場面緘黙と吃音の併発|見分け方・場面で変わる出方・相談先

場面緘黙と吃音の併発|見分け方・場面で変わる出方・相談先
目次

「家では普通に話すのに、園や学校では声が出ない」「言葉が出てこないのは、場面緘黙なのか、それとも吃音なのか」——どちらも外からは同じように「言葉が出ていない」ように見えるので、いま起きているのがどちらなのか、あるいは両方なのか、判断に迷いますよね。

この記事は、結論を先に置いてから、見分けるときに見ているもの、併発が気づかれにくい理由、そして「専門家の前では2か月間まったく出なかった」という保護者の記録と、それに対して国の実態調査や症例報告が何を言えているのかを並べていきます。数字は図にまとめたので、細かい数値を追わなくても大づかみに分かるようにしました。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる様子があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室、児童精神科などにご相談ください。

まず結論から

  • 場面緘黙と吃音は別の状態です。吃音の評価では、鑑別すべき状態の一つとして場面緘黙が挙げられています。
  • それでも、同じ子どもに併発することはあります。場面緘黙を主訴として指導を受け、緘黙の改善後に吃音の問題が表面化した小学2年生の男児について、1年3か月の介入経過が報告されています。
  • 吃音は場面によって出やすさが変わります。歌うとき・2人で声を合わせるとき・独り言のときは一時的に流暢になる人が多く、8歳頃以降は独り言ではほぼ吃らなくなって状況依存性が強くなります。
  • 国の実態調査は、吃音症・トゥレット症・場面緘黙症を「顕在化しにくい発達障害」としてひとつの群でとらえ、これらは重症度や困難感が過小評価されやすい傾向にあったと述べています。解析からは、吃音のある人は特定の場面で困り感が増加することが分かったとされています。
  • 吃音のある人の社交不安については、言語聴覚士と心理職が協働して包括的な評価と支援の枠組みをつくる必要があると指摘されています。

ただし、ここに挙げたのは、家庭でどちらの状態かを確定するための基準ではありません。併発しているときは切り分けがさらに難しくなるため、最終的な見きわめは言語聴覚士や児童精神科などの専門機関にゆだねてください。

「言葉が出ない」に見えても、出ない理由が違う

まず、それぞれが何を指すのかを整理します。混乱の元は、外から見える様子がよく似ていることにあります。

吃音は、呼吸と発声・構音の器官に器質的な障害や可動の制限が原則としてないのに、中核症状(繰り返し、引き伸ばし、阻止・ブロック)が生じる発話の障害だとされています。ほとんどは幼小児期に発症する発達性吃音です。かみくだいて言えば、話そうという意思はあるのに、音がなめらかに出てこない状態です。

見分けの手がかりとして押さえておきたいのが、話そうとするときに出てしまう体の動きです。話すときに顔をしかめる(渋面)、手足を動かすといった動きのことで、専門的には随伴症状と呼ばれます。こうした動きは、吃音にかなり特異的だとされています。そして、吃音の評価では、言語発達の遅れ・異常、構音障害、発声障害、チック、場面緘黙、脳損傷などが鑑別すべき状態として挙げられます。つまり「場面緘黙かもしれない」という迷いは、専門家の側でも最初に通る道です。

一方の場面緘黙について、国の実態調査は次のことを明らかにしたとしています。症状が幼児期に限らないこと、そして家庭内や学校・職場以外の社会的状況においても困難度が高いこと、さらにメモパッドや身振り、ICT機器の活用など幅広い支援ニーズがあることです。

