都筑澄夫氏の吃音の方法とは|年表方式・環境調整法と根拠の読み方

目次

「都筑」という名前にたどり着いて、そこで止まっている方が多いと思います。人の名前なのか、相談室の名前なのか。そこで行われているのは何なのか。そして、通う前にいちばん知りたいこと——それは本当に良くなるのか。名前だけでは、そのどれも分かりません。

この記事では、都筑澄夫氏が発表してきた「年表方式のメンタルリハーサル法」と「環境調整法」(周りの人の接し方や場面のほうを変えること)について、学術誌に載った報告そのものを開いて整理します。目白大学から出た21例の報告、川崎医療福祉大学の研究班が1例に行った報告、筑波大学などの研究者による日本語のメタ分析(複数の研究をまとめて評価する方法)、そして幼児吃音臨床ガイドライン(AMED研究班)の評価。相談室の評判や料金は扱いません。扱うのは、公開されている報告が何をどう測ったのか、そこから何が言えて何が言えないのかです。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 「年表方式のメンタルリハーサル法」は、目白大学の都筑澄夫氏が学術誌に報告してきた訓練法です。吃音が進んでいく段階のうち最終段階(第4層)まで進んだ人でも良くなりうると2002年に報告した、と2012年の論文が書いています。
  • その2012年の論文は、訓練を始めたときに8歳から50歳だった第4層の21例を扱っています。比べる相手の群を置かない報告で、結果は本人による段階評価です。
  • 21例のうち、生活場面での「恐れと行動の状態」「発話の状態」の自己評価で正常域に達したのは10例と報告されています。
  • 別の大学の研究班が成人1例に同じ方式を行った報告では、検査で測ったどもりの量と、話すときに出る体の動きは減りましたが、話す場面を避ける行動は残り、段階は第4層にとどまりました。
  • 幼児のガイドラインは、都筑氏の環境調整法の報告を名前を挙げて引きながら、「どのような考えにしたがって、どのような環境調整法が行われたのか」を理解したうえで結果を読む必要があると注意しています。

ただし、この記事は特定の相談室や指導者を勧めるものでも、勧めないものでもありません。ここに並べたのは公開されている報告の中身と、その報告が何をどう測ったかだけです。ある方法について「効く」「効かない」と言い切るには、比べる相手の群を置いた研究の積み重ねが要りますが、この方法についてそれが揃っているとは、手元の資料からは言えません。

「年表方式のメンタルリハーサル法」とは、何をする方法なのか

吃音への訓練は、大きく二つに分けて語られます。話し方そのものに手を入れる型と、話し方には直接手を入れない型です。年表方式のメンタルリハーサル法は後者、つまり話し方を直接いじらない側に置かれます。ただ、名前からは中身がまったく想像できません。まず、名前だけを頼りに「治す」ことへ時間を注いだ人の記録から入ります。

当事者の声(堤野瑛一さん・27歳パートタイマー/自助団体の会報に載った、ことば文学賞の最優秀賞作品)

このままでは駄目だ。何としてでもどもりを治さなければ、自分に将来なんてない。一年間休学して、吃音の治療に専念しよう。そう決心した僕は、学校に休学届けを出し、まず病院でスピーチセラピストの先生からカウンセリングを受け始めた。

高校2年生から言葉が出にくくなり、大学の最初の授業の自己紹介で人前ではじめて大きくつまずいた人の記録です。授業に出られなくなり、単位が取れないところまで来て、選んだのが休学でした。この1年のあいだに本人が試したことは、病院での面談、処方された薬、鏡や録音を使った毎日の発声練習、そして催眠療法。手記には「いくら通っても、吃音には一向に変化がない」と書かれています。何をする方法なのかを知らないまま通い始めると、確かめようがないまま時間だけが過ぎる——だから、方法の中身を先に見ます。

出典: 第9回ことば文学賞 最優秀賞作品「僕の帰る場所」(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0232)

