吃音で結婚できない?|180人調査・打ち明けた日・式のスピーチ

目次

「この話し方で、誰かと一生を一緒に過ごせるのだろうか」「打ち明けたら引かれるのではないか」「相手の家族に何を言われるだろう」「披露宴の挨拶なんて、できるわけがない」——吃音(きつおん)があると、結婚という言葉のまわりに、いくつもの想像が先回りして並びます。まだ何も起きていないうちから、その想像だけで話が終わってしまうこともあります。

この記事は、その想像をひとつずつ、実際の場面と研究に置き換えていきます。筑波大学の研究者らを中心とするグループが日本の当事者180人に行った「自分から打ち明けること」の調査、マッコーリー大学などの研究者らが生活の質と生涯の負担をまとめたレビュー、モントクレア州立大学の研究者らが316人を隠せている感覚で分けて比べた研究、そして日本言語聴覚士協会の相談先の案内を、打ち明けた日・一緒に暮らす側・結婚式という4つの場面の語りと並べて、出典つきで示します。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 「吃音があると結婚できない」と確かめた研究は手元にありません。この主題で実際に測られてきたのは、吃音を自分から打ち明けるかどうかと、隠したまま過ごすことが本人に何をもたらすかです。
  • 日本の当事者180人の回答を分析した調査では、自分から打ち明ける度合いは、同じ尺度を使った米国の調査より低いという結果でした。言い出せないのは、あなた一人の性格の問題ではありません
  • 同じ調査で、自助グループに参加した経験がある人、自分を受け入れている度合いが高い人、そして周りの否定的な見方を自分のものとして取り込んでいる度合いが低い人ほど、打ち明ける度合いが高いという関連が出ています。
  • 「相手に気づかれていないから大丈夫」とは言えません。成人316人を「どちらかといえば隠せている」「どちらかといえば表に出ている」で分けた研究では、隠せていると答えた側のほうが、生活の質も、社会的な役割への満足も、話す量も低いという結果でした。
  • 評価される場面では、最初にひと言伝えることが効いたという実験があります。模擬の就職面接では、吃音のある候補者は全体として低く評価されましたが、冒頭で吃音があると伝えた条件では、吃音のない候補者と同じくらい高く評価されました。

ただし、これは「こう言えばうまくいく」という手順の話ではありません。隠せている感覚と生活の質を比べた研究はある時点で測った関連で、隠すことがそれを引き起こしたとは書かれていません。面接の実験も、大学生58人が動画を見て付けた印象であり、交際や結婚という長い関係を再現したものではありません。

「結婚できない」と言うとき、何を先に諦めているのか

「吃音があるから結婚できない」という言い方には、二つの別のことが混ざっています。ひとつは、相手に選ばれないのではないかという心配。もうひとつは、人と深く付き合うこと自体を、自分の側で先に手放してしまうことです。後者は外からは見えません。

自助団体が開いた保護者の話し合いの席に、自分自身にも吃音がある母親がいました。その人は、自分の結婚をこう振り返っています。

自身も吃音のある母親(自助団体が開いた第7回島根スタタリングフォーラム「親の話し合い」の記録。発言者は匿名)

私はどもるため、不安、恐怖の連続で、自分が受け入れらなかった。今回、「受け入れておられますね」と言われたのですが、ここでは隠さなくていいのでいろいろしゃべりましたが、吃音をまだ受け入ていないと思います。私にとって、結婚は逃げ場で、必要最低限のことだけしゃべればよかったのです。

話し合いの場で、進行役から「受け入れておられますね」と言われたことへの返答として語られた言葉です。ここでは隠さなくていいのでたくさん話した、と断ったうえで、それでもまだ受け入れていないと自分で否定しています。そのすぐ後に置かれているのが、結婚は逃げ場だった、必要最低限のことだけしゃべればよかった、という一文です。結婚できなかったという話ではなく、話さずに済む場所として結婚を選んだ、という順序が語られています。同じ席で、この人は働くと言っている息子に親として寄り添っていきたいとも述べています。話す場面を減らす方向に生活を組み直すことは、研究でも正面から扱われてきました。

