まず結論から
森岡毅さんが幼少期の話し方について語った言葉は、書籍から抜粋された公開記事に残っています。この記事では、その原文をそのまま次の節に引用しました。そのうえで分かっていることを並べると、こうなります。
- 幼児期に始まる吃音は「発達性吃音」と呼ばれ、吃音の9割を占めます。特徴的な話し方は、音のくりかえし(連発。例「か、か、からす」)、引き伸ばし(伸発。例「かーーらす」)、ことばを出せずに間があく(難発。例「・・・・からす」)の3つです。
- 日本の3歳児健診で調べた研究では、健診の時点で吃音があった子は6.5%、3歳までに一度でも吃音があった子は8.9%でした。
- 始まる時期は3歳の誕生日の前後に集中していて、吃音が確認された177人のうち42.9%が生後30〜35か月でした。
- 7〜8割くらいは自然に治るとされています。ただし吃音が始まってから4年以上たつと、自然に治る確率は下がるとされています。
ただし、ここに並ぶ割合はいずれも大勢を集めて数えた値であって、一人ひとりの見通しを言い当てるものではありません。ある研究者グループも、集団の統計はその人個人のリスクを特定できないと明記しています。
森岡毅さんは、自分の少年期をどう語っているのか
まず、確かめられる範囲をはっきりさせておきます。手元にあるのは、書籍から抜粋・編集されて公開された記事1本です。そこに、本人の言葉として次の証言が載っています。
本人の証言(マーケター・森岡毅さん。書籍『森岡毅語録』からの抜粋記事/集英社オンライン)
「母親によれば、話し始めるのが遅い子供で、ようやく話し始めると、今度はたどたどしさがなかなか抜けなかったらしいのです。それで『この子には言語障害がある』と気がつきました。
いろいろなところで診てもらったようですが、基本的には治らなかった。私は喋ることに自信が持てず、人と気軽に話すことができなかった。子供は悪意がなくとも残酷なので、からかわれることもたびたびでした」
語られているのは、本人の記憶ではなく母親の回想から始まる時間です。話し始めが遅く、話し出してからもたどたどしさが抜けない。あちこちで診てもらったが変わらない。記事はその前段で、物心ついた頃から話し言葉がすらすら出てこないことに、しばしば心を痛めたとも書いています。大人になってからの彼を知る人が「マシンガントーク」と呼ぶ話し方と、この少年期のあいだには、長い距離があります。ここで語られている「話し始めが遅く、たどたどしさが抜けなかった」という始まり方は、幼児期に始まる吃音の始まり方として知られているものと重なります。
出典: 「人に何かを伝えたいという欲が吃音に勝った」刀・森岡毅のマシンガントークは、吃音対策から生まれたものだった(集英社オンライン)(台帳: V0395)
この記事で本人の話として確かめられるのは、ここまでです。現在どのくらい症状があるのか、どう向き合ってきたのかを、この1本を超えて推し量ることはしません。
そのうえで、「幼少期から話し言葉がすらすら出てこない」という状態そのものについては、公的機関の解説があります。吃音の9割は、幼児期に始まる発達性吃音です。特徴的な話し方は3つで、音のくりかえし(連発。例「か、か、からす」)、引き伸ばし(伸発。例「かーーらす」)、ことばを出せずに間があいてしまう(難発、ブロック。例「・・・・からす」)のどれか1つ以上が見られることとされています。医学の診断基準でも、吃音は「小児期発症流暢症」という名前で、幼い時期の脳の育ち方の違いから生じるグループ(神経発達症)に分類されています。しつけや育て方の問題として並べられてはいません。
自分の話し方に名前が付くまでの時間
有名な人の逸話が届きにくいのは、「その人がどうやってそこに辿り着いたか」の途中が省かれているからです。話し方に名前が付くまでの時間は、たいてい短くありません。高校生になって初めて病院を受診した人が、その日のことを書き残しています。
当事者本人の記録(10代で初めて受診・note で連載/名義: びじゅさん)
主治医の診察は、2時間程であったが、そのほとんどの時間は泣いていた。
過去のこと、受診に至った経緯、将来への不安…ともかく吃音について何か話そうとするだけで涙が止まらなかった。
とにかく全てを吐露した。 泣きながら。 吃りながら。 吐けるだけの気持ちを吐いた。 言葉にできるだけの言葉を絞り出した。
吃っても大丈夫、と分かっている人の前で心のまま話せる、という体験は初めてであった。
そして、正式に「吃音症である」と診断された。
