構音障害と吃音の違い|見分け方・両方あるとき・相談先

構音障害と吃音の違い|見分け方・両方あるとき・相談先
目次

「さ行が言えない」「発音がはっきりしない」——それは構音障害(こうおんしょうがい)なのか、吃音なのか。健診で「発音の問題ですね」と言われたのに、本人は「言葉が出ない」と言っている。言語聴覚士に「構音の練習をしましょう」と言われたけれど、詰まるほうは何も変わらない。二つの名前のあいだで、保護者も本人も立ち止まってしまいます。

この記事は、その二つの違いに絞ります。発音そのものを正しく作れない構音障害と、音は作れているのに話の出だしや途中で詰まる吃音は、何がどう違うのか。見分けの手がかりは何か。両方が同じ人に出ることはあるのか。相談先や訓練は違うのか。よりどころにするのは、日本言語聴覚士協会と日本吃音・流暢性障害学会の解説、慶應義塾大学病院の医療情報、査読を受けた研究論文、そして構音障害と吃音それぞれの当事者・保護者4人の記録です。吃音そのものの定義や分類、声が出ない瞬間の体感、発達障害との関係は、それぞれ別の記事に譲って要所でリンクします。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。構音障害の評価や訓練の中身はこの記事では扱いません。気になる症状があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 構音障害は「音そのものを正しく作れない」、吃音は「音は作れているのに、話の出だしや途中で流れが途切れる」脳の研究をまとめた総説は、吃音を、話す筋肉の脱力や麻痺によって起きる構音障害とも、音の出し方そのものがうまくいかない発語失行(はつごしっこう)という別の障害とも区別し、吃音では出そうとした音そのものは正しく作れているのに流れが途切れる点が違うと説明しています。
  • 職能団体の整理でも、発音の障害と吃音は「ことばの障害」の中の別の項目です。発達の途中で現れる状態を並べた診断の分類でも、音を正しく作れない障害・ことばの障害・吃音は、「コミュニケーションの障害」という同じ枠の中の別の項目として並びます。
  • 別物ですが、同じ人に両方あることは珍しくありません学会は吃音に比較的多い併存症(合わせもつことのある状態)の一つに構音障害を挙げ、研究の総説も、吃音のある子どもの多くに発音の遅れが併存すると述べています。
  • そして無関係でもありません複数の研究をまとめて調べる方法(メタ分析)では、吃音が続いた子どもは自然に治った子どもより、音を正しく出す力の検査の得点が低いという結果でした。
  • 相談先は同じです。言語聴覚士は発音の障害も吃音も扱う専門職で、学会は小児を扱う言語聴覚士やことばの教室に相談するようすすめています。

ただし、「構音障害」という言葉は、子どもの発音の育ちだけでなく、脳や神経の病気で口や舌を動かす筋肉が弱くなった状態にも使われます。大人になってから急に発音が崩れた・言葉が詰まるようになったときは、この記事の見分け方を当てはめる前に、医療機関で相談してください。

「作れない」と「出てこない」——当事者が並べて説明する2つの違い

構音障害という言葉が何を指すのか、いちばん早く伝わるのは、当事者自身の説明です。20年間、構音障害と共に生きてきた人が、自分の障害を吃音と並べて書いています。

構音障害のある当事者本人(荒井健さん・20年間構音障害と共に生きてきた/個人ブログ note のエッセイ)

私が抱える構音障害は、特定の音を正しく発音することが困難な障害だ。私の場合は、「か行」「さ行」「た行」などの子音が、かすれ、はっきりと発音することが叶わない。

他にも、この世には声に関する障害がある。たとえば、先程挙げた吃音は、言葉が詰まったり、同じ音を繰り返したりするというもので、社会で一番知られていることばに関する障害だろう。

