えが使えなくなり、カフェで注文もできなくなった——そこから治療できる病院を探した人の、初診の日の記録です。メルボルンの3つの病院に費用と期間を問い合わせ、料金と地図アプリの評価を見て通う先を決めています。初診で聞かれたのは、家族に吃音のある人がいたかどうか、日ごろ何に困っているか、そして治療で何を目指すかでした。あわせて吃音の割合を測る検査があり、子ども向けの短い童話を読む形で測られています。そのうえで示された治療の中身が、この引用です。通院日だけで完結せず、家での練習と毎日の記録が最初から組み込まれている——これが、多くの吃音の訓練に共通する形です。
出典: キャンパーダウンプログラム吃音治療 〜初診〜(アメブロ)(台帳: V0091)
これは海外で受けた特定のプログラムの記録なので、日本の外来が同じ形とは限りません。では「何回通うのか」に数字で答えている資料はあるのでしょうか。あります。ただし、見つかったのは就学前の子ども向けのプログラムについてだけです。北米で行われたリッカムプログラムの診療記録を後からまとめて調べた研究は、第1段階を終えた6歳未満の子ども134人について、次の段階に進むまでの通院回数の中央値は11回だったと報告しています。
この研究は、回数を左右するものも調べています。治療を始める前の吃音が重い子ほど、通院回数は多くなっていました。もうひとつ、直感に反する結果もあります。通院の間隔が短い(頻繁に通う)群のほうが、間隔が長い群よりも治療にかかった期間は長かった、という向きの傾向です。ただし著者はこれを統計的な有意差には至らない「傾向」として報告し、臨床的に重要なのでさらに検証が必要だと書いています。たくさん通えば早く終わる、とは言えないということです。なお北米のこの数字は、英国とオーストラリアで先に報告されていた同じプログラムの基準値と一致していました。
「近くに相談できる人がいない」という壁
通いたくても通えない、という段差もあります。専門機関は全国に均等にあるわけではありません。
30代前半のときに通える範囲へ吃音外来ができ、そこで初めて言語聴覚士に相談した当事者(note)
通院して完治したわけではない
通院して吃音に関する悩みが全て解決したわけではない
だが少なくとも、相談することで気持ちが楽になった
1か月に1回でも2か月に1回でも
相談できる専門家が近くにいるということが、こんなにも安心感につながるのか!
ということをものすごく実感できた
この文章は「吃音なくならないかな~」という一行から始まります。30代前半で通える範囲に吃音外来ができ、人生で初めて言語聴覚士に相談できた——そう書いたあとで、この人は自分が使っていた「ありがたい」という言葉に引っかかります。たまたま読んでいた本で「ありがたい」の意味を確かめると、そうそうあるものではない、めったに起きない、という説明が並んでいた。吃音は成人でも100人に1人はいるのに、自分は30年以上ものあいだ医療にかかれずにいた——それなら、外来があることを幸運と呼んでいる状態そのものがおかしいのではないか、と本人は書きます。通院の頻度が1〜2か月に1回でも、相談先があること自体が支えになった、という記述は、リハビリの効果とは別の軸を示しています。
出典: 吃音外来を「ありがたい」と思った違和感の正体(note)(台帳: V0170)
では、どこを探せばよいのでしょうか。中心になるのは言語聴覚士です。言語障害や聴覚障害のある人の指導・支援を行う国家資格で、養成課程には吃音が含まれています。職能団体のサイトも、聞こえ・ことば・飲み込みの障害を扱う専門職だと自らを定義したうえで、「スムースに話をすることが難しい吃音」を、自分たちが扱うことばの障害のひとつとしてはっきり位置づけています。主な勤務先は病院で、耳鼻咽喉科やリハビリテーション科のスタッフとして働いている人が多いようです。
ただし、ここに大事な但し書きがあります。言語聴覚士が受け持つ領域は幅広く、吃音の支援や指導まで手がけている人ばかりではありません。ですから、言語聴覚士に指導や支援を頼みたいときは、受診を決める前に病院へ直接確かめてもよいし、日本言語聴覚士協会や各都道府県にある言語聴覚士会へ尋ねてもよい、と案内されています。「リハビリ科があるから吃音も見てもらえるはず」と当てにして初診に行くより、電話で1本確かめるほうが確実だということです。
