原由紀さんと吃音|北里大学の言語聴覚士が書いた学齢期の解説

目次

本や資料の片隅で「原由紀」という名前を見かけて、この人と吃音はどういう関わりなのだろう、と確かめに来た方が多いと思います。名前だけが残って、その人が何を書き、何を調べてきたのかまではなかなか出てきません。

この記事では、公開されている資料に名前が残っている範囲だけを確かめます。日本吃音・流暢性障害学会が出している吃音の解説のうち、「幼児期・学齢期の吃音のある子ども」の節は、北里大学医療衛生学部の原由紀さんが文責を担っています。日本の3歳児健診で行われた疫学の研究にも、北里大学の共同研究者として名前があります。そのうえで、その解説と研究が一般の人に何を教えているのか——学齢期の子どもにとって何がつらさを大きくし、何がそれをやわらげるのかを、ミシガン州立大学の研究チームの報告もあわせて読んでいきます。

ソンタクマン(toVoice 運営)
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる症状があるときは、言語聴覚士(ことばや聞こえの障害を専門にする国家資格の専門職)やことばの教室にご相談ください。

まず結論から

  • 日本吃音・流暢性障害学会が公開している吃音の解説は節ごとに文責が分かれていて、「幼児期・学齢期の吃音のある子ども」の節の文責が、北里大学医療衛生学部の原由紀さんです。
  • 日本の5県15か所の3歳児健診で行われた疫学の研究にも、北里大学の共同研究者として名前があります。研究の設計、倫理審査の承認を得ること、健診会場での調査データの収集を担当した4人のうちの1人として記載されています。
  • その解説の節がはっきり書いているのは、学齢期の吃音は、先生の対応や周囲の友達関係に大きく影響されるということです。話し方をからかわれたり、発表や音読でうまく話せない経験が重なると、自分自身を否定的にとらえる受けとめ方が生まれ、症状が進むことがあるとされています。
  • 同じ節は、「吃音に気がつかせない方がよい」という昔の対応は、今は否定されているとも明記しています。すすめられているのは、親子で吃音の話ができる関係をつくることです。
  • 5〜18歳の吃音のある子ども148人を調べた海外の研究では、折れない力(レジリエンス。逆境の中でも持ちこたえる力のこと)が高い子ほど、吃音によるつらさが小さいという関係が報告されています。

ただし、最後の研究は同じ時点で測った2つの値の関係を見たもので、どちらが原因かを確かめたものではありません。原典自身も、ある一時点を切り取った限られた眺めにすぎないと断っています。「折れない力さえあれば大丈夫」とも「弱いからつらいのだ」とも読めない数字です。

周りの受けとめが、その子の話しやすさを変える

吃音のある子の親が最初にぶつかるのは、「どう声をかければいいのか」という問いです。よかれと思ってしたことが裏目に出るのではないか、という怖さがついてまわります。新聞の子育て相談欄に、小学4年の孫の話し方を心配する72歳の女性の相談が載り、そこに読者の保護者たちが答えを寄せたことがありました。

吃音のある長男を育てた母(愛知県・41歳/中日新聞の子育て相談欄。引用は取材した記者による紹介文)

「周囲の人たちが、吃音を受け入れることが大切」と言うのは、愛知県の女性(41)。長男は幼稚園のころから吃音があり、指導を受けた言語聴覚士から「言葉がなかなか出てこないとつらそうに感じるが、本人にとっては普通のことで、スムーズに話すように努める方が疲れる」と教わった。「家族がつらそうに見ていると、その感じ方に当人が反応してしまう」と案じる。

幼稚園のころから吃音のある長男を育ててきた母親が、専門職から受け取った言葉をそのまま紹介しています。つらそうに見えるのは、見ている側の感じ方かもしれない——そして、その感じ方に子どもが反応してしまう。心配が伝わることで子どもが身構える、という順序がここでは語られています。この相談記事で解説役をつとめているのが、原由紀さんです。記事には、日本吃音・流暢性障害学会の理事で北里大准教授と紹介されています。同じ学会の公式の解説でも、幼児期・学齢期の節は原さんの文責で書かれています。

