腹式呼吸は吃音に効くのか|ガイドラインの評価・喉が閉まる理由

目次

「腹式呼吸を身につければ、話しやすくなるのだろうか」「話そうとすると喉が閉まる、息が浅くなる——呼吸のしかたが悪いせいなのか」。呼吸は自分で変えられそうに見えるぶん、いちばん最初に手が伸びる方法でもあります。ただ、やり方を書いた情報は山ほどあるのに、それが本当に効くのかを書いた情報は、ほとんど見つかりません。

この記事は、結論を先に置いてから、呼吸法を実際に試した4人の記録と、それに対して研究や公的な資料が何を言えているのかを並べていきます。手がかりにしたのは、ドイツの17の専門学会がまとめた診療ガイドライン、国立障害者リハビリテーションセンターの解説、ニューヨーク大学の研究者による2026年の論考です。呼吸法の手順を教える記事ではなく、「呼吸法はどこに置かれているのか」を確かめる記事です。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 呼吸の調整は、青年・大人に効くとされる訓練が共通して持っている要素の一つとして、診療ガイドラインに挙げられています。
  • その同じガイドラインが、呼吸の調整やリズムに乗せた話し方を、唯一の柱あるいは主な柱にした治療は勧められないとしています。ただし、そう判断できるだけの根拠はまだ強くない、とも書かれています。
  • 呼吸のしかたを変えることや力を抜く練習だけに頼る進め方、治ると約束して目標とやり方を説明しない進め方は、避けるべきものとして名指しされています。
  • 言葉の出だしで喉が締まる感じは、声を出し始めるときに力が入りすぎて筋肉が硬くなることと結びつけて説明されています。呼吸だけの問題として説明されているわけではありません。
  • 大人の吃音を治す方法は現時点では無く、身につけた技法はどれも補うためのもので、良い状態を保つには使い続ける必要がある、と総説は述べています。

ただし、これは「呼吸を整えることに意味がない」という意味でも、「呼吸の練習をしている人は間違っている」という意味でもありません。ガイドラインが線を引いたのは置き場所——呼吸を訓練全体の中のどこに置くか——であって、呼吸そのものの否定ではありません。

喉が閉まる、呼吸が浅くなる——その瞬間に体で起きていること

呼吸法にたどり着く人の多くは、その前に「喉が閉まる」という感覚を持っています。最初の一音が出ない。頭の中には文章があるのに、喉から先が動かない。この感じを、仕事の場面で書き残している人がいます。

当事者の声(葬儀社に勤め、式のナレーションを担当。note に投稿されたエッセイ)

その中で、自分の声だけがマイクで広がる。

逃げ場がありません。

「ただいまより――」

最初の言葉が、出ませんでした。

喉が閉まる。

呼吸が浅くなる。

頭の中では、ちゃんと文章がある。

でも、口だけが動かない。

ほんの1秒程の時間です。

でも、自分の中では、数分みたいでした。

やっと出た声は、震えていました。

初めて司会を任された日の場面です。静かすぎる式場では咳払い一つでも響く、と本人は書いています。その中でマイクを通るのは自分の声だけで、逃げ場がない。止まっていたのは1秒ほどで、本人の中では数分に感じられた——そう書き分けているところに、外から見える時間と本人の中の時間の差が出ています。この「喉が閉まる」「呼吸が浅くなる」という順番は、研究の側の説明ともつながっています。

出典: 吃音の「まもなく開式でございます」(note)(台帳: V0242)

総説は、どもる瞬間の大部分は二つの型で説明できるとしています。舌や唇の動きが繰り返される型と、構えが固まったまま動かない型です。そして、その瞬間には筋肉の緊張や、話そうともがく様子が伴うことがある、と書かれています。顔をしかめる、まばたきをする、視線が外れるといった動きは吃音の中心ではなく、どもった瞬間の反応だと位置づけられています。

声の出し始めについては、もう少し具体的な説明があります。吃音のある人の多くは声の出し始めが硬くなりやすく、強すぎる力と筋肉のこわばりで声を出そうとするため、どもる瞬間が起きやすくなる——大人向けの訓練で「やわらかい声の出し始め」を教える理由は、ここにあるとされています。喉が閉まるという感覚は、息が足りないから起きる、という説明のされ方はしていません。力の入り方の側から説明されています。

