吃音にホスファチジルセリンは効く?|研究の範囲と相談の目安

目次

「ホスファチジルセリンという成分が脳に良いらしい」「それなら、吃音にも何か効くのだろうか」——成分の名前を一つずつ当たっている段階の方は、たいてい、もっと大きな問いを抱えたままここに来ています。薬でも訓練でもなく、口から入れるもので何かが変わるなら、と。

この記事は、その問いに正面から向き合うために、まず一つの事実をはっきりさせるところから始めます。ホスファチジルセリンと吃音を結びつけて調べた研究は、この記事が参照できた範囲には見あたりませんでした。そのうえで、マードック小児研究所とメルボルン大学の研究者がまとめた2025年の系統的レビュー(決めた条件で世界中の研究を集め、まとめて評価しなおす方法です)が実際に調べたのは何だったのか、「脳に効く」という言い方が吃音の脳研究とどれくらい離れているのか、そして飲むもので吃音が「出る」ことがあるという逆向きの報告を、サプリメントに手を伸ばした保護者の記録と並べて読んでいきます。国立障害者リハビリテーションセンターが示す相談の目安まで、出典つきでたどります。摂取量や商品の話はしません。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。サプリメントや薬については医師・薬剤師に、話しにくさそのものについては言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 吃音に対する薬と食事の治療研究を、決めた手順で世界中から集めて評価しなおした2025年の報告(こうした報告は「系統的レビュー」と呼ばれます)が食事療法として扱ったのは、銅・チアミン(ビタミンB1)・緑茶・アーユルヴェーダのサプリメントの4つで、いずれも根拠が不十分だったとされています。ホスファチジルセリンはこの4つに含まれていません。
  • 「根拠が不十分」は「効かないと証明された」ではなく、判断できるだけの証拠がまだ無い、という意味です。同じレビューは、有望に見える所見があっても方法上の限界のために確定的な治療の推奨はできない、と結論しています。
  • 吃音そのものに有効性が確立された薬はなく、吃音を適応として保険で使える薬もありません。米国でも、吃音の治療薬として承認された薬はありません。
  • サプリメントの説明でよく使われる「脳の働き」という言い方の土台にあたる、吃音では脳内のドーパミン(信号を伝える物質の一つです)が過剰だという仮説について、脳回路をまとめた総説は、薬の研究はこれを決定的には示せていないと明記しています。
  • 逆向きの報告もあります。薬の副作用として現れる吃音は、医学の研究では「薬剤性の吃音」として、子どものころから続く発達性吃音とは別のものとして扱われています。抗うつ薬の一部や、気管支の薬として使われるテオフィリンで吃音が出たという報告も並んでいます。

ただし、ここに書けるのは「今ある研究では判断がつかない」というところまでです。ホスファチジルセリンを吃音との関係で調べた研究が見あたらない以上、「飲めば良くなる」と言える材料も、「飲んでも意味がない」と言い切れる材料も、この記事にはありません。試すかどうか、いま飲んでいるものをどうするかは、自己判断ではなく医師や薬剤師にご相談ください。

「出来うることは全てやろう」——栄養に手を伸ばすとき

成分の名前を手がかりに調べはじめる人は、その成分が好きでそうしているわけではありません。たいていは、目の前の子どもや自分の話しにくさに対して、できることが尽きかけている。ある母親は、その気持ちをこう書き残しています。

小学1年生の長男の吃音に悩んだ母親(歯科医師・栄養カウンセラー/個人ブログ)

考え方を知っていたので頭では分かっていても、食べ物で人の性格や思考、ましてや医者でも原因が特定出来ず、治す事のできないものが治るなんて正直心からは信じられなかったです この時は

でも、当時の私は出来うることは全てやろう!

