吃音のモンスタースタディ|ジョンソンの説と「親のせい」の否定

目次

「吃音は、親が気にして指摘したから始まったのではないか」——ウェンデル・ジョンソンという名前や「モンスタースタディ」という言葉にたどり着いた方の多くは、その一点を確かめに来ています。どこかで「親のせい」という説を聞かされ、それが本当なのか、いま研究の側はどう言っているのかを知りたい。あるいは、すでにそう言われてしまって、その言葉から抜け出したい。

この記事は、まず結論を置いてから、その説が何だったのか、どんな実験から生まれ、どうやって否定されたのかを順に並べます。拠り所にしたのは、幼児吃音臨床ガイドライン2021(日本医療研究開発機構(AMED)の研究開発課題として作られたもの)、日本吃音・流暢性障害学会の解説、日本耳鼻咽喉科学会会報の総説、そしてメリーランド大学の研究者が親子の会話を測った研究です。同じ説に傷つけられた保護者と当事者の言葉も、そのまま載せています。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • ウェンデル・ジョンソン(1906–1965)は、「吃音の診断はある意味、吃音の原因の一つである」という説を1942年に唱えた研究者です。この説は診断起因説と呼ばれ、そこから「吃音は親が言葉のつっかえを気にしたり指摘したりすることで起きる」という考えが広まりました。
  • 「モンスタースタディ」と呼ばれているのは、1939年に米国アイオワ大学の大学院修士の学位研究として、彼の指導のもとで孤児院の子どもを対象に行われた研究です。論文は公表されず、2001年に新聞が「孤児を吃音にする残忍な実験」として報じたことをきっかけに、そう呼ばれるようになりました。
  • しかし、そのデータを精査した結果は、説とは逆でした。吃音のない子どもの言いよどみ(原典の言葉では「非流暢な発話」)を叱責しても、吃音は生じていなかったのです。ガイドラインはここから「親の育て方が悪くて吃音が生じることはない」と明記しています。
  • 日本の学会も、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説や診断起因説を「最も問題のある間違った原因論」として名指しで退けています。日本耳鼻咽喉科学会会報の総説も、発症要因の7割以上が遺伝性であり、育て方が原因という説は否定されている、と書いています。
  • いま、この説は「要求と能力」という枠組みに置き換わっています。環境が吃音を作るのではなく、子どもの限られた能力に対する要求が、その場面で流暢に話す力を妨げうる、という考え方です。

ただし、これは「親にできることは何もない」という意味ではありません。同じガイドラインは、親が子の吃音に気づかないふりをしていると、子が「吃音はタブーだ」と感じ取って親に相談できなくなり、心理的に孤立する、と書いています。発症に親は関わっていなくても、症状と付き合っていくうえで親が果たす役割は大きい——研究者はそれを、糖尿病や喘息のような子どもの慢性の病気になぞらえて説明しています。

「言われた日から、急に気になりはじめた」

診断起因説がどんな現象を説明しようとしたのかは、言葉で説明されるより、実際の一日を見るほうが早く伝わります。年少の息子の話し方について、幼稚園の担任から一言たずねられた母親が、その日のことをこう書き残しています。

3〜4歳の息子の母の声(個人ブログ)

そういえば以前から、良いことを考えついた時とか、言いたいことがあるときに、文頭がどもる感じはあったんですが、子どもだからこんなもんだろうと思って特に気にしてなかったです。

ところが、幼稚園の先生にその一言を言われた途端、すごくすごく子どものどもりが気になり始めました。

言われた当日、家に帰って寝るまでの間にも、喋る言葉すべて!?と思うくらい文頭がどもっています。

担任から掛けられたのは「お子さんがちょっと、『どもり』みたいなのがあるようなんですけど、お母さんはどのようにお考えですか?」という問いでした。以前から文の頭で繰り返す話し方はあった。けれど「子どもだからこんなもんだろう」と通り過ぎていたものが、一言で像を結んでしまう。担任は「みんなの前に出て話すときに緊張やストレスから、どもりが起きる」と考えているようだったと、この母親は書いています。そして自分は、家の中でくつろいでいる時にも繰り返しが出るのを見ていたので、それは違うのではないかと感じていた、とも。ここで起きているのは、子どもの話し方が変わったのではなく、親の目に映る量が変わったという出来事です。ジョンソンが説明しようとしたのは、まさにこの段差でした。