診療ガイドラインも、体の緊張や呼吸の変化、伴って出る動き、言いにくい言葉を避ける行動、恥ずかしさや不安を、中心の症状ではなくそれに対する二次的な反応の側に並べています。呼吸の乱れは、どもりの原因としてではなく、どもる瞬間に起きることの一つとして記載されている、ということです。

「たっぷり吸え」と「吸うな、吐け」——正反対の教えに挟まれる

呼吸法を調べ始めると、すぐに食い違いに出くわします。息をたっぷり吸えと言う人がいて、吸ってはいけないと言う人がいる。同じ「呼吸」という言葉で、逆のことが語られます。どちらも試した人が、その落差をそのまま話しています。

当事者の声(自助団体が主催した座談会。発言者は、体とことばのレッスンに通っていた当事者の一人)

また、吃音矯正所ではまず、息を下腹部にたっぷり吸わないとだめだと言われましたが、竹内さんからは、反対に吸ってはいけない、息は吐くものだ、息を吐かないとことばは出ないと言われました。吐いて吐いたら、勝手に入ってくる。これは、僕がいつも吃音教室でどもる人たちに伝えていることです。

座談会は、竹内敏晴さんが東京・名古屋・大阪で定期的に開いていた「からだとことばのレッスン」をめぐって、2006年に開かれたものです。この人はかつて矯正所に通い、そこでは大きな声を出す発声練習をしていたが効果がないのでしなくなった、とも語っています。同じ「呼吸」をめぐって、たっぷり吸えという指導と、吸うなという指導の両方を受けた——この落差は、吃音の訓練が一つの流派でまとまっていないことの現れでもあります。

出典: いのちが激しく動く〜竹内敏晴さんのレッスンをめぐって〜(吃音と上手につきあうための吃音相談室・日本吃音臨床研究会)(台帳: V0488)

大人の吃音の訓練は、大きく二つの系統に分けて説明されます。話し方そのものにはたらきかけるやり方(直接法)と、話し方には直接ふれないやり方(間接法)です。直接法には、どもりにくいように制御された話し方を身につけるやり方と、楽にどもることを目標にするやり方があります。間接法には、日常では話すことへの意識を向けずに工夫や回避をしないよう指導しながら、寝る前に頭の中のイメージで話す練習をするメンタルリハーサル法があります。

そして、それぞれに限界も書かれています。直接法では、本来その人が持つ話し方とは違う、制御された不自然な話し方になるため違和感を持つ人がいて、効果を保つのが難しいという意見もある。間接法は効果の維持は比較的良いものの、治療そのものに平均2〜3年かかり、うつ病などの精神疾患をあわせ持つ場合には使えない。「どちらかが正しくて、どちらかが間違い」という形で決着はついていません。

だから、呼吸について正反対の指導に出会うこと自体は、あなたの理解不足ではありません。立場の違う方法が並んで存在している、というのが現状です。

病院の訓練では、呼吸をどう扱っているのか

では、専門の外来では呼吸に触れないのかというと、そうではありません。言語聴覚士の指導のもとで呼吸を扱っている記録もあります。通院の様子を続けて書いている人の、2回目の記録です。

当事者の声(20代・会社員/北里大学病院の吃音外来に通院中。個人ブログ)

私の場合、どもりそうになった時に喉周周辺が緊張状態になること・呼吸が浅くなることが前回判明しました。

自宅でトレーニングしている時は、全くどもることもないのですが、いざ誰かと対面で発声する際は、言いづらい頭文字の時は呼吸が浅くなってしまうことは変わりないようです。

呼吸が浅くなってしまうことは克服が容易なようで、どもりそうになった時は、一回言うことを辞め、乱れた呼吸を深呼吸で整えることが重要なようです。

初診から約1か月後の通院で、宿題の確認から始まった日の記録です。この人は、家で一人で練習しているときはまったく詰まらないのに、人と向かい合うと同じことが起きる、と書いています。ここで書かれているのはこの人の担当者が、この人の状態に合わせて示した方針であって、誰にでも当てはまる手順ではありません。ただ、呼吸が訓練の中で扱われていること自体は、診療ガイドラインの記述とも食い違っていません。