吃音の側で見ているものと、場面緘黙について国の実態調査が明らかにしたとしていることを、左右に並べた概念図。左(耳鼻咽喉科学会の総説)は、呼吸と発声・構音の器官に器質的な障害や可動制限が原則としてないのに中核症状(繰り返し、引き伸ばし、阻止・ブロック)が生じること、渋面や手足を動かすなどの随伴症状は吃音にかなり特異的とされること、鑑別すべき状態として言語発達遅滞・異常、構音障害、発声障害、チック、場面緘黙、脳損傷が挙がること。右(国の実態調査)は、症状が幼児期に限らないこと、家庭内や学校・職場以外の社会的状況においても困難度が高いこと、メモパッドや身振り、ICT機器の活用など幅広い支援ニーズがあること。この調査は吃音症・トゥレット症・場面緘黙症を「顕在化しにくい発達障害」としてひとつの群でとらえたもの。左右は別々の資料が別々に述べていることを並べたもので、家庭で確定するための基準にはならない
図1: 見分けるときに見ているもの。左は吃音の側の手がかり、右は場面緘黙について国の調査が明らかにしたこと。左右は別々の資料が別々に述べていることで、家庭で見分けを確定するための対応表ではありません。出典: 森浩一(2020)日本耳鼻咽喉科学会会報 123(9) / 厚生労働科学研究「吃音、トゥレット、場面緘黙の実態把握と支援のための調査研究」

もう一つ、併発を考えるうえで欠かせないのが「出方が一定ではない」という吃音の性質です。学会の解説は、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりすること、歌を歌うとき・2人で声を合わせるとき・独り言を言うときなどは一時的に流暢になる人が多いこと、そして調子の良い状態や悪い状態が数週間から数か月続く「波」があることを挙げています。年齢による変化もあり、8歳頃以降は独り言ではほぼ吃らなくなる一方で、状況依存性が強くなるとされています。

「場面によって話す/話さないが切り替わる」という特徴は場面緘黙の側にあるように見えますが、吃音の側にも「場面によって出る/出ない」があるということです。家庭での見分けが難しいのは、当然のことといえます。

併発は起こる。そして「気づかれにくい」

併発が実際に報告されているのかどうかは、はっきりしています。筑波大学などのグループは、場面緘黙の症状を主訴として指導を受け、場面緘黙の改善後に吃音の問題が表面化した小学校2年生の男児を対象に、1年3か月間の吃音症状軽減を目指した指導介入の経過を報告しています。これは一人の子どもについての実践報告なので、すべての併発例が同じ経過をたどるわけではありません。

ただ、併発をめぐる本当の難しさは「起こるかどうか」ではなく、気づかれるかどうかのほうにあります。国の実態調査は、吃音症・トゥレット症・場面緘黙症を「顕在化しにくい発達障害」としてひとつの発達障害群にまとめ、幼児期から成人期までを通して調べました。そして、これらはこれまで症状が顕在化しにくく実態が把握されておらず、重症度や困難感が過小評価されやすい傾向にあった、と行政効果報告に明記しています。

同じ調査の乳幼児健診の部分は、見え方そのものが評定者によって変わることを示しています。この部分の調査対象は、弘前市の乳幼児健診(5歳児健診は1088名)です。そして5歳において、あるスクリーニング尺度を用いた推定有病率は、吃音では保護者評定0.7%・教師評定1.2%、チックでは保護者評定5.4%・教師評定6.8%だったとされています。

調査対象は弘前市の乳幼児健診(5歳児健診は1088名)。その5歳の時点でCLASPを用いて推定した有病率を並べた横棒グラフ。吃音は保護者評定0.7%・教師評定1.2%、チックは保護者評定5.4%・教師評定6.8%。同じ集団でも、保護者の評定と教師の評定で推定有病率は違う値になった。差の理由は原典に書かれていない
図2: 同じ5歳児集団でも、保護者が評定するか教師が評定するかで推定有病率は違う値になった。原典はこの差の理由を述べていません。吃音とチックの多い少ないを比べる図ではありません。出典: 厚生労働科学研究「吃音、トゥレット、場面緘黙の実態把握と支援のための調査研究」

この調査の結論は、既存のスクリーニングツールでは早期発見の難しさが示唆された一方で、5歳児の時点では特定の尺度による早期スクリーニングが可能であることが明らかになった、というものです。さらに、各年代により症状および生活困難度の程度が異なることが明らかになり、障害の症状だけでなく、年齢や性別、社会的状況などを考慮した治療あるいは支援の必要性が示唆された、と述べています。