出典: 「吃音が心配な小4の孫、どうすれば…」の悩み 当事者と親、専門家のアドバイスを紹介します(東京すくすく・中日新聞)(台帳: V0161)

その節が保護者に向けて書いていることは、この母親の言葉とよく重なります。急に吃音が出始めると保護者は驚くかもしれないが、心配そうな表情をせずに、子どもが楽しくおしゃべりを続けられるように、話の内容に耳を傾けて聞いてほしい、というのが最初に置かれた一文です。

そのうえで、はっきりと否定されている古い対応があります。昔は「吃音に気がつかせない方がよい」という対応が主流でしたが、今はその考え方は否定されている、と書かれています。代わりにすすめられているのは、親子で吃音について話ができる関係をつくること、そして「どもってもよいから、たくさんおしゃべりしてね」というメッセージを伝えることです。恥ずかしいと思って吃音を出さないように力を入れてもがくと悪化するので、その悪化を防ぐことが大切だ、という理由もあわせて書かれています。

もし子どもが「しゃべりにくい」「どうして、ぼくは『あああ』ってなるの?」と訴えてきたら、それは吃音の話をするチャンスだ、ともされています。気持ちに寄り添い、話してくれたことが嬉しいと伝える。避けるのではなく、話題にしてよいものとして扱う、という向きです。

学年が上がるほど、しんどさが増していくことがある

幼児期は、症状がよくなったり悪くなったりを繰り返し、まったく出ない時期があることもあります。ところが学齢になる頃には、波はあっても、幼児期のように吃音がまったく出ない時期を経験することは少なくなるとされています。そして、話す場面のほうは年々増えていきます。

当事者本人の手記(研究職。幼いころから吃音があり、年齢とともに言葉が出にくくなったと書いている/NPO法人日本吃音協会のメディア)

その後、高校、大学、大学院と進むにつれ、適切に話すことが必須の環境になりました。

それでも、話すことがまったく上達しないどころか、うまく話せないことへのプレッシャーは大きくなるばかりでした。

研究者の末席を汚すようになっても、毎回汗びっしょりでプレゼンテーションをこなし、焦るほど言葉はもつれ、壇上から質問者の苦笑いを何度も見て、最後は時間切れのベルに救われてきました。

進学するたびに、話すことが選べるものから必須のものへ変わっていった経過が書かれています。同じ手記には、思春期を迎えたころに「オマエ、なんでそんなしゃべり方なの?」と面と向かって言われたこと、その時点では言葉の課題がどれくらいあったのかはっきり覚えていないことも記されています。周囲が他人と自分の違いに意識的になる時期と、話す場面が増えていく時期が重なっていく——学齢期の解説が「先生の対応や周囲の友達関係に大きく影響される」と書いているのは、この重なりのことです。

出典: 大人になり悪化した吃音「先生、私はこのままなんですか?」(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会)(台帳: V0093)

解説の節は、この道筋をもう少し細かく書いています。吃音をからかわれたり、発表や音読で思ったように滑らかに話せない経験をすることで、吃音を否定的にとらえ、自分自身もマイナスに捉えるような認識が起こってくると、ことばが出ずに間があく症状(難発)が強くなったり、言いにくい語を別の語に言い換える工夫をしたりするなど、症状が進んでいくことにつながる場合がある、というものです。つらさの入口は、詰まりの回数そのものではなく、そこに付いてくる受けとめ方のほうだということです。

年齢とともに負担が増すという傾向は、数字の側からも報告されています。5〜18歳の吃音のある子ども148人に、吃音が生活にどれだけ影響しているかを本人が答える尺度を書いてもらった研究では、年齢が高い子ほど、吃音による影響が大きいという関係が、3つの統計モデルすべてで確かめられました。平均の値を年齢層ごとに見ると、7〜12歳向けの版では2.17、13〜18歳向けの版では2.42で、後者はこの尺度でいう「中くらいの影響」の区分に入ります。