通える範囲に見つからないときは、届け方そのものを変える選択肢があります。子どもと思春期を対象とした8件の無作為化比較試験をまとめた研究は、遠隔(オンライン)や集団の形で行う訓練は、個別の対面での訓練に劣らなかったと報告しています。「近くに専門機関がない」という理由だけで、選択肢を閉じてしまう必要はありません。
もうひとつ、当事者同士が集まる自助グループ(言友会など)もあります。ただし性格が違います。自助グループは当事者の集まりです。言語聴覚士のように吃音の学術的な知識を持ち、改善のための専門的な指導・支援を行える場ではない、と明記されています。そのうえで、悩みを同じくする仲間と出会えること、当事者同士でなければ感じ取れない連帯感のなかで吃音の悩みを聞いてもらえること、同じ立場にいる人から具体的な助言をもらえること——自助グループでなければ手に入らないものがあるのも事実だ、とも書かれています。多くの自助グループは例会を定期的に開いており、頻度は月1回程度が多いようです。専門的な訓練と、仲間の場は、どちらかで代用するものではありません。
どこまで良くなるのか——正直な見通し
いちばん知りたいのは、ここでしょう。誇張せずに書きます。通って治らなかった、という記録も確かにあります。
教員の女性・林佳代さん(日本吃音臨床研究会の会報「スタタリング・ナウ」に載った、ことば文学賞の受賞作)
どもりをどうしても治したくて、スピーチクリニックにも通ったことがある。何度も発声練習をしたり、電話の練習をしたりしたが、まったく治らなかった。それなのに、先生からは「頑張って練習しよう」と言われ続けた。自分では精一杯頑張っているのに、これ以上どう頑張ったらいいの?と途方に暮れてしまった。だから、私は「頑張れ」という言葉があまり好きではない。どんなに努力してもできないことはある。
結婚を控えて相手に吃音を打ち明けた場面から、陣痛のさなかに産婦人科へかけた電話で自分の名前が数十秒出てこなかった日まで——ひとつづきの手記の後半に、この一節が置かれています。どこのスピーチクリニックだったのかも、通った期間も、本人は書いていません。書かれているのは「練習をした」「治らなかった」「それでも頑張れと言われ続けた」という順序だけです。ゴールが「吃音をゼロにすること」に置かれたまま進むと、努力の量の問題にすり替わっていく。この人はそこで途方に暮れています。
出典: 2015年度 第18回ことば文学賞 2「私の居場所」(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0163)
研究の側は、年齢帯によってまったく違うことを言っています。就学前の子どもについては、ほめるなどの応答を返しながら流暢な発話を増やすリッカムプログラムと、言葉を出す能力に対して要求の水準を下げる方法(要求‐能力モデル=DCM)が、ともに吃音を減らすのに有効でした。なかでもリッカムプログラムがいちばん高いレベルの根拠を示しています。ところが同じ研究は、学齢児と思春期の子どもへの介入には、レベルの高い研究が存在しないとも述べています。
2歳から18歳までを対象にした別の系統的な研究(条件を決めて研究を集め、まとめて評価する方法です)も、9件の研究・327人を分析して、無治療の対照群と比べれば有意な効果が得られたと報告しています。ただし結論は慎重です。子どもへの行動的な介入の有効性を支える資料は限られた種類の介入についてしか存在せず、方法論的に許容できる研究の数も乏しい、と評価しています。2つの異なる治療どうしを比べた研究では、有意な差は出ませんでした。
大人はどうでしょうか。総説のレベルでは、柔らかくゆっくり話すなど、話し方そのものを組み立て直していく訓練(流暢性形成法と呼ばれます)が、大人向けのなかでは最も確かな根拠を持つとされます。一方、人気のある「吃音とのつき合い方」を主眼にした方法は、理論的な裏づけはあっても根拠は強固ではない、と整理されています。ところが、無作為に2群に分けて比べた試験だけを9件・276人ぶん集めて統合したレビューでは、話しやすさ・吃音の全体的な体験・生活の質のいずれについても、介入した群と比べる群のあいだにはっきりした差は出ませんでした。
この2つは、必ずしも矛盾しません。同じレビューが、大人向けには治療の種類も効果の測り方もばらばらだったと述べているからです。「そろえて比べられるだけの研究がまだ足りない」状態と、「効かないと確かめられた」状態は、同じではありません——ただし、ここまで踏み込んで言っているのは原典ではなく、2つを並べて読んだこの記事のほうです。
それでも通う意味はどこにあるのか
「治らないなら意味がないのでは」と思うかもしれません。ここで、目標の置き場所の話に入ります。
