富田望生の吃音は役の設定|当事者が指導した現場・隠すか言うか

目次

「富田望生さんは吃音なのだろうか」——ドラマで言葉が詰まる場面を見て、そう思った方。自分に吃音があって、あの演技をどう受け止めればいいのか決めかねている方。家族に吃音のある人がいて、これを見せたら何かが伝わるだろうかと考えた方。入口はそれぞれでも、最初に知りたいのは「本人のことなのか、役のことなのか」という一点ではないでしょうか。

この記事は、経歴も物語の筋も書きません。公開されているインタビュー記事と放送の記事に書かれている範囲——役の設定と、その役をどう作ったか——だけを置きます。そのうえで、この作品には吃音のある当事者が指導として加わり、慶應義塾大学医学部の助教が吃音監修を務めていました。現場で何が起きたかを当事者本人の言葉で追い、国立特別支援教育総合研究所による吃音の説明、英国王立言語聴覚士会(Royal College of Speech & Language Therapists)の承認を受けた当事者団体STAMMAのメディア向け指針、面接で吃音を先に伝えた場合を調べた実験、日本吃音・流暢性障害学会の解説の出典つきで受けます。

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吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 手元の資料で確かめられるのは、富田望生さんが吃音のある役を演じたということまでです。2025年4月27日に放送された日本テレビ系ドラマ『ダメマネ! ―ダメなタレント、マネジメントします―』の第2話で、富田望生さんが演じる新人俳優・後藤沙紀が、吃音がありながら一度は挫折した役者の道に一歩踏み出す姿が描かれた、と報じられています。
  • この記事が使った資料に、富田望生さん本人が自分の吃音について語った記述はありません本人が語っているのは役作りの過程で、それも「吃音を知る側」ではなく「教わる側」としての発言です。この記事は、本人に吃音があるともないとも判定しません。
  • この役作りには、吃音のある当事者が加わっていました富田望生さんは、当事者でハウス食品開発研究所に勤務する滝澤美紅さんとともに役を丁寧に作り上げて撮影に臨んだ、と書かれています。クランクインの前から吃音のある人たちから指導を受けていた、とも報じられています。
  • その指導は、話し方の真似ではありませんでした。滝澤さんから話し方自体の指導はほとんどなく、登場人物どうしの関係性が物語の中で変化していくのに合わせて、「今こういう距離感なら、そんなに強く出なくても大丈夫だと思います」という加減の助言をしていった、と書かれています。吃音は場面と相手で出方が変わるという前提が、そのまま現場の作り方になっていたということです。
  • 英国の当事者団体が出しているメディア向けの指針は、吃音のある声がテレビ・ラジオ・映画で聞こえるようにしてほしいと求めています。ただし誰かが吃音を「克服した」「打ち負かされた」「治した」という文脈でではなく、あらゆる内容を作り上げているアクセントと声の豊かな模様の一部として、という条件つきです。

ただし、この記事が使えるのは公開されている記事2本に書かれている範囲だけで、俳優本人の健康状態について何かを述べる材料は持っていません。作中の人物についても、放送の記事に書かれている以上の診断や重症度の判定はしません。

資料に書かれているのは、どこまでか

まず、何が確かめられて何が確かめられないのかを分けます。2025年4月27日放送のドラマ『ダメマネ!』第2話について、放送翌日の記事はこう書いています。川栄李奈さんが演じる新人マネージャーが、事務所の所属タレントたちを再生させていく物語で、その第2話では富田望生さんが演じる新人俳優・後藤沙紀が、吃音がありながら一度は挫折した役者の道に一歩踏み出す姿が描かれた、と。別の記事は、第2話のあらすじとして、挨拶をせず返事も曖昧で、オーディションを辞退した新人が抱えていたのは吃音であり、それが知られたら俳優の夢が絶たれてしまうと怯えてずっと隠していた、という筋立てを紹介しています。つまり「吃音」は、富田望生さんが演じた登場人物の設定として書かれているわけです。

同じ記事は、吃音そのものについても説明を置いています。吃音とは、音の繰り返し、ひき伸ばし、言葉を出せずに間があいてしまうなど、一般に「どもる」と言われる話し方の障がいである——と、国立特別支援教育総合研究所のウェブサイトからの引用として書かれています。話し方の癖や性格の問題ではなく、話し言葉が滑らかに出ない障害として紹介されている、ということです。