「気づかれていない」ことの大きさは、海外の調査からもうかがえます。スペイン・メノルカ島の6歳児全体を代表する289人を、小児のプライマリケアを通じて集めて直接評価した研究では、21.5%が神経発達症にあてはまり、コミュニケーション症は9.54%(言語症5.8%、音韻症3.4%、吃音0.34%)でした。そして、この対象集団のうち相当の割合(88.6%)が、それ以前に診断されていなかったと報告されています。同じ研究は、吃音を、音韻症や言語症とともにコミュニケーション症に含まれるものとして扱っています。

専門家の前では、2か月間まったく出なかった

併発を相談しようと専門機関にたどり着いても、その部屋で症状が出るとはかぎりません。そして出ないと、支援の話が前に進まないことがあります。

吃音と場面緘黙のある娘さんについて、通院の経過を連載で書いている保護者の記録があります。三本目にあたる回で、母親は病院内の「ことばの教室」を辞めるまでを書いています。

保護者(母)の記録(吃音と場面緘黙のある年長の娘。個人ブログ note の連載3本目)

そもそもの話。全く雑談もなく、ひたすらカードで名前を言わせたりする活動の中で、娘が発するのは全て「単語」。しかもうちの子はしっかり言わなきゃと緊張している時ほど吃音は出ず、リラックスして何も意識していない時の方が吃音が出るタイプです。こんな空間でリラックスできるわけがないし、吃音がここで出ないのはどうしてなのか、どんな活動が効果的なのかを考えるのがそっちの仕事でしょ!!と言うのが私の意見です。娘のことも私のことも全然理解してもらってない、その上弟のことも悪く言う、どんなに技術があるとしても、もうこの人を信頼して通うことは無理だと思いました。

保険の使える病院内の「ことばの教室」を探すところから、この記録は始まります。最初に電話した病院は1年半待ち、そこから紹介された先は3か月待ちと言われたものの、約1か月で枠が空き、予想より早く通い始めました。訓練はカードで動物の名前を言わせ、絵を見ながらクイズに答えるという形で、娘さんが口にするのは単語ばかりだったといいます。そして通った2か月のあいだ、その部屋で娘さんの吃音は一度も出ていません。担当者から返ってきたのは、この教室内で出してくれない限り支援のしようがない、という趣旨の言葉でした。書き手自身も、これはあくまで自分の娘と自分に相性が悪かったというだけで、この言語聴覚士に救われている人もきっと多くいるはずだ、と書き添えています。場面によって、また発話の長さによって、言葉がなめらかに出ない部分の出方が変わることは、併発の症例報告でも観察されています。

出典: 娘と吃音の話③〜ことばの教室〜(病院内)(note)(台帳: V0106)

その症例報告を見てみます。場面緘黙の改善後に吃音が表面化した男児に、1年3か月にわたって吃音症状の軽減を目指した指導介入を行った報告では、セラピストとのセラピー場面では、重症度評定も、言葉がなめらかに出ない部分の頻度も、明らかな低下はみられなかった一方、母親との遊び場面での重症度評定は低下したとされています。同じ報告は、3文節以上の発話では1〜2文節の発話と比較して、なめらかに出ない部分が高い頻度で生じたこと、さらに語尾や句末の繰り返しは3文節以上の発話にのみ生じたことも述べています。

誰と、どの場面で、どれくらいの長さの発話をしているか——それによって、同じ子どもでも見える姿は変わるということです。報告自身も、今後は言語的側面を精査するとともに、母親との場面と同等の流暢性を維持できるようセラピー場面設定の調整が必要であることが示唆された、と結んでいます。症状が出ないことを子どもの側の問題として扱うのではなく、場面の設定のほうを調整するという向きです。

場面緘黙の改善後に吃音が表面化した小学校2年生の男児1名について、1年3か月の介入経過報告が述べた2つの違いを左右に並べた概念図。左は場面による違いで、セラピストとのセラピー場面(Lidcombe Program)では重症度評定・非流暢性頻度とも明らかな低下はみられなかった一方、母親との遊び場面では重症度評定は低下した。右は発話の長さによる違いで、3文節以上の発話では1〜2文節の発話と比較して高頻度に非流暢性が生起し、語尾や句末の繰り返しは3文節以上の発話にのみ生起した。一人の子どもについての実践報告で、抄録に数値の記載がないため報告された向きだけを示している
図3: 同じ子どもでも、場面と発話の長さで出方が変わった(1例の実践報告。数値は原典の抄録に記載がないため、報告された向きだけを示している)。出典: 宮本昌子ほか(2021)障害科学研究 45(1)