これらは、それぞれ異なる特徴を持つが、共通するのは「声でのコミュニケーションに困難を抱える」ということだ。そして、その困難は単なる「話しにくさ」にとどまらない。

この人が挙げる自分の困難は、「か行」「さ行」「た行」の子音がかすれて、はっきり発音できないことです。一方で吃音を「言葉が詰まったり、同じ音を繰り返したりする」と書き分けています。同じ文章の中で本人は、自分の声を童謡の「壊れたクラリネット」にたとえ、投げかけられてきた言葉として「もっと練習すれば治る」「気持ちの問題だ」「努力が足りない」を挙げています。聞き返される経験、からかわれる体験、相手の困惑する表情が重なるうちに、話すこと自体を避けるようになり、周囲から「内気な性格」「消極的な人」と見られるようになった——それは本来の性格ではなく、声の不自由さが生み出した二次的な影響だった、とも書いています。音そのものが作れないという構音障害の性質を、当事者の側から言い当てた説明です。研究の側も、同じ線で二つを区別しています。

出典: 壊れて出ない音がある――構音障害と20年生きてみて(note)(台帳: V0388)

脳の研究をまとめた2020年の総説は、吃音を発話の運動制御に関わる障害と位置づけたうえで、次の二つとは別のものだと説明しています。一つは、話す筋肉に脱力や麻痺がある構音障害(研究では「ディサースリア」と呼ばれます)。もう一つは、音の出し方そのものがうまくいかない発語失行です。吃音はこれらと違い、出そうとした音そのものは正しく作れているのに、その流れが途切れる——語の一部の繰り返し、音の引き伸ばし、声が出ないまま詰まるブロック(難発)という形で——のが特徴だとしています。「作れない」のか「作れているのに出てこない」のか。線はここに引かれています。

職能団体の整理も見ておきます。日本言語聴覚士協会は、言語聴覚士が扱う代表的な障害として、聞こえの障害、言語機能の障害、話しことばの障害、そして食べたり飲み込んだりすることの障害を挙げています。この中で、声のかすれなどの声の障害や発音の障害は「話しことばの障害」に、そしてスムーズに話すことが難しい吃音も「ことばの障害」に含まれる、と書かれています。同じ家の中の、別の部屋——発音の障害と吃音は、この職能団体の整理でもそういう距離にあります。地域の6歳児289人を偏りなく選んで調べたヨーロッパの研究でも、音を正しく作れない障害・ことばの障害・吃音は、「コミュニケーションの障害」という一つの区分の中に、それぞれ別の項目として並べられています。吃音そのものの定義と分類は吃音の定義と分類の記事で扱っています。

同じ「さ行が言えない」でも、中身がちがう

「さ行が言えない」という訴えは、構音障害でも吃音でも出てきます。だから言葉だけでは分かりません。次の語り手は、中学2年生のときにサ行の言いにくさに気づいた当事者です。

当事者本人(Yuuさん・小学生のときに吃音が出始め、中学2年で自覚。社会人になってからの振り返り/NPO法人日本吃音協会のメディアへの寄稿)

今よりは軽症でしたが、少し話しづらさを覚えていました。

私はサ行が言いづらく、サ行の言葉を言う時に「言葉が出ないかもしれない」と思うようになっていきました。

そのため、サ行をなるべく使わないように避けていました。

この当時は、まだ吃音症という言葉は知りませんでした。

しかし、私は周りの子と少し違う、話し方がおかしい、と思っていました。

この人のサ行は、「さ」が別の音に置き換わっていたのではありません。言えるときは言えて、ただ「出ないかもしれない」という予感が先に立ち、サ行の言葉そのものを避けるようになった、という順序です。同じ文章には、吃音は小学3年生からあったが意識していなかったので話しづらさを感じていなかったこと、中学入学当初は発表にも抵抗がなかったことが書かれています。先生や周りの子に相談しなかった理由として、少し言いづらいだけで深刻には思っていなかったこと、相談すること自体が恥ずかしいと思っていたことも挙げられています。英語の授業では、10行ほどの英文を暗記して先生の前で読めば終わりという仕組みを利用し、覚えるのに時間がかかっているふりをして最後まで残り、クラスメイトに聞かれずに読む——そんな工夫も記されています。「出ないかもしれない」と予感して避ける。この形は、大学病院の解説が吃音の進展として挙げる、「この言葉は出ないかもしれない」と先に不安になること(予期不安)・言い換え・話す場面を避けること(回避行動)と重なります。

出典: 吃音を自覚した中学2年生。人前で話す授業はこう乗り越えた!(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0145)

