『吃音の世界』を読んだら|人数・原因・治療の今を出典で確かめる

『吃音の世界』を読んだら|人数・原因・治療の今を出典で確かめる
目次

『吃音の世界』(菊池良和・光文社新書)を読み終えて、本を閉じたあとに残った問いがある方へ。著者は本当に吃音(きつおん)の当事者なのか。日本にどれくらいの人がいるのか。原因は親や本人にあるのか。治療はどこまで進んでいるのか。本に書いてあったことを、そのまま信じていいのだろうか——そう思ったまま、このページを開いた方もいると思います。

この記事は、本の中身を要約したり引き写したりはしません。代わりに、本が扱っている主題を一つずつ取り出して、九州大学病院の告知、国立障害者リハビリテーションセンターの解説、幼児吃音臨床ガイドライン2021、日本吃音・流暢性障害学会の資料といった公的な一次資料と、吃音のある5人の言葉(著者本人が学術誌に書いた手記を含みます)で確かめていきます。読み終えたあとに何を確かめればいいか、その順番をここに置いておきます。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。書籍の本文は引用していません。著者を含む実在の方について、本人が公にしていない健康状態には触れません。

まず結論から

  • 著者が所属する九州大学病院は、2025年10月8日付のお知らせで、この医師について「自身も吃音の当事者」であり、福岡県内2か所で「吃音外来」を開いていると記しています。
  • 吃音のある人の数は「割合」で語られます。国立障害者リハビリテーションセンターの解説では、幼児期に吃音が始まる割合(発症率)は5%以上、全人口のうち吃音のある人の割合(有病率)は約1%です。日本の複数地域の3歳児健診を使った研究では、健診の時点で6.5%、3歳までに一度でも始まった子は8.9%でした。
  • 原因について、幼児吃音臨床ガイドライン2021は「発症の原因として最大のものは遺伝要因」で7割程度としたうえで、育て方が悪いせいで吃音が生じるという説は否定されている、と明記しています。
  • 原因そのものを取り除く治療は「現在は、不可能」と同ガイドラインが答えており、吃音を対象として保険で使える薬もありません。幼児には根拠の確立した介入法が2つ挙げられ、青年・成人では話し方の訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心の面の評価と対応も必要とされています。
  • 支援の側では、障害者差別解消法により、学校や職場で発表や電話応対の免除、面接時間の延長といった配慮を求めることができます。

ただし、ここに並べた数字はどれも「誰を・何歳で・いつ数えたか」で変わる値で、本に載っている数字と一致しないことがあっても、どちらかが間違いとは限りません。本の中身についての判断はこの記事では行わず、資料が何と言っているかだけを書いています。

「当事者である医師」が書いた本、という前提は確かなのか

この本を手に取る理由のひとつは、吃音のある本人が、しかも医師として書いている、という点だと思います。ところが読む側には、それを確かめる手立てがあまりありません。本の外で、本人が自分の言葉で書いたものが一つあります。医学教育の専門誌に寄せた手記です。

当事者本人の手記(菊池良和・九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科/学術誌『医学教育』55巻2号・2024年)

吃音のある医師として働く際に,困る場面とその工夫をまず紹介する.

一つ目は,「患者の呼び出し」.当院では電子カルテを使用し,患者の呼び出しは診察室前の番号で表示される.もしも,いない場合は他のスタッフに呼び出しをしてもらう.その理由として,吃音症の場合は,吃音が出る確率の高い言葉と流暢に話せる確率の高い言葉があり,放送や大勢の患者の前で吃音が出て変に思われる不安があるから,である.

「インクルーシブ教育を考える」という特集の中の、「障害のある医療者の体験」という枠に載った手記です。2005年に九州大学医学部を卒業し、医師として約20年働いてきたと書き出したあと、困る場面を5つ順に挙げています。患者の呼び出し、患者との会話や説明、他の病院への電話、手術前の発表、学会での発表。書かれているのはどれも「どうしているか」であって、症状の重さを述べる文章ではありません。この記事も、その先には踏み込みません。本人が書いたものとは別に、所属する病院が公に出している文書があります。

出典: 4-5.発達障害(吃音)のある医師(医学教育 55巻2号・J-STAGE)(台帳: V0020)

