まず結論から
- 幼児期に吃音が始まる時点では、男女の差はそれほど大きくありません。差が開くのは、そのあとです。日本の公的な研究機関の解説は、吃音のある人の男女比は3〜5対1くらいで男性に多いが、幼児期に男女差はあまりないと書いています。
- 大人になってからの偏りは大きく、持続している大人の当事者のうち女性は5人に1人と報告されています。子ども時代から思春期にかけて比が変わり、大人では男性3〜4人に対して女性1人になる、という整理もあります。
- 「少ない」は「軽い」という意味ではありません。13〜17歳の56人(女子26人・男子30人)を比べた調査では、女子のほうが吃音の影響を大きく報告しており、その差は表に出る症状の重さの違いでは説明がつかなかったとされています。
- 吃音を隠している若い女性11人に聞き取った研究では、恥ずかしさと「まわりに合わせたい」という思いが隠す動機として浮かび、吃音のある女性のロールモデルがいないことが、女性であることの独特のつらさとして語られました。
- 研究の側にも偏りがありました。2026年の総説は、男性が多数を占める標本に繰り返し頼ってきたことが、性別に偏った根拠の土台を作り、女性の経験と臨床上の必要が見えにくくなってきたと指摘しています。
ただし、これらは大勢をまとめた傾向であって、一人ひとりの見通しではありません。10代の比較は56人を一時点で測った調査で、女子だから重くなるという筋道が確かめられたわけではありません。隠す女性の研究も11人への聞き取りで、女性全体を代表するものではありません。
「女の子は治りやすい」と言われて育つこと
吃音のある女の子は、成長の途中で何度も「そのうち治るよ」と言われます。実際に幼児期に始まった吃音の多くは収まっていきますし、女の子のほうが収まりやすいという報告もあります。だからこそ、治らなかった側に回ったとき、その言葉は行き場を失います。
大阪府堺市でイラストレーターとして働く24歳の女性は、小学2年の音読でからかわれ、泣いて帰った日に読んだ少女漫画から漫画家という夢を持ちました。専門学校で受賞するほどの作品を描きながら、発表のある授業の日は学校を休んでいました。就職した病院の朝礼では、院長から「障害者を雇っていると思われるから、ちゃんと話して」と言われ、2か月で退職しています。
吃音のある女性・ゆゆぱんちさん(24歳・イラストレーター/DTPデザイナー。宗教専門紙が運営する福祉メディアのインタビュー)
大人になっても、周囲にできるだけ吃音がばれないように生きてきました。周りからは『いつか治る』と言われ続けてきましたが、今でも完璧には治りません。今、小さいお子さんで吃音を持つ子がいたとしても、安易に治るという期待をかけないでほしい。たとえ治らなくても話を聞いてくれるんだ、と思えれば、安心して過ごせるのですから
退職までの経緯を語ったすぐあとに置かれた言葉です。この人は、中学と高校では「人前で話すと治る」という話を聞いて生徒会に立候補し、緊張でパニックを起こして冷や汗をかきながら、周囲から「そんなんでよくやるよな」と嫌みを言われてもやり切ったと記事は伝えています。やり切った経験が今の話し方の工夫につながっているとも本人は述べています。それでも、治るかどうかとは別の話でした。最後の一文が向けられているのは、子どもではなく、その子のまわりにいる大人です。この「いつか治る」という期待が、どんな数字を背景に語られてきたのかを見ておきます。
出典: 吃音症のイラストレーター(福祉仏教 for believe/文化時報)(台帳: V0110)
国立障害者リハビリテーションセンターの資料は、吃音が自然に消えるのは出はじめてから約2〜3年以内がほとんどで、この時期を過ぎても消えない場合は医療・教育機関で相談することが勧められる、と書いています。同じ資料に、吃音がある人の男女比は3〜5対1くらいで男性に多いが、幼児期に男女差はあまりないという一文が続きます。始まりの時点では差が小さい、という点は疫学の総説でも同じで、大人の当事者で4対1以上の偏りが古くから知られている一方、発症直後の幼い子どもではその比はずっと小さく、年齢が低いほど比は小さくなると報告されています。
