まず結論 — ディスレクシアと吃音は「困る場所」が違う
ディスレクシアと吃音は、名前が並んで語られることが多いものの、困難が生じる場所が異なる別の状態です。かんたんに言うと、吃音は「話すときの流暢さ」の困難、ディスレクシアは「文字を読み書きするとき」の困難です。
吃音(きつおん、どもり)は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害です。一方でディスレクシア(発達性読み書き障害)は、読みの困難を伴う学習障害として位置づけられます。話す場面でつまずくのか、読み書きの場面でつまずくのか——この「場所の違い」が、両者を見分けるいちばんの手がかりになります。ただし、後述するように同じ子に両方が併存することもあるため、片方が目立つときこそ、もう片方も見ておくと安心です。
吃音とは — 話し言葉の流暢性の障害
吃音は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害で、特徴的な中核症状には次の3つがあります。
- 連発(れんぱつ):音を繰り返す。例「か、か、からす」
- 伸発(しんぱつ):音を引き伸ばす。例「かーーらす」
- 難発(なんぱつ):言葉が出せずに間があいてしまう(ブロック)。例「・・・・からす」
吃音は、低年齢から発症する発達性吃音(小児期発症流暢症)と、脳の損傷や心理的要因などによる獲得性吃音に分けられ、その9割以上は発達性吃音です。近年の調査では、幼児期の発症率は約8〜11%程度で、学童期以降から成人までの時点有症率は1%より少ない0.8%が妥当とされています。つまり、幼児期に始まる子は少なくない一方、大人まで続く人はぐっと減る、という経過が知られています。
ディスレクシアとは — 読み書きの困難(学習障害の一つ)
ディスレクシア(発達性読み書き障害)は、文字を読む・書くことに困難が生じる状態で、DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル最新版)では「限局性学習症(学習障害)」の中の、読みの困難を伴うタイプとして扱われます。知的な遅れや、やる気の問題として説明されるものではありません。
頻度の目安として、スペイン・メノルカ島の6歳児を対象にした調査では、読みの困難を伴う学習障害が10%、書字の困難を伴う学習障害が5.8%にみられたと報告されています(数値はこの調査集団での割合です)。同じ調査で、吃音を含むコミュニケーション症は9.54%、そのうち吃音は0.34%でした。読み書きの困難と吃音は、どちらも幼児〜学童期に見えてくる発達の困りごとですが、頻度も現れ方も別のものだとわかります。
DSM-5-TRでの位置づけ — どちらも「神経発達症」だが別カテゴリー
両者の関係を整理するとき、最新の診断基準であるDSM-5-TRの分類が助けになります。吃音もディスレクシアも、大きくは「神経発達症(発達障害)」というグループに含まれます。生まれつきの脳や体質の特性に根ざし、発達の過程で見えてくる、という共通点があるためです。
ただし、同じグループの中でも属するカテゴリーは異なります。吃音は「コミュニケーション症」の中の小児期発症流暢症、ディスレクシアは「限局性学習症(学習障害)」の中の読みの困難、という別々の区分にあたります。「同じ大きな家の、別の部屋にいる」とイメージすると分かりやすいかもしれません。だからこそ、まとめて「発達障害」と呼ばれても、必要な支援の中身は別々に考える必要があります。
併存することはある? — 学会資料と疫学データから
結論から言うと、ディスレクシアと吃音が同じ子に併存することはあり得ます。日本吃音・流暢性障害学会の資料は、吃音の併存症として比較的多いものに、限局性学習症/学習障害(LD)、ADHD、ASD、知的発達症、てんかん、構音障害などを挙げています。ディスレクシアはこの「限局性学習症(学習障害)」の一つなので、吃音と読み書きの困難が重なるケースは想定されている、ということです。
吃音が単独ではなく他の状態を併せもつことがある点は、実データからも裏づけられています。電子カルテの1,143例の吃音症例を分析した研究では、吃音に難聴・睡眠障害・神経学的な所見など、さまざまな併存状態が確認されています。また6歳児を対象にした調査でも、神経発達症のある子は一人で複数の困りごとを併せもつことが多いと報告されており、吃音と読み書きの困難が重なる可能性も、この「重なりやすさ」の一例として理解できます。
とはいえ、これは「吃音があると必ずディスレクシアになる」という意味ではありません。多くはどちらか一方で、併存はあくまで一定の割合で起こり得るもの、という受け止め方が実際的です。片方が目立っているときに、もう片方が隠れていないかを気にかけておく——それが併存を見逃さないコツです。
「読めない」と「どもる」の見分け方の目安
読者からいちばん多いのが、「読めない」のと「話すときにつっかえる」のをどう区別すればいいか、という疑問です。決めつけずに、あくまで受診・相談の前の目安として、次の観点で整理してみてください。
- 読み書きの場面で困る(音読で一字一字たどる・読み飛ばす・読み間違いが多い・書くのを極端にいやがる)→ 読みの困難(ディスレクシア)の方向で相談を検討
- 話す場面で流暢性が乱れる(会話の最初の音を繰り返す・引き伸ばす・詰まる=連発・伸発・難発)→ 吃音の方向で相談を検討