九州大学病院は、2025年10月8日付の病院からのお知らせで、耳鼻咽喉・頭頸部外科のこの医師について「専門は吃音をはじめとした音声言語医学」であり、「自身も吃音の当事者で、九州大学病院など福岡県内2か所で全国的に珍しい『吃音外来』を開いています」と書いています。受賞理由は「吃音症の研究と正しい知識の啓発を進め、多様性を支える社会の形成に努めた功績」です。「当事者である医師」という本の前提は、著者の自己申告だけでなく、所属先が公に書いているということです。ただしこれは受賞の告知であって診療の案内ではないので、外来の曜日や予約の方法はこのページには書かれていません。受診の入口がどうなっているかは、九州大学の吃音外来の順路をまとめた記事に分けてあります。

では、当事者が書くことに、読み手にとってどんな意味があるのか。吃音のある大人502人を対象にした調査を整理した論文は、言葉が詰まる・制御が利かなくなるという内側の感覚を知りうるのは話している本人だけだ、と確認されたと述べています。同じ論文は、500人を超える大人への調査で、約半数が少なくとも時々、特定の音や語や場面を避けたり、どもりそうな語を言い換えたりという聞き手には見えない行動をとっており、10〜20%は「よく/いつも」そうしていると紹介しています。外からは流暢に聞こえていても本人はより大きな努力を払っている状態は「見せかけの流暢さ」と呼ばれ、目に見える乱れが無いまま制御を失う感覚だけがある「隠れた吃音」もあります。観察できるどもりの有無だけを物差しにすると、本当は話す場面を避けているだけの人が「もう大丈夫」と早く訓練を終えられてしまう危険がある、とも書かれています。

どもる瞬間の感情についても、同じ調査をもとに、恥ずかしい(45%)、きまりが悪い(53%)、感情的に消耗する(49%)を「よく/いつも感じる」と答えた大人の割合が示されています。ただし論文は、こうした反応はよくあるものだが、形も起こり方も人によって大きく違う、と結論しています。当事者が書いた本を読むことの意味は、外から見えない側を知ることにあり、同時に、その一人の体験を全員に当てはめないことにもあります。

吃音のある大人502人への調査で、どもる瞬間に「よく/いつも感じる」と答えた割合を並べた横棒グラフ。恥ずかしい45%、きまりが悪い53%、感情的に消耗する49%。原典は、こうした反応はよくあるものだが、形も起こり方も人によって大きく違うと結論している。
図1: どもる瞬間に「よく/いつも感じる」と答えた大人の割合。出典: Tichenor et al. (2022) Topics in Language Disorders. が紹介する Tichenor と Yaruss (2019a) の502人調査。

吃音のある人は、どのくらいいるのか

本を読んで最初に覚える数字は、たいてい「何人」という人数だと思います。しかし人数は「割合」から逆算した値で、その割合は、誰を・何歳で・いつ数えたかで変わります。本と公的機関の資料から割合を書き写し、人数を自分で計算してみた当事者がいます。

当事者本人の声(名義「吃音楽」・30代前半のときに通える範囲の病院に吃音外来ができたと書く/個人ブログ note)

成人になっても100人に1人に存在する「発話障害」で

日本人の約100万人に吃音がある計算になるわけだが

自分は(自分も?)30年以上医療にかかれなかった

吃音で医療にかかることがハードルの高いことだと改めて実感した

通える範囲の病院に吃音外来ができて、人生で初めて言語聴覚士(ことばの専門職)に相談できた、と書き出す記事です。「ありがたい」と思って通っていた自分に引っかかりを覚え、たまたま読んでいた本で「ありがたい」の意味を引いたところから、書き手は吃音の本と国立障害者リハビリテーションセンターのページの数字を書き写していきます。割合から人数を出したあとに続くのは、他の人との比較ではなく、自分の30年です。書き写された数字は、それぞれ出どころが違う値でした。資料の側が実際に何と書いているかを見ておきます。

出典: 吃音外来を「ありがたい」と思った違和感の正体(note)(台帳: V0170)

国立障害者リハビリテーションセンターの解説は、吃音になる確率(発症率)は5%以上、全人口のうち吃音のある人の確率(有病率)は約1%と書いています。幼児期に始まった吃音の多くは自然に消え、消えるのは始まってから約2〜3年以内がほとんどで、男女比は3〜5対1と男性に多いものの、幼児期には男女差はあまりありません。日本吃音・流暢性障害学会の解説は、近年の幼児期の調査から発症率は約8〜11%、日本の研究で3歳までの発症率は8.9%、学童期以降から成人までのある時点で吃音のある人の割合は1%より少ない0.8%が妥当だ、と紹介しています。