では、いつ差がつくのか。2004年の総説は、回復が男の子より女の子でかなり多く、その結果として男女比が子ども時代から思春期にかけて変わり、大人では男性3〜4人に対して女性1人になると述べています。2024年の総説は、持続している大人の当事者のうち女性は5人に1人だと書いています。同じ総説は、なぜ女の子のほうが回復することが多いのかを、歌うときに吃音が出ないのはなぜか、といった問いと並べて、まだ解けていない三つの謎の一つとして挙げています。つまり「女の子は治りやすい」は観察された傾向であって、理由はまだ説明できていません。
⚠ この「治りやすさ」の差は集団の話です。2004年の総説自身、回復がひとりでに起きたものか早期の言語療法によるものかはどの程度なのかはっきりしない、と断っています。一人の子について、性別から先の見通しを決められる材料ではありません。
10代のころ、なぜいちばん重く感じるのか
小学校の高学年から高校にかけて、吃音は「話しにくい」だけの問題ではなくなります。誰とどう見られるかが日々の中心になる時期に、声が出ないという出来事が重なっていきます。
2009年、東京都小平市の中学校生徒意見発表会で、中学2年の女子が学校代表として弁論を読みました。原稿は自助団体のサイトに全文が残っています。彼女がいちばん困る場面として最初に挙げたのは、発表でも音読でもなく、お礼を言う場面でした。
吃音のある中学2年の女子・原空留未さん(2009年1月8日、小平市教育委員会主催の中学校生徒意見発表会で発表した原稿。自助団体のサイトに掲載)
私が日常でよく困る事はお礼を言う時です。友達からプレゼントを貰った時、「ありがとう!とっても嬉しい。」と、すぐに言いたい喜びの表現が声にならず、黙ってしまいます。私の反応を見た友達が、「ごめん。嬉しくなかった?」と聞き返してきます。そんな時、内心(とても嬉しいのに感謝の気持ちも表現できないなんて……)と、自分に腹が立ちます。
贈り物を受け取った直後の、ほんの数秒の場面です。喜んでいないと受け取られることへの怖さが、喜びそのものより先に語られています。同じ原稿には、授業中に意見を発表していたら、半分ほど話したところで先生に結論をまとめられてしまい、「違います。」という言葉も出てこなかったという場面も書かれています。彼女はその後、両親に連れられて受診した先で言語聴覚士に出会い、「治す事より、これから吃音とどう付き合っていくかを考えよう」と言われたこと、紹介された小中高校生の集まりで、吃っても皆が静かに次の言葉を待っていてくれたことを続けて書いています。この年代に何が起きているのかは、研究の側でも男女に分けて測られています。
出典: ともに―吃音と生きる―(小中高校生の吃音のつどい)(台帳: V0069)
カロリンスカ研究所とオーボアカデミー大学の研究者らは、13〜17歳の吃音のある10代56人(女子26人・男子30人)に、吃音が自分の生活にどれくらい影響しているかを尋ねる質問紙に答えてもらいました。あわせて、吃音のない10代233人にも、話すことと人に伝えることへの構えを尋ねる形に直した同じ質問紙に答えてもらい、男女の差を比べています。
結果は、女子のほうが、吃音が自分の生活に及ぼす影響を大きく報告したというものでした。平均すると0.5点分高く、統計上の目安で見ても小さな差ではありません。重要なのは次の点です。この差は、表に出る吃音の症状の重さの違いによって生じたようには見えなかったと原典は書いています。差が大きかったのは、日々のやりとりの難しさと、吃音に対する気持ちや行動の反応に関わる項目でした。同じような男女差は、吃音のない10代ではここまではっきりしていませんでした。結論として、女子のほうがより否定的な経験を報告し、避けるやり方を使う傾向が強い、とまとめられています。
不安についても、同じ方向の報告があります。米国の全国調査のデータを分析した研究は、その考察で、7〜12歳の吃音のある子ども、とくに女の子は、社交不安症を持つ確率が6倍、全般性不安症を持つ確率が7倍高いという先行研究を挙げています。同じ箇所では、吃音のある子どもの大多数が友達からのいじめやからかいを経験し、友達づくりの難しさ、否定的な自己認識、恥ずかしさ、自信のなさを経験するという報告も並べられています。日本の公的な資料も、成長とともに周囲から指摘される場面が増え、話す前に不安を感じたり、話す場面に恐怖を感じたりするようになる、と説明しています。