保育園の頃から吃音があったと本人が書いている人の、これが最初の受診です。自分で病院を探し、部活を週に一度休む理由を先生と仲間に伝え、親と一緒に診察へ行った。その2時間のほとんどを泣いて過ごし、その日に初めて「吃っても大丈夫と分かっている人の前で話す」という経験をしています。言語聴覚士との初回では、言える文字と言えない文字の確認をしたとも記されています。話し方そのものより、話す場面にまつわる負担のほうが大きくなっていく——この順序は、研究の側からも記述されています。
出典: 【県外逃亡】吃音症で障害者手帳を取得することを決意するまでの記録④(15〜18歳)(note)(台帳: V0102)
吃音の特徴のひとつに、症状が一定ではないことがあります。歌うときや、ひとりごとのときは流暢になる人が多く、調子の良い状態・悪い状態が数週間から数か月続くこともあり、この変動は「波」と呼ばれます。学齢期以降になると、話す前に「このまま話すとどもる」と予測できるようになり、多くの人がその予測に反応して、言いよどんで時間を稼いだり、別の語に言い換えたり、ときには話さないことを選んだりするようになります。同じ論文は、吃音のある多くの大人が、自分だけに向けた発話ではどもらないと報告していることも挙げています。
つまり、周りから見えている詰まりの回数は、その人が抱えている負担の一部でしかありません。学齢期以降から成人までで、ある時点に吃音がある人の割合は1%より少ない0.8%が妥当とされていますが、その人たちの中で何が起きているかは、詰まりの回数だけでは測れないということです。
大人になっても続いたとき、制度はどこまで届くのか
吃音が続いた場合に気になるのが、進学や就職の場面で使える制度です。ただ、制度の入口は「吃音があるかどうか」だけでは決まりません。高校生の娘さんの受診に付き添った父親が、その日のやりとりを書いています。
保護者の記録(吃音のある高校生の父。本人も吃音当事者/個人ブログ)
その病院の初診、私も参加しました。率直に「精神障害者保健福祉手帳取得できないか」「社交不安障害ではないか」と聞きました。先生は発達障害を疑っている感じでした。
2回目からは「娘と妻」「娘だけ」で数時間の検査をしました。その結果が6/28に聞けることになり、本人と妻で聞いて、妻から聞きました。
この父親は、当事者団体に勧めを聞いて病院に電話し、初診までに半年待っています。数時間の検査を経て伝えられた結果は「結論から言うと手帳対象ではない」というものでした。そのうえで「将来困って取得したい時にはまた受診してください」とも言われたと書いています。娘さんが当時それなりに学校へ通えていたため、結果は想定内だったとも記しています。制度の窓口は、話しにくさの強さそのものではなく、その時点の状態と診断の内容で開いたり閉じたりする——この記録が示しているのはそこです。学会の解説も、手帳の交付には診断書や意見書が要ると説明しています。
出典: 吃音持ちの長女が「(現状だと)精神障害者保健福祉手帳無理」と病院から言われた話(吃音(どもり)ネタを貼ってくブログ)(台帳: V0101)
制度の側を確認しておきます。診断書または意見書によって精神障害者保健福祉手帳が交付され、吃音が重度で音声言語だけでは家族以外との意思伝達が難しいと認定された場合には身体障害者手帳4級が交付されます。2016年に施行された障害者差別解消法により、学校や職場での吃音に対する差別的な言動や扱いは禁止されており、発表や電話応対の免除、試験などでの面接時間の延長といった配慮(合理的配慮)を求めることができます。2024年の改正で、国公立だけでなく私立の学校にも配慮の提供が義務づけられました。電話が苦手な人のために、2021年から公共インフラの一つになった「電話リレーサービス」を使うこともできます。
数字の扱いには注意が要ります。集団として見ると、吃音のある大人は吃音のない大人より不安やうつのリスクが高いという報告があります。しかし同じ論文は、その知見は集団の水準のリスクを理解するためのもので、目の前の一人のリスクを言い当てることはできないと、はっきり書いています。手帳の話も同じで、「吃音があれば取れる/取れない」と一般化できるものではありません。
日本の3歳児健診が示した、発達性吃音の割合
「どのくらいの子に見られるのか」は、日本のデータで答えられます。5つの県の15か所の保健センターで、3歳児健診の案内に質問紙を同封し、吃音を疑う回答があった子を面接・直接の観察・確認用の質問紙・電話のいずれかで確かめる、という二段階の調査が行われました。解析の対象になったのは1,988人です。