発症率と有症率を同じ目盛で並べた図。①発症率(一生のうちに一度でも吃音が始まる割合)は、国立障害者リハビリテーションセンターの解説が5%以上、日本吃音・流暢性障害学会の解説が近年の幼児期の調査から約8〜11%。②有症率(ある時点で吃音がある人の割合)は、同センターの解説が全人口のうち約1%、学会の解説が学童期以降から成人のある時点で0.8%。①が大きく②が小さいのは、幼児期に始まった吃音の多くが約2〜3年以内に自然に消えるためだと同センターの解説は述べている。
図2: 同じ「割合」でも、数えているものが違う。出典: 北條具仁(国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.361)/ 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」(2023年10月)。

日本で実際に数えた研究もあります。日本の複数の地域の3歳児健診で保護者に質問紙を配り、該当した子について面接・確認の質問紙・電話のいずれかで確かめた研究では、解析の対象になった1,988人のうち、健診の時点で吃音のある子は6.5%、過去にあって今は収まっている子を含めると3歳までに8.9%でした。95%信頼区間(推定値のぶれの幅)は、それぞれ5.4〜7.7%と7.7〜10.2%です。この値は、英国やオーストラリアの近年の報告と近いと論文は述べています。

日本の複数の地域の3歳児健診で集めた1,988人分から出た二つの割合を、95%信頼区間つきで示した図。①健診の時点で吃音がある子(有症率)は6.5%、1,988人のうち129人、95%信頼区間5.4〜7.7%。②3歳までに一度でも吃音があった子(発症率)は8.9%、1,988人のうち177人、95%信頼区間7.7〜10.2%。同じ1,988人から出た二つの数字で、②は過去にあって今は収まっている子を含めた数。
図3: 日本の3歳児健診で数えた二つの割合と、その95%信頼区間。出典: Sakai et al. (2025) Multiple-Community-Based Epidemiological Study of Stuttering among 3-Year-Old Children in Japan. Folia Phoniatr Logop.

「5%以上」「8.9%」「約1%」「0.8%」という数字が並ぶのは、測っているものが違うからです。発症率は一生のうちに一度でも始まる人の割合、有病率はある時点で吃音のある人の割合で、幼児期に始まった多くの子が数年のうちに自然に消えるため、二つの数字には大きな差が出ます。本に載っていた人数がどの割合から計算されたものかは、この記事では確かめられません。確かめられるのは、上に挙げた資料がどの割合を出しているか、までです。

原因は、親や本人にあるのか

本を読む前から、原因について何かを「聞いたことがある」人は多いと思います。その「聞いたこと」の出どころが、図書館で借りた古い本だった、という母親の手記があります。

小学3年生の娘に吃音がある母の手記(田中多佳子さん/日本吃音臨床研究会「保護者の体験」)

ある本には、どもりを作るのは母親の責任のように書いてあり、それを信じ込んで私の育て方に非があったのではないかとずっと考えていました。娘には「どもるのは、お母さんが悪いのよ。あなたのせいではない」と話していたことを伊藤伸二さんにお話しました。すると即座に、「誰のせいでもなく、母親の責任でも決してない」と断言され、心が軽くなりました。娘を救う以前に、私の心が救われました。

新聞の案内で相談会を知り、申し込んだ母親の手記です。当日の自己紹介で涙が止まらなかった、と冒頭に書いています。ことばの教室の存在も知らず、娘のためにしてきたのは図書館で本を借りて読むくらいだった、と振り返ります。その本の一冊に書いてあった「母親の責任」を、娘がどもり始めてからの約5年間、信じ込んでいた。娘に「お母さんが悪いのよ」と言い聞かせてきた。それが相談会の場で否定されたときのことが、上の一節です。母親が読んだ本が何だったかは書かれていません。ただ、この説そのものは、いまの資料が名指しで否定しています。

出典: 保護者の体験(日本吃音臨床研究会「吃音と上手につきあうための吃音相談室」)(台帳: V0108)