Kay さん(幼少期から吃音があり、現在も言語聴覚士のもとで訓練中。自助団体のメディアに載った体験談)
私は自然と、ネットで予約できるところを探して、電話をかける場面を避けるようになっていました。
その度に「自分はこのままでいいのだろうか?」と無力感に包まれていました。
しかし、言語聴覚士の方と訓練をしていく中で、ゆっくり話すように心がけることで、ある程度症状をコントロールできることがわかりました。
そこから、だんだんと電話に対する恐怖心が和らいできました。
中学で部活の部長になり連絡網の一番上に置かれた時期、国家公務員試験の筆記に通ったのに官庁訪問の電話に出られなくなって就職活動を中止した時期——電話をめぐる失敗が積み重なった経過が、この一節の手前に並んでいます。本人が書いているのは「吃音が治った」ではありません。ゆっくり話すことを心がけていれば、症状はある程度までコントロールできると分かり、恐怖心が和らいだという順序です。これは一人の実感であって、効果を保証するものではありませんが、リハビリの成果がどこに現れうるかの一例ではあります。
出典: 吃音で電話が苦手なあなたへ。無理に電話をかけなくてもいい理由(SCW)(台帳: V0154)
大人の場合、言語訓練だけで改善する例は少なく、過半数では社交不安症などがあり、心理的な面の見立てとそれへの対応も欠かせないとされています。そこで使われるのが認知行動療法です。考え方のくせと実際の行動の両面から問題を解きほぐしていく方法で、吃音の場合は、話すという行為に注意が集中しすぎること自体がなめらかに話せない大きな原因になっていると理解したうえで、なめらかに言えたかどうかを問わず、やりとりが楽になることのほうを目標に置きます。そうすると発話行為から注意が外れ、かえって話し方の症状も軽くなりやすい、と説明されています。
この発想の転換は、研究の現場でも試されています。従来の訓練には、話し方に直接働きかける方法(不自然な話し方への違和感が残り、効果の維持が難しいという指摘があります)と、直接は働きかけない方法(寝る前に頭の中で話す練習を重ねるメンタルリハーサル法など。効果の維持は比較的よいものの、治療自体に平均2〜3年かかります)がありました。これに対し、公的研究機関が進めているグループでの認知行動療法は、吃らない話し方を意図的に練習することをやめ、もともと自然に楽に話せている力のほうを伸ばすという設計になっています。週1回・5週間の暫定プログラムで試験的なグループ訓練が始まったところ、という段階なので、有効性はこれから確かめられる話です。
目標の置き場所を動かす、という方向は、海外の研究でも同じです。表面的な話しにくさだけでなく、話す人が吃音の瞬間に何を体験しているか——言葉が出ない感覚、力み、「また詰まるかも」と話す前から身構えてしまうこと(予期不安と呼ばれます)、そこから来る回避まで含めて向き合える専門家のほうが、結果として治療の成果も生活の質の改善も大きくなる、と論じられています。
年齢で変わるリハビリの進め方
同じ「吃音のリハビリ」でも、年齢によって主役になるものが変わります。
幼児期は、意識的に発話を修正することがそもそも難しいため、まず環境調整から始めます。周囲の人がゆったりと楽に話し、吃るかどうかではなく話の内容を聞くように努める、というかたちです。吃るのを笑ったり真似したりする子がいる場合は、保育園・幼稚園の先生にも協力を求め、本人がわざとやっているのではないことを説明してもらいます。そのうえで訓練に進む目安として、悪化が見られる/吃音が出はじめた時期(発吃)から1年半〜2年以上たっている/就学1年前までに治まらない/家族に吃音のある人がいるなどの危険因子がある、という条件が示されています。有効性が確立している方法としては、要求の水準を下げるDCM、応答を返して流暢な発話を増やすリッカムプログラム、ゆっくりした柔らかい話し出しをまねさせる方法などが挙げられ、幼児は治療への反応が良いことが多いとされています。