吃音のある子ども148人に、吃音が生活にどれだけ影響しているかを尋ねた尺度(OASES)の総合スコアの平均を、年齢別の3つの版ごとに並べた横棒グラフ。幼児版・保護者が回答(21人)2.02点、学齢版・本人が回答(89人)2.17点、ティーン版・本人が回答(38人)2.42点。版ごとに質問も回答者も違う。2.02と2.17は「軽度〜中等度」、2.42は「中等度」の区分で、年齢が上がるほど平均点は高かった。
図1: 年齢が上がるほど、吃音による生活への影響の平均点は高かった。出典: Walsh ら (2023) J Speech Lang Hear Res. 表3.

ただし、この節が伝えたい話はそこで終わりません。同じ解説は、周囲の受け入れが良好で、吃音があっても伸び伸びとおしゃべりして生活できている子どももいて、個人差が大きいとも書いています。年齢は、結果を決める要因のひとつにすぎません。

「分かってくれる人がいる」ことが持つ重さ

では、つらさをやわらげる側には何があるのでしょうか。長く一人で抱えてきた人が、はじめて自分の状態を言い当てられたときのことを書き残しています。30年近く吃音と付き合い、正式な診断を受けたくて外来を訪ねた40代の会社員の記録です。

当事者の声(40代・高齢者福祉の分野で支援相談員として働く。成人の吃音外来を初診で受けた日の記録/note)

診察室に入ると同時に、看護師さんに言われた。

「お名前をフルネームでお願いします。」

名前の確認。医療機関ではリスク管理上、必須とわかっているけれど、

咄嗟にタイミングよく返答できない。

案の定、自分の名前なのにつまってしまった。

「……吃音だね。」

部屋の奥から、先生らしき男性がつぶやいたのが聞こえた。

話しにくさを相談しに行った場所で、最初に求められたのが自分の名前を言うことでした。この人はこのあと、子どものころから症状があったこと、だましだましやってきたことを聞いてもらい、頭に浮かんだことをそのまま言葉にできないのは大きなストレスだろう、と言葉にしてもらったと書いています。診断が変えたのは症状ではなく、一人で抱えている状態のほうでした。研究の側でも、支えの手応えは、吃音によるつらさの大きさと結びつくことが報告されています。

出典: 吃音外来に行ってみました!受診体験記|吃音×社会福祉士(note)(台帳: V0252)

さきほどの研究は、折れない力を2つに分けて測っています。ひとつは周りから来る支えで、家族との関係や、安心して過ごせているか、必要なものが手に入る暮らしかを子ども本人にたずねます。もうひとつは本人の中にあるもので、自分で決められている感覚や、友達・地域とのつながりをたずねます。どちらが高い子も、そして両方を合わせた値が高い子も、吃音によるつらさが小さいという関係が確かめられました。関係がいちばん強く出たのは、本人の中にあるもののほうでした。

吃音のある子ども148人で、折れない力の高さと吃音による影響の関係を3つの別々のモデルで調べた結果の横棒グラフ。棒は影響が小さくなる向きの大きさ(標準化した推定値)で、周りから来る支え(外的)が0.42、本人の中にあるもの(個人的)が0.59、両方を合わせた総合が0.50。原典の表記は −0.42 / −0.59 / −0.50 で、いちばん大きいのは本人の中にあるものだった。
図2: 折れない力の3つの測り方と、吃音による影響の結びつきの大きさ。出典: Walsh ら (2023) J Speech Lang Hear Res. 表5.