相談のときに伝えると整理が進む手がかりは、3つあります。どれも自己診断の基準ではなく、専門職に渡す材料です。

  • 音が別の音に置き換わっているか、音は合っているのに出てこないか。発音の問題では、目標の音が誤って発音されます。吃音では、出そうとした音そのものは正しく作れています。「さ」が「た」になるのか、「さ」が出るまでに間があくのか。
  • 場面や時期で変わるか。吃音には、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりする特徴があり、歌を歌うとき・2人で声を合わせるとき・独り言のときには一時的に流暢(なめらか)になる人が多いとされます。調子の良い状態や悪い状態が数週間から数か月続く「波」もあります。特定の単語・音・行(カ行、タ行など)を苦手とする「一貫性」も、吃音の中核症状の性質として挙げられています。
  • 「出ないかもしれない」と予感して、避けたり言い換えたりしているか。「この言葉は吃音が出そうだな」と先に予感してしまうこと(予期不安)、その言葉をとっさに別の言葉に言い換えること、人前や電話など話す場面を避けてしまうこと(回避行動)は、思春期以降の吃音に伴うことがある症状として説明されています。上の語り手が書いていたのは、この3つ目です。

もう一つ、線を引くときに知っておきたいことがあります。「えーと」のような音や語を足すこと、単語や句をまるごと繰り返すこと、言いかけて別の言い方に直すことは、多くの人に起こるもので、吃音とは見なされません。同じ解説は、知っている単語を言い間違えることも、誰にでもある言いよどみの一つとして挙げています。一度の言い間違いや言い直しだけで名前を付ける必要はない、ということです。カ行についての同じ切り分けはカ行が言えないのは吃音か発音の問題かの記事に、声が出ない瞬間に体で何が起きているかは吃音で声が出ない記事にまとめています。

両方あることは珍しくない——時間がたつと、別々に進む

保護者が最初に気づくのは、たいてい「どもり」と「滑舌」が一緒に出ている状態です。どちらか一方に決めようとしても決まりません。次の語り手は、10歳の長男の母親です。

保護者(母。長男は幼稚園のころに連発が目立ち、療育センターの相談から言語聴覚士につながった/個人ブログ・アメーバブログ)

でも他にも気になることがありました。

人の顔と名前を覚えられない、言い間違え(お父さんを見ながらお母さんと言う)、滑舌の悪さ(さ行がた行になる)です。

小学生になり滑舌の悪さは無くなりました。

長男は喋り始めるのも遅かったので、母親は最初、どもるのは「何て言えば良いのか分からないから始めの言葉に詰まっているのかな」と思っていた、と同じ記事に書かれています。「お、お、おかあさん」という連発は、体調や疲れ、ストレスでかなり変わった。幼稚園の年少・年中ではそれほど目立たなかったが、周りが成長してこのままでよいのか分からなくなり、療育センターに相談して言語聴覚士につないでもらった——そういう経緯です。並んでいた気がかりのうち、滑舌(さ行がた行になる)は小学生になって消え、言い間違えはだいぶ減ってまだ残り、吃音は10歳の今も続いている。一緒に出ていたものが、時間がたつにつれて別々の経過をたどりました。本人は今も言語聴覚士に年に1〜2回診てもらっているが、今は吃音のためではなく、読み書きの学習障害(ディスレクシア)の診断がつき、それについて経過を診てもらっている、とも書かれています。一人の子どもの記録であって、一般化はできません。ただ、「一緒に出る」ことと「別々に進む」ことの両方は、研究の側でも見えています。

出典: 吃音(うちの子は宇宙と交信中・アメーバブログ)(台帳: V0168)

まず「一緒に出る」ほうです。日本吃音・流暢性障害学会は、吃音の併存症として比較的多いものに、学習障害(LD)、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、知的障害、てんかんと並べて構音障害を挙げています。ことばの面から吃音を見渡した2022年の総説も、吃音のある子どもの多くに発音(構音)や音の体系の遅れが併存する、と書いています。

ところが同じ総説は、その直後に、意外なことを述べています。どもりが起きる場所と、誤って発音される音とが結びつくという証拠は、これまでの研究では概ね得られていないつまり、「さ行の発音が苦手だから、さ行でどもる」という単純なつながりは、研究では支持されていません。総説はそこから、吃音と発音の問題の両方がある子どもに対しては、発音の課題が流暢さを乱したり、その逆が起きたりする状況を作らないように支援を組み立てるべきだ、と続けています。二つは、同じ子の中で、別々の回路として扱われています。