日本吃音・流暢性障害学会の解説は、「最も問題のある間違った原因論」として、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説と、親が吃音だと思って対応することが原因だとする説を挙げ、後者を「吃音診断起因説」と呼んでいます。そのために母親が周囲から非難されたという体験談を聞く、とも書かれています。吃音のある人の話し方を真似するとうつるという俗説もあり、吃音のある子とは遊んではいけないという差別があった、と学会は続けています。

幼児吃音臨床ガイドライン2021は、この診断起因説の来歴を囲み記事で整理しています。もとになった研究のデータを精査すると、吃音のない子どもの非流暢な発話を叱責しても吃音は生じておらず、「親の育て方が悪くて吃音が生じることはない」という、説とは整合しない結果だった、という内容です。それでもこの考えは日本にも持ち込まれ、「吃音は親が気にしたり指摘したりすることで起きる」「気づかないふりをする方が良い」という考えを今なお信じている人がいるように思われる、とガイドラインは書いています。親が気づかないふりをしていると、子どもは吃音をタブーだと感じ取り、親に相談できなくなって孤立する、とも続きます。

では原因は何か。同じガイドラインは、発症の原因として最大のものは遺伝要因で7割程度、より直接的には脳の中で発話に関わる領域どうしの接続がうまくいっていないことだとし、育て方が悪いせいで吃音が生じるという説は否定されている、と答えています。そして、吃音の症状を叱ったり、育て方のせいだとしたりする指導には「推奨グレードD」——指針の中で「行わないよう勧められる」という最も強い否定の等級——が付いています。日本耳鼻咽喉科学会会報に載った総説も、発症要因の7割以上が遺伝性であり、育て方が原因という「診断原因説」は否定されている、と明記しています。

「遺伝が7割」の根拠の一つは、双子を調べた研究です。同じ遺伝子を持つ一卵性の双子と、半分だけ共有する二卵性の双子で、二人とも吃音になる割合を比べます。日本で1,896組の双子を調べた研究では、一卵性で52%、二卵性で12%と大きく開き、遺伝の寄与は男性で80%、女性で85%と見積もられました。オーストラリアの研究では、吃音のなりやすさのばらつきの約70%が遺伝要因で説明されると結論されています。「遺伝要因が最大」と「育て方は原因ではない」は、同じ問いへの答えとして並んで書かれているのであって、遺伝が誰かの落ち度を意味するわけではありません。原因の中身をもっと詳しく知りたい方は、吃音の原因を脳と遺伝の側から整理した記事をどうぞ。

治療と支援は、いまどこまで来ているのか

本を読んだあとに残るいちばん重い問いは、たぶん「で、治るのか」です。別の本を読んで、そこに治し方が書かれていないことに気づいた当事者がいます。

当事者本人の声(50歳・能登在住/個人ブログ note。書籍『どもる体』を読んだ記録)

私は小さい頃から吃音に悩まされ、周りからの防衛と劣等感が当たり前だった。 一生逃れられないもの、嫌でも付き合っていかなければならないものと思っていた。 今では、違和感がないほど共存している。

吃音は歳が若いほど深刻に受け止める。 年齢を重ねると冷静に受け止められる。

別のシリーズの一冊から『どもる体』という本の存在を知り、有益かどうか分からず購入を迷った、と書き出す記事です。読み終えてから書き手が気づいたのは、この本には当事者が飛びつきそうな原因と治し方が書かれていない、ということでした。それでも自分の受け止め方が変わった、と本人は書いています。上の「共存している」を「治った」と読んではいけません。書き手自身が、一生付き合うものだと思っていた、と同じ段落で書いているからです。治し方が書かれていない本が一冊の本として成り立つのは、治療の側の現在地と無関係ではありません。

出典: どもる体を読んで自分と向き合う(note)(台帳: V0025)

幼児吃音臨床ガイドライン2021は、「吃音の原因療法は可能か」という問いに「現在は、不可能である」と答え、推奨グレードDを付けています。解説では、吃音に対して脳内の遺伝子の変異を直接治療することはまだ行われておらず(2020年時点)、すでに吃音が生じて脳の回路ができている状態で遺伝子を導入しても治癒がどの程度見込めるかは不明だ、と書かれています。薬についても、有効性が確立された薬はなく(3分の1程度の症例に有効と報告されているものはあります)、吃音を対象として保険で使える薬はありません。治療の中心は、環境調整(周りの人の接し方や場面のほうを変えること)、話し方の訓練、カウンセリング、心理療法・行動療法で、どの患者にも一様に有効な治療法はない、と同じ解説は述べています。