出典: 第7回島根スタタリングフォーラム「親の話し合い」(日本吃音臨床研究会「吃音相談室」)(台帳: V0115)

吃音のある大人の日常の過ごし方を調べた研究は、その考察で次のように整理しています。吃音のある人は、会話がうまくいかないことを恐れて人づきあいの場や仕事の場を避けやすく、その回避が日々の役割を続けにくくする。さらに吃音は、人づきあい・学業・仕事のそれぞれの領域で、本人にとって意味のある活動から遠ざかる方向にも働きうる。この研究自身が測った結果としても、吃音のある人の群は、日々の役割の釣り合いと生活の満足度の両方で、吃音のない人の群より得点が低く、吃音が重いほどどちらの得点も下がっていました。

ここで注意しておきたいのは、この数字が「一人ひとりの見通し」ではないことです。大勢を平均した差であって、特定の誰かが結婚できるかどうかを言っているわけではありません。実際、同じ研究は、検査で測った吃音の重さと本人が感じている負担は必ずしも一致しないとも書いています。「軽いのだから困っていないはず」も「重いのだから無理だ」も、同じように成り立ちません。

いつ、どう打ち明けるか — 交際相手に言った日

付き合いが続くほど、言いそびれた時間も長くなります。早く言えばよかった、という後悔と、今さら切り出すきっかけがない、という膠着が同時に起きるのが、この場面の厄介なところです。

2012年の夏、当時の交際相手と食事をしていた女性が、思い切って「今日は話さないといけないことがあるねん」と切り出しました。すると相手も、自分にも話さないといけないことがあると言います。先に話した相手の打ち明け話は、株で損をしたというものでした。

吃音のある女性・林佳代さん(教員。自助団体の会報に載ったことば文学賞の受賞作)

「実は…私…どもるねん…」 とおそるおそる言ったが、「あっ、そうなんや! もっと重大なこと言われるのかと思ってドキドキした。さあ、ご飯食べよう」 と言って笑われた。 「私が一番気にしている吃音のことを言ったのに、その反応はないやろう!」と心の中で思った。私は彼に自分がどもることを話せてほっとしたのと同時に、「この人、吃音のこと全然わかってないな」と感じた。今まで私が吃音でどんなに悩んで苦労してきたか、私の気持ちをわかってくれてないなと思った。

おそるおそる差し出した一番の気がかりが、笑いで受け止められた場面です。ほっとした気持ちと、分かってもらえていないという気持ちが、同じ一瞬に並んでいます。この日の話はそこで終わりますが、書き手は同じ文章の中で、しばらくしてから相手のほうが「僕も話すことにコンプレックスがあるねん」と切り出してきたこと、その話を聞いて、自分だけが吃音で苦しい思いをしてきたと思い込んでいたと気付いたことを書いています。二人は翌年に結婚し、書き手は結婚して3年たった時点で、夫はどんなにどもっても最後まで話を聞いてくれるので、この人の前ならいくらどもってもいいという安心感がある、と記しています。打ち明けるという行為そのものは、日本の当事者を対象にした調査でも測られています。

出典: 2015年度 第18回ことば文学賞 2(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」)(台帳: V0163)

筑波大学の研究者らを中心とするグループは、吃音を自分からどれだけ打ち明けているかを測る海外の尺度について、日本語版を作ってその性能を確かめ、打ち明ける度合いに関わる要因を調べました。日本の自助グループや著者らの伝手を通じて成人を募り、オンラインの調査に答えてもらい、信頼できない回答と重複を除いた180人分を分析しています。

結果として、打ち明ける度合いは、同じ尺度を使った米国の調査より低いという値でしたそして、男性であること、自助グループに参加した経験があること、自分を受け入れている度合いが高いこと、そして周りの否定的な見方や決めつけを自分のものとして取り込んでいる度合い(研究の言葉では「自己スティグマ」)が低いことが、より高い打ち明け方と結びついていました。原典は、日本の当事者が過去の調査の集団より低い度合いを報告する傾向について、社会文化的な違いを反映しているのかもしれない、と述べています。