学童期は、二次的な問題への手当てが前に出ます。吃音のある子の過半数が、笑われたり、からかわれたりを経験しており、そこから不登校や自尊感情の低下といった二次的な問題につながりやすくなります。そのため、本人の意向を確かめながらクラスや学校の環境を整えることが中心になります。訓練面では、リズムに合わせた朗読や、みんなで声をそろえて読む斉読が流暢さを引き出しやすいので、発話に自信を持たせる目的でよく行われます。なお、小学校に上がってからも吃音が残っている子どもについては、保護者向けの吃音の解説ページが見通しを示しています。ことばの教室、あるいは言語聴覚士による指導・支援を適切に受けられれば、多くの場合、からだに力の入る重い吃音はあまり出なくなっていく。もしくは、吃りにくいように力みをうまく加減しながら話すやり方を覚え、ふだんの生活で大きく困らずにやっていけるようになる——そう述べられています。高学年になると、柔らかくゆっくり言う流暢性形成法が使える場合もありますが、認知的に余裕のない子では、ふだんの場面で使いこなすところまでは届きにくいとされます。楽に・軽くどもることを目指す吃音緩和法や、わざとどもってみる随意吃の訓練、心理面を支える認知行動療法の併用も行われます。
青年期・成人では、流暢性形成法と吃音緩和法を組み合わせた統合法がよく使われます。ただし前に見たとおり、これらだけで改善する例は少ないとされています。メンタルリハーサル法という、頭のなかで話す場面を思い描く練習を柱にして、実際に声を出す訓練はしない方法もあります。ただし2年ほどの期間がかかること、これを行える臨床家がまだ少ないことが課題に挙げられています。なお、働いている人にとっては訓練だけが道ではありません。障害者差別解消法などにより、吃音のある人が申し出れば、雇用主には合理的配慮を行う義務があります(面接時間を長くする、電話業務を免除するなど)。ただし、それには吃音の診断書を求められることが多い、とも書かれています。
自宅でできること、気をつけたいこと
「通うまでのあいだに家でできることは」と考える人は多いはずです。安全に、かつ確実にできるのは環境を整えることです。幼児であれば、周囲がゆっくり楽に話し、吃るかどうかより話の内容に耳を傾ける——これは訓練ではなく関わり方の変更なので、家庭ですぐ始められます。
一方、訓練そのものは専門家の指導のもとで行うのが原則です。たとえば、相手の声を少し遅れて追いかけて言う練習(スピーチ・シャドーイング)を、適切な速さで3か月ほど続けると、言葉が詰まって出なくなる難発(ブロック)が解消する例もあるとされますが、これは臨床の場で使われている方法です。自分の声を少し遅らせて聞かせる装置(DAF)も、重い場合の選択肢として挙げられていますが、装用している間だけ効果があるとされ、成人で有効なのは半数程度ともいわれます。仕組みと効果の範囲は聴覚フィードバックと吃音で詳しく扱っています。
もうひとつ、通いはじめる前でも通いながらでも続けられるのが記録です。前に見た海外の治療記録でも、週1回の通院と自宅での15分の練習に加えて、毎日の困難の度合いをグラフにつける作業が最初から組み込まれていました。どんな場面で出やすいか、波はどうかを書き留めておくと、初診の日の問診票を記入するときや、前に見た受診記録のように幼少期からの経過を聞き取られる場面でも、思い出しながら答えるより正確に伝えられます。
リハビリで陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「これだけで治る」方法を探してしまう
どの人にも一様に効く万能の方法はありません。ひとつの技法に絞るより、年齢や状態に合わせて環境調整・訓練・心理面の対応を組み合わせるのが基本の形です。そもそも大人向けについては、無作為化比較試験をそろえて統合しても差が出ていない段階です。「これで治る」と断言する情報に出会ったら、いったん立ち止まってよい理由がここにあります。
落とし穴2 − ゴールを「吃音ゼロ」だけに置く
とくに青年期・成人では、症状を完全になくすことより、楽に話せる・伝えたいことが伝わることを目標にするほうが現実的なことが多いとされています。ゴールがゼロに固定されたままだと、成果が出ないときに「努力が足りない」という話にすり替わっていきます。期待値を先に整えておくと、途中で燃え尽きるのを防ぎやすくなります。
落とし穴3 − 通う先を確かめずに初診を取る
言語聴覚士が受け持つ領域は幅広く、吃音の支援や指導を担当している人ばかりではありません。予約を取る前に、その医療機関で吃音を扱っているかを直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県にある言語聴覚士会へ尋ねておくと、行ってから分かる、という事態を避けられます。
まずは環境を整え、日々の発話を記録することから小さく始めるのが現実的です。訓練の中身は、言語聴覚士など専門機関に相談できるとより確実です。
よくある質問
吃音症のリハビリでは、初診の日に何をしますか?