ただし「原因は治せない」と「何もできない」は別です。幼児については、根拠の確立した介入法として、リッカム・プログラムと、DCM(要求と能力のずれのモデル)に基づく介入の2つに、最も強い推奨グレードAが付いています。前者は子どもの発話に大人が決まった反応を返す方法、後者はことばに求められる水準と子どもの出せる力のずれがあるからどもる、という考えに基づいて求める水準を下げる方法です。どちらを先に選ぶかを決める根拠はなく、専門家の間でも意見が分かれる、とガイドラインは正直に書いています。始める時期については、3歳児クラス(年少)までは経過を見る支援を基本とし、年中で開始を検討、年長で開始を推奨する、という区切りが示されています。早すぎれば自然に良くなったはずの多くの子に不要な介入をすることになり、遅すぎれば就学までに十分な改善を得られない、という両側の理由が添えられています。

幼児吃音臨床ガイドライン第1版2021が付けた推奨の等級のうち、両端の2つを取り出した図。推奨グレードA(行うよう強く勧められる)は、積極的な介入(月2回以上)を行う際にリッカム・プログラムまたはDCM(要求と能力のずれのモデル)に基づいた介入を行うこと。どちらを第一選択とするかを決める根拠となる知見はなく、専門家の間でも意見が分かれるとされる。推奨グレードD(行わないよう勧められる)は、吃音の原因療法(問いへの答えは「現在は、不可能である」)と、吃音症状を叱ったり吃音が育て方のせいだとしたりする指導。等級はA、B、C1、C2、Dの5段階で、原因療法が不可能であることは幼児への介入や大人への対応が無いという意味ではない。
図4: ガイドラインが最も強い等級を付けた項目(5段階のうち両端の2つだけを取り出したもの)。出典: 幼児吃音臨床ガイドライン作成班「幼児吃音臨床ガイドライン(第1版)2021」(Q7・Q7-1・Q16)。

青年・成人では、話し方の訓練(楽にどもる方法と、なめらかに話す方法の組み合わせ)だけで改善する例は少なく、過半数で、人前で話す場面への強い不安(社交不安障害)などの心の面の評価と対応も必要になるとされています。考え方と行動のくせを整える心理療法(認知行動療法)では、どもるかどうかにこだわらず楽なコミュニケーションを目標にし、そのほうが発話そのものから注意が外れてかえって症状も改善しやすい、と説明されています。周囲への対応としては、本人が自分がどもることを周囲に開示して協力を求めることになり、わざとどもってみせる(随意吃)などで先に伝えておくと心理的な負担が減る、とも書かれています。

支援の側の現在地も、本を読んだ人が確かめておきたいところです。障害者差別解消法により、雇用主は本人から求められれば、面接時間を長くする、電話の業務を免除するといった負担が重くなりすぎない範囲の対応(合理的配慮)をする義務があり、そのために吃音の診断書が必要とされることが多いとされています。学会の解説も、発表や電話応対の免除、試験での面接時間の延長を求めることができると書いています。2021年からは、電話が苦手な人が文字や手話を介して電話をかけられる公共の仕組み(電話リレーサービス)を吃音のある人も使えるようになり、精神障害者保健福祉手帳または身体障害者手帳の対象にもなる、と発達障害ナビポータルの解説は続けています。同じ人どうしで出会う場としては、吃音の自助団体があり、「吃音があるのは自分だけではない」と認識し、体験を語り合い、互いに援助し合うことが活動の中心で、1965年に発足した言友会が日本で最も歴史が古いと学会は紹介しています。当事者と研究者が一緒に作った本の紹介文には、吃音の問題を「治す」から「どもる事実を認める」、そして「生き方」の問題として捉え直す必要がある、と書かれています。

読み終えたあとに、何をするか

同じ本を読んだ親の記録があります。読んで何を思ったかではなく、読んだあとに何を決めたかが書かれているところを引きます。

小学1年生の吃音のある子の親の読書記録(個人ブログ「あのてんぽ:At your own pace」/『吃音の世界』を読んで書いた記事)