この調査は自助グループなどを通じて集めた人たちの回答なので、日本の吃音のある大人全体を代表しているわけではありません。また、ここで出ているのは「関連」であって、自助グループに行けば打ち明けられるようになる、という順序が確かめられたわけではありません。

では「どう言うか」に違いはあるのでしょうか。シラキュース大学の研究者らは、否定的に見られうる特徴をあらかじめ相手に知らせることを「先に伝えること」と定義したうえで、模擬の就職面接の動画でその効果を調べました。俳優が、吃音なし・吃音があって何も言わない・吃音があって冒頭にひと言添える、の3通りの面接を演じ、大学生58人がそれを見て評価しています。冒頭のひと言は「自分には吃音があることをお伝えしておきます」にあたる、謝らない言い方の短い一文でした。

結果は二段構えでした。まず、吃音のある候補者は全体としては低く評価されました。そのうえで、冒頭で伝えた条件では、吃音のある候補者が吃音のない候補者と同じくらい高く評価されるという結果が出ています。冒頭に置いた理由について著者らは、吃音を早い段階で伝えるほうが後から伝えるより聞き手の受け止めに効く、という先行研究を挙げ、あらかじめ知らされていれば、相手の振る舞いをどう受け取るかを本人が調整できるからではないか、と推測しています。

⚠ この実験が測ったのは採用の実績ではなく、動画を見た人が付けた印象です。面接の場面での判断そのものは吃音面接のカミングアウトの記事で扱っています。恋人や配偶者との長い関係に、この結果をそのまま当てはめることはできません。それでも、先に伝えるという形が印象の上でどう働くかを、評価の場面について具体的に確かめた例ではあります。

一緒に暮らす人は、どこまで知っているのか

打ち明けていないまま関係が続くこともあります。相手が何も言わないのは、気づいていないからかもしれませんし、気づいていて触れずにいるのかもしれません。どちらなのかは、聞いてみるまで分かりません。

ある女性は、夫が自分の吃音に気づいた日のことを書いています。30歳を目前にしたある日、テレビで吃音の特集を観ていたときのことでした。

吃音のある夫と暮らす女性(母・妻の立場から家族のことを書いている個人ブログ・note)

画面の中の当事者の話を聞きながら、夫はぽつりとこぼしました。

「俺、吃音だったんだ……」

──そのとき、私も初めて知りました。

彼が時おり、言葉の出だしで詰まることがあったけれど、 それが 「吃音」だということを、その瞬間に理解した のです。

妻の側から書かれた場面です。夫が言葉の出だしで詰まることがあるのは、それまでも見えていました。見えていなかったのは、それに名前があるということのほうでした。書き手は続けて、夫が子どもの頃に自己紹介が苦手で、言いにくい言葉を避けて話す癖があったこと、それでも誰にも相談できず、親もその話題に触れることはなかったと夫が語ったことを書いています。むしろ親のほうが吃音に触れることを避けていたように思う、というのが夫の言い方でした。打ち明けるかどうか以前に、本人が何と呼べばいいのか分からないまま暮らしていることがある——そのあいだ何が起きているかは、研究の側でも調べられています。

出典: #12 三代続く吃音。「話せない」は、ほんとうに「できない」なのか?(note)(台帳: V0087)

モントクレア州立大学の研究者らは、吃音のある成人316人に、他人に気づかれないよう隠すことにどれくらい成功していると思うかを尋ねました。その答えをもとに、どちらかといえば表に出ていると考えている群と、どちらかといえば隠せていると考えている群に分け、不安、生活の質、社会的な役割への満足、話す量、そして吃音が自分にとってどれだけ大きな問題かを比べています。

自分で評価した「隠せている度合い」は、調べたすべての指標と有意な関連を示しました。そして年齢などの背景を考慮したうえで、隠せていると答えた群のほうが、吃音を自分にとって大きな問題だと感じる度合いが高く、生活の質・社会的な役割への満足・話す量はいずれも低いという結果でした。原典は、治療や研究で吃音の見た目の出方だけに注目し、隠れている部分を考えに入れないと、本人にとって大切な結果を取りこぼしうると述べています。

吃音のある成人316人を、自分で評価した「隠せている度合い」で2群に分けて比べた図。隠せていると答えた群のほうが、吃音が自分にとってどれだけ大きな問題かは高く、生活の質・社会的な役割への満足・話す量はいずれも低かった。年齢などの背景を考慮したあとの差で、原典は差の大きさを数値で示していないため向きだけを示している。不安も隠せている度合いと有意な相関があったが、群の差としては上の4つと並べて報告されていない。ある時点で測った関連であり、因果ではない
図1: 隠せていると答えた群で違っていた4つの指標(成人316人)。出典: Boyle & Rosen (2025) J Fluency Disord.