出典: 【吃音治療】通院でのトレーニング内容を公開!(Kateブログ)(台帳: V0360)

診療ガイドラインは、条件を決めて研究を集めて評価した検討と、複数の研究の結果を統合した解析から、効果のある治療に共通して含まれていた要素を並べています。青年と大人については、まずゆっくりした話し方を集中的に練習すること、集団での訓練を含むこと、日常の場面へ移していく練習をすること、段階を追って自分で評価し管理することを含むこと、自然に聞こえる話し方を目指すこと、続けるためのプログラムを含むこと。そして最後に、引き伸ばした話し方・やわらかい声の出し始め・リズムに乗せた話し方・呼吸の調整・話すことへの構えの変化を練習すること、が挙げられています。

大人向けの訓練を詳しく説明した総説でも、中心に置かれる技法は三つ——音節を引き伸ばす、声の出し始めをやわらかくする、調音で押しつける力を減らす——で、息を十分に取ることは「補助的な技法」四つのうちの一つとして挙げられています。補助の技法は全員に課すわけではなく、多くの人は三つの中心の技法で足りるとされています。

総説が一例として詳しく紹介している米国ユタ大学の集中プログラムで、教える技法がどう分かれているかを示した図。中心の技法は3つで、音節を引き伸ばす、やわらかい声の出し始め、調音の押しつける力を減らす。補助の技法は4つで、息を十分に取る、なめらかな調音の移行、声を途切れさせない、調音の動きを十分にとる。補助の技法は全員に課すものではなく、多くの人は中心の3つで足りるとされている。呼吸にあたる「息を十分に取る」は、補助の側に置かれている
図1: 呼吸は「補助の技法」の側に置かれている。出典: Blomgren (2013) Behavioral treatments for children and adults who stutter: a review. Psychol Res Behav Manag.

つまり呼吸は、訓練の中に確かに出てきます。ただし主役としてではありません。そして、こうした評価と計画を作るのは言語聴覚士の仕事で、まず聞き取りから始め、検査で程度を見立てたうえで、本人と一緒に個別の計画を作る、という手順が示されています。

発声・呼吸訓練が、当事者の集まりから消えていった半世紀

「呼吸の練習はやりません」と掲げる立場も、いまではあります。それは最初からそうだったわけではなく、変わってきたものです。1965年に当事者の会を作った人が、その変化を自分の言葉で書き残しています。

当事者の声(日本吃音臨床研究会会長・伊藤伸二さん。1965年に言友会を創立。本人名義の自伝ページ)

当初は、参加する人の多くが治す思いが捨て切れず、例会は、発声・呼吸訓練をしていた。しかし例会以外のさまざまな活動の方が活発で楽しかった。グループに大勢の人の体験が集まることで、治療方法そのものが間違いで、治るものではないことに多くの人が気づき始めた。障害者運動、青年運動などに積極的に加わり、吃音に対する考え方が変わった。吃音矯正所と同様、吃音は治らなかったが、どもりながらも行動ができる人がどんどん育ち、あきらめていた教師の仕事に就くなど自分の人生を変えていく人もあらわれた。

会が始まった当時、例会でやっていたのは発声と呼吸の訓練でした。それが、人が集まって体験を持ち寄るうちに変わっていった、という書き方です。これは一つの団体が半世紀かけてたどった道のりであって、いまの言語聴覚療法の評価ではありません。ただ、呼吸の練習に向けられた疑いが、研究の側からではなく、続けてみた人たちの側から先に出てきたという順番は、記録として残っています。研究の側の評価は、これよりずっとあとに、もう少し細かい形で出ています。

出典: 吃音を生き抜く伊藤伸二の人生(吃音と上手につきあうための吃音相談室・日本吃音臨床研究会)(台帳: V0124)