やってみてダメだったらまた考えよう。

と、先ず親子で栄養解析の検査に行きました

この人の長男は、気づいた頃にはもう強くどもっていました。通いはじめた幼稚園の副園長からは、母親が働きだしたストレスのせいだと、はっきり言われたことがあると書かれています。小学1年生になって吃音に癇癪が加わったとき、「栄養の検査はしたのか」と尋ねてきた人がいて、吃音や癇癪が栄養の問題かもしれないという考え方を初めて知った。本人は歯科医師ですが、それでも「心からは信じられなかった」と当時を振り返っています。それでも検査に行き、食生活を変えるところから始めた。同じ順路をたどる人は少なくありません。では、この「食べもので変わるのか」という問いに、研究の側は何を調べてきたのでしょうか。

出典: 吃音(どもり)はストレスでなく〇〇障害だった(個人ブログ)(台帳: V0506)

2025年に、吃音に対する薬と食事による治療の研究を、決めた手順で世界中から集めて評価しなおした報告が出ています。主要な医学のデータベースを、開設時から2024年6月までさかのぼって調べ、研究の設計を限定せずに集めたものです。集まったのは39件で、17種類の薬のグループと4つの食事療法が扱われていました。研究の87%は、青年・成人の持続する吃音を対象にしたものです。

ここが肝心なところです。食事療法として調べられていたのは、銅・チアミン(ビタミンB1)・緑茶・アーユルヴェーダのサプリメントの4つで、結果はいずれも根拠が不十分、というものでした。ホスファチジルセリンは、この4つの中にありません。つまり、この成分について言えるのは「効く」でも「効かない」でもなく、吃音との関係では、まだ調べられた形跡が見あたらないということです。調べられていないものは、良い結果も悪い結果も出しようがありません。「根拠が不十分」と「調べられていない」は、どちらも判断材料が無いという点では同じ場所にあります。前者の読み方はビタミンB1(チアミン)を扱った記事で詳しく書きました。

2025年の系統的レビューが食事療法として調べた4つと、その判定を並べた図。銅は根拠が不十分、チアミン(ビタミンB1)は根拠が不十分、緑茶は根拠が不十分、アーユルヴェーダのサプリメントは根拠が不十分。ホスファチジルセリンはこの4つの中になく、良い結果も悪い結果も出ていない状態。このレビューは主要データベースを2024年6月までさかのぼって検索し、39件の研究、17の薬効分類と4つの食事療法を組み入れたもの。
図1: レビューが食事療法として調べた4つと、その判定。4つの列挙も判定も同じ論文によるもので、ホスファチジルセリンはその列挙に含まれない。出典: Horton et al. (2025) Neurosci Biobehav Rev.

「吃音にはまだ何も変化はありません」——飲みはじめた日の記録

もう一人、吃音のある息子の経過をブログに書き続けている母親がいます。この人自身にも吃音があります。ある冬、サプリメントを試してみようと思い立ったときのことが、その日のうちに近い時間で書き留められていました。

吃音のある息子の母親(自身も吃音あり/個人ブログ)

まずは私が3日ほど飲んでみて身体に害が無い事を確認してみました。

で、一昨日の事なのですが、

息子の吃音が酷く、まるで過呼吸のような話し方を急にするようになり、

息子が「もう嫌だ、助けてくれ」と言い出しました。

母親は、その方法を勧める医師がいることを息子に話し、一緒に試してみないかと打診しています。息子は「是非ともやりたい」と答えました。取り寄せたカプセルは大きく、これを息子が飲めるのか、母親の判断だけで飲ませてよいのか、と数日迷ったうえでの打診でした。飲みはじめて二日目に書かれたこの記事は、「当たり前ですが、吃音にはまだ何も変化はありません」という一文を挟んでいます。そのあとに続くのは、肌の調子が良いこと、そしてそれが食事のおかげか「それともたまたまか」という自問です。この「たまたまか」という留保は、研究の側が最も重く扱うものと同じものです。

出典: ナイアシンアミド始めました(個人ブログ「ガチャガチャ息子の記録、時々娘も。」)(台帳: V0508)

一人が試した結果は、良くても悪くても、効くかどうかの証拠にはなりません。理由は意地悪ではなく単純で、比べる相手がいないからです。吃音は日によって波があり、放っておいても良くなる時期・悪くなる時期があります。だから「飲んだあとに良くなった」だけでは、飲んだからなのか、たまたまその週が良かったのかを分けられません。