そして、この役がどう作られたかについて。記事は、この症状に真摯に向き合った富田望生さんが、当事者であり、ハウス食品開発研究所に勤務する滝澤美紅さんとともに、今回の役を丁寧に作り上げて撮影に臨んでいた、と書いています。滝澤さんが関わることになった経緯も書かれています。吃音監修を務める慶應義塾大学医学部の富里周太助教が、同年代の女性の感覚を生かしたほうが良いという判断をしたことから白羽の矢が立った、と。前日の記事のほうは、富田望生さんがクランクインの前から吃音のある人たちから指導を受け、本番に臨んでいた、と伝えています。医師が監修し、同年代の当事者が指導に入った——確かめられるのは、ここまでです。

逆に、確かめられないことも書いておきます。この2本の記事のどこにも、富田望生さん本人が吃音を経験してきたという記述はありません。本人の発言として載っているのは、吃音とはどういうものなのかを当事者に質問したこと、口の中の動きを聞いていったこと、どの言葉が出にくいのかを会話の中で受け取っていったことで、いずれも教わる側からの発言です。同じ「演じた側」の読み方については萩原利久は吃音症?の記事でも扱っています。

当事者が現場に入ると、何が変わるのか

吃音のある役に当事者が指導として加わる、と聞くと、話し方の見本を見せる仕事を想像するかもしれません。実際に起きていたのは、それとはかなり違うことでした。指導にあたった当事者本人は、合同インタビューの中で、自分が伝えたのは話し方ではなく「どもる時にどういう気持ちになるか」と「どういう場面でどもりが出やすいか」だったと語っています。そして、それを受け取った相手の変化を、こう振り返っています。

ドラマ『ダメマネ!』の吃音指導を務めた吃音当事者・滝澤美紅さん本人(マイナビニュースの実名インタビュー。ハウス食品開発研究所勤務。俳優・富田望生さんとの合同取材で、本人にとっては初めての取材)

“少しずつどもるほうがいい”と言っただけで、自然な感じになりますし、2回目にお会いした時には富田さんのほうから“この言葉はたぶんうまく出ないですよね?”と聞いてくれて、私が“たしかにそうです!”と思うこともあって。当事者の立場に立って真摯(しんし)に向き合っていただいているのを、すごく感じていました

この取材は、滝澤さんにとって初めてのものでした。記事は、彼女のコメントは通常の記事と同様にスムーズな話し言葉で表記しているが、初めて取材を受ける緊張感から所々詰まりながらも、登場人物に込めた思いを一生懸命伝えてくれた、と断り書きを添えています。つまり、読者が目にしている整った文字の裏側に、詰まりながら話した時間がある——そのことを、記事自身が明かしているわけです。指導の中身も、話し方の見本ではありませんでした。伝えたのは気持ちと場面であり、返ってきたのは「この言葉はたぶんうまく出ないですよね?」という問いでした。どの語が出にくいかは、外から観察して決められるものではなく、本人に確かめるしかないものだからです。この「聞いてから決める」というやり方は、当事者団体が取材や配役の場に求めていることと重なります。

出典: 吃音の役に挑んだ富田望生、当事者と丁寧に作り上げて撮影に(マイナビニュース)(台帳: V0550)

英国の当事者団体STAMMAが公開しているメディア向けの指針には、取材する・配役する・話す・一緒に働く相手が吃る人であるときにどうするかを並べた節があります。さえぎらずに話し終えるまで待つこと。ときどきうなずいて、聞いていると伝えること。自然な目線を保ち、居心地悪そうな顔をしないようにすること。そして、話し方の良し悪しを口にしたり、流暢に話せたことを褒めたり祝ったりしないこと——それは吃音が悪いことだという考えを補強してしまうから、というのが理由です。誰かが吃ったときに冗談にしないこと、憐れまないこと。指針はこれらをまとめて、いちばんよいのは吃る声を歓迎し受け入れることだ、と書いています。この指針は英国王立言語聴覚士会の承認を受けており、吃音のある人を代表してきた40年を超える経験にもとづくものだと、ページ自身が説明しています。最終更新は2024年1月です。作品の中の吃音をどう読むかはアニメ・漫画の吃音の記事でも扱っています。

画面の中の「練習」を、当事者はどう見たか

作品が当事者に歓迎されたかというと、そう単純でもありません。同じ回を見て、別の受け止め方をした人がいます。ドラマの中で、マネージャーが吃音の改善法を調べて本人にやらせる場面があり、それを吃音のある視聴者が見ていました。2012年から吃音について書き続けているブログの書き手です。