2012年に学術誌『音声言語医学』へ出た論文が、この方法を使った訓練の報告です。著者は目白大学保健医療学部言語聴覚学科の都筑澄夫氏。そこで使われているのは「系統的脱感作を組み込んだメンタルリハーサル法(年表方式)」と書かれています。系統的脱感作とは、こわいと感じる場面を弱いものから順に思い浮かべていき、体の緊張をほどきながら慣らしていく、心理療法で古くから使われてきた手順のことです。「年表方式」は、その組み立てを本人の歩んできた時間の並びに沿って行うという意味で使われています。

話し方に直接手を入れる型と比べると、違いがはっきりします。ガイドラインは、話し方に直接働きかける方法を二つに分けて説明しています。ひとつは、どもり方そのものを無くすことを主な目標にせず、目立ってつらい出方を、比較的目立ちにくく楽な出方に置き換えていく方法。もうひとつは、ゆったりした速さで、あるいは音を引き伸ばして、やわらかく声を出し始めることで、どもりが出にくい話し方に導く方法です。どちらも「話し方」を変えにいくのに対し、年表方式のメンタルリハーサル法は、こわい場面への慣れのほうから入る組み立てになっています。

その報告は、何を、誰が測ったのか

方法の中身が分かったら、次は「良くなった」と書かれているものの正体です。誰が、何を、どうやって測った数字なのか。ここを見ないと、自分に当てはめようがありません。先に、練習を重ねても変わらなかった人の記録を置きます。

当事者の声(林佳代さん・教員/自助団体の会報に載った、ことば文学賞の作品)

大阪吃音教室と出合う前の私は、どもりは劣ったもの、どもっていたら就職ができない、など吃音をマイナスにしか考えられなかった。だから、どもりをどうしても治したくて、スピーチクリニックにも通ったことがある。何度も発声練習をしたり、電話の練習をしたりしたが、まったく治らなかった。それなのに、先生からは「頑張って練習しよう」と言われ続けた。自分では精一杯頑張っているのに、これ以上どう頑張ったらいいの?と途方に暮れてしまった。

電話が苦手で、受話器の前を行ったり来たりすることがあると書く人の記録です。通っていた先で重ねたのは発声練習と電話の練習。変わらなかったときに返ってきた言葉が「頑張って練習しよう」でした。この記録が指しているのは、方法の良し悪しではなく、変わらなかったときに、その責任がどこへ行くのかという問題です。手記はこのあと「どんなに努力してもできないことはある」と続きます。だからこそ、報告に出てくる数字が誰の評価なのかを見ておく意味があります。

出典: 第18回ことば文学賞 作品「私の居場所」(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0163)

2012年の報告は、こう書いています。訓練を始めたときに8歳から50歳だった、第4層の21例を対象にした。第4層というのは、吃音が進んでいく段階を4つに分けたときのいちばん先まで来た状態を指す呼び方で、この報告はそこまで進んだ例の改善の報告そのものが少ないと述べています。結果は、生活場面での「恐れと行動の状態」と「発話の状態」について、被訓練者本人が7段階(または4段階)の尺度で自己評価した値で、正常域に達したのは10例でした。訓練後にどの段階に位置したかの内訳は、第1層が学童で1例、第2層にいたったのが5例、第3層が1例、第4層にとどまったのが4例と報告されています。

2012年の報告で、訓練開始時に8歳から50歳だった第4層の21例が、訓練後にどの段階に位置したかを並べた図。正常域に達したのが10例、第1層(学童)が1例、第2層が5例、第3層が1例、第4層にとどまったのが4例で、合計21例。比べる相手の群を置かない報告で、段階は本人の主観的評価による。
図1: 21例の内訳。正常域に達した10例と、第4層にとどまった4例が同じ報告の中にある。出典: 都筑澄夫 (2012) 音声言語医学 53巻3号 199-207頁.