2025年の系統的レビューは、この分野全体の問題として3つを挙げています。有効成分の入っていない偽の薬(プラセボ)と比べるくじ引き式の試験が無いこと、結果の測り方が研究ごとにばらばらなこと、そして人数が小さいことです。研究の側でさえこの状態なのだから、一つの家庭の記録で答えが出ないのは当然です。それでも、この母親が「まだ何も変化はありません」と正直に書いたことには意味があります。効果を証明する材料にはならなくても、いつ何を始めて、そのあと何が変わらなかったかという事実は、相談の場でそのまま渡せる情報になるからです。

「効くよと言いたいわけではない」——続けている人の書き方

同じ母親のブログを、一年ほど先まで読み進めると、続けてきた食事とサプリメントを一覧にして振り返っている回に行き当たります。そこには、この種の記録を読むときに最も大事な一文が置かれていました。

吃音のある息子の母親(自身も吃音あり/個人ブログ・同じ書き手)

マグネシウム液も入れています。

食事やサプリ系も載せましたが、

決して「これが良いよ!効くよ!」と言いたいわけではないです。

あくまで私自身の記録として、私も本当に手探りですのでご承知ください。

この回で書かれているのは、うまくいったことだけではありません。息子の吃音の調子、首振りや瞬きのチック、げっぷ、季節の変わり目に悪くなった肌の状態が、同じ筆致で一つずつ書き留められています。すすめられたプロテインは飲めずに断念したこと、大きなカプセルのサプリメントは本人の負担になるのでやめたこと、溶かす形も混ぜる形も駄目だったことも、そのまま残っています。できなかったことを消さずに書く——この書き方は、効果を確かめようとする研究の作法と、実はよく似ています。

出典: 最近の吃音、チック等身体症状と栄養療法まとめ(個人ブログ「ガチャガチャ息子の記録、時々娘も。」)(台帳: V0507)

「効くと言いたいわけではない」という構えは、研究の側の言葉づかいとも重なります。2025年のレビューは、有望に見える所見があっても、方法上の限界のために確定的な治療の推奨はできない、と結論しました。薬のほうでも事情は似ていて、言語訓練と薬を直接比べた試験は現時点で一つもありません。評価する人も対象になった人たちも研究ごとに違うため、既にある研究どうしを突き合わせることもできない、と総説は書いています。今後は、同じように割り付けた人たちを、言語訓練だけ・薬だけ・両方の組み合わせの3つに分けて比べるべきだ、という提言が出ている段階です。

比べる材料自体がまだ揃っていない。だとすれば、手元に残るのは「自分の家で何がどう変わったか、変わらなかったか」という記録だけです。それは効果の証拠にはなりませんが、相談の場で伝えられる事実にはなります。

「脳に効く」という言い方と、吃音の脳の話の距離

ホスファチジルセリンのような成分の説明には、たいてい「脳の働き」という言葉が出てきます。一方、吃音の研究にも脳の話は山ほどあります。同じ「脳」という語が使われているので、二つはつながって見える。ここでは、その距離を測っておきます。

吃音の薬の研究で最もよく語られてきたのは、吃音のある人では脳内のドーパミン——神経のあいだで信号を伝える物質の一つです——が過剰な状態にある、という仮説です。この仮説には支えもあります。ドーパミンを増やす薬で流暢さが乱れることがあり、逆にドーパミンの働きを抑える薬で吃音が改善したという報告があるからです。

ただし、脳の回路をまとめた総説は、薬の研究はこの仮説を決定的には示せていないと明記しています。ドーパミンが少ない状態と多い状態のパーキンソン病の患者を比べて、なめらかに出ない度合いに差が無かった、という報告もあるからです。仮説を支持する遺伝子の研究もある一方で、否定的な報告も並んでいる。この分野の現在地は「どちらとも言い切れない」です。