その「細かい形」が、冒頭でも触れた線引きです。診療ガイドラインは、リズムに乗せた話し方と呼吸の調整を唯一の、あるいは主たる治療の構成要素にすること、催眠、それに分かる形の考え方を持たない吃音の治療は、行うべきでないとしています。ただし、そう言えるだけの根拠はまだ強くない、とも断っています。同じ箇所で薬物治療については「行ってはならない」とし、こちらは根拠が強いとされています。同じ「勧められない」でも、根拠の強さが違うということです。

さらに、避けるべき進め方として六つが名指しされています。日常生活へ移していく手立てを含まないもの、ぶり返しへの対処を含まないもの、短期の成果はあるが長期に追った観察の研究が無いもの、呼吸の変更や力を抜く練習だけに依拠するもの、吃音の原因やぶり返しの責任を本人や家族に負わせるもの、治ると約束して治療の目標とやり方を分かる形で説明しないもの、の六つです。呼吸法をうたう教室やプログラムを見比べるとき、この六つはそのまま物差しになります。

では、何に根拠があるとされているのか

ガイドラインは、年齢層ごとに評価を分けています。就学前の子どもでは、親が家庭で行う言葉かけの訓練(リッカム法)にいちばん良い根拠があるとされ、環境を整えるやり方にも強い根拠があるとされています。6歳から12歳については、どの治療についても確かな根拠は無いと書かれています。青年と大人については、話し方そのものを作り直す訓練に、効果の大きさも含めて良い根拠があるとされています。同じ「呼吸法は効くのか」という問いでも、答えは年齢で変わります。

その「話し方を作り直す訓練」の中身は、ゆっくり引き伸ばした話し方が中心です。ここで取り違えやすいのが「ゆっくり話す」の意味で、総説ははっきり書いています。話す速さを落とすには、発話と発話の間の休みを長く取るのではなく、一つひとつの音節を伸ばすのが最善だ、と。ここでいう「ひと息で言うまとまり」は、一度の息で話す言葉のかたまりのことです。息の取り方を変えるのではなく、音の長さを変える——これが訓練で言う「ゆっくり」です。

集中プログラムで1音節にかける時間を、段階を追って短くしていく手順を示した横棒グラフ。はじめの段階は1音節を2.0秒に引き伸ばし、そこで流暢に話せるようになってから1.0秒、さらに0.5秒へと短くし、最後は「制御された普通の速さ」まで戻す。話す速さを落とすには、発話と発話の間の休みを長く取るのではなく、一つひとつの音節を伸ばすのが最善とされている
図2: 「ゆっくり」は息の間ではなく、音節の長さで作られている。出典: Blomgren (2013) Behavioral treatments for children and adults who stutter: a review. Psychol Res Behav Manag.

ただし、この訓練にも限界が書かれています。発表された研究の幅は比較的広く、この訓練で吃音の頻度が減ることは示されている。しかし、いわゆる「純粋な」形のものは、否定的な感情や役に立たない構え、吃音にまつわる不安には触れません。そして、訓練室の中では頻度が大きく下がることがあっても、日常の話す場面で制御を保ち続けるのは非常に難しい、とされています。冒頭の記録で、家では詰まらないのに人と向かい合うと同じことが起きる、と書かれていたのと同じ場所に、研究も課題を置いています。

近年は、その測り方そのものへの問い直しも出ています。ニューヨーク大学の研究者による2026年の論考は、流暢さを治療の目標にすべきではないと論じ、流暢さをより直接に狙うと説明される治療が実際に訓練しているのは、表に出るどもりを減らすことや、方略に頼った話し方であって、流暢さそのものではない、と述べています。どもった音節の割合が減ったという数字だけでは、回避や、自分から話す気持ちの減り方、力の入り方、場に加われているかを見落としうる、とも指摘されています。代わりに、もがきを減らす・回避を減らす・自分から話すことを増やす・方略を柔軟に使う・伝わる場に加わる、という直接に狙える過程を目標に置く枠組みが示されています。