それでは無関係なのかというと、そうでもありません。ここが、上位の解説にはあまり書かれていない部分です。吃音が「続くか、治るか」を分ける手がかりを調べた研究では、発音の検査の得点が繰り返し出てきます。就学前に吃音が始まった子どもを追跡した複数の研究を統合したメタ分析では、吃音が持続した子どもは回復した子どもより、音を正しく出す力の得点が低く(差の大きさは、効果の大きさの指標で −0.54。推定値のぶれの幅は −0.88〜−0.21)、偏りが大きいと評価されたデータを外して計算し直しても、この結果は変わりませんでした。別の追跡研究では、複数の危険因子を足し合わせるモデルの中で、発音の検査(標準得点)が115以下だった子どもは、それより高い子どもに比べて持続する吃音になりやすいと推定され、その比は13倍(ぶれの幅は 3.48〜48.55)でした。この検査の得点は、単独でも、持続する子と回復する子を最もよく分けた因子だったと報告されています。さらに別の研究では、音の体系と発音の検査の得点が1点上がるごとに、回復ではなく持続する見込み(オッズ)が6%下がる、という関係が示されています。持続と回復を分ける他の手がかりについては吃音のセルフチェックと受診の目安の記事にまとめています。

吃音が続くかどうかの手がかりを7つ並べ、目安の線で2つに分けたときの続く見込みの比(オッズ比)と推定のぶれの幅(95%信頼区間)を示した図。対象は3〜5歳で吃音のある子67人(続いた44人・治った23人)。発音(語音)の検査が115点以下だと13.0倍[3.48〜48.55]、聞いて理解する力が127点以下だと5.01倍[1.43〜17.54]、話して伝える力が106点以下だと2.83倍[0.94〜8.53]、吃音が始まった年齢が45か月以上だと2.70倍[0.53〜13.71]、発症からの経過が19か月以上だと3.61倍[1.05〜12.38]、吃音の重症度がSSI17点以上だと1.77倍[0.63〜4.96]、吃音の頻度が2.3%以上だと4.10倍[0.35〜47.77]。いちばん大きいのは発音の検査だが、ぶれの幅も広い。帯が1.0をまたぐ行は、差があるとは言い切れない。手がかりを1つずつ別々に調べた値で、7つを足し合わせた効果ではない。目安の線はこの67人から決めたもので、別の集団での検証はまだ行われていない
図1: 発音の検査がいちばん大きく出た手がかり。ただし、どの行も推定のぶれが大きい。出典: Singer, Otieno, Chang & Jones (2022) J Speech Lang Hear Res. 表2(ROC法で決めた目安の線).
吃音が続いた子と治った子で、発音の検査の平均点を比べた図。3〜5歳で吃音のある子52人を追いかけた研究で、続いたのは21人、治ったのは31人。標準得点で、同年齢の平均は100点。発音できる子音の検査は、続いた子が85点、治った子が95.16点。音の作り方の検査は、続いた子が83.24点、治った子が95.16点。どちらの検査でも、続いた子の平均のほうが低い
図2: 吃音が続いた子は、発音の検査の平均点が低かった。出典: Walsh, Christ & Weber (2021) J Speech Lang Hear Res.(検査はBBTOPの2つの下位検査。原典は、得点が1点上がるごとに、治るのではなく続く見込み(オッズ)が6%下がると報告している。治った子の平均は2つの検査とも95.16と記載されている).

総説はもう一つ、大人の側の知見を紹介しています。吃音のある子どもでは、発音の技術そのものよりも、音への気づきや音を頭の中で操る力が相対的に低いことが複数の研究で見つかっており、近年のレビューでは、吃音のある大人と読み書きの困難(ディスレクシア)のある大人の特徴に重なりが見つかった、というものです。これは集団の傾向であって、上の母親の記録にある一人の診断を説明するものではありません。ただ、「話す音」と「文字の音」の両方に、ことばの音を扱う力が関わっているらしい、というところまでは研究が指し示しています。発達障害との併存を広く扱った内容は吃音と発達障害の関係の記事にあります。

構音障害でも吃音でもない、3つ目の可能性——クラタリング

二つの名前のあいだで迷っている人が、調べていくうちに三つ目の名前にたどり着くことがあります。次の語り手は、44歳を前に、初めて吃音外来の受診を決めた人です。

当事者本人(正式な診断は未受診。小学校高学年から話しづらさが続き、44歳を前に吃音外来の受診を決めた/個人ブログ note)

私の話しづらさは吃音なのか、クラタリングなのか。それとも両方なのか。はっきりさせる意味はあるんだろうか?