⚠ これはある時点で測った関連です。隠すことが生活の質を下げた、という順序が確かめられたわけではありませんし、「打ち明ければ上がる」と読める結果でもありません。言えるのは、外から見えていないことを、本人が困っていない証拠として使えない、というところまでです。

結婚式という一日 — 挨拶とスピーチ

日取りが決まったあとに重くのしかかってくるのが、人前で話す時間が式次第に組み込まれていることです。新郎の挨拶、祝辞、友人代表のスピーチ。原稿を書くこと自体は難しくなくても、それを声に出す場面が先に見えてしまいます。

友人の結婚式で、友人代表のスピーチを引き受けた当事者がいます。依頼は1か月前。最初は断るつもりでしたが、晴れ舞台に自分を指名してくれたことを思い、引き受けました。当日、名前を呼ばれて前に出ると、100人ほどの視線が集まります。

吃音のある男性・ポッターJr.さん(かごしま言友会の会員。会の公式ブログ)

最初の出だしの言葉。 難発・・・ 最初の言葉がでない。

マイクの前のテーブルには、友人たちが固唾を飲んで見守っています。 頭には何度も練習して覚えたセリフが全て浮かんでいます。 でも、なかなか出てこない。 いつもそう。 しーん、と沈黙。 たぶん、1~2秒なんだろうけど、その何倍にも感じる、悪夢のような時間。

「え、え、N君、Yさん、ご、ご結婚おめでとうございます。」

沈黙の長さを、書き手は1〜2秒だろうと見積もったうえで、その何倍にも感じたと書いています。やっと出た、と続く一行のあとは、準備しておいた原稿を読む時間です。書き手はそこで、言葉の言い換えを使いまくった、と書いています。「名古屋」の「な」が言えないと感じたら「県外」ととっさに言い換え、枕言葉を足したり省いたりして、滑らかに話しているように見せた。ふだんの練習では言い換えを使わずに話せるようになろうと教わるけれど、この場面は無事に終えることを優先したのだ、と自分で理由を書き添えています。後半は笑いが起き、緊張がほぐれ、読むうちに祝う気持ちのほうが高まっていったと振り返っています。こうした当事者どうしの場で得たものについては、公的な資料も書き方を整理しています。

出典: 結婚式スピーチ!(かごしま言友会のブログ)(台帳: V0450)

この人は会の活動を始めてから自分を変えたい気持ちが強くなった、と書いています。同じような集まりについて、吃音の専門機関の資料は、言友会などの自助グループは当事者の集まりなので、言語聴覚士のように学術的な知識や専門的な指導・支援が受けられるわけではない、と先に断っています。そのうえで、自分と同じ問題を持つ仲間と出会い、当事者同士でないと感じられない連帯感のなかで悩みを聞いてもらったり、同じ悩みを持つ立場から具体的な助言をもらったりできる、と書いています。多くの会が月1回程度の例会を開き、会報の発行や講演会、全国の会が集まる催しも行っている、という説明も添えられています。

研究の側からも、こうした場と孤立の関係が調べられています。吃音のある成人264人に、孤立の経験を自由に書いてもらい、あわせて性格や人とのつながりを測る尺度に答えてもらった調査があります。自由記述からは、社会的な孤立が吃音のある大人として生きる経験に広く共通していること、そしてそこには性格の違い・環境の要素・これまでの人生経験が関わっていることが示されました。