- 両方みられる→ 併存の可能性もあるので、どちらか一方に決めつけず、専門機関でまとめて評価してもらう
大切なのは、どちらも本人がわざとやっているわけでも、努力不足でもないという前提です。吃音については、生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かっています。「もっと頑張れば」と迫るより、困っている場面を具体的に把握することが、次の相談につながります。
何科・誰に相談する? — 受診の目安と相談先
吃音と読み書きの困難では、まず頼るとよい相手が少し異なります。窓口を知っておくと、動き出しやすくなります。
吃音の相談先
吃音は、小児を扱う言語聴覚士(ST)や、ことばの教室の教員に相談するのが基本です。専門家からは、年齢や状態に合わせて、話しやすい環境を整える方法(環境調整)などの指導が受けられます。医療機関にかかる場合は、一般に耳鼻咽喉科・小児科などを通じて言語聴覚士につながることもあります。
読み書きの困難(ディスレクシア)の相談先
読み書きの困難は、まず学校(通級指導教室・ことばの教室・特別支援の担当)や、発達を診る小児科・児童精神科などが相談の窓口になります。就学前・就学後で使える支援が変わるため、園や学校とも情報を共有しておくとスムーズです。
受診・相談の目安
「気になるけれど様子見でいいのか」と迷ったら、様子見だけにせず一度相談してみるのが安心です。前述の6歳児調査では、対象の多く(88.6%)がそれまで診断を受けていなかったと報告され、早期に気づくための取り組みが推奨されています。併存が疑われるときは、吃音とディスレクシアを別々に回るより、発達を総合的にみてくれる機関でまとめて相談すると整理しやすくなります。
見分けようとするときに陥りがちな3つの落とし穴
落とし穴1 − 「読めない=頭が悪い」「どもる=緊張しい」と決めつける
どちらも生まれつきの脳や体質の特性に根ざした発達の困難で、性格や知能、努力不足の問題ではありません。吃音についても、体質的な要因が原因の多くを占めることが分かっています。ラベルではなく「どんな場面で困るか」を見てあげてください。
落とし穴2 − 目立つ片方だけを見て、もう片方を見落とす
吃音と読み書きの困難は併存し得ます。神経発達症は一人で複数を併せもつことも多いため、話し方が目立つときに読み書きの困りが、あるいはその逆が、見えにくくなることがあります。片方が気になったら、もう片方も一度チェックしておくと安心です。
落とし穴3 − 情報を一人で抱え込む
ネットの断片情報だけで自己判断せず、学校や専門機関にあたるのが近道です。相談のときは「いつ・どんな場面で・どんなふうに困ったか」を具体的に伝えられると、評価がスムーズになります。日々の様子を記録に残しておくと、この共有がぐっと楽になります。
記録は、話しやすさ・読みやすさの「波」や、困りやすい場面を可視化する助けになります。まずは日々の様子を書き留めることから小さく始め、言語聴覚士など専門機関に相談できる場合はそちらが確実です。アプリ「toVoice」は、こうした毎日の発話の記録と経過の見える化を支えるための道具で、治療そのものを行うものではありません。
よくある質問
ディスレクシアと吃音は違うものですか?
はい、別の状態です。吃音は話し言葉が滑らかに出ない発話障害で、ディスレクシアは読みの困難を伴う学習障害として位置づけられます。困難が生じる場所(話す/読み書き)が異なります。
ディスレクシアと吃音は併存しますか?
併存することはあります。学会資料では吃音の併存症として限局性学習症/学習障害(LD)が挙げられており、6歳児を対象にした調査でも神経発達症は一人で複数を併せもつことが多いと報告されています。ただし多くはどちらか一方で、必ず併存するわけではありません。
吃音があると読み書きも苦手になりますか?
必ずそうなるわけではありません。吃音の多くは読み書きそのものの困難とは別ですが、学習障害(LD)を併せもつ子もいるとされています。気になるときは専門機関で読み書きも合わせて評価してもらうと安心です。
何科・誰に相談すればいいですか?
吃音は小児を扱う言語聴覚士やことばの教室が相談先です。読み書きの困難は、学校の特別支援や発達を診る医療機関が窓口になります。併存が疑われるときは、発達を総合的にみてくれる機関でまとめて相談すると整理しやすくなります。
どちらも本人の努力不足や親の育て方のせいですか?
いいえ。吃音は生まれ持った体質的な要因が原因の多くを占めることが分かっており、わざとでも育て方のせいでもありません。ディスレクシアも生まれつきの特性に根ざす発達の困難で、努力不足として扱うべきものではありません。
まとめ
- 吃音は「話し言葉の流暢性」の障害(連発・伸発・難発)、ディスレクシアは「読み書き」の困難=学習障害の一つで、困る場所が違います。
- DSM-5-TRではどちらも神経発達症に含まれますが、吃音はコミュニケーション症、ディスレクシアは限局性学習症と別カテゴリーです。
- 併存はあり得ます(吃音の併存症に学習障害が挙げられる)が、多くはどちらか一方です。
- 見分けの目安は「読む場面で困るか、話す流暢性が乱れるか」。両方みられるなら専門機関でまとめて評価を。
- 相談先は、吃音が言語聴覚士・ことばの教室、読み書きが学校の特別支援・発達を診る医療機関。迷ったら様子見だけにせず相談を。