はっきりさせたところで、劇的に改善できる!なんて思ってない。でも「知りたい。」って。今、そう感じている。

この人の話しづらさは「あっ、ぁぁっ、ありがとう」という連発から始まり、成長するにつれて言葉が出ない難発へ移った、と本人は書いています。父親には連発型の吃音があり、甥にも吃音が出た。だから自分も吃音だろうとずっと思ってきたけれど、正式な診断を受けたことはない。成人の吃音を診てくれる耳鼻咽喉科はなかなか見つからず、受診しても「気持ちを落ち着ける薬を出しましょう」と精神面の問題で片付けられるのではないか、と30年以上ためらってきた——そこへ最近、クラタリング(早口言語症)という名前を知り、「もし吃音じゃなくて、クラタリングだったのなら?そもそものアプローチが違うのかもしれない」と考え始めた経緯が、受診を決めた理由として書かれています。名前を確かめることを、この人は治る手段としてではなく、自分の困りごとの輪郭を知る手段として選んでいます。名前の違いが支援の入口を変えることは、専門機関と研究の側も書いています。

出典: 私の『話しづらさ』に名前を!|吃音外来 受診への道のり その1(note)(台帳: V0253)

慶應義塾大学病院の解説によれば、クラタリング(早口言語症)は吃音と症状が似ていますが、特徴の異なる別の発話流暢性障害(なめらかに話せない状態のまとまり)です。吃音の中核症状に加えて、早口であること、単語の途中の音を省略してしまう「言葉の折り畳み」(「ホッチキス」を「ホキ」と発音するなど)、「えーと」などの挿入や言い直しが多いこと、語順や話す順序があべこべでまとまりなく話してしまうことが挙げられています。厄介なのは、これらの症状には本人の自覚が少ないことが多く、自分の症状を「吃音だ」と勘違いすることがある点です。実際、吃音だと思って受診する人の何割かはクラタリングだと言われています。もう一つの違いは、「ゆっくり話そう」「落ち着いて話そう」と注意を向けることで一時的に改善することがあり、これは吃音では一般的に逆のことが多い、とされている点です。

日本語話者でのデータもあります。慶應義塾大学病院の耳鼻咽喉科を受診した成人を対象にした2026年の研究は、その序論で先行研究を引き、なめらかに話せない状態と診断された人のうちクラタリングに合う症状も示す人の割合を、英語圏の報告で12〜43%、日本語話者を対象にした報告で15〜38%と紹介しています(これは同研究が背景として引いた値で、同研究自身の測定ではありません)。同じ研究は、臨床ではクラタリングと吃音で治療が別になると考えるのが妥当なので、二つを区別することが患者にとって重要だと述べています。そしてその区別は、印象ではなく測定で行われています。日本語話者向けの標準化された吃音検査を使い、誰にでもある言いよどみと、吃音に特有のなめらかに出ない話し方の比、そして話す速さ(1秒あたりのモーラ数。モーラは日本語の音の拍)の二つで判別し、比が1.2を超え、話す速さが1秒あたり7.5モーラを超えることをクラタリングの目安としています。自分で名前を決めるものではなく、測って分けるもの——この点は、構音障害と吃音の線引きでも同じです。クラタリングと吃音の違いは吃音の種類の記事でも扱っています。

クラタリングと吃音を測って分ける手順を示した流れの図。1、話しづらさで受診する(18歳以上・専門的な治療を受けたことがない成人40人)。2、標準化された吃音検査を受け、1人語りの録音から言いよどみの数と話す速さを測る。3、2つの値を出す(言いよどみの比は、誰にでもある言いよどみを吃音に特有の詰まりで割った値。話す速さは1秒あたりのモーラ数)。4、比が1.2を超え、かつ話す速さが7.5モーラ/秒を超えるかで分ける。2人の評価者が別々に判定し、判定の一致の度合いは0.73。どちらも超えた人はクラタリングを併せもつ群で14人、40人の35%にあたり、比の平均4.8・話す速さ8.7モーラ/秒。そうでない人は吃音のみの群で26人、比の平均2.6・話す速さ6.7モーラ/秒
図3: 名前は印象ではなく、測って分けられている。出典: Tomisato ら (2026) Front Psychol. 表1と方法(判別の目安は同じ研究グループの前報から採った値。比と話す速さは群分けに使った値なので、2つの群の差の検定は行われていない).