この研究は、専門職に向けた提案も書いています。子どもの気持ちに耳を傾け、その気持ちをそのまま受けとめること、あたたかさと関心を示すこと、吃音とその支援についてよく知っていることが、信頼関係をつくる土台になる、というものです。同じ学会解説も、専門家がすることとして、楽に話しやすくなるように周りの話し方や環境を整えること(環境調整)、直接発話に働きかけること、吃音のことを理解する方法を、年齢や状態に合わせて指導することを挙げています。相談先として名前が挙がるのは、小児を扱う言語聴覚士と、ことばの教室の教員です。

話しにくさは、一つの数字にまとめない

「原由紀」という名前と一緒によく出てくるのが、吃音の検査です。日本でどんな検査法が組み立てられてきたのかは、公開されている古い委員会報告から読むことができます。1981年に日本音声言語医学会の委員会が出した〈試案1〉の報告です。ここで示された考え方は、いま吃音の評価を受けるときにも背景として効いています。

この試案では、症状を4つに分けて把握することになっています。ことばそのものに出る症状、声を出そうとして顔や体に力が入り、不必要な動きが出てしまうもの、言いやすくするための工夫、そして気持ちの反応です。ことばの症状はさらに、吃音に特徴的なもの、話し出す直前に起きるもの、吃音のない人にもよく見られるもの、話のリズムや抑揚に表れるものに分けられます。この分け方は臨床で扱いやすいように決めたものだ、と報告自身が断っています。

数え方も決められています。話した量は文節を単位に数え、詰まりは1回のつまずきを1と数える。同じつまずきの中で何回繰り返したかは、別の欄に書きとめる、という具合です。音読では、同じ語で繰り返し詰まるか(一貫性)、同じ文章を読むうちに詰まりが減るか(適応性)も計算します。ただし報告は、これらは重症度を決めたり、この先どうなるかを見通したりするのに直接役立つものではないと、はっきり書いています。役に立つのは、特定の音への苦手さや怖さを見つけること、練習への動機づけ、よくなる感じを一時的に体験してもらうこと、といった別の目的のほうです。

そして、いちばん大事な設計がここです。重症度は、6つの側面それぞれについて段階をつけ、プロフィール(横顔)として表すことになっています。1つの側面で代表させたり、1つにまとめて単一の尺度にしたりすると、臨床上の意味が弱まるから、という理由まで書かれています。総合評価では、全部の会話場面の中から、いちばん重いランクといちばん軽いランクを選んで描きます。同じ人でも場面によって出方が違う、ということが最初から折り込まれた作りです。

「重症度いくつ」という一つの数字が出てこないことを、物足りなく感じるかもしれません。しかし、周りから見えている詰まりの量と、本人が抱えている負担は別だという話は、この記事でここまで見てきたとおりです。検査の設計そのものが、そのことを前提にしています。

3歳児健診の研究が見つけた、もう一つの数字

もうひとつ名前が残っているのが、日本の3歳児健診で行われた疫学の研究です。5つの県の15か所の保健センターで、健診の案内に質問紙を同封し、吃音を疑う回答があった子を面接や直接の観察などで確かめる、という二段階の調査が行われました。北里大学の共同研究者として、研究の設計、倫理審査の承認を得ること、健診会場での調査データの収集を担当した4人のうちの1人に、原由紀さんの名前が記載されています。

この研究は、何が吃音と結びついているのかも調べています。性別・月齢・きょうだいの有無・二語文が出た時期・家族歴・保護者の心配・子どもの病気や障害・世帯収入・両親の学歴をまとめて計算に入れたところ、3つの項目で見込みが高くなりました。家族に吃音のある人がいること(比は3.27)、保護者が子どもの発達について心配していること(同1.75)、診断のついた病気や障害があること(同2.13)です。ただしこの計算全体で説明できたのは、吃音が始まるかどうかのばらつきのうち5.3%だけだったと、原典自身が書いています。何が吃音を生むのかは、これらの項目ではほとんど説明できていないということです。

保護者の心配の中身も突き合わせられています。発達について心配があると答えた保護者は、吃音のある群で39.4%、ない群で25.5%でした。ただし項目ごとに見ると、はっきり差が出たのは「友だちと遊ばない」の1項目だけで(吃音のある群7.1%、ない群1.2%)、ことばの発達や発音、感情のコントロールの項目では差がありませんでした。原典は、吃音のある群が127人と中くらいの大きさなので慎重に読むように、とも添えています。

日本の3歳児健診の調査で、保護者の心配を吃音のある群(127人)と吃音のない群で比べた縦棒グラフ。「発達について心配がある」は吃音のある群が39.4%、吃音のない群が25.5%。「友だちと遊ばない」は吃音のある群が7.1%、吃音のない群が1.2%。項目ごとに差がはっきり出たのは「友だちと遊ばない」だけだった。
図3: 保護者の心配は全体では多かったが、項目ごとに差が出たのは1つだけだった。出典: Sakai ら (2025) Folia Phoniatr Logop. 表3・結果の節.

