古見さんと吃音|「話せない」の中身・場面緘黙との違い

目次

漫画の登場人物の話し方が気になって、「これは吃音なのだろうか、それとも言葉が出てこないだけなのだろうか」と調べはじめた——そんなきっかけでこのページにたどり着いた方が多いのではないかと思います。作品の中の人物について、公表されていない診断名をこちらで当てることはできません。けれども、その違和感のもとにある「話せないように見えるけれど、中身は何なのか」という問いは、現実の当事者と家族がずっと抱えてきた問いでもあります。

この記事では、吃音症・場面緘黙症などを「顕在化しにくい発達障害」としてひとつの群にまとめて調べた厚生労働科学研究(研究代表者は弘前大学の研究者)と、日本吃音・流暢性障害学会の公式解説、そして大人の不安を扱った研究を出典に、「話せない」とひとまとめにされる側で実際に何が起きているのかを整理します。合わせて、当事者と家族4人が公開している記録を、その人自身の言葉のまま引用しています。

toVoice運営者
吃音当事者。研究論文と当事者の声をもとに、吃音の情報を出典つきで発信しています。

この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の判断に代わるものではありません。気になる様子があるときは、言語聴覚士のいる医療機関やことばの教室、児童精神科などにご相談ください。

まず結論から

  • 「話せない」ように見えても、中身は一つではありません。吃音には、音の繰り返し・引き伸ばし・詰まって出ないといった中核となる症状があり、状況によって出やすかったり出にくくなったりすること、調子の良し悪しが数週間から数か月続く「波」があることが学会の解説に挙げられています。
  • 国の研究班は、吃音症・トゥレット症・場面緘黙症(特定の場面で声が出なくなる状態を指す呼び名です)を「顕在化しにくい発達障害」としてひとつの群にまとめ、幼児期から成人期までを通して調べました。
  • その解析では、吃音のある人は特定の場面で困り感が増加することが分かったとされ、困難度を検出する問診票が幼児・学童期・青年期以降のライフステージごとに作られました。
  • 声を使わない伝え方は、思いつきの工夫ではなく支援の一部です。この研究は、簡便なスクリーニングツールの作成と並べて、音声不要のコミュニケーション・ツール(タブレット型)の開発を目的に掲げています。
  • 大人になってからの不安は、例外的な話ではありません。メタ分析(条件を満たした研究の結果を統計的に合わせる方法です)は、慢性的な吃音のある成人で特性不安も社交不安もかなり高いことを確かめたとしています。

ただし、ここに挙げたのは、ある人物が何であるかを外から決めるための材料ではありません。作品の中の人物にも、身近な誰かにも、話し方から診断名を当てることはできません。気になる様子があるときの見きわめは、言語聴覚士や児童精神科などの専門機関にゆだねてください。

文字にすると消えてしまうもの

「話せない」という言葉は、外から見た様子をひとことでまとめてしまいます。けれど、その内側で起きていることは、書き起こした文章には残りません。

幼稚園から高校卒業までの14年間、学校ではほとんどしゃべれない状態だった息子さんについて、母親が家庭での会話を書き留めた記録があります。会話の場面をいくつも書き写したあとで、書き手はこう断っています。

保護者(母)の記録(吃音と場面緘黙のある息子について。個人ブログ note)

ここで会話文として表記する場合はドモる部分は削っているので、親子の普通の会話のようになっているけれど、実際は高い確率でドモっています。 発音の苦手な『サ行』『タ行』『ラ行』が入ると、発言の20%くらいしか聞き取れないくらいドモります。

この記録に出てくるのは、母と息子のごく短いやりとりです。「『あ』だったら言いにくくないだろう」と母が言うと、息子は、言える単語と言えない単語で分かれるのではない、同じ単語でも出るときと出ないときがあるのだと返します。自分がどもっていることには気づいているし、話しはじめる前に「これは出にくいな」と分かるときもある。それでも、言うのをやめることはできない——勝手に進んでしまう、と本人は答えています。書き起こされた文字の上では、それはただの親子の会話に見えます。同じ人の中で出方が大きく動くことは、学会の解説でも吃音の特徴として挙げられているものです。