ここで押さえておきたいことが二つあります。ひとつは、この21例には比べる相手の群がいないということ。訓練を受けなかった人たちと並べていないので、「訓練したからそうなった」とは、この報告だけでは言えません。もうひとつは、数字を付けたのが本人だということです。どもりの量を外から数えた値ではなく、本人が感じている状態の自己評価です。同じ報告は、学童では改善の道筋が進んできた段階を逆にたどったのに対し、成人例では第1層の状態を示さないまま第2層から正常域に達した、とも書いています。

では、外から測るとどう見えるのか。2019年に同じ学術誌へ出た別の報告は、川崎医療福祉大学の研究班が、3歳でどもり始めた21歳の男子大学生1例に年表方式のメンタルリハーサルを行ったものです。この報告では、標準的な検査法の発話サンプルを使って、なめらかでない部分の頻度、どもりの中心的な症状の頻度、そして話すときに体に出てしまう動きを分析しています。訓練の後、どれも訓練前より減りました。ただし、場面に対する自己評価では、避ける行動が残り、段階は第4層にとどまったと書かれています。検査の数字が動いても、場面を避ける行動はそのまま残ることがある——1例の報告ですが、これは方法を選ぶ側にとって大事な情報です。

「治るか」以外に、確かめられるものはあるのか

ここまで読んで、確かめようのないものに時間を使うのが怖くなった方がいるかもしれません。ただ、当事者の記録を読んでいくと、変わったものが「どもりの量」ではない場所にあることは少なくありません。電話の場面を書いた一節を置きます。

当事者の声(峰平佳直さん・大阪の会社員47歳/自助団体の会報に載った、ことば文学賞の優秀賞作品)

どもりでかなり悩んでいた女性の友達に、半年ぶりに電話をかけた。彼女は変わっていた。「どもりは、もう、どうでもよくなった」と言う。これが、森田療法に興味を持ったきっかけである。恐怖、不安にさからうな。そのままで良い。今、すべき事に手を出しなさい。この考え方は私を救った。電話でどもりそうで不安の時、先ず受話器をとった。次にダイヤルを回した。声が出るのが遅いので、相手は電話を切った。用件を伝えるのがすべき事なので、すぐにまたダイヤルを回した。

18歳で就職し、会社の電話が恐怖だったと書く人の記録です。どもりそうだと感じた日は用事を半日ほど後回しにし、トイレや屋上で小さな声で発声練習をしてから受話器を取っていました。手記のこの場面で変わっているのは、声の出方ではなく受話器を取るまでの手順のほうです。切られたらもう一度かける、という行動が、不安の有無と切り離されて書かれています。こうした「不安への向き合い方」に働きかける方法は、吃音のある成人を対象に研究として積み重ねられてきました。

出典: 第7回ことば文学賞 優秀賞作品「三つ子の魂、百までも」(日本吃音臨床研究会)(台帳: V0233)

2026年に『心理学研究』へ出た論文は、吃音のある成人への心理面からの働きかけについて、条件を決めて研究を集め、まとめて評価したものです。この論文は、そうした働きかけは行われてきたのに、そこから得られた根拠をまとめて評価した仕事が欠けている、という問題意識から始まっています。レビューに入ったのは24件の研究で、そのうち選ばれた13件のデータが統合されました。統合された研究の多くで使われていたのは、考え方と行動の両方に働きかける方法(認知行動療法)か、今この瞬間に注意を向ける練習や、あるがままを受け入れることを土台にした方法だったと報告されています。全体として、心理面からの働きかけは、吃音のある成人の心理面の症状をやわらげる点で有効だったと結論づけられています。

吃音のある成人への心理的な働きかけをまとめた日本語のメタ分析が、何人ぶんのデータを統合したかを並べた図。レビューに入った24件のうち13件が統合され、合計311人・85効果量。うち認知行動療法が191人・53効果量、マインドフルネスや受容にもとづく方法が94人・22効果量。この2つは合計の内数で、残りの内訳は原典に示されていない。
図2: このメタ分析が実際にまとめたのは、13件・311人ぶんのデータ。その多くが認知行動療法かマインドフルネス・受容にもとづく方法だった。出典: 灰谷知純・青木瑞樹・飯村大智 (2026) 心理学研究 97巻2号 110-129頁.