出典: 3歳〜4歳 子供のひどいどもり(吃音)は治るのか?対応は?(うちの子、天才かもしれん。)(台帳: V0059)

診断起因説は、この段差を「原因」だと読み替えたところに特徴があります。「吃音の診断はある意味、吃音の原因の一つである」——1942年にジョンソンが唱えたのはそういう説で、そこから「吃音は親が言葉のつっかえを気にしたり指摘したりすることで起きる」「小児の吃音は気がつかないふりをする方が良い」という対応が広まりました。親が気づいた日と、子どもがどもり始めたように見える日が重なるのですから、当時としてはもっともらしく響いたはずです。

けれども、気づいたことと、起こしたことは別です。日本吃音・流暢性障害学会は、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説と、親が吃音だと思って対応することが原因であるとする診断起因説を、最も問題のある間違った原因論として名指しで挙げています。そして、そのために母親が周囲の人から非難されたという体験談を聞く、とも書いています。担任の見立てに対してこの母親が抱いた違和感——家でくつろいでいる時にも出る——は、後から見れば正しい方向を向いていました。

「モンスタースタディ」と呼ばれるまで

指摘は、親から子へだけ向かうものではありません。子ども同士のあいだでも、同じことが起きます。自分の話し方に名前が付いた日を、当事者本人がこう書いています。

吃音のある本人の声(筆名 はる/ウェブメディアに寄せた手記)

その子の2つ年上の兄弟と遊んでいた時に「よく吃って話すよね」と突然言われました。

「吃る」という言葉を聞いたのは、その時が初めてでした。

私の話し方を真似している彼の姿を見て、その時に「これは吃ると言うのか。」と理解しました。

小学3年生ごろの場面として書かれています。幼稚園の頃にも言葉が連なって出ていたかすかな記憶はあるけれど、それが苦しくて辛いものだとは思っていなかった、と手記は始まります。名前を知ったのは、説明されたからではなく、目の前で真似されたからでした。手記はこのあと、その時から吃音はダメなもので恥ずかしいものだと捉えはじめた、と続きます。話し方そのものは前と同じなのに、意味だけが変わる。ジョンソンが立てた仮説は、この「意味が変わる」ところに原因があると考え、それを実験で確かめようとしたものでした。

出典: 吃音を指摘されて話すことが怖くなった。吃音と共に生きる私がいま伝えたいこと(HAPPY FOX)(台帳: V0071)

ここからは、手元の資料に書かれている範囲で実験そのものをたどります。幼児吃音臨床ガイドラインは、原因論の節に「診断起因説と“Monster Study”」という囲み解説を置き、次のように整理しています。

  • 説を唱えたのは、吃音研究者のウェンデル・ジョンソン(1906–1965)。1942年のことです。
  • 言いよどみを叱責することで吃音が生じるかどうかを検証する研究が、1939年、米国アイオワ大学の大学院修士の学位研究として、彼の指導下に孤児院の子どもを対象に実施されました。
  • その論文は公表されませんでしたガイドラインは、当時ナチスの興隆もあり、その手法が非倫理的であると非難される恐れもあったためか、と推測を添えて書いています。
  • 2001年6月11日、米国の新聞がこの研究を「孤児を吃音にする残忍な実験」として報じ、それ以降 “Monster Study” などと呼ばれるようになりました。

ここに挙げた以外の細部——対象になった子どもの人数、群の分け方、その後の経過など——は、この記事が根拠にできる資料に書かれていないため、扱いません。実験の倫理的な問題についても、資料に記述のある範囲を超えて書くことはしません。

そして、この実験がいちばん重く効いたのは、告発としてではなく検証としてでした。ガイドラインは続けてこう書いています。データを精査すると、吃音がない子どもの言いよどみを叱責しても吃音が生じないことを示していた。つまり、「親の育て方が悪くて吃音が生じることはない」ということで、診断起因説とは整合しない結果だった。自説を確かめるために行われた研究のデータが、後から読み直されて、自説を否定する材料になった、ということです。