出典: 息子の吃音と場面緘黙の記録(note)(台帳: V0327)

学会の公式解説は、吃音の特徴として、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりすることを挙げています。歌を歌うとき、2人で声を合わせるとき、独り言を言うときなどは、一時的ですが流暢になる人が多いとされます。さらに、調子が良い状態あるいは悪い状態が数週間から数か月にわたって続く人も多く、この変動を(調子の)「波」と呼ぶと説明しています。

国の研究班が吃音症について180名分のデータを集めて解析したところ、吃音のある人は特定の場面で困り感が増加することが分かったとされています。「いつも話せない」のでも「いつも話せる」のでもなく、場面で動く——そこが、外から一度見ただけでは捉えにくいところです。

人数が増えた瞬間に、声そのものが出なくなる

場面で動くというのは、抽象的な話ではありません。「この場面になると出なくなる」という形で、かなりはっきり現れることがあります。

吃音のある2人の娘さんについて書いている保護者のブログがあります。次女の高校受験で、学校がどんな配慮をしてくれるかという話の途中で、長女のときの対応が振り返られます。

保護者の記録(吃音のある長女・次女について。個人ブログ・はてなブログ)

面接練習というか通常時でも複数人の前だと場面緘黙的に声が出なくなっていたので、本人の希望も聞いて、小学生時代に通った病院の言語聴覚士の先生に一筆書いていただいた(学校推薦で面接うけた)

練習のときだけでなく、ふだんでも、人数が増えると声が出なくなる。長女のときはそこから出発して、本人の希望を確かめたうえで、小学生時代に通っていた病院の言語聴覚士に書面を用意してもらい、学校推薦の面接に臨んだと書かれています。その長女は、次女と親のやりとりを横で聞いていて、面接の最初に吃音のことを伝えればいい、言えなければメモを渡せばいい、自分は大学受験の1時間以上の面談を一部は筆談で乗り切った、と妹に伝えます。声が出ない場面をなくすのではなく、その場面で通じる手段を先に用意しておくやり方です。中高生が発話に困難を感じやすい場面として、学会の解説は入学面接を具体的に挙げています。

出典: 中3の娘の受験、学校配慮をどう引き出すか(はてなブログ)(台帳: V0480)

学会の解説によれば、思春期以降は、最初の音が出しにくくなる症状が中心になっていきます。中高生では部活動や入学面接、大学生ではゼミの発表や就職活動、社会人では職場の電話応対などが、発話に困難を感じやすい場面として挙げられています。そして失敗の経験が重なると、話しはじめる前から不安や恐怖を感じ、次第に会話や社交を避けるようになること、言いにくい単語を言い換えて巧みに隠そうとすることもあると述べられています。隠すことに成功すると吃音は目立たなくなりますが、実際には出ないかどうかを日々警戒しながら生活することになります。

だからこそ、国の研究班が作ったのは「どれくらい症状が出るか」だけを測る物差しではありませんでした。困難度を検出する問診票が、幼児7項目・学童期5項目・青年期以降4項目とライフステージごとに作成され、信頼性と妥当性が検証されています。どの場面で困ったのかを言葉にできることが、支援の入口になるという組み立てです。

声以外の伝え方を、周りがそのまま受け取ったとき

「話せない」とまとめられた人の側だけが工夫を重ねる、という話ではありません。受け取る側が何をするかで、その場で通じるかどうかは変わります。

場面緘黙のある子どもを育てている保護者が、ある漫画作品の描かれ方について書いた記事があります。書き手が挙げているのは、登場人物の一人が読み上げアプリを使って話す場面です。

場面緘黙のある子どもの保護者(別の漫画作品の描かれ方について書いた個人ブログ note。引用文中の人物名はその作品の登場人物)