そして、この記事の主題といちばん深く関わる考察が、この論文にはあります。吃音のある群のうち、家族に吃音のある人がいると答えたのは27.4%でした。これは、海外の多くの調査が報告してきた20〜74%という範囲の下のほうに位置します。論文はその理由として、日本の吃音への強い偏見のせいで、家族が正直に申告しにくかった可能性を挙げています。日本では吃音が補聴器や眼鏡より重い障害だと受け止められがちで、その原因を本人の努力不足に求める見方があることも報告されている、と書いています。強い偏見のために、家族の中で吃音を隠そうとし、研究者に対してさえ報告をためらうことがありうる、というのが原典の言葉です。

同じことは、この研究自身の限界の節にも書かれています。参加が任意だったため、子どもの言いにくさに気づいた保護者ほど答えやすく、割合が高めに出た可能性がある一方、地域によっては強い偏見のために質問紙に答えること自体を避けた保護者がいて、低めに出た可能性もある、というものです。4歳以降に始まった例は拾えていないことも挙げられています。周りの受けとめは、一人の子の経過を左右するだけでなく、その集団について分かることまで左右するということです。

研究者の名前から調べ始めるときの3つの落とし穴

落とし穴1 − 名前を調べて、その人の経歴だけを集めて終わる

人物にたどり着いても、知りたかったことは「この人が関わった仕事が、自分や我が子に何を教えてくれるか」だったはずです。学会の解説なら、どの節を誰が書いているかまで公開されています。論文なら、誰がどの役割を担当したかが末尾に書かれています。名前を入口にして、その人が書いた中身まで開いたほうが、持ち帰れるものは多くなります。

落とし穴2 − 「折れない力」を、本人が持つべき資質として読む

研究が測っているのは、本人の中にあるものだけではありません。家族との関係や、安心して過ごせているか、必要なものが手に入る暮らしかという、周りから来る支えも同じ尺度の一部です。しかもこの研究は同じ時点で測った関係を見たもので、どちらが先かは分かりません。原典自身が、ある一時点を切り取った限られた眺めだと断っています。「強くなれ」という話ではなく、周りに何が足りているかの話として読むほうが、原典に忠実です。

落とし穴3 − 隠すことで、数字まで見えなくなる

日本の3歳児健診の研究は、家族歴ありと答えた割合が海外の報告より低かった理由を、強い偏見のために家族が申告しにくかった可能性に求めています。隠すことは一人の負担で終わらず、実態が分からなくなることで支援の設計まで狂わせます。学会の解説が、吃音は病気ではないこと、緊張やストレスや家庭環境だけから生じるものではないこと、本人がわざとやっているわけではないことを周りに伝えるようすすめているのは、ここに効きます。

日々の様子(どんな場面で出やすいか、そのときどうしていたか)を書き留めておくと、相談のときに伝えられることが増えます。まずは気づいたことを記録することから小さく始め、相談できる場合は言語聴覚士やことばの教室が確実です。

よくある質問

原由紀さんは、吃音とどのように関わっている人ですか?

日本吃音・流暢性障害学会が公開している吃音の解説のうち、「幼児期・学齢期の吃音のある子ども」の節の文責が、北里大学医療衛生学部の原由紀さんです。また、日本の5県15か所の3歳児健診で行われた疫学の研究に、北里大学の共同研究者として名前があり、研究の設計、倫理審査の承認を得ること、健診会場での調査データの収集を担当した4人のうちの1人として記載されています。この記事では、公開資料に残っているこの範囲だけを扱っています。

その解説は、保護者に何をすすめていますか?