数字の側で目を引くのは、自己申告による不安やうつの診断では、つながりの少ない人や強い孤立感を持つ人を見分けられなかったことです。代わりに、隠さずに話すことを目標にすることが少ない人と、外向性が低い人ほど、つながりの少なさと孤立感の両方が強いという関連が出ています。原典は結論として、言語療法、自助や支援、そして本人が意図して起こす変化が、人とのつながりを育て、孤立と吃音の悪影響を減らすことに役立ちうる、と述べています。

「吃音のせいで人生が狭くなる」は、どこまで測られているのか

結婚を考える時期は、仕事や住まいや家計をまとめて見直す時期でもあります。だからこそ「吃音があると、この先ずっと不利なのではないか」という不安が、いちどに押し寄せます。この問いに、研究はどこまで答えているのでしょうか。

マッコーリー大学とシドニー工科大学の研究者らは、吃音について、生活の質と生涯にわたる負担という二つの見方から、既存の研究を集めて整理しました。生活の質のほうは2,607件の報告を探して3件が、負担のほうは3,778件を探して39件が分析に入っています。

結果として、効用値という物差し(健康な状態を1として、その人の状態がどのあたりかを数値化する測り方)で見ると、吃音のある人の生活の質は、糖尿病・心血管の病気・がんについて報告されている範囲にあったと述べられています。また、生涯にわたる負担には、収入・教育・雇用とならんで社会生活での機能が含まれる、とされています。

2つの系統的レビューが探した報告の件数と、分析に入った件数を並べた横棒グラフ。生活の質は2,607件を探して3件が分析に入り、生涯の負担は3,778件を探して39件が分析に入った。生活の質の3件のうち2件は、バイアスのリスクが高いと原典が記載している
図2: 結論を支えている研究の数。出典: Norman ら (2023) J Speech Lang Hear Res.

⚠ ただし、この結果は非常に慎重に読む必要があります。生活の質の分析に入った3件のうち2件はバイアスのリスクが高く、原典自身が、効用値による証拠は極めて限られると書いています。負担のほうの研究も、全体としてかなりのバイアスのリスクを抱えているとされています。就学前の時期については、生活の質が損なわれているという証拠はほとんど無いとも明記されています。

つまり、いま言えるのは「吃音が生活の広い範囲に響きうることは、複数の研究が示している」というところまでで、そこから一人ひとりの結婚や家庭の見通しを引き出せる材料は、まだありませんこうした数字は、自分を採点するためのものではなく、困っていることを困っていると言ってよい根拠として使うほうが実際的です。なお、遺伝についての心配は吃音は遺伝しても治る?、仕事の選び方は吃音症の仕事で、それぞれ別に扱っています。

結婚のことで悩んでいても、相談していい

話し方のせいで人づきあいが狭くなっている、打ち明けられないまま何年も過ぎている——こうした困りごとは、相談していい内容です。恋愛や結婚の話であっても変わりません。

日本言語聴覚士協会は、ことばの障害の種類を説明するなかで、失語症や言語発達障害、舌がんの手術後の発音の困難、声帯の病気による発声の問題と並べて、スムースに話をすることが難しい吃音もことばの障害に含まれると明記しています。同じページは、聞こえやことばの障害は目に見えにくいが、社会生活を送るうえで深刻な問題を引き起こす、とも書いています。職能団体が自分たちの守備範囲として書いている、ということです。

ただし、探し方には注意が要ります。吃音の専門機関の資料は、言語聴覚士が国家資格で養成課程に吃音が含まれていると説明したうえで、業務が多岐にわたるため必ずしも全ての言語聴覚士が吃音の指導や支援を行えるわけではないと書いています。希望する場合は、あらかじめ病院等に直接問い合わせるか、日本言語聴覚士協会や各都道府県の言語聴覚士会に尋ねる、という手順がそこに示されています。心理カウンセラーのなかにも、吃音に伴う不安や劣等感などの軽減を目指した取り組みを行っている人がいる、とも書かれています。

吃音の相談先を探すときの順序を示した流れ図。1 吃音もことばの障害に含まれる(失語症や発音・声の障害と並べて職能団体が明記)。2 言語聴覚士に相談する(国家資格で、養成課程に吃音が含まれる)。3 全員が吃音を扱うとは限らない(業務が多岐にわたるため)。4 先に問い合わせる(病院等に直接、または協会・都道府県の士会へ)。5 自助グループという場もある(専門的な指導は受けられないが、同じ悩みを持つ立場からの助言がある)
図3: 資料に書かれている手順だけを並べた相談先の流れ。出典: 日本言語聴覚士協会/吃音ポータルサイト