「構音障害」という言葉は、2つの別のものを指している

ここまで読んで、「構音障害」の説明が資料によって食い違うと感じた人がいるかもしれません。それは読み方の問題ではなく、同じ言葉が二つの別のものに使われているからです。

一つは、子どもの発音の育ちの話です。目標の音が誤って発音される、たとえば「さ」が「た」になる、という状態で、研究では発音(構音)や音の体系の遅れとして扱われ、診断の分類では、音を正しく作れない障害として、ことばの障害や吃音と並ぶ項目になっています。先ほどの10歳の長男の母親が書いていた「滑舌の悪さ」も、この意味です。

もう一つは、脳や神経の病気によるものです。脳の研究の総説が吃音と区別して挙げている構音障害(ディサースリア)は、話す筋肉に脱力や麻痺がある状態を指します。具体的な姿は、パーキンソン病の研究に書かれています。パーキンソン病では、病気の経過の中で最大9割の人に発話の障害が現れ、呼吸・発声・調音(音を作る動き)のそれぞれの水準で神経の問題が起きると考えられています。典型的には、声が小さくなる、抑揚が乏しくなる、短く急いだ話し方になる、発音が不明瞭になる、話す速さが速まる、といった特徴が並びます。子どもの「さ」が「た」になる話とは、成り立ちがまったく違います。

さらに職能団体の解説は、舌がんで手術をした結果、発音が難しくなる場合も、ことばの障害の一つとして挙げています。口の形そのものが変わったことによる発音の困難です。

つまり「構音障害」を医学辞典で引いたときの記述が、脳の病気の話ばかりで吃音に一言も触れていないのは、辞典が二つ目の意味で書いているからです。子どもの発音のことを調べに来た保護者と、親の話し方の変化を調べに来た家族は、同じ言葉で違うものを読まされています。大人になってから急に発音が崩れた、言葉が詰まるようになった、という場合に吃音以外の可能性があることは、吃音で声が出ない記事の末尾にまとめています。口や舌の動きに関わる病気と吃音の関係は別記事で扱う予定です。なお学会は、必ず起きるわけではないとしたうえで、ダウン症や早口言語症では、それらの障害がない人より吃音を生じる人が多いとも書いています。ダウン症と吃音については別記事を予定しています。

相談先は同じ——言語聴覚士とことばの教室、そして訓練は何が違うか

「構音障害か吃音か分からない」ときも、相談先は一つに絞れます。日本言語聴覚士協会の解説によれば、言語聴覚士は、聞こえやことばの障害、飲み込みの障害を対象に、専門知識と技術を用いて検査、訓練、指導・援助を行い、機能の獲得や改善、能力の回復・拡大を図って、障害のある人がよりよい生活を送れるよう支援する専門職です。発音の障害も吃音も、その守備範囲の中にあります。日本吃音・流暢性障害学会も、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談するようすすめています。両方が疑わしいときに、片方ずつ別の窓口を探す必要はありません。ただし、言語聴覚士の全員が吃音を扱えるわけではないため、探し方には注意点があります。それは吃音と言語聴覚士の記事にまとめました。

ただ、相談先が同じでも、訓練の向かう先は違います吃音の側の支援について、学会は、楽に話しやすくなるように周囲のコミュニケーション環境を整える方法(環境調整)や、直接発話に働きかける方法、吃音のことを理解する方法などを、年齢や状態に合わせて行うと説明しています。大人の場合は、本人が治療を希望するなら言語聴覚士による発話訓練を受けるという選択肢があり、発話訓練だけで症状が改善しない場合や不安が強い場合はカウンセリングや心理療法が役立つこともある、とされています。大学病院の解説は、吃音の治療は年齢に応じてさまざまで、確実な治療法はまだないと言われており、どの年齢にも共通して言えるのは、吃音が生じたとしても安心して話せる環境を作ることだ、と書いています。