⚠ この不安の起こりやすさの値は、上の研究が自分で測ったものではなく、考察で引用している別の研究の値です。10代の比較も、ある一時点で56人に尋ねた結果です。「女子だから重くなる」という順序が確かめられたわけではありません。
見えないほうへ — 話さないことで消える困りごと
吃音は、黙っていれば表に出ません。言いにくい言葉を避け、言い換え、話す量そのものを減らせば、周囲には「無口な人」としか見えなくなります。困りごとは消えたのではなく、外から見えない場所に移っただけですが、その移動は本人にも気づきにくいものです。
3歳で吃音が始まり、小学2年のときに書いた日記で自分と周りの違いを感じ始めた女性がいます。中学1年の自己紹介では、名前が言えないまま授業終了のチャイムに声をかき消され、そのあと自分から吃音のことを伝えました。笑っていた男子たちが謝りに来たことを、達成感として書いています。その同じ人が、日常の話す量について、次のように書いています。
吃音のある女性・和智南生さん(21歳前後。NHK厚生文化事業団「第56回NHK障害福祉賞」佳作作品として全文が公開されている手記)
学校での生活や、日常での生活や家での生活の中で、皆さんは自分の話したいことのどのくらいの量を話すことが出来ているのだろうか。私は多分半分も話せていない。「家で、学校でこんなことがあってね。だれだれちゃんとこんなことをしてね……」と小学校・中学校・高校・大学と私はこの様な話をあまりしてこなかった。正直、沢山沢山話をしている姉が羨ましいと思ってしまった日もある。言い返したいことがあっても、嫌なことがあっても、自分の心の中でその思いを押しつぶすしかなかった。
読み手に問いかける形で始まり、自分の答えを「半分も話せていない」と置いています。比べる相手として出てくるのは、同じ家で暮らす姉です。この人は通級指導教室「きこえとことばの教室」に通えたのはほんの数回だと書きながら、そこで大事だったのは吃音を治す勉強ではなく、時間を気にせずに自分の話したい話ができることだった、と振り返っています。高校では自己紹介の前に吃音のことを先に伝え、大学では言語聴覚士を目指しています。話さなかった分量は誰にも数えられませんが、それが本人に何を残すのかは、聞き取りの研究が扱ってきました。
出典: 「これが私の人生と言える様に 〜吃音と過ごした21年〜」(NHK厚生文化事業団)(台帳: V0112)
カロリンスカ研究所・オーボアカデミー大学・ウプサラ大学の研究者らは、吃音を隠しながら過ごしている若いスウェーデン人女性11人に聞き取りを行いました。この研究が出発点に置いているのは、女性のほうが男性よりも、話す必要のある場面を避けるような、吃音を覆い隠す方向の対処を使う傾向がある、という先行研究の指摘です。
聞き取りからは三つの柱が浮かびました。吃音をやりくりすること、本人に関わる側面、そして現象としての吃音です。隠す動機としてはっきり現れたのは、恥ずかしさと、まわりに溶け込みたいという思いでした。女性たちは、吃音が人生の選択と日々の暮らしの両方を支配していたと語り、自分をどう見るかの育ち方が強く否定的な影響を受け、その結果として人前での強い不安に至ったと述べています。そして、女性らしい振る舞いについての社会の枠組みと、吃音のある女性のロールモデルがいないことから、吃音のある女性であることには独特のつらさがあると語られました。原典は結論として、対処の仕方を選ぶ動機は「普通でいたい」という願いであり、その結果として吃音が生活を支配するようになったと整理し、臨床家がこの点に注意を向けることの重要性を強調しています。
外から見える症状の重さが本人の負担をそのまま表さないことは、神経科学の総説も別の角度から書いています。吃音は同じ人の中でも日・週・月の単位で重さが揺れ、見え方や聞こえ方は場面や気持ちの状態によって変わり、音や語を避ける・言い換える・つなぎ言葉を入れるといった隠す手立ては人によっても場面によっても違う。だから、表に出る吃音を目印にしてきた研究の知識は不完全だ、と同じ総説は認めています。
歌えるのに、話せない — 大人になってからの場面
吃音のある人の多くが、歌うときには吃らないと言います。カラオケでもコーラスでも声は出るのに、曲と曲のあいだの一言が出ない。この落差は、楽しみの場面だけでなく、仕事の場面でも同じ形で現れます。