吃音のある当事者本人(はてなブログ「通りすがりのものですが」。吃音の記事を2012年から継続して投稿している書き手。2025年4月投稿)

マネージャー(川栄李奈)は嫌がるその俳優を何とかオーディションに出そうとして、吃音の改善法を調べてやらせるのだけれど、う~ん?それでは改善はちょっと無理だよな、と思ってしまった

リズムに合わせて発話する方法などを試していて、確かにその時は言葉が出やすいような感じはするけど、根本的な解決にはならない

少なくとも、これで改善した人を私は知りません

吃音のことをよく知らない人がこのドラマを見て、吃音の人に余計なアドバイスをしちゃうんじゃないかと、ちょっと心配になりました

この書き手は、日曜の夜にスポーツニュースを見た流れでチャンネルを変え、たまたまこの回に行き当たったと書いています。内気で挨拶もろくにできない俳優志望の女の子が出てきて、「なにこれ?吃音なの?」と思ったら、やっぱりそういう設定だった、と。心配しているのは作品の出来ではなく、画面の外で起きることのほうでした。同じ投稿の後半では、吃音についてはいろいろな話し方が開発されてきたとして、最初の音を伸ばす、お腹に力を入れる、といった方法を挙げ、自分の吃音仲間にこれらの方法で吃音が解消した人はいない、と書いています。見ている側が善意で助言を始めてしまう——その懸念は、専門の側が言っていることとも食い違いません。

出典: ドラマで吃音( ̄O ̄)(通りすがりのものですが)(台帳: V0461)

当事者団体の指針は、「事実」として並べた束の中で、この点をはっきり書いています。人は方略——やり方の工夫のことです——を学んで吃音を管理したり、おそらくは和らげたりすることができるが、治すものは無い、と。同じ束には、吃音は弱さでも欠陥でもないこと、呼吸のしかたが悪いなど本人が何か間違ったことをしているから起きるのではなく神経学的なものであること、緊張しているから吃るのではなく、もし緊張しているように見えるとしたらそれは話し方を繰り返し笑われてきたからだろうということが並びます。さらに、成長すれば自然に無くなるというものではなく、生涯にわたって吃る人もいれば、そうでない人もいる、とも書かれています。

では、練習に意味が無いのかというと、そうは言われていません。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、本人が吃音の治療を希望する場合、言語聴覚士(ことばの専門職)による発話訓練を受けるという選択肢があるとしています。そして、発話訓練だけで症状が改善しない場合や吃音に対する不安が強い場合は、カウンセリングや心理療法が役立つこともあるだろう、と続けます。決めるのは本人で、付き添うのは専門職——という順序です。画面の中で第三者が調べてきた方法をやらせる、という順序とは違います。テレビという媒体が吃音をどう扱ってきたかは吃音とテレビの記事にまとめてあります。

隠すか、先に言うか——物語の外でも起きていること

第2話のあらすじで、登場人物が抱えていたのは「知られたら夢が絶たれる」という怯えでした。これは物語のための設定というより、多くの人が実際に立たされてきた分かれ道です。学会の解説も、吃音を巧みに隠そうとして言いにくい単語を言い換えるなどの工夫をすることがあり、その場合、吃音は目立たなくなるが、実際は吃音が出ないかを日々警戒しながら生活しているためストレスや悩みを抱え込みやすくなる、と書いています。では、隠さなかった人はどうなったのか。就職活動の面接で、毎回いちばん最初に自分から伝えると決めた大学生がいます。

吃音のある当事者本人(note。コンサルティングファームを志望して就職活動を終えた理系の大学生で、面接の冒頭で自ら吃音を伝え続けたことと、その理由を書いた投稿)

だからこそ、面接時にはきちんと自分の状態を伝え、その上で内定をいただいた方が双方にとって良い未来に繋がるのだと考えました。僕自身だと吃音に対して認識いただいた上で内定をいただくことで、ある種安心感を覚えましたし、企業にとっても入社後にコミュニケーションについてビハインドがあると判明すると、違った対応を取らざるを得ないかと思いました。

この人が志望していたのは、社内外を問わずやりとりの多い業界でした。投稿の前半では、その業界について「スピード命のこの業界で、自分が発声できないおかげで迷惑をかけてしまうのではないか」と思い込んでいた、と当時の見方が書かれています。正直今も不安がある、という但し書きも付いています。それでも伝えることを選んだ理由として挙げられているのは、気持ちの問題ではなく両者にとっての段取りでした。自分は認識された上で決まったという安心を得られ、企業は入社後に初めて知って対応を変えることにならずに済む——そういう説明のしかたです。投稿はこの観点から、必ず吃音があることを伝えていた、と結んでいます。この「先に言う」という選択は、実験の形でも調べられています。