国の実態調査も、同じ方向を向いています。吃音症については180名分のデータを収集し、解析の結果、吃音のある人は特定の場面で困り感が増加することが分かったとされています。そして困難度を検出する問診票が、幼児7項目・学童期5項目・青年期以降4項目とライフステージごとに作成され、信頼性および妥当性が検証されました。相談の場に「どの場面で困ったか」を具体的に持っていけると、話が進めやすくなります。

支援はどんな順序で進み、どこに相談できるのか

どちらを先に支援するのか

「場面緘黙と吃音、どちらを先にケアすればいいの?」という疑問は自然なものです。ただ、決まった正解が一つあるわけではなく、子どもの状態を見て専門家が判断することになります。

参考になるのが、先ほどの実践報告です。この子どもでは、まず主訴であった場面緘黙の症状に対して指導が行われ、場面緘黙の改善後に、吃音症状の軽減を目指した指導介入が1年3か月にわたって続けられました。順番があらかじめ決まっていたというより、状態の変化に合わせて焦点が移っていった経過です。

国の実態調査も、各年代により症状および生活困難度の程度が異なることを明らかにしたうえで、障害の症状だけでなく、年齢や性別、社会的状況などを考慮した治療あるいは支援の必要性を示唆しています。場面緘黙については、メモパッドや身振り、ICT機器の活用など幅広い支援ニーズが明らかにされ、支援機関で対応するための支援マニュアルが作成されました。声を出すこと以外の伝え方を用意することも、支援の一部として位置づけられているということです。

大人になっても続くとき

場面緘黙も吃音も、子どもだけのものではありません。国の実態調査は、場面緘黙について、症状が幼児期に限らないこと、家庭内や学校・職場以外の社会的状況においても困難度が高いことを明らかにしたとしています。

吃音の側では、学齢後期以降に吃音を隠そうとして多彩な、しばしば不適切な対処行動を発達させ、思春期以降は社交不安障害やうつ等の精神科的問題も併発しやすいとされています。同じ総説は、言語訓練は単独では長期的な有効率が低く、心理面・社会面のサポートも必要だと述べています。

社交不安障害は、社会的な場面や人前で何かをする場面で、恥をかくこと・当惑すること・否定的に評価されることへの強い恐れを特徴とする、慢性的で頻度の高い不安障害です。吃音のある成人200名と、年齢と性比をそろえた吃音のない成人200名を比較した研究では、調べた時点で社交不安障害にあてはまる人の割合(時点有病率)は少なくとも40%と推定され、全般性の社交不安障害を持つリスクが高いことが示されました。日本の学会の解説も、自助団体に参加していたり治療を求めたりする吃音のある成人の約20%から半数近くに社交不安症を合併していると報告されている、としています。

吃音のある成人における社交不安障害の推定値を2つ並べた横棒の図。上は、年齢と性比をそろえた吃音のない成人200名と比較した横断研究で、吃音のある成人200名の社交不安障害の時点有病率は少なくとも40%と推定された。原典は上限を示していないため、棒の右端は破線の矢印で示している。下は、自助団体に参加していたり治療を求めたりする吃音のある成人について、日本の学会の解説が約20%〜半数近くに社交不安症を合併していると報告されているとしている値で、レンジの帯として示している。上と下は集団も調べ方も違うため、棒の長さで大小を比べることはできない。子どもと思春期での割合は今後の重要な研究課題とされている
図4: 吃音のある成人と社交不安障害。2つは集団も調べ方も違うので、大小を比べる図ではありません。子ども・思春期での割合は今後の重要な研究課題とされています。出典: Blumgart et al. (2010) Depression and anxiety / 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」