静ちゃんが読み上げアプリで話すことをみんなが自然に受け入れている。 だから静ちゃんは主人公と彼女たちに(多分たくさんの人数に囲まれてたらまだ難しいかもしれないけど、何人かの親しい相手の前でなら)吃音があるままで話すことができる。

この記事は、場面緘黙の啓発月間に読んでよかった漫画として書かれたものです。書き手は、緘黙や吃音のある子を「どうしたらいいのか」「どう扱ったらいいのか」が自然に描かれていると評しています。そのうえで、緘黙の子の親の立場から必要だと考えることとして、家が安心できる場所であること、自己表現を安心してできること、そのままでいられる環境づくり、そして本人主導で話す練習を挙げています。声を出させる方向ではなく、声以外の手段がそのまま受け取られる場をつくる方向です。国の研究班も、音声を使わずに伝える道具の開発を研究の目的として掲げています。

出典: 場面緘黙啓発月間、読めてよかった漫画(note)(台帳: V0544)

その研究の目的は3つ挙げられています。重症度指標と生活困難指標を明確化すること、簡便なスクリーニングツールの作成や音声不要のコミュニケーション・ツール(タブレット型)の開発を行うこと、そして支援機関で対応するための支援マニュアルを作成することです。声を出すこと以外の伝え方は、家庭の工夫として片づけられているのではなく、国の研究の中に開発目標として書き込まれているということです。

国の研究班が掲げた3つの目的を並べた図。対象は「顕在化しにくい発達障害」であるトゥレット症・吃音症・場面緘黙症。目的1は、重症度指標と生活困難指標を明確化すること(どれくらい症状が出るかと、どれくらい生活で困っているかを分けて測れるようにする)。目的2は、道具をつくること。簡便なスクリーニングツールの作成や、音声不要のコミュニケーション・ツールの開発(タブレット型)を行う。目的3は、支援機関で対応するための支援マニュアルを作成し、適切な対応の統一を図っていくこと。声を使わずに伝える道具は、家庭の思いつきの工夫ではなく、国の研究の開発目標に置かれている。研究の成果として、吃音症についての支援マニュアルと啓発用プリントが作成されたと報告されている
図1: 声を使わない伝え方は、国の研究の開発目標に置かれている。出典: 厚生労働科学研究「吃音、トゥレット、場面緘黙の実態把握と支援のための調査研究」(令和2年度)

実際に、吃音症についての支援マニュアルと啓発用プリントが作成されたことも報告されています。研究班は結論として、各年代により症状および生活困難度の程度が異なることが明らかになったとしたうえで、障害の症状だけでなく、年齢や性別、社会的状況などを考慮した治療あるいは支援の必要性を示唆しています。

「話せない」同士が出会うと、共通点と違いの両方が見える

外からひとまとめにされてきた人たちが、実際に集まったらどうなるのか。その準備の過程を書き残した記録があります。

吃音の当事者会を主催している書き手が、SNSで発信するうちに場面緘黙の当事者と知り合い、合同の交流会を開くまでを連載で振り返っています。企画の段階から場面緘黙の当事者に加わってもらい、十年近く前、新宿のハンバーガーショップで仕事のあとに何度も打ち合わせをしたといいます。

吃音のある成人・当事者会の主催者(個人ブログ note の連載「僕の吃音歴」)

話し合った結果、せっかく二つの当事者が集まるのだから、互いの疾患について学べたり、互いの困り事の共通点や異なる点を知れたりするとよいだろうということになりました。それで、最初にそれぞれの疾患について基本的なことを紹介する時間を設けることになりました。

また、とくに場面緘黙症の当事者には、人前で話すことに抵抗がある・そもそも話せない方もいるだろうということでした。そこで、筆談ができる筆記具を各テーブルに用意したり、意思表示のカード(「今は聞くだけ」「パス」などが書かれた)を準備して無理に話さなくてもよい環境を整えることにしました。