次のようなときは、一人で抱え込まずに相談を考えてみてください(当てはまらなくても相談して構いません)。

  • 交際や結婚の話が進むほど、打ち明けられないまま時間だけが過ぎている
  • 相手や相手の家族と会う場面を、言いやすさを理由に避けるようになってきた
  • 式や顔合わせで話す予定があり、そのことばかり考えて眠れない日が続いている

この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。1つめと2つめは、回避が日々の役割を続けにくくしうるという研究の整理と、隠せている感覚が生活の質と関連していたという報告にもとづいています。

「吃音だから結婚できない」と考えるときの3つの落とし穴

落とし穴1 − 「言わないほうが波風が立たない」と決めてしまう

黙っていれば何も起きない、というのは、外から見たときの話です。成人316人を隠せている感覚で分けた研究では、隠せていると答えた側のほうが、吃音を自分にとって大きな問題だと感じる度合いが高く、生活の質・社会的な役割への満足・話す量はいずれも低いという結果でした。日本の調査でも、周りの否定的な見方を自分のものとして取り込んでいる度合いが低い人ほど、打ち明ける度合いが高いという関連が出ています。どちらもある時点で測った関連なので、言えば楽になると約束するものではありません。それでも、「言わない」を安全な側の選択だと決めてかかる根拠は、少なくとも手元の研究にはありません。

落とし穴2 − 相手の反応が想像と違ったとき、「伝わらなかった」で終わらせる

一番の気がかりを打ち明けたのに軽く受け流された、という経験は、当事者の記録のなかにも残っています。ただ、その場で分かってもらえなかったことと、関係が続かないことは別です。評価の場面を調べた実験でも、測られているのは相手が持つ印象であって、相手の理解の深さではありません。一度で通じなかったときに、もう一度言う余地があるかどうかは、その場の反応だけでは決まりません。

落とし穴3 − 一人ひとりの見通しを、集団の数字から引き出そうとする

吃音が生活の広い範囲に響きうることは複数の研究が示していますが、その証拠は限られており、原典自身がバイアスのリスクの高さを明記しています。しかも、検査で測った吃音の重さと本人が感じている負担は必ずしも一致しません。数字は、困りごとに名前を付けて相談するための材料であって、自分の将来を採点するための点数ではありません。

そのうえで、どんな場面で言葉が出にくかったか、どんな場面では楽だったかを書き留めておくと、相談するときに自分の状態を説明しやすくなります。相談できる場合は、言語聴覚士に相談するのが確実です。

よくある質問

吃音があると結婚できないのですか?

そう確かめた研究は手元にありません。この主題で測られてきたのは、吃音を自分から打ち明けるかどうかと、隠したまま過ごすことが本人に何をもたらすかです。当事者の記録には、交際相手に打ち明けて結婚した人、結婚して家庭を持っている人の語りが残っています(台帳: V0163, V0087)。

交際相手には、いつ打ち明ければいいですか?

いつがよいかを交際について調べた研究は手元にありません。近いものとして、模擬の就職面接では、冒頭で吃音があると伝えた条件の候補者が、吃音のない候補者と同じくらい高く評価されました。著者らは、早い段階で伝えるほうが後から伝えるより聞き手の受け止めに効く、という先行研究を挙げています。ただしこれは評価される場面の実験で、長い関係にそのまま当てはめることはできません。

相手の家族に反対されたら、どうすればいいですか?

家族からの反対そのものを調べた研究は手元にありません。近いこととして、日本の当事者180人の調査では、周りの否定的な見方を自分のものとして取り込んでいる度合いが低い人ほど、自分から打ち明ける度合いが高いという関連が出ています。説明の材料が要るときは、吃音がことばの障害に含まれると職能団体が明記しているページが使えます。同じ立場の人に話を聞いてもらえる場として、自助グループの説明も公的な資料にあります。

結婚式で挨拶やスピーチをしなければなりません。どうすればいいですか?