ここで注意しておきたいのは、この数字を子どもにそのまま当てはめられないことです。総説は、吃音のある子どもと思春期の人における社交不安障害の有病率を明らかにすることが、今後の重要な研究の方向だと述べています。まだ分かっていない、というのが現在地です。

もう一つ、併発の見えにくさが診断の枠組みの側にもあることを指摘した研究があります。先ほどの横断研究は、当時の診断ガイドラインが「社交不安の症状は吃音の結果だろう」と想定してしまうため、吃音のある成人を社交不安障害と分類しにくくなっており、それが専門家の混乱や、精神保健の面での悪影響につながりうると論じています。「片方で説明がついてしまう」ことは、もう片方を見えなくします。

相談先と、受診を考える目安

併発が疑われるときは、「話し言葉(吃音)」と「不安・緘黙」の両方を見てもらえる体制が理想です。目安として、次のような相談先があります。

  • 言語聴覚士のいる医療機関・ことばの教室:吃音の評価と、話し方に関する支援の中心になります。
  • 児童精神科・小児科:場面緘黙や不安の側面、併発の全体像を見てもらう窓口になります。
  • 公認心理師などの心理職:吃音のある人の社交不安については、言語聴覚士と心理職が協働して包括的な評価と支援の枠組みをつくる必要があるとされています。
  • 園・学校(担任・特別支援・スクールカウンセラー):日中の様子をいちばん見ている場所です。図2で見たとおり、同じ集団でも保護者評定と教師評定では推定される割合が違いました。

幼児期の吃音について、日本語の総説は次のような進め方を示しています。まず楽に話せる環境を整えながら経過を追い、発話に苦悶・努力や悪化の傾向があるか、就学1年前頃になっても改善の傾向がない場合に言語治療を開始する、というものです。幼児期の言語訓練は有効率が比較的高いとも述べられています。

就学・就労の場面では、診断書によって差別解消法に基づく合理的配慮を求めることができ、発達性吃音であれば発達障害者支援法に基づいて精神障害者保健福祉手帳の取得が可能だとされています。

併発の見立てで陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 「その場で出なかった」を「困っていない」と受け取る

吃音は状況によって出やすさが変わり、独り言や、2人で声を合わせるときには一時的に流暢になる人が多いとされています。実践報告でも、セラピー場面では重症度評定の明らかな低下がみられなかった一方、母親との遊び場面では低下しました。国の調査が「重症度や困難感が過小評価されやすい傾向にあった」と書いているのは、まさにこの型の取りこぼしのことです。

落とし穴2 − 「無口な子」「人見知り」で片づけてしまう

特定の場面で話さないことを性格の問題として片づけると、場面緘黙も、その陰にある吃音も見過ごされます。6歳児人口を代表する289人を直接評価した研究では、対象集団のうち相当の割合(88.6%)がそれ以前に診断されていませんでした。国の調査も、既存のスクリーニングツールでは早期発見が難しいことが示唆されたとしています。

落とし穴3 − 家庭だけで見分けようとする

吃音の評価では、言語発達の遅れ・異常、構音障害、発声障害、チック、場面緘黙、脳損傷などが鑑別すべき状態として挙げられています。併発しているときは、その切り分けはさらに難しくなります。家庭での見分けには限界があります。

そのかわり、家庭にしかできないことがあります。どの場面で話せて、どの場面で話しづらかったかを書き留めておくことです。国の調査も、吃音のある人は特定の場面で困り感が増加することを解析で示しています。発話の記録を続ける手段の一つとして、記録アプリ「toVoice」のように毎日の様子を残して経過を見返せる仕組みを使う方法もあります(記録と継続の支援が目的で、症状を治すものではありません)。相談の場に持っていける具体的な記録があると、専門家が状態を把握しやすくなります。

よくある質問

場面緘黙と吃音は同時に起こることがありますか?

はい、併発することがあります。場面緘黙を主訴として指導を受け、場面緘黙の改善後に吃音の問題が表面化した小学2年生の男児について、1年3か月の介入経過が報告されています。ただしこれは一人の子どもについての実践報告であり、すべての併発例が同じ経過をたどるわけではありません。

場面緘黙と吃音はどう見分ければいいですか?