それでも説はすぐには消えませんでした。ガイドラインは、ジョンソンが誤った自説の主張を長年続けたために日本にもその考えが持ち込まれ、今なお信じている人がいるように思われる、と書いています。遺伝研究の総説も、この見方は世界的に受け入れられ、30年以上続いたと記録しています。当時の教科書には、初期の段階の幼い吃音の子は放っておいて、親と教師を治療するのがよい、とまで書かれていたほどでした。吃音治療の歴史をたどった記事では、この時代の治療の中身のほうを扱っています。

「母親のせいだ」と、両方の親から言われて

学説の話は、いつも学説のままでは終わりません。家の中に降りてきたとき、それは誰か一人を名指しする言葉になります。7歳の息子をもつ母親の手記から引きます。

7歳の息子をもつ母の声(永田敬子さん・自助団体のサイトに掲載された実名の手記)

両方の両親から、「母親のせいだ」と言われ、思い当たることだらけの私はみじめでした。

どもるのを耳にするたびに「私が悪い、私のせいだ」と責められているようでした。

息子がどもり始めたのは3歳前でした。すぐに保健師に相談したところ、「自然に治るので、言い直したりせず、気づかないフリをするように」という助言を受け、そのように過ごしたと手記は書いています。幼稚園でも、気になるたびに相談したものの、返ってくるのは「成長と共に治る」「気づかれないように過ごして」で、気になりながら何もできないまま月日が流れました。小学校に入ると、どもりはかなり目立つようになります。「思い当たることだらけ」と書いているとおり、原因を探す目は自分の内側に向いていました。この自責の形——親族から名指しされ、本人もそれを受け取ってしまう——は、この家に特有のものではありません。

出典: 《特集:親の体験・親の気持ち》レジリエンスを育てる(吃音と上手につきあうための吃音相談室)(台帳: V0048)

日本吃音・流暢性障害学会は、誤った原因論のせいで母親が周囲の人から非難されたという体験談を聞きます、と書いています。幼児吃音臨床ガイドラインも、序文で現状をこう記しています。近年の研究の結果、発症の原因の大半が遺伝によるものであり、育て方が悪いから吃音を発症するという説が否定されている。しかし、この知見は浸透しておらず、育て方が悪かったからかもしれないという罪悪感をいだく母親がいまだ多い。日本耳鼻咽喉科学会会報の総説も、発症要因の7割以上が遺伝性であり、育て方が原因という「診断原因説」は否定されている、と一文で言い切っています。

なぜ、否定された説がこれほど長く家庭に残るのでしょうか。一つには、説が生まれた時代の空気が、吃音に対する見方そのものを作り替えてしまったからです。20世紀初頭以降、精神分析の理論は、吃音を幼い時期の親子のやりとりで解決されなかった葛藤の現れとして説明しようとしました。そして、これが吃音への偏見を強めてしまった、と薬物療法の総説は明記しています。原因の説明が「親子関係」に置かれれば、責める先も自動的に決まります。

この手記には続きがあります。転機は、小学校の担任との出会いでした。以前に吃音について学ぶ機会があったというその担任が、「ことばの教室」のことを教えてくれたうえで、同じ条件でも吃音が出る子と出ない子がいる、親のせいだと思わないで、と伝えてくれた。そこで初めて、私だけのせいではないかもしれないと、ほんの少し救われた——そう書かれています。自責をほどいたのは、統計ではなく、目の前の一人の言葉でした。母親からの遺伝を扱った記事には、家族をたどると誰に吃音が見つかるのかの実際の数字を並べてあります。

言い返せるようになるまで——説が残した二つの言葉

「親のせい」という言葉は、家族からだけでなく、習い事の場や地域からも飛んできます。島根で開かれた集まりの、親の話し合いの記録から引きます。

吃音のある子の保護者の声(島根スタタリングフォーラム「親の話し合い」の記録・匿名)