兵庫県丹波市の介護施設に長年勤める60歳の女性は、小学校低学年のころ、本を思うように音読できずに吃音を自覚しました。大学時代はロックバンドのボーカルでした。
吃音のある女性・越賀美穂さん(60歳・介護職。地方紙の人物欄の取材記事。引用部分は記者が書いた地の文)
大学時代はロックバンドに所属し、ボーカルを務めた。歌ならスムーズに歌えたが、場の進行(MC)ができずに歌の道を諦めた。吃音を疎ましく感じ、丹波市内の介護施設で長年勤めながらも、他人には隠してきた。
歌えるかどうかではなく、曲と曲のあいだを言葉でつなげるかどうかが、進路の分かれ目になった場面です。記事はこのあと、50歳のころ、息子2人の自立をきっかけに「人生でやり残したことはないか」と考えるようになり、治療に取り組むなかで同じ吃音のある多くの仲間と出会ったこと、悩みを打ち明けて「一人ではない」と感じたことを伝えています。今は自身の経験を題材にした曲を歌うライブと講演を続け、「不便はあるが、不幸なことではない」と強調しているとも書かれています。なぜ歌では出ないのかという問いは、当事者だけのものではありません。
出典: 「吃音」当事者として歌や講演で理解深める 越賀美穂さん(丹波新聞)(台帳: V0133)
2024年の神経科学の総説は、この現象を未解決の謎の筆頭に置いています。話すときには吃音が起きるのに、歌うときには起きないのはなぜか。伝える相手がいる場面では起きるのに、誰にも伝えない発話では起きないのはなぜか。そして、女の子のほうが回復することが多いのはなぜか。この三つの背後にある脳のはたらきを調べることが、吃音の根本的な性質と、一部の人で続く理由を明らかにしうると書かれています。
場面によって出方が変わる理由については、別の理論からの説明もあります。2022年の論文は、自動的に出てくる話し方と、意識して組み立てる話し方の、どちらかに大きく偏った発話は流暢になりやすいと述べています。とっさの叫びや決まり文句は前者、訓練で習う新しい話し方は後者で、どちらも頭の中でのぶつかり合いが小さいからです。逆に、慣れきっているのに強く意識もしなければならない発話でいちばん起きやすく、その代表が「名前を言ってください」と言われて自分の名前を言う場面だと説明されています。同じ論文は、吃音に特有の詰まりは反応的なもので、作戦として出しているのではなく、「どもりたくない」と最も強く思っているときにこそ起きると書いています。
職業の場面に吃音が及ぼす影響は、2024年の総説も定義の段落で触れています。表に出る症状として、詰まって声が出ない状態(難発)・音や音節の繰り返し(連発)・音の引き伸ばし(伸発)を挙げたうえで、まばたきや顔をしかめるといった付随する動き、恥やもどかしさから人前での強い不安に至る見えない帰結、そして教育と就職・就労の成果にまで及ぶ壁までを続けて述べています。仕事選びそのものについては吃音症の仕事で別に扱っています。
研究のほうにも偏りがあった
「女性の吃音について知りたい」と思っても、参照できる材料が少ない。これは気のせいではなく、研究の作られ方にも理由がありました。
2026年に発表された総説は、吃音のある女性が研究と臨床の両方で、歴史的にほとんど分析の対象として扱われてこなかったと述べています。持続する人の男女比が男性に偏っていることが標本の構成にある程度影響しているのは確かだが、男性が多数を占める標本に繰り返し頼ってきたことも、性別に偏った根拠の土台を作ってきた、というのがこの総説の指摘です。その結果、女性の経験と、臨床で必要とされることへの見通しが限られてきたとされます。
もう一つ、この総説が挙げているのは、女性と男性のデータをひとまとめにして扱うことが多かったという点です。分析の仕方と報告の慣習が、根拠の土台のなかで女性の姿をどれだけ見えるようにしてきたかを検討したうえで、研究・臨床・専門職の教育それぞれについての課題が示されています。生物学的・心理的・社会的・コミュニケーションに関わる要因が、女性の吃音の経験を臨床的に意味のある形で形づくっている可能性がある、という言い方がされています。
語りの側から同じ空白を埋めようとした研究もあります。ビンガムトン大学の研究者らは、吃音のある女性たちが自分の話を語るポッドキャストの、2010年から2025年までに収録された80回分を分析しました。浮かび上がったのは四つの柱で、生活のさまざまな領域に及ぶ多面的な影響、流暢さだけではない内面の風景、もがきから強さへ向かう歩み、そして分かち合える場を持つことの力です。打ち明けること、同じ立場の人とのつながり、治療の場で受け止められることが、隠すことから力を得ることへの道筋を形づくっていたと述べられています。