そしてもう一つ、距離を測るうえで見落とせないことがあります。ここで「効果の報告がある」とされているのは、いずれも医師が処方する薬の話です。1980年の研究で流暢さの改善が示されたのは、ドーパミンを遮断する第一世代の抗精神病薬(ハロペリドール)でした。しかしこの薬は、不快感・性機能の障害・体の動きに関わる副作用のために、長く飲み続けることができないと同じ総説に書かれています。効果と副作用が同じ大きさで語られる世界の話であって、店頭で選べる成分と同じ土俵にあるわけではありません。薬の現在地の全体像は子どもと大人で違う治し方を整理した記事にまとめています。

飲むもので吃音が「出る」ことがある——逆向きの報告

サプリメントを探している人がいちばん知らされていないのは、この向きの話だと思います。口から入れるものと話しにくさの関係は、一方通行ではありません。

医学の研究では、大人になってから始まる吃音を、子どものころから続く発達性吃音と区別して扱います。280万人分の医療記録から吃音の症例を探し出した研究は、その作業の途中で3種類を除外しています。脳卒中や頭部外傷に伴うもの(神経原性)、薬の副作用によるもの(薬剤性)、精神病や統合失調症に伴う原因のはっきりしないもの(心因性)の3つです。いずれも大人になってから始まり、一過性であることが多いため、発達性吃音とは別の成り立ちだと考えられています。「薬の副作用による吃音」が、わざわざ名前を持つ分類として存在している——この事実そのものが、一つの情報です。

脳の回路をまとめた総説は、薬の報告を両方向に並べています。ドーパミンを遮断する薬で吃音が改善した報告がある一方で、セルトラリンやフルオキセチンといった、うつ病などに使われる抗うつ薬(セロトニンの再取り込みを抑える種類)で吃音が起きたという報告もある。この種類の薬は均一な集まりではないので、薬ごとに働きが違う可能性がある、と書かれています。気管支をひろげる薬として使われるテオフィリンで吃音が起きた報告も、子どもと大人の両方にあります。

実際の症例の記録にも残っています。大人になってから始まった吃音を調べた研究には、離婚のあとに不安とうつの診断を受け、処方された抗うつ薬を飲んだところ吃音が悪化したと感じて、二か月ほどでやめた男性の経過が載っています。特定の抗うつ薬と吃音の関係はパキシルを扱った記事で改めて整理します。パーキンソン病の治療に使われるレボドパ(脳内のドーパミンの材料になる薬です)についても、流暢さへの影響は研究で割れていて、良くなるという報告と、逆に乱れが強まるという報告の両方が引かれています。長く使ううちに出てくる運動面の副作用の一つとして吃音が挙げられている、とも書かれています。

薬と吃音の関係について報告が両方向にあることを3段で並べた図。「吃音が改善した」という報告は、ハロペリドール・リスペリドン・オランザピンなど、ドーパミンの働きを抑える薬。「吃音が起きた」という報告は、セルトラリン・フルオキセチン(セロトニンの再取り込みを抑える抗うつ薬)と、テオフィリン(気管支の薬。子どもと大人の両方に報告がある)。報告が割れているものは、レボドパ(パーキンソン病の薬)で、流暢さが改善したという報告と、なめらかに出ない度合いが強まったという報告の両方があり、ドーパミンが低い状態と高い状態の患者を比べて差は無かったという報告もある。どれも医師が処方する薬の話で、この図は報告の向きを並べたものであり、効く・危ないという判定ではない。いずれも総説が引用している報告で、総説そのものが測った値ではない。
図2: 薬と吃音について、どちら向きの報告があるか。並べたのはいずれも総説が引用している報告で、総説自身が測った値ではない。出典: Craig-McQuaide, Akram, Zrinzo & Tripoliti (2014) Front Hum Neurosci. / Juste, Sassi, Costa & de Andrade (2018) PLOS ONE.