この場面を扱った研究は手元にありません。当事者の記録では、最初の言葉が出ずに沈黙が続いたあと、準備した原稿を読み進めるなかで言い換えを使い、最後まで話し切った例があります(台帳: V0450)。研究の側から言えるのは、外から見える流暢さが本人の負担をそのまま表すわけではないということと、こうした場に出るかどうかが孤立と関連していたという報告があることです。

打ち明けないまま結婚してもいいのでしょうか?

どちらが正しいと言える研究はありません。そのうえで、隠せていると感じている人ほど、吃音を自分にとって大きな問題だと感じ、生活の質・社会的な役割への満足・話す量が低かったという報告があります。原典は、外から見えるかどうかだけに注目して隠れている部分を考えに入れないと、本人にとって大切な結果を取りこぼしうると述べています。相手に気づかれていないことを、困っていない証拠として使わないほうがよい、というところまでは言えます。

まとめ

  • 「吃音があると結婚できない」と確かめた研究は手元にない。測られてきたのは、自分から打ち明けるかどうかと、隠したまま過ごすことが本人に何をもたらすかである。
  • 日本の当事者180人の調査では、打ち明ける度合いは米国の調査より低かった。自助グループの経験、自分を受け入れている度合い、周りの見方を取り込んでいる度合いの低さが、より高い打ち明け方と結びついていた。
  • 成人316人を隠せている感覚で分けた研究では、隠せていると答えた側のほうが、生活の質・社会的な役割への満足・話す量が低かった。ただしある時点で測った関連で、因果ではない。
  • 評価される場面では、冒頭にひと言伝えた候補者が吃音のない候補者と同じくらい高く評価された実験がある。大学生58人が動画を見て付けた印象であり、長い関係の話ではない。
  • 孤立は吃音のある大人に広く共通した経験で、不安やうつの診断より、隠さずに話すことを目標にするかどうかと外向性のほうが関連していた。吃音はことばの障害に含まれるので言語聴覚士に相談してよいが、全員が吃音を扱えるわけではないため事前の問い合わせが要る。

参考文献

  1. Iimura, Takahashi, Yanai, Miyamoto & Boyle (2026) Relationships between psychosocial aspects of stuttering and self-disclosure of stuttering in a Japanese sample. J Fluency Disord.(筑波大学・東京学芸大学・モントクレア州立大学)
  2. Perez, Newman & Walmer (2025) Acknowledging a Stutter Affects the Impression One Makes in a Job Interview. Int J Lang Commun Disord.(シラキュース大学)
  3. Boyle & Rosen (2025) More than meets the eye: Self-rated covert stuttering is linked to reduced psychosocial and communicative outcomes. J Fluency Disord.(モントクレア州立大学)
  4. Tichenor, Gore, Palasik & Yaruss (2026) Social Isolation in Adults Who Stutter: A Mixed-Methods Investigation of Risk and Correlates. Am J Speech Lang Pathol.(デュケイン大学・アクロン大学・ミシガン州立大学)
  5. Norman, Lowe, Onslow, O'Brian, Packman, Menzies & Schroeder (2023) Cost of Illness and Health-Related Quality of Life for Stuttering: Two Systematic Reviews. J Speech Lang Hear Res.(マッコーリー大学・シドニー工科大学)
  6. Mutlu & Cemali (2025) Assessment of occupational balance and life satisfaction in adults who stutter. BMC Psychology.
  7. 一般社団法人 日本言語聴覚士協会「言語聴覚士に相談する」
  8. 吃音ポータルサイト「成人の方 相談や支援」

当事者の声の出典: V0115(日本吃音臨床研究会「吃音相談室」・第7回島根スタタリングフォーラム『親の話し合い』の記録。発言者は匿名)/ V0163(日本吃音臨床研究会の会報に載ったことば文学賞の受賞作・林佳代さん)/ V0087(note・吃音のある夫と暮らす女性の連載)/ V0450(かごしま言友会の公式ブログ・ポッターJr.さん)。いずれも公開記事。引用は原文どおり(誤記も原文のまま)。

更新履歴: 2026-09-11 公開