そこから、思春期になっていくにつれて本人の工夫が増えていったり、話さないといけない場面を回避するようになったり、と別の問題になっていく可能性についても、先に知っておくことができてよかった。

小1の春にクラスでアナウンスしてもらったように、今後も新学期には子や言語聴覚士さんと相談しながら、できるかぎり周りの大人や子どもたちに、吃音についてのアナウンスを続けていきたい。

また、「周囲の理解」とともに「自分自身への自信」が大事なこともわかった。吃音だからといってそこばかりにフォーカスして考えるのではなく、いろいろな角度で、子が自信を育めるような体験を提供していけたらと思う。

「吃音についてもうちょっと知ろう」と本を読み始め、3冊目にこの本を選んだ親の記録です。いろいろな視点の本を読みたかったので、当事者かつ医師の視点を交えたものを読みたかった、と選んだ理由を書いています。子どもには、声が出ずに間があく症状(難発)と、随伴症状(声を出そうとして出てしまう体の動き。顔や口や首に力が入ったり、跳んだりする)があり、それでもおしゃべりは好きで、気を許した相手にはどんどん話したがる、とも記されています。読んだあとに決めたのは、新学期ごとに周りへ伝え続けることと、子が自信を育てられる体験を用意すること。この2つは、支援する側の資料が実際に提案していることと重なります。

出典: 『吃音の世界』(菊池良和/光文社新書)読書記録(あのてんぽ:At your own pace)(台帳: V0389)

発達障害ナビポータルの解説は、吃音のある子どもは話す場面でしか症状が出ないため悩みが過小評価されやすいとしたうえで、他の子どもから話し方を真似されたり、笑われたり、「なんでそんな話し方なの?」と質問されたりすることが多いと書いています。そこで担任・養育者・支援者が本人に「真似されていない?」「笑われていない?」「話し方を質問されていない?」とオープンに聞くことを勧め、学校では毎年クラス替えがあるので、早く気づいて対応をオープンに話すことが予防になる、としています。困りやすい場面として、日直の号令、音読、発表、かけ算の九九、学習発表会、卒業式が具体的に挙げられています。この解説の末尾には、執筆者として九州大学病院の医師の名前が記されています。上の親が「新学期には」と書いたことは、この「毎年」という区切りとそのまま重なります。

相談先については、幼児吃音臨床ガイドライン2021が種類を列挙しています。幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体のリハビリテーションセンター、大学の教育学部に付属する相談室、地域の児童発達支援センター、就学後は小学校の通級指導教室である「ことばの教室」などです。ただし、相談に対応している機関の多くは治療には対応できないことも多い、という注意が添えられています。もう一つ、受診の場面で覚えておきたい注意があります。短時間の診療場面では吃音の症状を示さないことが多いので、安易に「吃音なし」「心配なし」と決めつけないよう、ガイドラインは医療者に求めています。本人や家族が「診察では出なかった」と落胆したり安心したりする場面は、資料の側でも想定されているということです。

相談先と、次に読むもの

大人の場合、吃音を専門にした外来の例として、国立障害者リハビリテーションセンター病院の成人吃音相談外来があります。初診専用の外来で、受診を希望する人は予約センターで専門外来の予約を取ったうえで受診する形で、受診希望の方が多く予約が取りにくくなっている、という断り書きがあります。初診の日に行われるのは問診票の記入と診察、吃音の検査で、紹介状があれば持参するよう案内されています。大学病院の外来では、本人からは初診の予約を取れず、かかりつけ医からの紹介と予約が要る型もあります。入口の型は施設ごとに違うので、行きたい施設のページを一つずつ確かめることになります。九州大学病院の順路は別の記事に、症状そのものの基礎は吃音とは何かをまとめた記事にあります。

次に読むものとしては、当事者団体が自分たちで出している本があります。全国言友会連絡協議会は、様々な年代や立場の吃音のある人の体験に触れられる体験談集を出しており、体験についての認知・行動・感情が丁寧に書かれている、と発行者自身が説明しています。日本吃音臨床研究会の案内ページには、当事者研究や吃音とのつき合い方を扱う本、体験集・年報が書名・著者・出版社つきで並んでいます。一人の当事者が書いた本を読んだあとに、複数の当事者の声を並べて読むと、本で読んだ一人の体験がどこまで共通で、どこからが個人差なのかが見えやすくなります。学会の解説も、自助団体に参加して他の吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることがある、と書いています。