この論文には、年表方式の話も出てきます。日本で独自に開発されたメンタルリハーサルの効果は、介入の期間が長いことによって説明された、と書かれているのです。これは「効いた/効かなかった」の判定ではなく、その効果を何が説明したかという分析の結果です。長く続けた分だけ動いた、という読み方になります。だから、通う先を決めるときに「どのくらいの期間を見込むのか」を先に聞いておくことには、根拠側からも意味があるということです。

もう一つ、21例の報告の考察に興味深い記述があります。第2層に戻った状態の下では、自分の発話に注目する行動が残った例と、消えた例があったというのです。同じ段階に見えても、話すときに自分の声を気にし続けているかどうかは分かれる。この報告は、その直前に、どもりが出ても発話の症状を気にせず話す行動が現れた例についても書いています。どもりが減ることと、話すときの構えが変わることは、別々に起こりうる——記録を付けるなら、この二つは分けて書いておくと後で読み返せます。

もう一つの名前「環境調整法」は、どう位置づけられているか

都筑氏の名前は、幼児のガイドラインの中にも出てきます。「環境調整法」についての設問です。ガイドラインは環境調整法を、吃音が続いたり進んだりすることに関わっていると考えられる周りの要因を、子どもが話しやすくなる方向へ調整することだと定義しています。子どもの様子や、人とのやりとりの場面、日常生活の観察をもとに、話しやすさに影響していそうな要因を見つけて、そこを調整するという進め方です。

この方法への評価は、はっきり書かれています。吃音の改善に効果があるという根拠は弱いが、適切な情報提供も含めてうまく実行できれば、親子ともに吃音による心のつらさを軽くすることが期待される——そして推奨の等級はC1です。C1は、根拠は十分ではないものの行ってもよい、という位置づけの等級として使われています。「効くから勧める」ではなく「つらさが軽くなることが期待できるから行ってよい」という書き方だ、というところが肝心です。

そのうえでガイドラインは、報告の読み方に注意を促しています。環境調整法という言葉は「周りの要因を調整する」という大枠では共通していても、どの要因を重く見るか、実際に行う指導の中身は臨床家によって違う面がある。だから、環境調整法の効果についての報告——ガイドラインはその例として都筑氏の2006年の報告を名前を挙げています——についても、結果を読むうえで「どのような考えにしたがって、どのような環境調整法が行われたのか」をよく理解する必要がある、というのです。同じ名前で呼ばれていても、中身が同じとは限らないこれは、方法の名前だけで通い先を選ぶことの危うさを、ガイドライン自身が言っている箇所です。

同じ設問には、もう一つ強い注意があります。子どもへの関わり方や家庭環境を変えるための助言をすることで、保護者が吃音の原因を「自分の関わり方や家庭環境にある」と誤解しないよう、特段の注意を払う必要がある、というものです。環境調整法の名の下に保護者を責めてはならないと明記されています。

年齢によって話が変わることも押さえておきます。ガイドラインは、幼児期は治療の有効率も比較的高く、今世紀に入ってから有効率7割の治療方法が複数確立された一方、学齢期になると治療の有効性が低くなりがちで、吃音のために学習や学校生活の困難も生じやすくなる、と述べています。できれば就学前までに吃音が治るか軽くなることを目指し、解決しない場合は学校生活の支援に円滑につなぐのがよい、というのがその結論です。大人向けの説明を子どもに、子ども向けの説明を大人に当てはめないことが、この分野ではとくに大事になります。

どこに相談するか、そして肩書きをどう読むか

民間の相談室を検討する場合も、しない場合も、公的な入口は別にあります。ガイドラインは、「吃音かな?」と思ったときの相談先として、幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体の(小児)リハビリテーションセンター、大学の教育学部に付属する発達や言葉の相談室を挙げています。地域の児童発達支援センターには言語聴覚士が在籍する場合が多く、相談の窓口になっているとも書かれています。就学後は、小学校の通級指導教室である「ことばの教室」などが指導にあたり、就学前の相談を受けている地域もあります。大人の場合は、言語聴覚士のいる医療機関が入口になります。