空手の昇段試験のとき、子どもは「オイ」が出てこないときがありました。

空手の先生から、「両親が厳しいから、そうなったんではないですか?」と言われたけれど、すぐ「いいや、違います。あの子はしつけとは関係なくどもるのです」と言い切れた。

フォーラムに参加して吃音について勉強した後だったので、言えたと思います。

同じ記録には、姑から「私は息子(夫)が小さいとき、吃音を治した」と言われた保護者や、母親が怒るからではないかと言われた保護者の発言も並んでいます。参加した人たちが共通して書いているのは、フォーラムで学んだあとは、そう言われても平気で言い返したり説明できるようになった、ということでした。言い返せるようになったのは気持ちが強くなったからではなく、何が否定されているのかを知ったからです。そして、その説が残した言葉は「親のせい」だけではありませんでした。

出典: 第7回島根スタタリングフォーラム 親の話し合い 3(吃音と上手につきあうための吃音相談室)(台帳: V0115)

診断起因説が日本に残したもう一つの言葉が、「気がつかないふりをする方が良い」です。前の節の手記で保健師と園から繰り返し渡されていた助言も、これでした。いまこの助言は、はっきり否定されています。学会の解説は、昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流でしたが、今は、そのような考え方は否定されています、と書き、親子で吃音について話ができる関係づくりを勧めています。

理由も示されています。子どもは幼くても吃音に気がついていることが多く、親が気づかないふりをしていると、子が「吃音はタブーだ」と感じ取り、吃音について親に相談できなくなって心理的に孤立する。家庭でも一般社会でも、本人が話したい場合は、話題をそらしたりことさら問題視したりせずに、気軽に話せる環境を作ることが重要だ、とガイドラインは述べています。

1939年の研究からもう一つ分かったことも、同じ囲み解説に書かれています。子どもに対して言いよどみを叱責すると、話すこと自体を躊躇するようになる、ということです。吃音のある子どもは、どうすれば吃らずに話せるのかが分からないので、叱責されない確実な方法として「話さない」を選ぶ。話さなくなれば、吃らずに話す方法を試行錯誤で探すこともできなくなり、かえって改善しにくくなると考えられる——ガイドラインはそう説明しています。「どもったことを叱らない」理由は、吃音が悪くなるからではなく、言葉の量そのものが減るからです。叱ってしまった日の受け止め方は、イライラしてしまう親に向けた記事のほうにまとめてあります。

なぜ、この説は信じられたのか

いま読むと無理のある説が、30年以上も世界的に受け入れられたのはなぜか。理由は「当時の人が不注意だったから」ではなく、その説だけが説明できていたことがあったからです。

遺伝研究の総説は、吃音の原因についてこれまでに唱えられた説の幅を並べています。体の形の異常(たとえば舌が異常に大きい、脳の形が普通と違う)、体の働きの異常(呼吸のしかたなど)、心の病理、ことばを組み立てて発話の運動を計画する働きの不全、学習された異常な話し方——きわめて幅広い見方が出てきました。ところが、と総説は言います。驚くべきことに、一つを除いて、これらの説はどれも「吃音が家族に集まる」という事実との結びつきを含んでいなかった

その一つが、ジョンソンの診断起因説でした。家族に吃音が集まることを、宗教や政治的な立場のように家族が共有し世代を越えて受け継ぐ、心理社会的な現象の一例として解釈したのです。具体的には、家族に吃音の歴史があると強い感情が生まれ、それが幼い子の親を、子どもの普通の話し方を妨げるような行動と反応に駆り立てる、という筋書きでした。当時まだ遺伝子を調べる手段がなかった時代に、家族集積を説明できる唯一の説だったということです。

もう一つ、この説を後押しした材料があります。1940年代から60年代にかけて、ニューギニアや太平洋の島々で働いた人類学者たちが、何千人もの現地の人々と接しても吃音のある人に出会わなかったと報告し、それが広まりました。ことばへの圧力が少ない文化では吃音が生じない、という読み方ができたからです。しかしその後、吃音がいないとされた集団でも症例が見つかりました。さらに、西洋とは異なる文化圏で行われたいくつかの調査でも、吃音のある人の割合は米国や欧州の研究と大きく変わらなかったのです。