次のようなときは、本を読んで分かったつもりで止まらず、相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。

  • 本人が話す場面を避け始めていて、学校や仕事に支障が出ている
  • 子どもが学校で真似されたり笑われたりしていると話している
  • 配慮を求めるために、診断書など医療機関の記録が必要になりそうである

この3つは相談を考えるきっかけとして挙げたもので、特定の資料が「受診の目安」として定めているものではありません。なお、真似・笑い・質問の有無を本人に聞くことは、支援する側の資料が実際に提案しているものです。

本を読んだあとに陥りやすい3つの落とし穴

落とし穴1 − 「何人」という人数だけを覚えて、割合の出どころを忘れる

人数は割合から計算した値で、割合は「一生のうちに始まる人」(発症率)なのか「ある時点でいる人」(有病率)なのかで大きく違います。日本の3歳児健診で数えた研究では、健診の時点で6.5%、3歳までに一度でも始まった子で8.9%と、同じ子どもたちでも二つの数字が出ています。人数を覚えるなら、どの割合から出した数か、どの年齢の値かを一緒に覚えるほうが、あとで別の資料を読んだときに混乱しません。

落とし穴2 − 「遺伝が7割」を「親のせい」あるいは「だから治らない」と読む

ガイドラインは、遺伝要因が最大であることと、育て方が原因という説が否定されていることを、同じ答えの中に並べて書いています。遺伝は誰かの落ち度ではありません。また、原因そのものを取り除く治療は現在は不可能とされていますが、幼児には根拠の確立した介入法があり、大人には心の面の対応や周囲への開示、配慮の仕組みがあります。「原因を治せない」と「何もできない」を同じ意味に読まないでください。

落とし穴3 − 著者や身近な人の症状の重さを、外から推し量る

本を読むと、著者や身近な当事者の「重さ」が気になってきます。しかし、外から流暢に聞こえていても本人はより大きな努力を払っている「見せかけの流暢さ」があり、目に見える乱れが無いまま制御を失う感覚だけがある「隠れた吃音」もあります。短時間の診療場面では症状が出ないことが多い、とガイドラインが医療者に注意しているのも同じ理由です。本人が公にしている範囲の外側にある健康状態は、他人が確かめようのないことです。この記事も、その線を越えないように書いています。

自分や家族のことが気になるなら、どんな場面で出やすいか、どのくらいの期間続いているかを書き留めておくと、相談のときに役立ちます。診療場面では出ないことが多いとされているぶん、その日1回の印象より、場面ごとの記録のほうが実態に近づきます。記録から始めて、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合はそちらが確実です。

よくある質問

『吃音の世界』の著者は、本当に吃音の当事者なのですか?

著者が所属する九州大学病院が、2025年10月8日付の病院からのお知らせで、この医師について「自身も吃音の当事者で、九州大学病院など福岡県内2か所で全国的に珍しい『吃音外来』を開いています」と書いています。本人も、学術誌『医学教育』に「吃音のある医師として働く工夫」を自分で書いています。現在の症状の重さについては、本人が公にしている範囲の外なので、この記事では扱いません。

吃音のある人は、日本に何人くらいいるのですか?

手元の公的資料が示しているのは人数ではなく割合です。国立障害者リハビリテーションセンターの解説では、幼児期に始まる割合(発症率)は5%以上、全人口のうち吃音のある人の割合(有病率)は約1%とされています。日本の複数地域の3歳児健診を使った研究では、健診の時点で6.5%、3歳までに一度でも始まった子は8.9%でした。学会の解説は、学童期以降から成人までのある時点での割合は0.8%が妥当だと紹介しています。

吃音の原因は、親の育て方ですか?

幼児吃音臨床ガイドライン2021は、発症の原因として最大のものは遺伝要因で7割程度とし、育て方が悪いせいで吃音が生じるという説は否定されている、と答えています。日本吃音・流暢性障害学会も、親の接し方や愛情不足を原因とする説を「最も問題のある間違った原因論」として挙げています。日本耳鼻咽喉科学会会報の総説にも、育て方が原因という「診断原因説」は否定されている、と書かれています。

吃音は治療で治りますか?