⚠ この2本はどちらも、集めた材料を読み解いて論じたものです。ポッドキャストの分析は、自分から語った人たちの話であり、吃音のある女性全体の縮図ではありません。総説のほうは、これから何を調べるべきかを提案する立場で書かれた文章です。
どこに相談できるのか
「女性だから治ると思っていたのに治らなかった」「困っているほどではない気がして誰にも言っていない」——どちらも相談してよい内容です。話す量を減らすことで日常が回っているように見えている場合は、とくにそうです。
国立障害者リハビリテーションセンターの資料は、自然に吃音が消えるのは出はじめてから約2〜3年以内がほとんどで、この時期を過ぎても消えない場合は、吃音について医療・教育機関で相談することが勧められると書いています。子どものころに相談しなかったまま大人になった場合も、この入口が閉じるわけではありません。
大人になってからの取り組みについても、同じ機関の資料に記載があります。従来の成人向けの訓練法として、話し方に直接はたらきかけるやり方と、考え方や気持ちの面からはたらきかけるやり方があることと、その限界が説明されたうえで、吃らない話し方を練習しない形のグループでの認知行動療法——つまり、流暢に話すことではなく、話す場面への向き合い方を扱う取り組み——が紹介されています。
次のようなときは、一人で抱えずに相談を考えてみてください(当てはまらなくても相談して構いません)。
- 発表や電話のある日を避けるために、学校や仕事の予定そのものを組み替えている
- 言いたいことがあっても言わずに済ませる回数が、自分でも数えられないほど増えている
- 話すことを考えると眠れない日や、人と会う場面を続けて断っている時期がある
この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。1つめと2つめは、吃音を覆い隠す方向の対処が生活の選択を支配しうるという聞き取りの結果と、女子のほうが避けるやり方を使う傾向が強いという報告にもとづいています。
「吃音のある女性」をめぐる3つの落とし穴
落とし穴1 − 「女の子は治る」を、一人の見通しとして使ってしまう
女の子のほうが回復することが多いというのは、大勢をまとめた傾向です。2024年の総説は、なぜ女の子のほうが回復しやすいのかを、いまだ解けていない謎の一つとして挙げています。理由が分かっていない傾向を、目の前の一人の子の将来として言い渡すことはできません。当事者本人からは、安易に治るという期待をかけないでほしい、たとえ治らなくても話を聞いてくれると思えれば安心して過ごせる、という言葉が出ています(台帳: V0110)。
落とし穴2 − 表に出ていないことを、困っていない証拠だと思う
10代の比較では、女子のほうが吃音の影響を大きく報告し、その差は表に出る症状の重さの違いでは説明がつかなかったとされています。隠している若い女性11人への聞き取りでは、吃音が人生の選択と日々の暮らしの両方を支配していたと語られました。症状の見え方は日や週で揺れ、隠す手立ては人によっても場面によっても違います。外から見えるものだけで重さを決めると、いちばん重い時期を見落とします。
落とし穴3 − 同じ経験をした人がいないと思い込む
隠している女性への聞き取りでは、吃音のある女性のロールモデルがいないことが、女性であることの独特のつらさとして語られました。ただし、いないのではなく、見えにくいのです。女性当事者の語りを80回分集めて分析した研究では、分かち合える場を持つことの力が四つの柱の一つとして挙げられています。中学2年の原稿にも、吃っても皆が静かに次の言葉を待ってくれる場に出会い、自分一人が悩んでいるわけではないと気づいた、という記述が残っています(台帳: V0069)。
そのうえで、どんな場面で言葉が出にくかったか、どんな場面では楽だったかを書き留めておくと、相談するときに自分の状態を説明しやすくなります。相談できる場合は、言語聴覚士やことばの教室に相談するのが確実です。
よくある質問
「吃音ガール」「吃音女子」とは、特定の人のことですか?