誤解のないように書き添えます。これは「飲めば悪くなる」という話ではありませんし、いま処方されている薬をやめる理由にもなりません。言いたいのは一つだけで、口から入れるものと発話の関係は、良い方向にも悪い方向にも報告があるということです。だからこそ、始めるときも、やめるときも、自分ひとりで決めないほうがいいのです。

どこに相談するか——買う前に確かめられること

「口から入れるもので何か変わらないか」という問いの奥には、たいてい、今の話しにくさをどうにかしたいという切実さがあります。その切実さのほうを相談の場に持っていくのが、いちばん確実な道です。

吃音そのものに有効性が確立された薬はなく、吃音を適応として保険で使える薬もありません。治療の中心になるのは、周りの接し方を変えること・言語訓練・カウンセリング・心理療法や行動療法だとされています。薬が使われるのは、吃音そのものというより、吃音が原因となった二次的な抑うつや、人前で話す場面に強い不安が出る状態(社交不安障害)に対してです。訓練で何がどこまで変わるのかは技法と年齢で答えが変わることを扱った記事に、体に働きかける方法については整体やマッサージを扱った記事にまとめました。

吃音の治療のなかで薬がどこに置かれているかを3段で示した図。治療の中心とされているものは、環境調整・言語訓練・カウンセリング・心理療法や行動療法で、どの人にも一様に有効な方法は無く組み合わせて選ぶとされている。薬物療法が行われることがあるのは、吃音が原因となった二次性の抑うつ・社交不安障害に対して。吃音そのものについては、有効性が確立された薬は無く、吃音を適応として保険で使える薬も無く、米国でも吃音の治療薬として承認された薬は無い。
図3: 吃音の治療のなかで、薬が置かれている位置。出典: 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「治療の解説」 / Maguire et al. (2020) Front Neurosci.

子どもの場合、自然に吃音が消えるのは、出はじめた時期からおおむね2〜3年以内がほとんどです。この時期を過ぎても消えない場合は、医療・教育機関で相談することが推奨されています。窓口になるのは、ことばの専門職である言語聴覚士と、地域の「ことばの教室」です。

サプリメントについては、この記事は摂取量も商品名も書いていません。試すかどうか、量をどうするか、いま飲んでいる薬との飲み合わせはどうかは、医師・薬剤師・管理栄養士に確かめてください。とくに、処方されている薬を自己判断でやめたり変えたりしないでください。持病があるとき、子どもに飲ませることを考えているときは、なおさらです。

「飲めば変わる」を探すときの3つの落とし穴

落とし穴1 − 「調べられていない」を「まだ否定されていない」と読む

2025年の系統的レビューが食事療法として扱ったのは4つで、ホスファチジルセリンはその中にありません。調べられていない成分は、良い結果も悪い結果も出ていないというだけで、望みが残っている印ではありません。同じ理由で、「効かないと証明されていない」も、勧める根拠にはなりません。

落とし穴2 − 「脳に効く」を吃音の話として読む

吃音の脳研究でよく語られるドーパミンの仮説について、脳回路の総説は、薬の研究はこれを決定的には示せていないと書いています。そのうえ、効果が報告されてきたのは処方薬であり、しかも副作用のために長く飲み続けられないものでした。「脳」という同じ語が使われていても、指しているものの強さも危険も違います。

落とし穴3 − 自己判断で始める・自己判断でやめる

薬の副作用として現れる吃音は、研究のうえでも「薬剤性」という別の分類を与えられています。抗うつ薬を飲んで吃音が悪化したと感じ、二か月でやめた人の記録も残っています。始めるときも、やめるときも、医師や薬剤師に相談してください。そして、いつから何を試して、話し方がどう変わったか(変わらなかったか)を書き留めておくと、相談の場で「1か月続けたが変化は無かった」という事実を、あの母親のように正確に伝えられます。

まずは気づいたことを書き留めておくことから小さく始め、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。

よくある質問

ホスファチジルセリンで吃音は良くなりますか?

この記事が参照できた範囲では、ホスファチジルセリンと吃音を結びつけて調べた研究は見あたりませんでした。2025年の系統的レビューが食事療法として扱ったのは銅・チアミン・緑茶・アーユルヴェーダのサプリメントの4つで、いずれも根拠が不十分とされています。効くとも効かないとも言える材料が、現時点ではありません。

吃音に効くサプリメントはありますか?