成人の吃音を扱う専門外来の案内では、初診日に行うのは問診票の記入と診察、吃音の検査で、言語訓練の方針はその結果を見ながら後日立てていくとされています。訓練そのものが初日から始まるわけではありません。
吃音のリハビリには何回くらい通うのですか?
回数の目安が数字で示されているのは、就学前の子ども向けのリッカムプログラムです。北米の診療記録134人ぶんを調べた研究では、次の段階に進むまでの通院回数は中央値11回で、治療前の吃音が重いほど回数が多くなっていました。大人については、同じような目安の数字は見当たりません。
リハビリはどこで受けられますか?
大人の場合は、言語聴覚士のいる医療機関が中心になります。言語聴覚士の勤務先は病院が多く、耳鼻咽喉科やリハビリテーション科のスタッフとして働いていることが多いとされます。子どもの場合は、学校のことばの教室で指導・支援を受けることもあります。ただし、吃音の支援や指導まで手がけている言語聴覚士ばかりではないため、事前に医療機関や言語聴覚士協会・各都道府県にある言語聴覚士会へ問い合わせることが勧められています。
近くに専門機関がない場合はどうすればよいですか?
子ども・思春期を対象とした研究では、遠隔(オンライン)や集団での訓練が、個別の対面での訓練に劣らなかったと報告されています。距離だけを理由に選択肢を閉じる必要はないといえます。
リハビリで吃音は完全に治りますか?
年齢によって見通しが異なります。就学前ではリッカムプログラムとDCMの有効性が報告されている一方、学齢児・思春期にはレベルの高い研究がなく、成人では無作為化比較試験を統合しても有意な差は出ていません。青年期・成人では、症状をゼロにすることより、楽に話して伝えたいことが伝わる状態を目標に置くことが多いとされます。「必ず治る」と断定できるものではありません。
まとめ
- 吃音のリハビリは訓練だけを指す言葉ではなく、環境調整・言語訓練・カウンセリング・心理療法/行動療法の4つが中心。一様に効く方法はなく、組み合わせて行う。
- 大人の専門外来では、初診日は問診票・診察・吃音の検査までで、訓練の方針は後日決まる。通院回数の目安の数字を確認できたのは就学前のリッカムプログラムで、次の段階までの中央値は11回。
- 就学前には有効性の根拠があり、学齢児・思春期にはレベルの高い研究がなく、成人では無作為化比較試験を統合しても差が出ていない。ただしレビュー自身が治療の種類も効果の測り方もばらばらだったと述べており、効かないと確かめられたと読むのは早い。
- 相談先は言語聴覚士のいる医療機関が中心で、全員が吃音を扱うわけではないため事前に問い合わせる。子どもはことばの教室でも指導・支援を受けられる。子ども・思春期については、通えないときは遠隔や集団という届け方もある。
- 自宅でできるのは主に環境調整と記録。訓練の中身は専門家のもとで進めるのが原則。