出典: 面接で吃音はカミングアウトすべきなのか...!?(note)(台帳: V0002)

2025年に発表された研究が、模擬面接の動画を使ってこれを確かめています。俳優が3通りの面接を演じ、吃音なしの動画、吃音があって何も言わない動画、吃音があって面接の冒頭で一言伝える動画の3本が作られました。伝える場合の言い方も決められていて、謝る調子にならないよう「念のためお伝えしますが、私は吃音があります」という趣旨の一文を面接の最初に置いています。これを大学生58名が見て、採用したいかどうか、良い印象を持ったかどうかを評価しました。

結果はこうでした。まず全体としては、吃音のある候補者のほうが低く評価されましたただし、ここに条件が絡みます。伝えなかったときは吃音のある候補者が吃音のない候補者より低く評価された一方、冒頭で伝えたときは、両者の評価に差がありませんでした研究者はこれを、評価される場面を控えている人に専門家がどんな助言をできるかに関わる結果だとしています。なぜ効くのかについては、障害や制約を率直に認める人はよく適応していて心理的に健康だと見られるという先行研究を挙げ、もう一つの説明として、障害のある人と接するとき「何を言えばいいのか分からない」という考えが相手の頭を占めてしまうため、先に伝えることがその堂々巡りから相手を解放する——場をほぐす——のではないか、という考えを紹介しています。

模擬面接の動画を見た大学生が、応募者を1〜7点で評価した平均値。伝えない群29名・伝えた群24名。「どのくらい良い印象を残したか」は、伝えない条件で吃音なし5.76・吃音あり4.38、冒頭で伝えた条件で吃音なし5.25・吃音あり5.50。「採用したいか」は、伝えない条件で吃音なし5.66・吃音あり4.38、冒頭で伝えた条件で吃音なし4.80・吃音あり4.67。どちらの質問でも、伝えない条件では吃音のある応募者が低く、冒頭で伝えた条件では吃音の有無による差が消えている
図1: 2つの質問それぞれの平均値(原典の表2・表3の全8セル)。出典: Perez, Newman & Walmer (2025) Int J Lang Commun Disord.

この研究には、著者自身が認めている限界が2つあります。参加者を大学生だけから集めたため一般の人口を代表しておらず、面接を受ける役と年齢が近いことから共感が働いて評価が甘くなった可能性があること。そしてもう一つは、面接を受ける役を演じたのが実際には吃音のない俳優だったことで、本物らしく聞こえるよう努めたものの、吃音のある人のものとは微妙に違っていたかもしれない、と書かれています。演じられた吃音をどう扱うかという問題は、ドラマの中だけの話ではない、ということでもあります。

ドラマを見て気になったとき、相談できる場所

「自分の話し方も、もしかしてこれなのかもしれない」。作品をきっかけにそう思った方のために、相談先を置いておきます。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、思春期以降になると吃音の症状は連発や伸発よりも難発——最初の音が出しにくくなる症状のことです——が中心になるとし、中高生では部活動や入学面接、大学生ではゼミの発表や就職活動、社会人では職場の電話応対などが、発話に困難を感じやすい場面として挙げられると書いています。

相談の窓口は、立場ごとに書き分けられています。大学生であれば、発表などで配慮を求めたり、就職活動の負担が多い場合には学生相談室でカウンセラーに相談したりすることは有効だろう、とされています。社会人の場合は、就労環境はさまざまだとしたうえで、吃音について上司や同僚に相談することによって、職場の配置や電話業務などで配慮を得られることがある、と書かれています。治療を希望する場合には、言語聴覚士による発話訓練という選択肢があります。

制度の側の後ろ盾もあります。同じ解説は、2016年に施行された障害者差別解消法により、学校や職場での吃音に対する差別的言動および差別的扱いは禁止されており、発表や電話応対の免除、試験等での面接時間の延長などの合理的配慮——本人の困りごとに合わせて、周りがやり方のほうを変えることです——を求めることができる、と書いています。ただし、その際に医師の診断書や言語聴覚士の報告書の提出などが求められる場合があるとも書かれています。また、発達性吃音は2005年に施行された発達障害者支援法の対象に含まれており、困難な状況を説明した医師の診断書または意見書によって精神障害者保健福祉手帳が交付されるとも記されています。