2025年の系統的レビューは、調べられた4つの食事療法すべてについて根拠が不十分だったとしています。同じレビューは、有望に見える所見があっても方法上の限界のために確定的な治療の推奨はできないと結論しています。吃音そのものに有効性が確立された薬もなく、保険で使える薬もありません。

サプリメントや薬を飲んで、吃音が悪くなることはありますか?

薬については、副作用として現れる吃音が「薬剤性の吃音」という分類で扱われています。一部の抗うつ薬や、気管支の薬として使われるテオフィリンで吃音が起きたという報告もあります。処方された抗うつ薬で吃音が悪化したと感じて中止した人の記録も残っています。気になる変化があれば、自己判断で中止せず処方した医師にご相談ください。

「脳の働きを助ける」と書いてある成分なら、吃音にも良いのではありませんか?

吃音の薬の研究で語られてきたドーパミンの仮説について、脳回路をまとめた総説は、薬の研究はこれを決定的には示せていないと明記しています。また、流暢さの改善が報告された薬は処方薬であり、副作用のために長く飲み続けられないものでした。「脳に働く」という表現が同じでも、根拠の中身は別のものです。

サプリメントを試したいとき、誰に相談すればいいですか?

量や飲み合わせ、いま飲んでいる薬との関係は、医師・薬剤師・管理栄養士に確かめてください。吃音そのものの相談は、言語聴覚士やことばの教室が窓口になります。子どもの場合、吃音が出はじめてから2〜3年ほどを過ぎても消えないときは、医療・教育機関での相談が推奨されています。

まとめ

  • 2025年の系統的レビューが食事療法として調べたのは銅・チアミン・緑茶・アーユルヴェーダのサプリメントの4つで、いずれも根拠不十分。ホスファチジルセリンはこの中に入っていない。
  • 「根拠が不十分」も「調べられていない」も、判断材料が無いという意味では同じ場所にある。効くとも効かないとも言えない。
  • 吃音そのものに有効性が確立された薬はなく、保険で使える薬も、米国で承認された薬もない。
  • 「脳に効く」の土台にあたるドーパミンの仮説は、薬の研究では決定的に示せていない。効果が報告された薬は処方薬で、副作用のために続けられないものだった。
  • 薬の副作用として現れる吃音は「薬剤性」として別に分類されている。始めるときもやめるときも医師・薬剤師に、吃音そのものは言語聴覚士・ことばの教室に相談を。

参考文献

  1. Horton, Forbes, Scheffer, Reilly, Shepherd & Morgan (2025) Pharmacological and dietary treatments for developmental stuttering: A systematic review. Neurosci Biobehav Rev.(マードック小児研究所・メルボルン大学ほか)
  2. Maguire et al. (2020) The Pharmacologic Treatment of Stuttering and Its Neuropharmacologic Basis. Front Neurosci.
  3. Craig-McQuaide, Akram, Zrinzo & Tripoliti (2014) A review of brain circuitries involved in stuttering. Front Hum Neurosci.
  4. Pruett et al. (2021) Identifying developmental stuttering and associated comorbidities in electronic health records and creating a phenome risk classifier. J Fluency Disord.
  5. Chang, Synnestvedt, Ostuni & Ludlow (2010) Similarities in speech and white matter characteristics in idiopathic developmental stuttering and adult-onset stuttering. Journal of Neurolinguistics.
  6. Juste, Sassi, Costa & de Andrade (2018) Frequency of speech disruptions in Parkinson's Disease and developmental stuttering: A comparison among speech tasks. PLOS ONE.
  7. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「治療の解説」(kitsuon-kenkyu.umin.jp)
  8. 北條具仁「〔トピックス〕青年期吃音に対する認知行動療法を用いた最新治療−グループ介入研究のご紹介−」(国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.361)

当事者の声の出典: V0506(歯科医師で栄養カウンセラーの母親の個人ブログ)/ V0508・V0507(吃音のある息子の母親が続けている個人ブログ「ガチャガチャ息子の記録、時々娘も。」)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。原文にある摂取量・錠数・購入先は引用していません。

更新履歴: 2026-09-11 公開