心の側からの検証も、説には味方しませんでした。20世紀には吃音は主に心が原因の障害だと考えられ、精神分析的な方法や行動療法が用いられましたが、性格の特徴や親子のやりとりを調べた研究では、吃音と一貫して結びつく心理的なパターンは見つかりませんでした。吃音を、子どもの普通の言いよどみに対する周囲(多くは親)の不利な反応から学習された行動とみなす説についても、この枠組みでは吃音の中心にある症状を説明できていない、と同じ総説は整理しています。ただし、二次的に現れる症状のほうは説明しうるかもしれない、とも書かれています。

そして、臨床の現場からは早くから疑いが出ていました。ガイドラインは、以前から診断起因説が臨床的にも該当しない症例が多いことは指摘されていて、現在では否定されている、と来歴をまとめています。1939年の実験、1942年の説、早い時期からの臨床上の疑問、2001年の報道、そしてデータの再検討——順に並べると、説が否定されるまでに何が起きたのかが見えてきます。

否定されたあと、何に置き換わったのか

「親のせいではない」で話が終わると、では何なのかが宙に浮いたままになります。現在の理解は、次の二段構えで書かれています。

第一に、原因の側です。幼児吃音臨床ガイドラインは、発症の原因として最大のものは遺伝要因であり、7割程度の原因となっている、としています。より直接的な原因としては、脳内の発話に関連する領域間で解剖的・機能的な接続が不良になっていることだ、とも書かれています。そのうえで、保護者が子どもの発話を気にする・注意する等の行為や、育て方が悪いせいで吃音が生じるという説は否定されている、と結ばれています。吃音の症状を叱ったり、吃音が育て方のせいだとしたりする指導には、行わないよう勧めるという最も低い評価が付けられています。

第二に、環境の側です。2025年の研究論文は、まず立場をはっきりさせています。保護者の考えや行動が吃音の発症を引き起こすと今も信じている治療者や研究者は、ほとんどいない。そのうえで、診断起因説は「要求と能力」という言い方でまとめられる一連の理論に置き換わった、と書いています。環境が吃音を作るのではなく、ことば・運動・気質・認知にわたる子どもの限られた能力に対する要求が、ある場面で流暢に話す力を妨げうる、という考え方です。

ただし、同じ研究者はここに注意を付け加えています。この方向づけは、保護者の発話行動が子どもの流暢さを左右しうると示唆することで、意図せず保護者に責めを負わせかねない推奨につながることがある。実際、「ゆっくり話す」「間をとる」という助言がどこから来たのかを追うと、ある古典的な教科書は、始まりかけた吃音を消す最も効果的な方法の一つが保護者にゆっくり話す訓練をすることだというのは「証明されていない言い伝え」の一部だと、自ら断っていました。

その助言を、助言を受ける前の親子の録音で測り直した研究があります。親が返事をするまでの間の長さは、のちに吃音が治った子・続いた子・吃音のない子の三つの群のあいだで統計的に意味のある差がありませんでした。間の長さと子どもの吃音の多さとの関連もほぼゼロで、間を一定に保つことと吃音の多さとの関連もありませんでした。代わりに大きかったのは、群の違いではなくその親子の組ごとの会話のテンポの違いでした。「うちは早口の家だから」という心配は、この結果の前では根拠を失います。

研究者はこの結果に二つの但し書きを置いています。一つは、これは「親が関わる方法は効かない」という結論を支持するものではなく、「効く」という結論を支持しないだけだということ。もう一つは、それでも保護者の関わりは重要で、吃音は糖尿病や喘息のような子どもの慢性の病気に近く、親は発症にはほとんど関わらないが、症状と付き合っていくうえでは重要な役割を持つ、ということです。

「家族に集まる」は、いまどう測られているか

診断起因説が唯一つかんでいた事実——吃音は家族に集まる——は、いまも事実のままです。変わったのは、その説明です。かつては「育て方が世代を越えて伝わった」と読まれていたものが、遺伝の関与として読み直されました。