この記事では、構音障害の側の評価や訓練の中身には踏み込みません。それは発音の専門的な評価に基づいて組み立てられるもので、吃音の情報を扱うこの記事が書き切れる範囲ではないからです。ここで言えるのは、両方がある子どもについて、研究の総説が「発音の課題が流暢さを乱したり、その逆が起きたりする状況を作らないように支援を組み立てるべきだ」と述べていること、つまり二つは同じ場所で、別々の目標として扱われる、というところまでです。

相談に持っていくとよいのは、次の3つです。音が別の音に置き換わっているのか、音は合っているのに出ないのか。場面や時期で出方が変わるか。「出ないかもしれない」と予感して避けたり言い換えたりしているか。いつ・どの場面で・どちらが起きたかを書き留めておくと、そのまま持っていけます。

「構音障害と吃音」で陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 −「もっと練習すれば治る」と、発音の練習だけを続ける

構音障害と20年生きてきた当事者が投げかけられてきた言葉の一つが、これでした。発音の問題と吃音は同じ子に併存することがありますが、どもりが起きる場所と誤って発音される音が結びつくという証拠は、研究では概ね得られていません。発音の練習は発音の目標に向かうもので、それで詰まりが消えるという根拠はありません。吃音の側には確実な治療法はまだないとされており、支援の中心は安心して話せる環境を作ることに置かれています。

落とし穴2 −「構音障害」を一つの意味で読む

子どもの発音の育ちの話と、脳や神経の病気で話す筋肉が弱くなる話が、同じ言葉で書かれています。医学辞典の「構音障害」の項に吃音が出てこないのは後者だからで、子どもの発音の話がそこに載っていないことは、関係がないという意味ではありません。どちらの意味で書かれた資料かを先に確かめると、読み違いが減ります。

落とし穴3 − 名前を自分で決めて、相談しない

中学2年でサ行の言いにくさに気づいた当事者は、相談すること自体が恥ずかしいと思って先生にも友達にも相談しなかった、と振り返っていました。しかし、クラタリングのように本人の自覚が少ない状態もあり、区別は印象ではなく測定で行われます。どの音が別の音になり、どの音が出るまでに間があき、それがどの場面で起きたかを短く記録しておくと、相談のときに具体的に伝えられます。まずは記録から小さく始めるのが現実的で、言語聴覚士やことばの教室に相談できる場合は、そちらが確実です。

よくある質問

構音障害と吃音は何が違いますか?

構音障害は音そのものを正しく作れない状態、吃音は音は作れているのに話の出だしや途中で流れが途切れる状態です。脳の研究の総説は、吃音を、話す筋肉の脱力や麻痺による構音障害とも、音の出し方そのものがうまくいかない発語失行とも区別し、出そうとした音そのものは正しく作れているのに流れが途切れる点が違うとしています。職能団体の整理でも、発音の障害と吃音はことばの障害の中の別の項目です。

「さ行が言えない」のは構音障害ですか、吃音ですか?

言葉だけでは決まりません。「さ」が「た」のような別の音に置き換わるなら発音の問題に近く、「さ」は合っているのに出るまでに間があく、繰り返す、伸びるなら吃音の中核症状に近いと考えられます。吃音には場面や時期で出方が変わる特徴があり、「出ないかもしれない」と先に不安になること(予期不安)や、話す場面を避けること(回避行動)を伴うこともあります。どちらも相談のときに伝える材料で、自己診断の基準ではありません。

構音障害と吃音が両方あることはありますか?

あります。日本吃音・流暢性障害学会は、吃音に比較的多い併存症の一つに構音障害を挙げています。研究の総説も、吃音のある子どもの多くに発音や音の体系の遅れが併存すると述べています。ただし、どもりが起きる場所と誤って発音される音が結びつくという証拠は概ね得られておらず、両方がある子どもでは、発音の課題が流暢さを乱したりその逆が起きたりしない形で支援を組み立てるべきだとされています。

発音の練習をすれば、吃音も良くなりますか?