吃音のある人の集まりは、自身が主催する会や言友会の定例会で慣れていたけれど、場面緘黙の当事者との交流となると勝手が分からず、内容をどうするか頭を悩ませた、と書き手は振り返っています。書き手がSNSで吃音のことを発信するようになったところ、目に入ってきた当事者の中でとくに多かったのが場面緘黙の人たちだった、と連載には書かれています。始めた当初は「場面緘黙」という言葉自体を知らず、そこで、特定の場面で話すことができない状態を指す言葉だと知ったといいます。交流会の準備で最初に決まったのは、互いの状態を説明し合う時間を取ることと、話さなくてもいられる仕組みを置くことでした。会の名前は「緘黙&吃音交流会」。当事者どうしが出会うことの意味は、学会の解説でも触れられています。

出典: 僕の吃音歴(吃音に関わる活動編⑩ 場面緘黙症の当事者との出会いと交流)(note)(台帳: V0289)

学会の解説は、日本にさまざまな吃音の自助団体があるとしたうえで、団体によって目的や規模は異なるものの、当事者が「吃音があるのは自分だけではない」ということを認識し、共通の体験を語り合い、苦悩を分かち合い、互いに援助し合うことが概ね活動の中心だと述べています。1965年に発足した「言友会」が国内で最も歴史が古く、近年では若者を対象とした団体や、女性の集いを開催する団体なども設立されているとされます。

同じ解説は、ほかの吃音のある人と出会うことが、吃音を否定的に捉えることが減るといった心理的な変化のきっかけになることもある、と述べています。

国の調査は、なぜこの3つをひとつの群にまとめたのか

吃音と場面緘黙が並べて語られるのは、話題としてなんとなく近いから、ではありません。国の研究として、実際にひとつの群として調べられています。

厚生労働科学研究「吃音、トゥレット、場面緘黙の実態把握と支援のための調査研究」は、これらを「顕在化しにくい発達障害」と位置づけ、幼児期から成人期までをひとつの発達障害群としてとらえて研究を行うとしています。研究代表者は弘前大学大学院医学研究科 神経精神医学講座の中村和彦氏です。

「顕在化しにくい」という言い方には、調べる側の反省が含まれています。同じ研究は、乳幼児健診のデータから、5歳の時点である尺度を用いた吃音の推定有病率は、保護者評定で0.7%、教師評定で1.2%だったと報告しています。同じ子どもたちを見ていても、誰が評定するかで数字は変わるということです。

さらに、吃音でもチックでも、自閉スペクトラム症・注意欠如多動症・発達性協調運動症が4〜5割程度併存していたとされ、吃音症もチック症もともに社会適応に影響があり、発達面・心理面から適切な支援が必要であることが示唆されたと述べられています。

5歳の時点で併存していたとされる割合を帯で示した図。国の調査は、5歳児健診でチェックリスト(CLASP)を用いて吃音があると推定された子どもでも、チックがあると推定された子どもでも、自閉スペクトラム症・注意欠如多動症・発達性協調運動症が4〜5割程度併存していたとしている。原典が記しているのは範囲だけで、3つそれぞれの内訳は示されていない
図2: 吃音でもチックでも、ほかの発達障害の併存は例外的ではない(原典は範囲だけを示しています)。出典: 厚生労働科学研究「吃音、トゥレット、場面緘黙の実態把握と支援のための調査研究」(令和2年度)

結論として、既存のスクリーニングツールでは早期発見の難しさが示唆された一方で、5歳児の時点では特定の尺度による早期スクリーニングが可能であることが明らかになった、とされています。「見えにくい」のは本人が隠しているからではなく、見つける仕組みの側の課題でもあるという読み方ができます。

なお、吃音と場面緘黙の見分け方、併発したときに支援がどんな順序で進むのかは、場面緘黙と吃音の併発で詳しく整理しています。症状の型そのものについては吃音の種類を参照してください。