特定の人物や役名を指す決まった言葉ではなく、吃音のある女の子・女性を指す呼び方として使われている言葉です。研究の世界では「吃音のある女性」という言い方で、独立した分析の対象として扱うべきだという提案が2026年に出されています。この記事でも、実在する女性当事者の語りと、男女に分けて測られた研究だけを扱っています。
吃音のある女性は、男性より少ないのですか?
大人ではそうです。吃音がある人の男女比は3〜5対1くらいで男性に多いとされ、大人では男性3〜4人に対して女性1人という整理もあります。持続している大人の当事者のうち女性は5人に1人という報告もあります。ただし、幼児期に吃音が始まる時点では男女差はあまりなく、差は成長の過程で開いていきます。
女の子のほうが治りやすいというのは本当ですか?
回復が男の子より女の子でかなり多いという報告はあります。ただし、なぜそうなるのかは説明されておらず、2024年の総説はこれを未解決の謎の一つとして挙げています。また、ひとりでに収まったのか早期の言語療法によるものなのかも、はっきりしないと書かれています。個人の見通しを性別から決められる材料ではありません。
10代の女の子のほうがつらいというのは、研究で示されていますか?
13〜17歳の56人(女子26人・男子30人)を比べた調査では、女子のほうが吃音の影響を大きく報告し、平均して0.5点分高い結果でした。この差は、表に出る吃音の症状の重さの違いでは説明がつかなかったとされています。ただし一時点で測った調査で、人数も多くはありません。
まわりに吃音のある女性が一人もいません。どうすればいいですか?
吃音のある女性のロールモデルがいないことは、聞き取り研究でも語られた困りごとです。女性当事者の語りを分析した研究では、分かち合える場を持つことが四つの柱の一つとして挙げられ、打ち明けることや同じ立場の人とのつながりが、隠すことから力を得ることへの道筋を作っていたとされています。相談先としては、医療・教育機関という入口が公的な資料に示されています。
まとめ
- 幼児期に吃音が始まる時点では男女差はあまりないが、大人では男性3〜4人に対して女性1人の比になり、持続している大人の当事者のうち女性は5人に1人と報告されている。
- 女の子のほうが回復することが多いのはなぜか、その理由はまだ説明されておらず、2024年の総説は未解決の謎の一つとして挙げている。
- 13〜17歳の56人を比べた調査では、女子のほうが吃音の影響を大きく報告し、その差は表に出る症状の重さでは説明がつかなかった。学齢期では、とくに女の子で不安の起こりやすさが高いという先行研究も引かれている。
- 吃音を隠している若い女性11人への聞き取りでは、恥ずかしさとまわりに溶け込みたい思いが隠す動機として現れ、女性のロールモデルがいないことが独特のつらさとして語られた。
- 研究そのものが男性中心の標本に頼ってきたことが、性別に偏った根拠の土台を作ってきたと2026年の総説が指摘している。女性当事者の語り80回分の分析では、分かち合える場を持つことの力が柱の一つに挙げられた。出はじめから2〜3年を過ぎても消えない場合は、医療・教育機関で相談することが勧められている。