ただし、「家族に吃音のある人がいる割合」という数字そのものは、思ったほど一つに定まっていません。2026年に発表された、どんな研究が行われてきたかを地図のように整理する総説(スコーピングレビュー)が、2000年以降の19件の研究を並べています。そこで報告された「家族歴あり」の割合は、20.0%から90.9%まで大きく開いていました。

2000年以降に家族歴を報告した19件の研究で、吃音のある人のうち「家族に吃音のある人がいる」とされた割合を並べた横棒グラフ。吃音のある人だけを集めた7件は、Mohammadiら2016(イラン)が90.9%、Buckら2002(英国)が72.1%、MohammadiとBakhtiary 2024(イラン)が69.2%、DonaherとRichels 2012(米国)が61.1%、Darmodyら2022(オーストラリア)が59.7%、Boyceら2022(オーストラリア)が49.8%、Gürbüz ÖzgürとÖzgür 2019(トルコ)が21.9%。一般集団の中から見つけた12件は、Viswanathら2004(米国)が83.9%、Costaら2022(ブラジル)が71.1%、Cavenaghら2015(英国)が66.7%、Walshら2021(米国)が60.0%、Nandhini Deviら2018(インド)が56.1%、Reillyら2009(オーストラリア)が51.8%、Reillyら2013(オーストラリア)が51.0%(Reillyらの2件は同じ子どもたちを別の時点で追った報告)、Abou Ellaら2015(エジプト)が31.1%、Sakaiら2024(日本)が27.3%、Choiら2018(米国)が24.0%、Singerら2022(米国)が22.7%、Kefalianosら2017(オーストラリア)が20.0%。全体では20.0%から90.9%まで開いている。
図1: 報告された「家族歴あり」の割合は、研究によって大きく開いている。Reilly ら 2009 と 2013 は同じ子どもたちを別の時点で追った報告で、独立した2件ではない。出典: Sato, Aoki, Miyamoto & Iimura (2026) Int J Lang Commun Disord.

この開きの主な原因は、吃音そのものの違いではなく、測り方の違いだと同じ総説は述べています。どこまでの親族を数えるか(親ときょうだいだけか、祖父母やおじ・おばまでか、いとこまでか)、家族の中の「吃音」をどう定義するか(一度でもどもったことがある人まで含めるのか、今どもっている人だけか)、そしてどうやって聞き取るか(保護者への質問紙か、直接の面接か、電話か)——この三つがそろっていないのです。同じ総説は、研究の行われた場所が米国とオーストラリアに偏っていることも課題として挙げています。

家族の中の「吃音」をどう数えたかで、家族歴ありの割合の平均が変わることを示す横棒グラフ。2000年以降の19件の研究のうち、一度でもどもったことがある人まで数えた10件は平均58.71%、今どもっている人だけを数えた2件は平均53.3%、数え方が書かれていない7件は平均42.39%。
図2: 親族の「吃音」の数え方が広いほど、家族歴ありの割合は高く出ていた。出典: Sato, Aoki, Miyamoto & Iimura (2026) Int J Lang Commun Disord.
2000年以降に家族歴を報告した19件の研究が、どの国で行われたかを示す横棒グラフ。米国が5件、オーストラリアが5件、英国が2件、イランが2件、ブラジル・エジプト・トルコ・インド・日本がそれぞれ1件。英語で書かれた文献に限って検索した結果である点に注意が要る。
図3: 家族歴の研究は、米国とオーストラリアに集中している。出典: Sato, Aoki, Miyamoto & Iimura (2026) Int J Lang Commun Disord.

つまり、「家族に吃音の人がいる割合は◯%です」と一つの数字で言える段階ではない、ということです。家族歴が持続の手がかりの一つになること自体は変わりませんが、数字を見かけたら、誰までを数えた数字なのかとセットで読むのが安全です。続柄ごとの割合や双子の研究の中身は、母親からの遺伝を扱った記事に整理してあります。

気になるときの相談先——どこへ、いつ

学説の来歴を知ったあとに残るのは、「では、いま何をすればいいのか」という問いだと思います。幼児吃音臨床ガイドラインは、相談先を具体的に挙げています。幼児の吃音の治療経験がある言語聴覚士(ことばと聞こえの専門職)のいる病院やクリニック、自治体の(小児)リハビリテーションセンター、大学教育学部に付属する発達や言語の相談室など。地域の児童発達支援センターには言語聴覚士が在籍する場合が多く、吃音の相談窓口となっているとされています。就学後は、小学校の通級指導教室である「ことばの教室」などが指導にあたります。