同じ立場の人と会う場もあります。解説は、吃音の自助団体に参加してほかの吃音のある人と出会うことが心理的な変化のきっかけになることもあるとし、団体によって目的や規模は異なるものの、吃音のある当事者が「吃音があるのは自分だけではない」ということを認識し、共通の体験を語り合い、苦悩を分かち合い、互いに援助し合うことが概ね活動の中心だと説明しています。1965年に発足した「言友会」が日本で最も歴史が古く、近年は若者を対象とした団体や、女性の集いを開催する団体も設立されている、と具体名を挙げています。

次のようなときは、様子を見るだけにせず、相談を考えてみてください(当てはまらなくても相談して構いません)。

  • 言いたい言葉が出てこない状態が続き、発表や電話といった場面そのものを避けるようになっている
  • 話し方のことを職場や学校に伝えたいが、どう言えばいいか決められないまま時間が過ぎている
  • 吃音が出ないかを日々警戒している状態が続き、ストレスや悩みを一人で抱え込んでいる

この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。1つめと3つめは、失敗体験が重なると会話や社交を避けるようになること、隠す工夫によって吃音は目立たなくなるが日々警戒しながら生活するためストレスを抱え込みやすくなることを述べた学会の解説にもとづいています。

俳優と役をめぐって陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 演じた人に、役の設定を移してしまう

あらすじが「吃音」と書いているのは、富田望生さんが演じた作中の人物についてです。同じ取材で本人が語っているのは役作りの過程で、それも当事者に質問し、口の中の動きを聞き、どの言葉が出にくいかを受け取っていったという、教わる側からの発言です。役の設定を演じた人の属性として書き換えると、本人が公表していないことを本人の話として広めることになります。人物の吃音について何かを伝えるときは、その一行が本人の言葉なのか、あらすじの記述なのか、誰かの要約なのかを分けて書くほうが安全です。

落とし穴2 − 画面の中の練習を「治し方」として持ち帰る

作中で試されていた方法について、吃音のある視聴者からは「それでは改善はちょっと無理だよな」「これで改善した人を私は知りません」という感想が出ています(V0461)。同じ人が心配しているのは、事情を知らない人がこれを見て余計な助言をしてしまうことでした(V0461)。当事者団体の指針も、方略を学んで管理したり和らげたりはできても治すものは無い、と書いています。もし練習を考えるなら、画面ではなく言語聴覚士に相談する順序です。

落とし穴3 − 「当事者が監修したのだから全部正しい」と受け取る

この作品には吃音監修の医師が付き、当事者が指導に加わっていました。それでも、指導が及んだ範囲は記事に書かれているとおり、演技の加減と場面ごとの出方についてであって、脚本が描く筋立てのすべてではありません。実際、同じ回を見た当事者が改善の場面に疑問を書いています(V0461)。監修が付いているかどうかは、その作品の一部分について確かめられたという事実であって、作品全体の保証ではありません。

そのうえで、ドラマをきっかけに自分の話し方が気になった方は、どの場面で出やすかったか・どの場面では楽だったかを短く書き留めておくと役に立ちます。相談のときに状態を説明しやすくなり、職場や学校に配慮をお願いするときの材料にもなります。

よくある質問

富田望生さん本人に吃音があるのですか?

この記事が使った資料に、本人が自分の吃音について語った記述はありません。確かめられるのは、2025年4月27日放送の日本テレビ系ドラマ『ダメマネ!』第2話で、吃音のある新人俳優という設定の役を演じた、というところまでです。同じ取材で本人が語っているのは、当事者に質問して吃音の知識を得たことや、どの言葉が出にくいかを会話の中で受け取っていったことで、いずれも教わる側からの発言です。この記事は、本人に吃音があるともないとも判定しません。

吃音の演技は、どうやって作られたのですか?

記事によると、吃音監修を務める慶應義塾大学医学部の富里周太助教の判断で、同年代の女性の感覚を生かすため、当事者の滝澤美紅さんが指導に加わりました。滝澤さんが伝えたのは、どもる時にどういう気持ちになるか、どういう場面でどもりが出やすいか、という内容でした。話し方自体の指導はほとんどなく、登場人物どうしの距離感に合わせて「そんなに強く出なくても大丈夫だと思います」といった加減を助言していったと書かれています。前日の記事は、クランクイン前から吃音のある人たちの指導を受けていたと伝えています。

ドラマの中の練習法は、実際に効くのですか?