結果は、健診の時点で吃音があった子が6.5%(1,988人中129人)、3歳までに一度でも吃音があった子が8.9%(同177人)でした。学会の解説も、日本の研究で3歳までの発症率が8.9%と報告されており、海外の近年の報告とかなり近い値だとしています。
始まる時期にも偏りがあります。吃音が確認された177人のうち、始まったのが生後18〜23か月だった子は8.5%、24〜29か月は20.9%、30〜35か月は42.9%、36〜41か月は25.4%、42〜47か月は2.3%でした。3歳の誕生日をはさむ時期に大きく集中しているということです。海外の複数の研究をまとめたレビューでも、発症年齢の平均はおよそ33か月で、42か月までに85%、48か月までに95%の発症が済んでいたと報告されています。
そして、確認された177人のうち、健診の時点でも吃音があった子は129人(72.9%)、すでに収まっていた子は48人(27.1%)でした。3歳の時点で、始まった子の4人に1人はもう吃音が無くなっていたことになります。論文自身も、8.9%が3歳児健診までに症状を示していたのに実際に吃音があったのは6.5%だったことから、始まった子の全員がすぐに治療を必要とするわけではないと述べています。
もう一つ、数字を読むうえで大事な結果があります。同じ集団でも、どうやって確かめたかで吃音ありと判定される割合が違いました。対面での観察と面接では44.1%、確認用の質問紙では31.7%、電話面接では45.0%で、質問紙による確認がはっきりと低く出ています。資料によって吃音の割合の数字が違うのは、こういう理由でも起こります。
「男の子に多い」という話も、測る時期で見え方が変わります。学齢期の子どもでは男女比がおよそ3対1になることが知られていますが、この3歳児の調査では1.33対1とずっと小さく、男の子であることは発症と結びつきませんでした。公的機関の解説も、男女比は4対1くらいで男性に多いが、幼児期は男女差があまりない、としています。
気になったとき、いつ・どこに相談するか
発達性吃音の多くは、軽いくりかえし(例「あ、あ、あのね」)から始まり、うまく話せる時期もあるのが特徴です。7〜8割くらいが自然に治るとされ、残りの2〜3割は徐々に症状が固定化して、楽に話せる時期が減っていくとされています。自然に治る割合は、吃音が始まって2年後までで31%、3年後までで63%、4年後までで74%と報告されており、始まってから4年以上たつと(あるいは8歳以上になると)その確率は下がるとされています。男女で分けると、発症後3年で男の子は6割、女の子は8割が自然に回復するという整理もあります。就学前に参加を始めた研究を並べた海外のレビューでは、自然に回復する割合は68%から96%の幅で報告されています。
では、いつ相談するのか。日本の幼児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)は、積極的な介入(月2回以上の指導)を始める時期について、年少組までは経過観察的な支援を基本とし、年中組では開始を検討し、年長組では開始を推奨する、としています。3歳児健診で「様子を見ましょう」と言われることがあるのは、この時期の子の一定数が自然に収まっていくからで、それは「相談してはいけない」という意味ではありません。研究の側も、自分で回復していく子と、長引きやすく早めの関わりが要る子を早く見分ける手立てが必要だと述べています。
相談先として名前が挙がるのは、言語聴覚士(ことばの障害を専門にする国家資格の専門職)と、幼児・学齢の子ども向けの「ことばの教室」です。次のようなときは、抱え込まずに相談を考えてみてください(あくまで目安で、当てはまらなくても相談して構いません)。
- 就学が近づいても吃音が続いている
- ことばが出ずに間があく(難発)など、体の緊張を伴う話し方が目立ってきた
- 本人が話しにくさを気にして、話すことを避け始めている
この3つは相談を考えるきっかけとして一般的に挙げられるもので、特定の資料が「受診の目安」として定めたものではありません。積極的な介入の開始時期については、上のガイドラインの記載が正本です。
周りの人ができることについては、専門職団体の解説がひとつの原則を示しています。いちばんの助けになるのは、どう話すかではなく、その人が何を話しているかに注目することだ、というものです。
有名な人の逸話を読むときの3つの落とし穴
落とし穴1 − その人の経歴を、自分や我が子の見通しとして読む