大人になってからの不安と、相談できるところ

不安は「気の持ちよう」として片づけられてきた

「話せない」とまとめられる時間が長く続いたあと、何が残るのか。ここは研究が積み上がっているところです。

慢性的な吃音のある成人について、厳しい組み入れ基準を満たした研究だけを選び、二つのメタ分析を行った研究があります。一つは特性不安(もともとの不安の感じやすさ)について、もう一つは社交不安(人前で恥をかいたり悪く見られたりすることへの強い恐れ)についてのものです。統合した結果は、慢性的な吃音のある成人では特性不安も社交不安もかなり高いことを確かめた、というものでした。研究は、これらが吃音のある多くの成人にとって現実の問題であるとし、成人の診断と治療に対する臨床的な意味を論じています。

別の総説も、吃音のある成人のあいだで社交不安障害が高い割合で見られるという研究が増えていると述べています。日本の学会の解説も、自助団体に参加していたり治療を求めたりする吃音のある成人の約20%から半数近くに社交不安症を合併していると報告されている、としています。

ここで大事なのは、どちらが先かをこれらの研究が決めているわけではない、ということです。メタ分析は不安の水準が高いことを示したのであって、原因の向きを述べてはいません。

どこに相談できるのか

「話せない」の中身を家庭だけで見分けるのには限界があります。相談先の目安は次のとおりです。

  • 言語聴覚士のいる医療機関・ことばの教室:話し方の評価と支援の中心になります。上に挙げた保護者の記録でも、受験の面接にあたって、かつて通っていた病院の言語聴覚士に書面を用意してもらっていました(台帳: V0480)。
  • 児童精神科・小児科:特定の場面で声が出ない、不安が強いといった側面を含めて見てもらう窓口になります。
  • 公認心理師などの心理職:吃音のある人の社交不安については、言語聴覚士と心理職が協働して評価と支援の枠組みをつくる必要があるとされています。
  • 園・学校(担任・特別支援・スクールカウンセラー):日中の様子をいちばん見ている場所です。国の調査でも、同じ5歳児について保護者評定と教師評定で推定される割合は違いました。
  • 吃音の自助団体:ほかの吃音のある人と出会うことが心理的な変化のきっかけになることもあるとされています。

相談に行くときに効くのは、症状の重さの申告より、どの場面で困ったかの具体です。国の研究班が作った問診票も、ライフステージごとに困難度を検出する形になっています。

「話せない」を見たときに陥りがちな3つの落とし穴

落とし穴1 − 話し方から、その人が何であるかを決めてしまう

作品の登場人物でも、身近な誰かでも、話し方の様子だけで状態の名前を当てることはできません。国の研究班が「顕在化しにくい発達障害」という言い方をして、既存のスクリーニングでは早期発見が難しいと結論していることからも分かるとおり、専門の道具を使っても見つけること自体が課題になっています。外から一目で分かるものとして扱わないことが出発点です。

落とし穴2 − 「そのときは話せていた」を「困っていない」と受け取る

吃音は状況によって出やすさが変わり、歌うときや2人で声を合わせるとき、独り言のときなどは一時的に流暢になる人が多いとされています。調子の良し悪しが数週間から数か月続く「波」もあります。ある場面で普通に話していたことは、困りごとが無いことの証明にはなりません。

落とし穴3 − 「話せない」をひとくくりにして、伝え方を用意しない

国の研究班は、音声不要のコミュニケーション・ツール(タブレット型)の開発を研究の目的として掲げています。声以外で伝える手段を先に置いておくことは、特別な配慮というより準備の問題です。そして、どの場面で困ったのかを残しておくと、相談の場で話が早く進みます。日々の発話の様子を書き留める方法の一つとして、記録アプリ「toVoice」のように経過を見返せる仕組みを使うこともできます(記録と継続の支援が目的で、症状を治すものではありません)。

よくある質問

漫画やアニメの登場人物が吃音かどうかは、どうすれば分かりますか?

作品の中で公式に説明されていない限り、描かれた話し方から状態の名前を決めることはできません。現実でも、吃音症や場面緘黙症は「顕在化しにくい発達障害」と位置づけられ、既存のスクリーニングツールでは早期発見が難しいことが示唆されたと国の研究班が結論しています。専門の道具を使っても難しいことを、画面の外から当てることはできないと考えてください。

吃音と場面緘黙は、どう違うのですか?