ただし、ガイドラインは相談に対応している機関の多くは治療には対応できないことも多いと注意しています。相談に乗ってもらえることと、訓練を受けられることは別だ、ということです。

そして、肩書きの読み方について、ガイドラインがはっきり書いている一文があります。吃音に対する言語訓練は医療としても教育としても扱うことができ、教育として行う場合には専門的な資格は要求されない。しかし十分な専門知識が必要であることは言うまでもない——そのうえで、現時点では、吃音の専門家の認証システムや登録システムはわが国にはないと述べています。相談に対応している施設の種類は多いのに、吃音の専門家かどうかを外から一括で確かめる仕組みは無い、というのが現状です。だから、ページに載っている肩書きや所属学会や実績の件数は、その人が自分で書いた申告として読むことになります。

広告の表示そのものにもルールがあります。消費者庁は、景品表示法が商品やサービスの品質・内容・価格などを偽って表示することを厳しく規制し、消費者がより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守る法律だと説明しています。実際より良く見せかける表示につられて、質の良くない商品やサービスを買ってしまう不利益を防ぐ、という趣旨です。また、一般の人が事業者の表示だと見分けることが難しい表示、いわゆるステルスマーケティングは、2023年10月1日から景品表示法違反になっています。感想や体験の形をしたものを読むときは、それが誰の立場で書かれたものかを先に確かめてください

ここに挙げたのは、機関の良し悪しを判定する基準ではありません。説明を受ける側が、同じ物差しで比べられるようにするための確認の手がかりです。

この語を調べるときに陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 学術誌に載っていることを、効果が確かめられたことと同じに読む

年表方式のメンタルリハーサル法には、学術誌に載った報告があります。これは、何も公開されていない方法より確かめやすいという意味で、大きな違いです。ただし、載っていることと、効果が確かめられたことは別です。2012年の報告は比べる相手の群を置かない21例の報告で、結果は本人の自己評価でした。2019年の報告は別の大学の研究班によるものですが、対象は1例です。どちらも「この方法を受けた人がどうなったか」の記録であって、受けなかった場合と比べた結果ではありません

落とし穴2 − 方法の名前が同じなら、中身も同じだと思ってしまう

ガイドラインは環境調整法について、どの要因を重く見るか、実際の指導の中身は臨床家によって違う面があると明記しています。そのうえで、効果の報告を読むときは「どのような考えにしたがって、どのような環境調整法が行われたのか」を理解する必要があるとしています。名前で選ぶのではなく、そこで実際に何をするのかを説明してもらってから決めるのが順序です。

落とし穴3 − 期間の見込みを聞かないまま始めてしまう

日本語のメタ分析は、日本で開発されたメンタルリハーサルの効果が、介入の期間が長いことによって説明されたと報告しています。裏を返せば、短期間で結論が出る前提で始めると、途中で「効いていない」と判断してしまう可能性があるということです。始める前に、どのくらいの期間を見込むのか、何がどうなったら区切りと考えるのかを聞いておくと、やめる・続けるの判断を気分ではなく期間で切れるようになります

記録は紙のノートでも構いません。どんな場面で話せたか、何を避けずに済んだかを書き留めておくと、相談に行くときにそのまま持っていけます。

よくある質問

「都筑」というのは人の名前ですか、方法の名前ですか?

学術誌に載っている範囲でいえば、人の名前です。都筑澄夫氏は目白大学保健医療学部言語聴覚学科に所属する研究者として、2012年に「第4層の発達性吃音に対する年表方式のメンタルリハーサル法の訓練効果と軽減・改善過程」という論文を発表しています。幼児吃音臨床ガイドラインも、環境調整法の効果に関する報告の例として同氏の2006年の報告を挙げています。

年表方式のメンタルリハーサル法では、何をするのですか?