心配そうな表情をせずに、子どもが楽しくおしゃべりを続けられるように話の内容に耳を傾けること、そして親子で吃音について話ができる関係をつくることです。「どもってもよいから、たくさんおしゃべりしてね」というメッセージを伝えるようすすめられています。昔の「吃音に気がつかせない方がよい」という対応は、今は否定されていると明記されています。

学齢期になると、吃音はどう変わるのですか?

幼児期のように吃音がまったく出ない時期を経験することは少なくなり、先生の対応や周囲の友達関係に大きく影響されるとされています。からかわれたり、発表や音読で滑らかに話せない経験が重なって自分を否定的にとらえるようになると、ことばが出ずに間があく症状が強まったり、言い換えの工夫が増えたりして、症状が進む場合があるとされています。一方で、周囲の受け入れが良好で伸び伸びと過ごしている子もいて、個人差が大きいとも書かれています。

「折れない力(レジリエンス)」が高いと、吃音は軽くなるのですか?

そうは言えません。5〜18歳の吃音のある子ども148人の研究で確かめられたのは、折れない力が高い子ほど「吃音による生活への影響」が小さいという関係で、詰まりの量が減るという話ではありません。同じ時点で測った関係なので、どちらが原因かも分かりません。なお日本語でも、学童期・思春期を生きるためにレジリエンスをどう育てるかを扱った冊子が出されています。

吃音の検査では、重症度が数字で出るのですか?

1981年の委員会報告に示された検査法では、重症度を一つの数字にまとめず、6つの側面それぞれに段階をつけてプロフィールとして表すことになっています。1つの側面で代表させたり単一の尺度にまとめたりすると臨床上の意味が弱まるから、と理由も書かれています。音読で計算する一貫性・適応性の値についても、重症度の決定や見通しの推定に直接役立つものではないと明記されています。

まとめ

  • 日本吃音・流暢性障害学会の吃音の解説は節ごとに文責が分かれており、「幼児期・学齢期の吃音のある子ども」の節の文責が北里大学医療衛生学部の原由紀さんである。
  • 日本の5県15か所の3歳児健診で行われた疫学の研究にも、研究の設計・倫理審査の承認・健診会場でのデータ収集を担当した共同研究者として名前がある。
  • その解説の節は、学齢期の吃音が先生の対応や友達関係に大きく影響されること、からかいや音読の失敗が自己否定につながると症状が進む場合があること、一方で周囲の受け入れが良好なら伸び伸び過ごせる子もいることを書いている。「吃音に気がつかせない方がよい」は否定されている。
  • 5〜18歳の子ども148人の研究では、折れない力(周りから来る支えと、本人の中にあるものの両方)が高い子ほど吃音によるつらさが小さかった。ただし一時点の関係で、因果ではない。
  • 3歳児健診の研究は、家族歴ありの申告が海外より低かった理由を日本の強い偏見に求めている。隠すことは一人の負担で終わらず、実態の把握まで難しくする。

参考文献

  1. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」(広報委員会作成・2023年10月。【2】幼児期・学齢期の吃音のある子ども の文責は原由紀〈北里大学 医療衛生学部〉)
  2. Sakai, Miyamoto, Hara, Kikuchi, Kobayashi et al. (2025) Multiple-Community-Based Epidemiological Study of Stuttering among 3-Year-Old Children in Japan.
  3. Walsh, Grobbel, Christ, Tichenor & Gerwin (2023) Exploring the Relationship Between Resilience and the Adverse Impact of Stuttering in Children. J Speech Lang Hear Res.
  4. 日本音声言語医学会 言語障害検査法検討委員会 吃音検査法小委員会「吃音検査法〈試案1〉について」音声言語医学 22巻2号, 1981.
  5. 日本吃音臨床研究会「吃音関連書籍・教材」

当事者・保護者の声の出典: V0161(東京すくすく/中日新聞の子育て相談欄。引用は取材した記者による紹介文)/ V0093(HAPPY FOX・NPO法人日本吃音協会/石黒栄亀さんの手記)/ V0252(note・アオノ ケイさんの受診記)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開