どちらも外からは「言葉が出ていない」ように見えますが、別の状態です。吃音には音の繰り返し・引き伸ばし・詰まって出ないといった中核となる症状があり、状況によって出やすさが変わることや調子の「波」があることが学会の解説に挙げられています。国の研究班は、吃音症・トゥレット症・場面緘黙症を「顕在化しにくい発達障害」としてひとつの群にまとめて調べています。見分けと併発については専門機関にご相談ください。

家では普通に話すのに、外で話せません。なぜですか?

場面によって出方が変わることは、吃音の側にも知られています。学会の解説は、状況によって症状が出やすかったり出にくくなったりすること、歌うときや2人で声を合わせるときなどは一時的に流暢になる人が多いことを挙げています。国の研究班の解析でも、吃音のある人は特定の場面で困り感が増加することが分かったとされています。

声を出さずに伝える方法を使ってもいいのですか?

支援の一部として位置づけられています。国の研究班は、音声不要のコミュニケーション・ツール(タブレット型)の開発を研究の目的の一つとして挙げ、支援機関で対応するための支援マニュアルも作成したとしています。実際に、書面や筆談で受験の面接に臨んだ家族の記録もあります(台帳: V0480)。

大人になってから不安が強くなったのですが、よくあることですか?

研究が積み上がっている領域です。慢性的な吃音のある成人を対象にしたメタ分析は、特性不安も社交不安もかなり高いことを確かめたとしています。総説も、吃音のある成人で社交不安障害が高い割合で見られるという研究が増えていると述べ、言語聴覚士と心理職が協働して評価と支援を組み立てる必要を指摘しています。日本の学会の解説も、自助団体に参加していたり治療を求めたりする成人の約20%から半数近くに社交不安症の合併が報告されているとしています。

まとめ

  • 「話せない」ように見える状態の中身は一つではない。吃音には中核となる症状があり、状況によって出やすさが変わること、数週間から数か月続く調子の「波」があることが学会の解説に挙げられている。
  • 国の研究班は、吃音症・トゥレット症・場面緘黙症を「顕在化しにくい発達障害」としてひとつの群にまとめ、幼児期から成人期までを通して調べた。既存のスクリーニングツールでは早期発見が難しいことが示唆されている。
  • 吃音のある人は特定の場面で困り感が増加することが分かったとされ、ライフステージごとの問診票が作られた。相談では「どの場面で困ったか」の具体が効く。
  • 声を使わない伝え方は支援の一部で、音声不要のコミュニケーション・ツールの開発が研究の目的に掲げられている。家族の記録にも、書面や筆談で面接に臨んだ例がある(台帳: V0480)。
  • 大人では不安が現実の問題になる。メタ分析は特性不安も社交不安もかなり高いことを確かめており、言語聴覚士と心理職の協働が必要とされている。ほかの吃音のある人と出会うことが心理的な変化のきっかけになることもある。

参考文献

  1. 厚生労働科学研究「吃音、トゥレット、場面緘黙の実態把握と支援のための調査研究」(令和2年度・研究代表者 中村和彦(弘前大学大学院医学研究科 神経精神医学講座)/厚生労働科学研究成果データベース)
  2. 日本吃音・流暢性障害学会「吃音(きつおん)について」
  3. Craig & Tran (2014) Trait and social anxiety in adults with chronic stuttering: conclusions following meta-analysis. J Fluency Disord.
  4. Iverach & Rapee (2014) Social anxiety disorder and stuttering: current status and future directions. Journal of fluency disorders.

当事者・家族の声の出典: V0327(note・「ちとバテ」さんの記事)/ V0480(はてなブログ「吃音持ちの子を持つ親のブログ」)/ V0544(note・「ことり」さんの記事。別の漫画作品について書かれたもの)/ V0289(note・hiro さんの連載「僕の吃音歴」)。いずれも公開記事。引用は原文どおり。

更新履歴: 2026-09-12 公開