公開されている逸話は1人分の記録です。吃音のある人がどう体験し、どう折り合い、生活の中でどう扱っているかは人によって大きく違うため、集団の統計ですら個人のリスクを言い当てられないとされています。1人の経歴なら、なおさらです。励みになるなら受け取り、しんどくなるなら距離を置いて構いません。
落とし穴2 − 資料ごとに違う割合を、どれかが間違っていると考える
同じ子どもの集団でも、対面で確かめたか、質問紙で確かめたか、電話で確かめたかによって、吃音ありと判定される割合は44.1%・31.7%・45.0%と違いました。数字が動くのは、測り方が違うからでもあります。ひとつの割合を取り出して結論にせず、何を・どうやって数えた値なのかを一緒に読むほうが安全です。
落とし穴3 − 「男の子の問題」と決めてしまう
学齢期では男女比がおよそ3対1になりますが、3歳の時点では1.33対1で、性別は発症と結びつきませんでした。幼児期は男女差があまりない、という説明は公的機関の資料にもあります。女の子だから様子を見る、という判断の根拠にはなりません。
日々の様子(どんな場面で出やすいか、どのくらい続いているか)を書き留めておくと、相談のときに伝えやすくなります。まずは気づいたことを記録することから小さく始め、相談できる場合は言語聴覚士やことばの教室が確実です。
よくある質問
森岡毅さんは吃音だったのですか?
書籍から抜粋・編集されて公開された記事の中で、本人が幼少期について語っています。話し始めるのが遅く、たどたどしさが抜けなかったこと、喋ることに自信が持てず、からかわれることもたびたびだったことが本人の言葉として載っています。原文はこの記事の前半に引用しました。現在の症状については、この公開記事の範囲を超えることは書いていません。
発達性吃音とは、どんな話し方のことですか?
音のくりかえし(連発。例「か、か、からす」)、引き伸ばし(伸発。例「かーーらす」)、ことばを出せずに間があいてしまう(難発、ブロック。例「・・・・からす」)のどれか1つ以上が見られる話し方とされています。吃音の9割はこの発達性吃音で、幼児期(2〜5歳)に発症する場合がほとんどとされています。医学の診断基準では「小児期発症流暢症」と呼ばれ、神経発達症に分類されています。
子どものどのくらいに見られるのですか?
日本の3歳児健診で行われた調査では、健診の時点で吃音があった子は6.5%、3歳までに一度でも吃音があった子は8.9%でした。学齢期以降から成人までで、ある時点に吃音がある人の割合は0.8%が妥当とされています。差があるのは、多くの子が途中で吃音を示さなくなるためです。
吃音は自然に治りますか?
7〜8割くらいが自然に治るとされ、残りの2〜3割は徐々に症状が固定化していくとされています。吃音が始まって2年後までで31%、3年後までで63%、4年後までで74%が自然に治り、4年以上たつと確率は下がるという報告もあります。ただしこれは大勢を数えた割合で、一人ひとりの見通しではありません。
就学前の健診で指摘されたら、どこに相談すればよいですか?
言語聴覚士や、子ども向けの「ことばの教室」が相談先になります。積極的な介入を始める時期については、幼児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)が、年少組までは経過観察的な支援を基本とし、年中組では開始を検討、年長組では開始を推奨する、としています。日本の調査でも、3歳までに吃音が始まった子の全員がすぐに治療を必要とするわけではないと述べられています。
まとめ
- 森岡毅さんの吃音について確かめられるのは、書籍から抜粋された公開記事に残る本人の言葉の範囲まで。話し始めが遅く、たどたどしさが抜けず、からかわれることもあったと語られている。
- 幼児期に始まる発達性吃音は吃音の9割を占め、連発・伸発・難発のどれか1つ以上が見られる話し方を指す。診断基準では「小児期発症流暢症」として神経発達症に分類される。
- 日本の3歳児健診の調査では、健診時点で吃音があった子が6.5%、3歳までに一度でもあった子が8.9%。始まる時期は生後30〜35か月に最も集中していた。
- 7〜8割くらいは自然に治るとされるが、始まって4年以上たつと確率は下がる。積極的な介入の開始は、年少は経過観察、年中で検討、年長で推奨とガイドラインが示している。
- 手帳や配慮といった制度は、話しにくさの強さだけで決まらず、診断書や意見書が要る。集団の統計は、目の前の一人のリスクを言い当てるものではない。