そうは言えません。どもりが起きる場所と誤って発音される音は結びつかないとされ、発音の練習は発音の目標に向かうものです。吃音の治療は年齢に応じてさまざまで、確実な治療法はまだないと言われています。一方で、吃音が続くか治るかを分ける手がかりとして、発音の検査の得点が繰り返し報告されていることも確かで、持続した子どもは回復した子どもより音を正しく出す力の得点が低いというメタ分析の結果があります。関わりはあるが、練習で一方が他方を直すという話ではない、というのが研究の現在地です。

どこに相談すればいいですか?

言語聴覚士のいる医療機関か、ことばの教室です。言語聴覚士は聞こえ・ことば・飲み込みの障害を対象に検査・訓練・指導・援助を行う専門職で、発音の障害も吃音も扱います。学会は、小児を扱う言語聴覚士やことばの教室の教員に相談するようすすめています。大人になってから急に発音が崩れた・言葉が詰まるようになった場合は、脳や神経の病気による構音障害の可能性もあるため、まず医療機関で相談してください。

まとめ

  • 構音障害は「音そのものを正しく作れない」、吃音は「音は作れているのに流れが途切れる」。研究も職能団体も、二つを別の項目として区別している。
  • 見分けの手がかりは3つ。音が別の音に置き換わるか出てこないか、場面や時期で変わるか、予感して避けたり言い換えたりしているか。いずれも相談に持っていく材料であって、自己診断の基準ではない。
  • 両方あることは珍しくない。どもる場所と発音の誤りは結びつかないが、発音の検査の得点は吃音が続くかどうかの手がかりとして繰り返し報告されている。
  • 「構音障害」の一語は、子どもの発音の育ちと、脳や神経の病気で話す筋肉が弱くなる状態の両方に使われる。どちらの意味で書かれた資料かを先に確かめる。
  • 構音障害でも吃音でもない第3の可能性としてクラタリングがある。本人の自覚が少なく、区別は測定で行われる。相談先はどれも同じで、言語聴覚士とことばの教室。訓練の向かう先は別々に組み立てられる。

参考文献

  1. 一般社団法人 日本言語聴覚士協会「言語聴覚士に相談する」
  2. 日本吃音・流暢性障害学会 広報委員会「吃音(きつおん)について」(2023年10月1日)
  3. 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト KOMPAS「発話流暢性障害(吃音、クラタリング)」(2022年)
  4. Communication Health Support Association「Stuttering and Cluttering」
  5. Chang & Guenther (2020) Involvement of the Cortico-Basal Ganglia-Thalamocortical Loop in Developmental Stuttering. Front Psychol.
  6. Francés, Ruiz, Soler et al. (2023) Prevalence, comorbidities, and profiles of neurodevelopmental disorders according to the DSM-5-TR in children aged 6 years old in a European region. Frontiers in Psychiatry.
  7. Brundage & Ratner (2022) Linguistic aspects of stuttering: research updates on the language-fluency interface. Topics in Language Disorders.
  8. Singer, Hessling, Kelly, Singer & Jones (2020) Clinical Characteristics Associated With Stuttering Persistence: A Meta-Analysis. J Speech Lang Hear Res.
  9. Singer, Otieno, Chang & Jones (2022) Predicting Persistent Developmental Stuttering Using a Cumulative Risk Approach. J Speech Lang Hear Res.
  10. Walsh, Christ & Weber (2021) Exploring Relationships Among Risk Factors for Persistence in Early Childhood Stuttering. J Speech Lang Hear Res.
  11. Juste, Sassi, Costa & de Andrade (2018) Frequency of speech disruptions in Parkinson's Disease and developmental stuttering: A comparison among speech tasks. PLOS ONE.
  12. Tomisato, Mori, Asano, Yada, Wasano, Kono & Ozawa (2026) Social anxiety and life impact in adults who clutter and stutter: a comparative study with pure stuttering. Frontiers in Psychology.

当事者・保護者の声の出典: V0388(note・荒井健さんのエッセイ)/ V0145(NPO法人日本吃音協会「HAPPY FOX」・Yuuさんの体験談)/ V0168(アメーバブログ・長男の吃音を記録した母のブログ)/ V0253(note・吃音外来の受診を決めるまでを書いた当事者のブログ)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-05 公開