  • ガイドラインは、相談に対応している機関の多くは治療には対応できないことも多い、という注意も同時に書いています。相談と治療が同じ場所とはかぎりません。
  • 積極的な介入(月2回以上の指導)を始める時機は、園の学年で区切って示されています。3歳児クラス(年少組)までは経過観察的な支援を基本とし、4歳児クラス(年中組)では開始を検討、5歳児クラス(年長組)では開始を推奨する、というものです。
  • 受診しても、短い診察の場面では症状が出ないことがよくあります。ガイドラインは、保護者は心配して来院しているので、安易に「吃音なし」「心配なし」と決めつけないよう医療者側に注意を促しています。家での様子を書き留めて持っていくと、この行き違いを減らせます。

診療科の選び方や待ち時間など、相談先まわりの実際は吃音の相談先の記事にまとめています。上の学年ごとの区切りは基本的な対応として示されているもので、症状の重さや改善の傾向、保護者の状況、専門機関の受け入れ状況によって前倒しにも先延ばしにもなりうる、とガイドライン自身が書いています。

この説について調べるときの3つの落とし穴

落とし穴1 − 「実験があった」ことと「説が正しかった」ことを混ぜてしまう

1939年に実験が行われ、論文が公表されず、2001年に報道されたのは事実です。しかし、その実験のデータを精査した結果は、説を支えるどころか逆でした。吃音のない子どもの言いよどみを叱責しても、吃音は生じていなかったのです。「ひどい実験があった」という話と「だから親の指摘が吃音を作る」という話は、まったく別のことを指しています。

落とし穴2 − 否定されたのは説なのに、「気づかないふり」だけ残す

「親のせいではない」と知ったあとも、「気がつかせない方がよい」という対応だけが習慣として残ることがあります。この対応は今は否定されています。子どもは幼くても吃音に気がついていることが多く、親が気づかないふりをしていると、子は「吃音はタブーだ」と感じ取って相談できなくなり、孤立します。二つの言葉は同じ説から出たものなので、片方だけ置いておく理由はありません。

落とし穴3 − 「原因ではない」を「何をしても関係ない」と読む

発症に親は関わっていません。けれど、症状と付き合っていくうえで親が果たす役割は大きく、研究者はそれを糖尿病や喘息のような子どもの慢性の病気になぞらえています。気軽に吃音の話ができる環境を家庭に作ることは、ガイドラインが重要だと書いていることそのものです。

まずは、どんな場面で増えたか・減ったかを書き留めておくことから小さく始めてみてください。記録は自分の採点表ではなく、相談のときに経過を伝えるための材料です。言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

モンスタースタディとは何ですか?

1939年に米国アイオワ大学の大学院修士の学位研究として、ウェンデル・ジョンソンの指導のもとで孤児院の子どもを対象に行われた研究を指します。言いよどみを叱責することで吃音が生じるかどうかを検証するもので、論文は公表されませんでした。2001年6月11日に米国の新聞が「孤児を吃音にする残忍な実験」として報じたことをきっかけに、そう呼ばれるようになったとガイドラインは記録しています。

ウェンデル・ジョンソンは吃音について何を主張したのですか?

「吃音の診断はある意味、吃音の原因の一つである」という説(診断起因説)を1942年に唱えました。そこから「吃音は親が言葉のつっかえを気にしたり指摘したりすることで起きる」「小児の吃音は気がつかないふりをする方が良い」という対応が広まりました。遺伝研究の総説によれば、この見方は世界的に受け入れられ、30年以上続きました。

診断起因説は、いまどう評価されていますか?