原因そのものを取り除く治療は「現在は、不可能」とガイドラインが答えており、吃音を対象として保険で使える薬もありません。一方で、幼児にはリッカム・プログラムとDCMに基づく介入という2つの方法に最も強い推奨が付いています。青年・成人では、話し方の訓練だけで改善する例は少なく、過半数で心の面の評価と対応も必要とされ、認知行動療法や周囲への開示が挙げられています。

本を読んだあと、どこに相談すればいいですか?

幼児であれば、吃音の治療経験がある言語聴覚士のいる病院やクリニック、自治体のリハビリテーションセンター、児童発達支援センター、就学後はことばの教室などが挙げられています。大人であれば、初診専用で予約センターから予約を取る型の専門外来があります。同じ人どうしで出会う場としては、1965年に発足した言友会など吃音の自助団体があります。当事者団体が出している体験談集も、次に読むものの候補になります。

まとめ

  • 「当事者である医師」という本の前提は、著者の自己申告だけでなく、所属する九州大学病院が2025年10月8日付のお知らせで公に書いている。本人も学術誌に、吃音のある医師として働く工夫を自分で書いている。
  • 吃音のある人の数は割合で語られ、幼児期に始まる割合は5%以上、全人口のうち吃音のある人は約1%。日本の3歳児健診では健診時点で6.5%、3歳までに8.9%。数字の違いは、測っているものの違いから来る。
  • 原因として最大のものは遺伝要因で7割程度。育て方が原因という説は否定されており、叱ったり育て方のせいにしたりする指導には「行わないよう勧められる」等級が付いている。日本の双子1,896組の研究では一卵性52%・二卵性12%と大きく開く。
  • 原因そのものを取り除く治療は現在は不可能で、保険で使える薬もない。それでも幼児には根拠の確立した介入法が2つあり、大人には心の面の対応・開示・合理的配慮の仕組みがある。
  • 読んだあとにすることは、割合の出どころを一緒に覚えること、真似・笑い・質問の有無を本人に聞くこと、そして複数の当事者の声を並べて読むこと。気になるときは、ことばの教室や言語聴覚士への相談が確実。

参考文献

  1. 九州大学病院「耳鼻咽喉・頭頸部外科 菊池 良和 助教が第84回西日本文化賞を受賞しました」病院からのお知らせ(2025年10月8日掲載/2026年8月30日取得)
  2. Tichenor et al. (2022) Understanding the Speaker's Experience of Stuttering Can Improve Stuttering Therapy. Topics in Language Disorders.
  3. 北條具仁「〔トピックス〕青年期吃音に対する認知行動療法を用いた最新治療−グループ介入研究のご紹介−」(国立障害者リハビリテーションセンター リハニュース No.361)
  4. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」(広報委員会作成・2023年10月)
  5. Sakai, Miyamoto, Hara, Kikuchi, Kobayashi et al. (2025) Multiple-Community-Based Epidemiological Study of Stuttering among 3-Year-Old Children in Japan. Folia Phoniatr Logop.
  6. 幼児吃音臨床ガイドライン作成班「幼児吃音臨床ガイドライン(第1版)2021」(発達性吃音の研究プロジェクト・plaza.umin.ac.jp/kitsuon-kenkyu)
  7. 「吃音(どもり)の評価と対応」日本耳鼻咽喉科学会会報 123巻9号(2020)
  8. 発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「治療の解説」(kitsuon-kenkyu.umin.jp)
  9. Yairi & Ambrose (2013) Epidemiology of stuttering: 21st century advances. J Fluency Disord.
  10. 発達障害ナビポータル「小児期発症流暢症(吃音)」(国立障害者リハビリテーションセンター系)
  11. 国立障害者リハビリテーションセンター病院「成人吃音相談外来」
  12. 全国言友会連絡協議会「出版事業案内」(体験談集・読み物の案内ページ)
  13. 日本吃音臨床研究会「吃音に関する書籍と教材」(書籍・教材の案内ページ)

当事者の声の出典: V0020(『医学教育』55巻2号・菊池良和医師の本人執筆手記)/ V0170(note・名義「吃音楽」)/ V0108(日本吃音臨床研究会「保護者の体験」・田中多佳子さんの手記)/ V0025(note・名義「ちび」)/ V0389(個人ブログ「あのてんぽ:At your own pace」)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-05 公開