呼吸法以外の選択肢と、相談のしかた

呼吸法にたどり着く背景には、他に手段が乏しいという事情もあります。吃音に有効性が確立された薬物は無く、吃音を適応として保険に収載されている薬もありません。二次的に起きた抑うつや社交不安障害に対して薬物療法が行われることはあります。条件を決めて研究を集めてまとめた2025年の検討も、銅・チアミン・緑茶・アーユルヴェーダのサプリメントについては根拠が不十分だったとし、有望に見える所見があっても、方法上の限界のために確定的な治療の推奨はできないと結論づけています。

治療の中心に置かれているのは、環境を整えること、言語訓練、カウンセリング、心理療法・行動療法です。どの人にも一様に効く方法は無いので、その人に応じて(しばしば組み合わせて)選ぶ、という書き方がされています。大人については、話し方の訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心理面への対応が必要になるとされ、考え方や受け取り方を組み替える心理療法(認知行動療法)や、自分から吃音を周りに開示することが挙げられています。

国立障害者リハビリテーションセンターのグループでは、さらに一歩進んだ考え方の転換も試みられています。発話の症状を減らすために意図的で自然ではない話し方の制御は練習せず、自然で楽に話せている力のほうを強くしていく、という方向です。呼吸を含めた「制御」から離れる設計が、公的な研究機関の側からも出ている、ということです。

相談先として名前が挙がるのは言語聴覚士です。吃音を含むコミュニケーションの障害を見分け、対応する訓練を受けた職種で、多くの国で国の認定機関による免許や資格が求められます。子どもの場合は、地域のことばの教室も窓口になります。次のようなときは、一人で練習を続ける前に相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。

  • 言葉の出だしで喉が締まり、体に力が入るのが日常的になっている
  • 自分で呼吸法を続けているが、効果があるのかどうか自分では判断できない
  • 話す場面を避けるようになり、仕事や学校で不都合が出ている

通い始めたあとの目安も示されています。週に一度以上の頻度で3か月続けたあとには、治療の目標のどれかで目に見える改善があるはずで、無ければ方針を見直すべきだ、というものです。自助グループへの参加も、臨床の合意として勧められています。

呼吸法をめぐって陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「効いた例」が何人の・どんな話か確かめずに信じる

呼吸法の紹介では、「大学生◯名」「小学生◯名」のように、良くなった人数だけが並ぶことがあります。そこで確かめたいのは、何人を、どのくらいの期間、どうやって測ったのか、そしてその出どころが書かれているかです。診療ガイドラインは、避けるべき進め方の一つに「短期的な成功はあるが、長期に追った観察の研究が無いもの」を挙げています。良くなった話が無いことが問題なのではなく、確かめられる形で示されていないことが問題です。

落とし穴2 − 呼吸の練習「だけ」で組まれたプログラムに通う

呼吸の調整は、効く訓練に共通して含まれる要素の一つとして挙げられています。しかし同じガイドラインは、それを唯一あるいは主たる柱にすることは勧められないとし、呼吸の変更や力を抜く練習だけに依拠する進め方を、避けるべきものとして名指ししています。日常の場面へ移す練習が入っているか、ぶり返しへの対処があるか、目標とやり方が分かる形で説明されているか——申し込む前に確かめられるのは、この3つです。

落とし穴3 − 効果が分からないまま、一人で続ける

家では詰まらないのに人と話すと出る、という差は珍しくありません。訓練室の中で頻度が大きく下がっても、日常の場面で保ち続けるのは非常に難しいと総説も書いています。だからこそ、うまくいった日・いかなかった日を場面ごとに書き留めておくと、専門家に相談するときの材料になります。ガイドラインの目安(週1回以上で3か月、目標のどれかに目に見える改善)と突き合わせるにも、記録が要ります。

まずは気づいたことを書き留めておくことから小さく始め、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。

よくある質問

腹式呼吸をすれば吃音は治りますか?

呼吸の調整は、青年・大人に効くとされる訓練が共通して持っている要素の一つとして挙げられています。ただし同じ診療ガイドラインは、呼吸の調整を唯一あるいは主たる治療の柱にすることは勧められないとしています。なお、そう判断できるだけの根拠はまだ強くない、とも書かれています。大人の吃音を治す方法は現時点では無く、身につけた技法は使い続ける必要があるとされています。

話そうとすると喉が閉まります。呼吸のしかたが悪いのでしょうか?