2012年の報告では、系統的脱感作を組み込んだメンタルリハーサル法(年表方式)と説明されています。系統的脱感作とは、こわいと感じる場面を弱いものから順に思い浮かべ、緊張をほどきながら慣らしていく手順のことです。話し方そのものを変えにいく方法——たとえば、ゆったりした速さややわらかい声の出し始めで、どもりが出にくい話し方に導く方法とは、入り口が違います。

効果はどのくらい確かめられているのですか?

2012年の報告では、8歳から50歳の21例のうち、生活場面での「恐れと行動の状態」「発話の状態」の自己評価で正常域に達したのが10例とされています。ただし比べる相手の群がなく、評価したのは本人です。2019年の1例の報告では、検査で測ったどもりの量と体に出る動きは減りましたが、避ける行動は残り段階は第4層にとどまりました。

環境調整法は、やる意味がないということですか?

そうは書かれていません。幼児吃音臨床ガイドラインは、吃音の改善に効果があるという根拠は弱いとしつつ、適切な情報提供も含めてうまく実行できれば親子ともに心のつらさを軽くすることが期待されるとして、推奨の等級C1を付けています。あわせて、環境調整法の名の下に保護者を責めてはならないとも明記しています。

民間の相談室と、病院の言語聴覚士は何が違うのですか?

ガイドラインによれば、吃音への言語訓練は医療としても教育としても扱うことができ、教育として行う場合には専門的な資格は要求されません。そして現時点では、吃音の専門家の認証システムや登録システムはわが国にはないとされています。また、相談に対応している機関の多くは治療には対応できないことも多い、という注意もあります。掲げられた肩書きや実績は本人の申告として読み、広告の表示については消費者庁が景品表示法の考え方を示しています。

まとめ

  • 年表方式のメンタルリハーサル法は、目白大学の都筑澄夫氏が学術誌に報告してきた訓練法で、こわい場面への慣れから入る組み立てになっている。
  • 2012年の報告は8歳から50歳の21例を扱い、本人の自己評価で正常域に達したのは10例。比べる相手の群は置かれていない。
  • 別の大学の研究班による1例の報告では、検査で測ったどもりの量と体に出る動きは減ったが、避ける行動は残り段階は第4層にとどまった。
  • 日本語のメタ分析では、この方法の効果は介入の期間が長いことによって説明された。始める前に期間の見込みを聞いておく意味がある。
  • 環境調整法は推奨の等級C1で、改善の根拠は弱いが心のつらさの軽減が期待される位置づけ。同じ名前でも中身が違いうることと、保護者を責めてはならないことが明記されている。
  • 吃音の専門家を外から確かめる認証や登録の仕組みは、現時点では国内に無い。肩書きや実績は申告として読み、広告の見方は景品表示法の考え方が手がかりになる。

参考文献

  1. 都筑澄夫(目白大学保健医療学部言語聴覚学科)「第4層の発達性吃音に対する年表方式のメンタルリハーサル法の訓練効果と軽減・改善過程」音声言語医学 53巻3号 199-207頁(2012年)
  2. 福永真哉・塩見将志・時田春樹・池野雅裕・矢野実郎・永見慎輔(川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科ほか)「成人吃音者に対するメンタルリハーサルの効果」音声言語医学 60巻2号 162-169頁(2019年)
  3. 灰谷知純・青木瑞樹・飯村大智(筑波大学ほか)「吃音のある成人に対する心理的介入の系統的レビューと探索的マルチレベル・メタ・アナリシス」心理学研究 97巻2号 110-129頁(2026年)
  4. 幼児吃音臨床ガイドライン作成班「幼児吃音臨床ガイドライン(第1版)2021」(AMED研究班)
  5. 消費者庁「景品表示法」(2026年8月30日取得)

当事者の声の出典: V0232(日本吃音臨床研究会・第9回ことば文学賞 最優秀賞作品「僕の帰る場所」)/ V0163(同・第18回ことば文学賞 作品「私の居場所」)/ V0233(同・第7回ことば文学賞 優秀賞作品「三つ子の魂、百までも」)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開