吃音の側の手がかりは、中核症状(繰り返し・引き伸ばし・阻止/ブロック)と、顔をしかめる・手足を動かすなど、話そうとするときに出てしまう体の動き(随伴症状と呼ばれます)です。この体の動きは吃音にかなり特異的だとされています。ただし吃音の評価では場面緘黙が鑑別すべき状態の一つに挙げられています。併発していると切り分けはさらに難しくなるため、家庭での見分けには限界があります。

専門家の前では症状が出ません。それでも相談していいですか?

相談して構いません。吃音は状況によって出やすさが変わり、独り言や2人で声を合わせるときなどは一時的に流暢になる人が多いとされています。実践報告でも、セラピー場面と母親との遊び場面で重症度評定の動きは違いました。国の調査も、これらの状態は重症度や困難感が過小評価されやすい傾向にあったと述べています。

どちらを先に支援すればいいですか?

決まった正解が一つあるわけではなく、子どもの状態を見て専門家が判断します。ある実践報告では、まず主訴であった場面緘黙の症状に指導が行われ、その改善後に吃音の軽減を目指した介入が続けられました。国の調査は、年齢や性別、社会的状況などを考慮した支援の必要性を示唆しています。

大人になっても併発は続きますか?

続くことがあります。国の調査は、場面緘黙について症状が幼児期に限らず、家庭内や学校・職場以外の社会的状況でも困難度が高いことを明らかにしたとしています。吃音のある成人では、調べた時点で社交不安障害にあてはまる人の割合が少なくとも40%と推定された研究があり、言語聴覚士と心理職の協働が必要だとされています。

まとめ

  • 場面緘黙は、吃音の評価で鑑別すべき状態の一つに挙げられている。別の状態だが、同じ子どもに併発することがあり、緘黙の改善後に吃音が表面化した症例も報告されている。
  • 吃音は場面によって出やすさが変わる。独り言や、2人で声を合わせるときには流暢になる人が多く、8歳頃以降は状況依存性が強くなる。
  • だから「その場で出なかった」ことは判断材料として弱い。1例の報告でも、セラピー場面と母親との遊び場面、1〜2文節と3文節以上とで、出方が違った。
  • 国の実態調査は、これらを「顕在化しにくい発達障害」としてまとめ、重症度や困難感が過小評価されやすい傾向にあったと明記している。吃音のある人は特定の場面で困り感が増加することも分かっている。
  • 相談先は、吃音は言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室、場面緘黙や不安の側面は児童精神科・小児科や心理職。社交不安については両者の協働が必要とされている。就学1年前頃になっても改善の傾向がない場合が、言語治療を始める一つの目安とされる。

参考文献

  1. 厚生労働科学研究「吃音、トゥレット、場面緘黙の実態把握と支援のための調査研究」(令和2年度・研究代表者 中村和彦/厚生労働科学研究成果データベース)
  2. 宮本昌子ほか(2021)「吃音を伴う場面緘黙児童への介入経過 — Lidcombe Program を適用した効果の検討」障害科学研究 45(1)(J-STAGE)
  3. 森浩一(2020)「吃音(どもり)の評価と対応」日本耳鼻咽喉科学会会報 123(9)(J-STAGE)
  4. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」
  5. Francés et al. (2023) Prevalence, comorbidities, and profiles of neurodevelopmental disorders according to the DSM-5-TR in children aged 6 years old in a European region. Front Psychiatry.
  6. Iverach & Rapee (2014) Social anxiety disorder and stuttering: current status and future directions. Journal of fluency disorders.
  7. Blumgart et al. (2010) Social anxiety disorder in adults who stutter. Depression and anxiety.

当事者家族の声の出典: V0106(note・「じぇ@ことばの教育」さんの連載「娘と吃音の話③〜ことばの教室〜(病院内)」)。公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-07-22 公開/2026-08-26 結論を冒頭にまとめ、専門機関では症状が出なかったという保護者の記録を軸にした構成へ全面改稿。国の実態調査と、症例報告の場面ごとの結果を出典に加え、成人の社交不安の推定値と受診の目安を整理。図を4枚追加