否定されています。もとになった研究のデータを精査すると、吃音のない子どもの言いよどみを叱責しても吃音は生じておらず、説とは整合しない結果でした。日本吃音・流暢性障害学会は、親の接し方が悪かった(愛情不足)ことを原因とする説とあわせて、診断起因説を「最も問題のある間違った原因論」として名指ししています。日本耳鼻咽喉科学会会報の総説も、発症要因の7割以上が遺伝性であり、育て方が原因という説は否定されている、と述べています。

では、いまは何が原因だと考えられているのですか?

幼児吃音臨床ガイドラインは、発症の原因として最大のものは遺伝要因で7割程度を占め、より直接的には脳内の発話に関連する領域間で解剖的・機能的な接続が不良になっていることだ、としています。環境については、「環境が吃音を作るのではなく、子どもの限られた能力に対する要求がその場面で流暢に話す力を妨げうる」という「要求と能力」の枠組みに置き換わった、と2025年の研究論文が説明しています。

子どもの吃音に気づかないふりをしたほうがいいのでしょうか?

今はそう考えられていません。日本吃音・流暢性障害学会は、昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流だったが、今はその考え方は否定されている、と書いています。子どもは幼くても吃音に気がついていることが多く、親が気づかないふりをしていると、子は「吃音はタブーだ」と感じ取って親に相談できなくなり、心理的に孤立するとされています。本人が話したいときに気軽に話せる環境を作ることが重要だ、というのがガイドラインの立場です。

まとめ

  • ウェンデル・ジョンソン(1906–1965)が1942年に唱えた診断起因説は、「吃音の診断はある意味、吃音の原因の一つである」という説で、そこから「親が気にして指摘すると吃音になる」という考えが広まった。
  • 「モンスタースタディ」と呼ばれているのは、1939年にアイオワ大学の修士の学位研究として彼の指導下で孤児院の子どもを対象に行われた研究。論文は公表されず、2001年の報道をきっかけにその名で呼ばれるようになった。
  • そのデータを精査すると、吃音のない子どもの言いよどみを叱責しても吃音は生じておらず、説とは整合しない結果だった。学会も学会誌の総説も、育て方が原因という説を否定している。
  • この説が30年以上受け入れられたのは、当時、吃音が家族に集まるという事実を説明できる唯一の説だったから。「吃音のない文化がある」という報告もそれを後押ししたが、のちに否定された。
  • 現在は、発症の原因として最大のものは遺伝要因で7割程度とされ、診断起因説は「要求と能力」の枠組みに置き換わっている。「気がつかせない方がよい」という対応も、今は否定されている。

参考文献

  1. 幼児吃音臨床ガイドライン(第1版)2021(日本医療研究開発機構(AMED)の研究開発課題として作成)序文・原因論の囲み解説「診断起因説と“Monster Study”」・Q1・Q7・Q15・Q23
  2. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」
  3. 森浩一(2020)吃音(どもり)の評価と対応. 日本耳鼻咽喉科学会会報 123(9): 1153-1160.
  4. Godsey & Bernstein Ratner (2025) It’s About Time: Parent–Child Turn-Taking in Early Stuttering. Am J Speech Lang Pathol.
  5. Kraft & Yairi (2012) Genetic bases of stuttering: the state of the art, 2011. Folia Phoniatr Logop.
  6. Büchel & Sommer (2004) What causes stuttering? PLoS Biology.
  7. Yairi & Ambrose (2013) Epidemiology of stuttering: 21st century advances. J Fluency Disord.
  8. Maguire et al. (2020) The Pharmacologic Treatment of Stuttering and Its Neuropharmacologic Basis. Front Neurosci.
  9. Sato, Aoki, Miyamoto & Iimura (2026) The Family History of Developmental Stuttering: A Scoping Review. Int J Lang Commun Disord.

当事者・保護者の声の出典: V0059(個人ブログ「うちの子、天才かもしれん。」)/ V0071(ウェブメディア HAPPY FOX・筆名はるさんの手記)/ V0048(日本吃音臨床研究会「吃音相談室」・永田敬子さんの手記)/ V0115(日本吃音臨床研究会「第7回島根スタタリングフォーラム 親の話し合い」の記録)。いずれも公開記事。引用は原文どおりで、話者の情報は台帳の事実シートに記載のある範囲までにとどめています。

更新履歴: 2026-09-12 公開