この記事の材料では、効くとも効かないとも言えません。作中の場面については、吃音のある視聴者から「根本的な解決にはならない」「これで改善した人を私は知りません」という感想が出ています(V0461)。英国の当事者団体の指針は、方略を学んで吃音を管理したり和らげたりはできても治すものは無い、と書いています。治療を希望する場合の選択肢として、日本吃音・流暢性障害学会は言語聴覚士による発話訓練を挙げています。

面接やオーディションで、吃音は先に言ったほうがいいのですか?

一律の答えはありませんが、参考になる研究があります。模擬面接の動画を大学生58名に評価させた実験では、吃音があって何も言わない場合は吃音のない候補者より低く評価された一方、面接の冒頭で一言伝えた場合は両者の評価に差がありませんでした。ただし参加者が大学生だけであること、面接を演じたのが実際には吃音のない俳優であることを、著者自身が限界として挙げています。就職活動で毎回冒頭に伝えると決めた当事者の記録もあります(V0002)。

作品で吃音を描くとき、気をつけることはありますか?

当事者団体が指針を公開しています。吃音のある声がテレビ・ラジオ・映画で聞こえるようにしてほしいこと、ただし「克服した」「治した」という文脈ではなく声の多様さの一部としてであること。取材や配役の場では、さえぎらずに話し終えるまで待ち、流暢に話せたことを褒めたり祝ったりしないこと。吃音や吃るという語を失敗や出来の悪さの言い換えに使わないこと。この指針は英国王立言語聴覚士会の承認を受けており、番組を企画する人は関係者と共有してほしい、と書かれています。

まとめ

  • 手元の資料で確かめられるのは、富田望生さんが日本テレビ系ドラマ『ダメマネ!』第2話で、吃音のある新人俳優という設定の役を演じたということまで。本人が自分の吃音について語った記述は、この2本の記事には無い。
  • この役作りには、吃音監修の医師のもとで当事者が指導に加わっていた。伝えられたのは話し方の見本ではなく、どもる時の気持ちと、出やすい場面だった。
  • 作中で試される改善の場面には、吃音のある視聴者から「根本的な解決にはならない」という感想が出ている(V0461)。当事者団体の指針も、方略で管理したり和らげたりはできても治すものは無い、としている。
  • 「知られたら夢が絶たれる」という怯えは、物語の外にもある。隠す工夫をすると吃音は目立たなくなるが、日々警戒しながら生活するためストレスを抱え込みやすい。模擬面接の実験では、冒頭で伝えた場合に吃音のない候補者との評価の差が消えた。
  • 相談先は、大学生なら学生相談室、社会人なら上司や同僚への相談と職場の配慮、治療を希望する場合は言語聴覚士による発話訓練。自助団体もある。

参考文献

  1. マイナビニュース「吃音の役に挑んだ富田望生、当事者と丁寧に作り上げて撮影に 意識したのは“個性”」(2025年4月28日公開。俳優・富田望生さんと、吃音のある当事者で吃音指導を務めた滝澤美紅さんの合同インタビュー。吃音監修は慶應義塾大学医学部の富里周太助教)
  2. マイナビニュース「『ダメマネ!』富田望生が吃音と向き合う役を熱演」(2025年4月27日公開。日本テレビ系ドラマ『ダメマネ! —ダメなタレント、マネジメントします—』第2話の放送内容と各話あらすじを伝えた記事)
  3. STAMMA「Talking About Stammering — Guidelines for talking about stammering」(英国王立言語聴覚士会 Royal College of Speech & Language Therapists の承認を受けたと同ページに記載・2024年1月最終更新)
  4. Acknowledging a Stutter Affects the Impression One Makes in a Job Interview (2025). International Journal of Language & Communication Disorders.(模擬面接の動画を大学生58名に評価させ、面接の冒頭で吃音を伝えた場合と伝えなかった場合を比べた実験)
  5. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」(広報委員会作成・2023年10月。中高生以上の子ども・成人の節の文責は北里大学病院 リハビリテーション部 吉澤健太郎)

当事者の声の出典: V0550(マイナビニュース・ドラマ『ダメマネ!』の吃音指導を務めた当事者 滝澤美紅さんと俳優 富田望生さんの合同インタビュー)/ V0461(はてなブログ「通りすがりのものですが」・吃音のある書き手がドラマの描写について書いた投稿)/ V0002(note・就職活動で吃音を自分から伝えた大学生本人の投稿)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開/2026-09-12 P0065 の著者名を原典どおり Perez, Newman & Walmer に訂正