声の出し始めが硬くなりやすく、強すぎる力と筋肉のこわばりで声を出そうとするため、どもる瞬間が起きやすくなる、という説明がされています。息の量が足りないからだ、という説明のされ方はしていません。体の緊張や呼吸の変化は、中心の症状ではなく、それに対する二次的な反応の側に並べられています。

逆腹式呼吸のほうがいい、と聞きました。どちらが正しいのですか?

手元の資料の範囲では、呼吸のしかたの種類どうしを比べて優劣を示したものはありません。診療ガイドラインが評価しているのは「呼吸の調整」を治療の中でどう位置づけるかで、吸い方の流儀ではありません。実際、当事者の記録にも、たっぷり吸うよう指導された経験と、吸うなと指導された経験の両方が残っています。

呼吸が浅いのは吃音のせいですか?

吃音のある人の呼吸が一律に浅いと述べた資料は手元にありません。ガイドラインは、呼吸の変化を、どもる瞬間に伴って起きる反応の一つとして挙げています。通院の記録の中には、どもりそうになったときに喉のまわりが緊張し呼吸が浅くなる、と担当者から指摘された例もありますが、これは一人の評価であって、全員に当てはまる特徴ではありません。

呼吸法を練習するなら、どこに相談すればいいですか?

吃音の治療にふさわしい担い手は言語聴覚士とされています。聞き取りから始め、検査で程度を見立て、本人と一緒に個別の計画を作る、という手順が示されています。子どもの場合は地域のことばの教室も窓口です。週に一度以上の頻度で3か月続けて、目標のどれかに目に見える改善が無ければ方針を見直すべきだ、という目安もあります。

まとめ

  • 呼吸の調整は、青年・大人に効くとされる訓練が共通して持つ要素の一つとして、診療ガイドラインに挙げられている。大人向けの訓練の説明でも、息を十分に取ることは補助的な技法の一つに置かれている。
  • 一方で、呼吸の調整やリズムに乗せた話し方を唯一あるいは主たる柱にした治療は勧められないとされ、呼吸の変更や力を抜く練習だけに依拠する進め方は避けるべきものに挙げられている。ただしその根拠は強くない、とも書かれている。
  • 喉が閉まる感覚は、息の量ではなく、声の出し始めの力の入り方とこわばりの側から説明されている。呼吸の変化は二次的な反応の側に並べられている。
  • 「ゆっくり話す」は、息の間を空けることではなく、一つひとつの音節を伸ばすことを指す。近年は、流暢さそのものを目標に置かず、もがき・回避・自分から話すこと・場への参加を目標にする枠組みも提案されている。
  • 吃音に有効性が確立された薬は無く、保険に収載された薬もない。サプリメントの類も根拠が不十分とされている。相談先は言語聴覚士とことばの教室で、通い始めて3か月が一つの見直しの目安になる。

参考文献

  1. Neumann et al. (2017) The Pathogenesis, Assessment and Treatment of Speech Fluency Disorders. Dtsch Arztebl Int.(ドイツの17の専門学会による診療ガイドライン)
  2. Blomgren (2013) Behavioral treatments for children and adults who stutter: a review. Psychol Res Behav Manag.
  3. Jackson (2026) Fluency Should Not Be a Goal in Stuttering Therapy. J Speech Lang Hear Res.(ニューヨーク大学)
  4. Horton, Forbes, Scheffer, Reilly, Shepherd & Morgan (2025) Pharmacological and dietary treatments for developmental stuttering: A systematic review. Neurosci Biobehav Rev.
  5. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「治療の解説」(kitsuon-kenkyu.umin.jp)
  6. 北條具仁「〔トピックス〕青年期吃音に対する認知行動療法を用いた最新治療−グループ介入研究のご紹介−」(国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.361)

当事者の声の出典: V0242(note・葬儀社のナレーション担当のエッセイ)/ V0488(日本吃音臨床研究会「スタタリング・ナウ」の座談会の再掲)/ V0360(個人ブログ・北里大学病院の吃音外来に通う人の通院記録)/ V0124(日本吃音臨床研究会・伊藤伸二さんの自伝ページ)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開